人狼物語 三日月国


147 【ペアソロRP】万緑のみぎり【R18G】

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視点:


 
[ざぁざぁ……。
 引いては打ち寄せる波打ち際。

 はじめて逢ったきみの亡骸を抱いて
 共に水底に沈んだのを覚えている。

 調べのような流れに攫われて
 僕だけが戻されてしまったのは
 いま思えばきみがしたことだったのかも知れない。]
 

 
[さらさらの砂の上に胡座をかいて
 大事に大事に流歌を抱えて
 目が開けられるのを大人しく待っている。

 開けられても、暫くは無言で
 だけど離したくなくて
 ぎゅぅぅっと抱きしめてると思うけど。

 彼女が負わされた怪我とその痛みは今はない。

 背中の、翼手目に似た黒き翼を
 風と関係なしに揺らしてた。*]
 



[ 心地の良い波音が聞こえてくる。
  ……ん、それになんだかあたたかい。

  それが潮音に抱きしめられてるのだと気づく。 ]


  ……しおん?


[ いたくない。
  気怠い感覚だけが残ってはいるけれど。
  声をかけてもなにも言わないかわり、
  抱きしめる感覚が少しだけ強くなった。

  とてもきれいなところ。死んじゃった?

  今際の際に見るのが
  潮音に抱かれながら見る風景なんて
  ……これ以上に幸せなことがあるんだろうか


  ……なんて、なんて? ]

 



 しーくん?しーくん、
 しんじゃったの?

 やだよ、しーくん死んじゃやだよ!
 

[ 羽根外したら生き返ってくれるかな?
  その羽根ついてる潮音もかっこいいけど!
 
  潮音がいなくなる世界なんてやだよ!
  そんな世界になんの価値もない。
  生きる意味も、死ぬ意味すらもない。



  純粋ですごく身勝手な呪いをね、
  私はずっとずっと繰り返してるのかもしれない




 [ いったでしょ、私は
   潮音しか いらないの 

   ほかに、なにもいらないの。**]

 

  ……。


[睫毛に縁取られた瞼が持ち上がって
 蜂蜜みたいな瞳が覗いて。
 返事をするかわりに抱き締めた。
 夢の中に入れるのだから生きてない筈がないんだけど
 誰かに拐われないかはいつでも不安だった。
 それは他所の男であったり、死神であったり。]
 

 
[幼げに己を呼ぶ彼女の様子には
 ついくすっと笑みがこぼれてしまった。
 連れて行かれちゃうのはいつもきみだけだってば。]


  ……っふふ、……大丈夫だよ
  流歌はちゃぁんと生きてるし
  僕は死なないから


[背中のものに気付いても驚く様子はない。
 飾りとでも思ってるのかな。
 何でも良い、彼女にとって嫌な見た目じゃないなら。
 怖がられたら隠しもするけど、いまは。

 もっときみに近づきたかった。]
 

 
[よしよし、って背中を撫でて
 抱き締める腕を緩めると左手を取った。]


  僕以外嫌って、本当?
  僕しかいらないって、本当に?

  もうずぅっと昔から流歌のことだけ
  見てるって言っても……引かない?


[覚えているかな。
嫌なことまで思い出しちゃうかな。

 口説いようだけど、情けない僕は確認してしまう。
 きみの前では格好いい僕で居たかったんだけど。
 言葉でも、……別のことでも、確かめたかった。]
 

 

  流歌の気持ちを試しても……良い?


[不安げに眉を寄せて
 左手の指を親指ですりりと撫でた。*]
 



[ 目を開けても何も言わない潮音に、少しだけ不安を覚えた。
  でも小さく笑ってくれたから、―よかった。 ]


 そっか。
 よくわかんないけど
 ……潮音がちゃんといきてるなら
 それでいい。


[ 僕は死なない。
  言葉通りを正しく理解するには
  知識とかいろいろ、足りないけど。

  背中の羽根がゆらゆらゆれるのを目で追う。
  ……どうやって動かすのかな、不思議。]

 


[ 手を繋ぐとき差し出すのはいつも右手だった。
  だから今はブレスレットの音がならなかったね。

  すこしだけ、さびしい。 ]


  ほんとだよ。
  潮音以外やだ。

  潮音しかいらないよ。



[ ずぅっとまえから、それは想像さえつかないような?
  潮音は教えてくれたかな。
  そうでも、そうじゃなくたって
  私はきっとこんな返事をするの。 ]



 私の、きもち?


[ 不安げな顔が見えたのなら、
  手はもうすでに潮音のなかにあるから。

  代わりに瞳を覗き込んで笑う。
  めをみて。奥のおくまで。

  深い奥底まで。


  ねえ、見て? ]

 
 

[彼女の前にバスタオル姿で現れてしまった。
それは着替えを置いてきてしまったが故なのだけど、向かえの言葉を最後まで聞けなかったのが残念だったが赤く火を噴くような声が見えたからよしとしよう。彼女の反応にふっと笑い。それから、食事を見て、彼女の言葉に肯き。

服を着れば、席についただろう。]


 ……すごいっすね
 初めて見たなあ。


[タルタルステーキなんて母の料理のレパートリーになかった。サンドイッチ用のパンが焼かれ、ビーフシチューに、デザートもあるなんて、こんなに沢山食べていいのだろうか。ワインに合うだろうなという料理を見て、彼女を見れば、改めてありがとうございます。と告げ。

彼女がワインを開けるのに手間取るようなら手伝います。と言い、手伝ってから手を合わせ]



 ……いただきます。


[ぱくっと一口。]


 美味しい。
  ナナミさん、これ美味しいっすね。


[ビーフシチューを掬い。
そんな風に話かけ、彼女が自分の唇に触るのを見て、ぱちりと瞬いた。その唇が柔らかいのを自分は知っている。何処で、知ったのか。と言われたら少しいやらしいことを想像してしまうけど。

彼女は今、清楚なワンピースをつけている。
けどその中身が意外と大胆でえっちなのを知っていて]


 何考えているんっすか?


[スプーンをぺろっと舐めれば、
彼女をじっと見つめ。それからスプーンに彼女を映し。視線に熱を込めれば、片手で彼女の指を掴もうとし。]


 次はお昼に来ていいんっすよね
 そのときは、俺がもっと

   ごちそうするっすよ。


[料理は上手くないから。
こっちで、と。先ほどのまじわりを思い出すように。彼女の性を掴む気で、微笑みを小さく浮かべた*]

 
[きちんと僕の話をするのは
 もう少しだけ先かな。

 流歌がこんなに真っ直ぐ
 想いを伝えてくれているというのに
 臆病で卑怯な僕はまだ、
 心を預けきれてなかった。

 だって、僕の一番醜いところ……、
 まだ彼女の中で繋がってない筈だから。

 ここでの出来事も全部
 ただの夢だったと言う逃げ道を残してる。
 狡い、化生だ。]
 

 
[試すなんてすごく、失礼なことだ。

 だけどきみは
 綺麗な瞳の奥底まで晒して
 いいよと答えて
 清らかに、
蠱惑的に、
笑ってくれる。

 悪魔にそれをあげるなんて
 簡単に言ってはいけないんだ。

 二度と返してあげられないよ。]
 

 

  ……。


[おずおずと、掴んだ手を持ち上げて。
 撫でていた指を、薬指を、口許へ導いた。

 ……ねえ、流歌。
 僕の汚い所も全部、受け止めてくれる?
 無理なら無理で、良いんだ。
 受け入れて、までは言わない。

 僕だって、きみを傷つけた奴ら生かすこと
 納得できる日がくることはきっとないし。]
 

 

  …………流歌、……


[どんな機微も見落としたくない。
 近くにある目をじっと見つめ返しながら。

 ぱくり、指先を柔く咥えた。
 長い二本の犬歯が覗く、その中心に。

 ちゅっと一度軽く吸い付いて
 平らな上下の歯でしっかり、それ・・をとらえて。]
 

 

  (……大好き)


[一気に、────剥がした。
 流歌の左手薬指の、生爪、を。
 歯で咥えた先から根元まで、きれいに。]
 

 
[見知らぬ男達に不条理な暴力を振るわれた
 かわいい流歌、可哀想な流歌。

 ……だけど。
 きみを深く傷つけていいのは僕だけだ。*]
 



「俺も、今は……ミンのこと独り占めしたい。

 一緒の気持ちだなんて嬉しいことだ。
 でもちゃんと、将来のことは考えてるから。
 やっぱりこの世界で1番好きだよ、ミン。」


穏やかな朝。最愛の人と愛を伝え合うことの幸せは
旅をしているからなのか、最上とも言える。
いつどちらかがかけてしまってもおかしくない。
そんな状態だからこそ、この時間はかけがえのないもの。
それ故に、可能な限りは深く交わっていたいと
彼女を見てしまうといつも願ってしまう。





彼女が好きという気持ちはあの時から微塵も変わらない。
寧ろその気持ちは更に強固に、深みを増している。
初めの頃は勢い余っていたと言えるし、
その話を引き合いに出されたらたじたじになる未来しかない。
もしいつか、彼女に質問をするとしたら、
あの頃よりも彼の愛情表現は上手くなったか、と
聞いたみたい気持ちがある。


「やっぱり知られてた。
 でも嬉しいからいいんだ。

 いれていくよ、ゆっくり」


彼女のことを見つめながら宣言通りゆっくりと
腰を深くまで繋ぎ合わせていく。
シーツを握る彼女の手に彼の手を重ねて
奥まで到達したなら、きたよ、と囁いた。





「やっぱりさっきと違う。
 全身でミンを感じている気分になってるよ」


肌と肌が触れ合っているのだから、
当たり前かもしれないが、それでも伝えずにはいられない。
彼女の呼吸をみながら、まずはゆっくりとまた中を擦って
更なる熱を生み出していく。





[ いいよ、って答えた後、
  潮音は何も言わなかった。

  どうしたのかな、
  だまって潮音の瞳だけを見てた。


  ゆびさき、くすりゆび。
  神様に愛を誓ったとき、
  永遠を灯す場所。

  ……潮音の中にきえてく、私の指先。

  柔く挟まる感触は少しくすぐったい。 ]

 



[ ようやく、紡いでくれたのは
  私のなまえ。]


  なあに、潮音。



[ 微笑む。私もだいすきだよ、 



  ―――]




 
―――
っつああああ!!





[ なに? ]




[ 痛くていたくて、いたくて、
  私じゃないみたいな声がでた。


  突然のことに涙すら出ないまま、
  痛みを堪えるために指を抑えることすらゆるされない。


  抑えたって痛くならないわけじゃない、
  こわくて指先がどうなってるか見られなかった。 



  ……ああ、でも、でも]

 

[ 如何説明されたところで俄かには信じ難い。
 けれどそんなことはどうだって良くて。
 そんな胡散臭いものに縋ってでも彼が
 俺を手に入れたかった事実さえあれば十分だった。

 彼を愛していればこそ、
 真っ当な道に戻れるよう促すべきだ。
 普通ならそう考えるのかもしれない。
 そうだろうなとは思う。けれど……
 自分の為に踏み外してくれるのが嬉しくてたまらない。

 戻れなくなってしまえばいいとすら思う。
 この感情が、この執着が、正しいなんて思わない
 彼に幸せになって欲しいと思わないわけじゃない
 けれど、それ以上に

 あの日、向き合うでなく離れることを選んだ事が
 痼になっているのだと思う。

 二度と離れて行かないように
 共に戻れないところに堕ちて欲しくて。 ]



 しお、ん、っ



[ ああ、綺麗な瞳がみえた。
  赤くゆらめいて、きらめく焔みたい。

  きれい。
 

  いままでのわたしは こんなふうに愛してもらえた?
  わかんないね、しらないもの。
  
  いたい、いたい、くるしい。

  ああ、……なのに、ふふ、
  少しだけ私の口元には笑みが灯もる 
 ]
  

[ 拒絶とは違う視線の逸らし方に勝利を確信する。
 やはり彼が求めるのは可愛い路線でいいらしい。
 いや可愛い路線ってなんだ。知らんけど。
 自分に『可愛い』なんて評価が当てはまると思えないが
 彼にとって『可愛い』と感じるのが何なのか
 そのへんは試行錯誤していくより他ないのだろう。

 望む通りの俺に寄せる努力は元よりそれ程苦じゃない。
 なんぜずっとそうして生きてきたのだから。

 母相手だと息苦しくなってしまったのは
 挫折してしまったこともあるけれどそれ以上に
 挫折を受け入れようとしない母にこれ以上
 何かを望まれたいと思わなくなってしまったからだろう。


