73 【誰歓突発RP】私設圖書館 うつぎ 其漆【R18】
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っ………!
[呼ばれた名前に、ぎゅうっと心臓が掴まれて
体が一センチ浮くような心地がした。]
なまえ、
[どうしよう、どうしよう!
今、心の底から思う。この名前でよかった。
彼に、呼んでもらって、特別なものに
なったような感じがする。
ぶわぁ、と顔が熱くなるのがわかった。]
ふへ、 へへ
[間抜けに緩んだ表情を向けて]
………うん、颯介さん
[と差し出された手を取ろう。
普通に繋ぐのはもったいない。
だって今日は、デートだから。
緩めて、指を絡めて握りなおす。]
いこ、 …楽しみだね。
[そう、一歩そちらに寄って、歩き出した。]*
[てっきり、お洒落な店を推してくるかと思いきや
行きつけの天丼屋にご指名がきて
つい、くすりと笑う振動を伝えてしまったか。
尋ねられたら「てっきりもっと映えるところが
好きなンかな、って思っててさ」と
正直に答えよう。
見栄えはともかく、味は保証する。
名前は呼ばないくせに、
天丼を見事平らげるお嬢さんを
カウンター越しより近い場所から見つめ
「ああ、ンまそうに食うなァ」
……なんて呑気な感想を。]
[あの家にいて、きっと叱る人もいるだろうに
派手な化粧に派手な服。
それでも、周りの声はきっと
このお嬢さんの歩みを止めるには力不足で、
そのお嬢さんが今片時でも、
俺の傍でじっと「待つ」なんて選択肢を選んでいる。
……これは思ってたよりずっと愛されてンなァ、
なんて、今更気付いてしまえば
気安く「飛鳥」なんて、尚更呼べなくて。]
[だから、うっかりいつもの呼称を使った時
しまった、と思った。
約束を取り付けておいて
一方的に待たせておいて
俺は自分だけまた知らん顔するのを
選んでしまった気がして。
呼んで振り向いた飛鳥の顔は
責めるでもなく、詰るでもなく
ただ普通に呼ばれたから振り向いた、みたいな。
それが余計に、悲しくて、申し訳なくて。]
─────呼んだよ。飛鳥。
[呼ばわる瞬間朱に染った頬を見て
俺の方まで赤くなる。
でも追撃したくて、もう一度。
そしたら、普段呼ばれない下の名前で返されて
今度は俺がふぇ、とよく分からない声を出す。
咳払いをひとつ、気を取り直して
指まで絡めて手を繋ごう。
じん、と熱い体温はどちらのものか。
歩調を合わせるようにして
受付まで歩いていった。
受付嬢は無愛想に2枚のチケットに目を通して
「いったらっしゃせ」と2つハンコを押して
手を繋いだままの俺達を咎めるでもなく。
多分、ただのバカップルと思われてるのか。
そう思ったら、少し安心した。]
[中に入れば、香りの歴史を辿るよう
古代オリエントの香油壺がででん、とお出迎え。]
昔は、香りを楽しむッてェより
宗教的な意味合いが強くてな。
ミイラもただ仏さんに包帯まくんじゃなく
香油をたっぷり塗ってお弔いをしたンだ。
……まァ、今になってその香油自体が
防腐の役割を果たしてたことが分かってきた。
[土で焼かれた瓶を前に、つい悪い癖。
どこかの誰かと同じ、語りたがりが顔を出す。
手を繋いで、人の邪魔にならないよう
声を潜めて、身を寄せて。
俺が、自分の癖が出てるのに気付いたのは
古代オリエントを遥か超えて
日本の平安時代の頃。]
……っ、ワリ、つい、癖でな。
[頭を下げる代わりに、繋いだままの小指で
すり、と飛鳥の掌を撫でる。
ただ綺麗な瓶、綺麗な調度品、で終わっては
この飾られているだけの品々が
何となく、可哀想な気がして。
くるりと見渡す会場内には
歴史や地域に束ねられて
数多の美術品がガラスケースの中に眠っている。
まるで白雪姫みたいに。]
…………俺ァ、美術展は好きだ。
その一点一点に込められた想いを読み解くのが。
[周りに咎められないように
