79 【身内】初めてを溟渤の片隅に【R18】
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[ のしかかることをしないで、空間を保ったままの
彼の気遣いが苦しいほど愛しい。
初心な乙女みたいなセリフを己が口にする日が
まさかくるとは、と内心呻きながら
電気を消してくれるよう頼んだけれど、
聞いてもらえただろうか。
……ダメな気はする、だって、
聴こえているはずなのに彼がすることといえば
首筋に唇をおとして、歯が立てたりするのだから。]
───ッ ンっ……
[ 今己がしたことを返されて、喉仏も舐められて、
下顎が震えた。
声が漏れる。 ]
[ 長い指が、シャツのボタンにかかる。
覚悟は決めているし、信じてもいるけれど、
体には力が入ってしまう。
緩んだベルトの隙間に手を差し入れて、
下着の上から猛りに触れた。
擦り付けるように腰が動く。
その動きに合わせるように、根元から
柔らかく握り先端に向かって擦り上げれば、
矢川の吐息が漏れて耳に届く。
脳が痺れる。
もっと、と思うのに。
身体を起こした彼が、右手を絡め取ってしまう。
熱に浮かされた顔で不服そうに見上げれば、
じっと見つめ返されて。 ]
……いい、けど。
マジで、萎えんなよ。
[ 強がる声が、やっぱりかすかに揺れた。
母親が、いそいそと洗濯して替えていった
白いシーツに、己の手が縫い止められて。
露になった、上半身。
あちこち残る傷は、格闘家じゃあるまいし
勲章などではなくただのコンプレックス。
多感な時期に卑屈さを会得するのに充分な。]
[ 現実を携えてたしかに残る。
なんだかんだで人生に
不思議なアクセントをつける深く古い傷。
左腕の肘の上から、手首の近くまで
ミミズのように走る手術痕、引き攣れる皮膚。
そこに、唇が落とされて、声が出る。]
……ッは、っ……
[ 視界がぼやけた。
じんわりと滲んでいた汗が滴になって
顳顬を流れて落ちる。
焦燥感で、背中が撓った。 ]*
一緒のこと考えてたとか…
なんや、ええなぁそういうの。
[ 一緒のこと、と言われると
どうしてもそこを復唱してしまった彼。
ほろよいの彼女とゼロ距離になれば
そっと腰に手を回してみた。
やっぱり、細くて、女性だなと思わさられる。 ]
ん、いや……酔ってへんよ。
……でも、美鶴さんに酔い始めたかも。
[ 顔が赤くなったことは分からなかったけれど
体温が上がって気がしたので、
彼女をみて、頭の中が彼女だけになっていった。
そして好き、という告白。
だからこその、この体温上昇。
唇が重なって、離れていく。
ただそれだけのことなのに、
彼女とするとこんなにも血の巡りが
早くなっていくのは、もっと距離を縮めたいから? ]
かわええなぁ……もっと、触るよ?
[ 見つめていると、彼女がもっと近づいて
膝に乗ってきたのだが、
片腕で彼女の背中を支え、
宣言をすると、もう片方の手が
彼女の服の中へと入っていく。
腹部を優しく撫でながら、
徐々に胸部へと向かう手の感触に
彼女の反応はどんなものだっただろうか。
そして、密接して鼻に伝わる香りは
彼女がシャワーを浴びた後の香り。
だから、くんくんと首筋で
もっと香りを嗅いでしまった。 ]
美鶴さんだけの、特等席……
いらっしゃい、おひいさん。*
[ 改めて復唱されると
恥ずかしいこと言っちゃったな、と
元々ほろ酔いで赤くなっていた顔が
さらに赤くなっていく。
腰に手を回されて
少し寄りかかるような姿勢に。
好きな人に包み込まれてるみたいで、
なんだか気分が良かった。 ]
えっ…!?