 彼にの望まれ続けるためなら、幾らでも
 彼の望む俺になりたいとすら思う。
 たとえそれが『可愛い成人男性』だなんて
 なかなかにパンチの効いた題材だろうとも。 ]


 じゃあ気のせいかなぁ。
 誠丞さんが冷えてるのかも。

 あ。あと、……ぐっすり眠れたのとはべつに
 その……ちょっとだけ、おなかいたい、かも。

 してる時はあんな気持ちよかったのになぁ。

 



 ふふ、……なんかまだ誠丞さんの入ってるみたいな
 けど足りなくてむずむずするみたいな
 へんなかんじ、する。


[ 苦痛を訴えるでなく、すこしだけ気恥ずかしそうに白状を。
 シーツで半端に隠れた下肢を……そこに感じていた何かを
 愛おしむみたいにそっと撫で摩って、
 伏せ目がちに、はにかんだ笑みを滲ませた。

 まーーー内臓あんだけ弄り倒せば腹痛くらいしますよね
 なんて可愛げのない本音すら『可愛い』に分類されるかは
 まだ未知数なので、飲み込んで黙っておく。

 彼なら可愛いと言い出しそうな気はするけれど
 飾らず演じない俺を好んでくれればそりゃあ嬉しいけれど
 だからといって努力を怠って良いかといえば
 それは完全に別の話だ。
 最初くらいは保険をかけて、猫を被っておく方がいい。 ]



[ 捕まえられてなかった方の手も潮音へ伸ばした。

  両手をひろげる。
  すごく、すごくこわいよ。

  いたいの、すきじゃ、ないよ、でも。]



  きて 潮音



  いいよ、潮音になら
  わたし だいじなものも あげられる。
  



[ ようやく涙が出てきた。
  ぼろぼろ流れて止まらない。


  こわいよ。
  でもね、わたし、

  ずっと待ってた気がするの ]


[ いいよ。 ]



[ いきてるあかしすら あげられる。 ]



[ 可愛いでしょって笑いあった制服を
  引き裂いて、その奥の奥


  脈うつ鼓動さえも飲み干してもらえるなら ]

 

[同じ気持ちだと伝える彼に双眸を細める。
気持ちを真っ直ぐに伝えてくれる彼は、
初めて出会った頃とずっと変わらない。

彼の考える将来に、当たり前のように
自身が組み込まれていることが嬉しくも恥ずかしくて、
彼の隣にいつまでも、できるだけ寄り添えるようにと
願わずにはいられなかった。

彼が深く腰を沈めれば、奥までしっかりと彼のものを感じる。
シーツを強く握り締めていれば、彼の手が重なって。
布地を持つ手を解いて彼の指と指を絡め合わせた。
深く埋まったことを、彼が耳朶に囁くのに、
こくこくと浅く何度も頷くことで伝えて。]


 ……んッ、感じる……、
 テンガンの熱……、届いてる……ッ……


[声を震わせながら、答えればきゅうとまた奥が切なくなる。]

[さっきと違うというのは、直接温もりを感じるからだろう。
それはこちらも同じで、彼が少し身じろぎする度に、
温度やその形を顕に感じてしまう。

彼が動き始めれば、ぱちゅ、ぱちゅといやらしい音が立って、
中を擦り上げられる度に、じわじわと熱を帯びていく。]


 ……んぁ、ッ……ぁうッ……、
 は、っ、……ぁッ、あンッ……ぁッ……、

 ぁっ、……ふか、いッ……ぁんっ……!


[ぐり、と彼の先端が弱い箇所を突けば、
びくりと身を跳ねさせて、絡めた指にきゅうっと力が籠もった。]

[ 現状に関し熱心に説明されても一向に信じる気は起きない。
 真実であることの証明のように晒された器具だって
 手が込んでるね、としか思えないし。
 
 ただ『信じて欲しい』と言わんばかりに一生懸命な彼が
 可愛らしくて、愛おしくて
 だから言葉を遮ることなく大人しく説明を聞いていた。

 真面目だな、もしその説明が全て真実だとしたら
 ……いや、たとえ嘘だとしても
 俺が信じるか信じないかなんてどうだっていいだろうに。

 それでも信じて欲しいのか、俺に。
 現状が実質監禁と同じであることは
 直接言葉にされずとも何度も念を押されている気がする。
 逃がさない愛してると伝えたいにしては
 狂気もなく、それを吹っ切った甘さもない。
 ただ切実に、淡々と説明する様は……

 ああ、そうか。

 独り、なんとなく納得する。
 赦されたいのかもしれない、と。

 ばかだなぁ。
 愛おしいと同じ色の感情が溢れる。 ]


 
 夢や妄想の次は詐欺が浮かぶけど。
 誠丞さんが信じてるなら、信じるよ、俺も。

 けど……べつに誠丞さんちに攫って閉じ込めてくれたって
 俺は喜んで監禁されたんだけどな。
 
 ああでもそれだと公になった時うちの両親が面倒くさいかぁ。
 ……ざんねんだな、誠丞さんち、行ってみたかったのに。


[ ばかだな、俺がどれだけ貴方を好きか全然わかってない。
 けれどそんなところが可愛らしい。
 信じられない?不安なのかな、嬉しいな。
 拒まれることを不安に思うくらいに
 俺を求めているんだろうか。

 赦すどころか喜んで受け入れるのに
 真実でも、嘘でも、
 貴方が与えてくれるものなら、なにもかも。  ]


 ね。いつか、連れてってよ。
 外出許可出せるくらい、俺を信じる気になったら。
 それまでいいこにしてるから。


[ 真面目な彼をここまで追い詰めた理由が、
 『左目を治したい』だけじゃないことくらい
 わからない程頭が回らないわけじゃない。

 あの時、飛び降りなくてよかった。
 彼が止めに来てくれた瞬間に
 彼の目の前で、彼の記憶に焼き付くように
 飛び降りてしまわなくて本当によかった。

 本当に「ただ風に当たっていただけ」だったのに
 それだけのことでこんなにも俺に執着してくれる今が幸せで
 生きたまま味わえる幸福に酔い痴れる。

 貴方が俺を執着してくれる限りは
 死ぬ気なんか、微塵もないけれど
 きっと彼はまだ信じられないのだろうから。

 俺がいなくなるかもしれなかっただけのことに
 こんなにも恐怖を覚えてくれていることが嬉しい。

 可哀想に。愛おしむのと同じ温度でそう思う。
 俺に囚われてしまった、彼に。* ]

[さすが酒屋。
開けるのに手間取るようなワインでも、そつなく手伝って開けてくれて。
2人の前に準備されたワイングラスに、紅色の液体が注がれていく。

タルタルステーキに目を見張る彼のその好奇心旺盛なところにほっとした。
食べたことのないメニューに挑戦することを嫌がる人もいるから。
保険もかけて多めに色々と準備したメニューだったけれど、彼は美味しそうにほおばってくれている]


 ちょっと重ためなメニューだったからどうかな、と思ったけれど、喜んでくれてよかったわ

 まだ若いものね。


[ちょっとたんぱく質が多めなメニューに偏っていたけれど、彼の体つきや普段の運動量からしてもちょうどよかったのかもしれない。
 それに―――先ほど失ったたんぱく質を、彼が補うのにちょうどよかっただろうし]



 え……?


[先ほどの行為を思い出していたら、何を考えているか、と彼に問いかけられてしまった。
 いやらしいことを考えているのを見透かされたかのようで、思わず目をそらそうとするが、先ほど自分の乳首を舐めたその彼の赤い舌先がスプーンを舐め、目に映ればどきりとして。
 じっと見つめられていたかと思えば、指先を掴まれた。
 それを振り払うこともせず、されるがままになって]


 ええ、次はお昼にね……。
 でもあまり人目につかないようにしてね。
 この家に入ったっきりなかなか出てこないのがばれたら、下手に勘ぐられちゃうし。


[そして、それは下衆の勘ぐりだけでなく、想像通りのことが行われるのだろうし]



 ごちそう……?


[もっと? と彼の言うことがわからず、こてん、と首をかしげていたが、すぐに彼の意図することがわかって、再度顔から火をふいた]


 そ、そうね―――。
 楽しみにしてる、から。


[ごまかすように口を隠したけれど、先ほど自分がベッドの上で約束したこともついでに思い出してしまった。
 今度はもっとすごいことをしてあげる、と。
 そんな口約束を対価に、彼は二回戦目を諦めてくれたのだし。
 どんなことをすれば彼の期待に応えられるかわからないのだけれど、精一杯頑張るしかない。
 想像するだけで、喉が鳴る。
 ああ、本当は自分だって、まだ彼に抱かれたかったのだ。体力負けしたのは自分のくせに]




 そうだ連絡先……いえ、教えない方がいいわね。


[夫とその浮気相手と違って、彼と自分は今までの接点はなく証拠もない。
 電話も通話記録が残るかもしれないから用心に用心を重ねよう]



 週1の配達の時に会うくらいがちょうどいいのかもしれないわね。私たち。
 それでももっと貴方に会いたくてたまらなくなったら……私が貴方の家の方に訪ねてもいいのかしら。


[二川屋酒店に客として訪れた女が、なかなか店から出てこない。
その方が酒屋の配達員が客の家から出てこないより周囲の好奇心をかきたてることは少なさそうだ。
 ふしだらなことを慎重に、でもやめようという選択肢を持たずに緻密に考える。
 これが子宮で物を考えるということなのかしら、と自らのあまりの変わりようがおかしかった*]



ミンナと言う人物はとても優しく、
けれどもきちんとすべき時は臆せず物を言い、
ただただ守られるだけのお姫様ではない。
お姫様でも十分可愛いけれど、
それでいて冒険者であると言うポイントもある。
そうなれば魅力が満載で人目をひく。


「ん……そんなに締まって、…恥ずかしいの?」


震えた声で教えてくれる彼女。
それと一緒に、中が締まり体で更に教えてくれると
口が綻んでしまい、可愛すぎてちゅ、っと
唇を重ねてしまった。





ゆっくりと動いているせいか、
動くたびにぬちゅ、っと音が立ち、
ぱちゅん、っと肌が触れ合う。
柔らかい体にぶつかる硬い体が受け入れられる。
都度、彼女の可愛い声が聞こえてしまって
徐々に腰の動く速さが上がっていく。


「可愛い……。可愛いよ、ミン、っ……」


絡まれた彼女の指が強くなる頃、
彼の方も少しずつ吐息が漏れはじめ、
彼女が気持ちよく感じる箇所を感じ取った気がした。
体勢を変えようかと彼女を抱きしめ、
座る体勢にするために体を起こしてあげれば
体重が乗ることもあり彼女の奥に届いたのではないだろうか。



[恥ずかしいのかと問われたら、朱を散らしたまま
気恥ずかしそうに小さく頷きを返す。
何より身体の動きを言葉で伝えられることが恥ずかしい。

悦ぶように蠢いた膣が、口にされることでまたひくりと蠢いて。
彼の昂りにまとわりつくように蠕動を繰り返す。]


 ……ん、ぁッ……や、……
 言わないで……っ……、ぁッ、んぅ……


[甘く非難の声を上げれば、それを塞ぐように唇で覆われる。
機嫌を取るように幾度もキスを落とされれば、
唇が綻んで、隙間から舌先が滑り込んできては喘ぎ声を攫われて。]

[口付けを交わしながら、彼の口腔に吐息を吹き込む。
突かれる度に喉奥から溢れる声は、
彼の唇に寄って吸いこまれていき、掻き消えていった。]


 ……ぁッ、んんッ、……ふッ……
 ぁ、ぁッ、……いい、ッ……、

 テンガン……っ、きもち、いッ……


[名を呼ぶ声に応えるように彼の名を呼んで。
徐々に腰がぶつかりあう音が大胆になっていく。
間近で彼の吐息を感じて、ぞくりと身を震わせて、
縋るように絡めていた指先に力が入らなくなっていく。

くらくらと目眩がするほどに快楽に溺れて、
弱い場所を何度も突き上げられて、甘い声を上げれば。
不意に身体を抱き起こされて、視界が変わる。]

[変わった体勢に咄嗟に彼の肩を掴む。
彼の膝の上に乗せられて、自重でより結合部が深く繋がる。
届いたことのない場所まで深く彼を感じて、
目の奥が明滅するような感覚を覚えた。]


 ……ひぁ、っんッ……!

