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【人】 修理屋 一二三[歳のころが十八から二十五って言えば、 成人も過ぎて所謂結婚適齢期ってやつだ。 生憎その年頃をよその島飛び回って過ごしてた俺や九朗には 縁の遠い話だったが、働き者の秋実には 見合い話のひとつやふたつあっても不思議じゃねぇなと。 我ながら飛び石みてぇにあちこち飛び回る思考に、 浮つくにも程があるなと溜息を吐いた。 その間にも九朗は秋実に向かって指を二本立て 「それじゃあお月見団子、ふたつ、お願いしますね。」 と穏やかに微笑んでいる。] どうせならここでひとつ食べて行かねぇか? 飯食った後じゃせっかくの団子が固くなっちまうだろ。 [露店の席が空いていればそこに腰を落ち着け、 熱いほうじ茶とおすすめの塩こんぶを合わせて注文する。*] (29) 2022/10/06(Thu) 22:56:27 |
【人】 修理屋 一二三なぁ、九朗… [手の中の湯のみに月を閉じ込めながら、 俺は目の前を行きかう人の波を見るともなしに眺めながら 隣で買ったばかりの月見団子を吟味している男の名を呼んだ。] お前、本当にもう作らねぇのか? [そいつは何度目の問いかけだったか。 月並みなたとえだが、それこそ数えきれないほどって奴だ。 この数年、何千回思案して、実際に何度口に出しただろう。 そんで九朗の答えはいつもこうだ。 「………作りませんよ、もう。」 その昔、九朗は腕のいい人形技師だった。 着想や発想力で言えば、 風の噂で聞こえた豊里という新鋭の人形技師もそうだろう。] (41) 2022/10/07(Fri) 1:40:45 |
【人】 修理屋 一二三[それがある日、突然人形を作らなくなった。 代わりに魚竜や仕事上の事故で手足を欠いた奴のために 一点物の義手や義足を作り始めた。 あれほど人形作りに夢中になっていたくせに、 なにがきっかけで方向転換を決めたのか。 それこそ聞かなくともわかりきってる。 俺の足だ。] (42) 2022/10/07(Fri) 1:41:08 |
【人】 修理屋 一二三「言ったでしょう? あなたが今使っているその義足で最後ですって。」 [聞き分けのない子供に諭して聞かせるように、 九朗の声は怒りもせず、焦りもせず、凪いだように穏やかだった。 それが俺は、たまらなく気に入らねぇ…。 とっさに体が動いてたと言えば聞こえはいいが。 俺はあいつを守ったつもりで両足を失い、 九朗から夢中になっていた人形作りを取り上げた挙句、 技術の限界を突き付けて、作ることを辞めさせちまった。] (43) 2022/10/07(Fri) 1:41:31 |
【人】 修理屋 一二三 なぁ九朗、そうは言っても技術は日々進歩だ。 あの頃にはできなかった事も、断念したことも、 今の技術ならできるだろう? なのにお前がそっぽを向いて 目と耳塞いじまってどうする。 お前にもう一度、 足や腕を作って欲しいって言う奴が 年に何人も俺の工房に来るんだ。 お前の店にも来てるだろう? お前の作った義肢ほどしっくり馴染むやつはねぇ。 傷んだ部品を交換して 使えるように整備することはできるが、 完全に壊れちまったもんは、 俺じゃどうしようもねぇんだ。 [九朗のやつが困ったように眉尻を下げて 口をつぐむのにも構わず、 俺は長年の迷いや鬱憤を吐き出すように 矢継ぎ早に言葉を口にする。 だが何を言ったところで、 九朗の意思のなにも変わらない。 この数年、何度言葉を尽くしたって、 変わりやしなかった。*] (44) 2022/10/07(Fri) 1:42:57 |
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