[ 私に、なんて言われて驚きを隠せない。
確かに潤さんはそんなにお酒に弱くないから
簡単に酔わないのかもしれないけれど……
触れた場所から伝わってくる体温が
いつもより高い気がした。
こんなに近くに、好きな人がいて
もう十分近いな、なんて目の前の人とは
違うことを考えていたとは気づかない。 ]
かわいくはっ…!
ひゃっ……じゅん、さん……?
くすぐった、い…!
[ 膝に乗ると背中を支えてもらえて
心地よさに目を細めていたのもつかの間、
潤さんの手が服の中へ入っていく。
優しく撫でられていてもくすぐったくて
でもどこかそれとは違うような気もして声が止まらない。
胸の方へと手が伸びているのがわかれば、 ]
っあ、だめ、だめっ…!
はずかし、いからぁっ!
[ ほとんど膨らんでいない胸が
コンプレックスで恥ずかしくて仕方ないから
必死で潤さんの手をつかんで止めようとしたけれど。
間に合わないならびくっと反応してしまうことになる。
首筋を嗅がれて、首に伝わる吐息とか
微かな刺激も拾ってしまって、
恥ずかしくて仕方ない。
それでも聞こえてくる彼の言葉に少し首をかしげた。 ]
おひい、さん……?
*
[ 彼女が言った言葉を復唱すると
彼女の頬の赤らみが更に濃くなったような。
それは、りんごよりも赤くて
アメリカンチェリーのように
濃いもののようにも見えた。
噛み付いて食べてしまいたくなったけれど
彼女には優しくしてあげたいので
そっと唇をあてるだけにした。 ]
くすぐったい?
ふは、ほんと可愛い……
[ 腹部の方から手を這わせていると
可愛い反応が見られてしまって、
彼の血の巡りが良くなっていく。
恥ずかしがっている彼女のことは
少しだけ無視して、
緩やかな膨らみを隠している下着に
指を入れ込めば、頂を優しく撫で。
まだ未発達のその場所は未知の領域だったかも。 ]
もー少し、声抑えよかぁ……
……俺の、お姫様?
[ おひいさんという言葉に首を傾げる
可愛い彼女に、東京の言葉で
改めて囁いてあげる。
もし彼女が声を我慢できないと
いうのであれば、
服を脱がせてしまう前に
この場所から彼女を連れて
街の中へと出ていかなければいけない。 ]
美鶴さん、これから…
もっと触るけど、我慢できる?
*
は、ふぅ…だ、って……
ふぁあああっ! な、に……?
[ 恥ずかしくて、止めようとしている私には
お構いなしに胸を触られて、
未知の感覚に思わず大きく声をあげてしまった。
くすぐったい、じゃない…ぞくっとするような
感覚に体を震わせて、ささやかな抗議を。 ]
じゅんさん、が……
さわる、からっ!
[ お姫様、と言われてようやく意味を理解した。
そんなんじゃない、とふるふる首を振って
否定して、でもそう言われるのが嬉しいのも確かで
状況も相まって何を考えてるのか
自分でもよくわからなくなっていく。
自分の思考さえわからなくなっているのに
潤さんの問いかけの意図がわかるはずもなく。
その意図は掴めないまま、正直に答えるのみ。 ]
もっと……?
む、むり、です……
*
だって、なんかあった?
