人狼物語 三日月国


145 【R18G】星仰ぎのギムナジウム2【身内】

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「……」

かつ、かつ、かつ。

朝食後の会議時間。
今日もまた合図の音を響かせて仲間の訪れを待っている。

『トットくん。
 昨日はお疲れさまでした。
 クロノちゃん。
 調子が悪ければ伝えてくださいね』

教室に入れば、そんな文字があなたたちを迎える。
食堂に居ない生徒が、一人余分に多かった。
それは狼にとっても予測できていなかったこと。

/*

合点承知之助でございますの!向こう側からのアプローチが無い限りは噛みのみ!5メガネ覚えましたわ!

/*
ピリソースも合点承知の助!噛みのエルナトくんだけ大人から指定された〜でロールはいいですわね〜。
あちらから要望あったら良い感じにいたしましょう!

合図の音。
食事を終えた後、その音に誘われて空き教室へ。

「……、わ、わたしは大丈夫……。
 ラピスちゃんもトットくんも、おつかれさま。

 ……テラくんは、なんで、居なかったんだろう……。
 まさか、ほんとに神隠し……とか、ないよね……?


まさか自分から大人のもとへ赴くとは考えづらい。
誰か、自分達の他に動いている人が居るのだろうか
それとも、……本当に神隠しがあるものなのか。

神隠しがあるなら。
大人を手伝うために同じ子供達をだましている自分たちは、
神隠しに遭ってもおかしくない、「悪い子」だ。


「………こわい……、」

「…………よ!ラピス!」

ひょこり、教室へと顔を出す。
やって来た少年は、小さな紙袋を二つ抱えてここへ来たのだった。

椅子に座って、黒板に書かれている文字を見ればニコリと笑いかけた。
──明らかに覇気がないのだが。

「おれがんばりました〜。ちゃんとおしごとした」
「たいへんきのどくだが……いたしかたないこと」

「クロノもお〜はよ。…………、……」

「だいじょぶだいじょぶ。こわがらないでよ」
「かみさまなんていないよ。いてもおれらのことゆびさしてわらってるだけ」
「わざわざこどもさらうなんてしないでしょ。おとなじゃあるまいし」

そんなことを言って、クロノの背中をトントンと優しく叩いた。

「うん…………」


宥められながら何度も頷いて、
長い長い息を吐いて、顔を上げて黒板を見る。

怖くたって、やらなきゃいけないんだ。
やらないと、怖い目に遭う事が分かってるから。


「大丈夫……わかってるから。
 今日も、がんばらないと……。
 
わたしも、がんばらないと、ね……。


こわい大人たちは、どこで見てるかも分からないのだから。

おはようの挨拶に手を振って返す。
不安そうなクロノの顔を見て、チョークを手に取った。

『神隠しや幽霊などは
 大半が科学的に説明のつくものが多いです』
『知識を呑み込めない子どもに現象をわかりやすく説明するための作り話ですね』

『この学校に伝わる神隠しも、結局は大人による人さらいでした』

かんかんと黒板に、噛み砕かれた説明が書かれていく。

『テラくんも恐らく、私たち以外の誰かが連れて行ったのかもしれません。
 大人たちが神隠しをたった3人だけに任せる方が、考えにくいことです』

「べつどーたいってやつだ」
「ほかにもおれたちみたいなやつがいるってゆーのも なんかちょっとかわいそうだな……」

珍しく眉を顰めて、黒板の文字を視線でなぞっていく。

「でも、やらなきゃいけないもんな」
「…………おれ、ふたりがひどいめにあうのやだしさ」
「そりゃみんながひどいめにあうのもやだけど」

「……………………」

ここまで言うと黙ってしまって、拗ねたような顔で机に頬杖を付いた。

「わたしたち以外の、だれか……」

……けれども自分たちはその誰か≠ェ
誰なのかを聞かされていない。恐らく逆もそうだろう。

だからその誰か≠スちは、
自分達を連れて行こうとするかもしれない。
自分達ばかりが連れて行く側では無い事に、
一末の恐怖を覚えながらも

「…………」

「今日は……エルナトくん、だっけ。
 わたしが、連れて行って……いいかな。

 昨日、ちょっとお話して……
 たぶん、話しやすい、から……」


弱気な声で、おずおずと手を挙げた。

「………………」

『誰かがやらねばならないことですからね』

どうにもままならないものだ。
黙ってしまったトットを見て、不安の色が残るクロノを見て。
それからおずおずと挙げられる提案。
怖い気持ちと戦って、でも何とか役に立とうと頑張っているのだろう。
健気さがいじらしかった。