 ぁッ、ぁぁんッ……、やぁっ……
 この、……体勢ッ……、

 おく、まで……っぁ、あぁッ……ひぅッ……!


[あまりの快楽に動けずに、はくはくと酸素を求めて。
開いたままの唇から、切なく啼くような声が溢れ落ちた。]



[ それはさながら、
  何も知らずに真珠に祈りの真似事をさせられるかつての少年を
  隠せぬ嫌悪を抱いてしまっていた子供を

  愉しげにじっと見ていた時のように? ]



[愚かな私の脳裏に過るのは、交わした契約の内容で
傍らで今も二人を見ているネックレスのことなど考えもしなかった。

今も昔もそうだ。自分以外の魂は対価かつ悪魔の作品の材料や糧
それ以上のことなど、思ったこともない。

────復讐を謳いながら悪魔と同化した少年も、
愚かな人間の滅び行くさまを嗤うばかりで、
両親のことなどいつしか考えなくなっていた。]



 ……いいえ、いいえ。私の気持ちはあの日から変わっていません
 ですから翠の星から、沢山の魂を堕とし続けていたでしょう

[今や逸らすことすら出来なくなった視線を固定されたまま。

私が貴方の鼓膜を揺らしたその声は
下僕としてあるべき言葉だっただろうか、
追い詰められても嘯く愚かさなのだろうか。

答えは聞く必要も無いことの気がした。]

 確かに、自ら表立って活動することは間違いでした
 それによりこの身は危険に晒され、
 何よりもインタリオ様の御心まで煩わせました

 まるで貴方の代理人にでもなったように、驕っていたのだと思います

[語る隙を与えずこちらのペースに巻き込み、主導権を握る。
指導者として自然と染み付いた癖は、

しかし、大いなる主に向けるには
火に入る羽虫の藻掻きのようなものだ。]



[どれだけ外側から人間を操ったつもりになっても、
この腕は短く世界全てを収まる箱庭とは出来ない。

思いもよらない高波が、幾度も予定を狂わせ計画を破壊した。
数百年間、地上から争いが絶えたことは一度も無かった、

嘲笑い、利用し、見世物のように愉しんだつもりでいても────
いつしか、疲れ果ててしまっていた。

人道を外れた術を身に着け永くを生き続けても
地を這う生き物の、人間の一人として、
振り回されない生き方は見つからなかった。

そうまでして生きた先に、何も無かった。
]



 ですから次は場所を変えて、自分を弁えあの頃のように……

[だから、どうか許してほしい。どうか、殺さないで。
笑いを保とうとする口許が引き攣った。

悪魔と契約を遂げる程欲深い人間。
思考と解離する本能が、今命の危機に警告を打ち鳴らす。

弱々しい動きで、己に触れる手に自らのそれを添える。
離すことを求めるのも、引き剥がさんと動くことも
躾けられた家畜には出来はしないことだった。

どれ程繕おうとも、呼吸の乱れは隠しきれない。*]

 
[あんなことがあったばかりで、
 優しくしてあげるべきなんだと思う。
 だけど上書きしたくて仕方がなかった。

 痛みも、恐怖も、僕が与えるものだけ憶えてて。]
 

 
[悲鳴をあげ、真っ赤なマニキュアを纏って、
 僕のワイシャツを綺麗な色で染め上げて、
 痛みに震えだすきみは。
 ……信じられないくらいかわいかった。]


  (かわいい……流歌……大好き……)


[剥がした白く小さな爪を口に咥えたまま
 うっ……とりと見つめていた。

 こんなことして嫌われるんじゃないか。
 隣り合わせの恐怖が興奮を一層煽る。]
 

 
いつもすごく大事にしてきて、

 
こんな風に愛したのはきみだけかな。

 
小さい頃の事件が僕を変えたから。


 好きなんだ。大好きなんだ。

 僕の目の前できみの口許が笑みの形を取る。]


  …………、うん、なぁに、流歌?


[かわいくて、美味しそうで。
 唾液が溢れてきて、流歌の爪と一緒に飲み込んだ。

 両手が広げられて。]
 

 

  …………、ああ、……もぉ……
はぁ
……


[甘い甘い、誘惑だった。
 恍惚の表情のまま、欲と理性の天秤が揺れる。
 本当にきみは。覚悟まで出来てるっていうの?
 前髪をぐしゃりとかき上げて甘い息を漏らした。
 留まるところを知らぬ愛おしさに狂いそうだよ。]
 

 
[メスほど鋭利ではない爪は激しい痛みを伴って
 流歌の清らかな胸の中心を引き裂いていく。
 傷つけたところから溢れる血は、温かかった。

 ヒトならざる膂力は皮膚だけでなく
 大事な臓器を守る鎧の役割の胸骨すら割り
 バキ、メキャリと音を立てながら降りて
 残っていたブラはその過程で裂けて飾りとなった。

 万力も必要としない。
 真っ直ぐに引いた美しく赤いラインを
 片手でメリメリとこじ開けてしまう。]


  ……っきれい。すごく。きれいで、かわいいよ流歌


[守るものを失った脈打つものが、
 きみの生きる証が、目の前に晒されている。

 僕は、真っ白な流歌から出るもので
 流歌とともに赤黒く染まりながら、
 ずっと夢中になって、流歌を見てた。
 僕だけのきみから目を離せる気がしないよ。]
 

 

  
愛してる



[あーんと口を開き、長い牙を立てた。
 どくん、どくん、と脈を打つのにあわせて
 口腔に勢い良く雪崩れ込んでくる。
 流歌との、はじめてのキスと同じ味。
 細い腰を折らぬ勢いで抱き締めて、逃がさない。
 うっとりと、啜り続けた。最期の一滴を飲み干すまで。*]
 



[ 男の人たちに囲まれて、叩かれて
  お腹蹴られて、……裸まで見られそうになって

  でもそんなものに比べものにならないくらい
  目の前の出来事は恐ろしかった。 

  あんなに幸せそうに

  潮音は見たことがなかったよ ]



 あああああ、がはっ、ぁあああ! 

 げはっ、あ゛っ、あ




[ 刃物は切れ味わるいといいものよりも凄く痛いんだって。
  私痛いのやだな、

  痛みを想像してしゅんってしたのを、おもいだす。


  潮音の爪が引き裂くたびに、

  息の代わりに苦痛と逆流してくる、
  胃液みたいなものと、赤い血がふきだして
  口の中が真っ赤なキャンディたべたみたい。 


  ごめんね、痛くて苦しくて
  潮音のなまえをじょうずによべない ]



 ぉ、あ  あ、ん、

  ぢ、  


    お、



[ これでも女の子なのにな、
  見せられたものじゃないね、きっと。

  涙と、涎の他にも漏れだしちゃいけないところから
  いろんなものが流れでて
  
  潮音のシャツが赤く黒く染まってく。
  染めてるのは私。しあわせ。

  身体からなるはずのない音がなる。
  でもだんだんね、
  痛いのか苦しいのかわかんなくなってくる。
  音がちょっとだけ遠くなってゆく。
  その度に潮音の爪が新たな痛みをつれてきて
  意識はまた引き戻されて、
  くるしくてくるしくて、泣き叫ぶ。

  なのに視界だけはずっとクリアにうつるんだよ。
  潮音が私のことを ずっと愛してくれてる ]


 ぁ   でう、


[ 誰にも見せたことのない場所まで
  誰も見たことのない鼓動まで
  好きでいてくれるの? ]



  ぉ、 ん、


   ぃ、て、う、



[ 嬉しい、でもちゃんといえない。
  だから顔だけはせめてね、笑ってるの
  みてくれる?


  あいしてる、しおん。
  私がほんとの白になるまで、
  二人がひとつに染まるまで、



  ―――ずっと、みつめて   *]



見てわかることをあえて口にするのは、
そのほうが彼女の体がとても反応するから。
本当は聞かされたくないとわかっていても、
良い反応を示すのを知ってしまうと、
ついつい状況を説明して、改めて彼女に問うてしまう。
やりすぎはよくないと思っていても、
これはどうしてかやめられなくなっている。

恥ずかしいと体現するように蠢く中は、
彼女の感情1つで更に絡みついて離れない。
いわないで、と言われると言いたくなる。
けれどもそれをごまかすように口づけを交わし
彼女の細い喘ぎはすぐに受け止める。
全てがいとおしいから、彼女の言葉ひとつも
飲み込んでしまいたいという欲望が湧いて出る。





「好きだよ、ミン……は、っ……

 大丈夫?きつかったら、ン……いうんだよ?」


絡まっていた指がほどかれていき、
彼女の手が離れれば抱きしめ体勢を変えて。
突然のことで肩をつかんできた彼女の頭を
そっとなで、無理はしないように伝えたが、
時すでに遅しのようで、彼女の体が固まり、
中だけが蠢き動いているような状態になる。





「もう少しだけって思ったけど、
 そんなに感じてしまってるなら……」


ちゅ、っと頬に口づけを落とせば、
背後を確認して今度は彼が寝ころんだ。
つまりは、彼女は彼に跨っているような
そんな体勢に変えられてしまった。
もしかしたら、先ほどまでよりも
もっと奥まで届いてしまうかもしれない。
その時の表情はどんなときよりも、
多分綺麗で見惚れてしまうことだろう。



[まだ若い。という言葉に食べるのを一度止め。
それから、若い男ってどうですか。と首傾げただろう。彼女とのやり取りを重ねれば、いけないことを口にする。触れた手のぬくもりは離されることなく。

駄目、と言われることはない。
そう思っていたけど]

 ……そうっすね。
 ふっ、残念だなあ。
 一緒に出掛けたりしたかったけど。


[ぽつり。
食事を見てそれから、ほんの少しだけ残念だと伝えた。気づかれれば、周りの想像通りの関係を自分たちは行うのだ。改めて考えるとひっそりとやるのは難しそうで。
でも彼女に迷惑をかけたくない。

だったらやめればいいのに。
やめたくない。
だから、彼女を悦ばせる。
この関係を続けてもらえるように頑張ろうと思い]



 …可愛いっすね、ナナミさん。
 楽しみにしておいてください。


 …


[連絡先を交換し合うことのない関係。
自分たちの繋がりはとても、危うくいやらしいものだと意識させる。真っ赤になった彼女だけど、こういうところはしっかりしていて、慎重に考えてくれる。

それが、自分との関係を続けようとしてくれているという意思を伝えてくれるから]



 …ナナミさんが求めてくれるのなら。
 俺は、貴女に呼ばれたら

   飛んで向かいそうですし。


[貴女の方がきっと考えている。
実際問題、両親が店にいるから、難しいかもしれない。けど、彼女が会いに来てくれるのならなんとかしたい。なんとかする。

未だって指だけじゃなく体を包み込み、抱きしめたいのだから。ひと時も放したくない。ずっと抱きしめていたい。その柔らかな肌を独り占めしたい。

そんな思いを抱えながら
食事は、デザートへ向かうだろうか*]

 若い男が好きなのなくて、泰尚くんが好きなのよ?

[そうさりげなく言ってのければ、彼はどんな顔をしただろうか。
でも、彼が自分より年下だったからこそ最初は警戒しなかったのだから、彼が年下だからこそこの仲になれたのかもしれない。

一緒に出掛けたい、とポツリという彼に切なくなった。
彼にそんな些細な夢を諦めさせるのは自分のせいなのだ。
自分が結婚さえしていなかったなら、人目を憚ることをしなくて済んだのに。
一刻も早く離婚を成立させよう。
そう彼を前にして決意をする]


 無理しないでいいんだからね?
 お仕事の邪魔なんてしないわよ。買い物もちゃんとするし。
 ただ、顔を見たいとか……それだけだから。


[慌てて彼の言葉に不安だ、と笑って。
 少し多いかな、と思った食事量だったけれど、彼が片っ端から平らげてくれたのが嬉しかった。
自分の方はデザートは入りそうにない]



 はい、デザート。
 よかったら残ったのを持って帰らない?
 ほとんど1ホールあるし。
 

[一切れ切ったアップルパイの上にバニラアイスとさらにその上にミントをのせて、彼の前に皿を置く。
銀色のデザートフォークはもうすでに彼の前に置かれていた。

 彼の前でリーフから淹れた紅茶を二人前注ぎ。

 ワインを飲みながらの食事だったけれど、やはり最後はお茶を一服したかった。
 そして紅茶を2つのカップで注いでいる途中で、あっと声をあげた]


 泰尚くん、バイク乗ってきてないよね?!