[ 可愛い抵抗に撫でる指を止められない。
少しずつ、硬さを帯びてきているのだが
彼女の声の方は収まることを知らない。
耳元で囁いていたら
もっと小さな抗議があったことだろう。
それも可愛くて弄る手が止まらなくなる。 ]
触られるのあかんかぁ……
[ 彼女の弁明が聞こえ、無理、という言葉まで
耳に入れば彼は手を止めた。
うーんと考えて、彼女のことを見つめる。 ]
よし、美鶴さんお出かけしよ。
[ とはいってもおめかしなんて必要なくて
荷物を持ってタクシーを呼んで乗り込んだ。
そして目指すは多分彼女が言ったことのない
愛し合うための宿場街の近く。
別に彼も慣れているとかではないけれど
彼女が声を我慢しなくていいような
スペースが欲しかった。 ]
──────
さーて…すごいなぁ。
[ 今回入った部屋は、
ベッドにレースのカーテンがあった。
彼女を寝かせてしまえば、
誰にも見られることはないけれど
カーテンを広げて外界の視覚的情報を
減らしてしまおうとした。
押し倒して、緊張しているであろう彼女に
何度か唇を重ね、ほぐせたら良いのだけれど。 ]
好きだよ、美鶴さん。
*
[ 潤さんは胸を触る手を止めてはくれなくて
しかもどこか楽しそう。
私はさっきから恥ずかしい声をあげて
潤さんの顔をまともに見れないくらいなのに。
ようやく手が止まって、
乱れた息を整えてようとすれば見つめられて。 ]
……どこ、に?
[ 返答を貰えても貰えなくても
潤さんに連れられるままついていけば
おのずと答えはわかるわけで、
何度も目をしばたたかせて、戸惑いを隠せない。
だって、こんなところ来たことないから。 ]
――――――
潤さん、私……
[ 潤さんを見上げるような体勢になって
眉を下げて不安げに声をかける。
カーテンのせいでより二人しかいないと
強く実感してしまって、
胸の鼓動がはやくなっていくのが分かった。
唇が重なっても簡単に緊張はとけてくれない。 ]
私、こういうこと、初めて、で……
嫌じゃないけど、全然知らなくて
こんな私じゃ……。
[ 小さい声で、それでも目を合わせることも
できなくて、顔を背けて。
相手が私が未経験だと察しているかもなんて
思いもせず、面倒だとか思われないかな、って
無知から来る不安も含めて彼にこぼせば、
きゅっと自分の手を握りしめた。 ]*
[ 彼女が彼の方を見てくれなくても
そんなに嫌でもなくて、寧ろ初々しさに
胸がときめきを覚えていた。
それは、多分彼が手慣れた女性たちと
付き合っていたせいかもしれないけれど
がめつい人よりも、こうやって
素直に反応してくれる人が愛くるしく
思えてしまったのである。 ]
俺のこと、もっと知ってもらう場所?
[ なんて言って、タクシーの中で
彼女と手を握り指を絡めていた。
これから、結婚まで視野に入れている人だから
彼としてももっと全部を知って欲しくて。
だから、到着して戸惑いを隠せない彼女が
ひどく可愛いなと思ってしまった。
大丈夫、と彼女に声をかけて
部屋まで行けば彼女は少しでも驚いてくれたか。 ]
──────
ん?………
[ 唇が離れてから聞こえる彼女の本音。
黙って聞いていたけれど、
死ぬほど可愛いなと襲いそうになった。
よく抑えた理性。
よく耐えたなお前、と褒めなければ。
彼は口元を押さえて、
うんうん、とニヤつきを隠すように
軽く頷きを見せた。 ]
かわええおひいさん。
初めてなら朝が来る前に、
ぐっすり眠れるように
沢山可愛がってあげる。
……だから、俺のことを見て?
[ よしよし、と口元を押さえていた手で
彼女の髪を撫でれば、了承を待ち
初めてならば下手なことをするまいと
服を脱ぐことをうながしてみようか。 ]*
[ タクシーの中で指を絡めるように
手を握ってもらって
温かさに少しだけ落ち着いた気がして。
部屋につけば、レースのカーテンがついた
ベッドが目に入ってきて、
目を丸くして、言葉を失っていたと思う。 ]
―――――
[ 潤さんは黙って聞いてくれた。
私はずっと横を向いて彼の方を見れずにいたから
どんな表情だったのかは知る由もないけれど。
髪を撫でられて、潤さんの方を見ても
やっぱり恥ずかしくて視線はどこか定まらない。 ]
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