94 【身内】青き果実の毒房【R18G】
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闇谷
「ッ、あ、?」
手を添えられれば、びくりと肩が跳ねる。
熱を孕んだ虚ろな瞳が貴方に向けられた。
喉が鳴る。
以前ならば何もわからず狼狽えていただろう。
今はもう、燻る熱の燃やし方を知ってしまった。
「……にげ、て」
考えるよりも身体が先に動いた。
言葉とは裏腹に貴方の肩口を掴み、壁に押し付けた。
そのまま這って近付く。ズボン越しに、貴方の足に硬くなった性器が当たった。
迷彩
「リョウ………?」
見覚えのある目だと思った。
欲に支配され、熱を燃やし尽くす方法のみを求める色だ。
散らばる菓子を一瞥。すぐに理解出来た。
「───お前まさかッ!?
」
気付いた頃には既に背は壁にあって、
布越しに擦り寄る貴方の昂り。
「逃げ……ないよ。お前からは、逃げない。
……辛いよな、それ。」
貴方の頭上へ手を伸ばす。
よしよし、と子供にするように優しく撫でて
それから貴方の衣服を寛げていく。
ネクタイを解き、首元を開いて、
ズボンのベルトへ手を伸ばし……
手が震えた。不慣れからの緊張だ。
闇谷
優しく頭を撫でられた途端、ぼろぼろと涙が溢れてしまう。
こんな『お客さん』みたいなこと、誰にもしたくなかったのに。
古傷ひとつない肌が、ボタンを外す度に晒されていく。
朦朧とした意識の下でベルトに手を伸ばす。震える手の上から熱い自分の手を重ね、乱雑にベルトを外した。
「……、取って」
貴方のズボンへ手を伸ばす。軽くベルトの革を爪で掻いた。
脱いでほしいのだろう。
迷彩
そっと手を伸ばし、指で涙を拭ってやるが
いくら拭っても止むことがないので、次第に手を下ろす。
こういう時は泣くなよ、ではなく、
泣いてしまえの意を込めて「いいよ」と囁く。
貴方の手が熱い。
「取って………?
取るって………なに………」
→
迷彩
「…………………、
………、……………、」
→
迷彩
ここは廊下。
人目があっておかしくない。
ここで? 取る?
ベルトを? ズボンを?
「えっ
あっ、えっ、えーと、…………」
………
……
両手を空に彷徨わせて、
暫くしてから自ら衣服を寛がせる。
ベルト。次にズボンのファスナーを下ろす。
それ以上は……それ以上は………
視線が彷徨い始めた。
闇谷
貴方がベルトを外し、ファスナーを下ろす間。
少年は落ちていた鞄から、潤滑剤を引っ張り出していた。鞄の中から冷たいレンズが顔を出す。元々電源を入れたままだったのか、それとも落とした拍子に入ったのかはわからない。
「ぜんぶ、」
少しでも早く昂りを収めたい。ここが廊下であることなど、忘れていた。
潤滑剤の蓋を開ければ、貴方の下着とズボンの上に中身を垂らした。蓋を開けたままの容器が床に落ちる。
液体が衣服に染みていく様子を、数秒眺めていた。
……こうすれば自ら脱ぐのではないだろうかと、熱に浮かされた頭で考えた。
自分の力では貴方の腰を持ち上げ、服を脱がすことは難しいから。
「脱いで」
「……ねぇ、」
身体を乗り出し、耳元で囁いた。抑揚には苛立ちと焦燥がはっきりと滲んでいる。
粘つく貴方の下腹部をなぞり、指で僅かに押した。
この内側に、早く入りたい。
迷彩
躊躇っている間にほとほと潤滑油が落とされ
それは次第に中まで染みてきて不快感に変わる。
本当に不快感だけ?