[彼はいつもバイクで配達をしている。
彼がワインを飲むことを考えて、あらかじめ徒歩で来ていることに気づかず、一人でおろおろとしてしまったが。
 彼がそう教えてくれたのなら、その落ち着きに感心しただろう。

 二人でこうして差し向かいで話しているだけでも楽しくて。落ち着いて。
 こんなに楽しい思いをしたのは久しぶりなことを思い出した]



 ―――そろそろ、帰らなきゃダメよね。


[いつまでも彼を引き留めておくわけにいかない。
 こういう時は自分の方から言わないと、と名残惜しい気持ちを押し殺して見送ろうと立ち上がる……が、いざ離れようとすると寂しくて仕方なくなって、胸の前で拳をぎゅっと握った]


 寝るのにはちょっと早いけど、お休みのキス……して?


[彼が靴を履いて外に出ようとした瞬間を見計らって声をかける。
 そんなおねだりをするが、彼は応えてくれたかどうか*]

 
 ン……ッ、だいじょうぶッ……、
 ……ぁっ、きもち、から……っ、ぁんッ……

 ……はっ……、ぁッ、ぁッ……


[気遣う声にしきりに頷いて、変わった体勢に慣れるまで
息を吐き出し、暫く堪えるように彼に抱きついて、
波が通り過ぎていくのを待っていた。

自身でも分かる程にひくつく内部は、
彼の形を覚えるように蠢いて、欲深く奥へと誘い込む。]

[彼も動かないで待ってくれているのか、
しばらくして落ち着いてきたと思えば、不意に動き出す。]


 ……ぅ、ん……ッ……?


[口づけと共に呟くような声をうつろに聞いて、
顔を上げれば、彼がシーツに沈んでいく。]


 ……ッ、やぁっ……、ぁんッ……、
 あっ、だめっ、これッ……


[目の前に縋るものがなくなって不安を覚える。
下から見上げられるような形で、彼と目が合えば、
目尻に涙を溜めたまま、いやいやするように首を横に振った。

下から突き上げられるような感覚に、
喉を震わせて、ぶるりと身体を震わせる。]



 え?……。


[俺が好き。
その言葉に何も言えなくなった。若い男が好きじゃなく、自分が好きだと彼女は言う。自分、泰尚が好き。その好きは自分が思い描く好きなのだろうか。

疑念をその場で確かめるのは怖く
彼女の決意に気づかず
食事を進めた。]

[彼女は優しい。
顏を見たいだけ、だと言ってくれる。自分だって同じだ。とそれは自分だって同じだから、俺も。とナナミさんに告げた。彼女の顏が見たい。

同じですね。なんて笑い。
それから彼女の用意してくれたデザートを食べただろう。出されたアップルパイは、とても美味しそうでそこにバニラアイスものるのだから、豪華絢爛。

自分が子どもであれば目を輝かせ
ほっぺにクリームをつけただろう]

 
 いいんっすか?

  ……こんな素敵なもの。


[ありがとうございます。と
彼女に改めてお礼を言い、紅茶を持った。柔らかな動きに慣れているんだなと目を細めて、心配にはもちろん。と答えただろう。料理をいただく予定だったから、元々歩きできたのだ。もっとも、料理以外もおいしくいただいたのだけど。

食べた其れは甘く、腹によく染みた。心のどこかで甘いものを欲していたみたいだ。
穏やかな時間。

和やかな談笑。
ずっと続けばいいと思うのに
わかれの時間は訪れて]


 ……そうっすね。

  あ、…


[名残惜しい。
其れが彼女からも伝わってくる。自分の思いは伝わるだろうか。お土産のパイを手に、胸の間で拳を握り彼女に見送られ、去ろうとしたところで

お願いをされれば瞬き]


 ……はい。
 今日はありがとうございました。
  また、次を楽しみに待っていますから。


[おやすみなさい。と
彼女の唇にキスを落とし。それと同時に抱きしめて、良い夢を。と告げただろう。俺の事、夢に見てください。とそんな思いを込めて、名残おしくも離れ。

一目につかぬようにと
マンションを後にした。*]


[その日は一睡もできなかった。
というのは流石に若すぎたか。いただいたアップルパイは父に見つかって食べられる前に全部胃の中へ収め、それから、次の日にはいつも通り。

あの夜が嘘であった気さえもする。
そんな日常があった。

けれど、一日、一日と次の配達の日は近づいた。
連絡先も交換していない。けれど、配達日はくる。

好きと告げてくれた唇を思い出す
あの好きはどういう意味なのか


悶々として]

[それでその日。
いつもの仕事、仕事を装って

店を出ただろう*]



[ 懸命な懇願じみた演説が、弱い語気と共に途切れ
  引き攣る口許と、静かな空間で鮮明過ぎる程目立つ呼吸の乱れ
  それら一つ一つを、味わうように五感で眺めたその後に

  地獄へ垂れ落ちる細い糸を一息で断切る如く、
  再び口を開いた主はたった一言を彼へと向ける。 ]

もう、そんなものは要らないよ

[ 表面上で装われる、主への敬意と生への安堵も。
  見透かされ捕われて尚紡ぐ愚かな嘯きも。
 
  そして逸れた道を正しく直した彼が運び続ける魂すらも。

  内に含む懇願を、唯一形として示せた添えられた手は
  針に刺されたような鋭い痛みを感じることとなり、
  彼の意識の外で反射として悪魔の手から離れてしまう。 ]



――……、
何故?


[ 冷たい声色の問い掛けと共に、書斎の空気も冷えていく。
  彼が生活しやすいよう保たれた環境が変わる。
 
  偽ることを教え、己が望むように振る舞わせてきた。
  だけどそうするべき時がいつなのか、見分けられると思っていた。
  最早望んでもいない生を求める三文芝居など、見たくもない。 ]

奴等に奪われたいと願っておいて、
オレに奪われることは何故恐れる?


[ 一番の失敗が表舞台に立ったことならば、
  何より重大な罪は契約に違反したその思考。

  今尚主を拒もうとする、裏切り。 ]



お前はあの村で死んでいた筈なのに
お前はあの時からオレのものだというのに


[ 猛禽の瞳が下僕と定めた人間を睨みつけた時、
  不可視の手が首を絞め上げ、宙へと魔術師の身体が浮かぶ。

  与えられるのは殺意ではなく苛虐。
  逃れることを許さないが、窒息死も迎えられない。

  農村の子供に礼儀作法を教える為にどれ程時間が必要でも、
  彼の常識の外にあった術への呑み込みが遅くても、
  決して体罰は行わなかった悪魔による、仔への初めての暴力。 ]

何百年生きたとして、人間は人間だ

いつか駄目になってしまうことなど、最初から分かっていたとも


[ 倒れた椅子もそのままに自らはより深く座り足を組み
  自分の手でワインを注ぎ足し、藻掻く彼を見物しながら。

  ふとため息をつき、そんな真実を明かそう。

  誰かの為だけに生きることなど、悪魔ですら成し得ない。
  悪意を生きる目的とすれば、待ち受けるのは狂気。 ]



ゾラ、お前の人生には何も無かったな


[ 悪魔が彼の生まれ持った名を呼んだのは、
  五百と数十年の付き合いで初めてのことだった。

  病原菌を振り撒く虫の如く、
  魔術師にとって人間とは不幸に陥れる存在で、
  止り木にはなり得ず、一過性の関係を築く相手。

  例え愛したとしても先に終わっていく。 ]

誰もお前の生きる目的にはなれなかったな?


[ 迫害と復讐で歪んだ心が、
  永らくその目を曇らせ自己の本質に気づかせなかったのなら。

  どうしようもなく愚かなことに
  彼は今もあの時、軽薄さと無知を晒した子供のまま。 ]



……死にたいのなら、
無様に泣きながらオレの足元に縋り付いて
どうか殺して下さいと、言えば良かっただろう?


[ そうしなかった彼にすら、優しく誘いを掛けてやったのに。
  何も無い人生に、唯一あったものが己との契約なのに。

  悪魔から幾多の智慧を得て、歴史の陰に生きる刻が始まれど
  地を這う人の仔であることは変わらぬと定義したことが、
  未だ捨てられぬ暁への渇望となってしまったのだろうか。

  再びのため息と共に、見えない首枷は消失し
  落下する身体は床へと倒れ伏すこととなるだろう。 ]*

 
[だいじなものをあげると言ってくれた彼女は
 どれだけ地獄を味わわされても
 意識を飛ばしてしまうことなく
 僕を拒むこともまたしなかった。]
 

 
[出逢う度に好きを重ねた。
 何度も別れを繰り返した。
 誰より何より大切にしたいきみの。
 苦しむ姿すら愛らしいと気付かされてしまった。
 そうして自らを差し出してくれるきみ。
 渇きを教え満たすこともまた教えてくれるきみへの
 愛おしさは、留まるところを知らず膨れ上がるばかり。]
 

 
[花でも摘むみたいな容易さで
 化生の爪は人間の尊厳を奪っていった。

 だけど、全身の穴という穴から
 凡ゆるものを垂れ流す流歌は
 それでも世界で一番かわいかった。]


  かわいい、……かわいいよ、流歌
  きみは誰より素敵な女の子だ……っ


[心からそう思った。

 綺麗だねと笑い合った水色チェックも
 きみが上書いてくれた色には敵わないね。]
 

 


  それに……ふふ、すごくおいしい、ね……っ?


[胃液と血の混じるキスを何度もした。

 きみの体液も、
 きみの感じてる痛みも、苦しみも、
 僕のために耐えてくれるいじらしさも、

 いのちすら捧げてくれる途方の無い愛も

 何もかもが美味で、もう他なんて食べられない。
 
流歌なしじゃこの先生きていけないね。

 

 
[一滴たりとも零したくないから
 そこに噛み付いたあとは
 何も話せなくなってしまったけれど

 鼻の付け根まで肋骨の隙間に埋めたまま
 ずっとずっと、見つめていたよ。

 聞き取りづらくても
 きみが口にするのは僕の名と愛の囁きだけ。

 嫌味な名前だけど、きみが呼んでくれると悪くない。
 きみは僕だけのルカでいて。]
 

 
    
────……・・・



彼女の
吐息


    彼女の


         彼女の



すべてで彼女の様子が落ち着いてきたと思う頃、
体内が奥へ奥へと誘われていく。
蠢く肉壁は熱を取り込むように絡みつき、
彼はそれに合わせるようにぎゅっと抱きしめて。
だからこそ寝ころびやすかった。
彼女は驚いたような、理解が追い付いていないような
声をあげながら顔を上げて、すごくかわいい。





「ダメ?でも気持ちいいって思ったけど……
 もう少し、感じてもいいんだよ?」


彼女と視線が合うとき、彼は彼女の腰に
手を添えてぐっと、何度か奥を突いていた。
不安そうにしていたなら、
おいで、と声をかけて彼の上に寝そべるよう促してみる。
彼女の体が密着したなら、先ほどまでと変わらず
ぎゅっと抱きしめて下から突き上げて。
彼女が本格的にいやいやをしてきたら、
どうしようかと考えながら、髪を整えるように撫でて。





[ あんなに壊して愛してもらったことなんて、ない。
  パパやママにだってあんなに愛されたことない。

  だらしなく開いた肋骨の間を
  愛おしそうに鼻まで埋めてくれるひとを。

  ぱくぱくと喘ぐだけになりはじめた
  苦痛の音色まで
  なにひとつ逃してくれなかった、
  大きな苦しくて痛くて痛くて痛い愛を、


  怖いくらいに、もう失いたくないって思ったの。 ]

 


[ こじ開けて、たくさんキスして
  一雫すらも溢さないように奪ってくれた

 あのときみたいに。 ]
 

 こっちの準備も完璧よね。


[寝室を改めてチェックしてして、期待している自分にほんのりと頬を染める。

新しいシーツと、新しいルームフレグランス。
あれから、唐突な変化にならないように、写真立てとか飾りとかを少しずつ入れ替えている。
 夫との思い出を消して、新しい門出に向けた、自分なりのけじめでもあったが、きっとそのことを、夫は最後の最後まで気づかないだろう] 


 でも、ここも使わないかもしれないんだけれどなぁ……。


[ふふ、といたずらっぽい笑みを浮かべながら、仕事をして待とうと寝室から離れた*]