小さな声で、語る。
美術品から目を、飛鳥の大きな目へと移し
ゆっくりひとつ、瞬きをして。]
だけど、─────例えばこの香水瓶
こうして空瓶にして飾られッちまえば
お役目を果たせねェで悲しくないか。
そう、思っちまうこともある。
使われてこそ、物は幸せなンじゃねェか。
値段とかそんなんがこのモノの価値なンか。
この商売してて、そう思わねェ日はねえ。
[だけど、今日は違う。]
[お洒落なカフェより、あなたのことを知れるなら
断然、そちらの方が良かった、なんていったら
引かれてしまうだろうか。
そこだけはちょっと隠して
天丼すきだもんってW本当のことWで包んだ。
食べるところを見られるのは少し恥ずかしい。
だけど、知ってもらえるなら。興味を持って
もらえるなら。隠したりなんかしたくなかった。
美味そうに食う、と言われればごくん、と
口の中のものを飲み込んでから。]
だってすごく美味しい
[と微笑みを浮かべてみせただろう。
伝われってずっと願ってた。
この気持ちが軽いものじゃなくて、
いつもの仲間内のノリとかとは別次元で
あなたのことが心から大好きだってこと。]
[だけど、待てるから。
わたしは、あなたのことを名前で呼ぶことを
許されただけでも、大きな喜びだったの。
だから、たのしみにはしてたけど、
呼ばれなくたって仕方ないと思ってた。
好きだなあってそっちに思考が寄っていけば
全然気にならないくらいには。
───なのに。
あなたは、改まってそんなふうに呼ぶんだもん。
追撃されれば、ずるいって真っ赤な顔でつぶやいて
絡めた手を握って、あなたを呼ぶの。
互いを呼び合うことが、なんだか本当に
近しい関係になった気がして、うれしくて。
…そしたら彼の口から飛び出した間抜けな声に
今度は噴き出してしまうんだけど、
それはまあ、仕方ないことだと思う。]
[絡んだ指先から、手のひらから、熱が伝わって
境目が曖昧になっていく気がする。
わたしのより大きな彼の手は、すこし
かさついていて、骨張ってた。
受付に着いたら流石に解くのかなって思ったら
そのままずんずん進んでいくものだから
ちょっと面食らって。だけど嬉しくて。
隠しきれない頬の緩みを、顔を背けて
なんとか周りにバレないようにした。
中に入れば、大きな香油壺。]
ぅわ、 おっきい、
[とそれに目を開いて見つめていれば、
彼が説明してくれただろうか。
香水も好きだし、博物館や美術館も好きだ。
だけど、好きなだけで詳しくない。
だから、彼が一つ一つ丁寧に説明してくれるのは
とても興味深くて、面白かった。
───それと同時に、彼のことをまた
ひとつ、ふたつ、みっつと知れているような
その頭の中を覗けているような気がして、
うれしくて、心は弾む。]
[それと、弾む理由はもう一つ。
話してくれるたびに、キスができるんじゃないかと
思うほど、顔が近づくんだもの。
吐息を孕んだ囁き声が、耳をくすぐるのが
照れ臭くて、同時に、うれしくて、ドキドキする。
だから、彼への返事はわたしも同じように
声を潜めて、少しだけ背伸びして、
内緒話みたいにしていただろう。
楽しく彼の話を聞いている途中、突然、
謝られると同時に手のひらを滑ってくすぐる
感覚に、思わずびくんっと体が跳ねる。]
っ…ごめん、びっくりしちゃった
[と眉尻を下げて、もう一度握り直してから]
なんで謝るの?
…すごくたのしい。
颯介さんの話、興味深くて。
もっと聞かせてほしいな。
[そう、目を細めて、また次のブースへといけば、
「これは?なに?」と日本の香の文化について
尋ねてみるだろう。]
[美しいさまざまな展示品を見て回る途中。
徐に彼がまた、口を開くからそちらを見る。
その言葉を黙って聞いて。
最後にふと、わたしの名前が出れば、
眉を少しだけ上げるだろう。]
……颯介さんが楽しんでくれて、よかった。
ふふ、一緒に行くW好きな人W
わたしで正解でしょ?