鼓膜を声で刺激されれば、下腹部を指で押されれば
これから行われる行為に期待で震える。
「全部、ここで、脱ぐって………」
無理だ。
ここを何処だと思っている。
いつ人が通るかも分からない。
普段なら絶対にしたくない。
そう、普段なら。
「……待っ、て、」
膝で立ち、腰を上げれば弱々しく指先で衣服を摘み、下ろしていく。
脱ぎきれば、シャツを引っ張り細やかな抵抗を見せた。
「………………」
色欲に濡れた視線に、声に弱い。
自分に欲を教えた小豆色の瞳が浮かんで、すぐにかぶりを振った。
なおひーファンサして〜
「わぁ。普通に返ってきた。
オレ? ……この前の結果見たでしょ?ヤッたよ」
いつもなら間延びした声をどこか吐き捨てるように返す。
手元の杏仁豆腐はぐちゃぐちゃにかき混ぜられた。
※このあとちゃんと綺麗に食べます
「……なおひー、こういうのあんまり得意じゃなさそうかなって、思ったからさぁ。聞いてみただけ」
投げ返された端末を掴み損ねる。
ごと。指先で弾かれて、床へ落とされた。
「――……何かあったか。良い事でも」
拾い上げ、画面を確認しながら尋ねる。
視線も寄越さずに放られたそれは、どう考えても皮肉だった。
闇谷
……少年はおねがい≠フ仕方を知った。
貴方の片脚を膝裏から抱えると、折りたたむように押し付ける。抱き締めるように距離を詰め、やはり先程と同じ場所へ。
辿り着けば柔く耳を喰み、縁を舌先で擽った。
「……怒って、いい」
再び下腹に触れ、性器を通過し、指は後孔へ真っ直ぐに向かう。
潤滑剤で湿るそこに、つぷ、と水音を立てて指先が侵入した。
慣らすような動きには程遠い。
「ゅ、ゆるさ、……ッ、ないで、ね」
肉の壁に締め付けられる度に、指先からじわりと快楽が滲む。
性急な、前戯ですらない行為が続いた。
……このまま少年が挿入すれば、相応の痛みが伴う筈だ。
なおひーがつめたぁい……
「んん、いや……その前も、ヤった。結果出た後が二回目
」
もにょ、と答える。自分から言い出した事だぞ。
他人の回数なんて数えようとは思わないけれども、もしかしたら少ない方だ。たぶん。カガミンむずかしいことわかんない。
「暴力ってさぁ、痛いじゃん。オレ、痛いのも我慢するのも好きじゃないんだよね。
気持ちイイとかワルイとかそういうのも、よくわかんなくなるからイヤ。
……ぐちゃぐちゃになって、自分がなんだかわかんなくなるの。怖くなぁい?」
たぶんへーき、とへらりと笑う。
原型を留めぬ程ぐちゃぐちゃにかき混ぜられた杏仁豆腐も、口の中に入れてしまえば貴方の食べたものと何も変わらない。
迷彩
その熱の苦しさは理解しているつもりだ。
だからこそ大切な弟分を、拒めない。放ってはおけない。
「、ひっ」
体勢が変えられ、耳を、本来受け入れる場所ではないそこを弄ばれれば小さく声が漏れて、慌てて唇を噤む。
「────怒らない。
それ、苦しい……よな、早く楽になりたいよな………。」
貴方の頬へ手を伸ばし、
ゆるりと撫ぜれば、許す、と囁いて
水音を立てる自らの窪みへ指を挿れる。動かす。
増やして、広げて、WいいところWを探るように。
あいつはもっと、こう、
痛みへ対する防衛本能か、
快楽の貪り方を覚えた身体が疼いたのか───
それとも貴方の熱に、当てられたのか。
暫くはそうして、水音だけが廊下に響いた。
次第に瞳が緩み、甘い吐息が漏れ始めれば指を引き抜く。
誘うように、貴方へ熱のこもった視線を向けた。
現場からは以上ですのつもりが思ったより続いていました。
この後食堂に行って、一緒に飲み物を飲みながらお話していたわよ。リョウちゃんが普川の分のコーヒーを淹れたけど、フィルタはお湯を素通しするだけになっていました。つまりそういうことです(カップに直接全てのコーヒー粉が入れられたコーヒーが爆誕した)
。リョウちゃんはココア。
段々コーヒーの味に疑問を持っていって、最終的に粉でむせる普川の姿がそこにあった。それ以外は終始穏やか和やかな平和風景でしたのわよ。
闇谷
頬に手を伸ばされれば、甘えるように涙を擦り付ける。
同じ孔を共に弄り、水音と荒い吐息だけを鼓膜に入れた。
指を引き抜く感覚に気付き、上体を起こす。
自分と同じ、熱を孕む視線を覗き込む。
自分がそうさせた。させてしまった。知っているくせに!