[それが現代ではできぬと明白で
彼女の不利益になることをこれ以上できないと思うのだ。けど、最初にとても不利益な事をしているのだ。バイクに乗って、必要なものを用意して、彼女の家に向かう足取りは緊張していた。

あの言葉の意味を知りたい
知れば、きっと自分は]


 ……こんにちは。


[ピンポーンと押したのはインターホン。
配達です。といつも通りを装い、扉の前にたつ。服装を変えることも考えたけど、結局そのままいつもの服を着ているのは、誰かに見られてもいいように。

だって、これは配達だ。
いつもの。定期配達。]


 注文の品、お届けに……。

[だから、変わらない顏で表情で
彼女を待つ。

現れた彼女がふんわりとした雰囲気を纏い
それでいて、セクシーな服装をしているのを見れば、目を開き。口元を一度抑えて、好きですという言葉を飲み込んだ。だって、まだ玄関先だ*]

[いつもは見上げる顔が、真下にある。
下から見上げられるのは全てを見られているようで、
羞恥を煽られて、頬を赤く染めた。]


 ……ぁっ、……ぅ、……
 きもち、よすぎて……だめぇっ……、

 ぁんッ……ァッ、ンぅッ……、
 ……あッ、……ぁッ、あぁッ……ひ、んッ……


[腰に手を添えられて下に引き落とされる。
身体の奥を揺さぶるように、突き入られられて身悶えて、
思わず支えるように両手を彼の腹に据えて、
びく、びく、と大きく身体を震わせた。

軽く達してしまったかもしれない。
は、は、と短かな呼吸を紡いでいれば、
続けて下から突き上げられて、身を起こしていられなくなる。]

 
 ひぁッ、……ぁんッ、ぁッ……
 いいっ……、きもち、いいよぉッ……、

 ぁッ、おくっ、もっと、……ついてぇッ……


[くしゃりと顔を歪めて涙を散らして、
下肢に与えられる刺激に、甘く腰を揺らして啼く。
次第にへにゃりと力を失くして、彼にしなだれかかれば、
胸と胸がぺたりとくっついてしまう。
揺さぶられる度に、胸の先端が彼の胸板で擦れて、
得も言われぬ快感が駆け抜けていく。]


 ぁ、ッ……ふっ……ンンッ……
 だめっ、……イッちゃ……う、……イッちゃう……!


[限界を訴えるように瞳を潤ませながら、
テンガンを見上げて、続きを乞う。]

 ……きた!


[インターホンが鳴れば、やりかけの仕事なんて放りだして、玄関に急ぐ。
ぱたぱたとスリッパを引きずるようにして、ドアを急いで開ければいつもと変わらない彼がいる。
 その、何気なさに、気合いを入れているのは自分だけで、自分ばかりが好きなのかも、と一瞬気遅れしてしまったのだけれど。
 でも、離婚に向けてのカウントダウンは始まってしまったし。
 彼がたとえ、自分のことに興味がなくなって関係が消滅してしまったとしても、自分はもう夫と一緒に暮らせないと思った]

 いらっしゃい。


[こちらも、いつものような笑顔を見せて。
入って、と中に頼んでいたものを運びこんでもらおうと、ドアを大きく開けた。
 さりげなく周囲を見渡すが、誰も近くにはいない。
 平日昼間だとはいえ、スーパーが閑散とするような時間帯は、人だって外に出てこないし、もしかしたら二川屋の配達を心待ちにして家で待機している人だっているかもしれない]

 ……会いたかったわ。
 この後、配達して回るんでしょう?
 今日はうちでご飯食べていける?


[ドアを閉めるなり、彼にぎゅう、と抱き着いて。
薄手の服だから、彼の胸板で自分の胸が押しつぶされる。
まだ仕事が終わっていないのなら、ここであんまり時間を奪わせるわけにはいかない。少し融通を聞かせるというようなことを言ってはいたけれど。

 それなら、短い時間でインパクトを残して。
 彼が自分のところに戻ってくるような仕掛けを“今”しておくしかない。

 彼を抱きしめながら、すっと彼の下半身に手を伸ばす]

 前、言ってたこと……してあげようか。


[彼の背を玄関のドアに持たれかけるようにさせて、彼の前に跪く。
そして、彼のズボンのジッパーをじじじ、と下していこうか。
彼が抵抗したらもちろんやめるつもりなのだけれど。

 あれから、いっぱい勉強したのだ。
 主にネットで。
 ソープランドでのお約束というサイトで即尺なるものを知った。
 お客様が来たらシャワーも浴びずにそのままお口で奉仕してあげるというもの。
 コンドーム越しというのもあるらしいけれど、そんなつもりはまるでない。着けてる時間も惜しいし、生で彼を味わいたいというのもあって]
 


 
 口でしていい? 
 もし、続きしたかったら、仕事が全部終わってからうちに寄ってね?


[跪いた状態で彼を見上げて。
 続きというのはもちろん、こっち、と、スカートをたくしあげて、中の部分をちらり、と彼に見せた。
 今日は勝負下着。あまり派手なのはどうかと思うけれど、とラベンダー色のレースのものを身に着けている。
 彼の許可を待ちきれなくて、自分がしゃぶりたいと願うその箇所を優しく服越しに撫でていた*] 

[いらっしゃい。と迎え
会いたかったと彼女が言ってくれる。それだけで嬉しかった。その上、お家に案内して抱きしめてくれるのだ。こんなに嬉しいことはない。思わず、その身を抱きしめ返し、彼女の頭部に顏を寄せてしまう。触れれば、背が開いていることにも気づき、こんな恰好で外に出てもし暴漢にでもあったらと身を案じ。

彼女に今日の事を話そうとして]


 …俺も会いたかったっすよ。
 この後・・、って

 え


[下半身に彼女の手が伸びる。
何をと思う前に、前、言っていたこと。と彼女が言う。前……忘れる訳のない約束が蘇る。此方の前にひざまずく彼女を見れば、その思い出を鮮烈に浮かべ。ズボンのジッパーを下ろす姿に息を飲んだ。]



 …ナナミさん?
 っ 、待って
 

[下着が彼女の眼下に晒される。
何時もの通りの服装で来たけど、中身の方はそりゃもう勝負下着というか新品を下ろしてきたわけで、其れを見られるのが恥ずかしいやら、大胆な彼女の行動に翻弄されるやらで思わず、静止の言葉を投げたけど。

その上で、見上げる彼女がもの欲し気に
スカートの中を見せるのだから]


 …ん…ナナミさん
 …俺のこれが欲しいんでしょう?


[ごくりと唾を飲み。
それから、彼女の頭を撫で、布越しに筒を撫でる彼女の頭を此方の躰に寄せた。そうすればちょうど、熱源の部分に頬が触れるだろうか。彼女の吐息がかかるだけで熱が上がるのを感じる。少しずつ育っていく感覚を味わい。そのまま優しく
整えられたゆるくふわりとする髪に触れ]


折角の可愛い下着、汚れちゃいそう。


[なんて、悪い事を言って]



 …寂しかったっすか?
 俺は寂しくて、ずっと抱きしめたかった。


[貴女が欲しいのは肉体だとしても
悪い男になると決めたのだから、薄く唇で笑みを作り。それから、これに会えなくて寂しかった。なんて聞くのだ。これとは己の下肢のことだが。]


 ……酷い事言いました。
 俺も、してほしかったっす。

  貴女にしてほしい。


[甘美な貴女に落ちたい。と
抱きしめられないかわり、沢山撫でて官能の息を吐いた*]
  



下から眺める彼女の姿が艶やかで、
もっと眺めていたいと切に思う。
否、何度も、何度も眺めたいが正しい。
羞恥心を感じている顔はいつもの彼女と違い、
それでいていつもと変わらず視線を離せない。


「俺もきもち、いい。………可愛い……」


彼女が腹部に手をついて体を震わせている姿は
胸が寄せられて更に淫靡に見え、
欲が抑えられなくなっていく。
だから彼女が体をくっつけてくれたなら、
何度か胸が擦れ合い、もっと彼女の声が聞こえる。
不意に起こる接触はとても感じてしまうのか、
彼も少しだけ声が出たことだろう。





「もっとしてあげる。っ…ふ……
 あとは、いつもの体勢にしよっか」


達してしまいそうな彼女の腰をしっかりと抱え、
少し腰を上げて、彼女の奥を突いた。
彼女が達してしまうのを促せたなら、
絶頂を越えるまでその体勢を止めることはなく。
それが落ち着いてしまえば、また最初の体勢に
戻そうと彼女を抱きしめて起き上がるのだった。



[困惑したような彼の拒絶に、ダメかと思った。
しかし彼は喉を鳴らし、頬に屹立が触れるような体勢を取らせる]


 汚したいのは、私の下着だけ……?


[どこを汚してくれてもいいのに。ううん、あらゆる場所を彼に汚されたいのに。
 彼の指先がこの新品の服を引き裂いたり、玄関で強引に犯されたとしても、自分は許すどころか悦んで迎えいれるかもしれない]




 そうね、会えなくて寂しかったわね。


[この子にも、泰尚くんにも、と囁く。
下着とズボンをまとめてを上から引きずり下ろし。
固く形を変え始めたその部分をうっとりと見つめる。
彼の長い指が自分の頭を撫でてくれる。

 ようやく彼がしてほしい、と許可を出してくれたから、待ちかねた犬のようにその箇所を口に入れた。
 つややかなグロスで彩った唇が、グロテスクな色をすら放つ男根を飲み込んでいく。
 目を伏せれば長いまつ毛が頬に影を落として。
 必死に舌を動かして、彼の丸く大きな先端部分を舐めまわした。
 大きすぎる彼の息子は、口に含みきれず、先端部分を咥えるので精一杯だ。
 唾液をローション代わりにして、両手で支えるようにして持ちながら、必死になってできるだけ頬ばった。

 こんなこと、夫にだってしたことがない。
 こんなことをしたら、さっさと自分だけイってしまっておしまいになってしまうだろうから。
 ぎゅっと彼のモノを握った両手をひっきりなしに動かして、誘われるように喉をこくっと鳴らして、落ちた唾液を飲み込んだ。
そうすれば彼を咥えていた喉奥が閉まり、それが心地よかったのか、口の中で彼のソレがぐん、と張った]

顔に出しちゃうと、髪が汚れちゃうかもだから、今日はお口で全部飲むから……


[袋部分をもみこんで、待ちきれないような歓喜の表情を目でも露わにして、彼を促した。
 顔を大きく前後に振って。
 手で握り、親指で裏筋をできるだけ早くなぞってしごっいていく。 
 男らしい声が上で響いている。
 ああ、他でもない自分が彼を気持ちよくさせているのだ。
 嬉しい。

 口の中に、ごぼりと噴き出してきた濃厚な香りと味のそれ。
 ああ、欲しかったはこれだ。この匂いと味。
 うっとりとそれに唾液を絡ませて飲んでいく。

 荒い息が上で聞こえるのが嬉しい。
 お掃除、と出し切れなかった筒の中のそれを吸い出して、外も粘りのある液を唾液に溶かして落として、また飲み干していく]


 全部、ちゃんと飲んだわよ。



[あーん、とあえて口を開けて、もう飲み干してあることを確認させて。
先ほど彼に見せびらかした可愛い下着は、自分が口を犯されただけで感じてしまったのか、広がりつつある愛液が染みてしまっている。
また着替えないといけないのだけれど、彼が他の人の配達をしている間に下着をつけかえようと思い]

 
[僕の名前が呼ばれた夜のこと。
 

[互いに気持ちよくなっていることが分かる。
肌を寄せ合って、下肢を落として。
自らも、少しずつ腰を揺らめかせて快感を拾っていく。]


 ……あンッ……、ぁッ、ぁ、ぁッ……
 ん、ッ、……おく、あたって……ッ、ぁッ……、

 ふ、……ぅっ、ン……、ぁうッ……!


[彼の先端が子宮口にまで届く。
狭い入り口が、彼のものを受け入れて広がっていく。
中はきゅうきゅうと淫らに吸い付いて、
僅かに身動ぎする度に、水音がいやらしく響いていく。]


 ぁ……、テンガンっ、……
 キス、して……ッ……

 ……ぁ、ぅんッ……ンンッ、ぅ……


[顎先に頬を寄せて、伸び上がるように唇を近づける。
最初は優しく食んで、舌を差し出せばすぐに飲み込まれていく。]

[もっとという声にこくこくと頷いて。
唇を合わせたまま、高みを目指していく。

呼吸が苦しくなって、唇を離せば
後は次から次へと溢れ出る嬌声が喉を突いた。]


 ……ひぁッ、ン……ッ、あっ、ア、アッ……!
 あ、んッ、だめぇ、イっちゃう……、ッ!