[と眦を細めて、一歩近づく。
腕もまた絡めるようにして、くっついて。
もっとこの時間が続けばいいのに、
今日という日をもう一度、始められたなら…
ううん、今日みたいな日を、また彼と
過ごすことができたらいいのに。
…そのためにはやっぱり行動あるのみ。
あとで、次はどこにお出かけするか、
行きたいところをリサーチしなきゃ、と
思いながら、ゆっくり歩いていくのだ。]*
[歴史を紐解き、語る楽しみに目がくらみ
それが吐息が通う距離なのも気付かず。
歴史の流れに小話を挟んで、
周りの人々を妨げないよう、
声を潜めて笑い合う。
ふ、と我に返えれば
色々恥ずかしくなってしまう。
す、と掌を撫でると
何故か今度は飛鳥が驚いて
微かにはねる体に思わず
手を離してしまった。]
、っ、すまん……
[でも、どちらともなくもう一度手を伸ばし
今度はもっと、しっかり握ろう。]
[歴史に興味があるわけでもなし
飛鳥はそれでも俺の話を聞いてくれる。
続きを促されると、俺はまた少し微笑んで]
……これは、香合わせの道具だな。
香木の匂いでやる神経衰弱みたいなモンだ。
[そう、展示ケースの中を指して
説明を始めるだろう。
聞きたい、と言うだけじゃなくて
大きくて真っ直ぐな目に促されるように
頭の中にしまってあった
知識をアウトプットしていこう。
一人きりで展示ケースを眺めるだけだったら
一生俺の中だけにあったもの。
共有してくれる人がいるのは
思っていたより、嬉しくて。]
[だから、展示品を見ている途中で
飛鳥に胸中を打ち明けた。
この不思議な気持ちを知って欲しくて。]
…………そう、かもな。
[展示ケースの中の白雪姫達より
鮮やかな赤の唇に、そう眉を下げた。
今日が終われば飛鳥はお嬢さんに
俺は颯介さんから江戸川さんに戻ってしまう。
それを引き止めるにはきっと
一言、俺から言えばいい。
口を開こうとしたら、
後ろからきた若い女の子達と
とん、と肩がぶつかって
俺はまた口を閉ざして、
其方にぺこりと頭を下げる。
また飛鳥の方に顔を向ける頃には
口にする勇気が足りなくなっていて。]
……次は、アール・ヌーヴォーか。
[手を引いて、さらに奥へ。
身を寄せて恋人みたいに過ごす時間が
終わりに近付くと分かっていても。]
[そうして美術館の外に出る頃には
空は黄昏色に染まっていたか。
またバイクに跨り、ディナーに向かう前
駐車場で俺は飛鳥を引き止めるだろう。]
俺ばっかり、話しちまったな。
[あれだけ渋っていたくせに
結局大はしゃぎしてしまったことに
つい、頭をぽりぽり掻いて。]
……ここに来たのが、あんたと一緒で
本当に、良かったと、思う。
[目線をアスファルトに落としたまま
自分の気持ちを一言一言絞り出す。
でも、まだ言えてない。
これは俺の気持ちのほんの上澄みで
正直で、真っ直ぐな飛鳥に歩み寄るには
もっとはっきり言わなくちゃならないのに。]
[視線を、地面から沈みかけた夕日へ移し]
……今日が、終わるな。
………………まあ、もう少しあるけどよ。
[そう、呟いた。
「今日だけ」が終わるのが嫌だ、と
はっきり言いたいのに、怖気付いちまってる。
空いた唇を、また閉じて。]
飛鳥は、楽しんでくれたのかィ?
[そう問いかけて、自分の卑怯さに気付いて
また視線を逸らす。
─────ああ、言わせようとしてやがる。
「また来ましょう」を言わせて
それに乗る自分、という形にしようと。]
[ねえ、颯介さん、あなたは今何をかんがえてる?
どう思ってる?楽しかった?また来たいって、
この展示に、じゃなくて、わたしと、また、
どこかに行きたいって思ってくれる?