「……はぁ、」
ズボンと下着を中途半端に下ろし、とっくに勃ち上がっていた性器を露にする。
先日遊び道具にしていた避妊具のことなど、すっかり忘れていた。
濡れそぼった孔に先端を当てがう。
衝動を必死に堪え、震える唇で言葉を作る。
「────、ごめん」
言うが早いか、一気に最奥を穿った。
オレにはもっとあったかくしてなおひ〜
「そっかぁ。皆同じくらいなんだねぇ」
安心しているがこうしている間にも回数増やしてるよ皆。ぜったいそう。
「痛いの、好きな人なんていないよぉ。ふみちゃんはいるって言ってたけどさぁ。
……えぇ?嫌がるのにも需要あるの?ヘンなヒト多いなぁ」
カメラが回っているのを覚えているのか忘れているのか、堂々のディス。
「うんうん、嫌だよねぇ。なおひーがいっぱい早口で喋っちゃうぐらい嫌だよねぇ。
……やっぱり怖くなるよね?よかったぁ。オレ、『普通』だ」
へらりと笑って大きな口でどろぐちゃな杏仁豆腐をきちんと食べた。ごちそうさまでした。
迷彩
自分達が今何処に居て、何をしているのかなんて
最早考えられない程に思考は蕩けていた。
「ぁ、────ッ!」
はく、はく、と口を開閉する。
勢いよく挿入された性器が、やけに熱い気がする。
薄い壁がないせいだと知るのは、きっと互いの熱が燃え尽きてからだ。
内側から揺さぶって、焼き割かれてしまいそうな感覚。
何度受けても慣れようが無い。
「ッ、……んぅ、………!」
がぶ、
漏れる自分の嬌声が、吐息が鼓膜をくすぐって、かっと赤面する。
反射的に己の手の甲に歯を立て、声をくぐもらせれば
内心でほっと胸を撫で下ろした。
誰にも見つからないように、
このまま誰も通り掛からないように。
紫の瞳は貴方を通して、貴方以外に意識を向けている。
鞄の中のレンズが、まるで二人を煽るかのようにちかりと光った。
「んー……?」
インスタント、ドリップするだけのやつ、豆を挽くとこからするやつ。それらを飲み比べて、普川は首を斜めに傾けた。
「美味しいんだろうけど、なんかちがう・・・・・・・・・・・」
普川がこれまでに水筒に入れてきたコーヒーはずっと、インスタントコーヒーだった。知識としては、豆から淹れる方が普通は美味しいはずなのだが。
「…元々別に、好きくはなかったしなぁ………慣れかぁ…………」
一応、その日は豆を挽いたコーヒーを冷やし、翌日水筒に入れていた。飲んでやっぱり、インスタントが好きなんだなと再認識した。
闇谷
奥に辿り着く。気持ちいい。
腰を引く。気持ちいい。
また奥を目掛けて、打ち付ける。気持ちいい。
「は、……ァ、ふ、」
身体ごと壁に押し付けるように、何度も穿つ。
律動の度に涙が溢れ、貴方の腹を汚す。
これまでに教わったことなど、少しも頭になかった。
けれど、腹側の一点に触れれば締め付けが返ってくる。
只それだけの理由で、そこを目掛けて何度も突き上げた。
「……っ!ごめ、んッ、もう、」
駄目だとわかっているのに、我慢が効かない。
貴方の背中に手を回し、きつく抱き寄せる。胸元に額を擦り付け、きつく目を瞑る。