 ぁ、あッ、ぁ、アッ、…………
ぁ、ぁぁぁあんッ!



[一際奥を突き入れられれば、堪らずに身を仰け反らせる。
背を撓らせて、びくん、びくんと激しく痙攣するように蠢く。
同時に中で、彼のものをきゅうぅと強く締めつけた。]

[酩酊するような快楽の余韻に浸りながら、
呼吸を乱して彼の胸元に倒れ込む。
中は、まだ痙攣するようにひくひくと襞が蠢いていて。]


 ……ふ、ぅ…………、
 ……ぁッ、……や、だめっ、

 まだ、動いちゃ、らめぇッ……!


[しばらくぽうっとしたまま惚けていれば、
身体を起こされて、再び始まる律動に嬌声を上げた。]



[無慈悲に断ち切られた希望の糸、
痛みという見えない拒絶で遠ざけられた温度。

悪魔はもう何もかも、育てた人の仔から受け取るつもりが無い。
その裏切りを理解し、契約の終了を遂げることを決めてしまっている。

宙に跳ねた手の五指の強張りすら解けぬ前に、
ひゅっ、と無様な音が恐怖に収縮した喉を鳴らした。]

私、私は……

[先程まで葡萄酒を流し込んでいた筈の口内が異様に乾いている。

上手く舌が回らず口籠る。
怯えからなのか返す言葉が無いからなのか。
それは、自分でも分からなかった。まるで思考が止まったようだった。

偽りを被れなくなり、主の望みとかけ離れてしまった下僕は
まるで頼る当ても持ち合わせない子供のように、
近づく運命に、与えられる処遇に、何も出来はしなかった。]



 ぐっ……
う……あ


[悪魔の感情が肌身に感じられるような凍てつきの中、
睨む瞳に竦む身体は最後まで抵抗らしい抵抗もしないままで
見えない手により絞め上げられ、空中へと吊し上げられる。

未だ手の中にあったブローチが落下する
暴れた足が浮き上がる最中に椅子に当たり、蹴り倒し
縄を外そうと藻掻く罪人の如く両手で首を引っ掻いても何も無い。
死の危機に貧した本能の行動は加減無く、白肌に赤い線を幾つも作り

意識を喪失し楽になることも出来ないまま、苦しみだけが延々と続く
悲鳴にも届かない呻きが、弱々しく響き続ける。]

 
あぁ……、


[色の無い濡れた一筋が閉じた目の縁から生まれたのは、
心の翳りすら、全てが悪魔の手の上だったと知ったからなのか
記憶の自分と重なる言葉を耳にしたからなのか。
きっと、どちらもだ。

己の身一つ自由に出来ない拷問の中、
主が語った通り、彼の物としての自分を認識させられる。

────悪魔の言うとおりだ。なんと不相応な願いだっただろう。]



[────それでも、
家畜として喰われるのは、邪教の徒として裁かれるよりも恐ろしかった。
愚かな人間は、自ら選んだ結末に恐怖してしまった。

悪魔が、奈落の王が。
貴方が私を人でなしにはしてくださらなかったからだ。
半端者の信仰者に留めてしまったからだ。]

っ……

[吊り上げられ、落とされて。
転がる椅子の傍らに、倒れ込む様は思うがまま遊ばれる玩具の如く。
激しく咳き込み、必死に酸素を取り入れる。

これから終わる命でも、身体は懸命に生きようとしてしまう。]



[虚ろな目がいつかを模すように、身を伏したまま悪魔を見上げる。

かつての邂逅よりも翠と黒黄には距離があり、
背の高い彼の顔を視界に捉え続けるのは
虐げられた冷えた身体にはとても億劫ではあったけれど。]


 
暗闇は、怖いよ


[幼い響きが短く思いを告げた。

全てを受け入れた魔術師は、今や畏れを顕にする下僕の表層を崩し
成長しなかった歪んだ少年の本性を剥き出している。

再び生まれた流れが頬を伝う。
溢れ出した河のように、一度では終わらなかった。]



「いっぱい奥に当たってるね、ミン、っ……

 っ、…ぁ………そんなに締め付けて、…
 可愛すぎる、好きだよ……
 もっと、感じてるの教えて、……!」


キスして、とお願いされると
勿論と言わんばかりに唇を重ね合わせ、
何度か食めば、舌を差し出されてちぅっと吸い付く。
そしてそのまま舌を絡め合わせ、
呼吸も嬌声も彼女のものを奪ってしまう。





舌の絡み合う水音と、結合部が擦れ合う水音、
どちらがどっちなのかとわからなくなってきている中、
唇が離れてしまえば今度は彼女の甘い声が
抑えられることなく口から漏れていった。
それを聞けば腰が勝手に動いていき、
彼女の体がピンっと反って大きく震えれば、
彼女が達してしまったとすぐにわかる。


「可愛いよ……そんなに可愛い声出して、
 こんなに感じて、……最高。
 よしよし、もう少し感じてね」


呼吸の乱れ、中の蠢き。
彼女が落ち着くまで待ってみたけれど、
抱き抱えて体を起こし、
彼女をベッドに寝かせるまでの間に
また嬌声が鼓膜の中に響いていった。





「やっぱり、この方が気持ちいいかもしれない。
 ミンの顔が見れるし、可愛い声も聞ける。
 何より深く入れるし、ね?」


彼女をベッドに寝かせ、彼女の髪を整えながら
腰を軽く揺らすとくちゅ、っと音が立つ。
彼女の呼吸が少し落ち着けば、
彼はまた彼女と指を絡めて腰を動かし始める。





本当に、莫迦な仔

[ 苦しみを示す様子の全てを、余すことなく赤色の肴としていた悪魔は
  やっと理解した愛し仔の為にとびきり優しく声を暖めて、
  傍らに膝をつき身体を起こさせた。

  白い首に滲んだ赤を爪が当たらぬように指の腹で拭い、
  落ちたままのブローチを拾い上げ、胸に着けてやる。
  指導者として箔を付ける為なのかは知らないが、
  人間が作ったらしい法衣などよりも、ずっと似合うと感じた。

  一度はかけ離れたところに行ってしまったけれど
  今漸く、魔術師は心身共に再び己のものへと堕ちたのだ。 ]



何も怖いことなんて無いんだよ
それは、君の味方だったじゃないか

思い出してご覧。オレと君が出会ったあの暗闇を、
二人で過ごしたこの館での生活を
表立って生きられない君を、隠していたものを

[ 虚ろな瞳を見つめ、そう呼びかけられたとして
  昼行性生物の本能は奥底に根付くまま。

  だが彼はもう知っているだろう。
  本来生きるべきだった光の下に、お前の帰る場所は無い。

  啜り泣く弱々しい魔術師の背を撫で
  乾きを忘れた目元に舌を這わせ、涙を吸い取った。
  孤独な仔に寵愛を向ける存在なら、此処にいる。

  全てを間違え何も得られなかったその手に残る唯一たる悪魔が。 ]



今までよく働いてくれたね、君は本当にオレの誇りだったよ

[ 人でなしには成り切れず、光の下へも戻れはしない。

  いずれは狂気の熱から冷めると知りながらそんな半端者へ貶めた
  張本人たる主が耳元へ吹き込む囁きは、やはり甘い。
  今や拒むことも出来なくなった毒を、存分に注ごうとしている。 ]

君は作品にはなれないけれど、ブローチにもしない
他の人間の元になんか送り出さないさ

……オレと一つになるんだ、永遠にね

[ 語る悪魔はその手にはいつの間にかあの真珠のネックレスがあり
  正面から彼の首に手を回し、それを着けてやる。

  行動の説明をしないまま、細い身体を抱き締めた。 ]



[出来たばかりの傷に触れる細やかな痛みに少しだけ眉を寄せ、
しかし仔はされるがままに、全てを受け入れた。

与えられる優しさと世話をするような振る舞いに、
とうに残存より欠落が大きく占めていた幼少の記憶が擽られる。
……触れた冷たい唇だけは重ならなかったけれど、

それすらも含めて、まるで
愛されているみたいだ、などと錯覚を起こしてしまえば

温度を戻した声の呼びかけが、染み込んでいく。
根付いたものの上に注ぎ、積み重なっていく。

思考の沈黙を少し置いた後、翳りを帯びたままの目を細め頷いた。

帰る場所は無い。此処にしか、この悪魔の元にしか。]



 僕は、役に立っていたんだね?

[注がれる毒に、擽ったそうに吐息を零す。
これから害され死にゆく者には不相応の、隠しきれない誇らしさ。

その歪みを指摘し正す存在はゲヘナにも、地上にもいない。]

 じゃあ、もう……

[楽になってもいいのかな。
彼と一つになり齎される永遠の暗闇は、穏やかなのかな。

心内で呟く愛し仔に、驚きの感情はどこにも見当たらず。

契約内容に、終わり方の詳細は定義されなかったが────
そうなることは既に予期していた。

悪魔は多分、自慢の品々の一部を取り込む必要がある時期に達している
それが定期的なものなのか、何らかの危機かは知れないけれど。]



 インタリオ様、これ……

[数度瞬き、見つめたのは
いつの間にか主の手にあり、こちらの予期せぬ行動を起こした品。

それは、館を飾る芸術品の一つ。私が来た時には既にあったもの。
いつか彼の糧になる為の、保管されることに意味がある形を変えた魂。
……その筈だ。

困惑を隠さない表情で悪魔を見るが、気づけば身体は冷ややかな腕の中。
一時は硬直していたが、やがて応えるように腕を回す。

どんな顔で主が自分を抱き締めているかも分からないのに、
影のことなど視界に入るわけもなかった。

ピアスで彩られる耳に、願いを一つ囁く。*]



[ 多くを識り、人間程度の思考など容易に見抜く悪魔でも
  その時その時の思いの一つ一つまで掬い取ることは出来ないが。

  もし愛されていると確信を持てていないと知れたら
  やはり莫迦だと繰り返し笑ったのだろう。

  神の信仰を離れ教えるがままに染まっていく姿を
  己の為に永きに渡って魂を運んできたことを
  全てをいずれ自分に捧げる運命であることを
  誰より悪魔だけが、見て知っていたというのに。

  
  それは人間が人間に向ける感情とは種は違いすぎていたけれど。
  大人しく全てを受け入れ、従順に頷く幼い素振りは、
  愉快ではなくとも、好ましくあった。

  自身の向かう終わりについて教えられ、
  感情の揺れ一つ見せない彼は、全て受け入れるつもりでいる。 

  あれ程同胞に対して悪辣で、悪魔に魂を売る程生き汚くあった仔が
  まるで自ら身を投げ出し贄となる羊のよう。 ]



[ 自ら封印となり、凶暴な同胞を抑える悪魔の力の減退による飢えと
  下僕の限界が重なったのは偶然か運命か。

  分かるのは、違った刻だったとして同じ選択をしたことだけ。

  こちらに染まりすぎた魂は美しい形にはならないし、
  ただの道具であり人間による悪魔信仰のシンボルとするには
  彼の今までの功績とあまりに釣り合っていない。 ]

……君は相変わらず強欲だな
いいよ、ゾラ。君の思うがままに

[ だから、叶えられないわけもなかった。

  その耳に飾られたピアスも囁かれた願いも、等しく
黒い
 ]



折角こうして、家族全員が揃ったんだものね


[ 身を離した主はそう言い、目線を彼の胸元に下げる。

  何を見ていたのか、
  他でもない自分の身体に飾られた物のことは分かるだろう。

  何を意味しているのか、
  芸術の悪魔に仕える者が気づかないわけもないだろう。

  ――そして、過ぎ去った邂逅の夜を今も覚えているのなら
  あの時既に体現した姿で小屋に現れたと
  思い出すことも出来るだろうか。

  それは気まぐれの散歩などではなかったということ。
  何もかも知ったことのように語った悪魔は
  事実、あの村で全てを見ていた。 ]



[ 悪魔が元々狙っていた魂は別にいた。
  無実の罪で拷問され、死にゆく哀れな女達だ。

  その他に、偶然手に入れたものもあった。
  自身を迫害する村から逃げ出し、事故で死んだ男や
  二つの血を継ぎながら、唯一生き残るも病に侵された少年だった。

  彼らは“信心深い彼女”のような芸術となる適正を持たなかったが、
  収集家の嗜好は別の方向性で満たすこととなった。 ]

いつかこうやって、君の首に彼女を掛けてあげたかったんだよ

[ その声と表情は、まるで彼を真似たような誇らしさでも含んでいたか。

  そんな話をしている間にも、膨れ上がり続けていた影は
  ついに実体を持ち広がり、黒い花弁のように二人を囲い

  黒い男ごと、悪魔の愛し仔を呑み込んでゆく。 ]*



 嗚呼、インタリオ様……嬉しい
 貴方だけが、僕の生きた意味だ

[悪魔と魔術師とを繋ぐのは隷属じみた契約関係で、
向いた感情の種や、ズレた互いの愛の概念について語らうことは無い。

それは恐らく必要も無いことだった。
主は育て上げた仔の捕食を、下僕は終焉を望んでいるのだから。

故に私は、最期の願いが容易に受け入れられたことに悦びを感じた。
これで、何一つ成し得なかったと思いながら死ぬことは無いと。

恍惚と彼を呼び、
触れた身体が離れていくことに惜しさすらも覚えて────]



 ……え?

