いっそ哀れな程に無力な抵抗はもはや甘噛みに過ぎない。
鋭敏に昂りつつある口蓋をやわらかくなぞりながら、
滑らかな手袋に覆われた指がずるりと引き抜かれる。
無意識が唯一のよすがとした仮面を奪われ、素顔を曝され、
そしてみじめに絶頂する男を冷たい瞳が見下ろした。
「──── 一回目。ああ、でも…
彼もお客様も、まだまだ満足されてはいないようです
どうか頑張ってくださいね、テンガン。
それがいつまでになるかは僕にはわかりませんが…」
揺れる瞳も、くぐもった啼き声も、悩ましくも浅ましく揺れる躰も
今この場では決して同情の対象足り得ない。
観客はその姿に熱狂し、更なる辱めを煽り立て、歓喜の声を上げる
そして、"怠惰"はそれに応えるべく、与えられた役を演じるだけ。
縋る事は自由だが、決して誰も助けてなどくれないのだ。
「彼が、そしてお客様が満足するまで……
あなたがどんなに嫌だと叫ぼうと、この演目は続くのです
それに、あなたもまだ足りないでしょう?
」
絶望は、実に音も無く這い登る。
その生物の纏う粘液は獲物の躰を否応なしに快楽に昂ぶらせ、
そして、その暴力的なまでの快感は
哀れな好餌が"餌"を供する事ができなくなるまで
苛み続けるのだ。
やおらに靴音は鳴り、"怠惰"は嬲られ続ける男の正面を離れる。
そしてその隣へと膝を付き、男の背筋をそうっとなぞり上げた。