吐精の気配が、背後まで近付いている。
意識の外で鳴った靴音など、気付きもしなかった。
迷彩
浅く息を吐く。
忙しなく上下を突き上げられる感覚にくらくらする。
「っ、ぅあ、あ、あぁッ!?」
ごりごりと容赦なく弱点を責められれば
浅ましく快楽を貪る声が抑えきれずに廊下に響く。
「あッ、ぅ、んんん、っ」
互いの結合部から溢れる水音ばかりが耳に入ってきて
足音ひとつに気付くこともない。
手の甲を更に強く噛み締めて、口内に鉄錆の味が広がり一層眉間を寄せた。
後孔が貴方をぎゅうぎゅう締め上げる。吐精を促すように。
抱き寄せられれば、それを受け入れるように貴方の頭部へ腕を回し、抱きしめる。
自身の張り詰めたものが互いの腹に挟まれ、ふるりと身を震わせて先走る液を吐き出す。
より一層、貴方を絶頂へと誘うだろう。
体の境界線を溶かしていく感覚。
目尻に雫が降りてきて、視界がぼやりと揺れた。
闇谷
「────ッ!」
一部だけを切り取れば、甘えるような仕草だ。その実、腹の中に欲を放っていた。
ふう、と貴方の胸に息を吹き込んだ。その吐息はまだ熱い。
「ん、……」
吐精したにも関わらず、自身は未だ硬いままだった。
抜かないと。
そんな意思とは裏腹に、腰が揺れた。奥で吐き出した精を擦り込むように。
するとようやく少し収まった気がして、腰を引き始める。
結合部から水音が響く。引き抜こうとする度に、温かい内壁が敏感な箇所を撫でた。
「……、」
あと少しで抜けてしまう。
そう思うと、どうしても消えない寂しさが背中を押した。
「ごめ、……っ!」
霞む視界の中。
──再び、貴方を貫いた。
自身の快楽だけを追い求める、思い遣りなどほんの少しもない、獣のような交わりは終わらない。
廊下
───名前を呼ばれた気がする。
暖かい、安心する声色だ。
……きど?
淫欲に溺れていた意識に冷や水が浴びせられたかのように目を見開いて、途端にぼやけた世界が、かちりと小豆色に染まった。
「── 待っ、止めて、
リョウ!待ってッ!き、きどっ、
ふ、ぁっ、
見っ………んん、あっ、
」
力の入らない腕でゆるゆると迷彩を押し返そうとするが、体は欲を貪るのに精一杯で、行為を中断させるまでには至らない。
体内の性器が強く脈打って、熱が吐き出される感覚。何だこれ。知らない。熱い。知らない。混乱。色んな思考があぶくのように浮かんではぱちぱち消えていく。
「待て、あっ、止まっ、んぅ、見ッ、……」
嫌がる言葉と共に甘い声が漏れ、意思とは裏腹に肉壁が畝り暴力的な悦楽に身を痙攣させ
ぱた、と白濁を吐き出して、絶頂を迎える。
「はーーっ、は、ぅあ、あっ、あ、んん、ふっうあ、あ……、……っ!……!!
」
息を整えようにも、達して敏感になった場所を殴り付けるように再び揺さぶられれば、それを止める術はない。
ただ声を押し殺して、涙を溢した。
闇谷
揺れる視界の中で拒絶を聞いた。
当たり前だ。
彼には想い人がいるのだから。
自分はそれを知っていて、
応援する気持ちさえあるのに。
どうしてこんな、人の気持ちを踏み躙るようなことをしているのだろう?