[一瞬でその熱が冷めてしまった。
聴覚に置き去りにされた思考は、一つ一つを掬い取り追いついていく。

主がこの身に飾った、ブローチとネックレス
人間の魂を加工し作品とする、芸術の悪魔


じわじわと湧き上がる悦びではない何かに名前を付ける前に、
悪魔の昔話が、逃避出来ない真実を告げた。]

 
は、……嘘
   なんで、どうしてそんなこと……


[信じられないものを見る目で、誇らしげな笑顔を見つめた。

悪魔に学びを授かる自分を見守っていたものは、
その下僕となり、邪悪な行いを繰り返した魔術師の胸元にあったのは

惑う声は体現した影の花により長くは保たなかった。
突然の出来事への悲鳴すらも、黒に呑み込まれて消える。*]



何で?


[ 気づけば仔は静寂に包まれる黒一色の世界にいる。
  濃すぎる闇の中、己の身体すら視認は出来ない。
  そして指先一つ動かせはしない。

  まるで黒い袋の中にでも囚われたようだ。
  布の感触もまた、当然感じるわけもないのだけど。

  そんな彼の耳に聞き慣れた主の声が届く。
  目前に黄黒の瞳だけが二つ浮かんだ。
  この黒い世界そのものが悪魔の身体であるかのように、
  他の部分はどれ程目を凝らしても見えず、闇に溶けている。]



むしろしない選択があるの?
家族全員を別の形でオレの物にして揃えるなんて
今までしたことも無かったんだよ。いい機会だったろう?

でも、こんなに永く大切に使うことになるとは思わなかった
だから、お前は本当に特別だよ。ゾラ


[ こうしてかつて忌んだ名前を、何度も呼んでやる程に。

  ゲヘナから隔絶される前の言葉を拾い
  悪魔の語る全てに、悪びれた様子や悪意は乗らない。
  細めた両目はじっと愛し仔を見つめる。

  これで最期だから、忘れないことを願われたから。

  どうしようもなく、両者は重ならない。 ]



愛しているよ、オレの大切な仔

特別なお前の願いを叶えてあげる
終わっていく姿を、最期まで見ているからね


[ 笑みの気配が声に乗る。

  どこまでも穏やかに、
  拾い仔への愛を人ならざる者の価値観で、示す。 ]



[ 倒れた瓶からワインが滴り、机を汚している。

  その傍ら、大きな黒い花は今は蕾のように閉じて
  消えた二人の声など書斎には届かないが

  
何かを砕き、へし折るような音だけが断続的に響いている。


  床まで流れた真紅はまるで、血の代役をしているかのようだった。 ]*



[私には最早怒る権利も、そうする気力もありませんでした。

思い出の殆どを失い、
母親を無残な姿に変えられ、父親に裏切られた記憶だけが鮮明な今や
蘇らせる愛情も無いのです。

私に残されたものは彼らではなく、
彼らを天に還さず我が子の側に留めていた悪魔であることに
今尚、変わりはありませんでした。

湧き上がったものはきっと、ただただ純粋な絶望なのでしょう。]



[母親と二人、見渡す限りの緑の中で

それは、生きたまま身を砕かれ喰われていく痛みに襲われる前
最期の正気が思い出させた記憶。

最早音でしかない叫びが口から漏れ続けるのと裏腹、
どこまでも穏やかな光景。

やはり、悪魔の仔と化した私は彼女の声を忘れたままで────*]

―― 翌日/学園にて ――

[ それは、いつものように授業を終えて
 図書館へ立ち寄ろうと考えていたときのこと。 ]

『アウローラさん』
『……ちょっと、いいかしら?』


 あ……。


[ 突然話しかけられて、言葉に詰まった。 ]


 ……マティルダ様。



『話があるの。
 貴方たちに関する、大事なことよ。

 一先ず、わたくしと一緒に来て下さらないかしら?
 人払いはすませてあるから、安心して』


 えっと……、…はい。わかりました。
 
 
[ ……いろいろ、思うところはある。

 さっき、彼女は『貴方たち』と言っていた。
 それはつまり…わたしだけではなく、
 彼のことも既に把握しているということだろう。

 嫌な予感はする。
 けれど…とりあえずわたしのほうに選択権はない。
 いつのまにか強く握りしめていた掌を
 緩く開いて息を吐く。
 そうして、彼女に促されるまま、踏み入れたのは。
 学園内にある小さな礼拝堂。 ]

[ 人気のない、だけど手入れの行き届いた礼拝堂の中を
 ステンドグラスから差し込む淡く色づいた光が照らしている。
その中の一席に優雅に腰掛けると、
こちらにも座るようにと、傍らの席を手で指し示す。 ]


『単刀直入にいうわ。
 …貴女、転生者なのでしょう?』

 …っ。


[ 席に座るのとほぼ同時に言われた言葉。
 覚悟はしていたはずなのに、
 反射的に身構えてしまった。
 それが表情にも出ていたのだろう。
 こちらを安心させるようにと
 彼女の表情を柔らかくなるのがわかった。 ]


『そんなに緊張しないでほしいわ。
 何もとって食べようというわけではないもの。
 ……ただ。
 いいえ、寧ろといったほうがいいかもしれないわ』


[ そういうのと同時に、彼女が深々と頭を下げる。
 戸惑うわたしの言葉を遮るようにして、彼女は言葉を続けた。]


 えっと…。

『ごめんなさい』


[ 彼女の艶やかに色づいた唇から発されたのは
 わたしとしては意外な言葉だった。]

『わたくし、貴女も転生者だと思わなかったの』

『だから』

『貴女に、わたくしの代わりになってもらおうと思っていた』

……!

[ ――…そうして、彼女は言葉を続ける。

 自分もわたしと同じ転生者であること。
 何れ、自分が闇の精霊に取り憑かれ
 破滅の道を歩むであろうことを悟った彼女は
 そうならないために攻略対象の不幸な過去を変え、
 彼らの愛と信頼を得た。

 だけど、それだけでは本当に
 運命を書き替えられたかはわからない。

 何れ、わたし…『本来の物語の主人公』が出てくれば
 書き換えた物語は修正されてしまうかもしれない。
 そしてそうなったとき、自身の破滅は
 避けられない運命になってしまうかもしれない。 ]

[ マティルダの…彼女の前世は、
 嘗ての「私」以上にこのゲームに詳しかった。

 『夜明け告げるは星の唄』の、少なくとも本編には
 登場人物全員が救済されるルートは存在しない。
 本来の物語上で、悪役であるマティルダが、救われることはない。

 いつだって、彼女は孤立し自身の心の中に闇を育て、
 そしてラスボスである闇の精霊を此の地に召喚し、
 愛する王子や世界を危機に陥れる。

  ……だから、彼女は。
 主人公わたし物語の悪役マティルダ
 『物語の役割』そのものを入れ替えようとした。
 『攻略対象の彼らを癒し愛される公爵令嬢』と
 『嫉妬心から嫌がらせをし、
  やがて孤立して破滅の道を辿る
  平民出身だけど特別な女の子』へ。
  そう、シナリオを書き換えた。

 最初から全てを作り直すのではなく、
 予め存在した運命の通りに、物語を紡ぎ直す。
 そのほうが万が一があったときに、
 予測と修正がしやすいから。

 ……そんな、理由で。 
 彼女はわたしに
 『悪役としての役割』を押しつけたのだという。]

[ わたしから嫌がらせを受けているように
 攻略対象や周囲の人間たちに見せかけて。

 わたしに関して良くない噂を広めて。
 教師たちにも同じように手を回して、
 そうして、わたしの周囲から人がいなくなるよう仕向けた。

 わたしが、光の魔力を持っていることで 
 他の人たちが迂闊に手を出せなくなることも見越したうえで。

 そうして、わたしが本来の彼女と同じように
 孤独と絶望から世界の破滅を願うよう仕向けたのだと
 そうして、闇の精霊ラスボスごとわたしを倒して、
 ゲームの結末通りの大団円…犠牲を極力少なくした、
 最大多数の幸福を、描こうとした。 ]


 …。


[ 言葉に詰まる。
 それはつまり、この学園でのわたしが経験した全ては 
 彼女によって仕組まれていたということで。 ] 


 …どうして、

[ ―――…今、そんなことをわたしに教えるのか?

 此方の呟きに、彼女は続けた。

 …最初に感じた違和感は、
 星燈祭の後にわたしを見かけたときのこと。

 本来のゲームならあの時点でマティルダは
 闇に取り憑かれて、半ば自我を失い
 ただただ、周囲の人間たちへの嫌悪を深める
 そういう 生き物ニンゲン になっているはずで。
 わたしもきっと同じようになっているはずだと
 彼女は考えていたらしい。

 ……でも、あの夜の後に廊下ですれ違ったわたしは
 それまでと何も変わらないように見えたのだと。

 そうして、彼女は考えた。
 アウローラもまた、自分と同じ転生者なのではないか、
 特別な存在なのではないか、と。
 だから、闇に取り憑かれることもなく、
 正気を保てているのではないか、と。 ]

[ 彼女は……悪役令嬢マティルダはわたしにいう。
 主人公アウローラを物語の犠牲にしようとしたのは
 自分と同じ転生者だと知らなかったから。
 知っていたら、わたしを
 自身の物語の生贄にしようとはしなかった、と。
 だから……『ごめんなさい』と。 ]
 
 
 …。
 
 
[ そう言って涙を零しながら頭を下げる彼女に、
 なんていったら、わからなかったけれど。

 それ以上に、彼女が続けた話には
 更に言葉を失うことになった。 ]

[ 物語の進行は止められない。
 最初にこの物語を書き換えたマティルダにさえも。

 近く、攻略対象たちによる断罪イベントが発生する。
 それによって物語の悪役わたしは裁かれる。
 大切なことは真実ではなく、誰かが悪役として裁かれ、
 そして悪役を皆で滅ぼして大団円。
 そこまでの、道筋なのだと。

 ―――…よって、生贄が出ることは避けられない。
 大団円ハッピーエンドは皆が望むものだから。
 誰にも、止めることはできない。 ]


 『だから、ね。貴女をその生贄から外すことにしたの』

 『筋書きはこう』

『闇の精霊に取り憑かれた平民の女の子を助けるために、
 王子や公爵令嬢たちは皆で協力して闇の精霊を倒しました。
 そして、闇の精霊に囚われていた女の子を助け出し、
 みんなでハッピーエンドをむかえました。
 めでたし、めでたし…ね』


[ 切れ長の瞳に真珠のような涙を煌めかせながら、
 華やかな笑顔で、艶やかな唇で
 彼女が口にした物語は、
 わたしにはとても堪え難いものだった。 ]

 

 …アルカード……!!
 

[ 反射的に礼拝堂を飛び出そうとした
 その手を白い繊手が掴む。
 見た目に反したその力の強さに、
 反射的に其方を振り向けば。 ]

[ ―――…彼女は、微笑っていた。


 悪意なんて欠片もない、純粋に善意に満ちた
 きっと誰もが美しいと形容するだろう笑顔。


 だけど、その笑顔は
 『わたし』を必要としていない笑顔だった。

 わたしの意志も、願いも、選択も、
 なにひとつ、尊重するつもりのない笑顔だった。
 ……それが当たり前であるかのように。 ]


 『どこへいくの?』
 『大丈夫。
 貴女を捕らえている闇の精霊を倒すために
 皆、力を合わせて戦ってくれているはずよ。』

 『貴女も知っているでしょう?
 王子様方もわたくしの義弟も、皆とても強いわ。
 わたくしと一緒にいれば、皆、貴女を守ってくれる。
 貴女を受け入れて、大事にしてくれるわ。大丈夫』

『この戦いが終わったら、学園の人たちにも
 きちんと説明しないといけないわね』

『闇の精霊はわたくしたちが倒しました。
 皆安心して、アウローラさんとも仲良くしてね…って』
 


 ……っ!!?