『では、今日はクロノちゃんにお願いしましょう。
 気をつけて行ってきてくださいね』

「クロノが行く? んじゃーおれおうえんしちゃお」
「なんかあったらてつだうから! ……て、ゆーのと」

「これはラピスもなんだけど」

そう言いながら、自分が持ってきた紙袋二つを それぞれあなたたちに差し出した。

「えとね」
「けがにきくやつ」

「…………なにあるかわからないとおもって」
「もってきた」

紙袋を開けば……花弁だ。
花の種類はまちまちでいずれも茎や葉は無く、瑞々しく色とりどりの花弁が袋の中を埋めている。

「えと つぶしてきずにすりこむとか」
「おちゃにするとか」

「それできくから。そういうやつ」

「じぶんでつかってもいーし、ほかのひとにもつかっていいかなって」

「なくなったら、いつでもわたすから」
「いってね」

「くすりみたいなもんだとおもって」

「うん、…………え?」

渡された紙袋を受け取る。
植物特有の何処か青臭いような、
けれども花らしい芳香も感じながら、
紙袋を覗き込めば、色とりどりの花弁。

お花が食べられるとか、お茶になるとか
聴いた事があるなと、ぼんやり思い出しながら、

「…………ありがとう」

「なにかあったら、……ううん。
 何も無くても、ちょっと、飲んでみたいな……」

少し不安が緩んで、トットに笑い掛ける。
ぴき、と内から小さな音を聴いては、間もなく背けて

「?」

紙袋を受け取って、中身を見る。
色とりどりの花弁だ。
一枚取り出して、じっと観察した。

『薬草のようなものですか?』

説明を一通り受けると、理解した、というように頷く。

『ありがとうございます』
『怪我はないのが一番ですが』
『もしもの備えは良いことですからね』

備えあれば憂いなし。
紙袋を抱えて、にこりと微笑む。


「……がんばって、きます。
 今ならがんばれる、気がするから……」

あどけない言葉は、艶やかな女の声で。
多分、あと誰を連れてくのかとか
そんな話もしなきゃ行けないのだろうけれど、

「何か……あったら、また合図して……ね。」

ちょっとだけ背中を押して貰えた今を逃したくなくて。
頭を下げて、教室を後にしようとする。

こくこく、また頷いて返す。

『はい。また明日、同じ場所でですね』

花弁が少女に勇気を与えてくれたらしい。
トットのお手柄だ。
自分もどことなく元気を分けてもらえた気がする。
紙袋を抱え直して、ちょっとだけご機嫌に。

役目のために出掛けていく後ろ姿に手を振って見送ることだろう。

二人の笑顔を受けて、トットもはにかんだ。
そう、備えあれば憂いなし。
なにかがあるとないとでは、気持ちも状況も違うから。
安心材料とも言えるかもしれない。

頭を下げたクロノに、「うん!」とガッツポーズ。
それから、ラピスと一緒に手を振って見送るのだった。

「んふふ。おれのはななの」
「よろこんでもらえたらおれはうれしい」

『これはトットくんが育てている花ですか?』

園芸部員だったことを思い出し。
花壇で育てている花なのだろうか。
頭にも生花を飾っているし。

クロノが去った後の教室で、ふと気になって聞いてみた。

「え! これねえ」
「これねー」

「えっと」

謎に言い淀んだ。腕を摩り、視線を泳がせる。

「そういってもかごんではない」
「というか」

「んー。そうです……」

結論まで変に遠回りをした。

「………………」

妙な間を感じ取って。
一度その意味を考えて。
黒板の文字を消して、書き足して。

『これはトットくん  の   花なのですね』

そこに込められている意味がお互い通じているかいないのか。
また改めて確認して、うん、と一人頷いた。

『それなら、より大事に扱わなければなりません』

書いては消しての繰り返しを見届けて、出来た文字列を見ればぶんぶん頷いた。

「そうそうそう」
「そうです。おれのはな」

「でもえんりょしなくていいから!!いつでもあげるからね」

「いつでもあげられるので!」

そう言うと、トットもぴょんと席を立つ。
おれもまたあした!と言いながら教室を出ようとして、

「ラピス」

振り返らないまま、一言だけ。

「くるしいね」


……振り返らずに、そのまま教室を出たから。
貴方が返事を書き記したかどうかも、どんな反応をしたのかも、トットはきっとわからない。

「……」

残された言葉を拾って、ただ佇む。