「……っ、ごめん、ぁ、ごめん、ごめんなさ、」
謝罪を繰り返す間も、責め立てる動きは緩まない。
押し返そうとする腕を掴み、自重で押さえ込む。
どうすれば抵抗する人間を組み敷けるのかは知っていた。かつて、襖の隙間から何度も見たのだから。
「ぅう、ぁ、……ッふ、うぇ……」
顔をぐしゃぐしゃにして、大粒の涙を零して、ひたすらに欲を追い求める。
早く、早く、終わってしまえ。
意図的に抽出を強め、残る熱を焚き付けた。
肉壁が収縮する箇所を、何度だって無遠慮に穿つ。
「…………ッあ!」
全身が大きく脈打った。
自分が再び達したことを、すぐには気付けなかった。
廊下
「ぁ、……」
脇の下に腕を滑り込まされた瞬間、僅かに肩が跳ねる。
しかし背後から引き剥がされれば、素直に身体を委ねた。
ようやく顔を上げる。
最もいてほしくなかった姿が、目の前にある。
「うああぁ……、ぅぐ、えぇ……」
かけられた上着を手繰り寄せた。膝を抱え、白い生地で目元を覆う。
自分が泣く立場でないことくらいは理解できる。
それでも溢れる涙を隠そうと、歯を食いしばった。
廊下
見るな、と言ったのに。
組み敷かれていた腕が解放される。
ほっと安堵しつつ、獣のように熱を燻らせていた弟分は大丈夫だろうかと一瞥。
……嗚呼、泣いて欲しくは無かったのにな。
「…………ごめん、きど、
リョウは……悪くなくて、
俺が良いって、言った……から。」
それだけ告げると上体を起こそうとして、うまく力が入らず諦めた。
下腹部が、内側から白濁が溢れて来て、ずくずくと鈍痛を訴えてくる。
床に散らばる、貴方も見覚えがあるだろうポップコーンを指差して
ぷつん、と意識を落とし、瞳を閉じた。
廊下
名前を呼ばれ頭に手を置かれれば、びくりと体が震えた。
恐る恐る、赤く腫れた目を見せる。
しかし、視線は合う前に下へ戻ってしまう。
「……」
俯きながら、穏やかな音を耳に入れる。
貴方の言葉は、少年には少し難しかった。
「……うん」
だから、咀嚼したのは最後の一言だけ。
叱られるのは怖いけれど、
このまま許されるのはもっともっと恐ろしい。
少年は膝を抱えたまま、貴方が戻って来るまで待ち続けるだろう。
なおひ〜〜〜〜〜
「え。ふみちゃん痛いの好きなんだ……へぇ……」
知らん言ってるのにするっと信じた。事実無根の風評被害だ。
「だって、ねぇ?皆普通じゃない事を、怖がるんだよ。
『普通』じゃないヒトを遠ざけて隔離して、そうしてようやく安心するの。だからオレ達ここにいるんじゃん。
納得はしてないけれど、オレが『ちょっとだけ』普通じゃないらしいってのはわかってるよぉ。
だから、『普通』ができてると嬉しいの。
『トモダチ』が離れちゃうと、困るからねぇ」
そうしてやはり、いつものようにへらっと笑う。
重ねられる食器を席に着いたまま、ありがとう〜と見送る。
何も言わなければ持ってきてもらった時と同じく、貴方が片付けるのをただ見守るだけだ。
自分の意思で決めたことなど、一体幾つあるというのだろう。
自分はまだ18年しか生きていない。大人からすれば鼻で笑われるような、青くさい少年でしかない。
けれど自分にとってはそれが全てだ。
某日、消灯時間さえも過ぎた頃。
談話室に居座って、端末の明かりだけを頼りにディスプレイの文字を追いかける少年が一人。
風情も何もない白い光に濡れる涼やかな顔は、相も変わらず生真面目さを押し出したかのような仏頂面のままだ。けれどよくよく見ればその眉間には少し皺が刻まれているし、唇は普段よりも固く引き結ばれている。
指先と視線は幾度となく端末の中の文字をなぞり続ける。
その殆どは、"報酬"の欄。
「…………」
おもむろに瞳が緩く細められる。睨むような鋭い眼差しで穴があきそうなほどに端末を注視した。
彼は全てを放り投げてまで隣を選んでくれた。
無実を証明できる機会を、太陽のもとで大手を振って歩く機会を。ありとあらゆる自由の可能性を。
自分は相手に何を返せているだろうか?
自分は相手にどれだけ負担をかけてしまっているだろうか?
尽きない悩みがぽたぽたと心に降り注ぐ。昔は殆ど揺らぐことのなかった水面が波紋を生んではぐらぐらと乱れた。
心情を表すかのように端末を持つ手が小さく震えた。みし、と機器が小さく悲鳴を上げてもお構いなしだ。
「……きっとお前は、気にするなと言ってくれるだろうけれど」
"何処でも、お前が居たら幸せだと思う。 "
鮮やかに甦る声。
声だけじゃない。肌を刺す空気も、その前に口にした甘味の味も、あの時間を形成する何もかもが脳と心に刻まれている。
「…………暁。俺も」
俺も、お前がいてくれたなら、きっと。
「──何処でも、幸せだと思う」
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