全部、問い詰めたいけど、問い詰めない。
面倒な女にはなりたくない。
彼の望む言葉が全てあげられるわけじゃない。
わたしは、わたしで、彼は、彼で。
生まれ育った環境も、興味があるものも、
好みも、嫌いなものも、きっと何もかも違う。
全く違う、人間のはずなのにわたしはどうしたって
彼に惹かれてやまない。
はじめは一目惚れ。
再開した時は、運命だと思って。
距離を詰めていくたびに、そのやさしさとか、
可愛らしさとか、かっこよさとか、
いろんな面を見られるようになって、
どんどん落ちていくのがわかったの。]
[繋がった手のひらは、わたしとの時間を
もっともっと深く残るものにしたいって
そう思ってくれてる?なんてまたひとつ、
問いかけが浮かんで、消した。
美術展の展示作品に関する疑問は、
いくらでも問いかけられるのに、
わたしたちの関係に対する問いかけは、
どうしてだろう、少し縮まった今の方が、
うまく言葉にできなかった。
黄昏に染まる駐車場に出ると、夕陽が彼の
愛機に反射してきらりと光った。]
お夕飯、どうする?
お昼はわたしが天丼って決めたし、
夜は颯介さんの食べたいものにしよ。
[そう微笑みかけて、ゆっくりアスファルトの上を
歩いていく。遠くで、歩行者信号の通行音が
交差点に響き渡っていた。
フルフェイスを取ろうと手を伸ばしたら、
彼が口を開くから、一度置いて、
そちらに向き直った。
さっきは意識しなかった、呼ばれない名前が、
どうしてだろう、今はやけに寂しく感じて。
だけど、言えなくて、飲み込んでから]
そう言ってくれてよかった
[と目を細めた。
一瞬の沈黙の後、返事ではなく、
落とされた呟きにとくん、と心臓が鳴る。]
[迷うように開いたり、閉じたりする唇を
見つめながら、じっとしていたら、
問いかけが投げられるから、
少し面食らったように目を開いて、
それからまた微笑んで。 ]
もちろん。
すごく楽しいよ。
[あなたと同じ時間を、共有できたこと。
同じものを見て、同じ知識を増やせたこと。
その感覚を、知れたこと。
なにもかもが、彼との一歩に繋がっている
気がして、愛おしくて、嬉しくて、仕方ない。
好きな人の、好きなものの話を
聞くことが、楽しくないわけがないもの。]
[また来ようね、そう、言おうと思った。
次はどこに行きたいって、さっき思ってた通り
彼がまたお出かけに応じてくれるように
リサーチしようって思った。
思ったのに、そんなのが吹っ飛んでしまったのは
彼が、わたしの背に腕をのばして、
そのまま引き寄せて、体温が、重なったから。]
っ…!
[びっくりして、少し体が強張ってしまう。
今、抱きしめられてる?って客観的な
自分に問いかけて、だけどその自分も
きっと混乱してて、パニックで、
なにも返ってこなくて、分からなくて。
それで、それで、そっと、腕を
彼の背中に回して、右手首を左手首で
そっと掴んでぎゅ、と力を込めた。
ああ、どうしよう。
口から出てしまいそう。
さっき仕舞ったはずの問いかけが。
聞いていいか、迷ってやめた言の葉が。
喉の奥に控えて、それで───]
…さみしいって、 おもってくれるの?
[こぼれて、しまう。]
………ね、
[そう、問いかけて体をそっと離せば、
彼の方を見上げて、二度瞬き。
それからゆっくり背伸びをして、顔を近づけて
夕日が、目端に映る。
白線がオレンジ色に染まる時間。
微かに夜の様相を整え始めた空を背に、
近づくたび、ゆっくりとまつげを伏せて。
触れる直前、窺うように見つめ。]
わたしは、離れるのが寂しい。
まだ、帰りたくない。
[そう、告げて───だけど、勝手にキスするのは
あまりに自分本位な気がして、やめた。
そっと顔を離して、背伸びを元に戻した。]
…お夕飯、食べるもんね、
まだ、一緒にいられるかっ
[そんなふうに笑って、額を彼の胸に
とん、と着いて息を吐いた。
焦らない、焦らない。
せっかく、こんなに近くまで来てくれたのに。
短く息を吐いて、また顔を上げて。
にっこり笑ってからまた、背伸びして、
その頬に挨拶のような軽いキスを。]
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