白い言葉を握った手は、何を書くことも出来ずに漂うだけ。

「……、……、……」

ぐるぐると心の中に溜まったものが、思考の中に閉じ込められたものが行き場をなくして渦巻き続ける。
叫びたくても叫べない。
掠れた息が、細く吐かれる。

それから暫くの間、一人きりの教室にまた思考を磨り減らす音が響き続けた。

「いいですよ〜、バレンタインくん。
 私も気にしないで居られたら良かったんですけどね〜」

「ちょっと気に入られるとお菓子をもらえたりするんです。
 少し我慢するだけでたくさんのものが……なーんて。
 ずるをしているみたいなんで内緒ですよ?」


我慢するだけで、欲しいものが手に入るというアオツキと。
眠っていることで抑えてることがあると告げた君の何が違っただろう。

やりたいと決めたことだ。自分なら出来る。
やらなくちゃいけない、やらなかったら先生になれない。
自分の望んだアオツキになれない。

――一種の強迫性障害。
バレンタインと、アオツキの病は一部似通っている。


それが眠ることで抑えられる君と、"先生をすることで"平穏を保てる彼。
症状の深刻化は進んでいた。



「まだ先生ではないのに、
 先生と呼ばれるのはとても嬉しいんです」


己を病気だと思わなくなる日が来ることで、完治といえる日は来るのだろうか。
其れが望むことなのか、彼の表情は語らない。

その日の朝、バレンタインへと手紙が渡された。
一人の時に読んで欲しいと告げた後、
アオツキは忙しなさそうに寮へと向かっただろう。

その後職員室でも、廊下でも鉢合わせることはあり、
どうやら朝忙しかっただけかも知れない。

『バレンタインくんへ。

 連絡以外の手紙なんて、久し振りに書きました。
 調子は如何ですか? 私は昨日夜更かしをしてしまって、
 朝はいい目覚めとは言いがたかったです。
 同室の、バット君も起きたら居なくて
 なんだか寂しい思いをしました。

 手紙を送ったのは幾つか理由があります。
 今日は、君の元へお話に迎えるかわかりません。
 すれ違って顔はみたいですが、時間が合うかどうか。

 それでも君のことが聞きたくて、
 手紙を送ってみることにしました。

 今日一日起きたことや、楽しかったこと。
 バレンタインくん自身のことや、私に尋ねたいこと。
 何だって構いません、必ず読んでできるだけ早く返します。

 君が今日も寝ぼけて教室で一人になっていないか、
 食事を食べるときにぼうっとしていないか心配です。

 昼も夜も、うんと良い夢を見てください。
 アオツキより』

誰のものでもないその部屋に、誰かの気配が残り香のようにある。
湿った、背筋の凍るような、神経に不快感を及ぼす何か。
しっかりと清掃され清潔であるように保つ努力を経てもなお、
言い様のない警鐘の残滓が僅かに空気に染み付いている。
それは朝も午前も超えて、白日が名月へと交代するほんの間際の頃だった。
そこにはもう誰もいない。


人を愛さずに生きられるなら、さぞかし楽だろう。

人を思わずに逃げられるなら、どんなに身軽だろう。

言葉を音にするのでさえ手間取るものだから、
文字に書くなら当たり前のようにそれ以上の時間がかかる。
授業で言われたことを書き取るのとは訳が違うな、というのを、
手紙を書いて初めて実感することとなった。

とはいえ、新鮮な体験なので、
それなりに楽しみつつ書き連ねていけた。と思う。

『言葉を文字にするのって難しいですね。
 それに、何でもと言われてしまうと、
 尚更書くことに悩んでしまいました』


文字の通り、この辺りは何度も消しゴムで擦ったような、
少し煤けたみたいな跡が残っていて。

『優しい友人がいるおかげで、
 この一年くらいは授業が終わっても寝過ごしたり、
 朝食の時間に食べ終わるのが間に合わなかったり、
 といったことは少なくなっていて助かってます。』


『それと、昨日恋愛小説を図書室から借りました。
 兎と烏が、様々な障壁を乗り越えて恋をする物語。

 昨日お話ししたことが何だか頭に残っていて、
 それで良い夢が見られたらいいなあと読んでたり。
 恋を夢みたいな話だ、と思ってるわけなんですけどね。』

メモを貼った。

メモを貼った。


正しい  など 見えません

   で歪んで 見えません

 




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