[ 「肌が粟立つ」という言葉を、
 今、この瞬間ほど感じたことはなかった。 ]


 はなして…ッ
 離してください!!
 わたしは、わたしは……!!

[ 言いながら掴まれた手を振りほどこうとしたときだった。
 ――…パチンッ、と強く何かに弾かれるような感覚と同時に、
 マティルダの手が離れた。

 それを確認するのと同時に、わたしは礼拝堂の扉から
 外へと一目散に駆け出した。 ]


[ 迷う暇なんてない。
 彼は、アルカードは無事だろうか? ]
  

 アルカード……!


[ マティルダは言っていた。
 闇の精霊アルカードを倒すために戦っていると。

 彼が強いことはわたしだって知っている。
 だけど、胸騒ぎがするのを止められない。

 だって、彼がどれほど強くて恐ろしい災厄であったとしても。
 ―――ラスボスは必ず封印されてしまうのだから。

 どうか無事でと、内心で祈りながら
 誰もいない、図書館までの道程を駆け抜ける。 ]*

―― 図書館 ――

[そろそろ、娘の授業が終わる頃かと
室内に据え置かれた柱時計を一瞥する。

ん、と軽く伸びをして立ち上がろうとしたときだった。]

 ……鼠がいるらしいな?
 それもずいぶん、毛艶のいい鼠が数匹…っと。

[言葉を紡ぎ終わるより先に、炎が我の鼻先を掠める。
幸い、蔵書たちに火の粉がかかるより先に消えたが。


我が領域で、このような暴虐を成すとは許しがたい。]



 中世の詩人に曰く、
「本を焼く者は何れ人を焼くようになる」
 知っているか、人の子の、それも王たらんとするものよ。


[我を取り囲もうとする人の子の影。
見覚えのある顔のうち、小さな炎の矢を此方の鼻先に掠めた
金髪の鼠にそう声をかける。
此れは確か、此の国の双子の王子の片割れであったか。]


(此れが何れ王となる国か……。
 あの娘、本当に見る目がないな)


[呆れ半分、ため息を吐く。

それはともかく。
この鼠共は我が気配を辿って此処へやってきたということか。]


 去れ。人の子らよ。
 何故此処を訪れたかは知らぬが
 今退くならばあの娘に免じて慈悲をくれてやる。


[此方の呼びかけに応じることなく。
深いな金属の音と共に剣戟が我が周囲を舞った]


 ―――…は。
 全く、愚か者め……ッ


[鼠共の剣を伸ばした触手で捕らえるのと同時、
その剣を触手の表面から流れる酸で腐食させていく。

そのまま、触手を伝わせて奴らを軛き殺そうとしたところで
娘の声が聞こえた。
どうやらあちらでも何か良くない動きがあったらしい]


 ……ふん。


[何やら不快なことが続く。
とりあえず目の前の不愉快な連中を皆殺しにしてやりたいが
今は、娘の許へ駆けつけるのが先決だ。

ゆらり、足元の影を揺らめかせて。
そのままとぷん、と水面に沈むようにして
影にその身を潜らせる。

鼠共の前から姿を消したところで、影の中から娘の気配を探った。
そうして地上に視える"光”を捉えれば、其方へと身を運ぶ。]



 ―――娘よ、無事か?


[娘の身を搔き抱くようにして人の身を顕現させる。
そして取り巻くようにして、触手めいた影を周囲に揺らめかせた。
それはさながら、威嚇する異形の群れ。

――人の子からすれば、化け物以外の何者でもないその姿は、
さながら神話の再現。
囚われの姫を攫わんとする、異形の怪物に視えたかもしれない]*

[優しげな表情で下腹部を擦る様子に、彼の言う擽ったさが伝搬する心地がする。愛おしいと呼ぶには、生々しい肉欲を伴う感情を引き出されてしまいそうな気配がして、咄嗟に意識を逸らした。

……腹が痛いと言われているのに、自分は何を考えているんだ]


 ……、まあ。あまり擦らないような粘膜だからね。
 それを長い間弄られて違和感が残ってるんだろう。


[眠りに落ちる前の私がそうしたように、彼の言葉に甘ったるい返事を重ねたいのに。冷静な自分に咎められ、彼が慈しみ撫でる場所をただ眺めていた。

私の知らないところで、可愛い表現を彼が試行錯誤する度に、言い表し難い引っ掛かりはあったが。それが何なのかまでは分からない。
可愛げない本音すら「可愛く」言ってのける──私の思い込みか、過去の印象から来るギャップか。違和感と呼ぶには些細なもので、猫被りや気遣いの類だと想像するには今の彼を知らな過ぎる]

 
 ……ありがとう。頑張ってくれて。


[自惚れた台詞だと他人事のように思いながら、彼の手に重ねて、もしくは先程まで触れていた場所をするりと撫でて摩る。思い返せば、必要な潤滑すら足さないで交わった。摩擦の名残であろう存在感を今更労うような手付きで触れた]

[──自分が知り得る限りの情報は、一通り伝えた。

普段と変わりない表情でいながら、得体の知れない緊張感に何処か居心地悪さすら感じる。説明の義務は果たした。この監禁は合意の上だ。そんな言質を取りたい故の言動に思えて、自己嫌悪に陥る。

「信じるよ」と言ってくれた彼に微笑んでみせた。
求めていた肯定的な台詞を得たはずだが、疲労のような安堵が重い。私は彼に何を言って欲しかったのだろう]


 ……君が大人しく監禁されるとは思わなかった。
 嫌われて当然、という気持ちではいたよ。

 でも、……そうだな。
 もしこの病院が無かったら、私の家か……、
 足が付かないように何処かへ連れてくだろうね。


[悪魔の甘言めいた勧誘が、監禁のハードルを下げたのは確かだ。罪はいつか裁かれるし、そうされるべきで。だからこそ犯罪者になれば、いつか彼と引き離される未来を覚悟する。夢はいつか覚めるものだ。

けれど「今」が手に入るなら、詐欺でも構わない。
そう思っている自分の優先順位は明らかだった。

あの病院で入院生活を続けさせていれば、また彼が危うい言動をすれば、遅かれ早かれ彼を攫う選択をするのは想像に難くない。彼の両親の性質を知っていても、自分行いが身内に迷惑を掛けると分かっていても、結局は……]

[行き先が私の家なら、彼に同行する必要がある。
外出許可を出した未来を想像しようとして、……頭の中がぐちゃぐちゃに乱れて考えられなくなる。紙屑を両手で丸めて捨てるみたいに思考を放り出しておきながら、そんな身勝手な内心を気取られたくなくて考えているふりをする。

彼の願望は叶えたい。
興味を持ってもらえたなら喜ぶべきだ。

彼の言葉を疑いたい訳ではない。
私自身が錨になれるかもしれない、希望も抱いてはいるが]

 
 ──……、……あぁ。そのうち、な。


[具体的な条件を設けず、曖昧にしたまま約束する]

[転落防止の手すりの向こう側に、立っている彼の姿。
風が吹いたら夜に呑まれてしまいそうな危うい背中。

飛び降りなくても、すでに記憶に焼き付いている。


恐怖が見せる思い込みという名の幻覚が彼を殺す。

窓が開いていれば、そこから彼は落ちようとするし
外に連れ出したら、彼は突然車道に飛び出そうとする。

そんな想像し得る「もしも」を無数に想像する]

 
 先に風呂に入ろうか。

 中に残ってて腹が痛いのかもしれないし……、
 いつまでも裸だと本当に風邪を引きそうだ。


[水を取りに行こうとしていたのは覚えているし、喉も渇いているが。病室によくある備え付けの冷蔵庫は、近くに見当たらない。外出許可の話をしている時に不穏な想像をしてしまったからか、彼をひとりにしておくのが少し怖くなった。

細くても成人男性の体格だ。子供のように軽くはないと分かっていて、両腕を広げて「おいで」と呼ぶ。面倒であれば清拭でも構わないけれど]

[彼には病院着を、私は白衣を。
乱れて色んな体液で汚れたシーツを取り替え、ベッドを元通り整える。お互い干からびないように、手早く済ませる努力はするけれど、「可愛い」彼が相手なので多少の悪戯は許されたい。

最初はごく自然に彼の隣を抜け出せたのに、気が付けば病室から出るのを先延ばしにしていた。……いや、出来ないことはないのだ。ただ彼が、部屋の中を自由に出歩けるのが気になっただけで]


 ……何か食べたいものはある?

 パンでも雑炊でも。カップ麺やハンバーガーは……、
 まあ、ジャンクフードも時々なら良いか。

 あとは林檎とか?


[ご飯ではなく雑炊が思い浮かぶのは、服装が病人を連想させるからか。以前彼が食べたがっていたものを思い出して、一応候補に入れておく]

[そうして、いよいよ傍を離れなければならない時に。
ポケットから手錠を取り出す。

病室の棚で見つけてから忍ばせていたそれを、まだ迷っているかのように弄んだ後、彼の右手を掴んだ]


 なぁ、瑠威。
 私が戻って来るまで……コレを使わせて欲しい。


[此処に来た当初は、拘束はしたくないと言った覚えがあるので後ろめたい。ふらりと彷徨った視線が彼に戻り、懇願めいた眼差しを向ける*]

[積極的な彼女を見る程に胸がきゅっとなった。
この姿を旦那にも見せていたのだろうか、という気持ちとこの姿を他の誰にも見せたくない。そんな気持ちで彼女に触れている。汚したいのは……、と考える。会えなくて寂しかったという彼女に片思いする心は、息を吐き。

望みを口にした。
触れあう熱と唇、淫魔のように彼女は熱を飲む。美しい口紅が肌に触れてつく。影を上から見下ろし。

長く息を飲み、吐いた]


 ……っ。
  慣れているんっすか?


[先端を咥え、舐める姿に
つい聞いてしまった。女性に経験を聞くなんて、と思う。けど撫でる手は少しばかり強くなり、唇から漏れる息を抑えるため、もう一方の手で覆う。こんな風になるなんて、自分の躰は鍛えたりないのか。

彼女に翻弄される程に熱量は上がり。
頬張る彼女を見て、やがて

息をつめた]



 ……はっ、飲む?

   くっ―――!!!


[彼女の妖艶な顏を見て、
そのまま喉の奥、窄められた場所で果てる未来が見えた。彼女を翻弄していたのは最初だけ、今は完全に彼女のペースだ。其れも悪くない。悪くないけど、飽きられるのでは、と喉が達する事を遅らせようと声を殺した。
けれど、顏を振り、手で快感を呼ぶ彼女に筒は限界を訴え、黒くグロテスクな熱の先端から白は出る。

容赦なく、気持ちと裏腹に彼女を焼き]


 …… ナナミさん…ぁ


[うっとりとした彼女を目撃してしまう。
お掃除までされ、荒く息を吐き、彼女があーんと見せる咥内は女性の性器を思わせる。あの中に自分のモノが入っていたのだ。そう感じれば息が上がり、のみほされた熱がちりりと燃えた。開かれた口へ無遠慮に、もう一度、熱を詰め込みたい。今度は彼女の意思でなく俺の意思で。その肉厚な舌を蹂躙したい。

そんな思いに駆られ]


 ありがとうございます
  …よくできました。
 

[ちゃんと飲めて偉いっすよ。と
頬に手を添え、ちゅとキスをすれば、ご褒美と何度と触れ、彼女を立ち上がらせよう。此方を見つめる彼女を見つめて、リクエストを叶えようとする身をなぞり。

肩に、背に触れ
スカートの中、濡れた下着に手を]


 裸エプロンいいっすね
 でも、もし俺以外の男、……

  旦那さんが急に帰ってきたら
   どうするんっすか?

 それか、他の配達員が


[この扉を開ければ、
裸にエプロン姿の彼女が出迎えてくれる。その姿をもし他人に見られたら、指先は彼女の下着をなぞり。濡れている箇所を重点的に圧して、小さな蕾を摘み。]

 




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