65 【ペアRP】記憶の鍵はどこ?【R18】
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視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
[
どこまでも続く海。
太陽の光を反射してキラキラとしている海辺。
そんな場所に、私は 立っている。
静かで私 以外は誰もいない砂浜。
そこは私 にとって、大切な場所。
―――――――――――――――。
砂を踏みしめる音も、陽の光も。
波のさざめきも、あの時吹いていた潮風も。
――――――――――――――――。
―――――――――――――――――――――――――。
―――――――――――――――――――――――――。
―――――――…………。
]
んん……
[
不思議な夢を見た、気がする。
私は海…たぶん冬の海に
一人で
立っていて。
その景色がとても綺麗だったことと。
そこが大切な場所っていう記憶だけがあって。
でも、なんで大切なのかは……わからない。
何故だろう、景色は鮮明に覚えているのに。
ぼんやりとそんなことを考えつつ目覚めた。
……あれ、私のベッドじゃない。
そう気づいて意識が覚醒した。
]
ここ、どこ……?
[
・・・・
ふと横を見ると、知らない男性が寝ていた。
恋人がいた経験なんてない私はびっくりしすぎて、
思わずベッドから転げ落ちてしまう。
]
いったぁ……
てか誰だろう、この人……
[
落ちる前に顔がちらっと見えたけど……
かなりの美形。
100人中90人は振り返りそうな美形。
しかもそのうちの70人くらいはお近づきになりたい
とか思っちゃうんじゃないかって感じ。
……私?
リアルイケメンは信用できないので。
だって、女性に困ってなさそうな人って
私みたいな地味な女を手玉に取るのなんて簡単でしょ?
それに……
個人的にいい思い出もないし。
だから、その知らない人が
私が落ちた音で起きたかどうかなんて確認もせず
部屋を調べよう、なんて思った。
]*
[目が覚めた時
クラヴィーアの音色は聞こえない。]
[聞こえたのは
運命の歯車が回り出す音
だけ。]
[気づくとアマミは大きな館の玄関のような場所にいた。
少なくとも館が何を模したものなのか、その内観にアマミには心当たりがない。
彼女は何か心当たりのかもしれないが。
わけが分からないと半ば呆れたかのように胸元のパイプに手を伸ばすと、違和感に気づく。
実はクラヴィーアが家に来るようになってからパイプを吸う回数が減ったのだ。
身体に悪いし長生きをしてみたくなったのだと、これは彼女には言っていないことである。
それはそれとして。
これは明晰夢なのだろうかと、違和感の消化を始める前に矢継ぎ早に聞こえる声には、アマミは苛立ちを隠せずにいたのだった。]
預かっただと...?
ふざけた事を...冗談でも許さんぞ。
[記憶の重みをアマミは誰よりもよく知っていた。それを預かるなどと言うものだから、冒涜にも程があると憤らずにはいられない。
しかし声はそれっきり聞こえては来なくて、小さな舌打ちと共にアマミは周りを見渡した。
姿が見えれば駆け寄ることになるだろうし、
姿が見えなければ
彼女
を探すことになるだろう。]*
[幸福な夢というのはどうして、覚めてしまうのか。
痛い思いをしていた時、何度も思った。
──────もう、私は紅の月を見ても、何も願ったりしないのに。
]
[目が覚めた時、見覚えのない洋館にいた。
そこは廊下で、立っていた事に理解がおいつくと思わずふらついた。壁に手をとっさにつく。]
……夢か?
[いきなり知らない場所にいる。それはあまりに現実感のないことだった。
これが縛られたり閉じ込められているなら真っ先に誘拐を疑う。これでも貴族だしその可能性も十二分にあるしな。
だが……体を動かしてみても自由に動く。
これは一体どういう状況なんだろうか。
・・・・・
が見えた。
そうして声が聞こえた。
……なんの事だ?
何を言っている?
記憶の一部?
そう言われてふと、おかしい事に今度はすぐ気づけた。]
[ ・・・・・
なぜ、私は
誰もいない
知らない家で食事をとっていた?
わざわざ材料を買って、そんなことを?
直前の記憶だけで既におかしい。
そんな行動普通に考えたら狂っている。
私は覚えがあった。
不自然に思い出せない記憶。
それは、
願った後に気づいたこと────……
]
[違う、あの月を見ていない。もう見たとしても家族の事が片付いた今、記憶を対価にしてまで願う事がない。
じゃあなんで記憶がおかしい?
心臓がバクバクなる。体が震えそうになるのを必死に堪える。
見知らぬ人が自分を見つけて駆け寄ってくるのが見える。
お面が顔を隠しているのなら、不信感をわずかに顔ににじませる。
この状況で顔を隠している人は普通に怖いさ。
落ち着け。私は前とは違う。今度こそ無力であらない。
私は相手に向かって優雅にカーテシーをした。]
・・・・・
どうも
初めまして。
[どんな反応をされただろうか。言葉を続ける。]
さっきの声を聞きました?
……記憶を預かったとか。
何かご存じですか?
[相手がどんな立場の人間なのか。それを知ろうとじっと反応を伺った。]**
ん…………
[
あれから、いつの間にか彼女を抱きしめて
眠ってしまっていた彼。
彼女と一緒に眠るのは心地良くて
起きるギリギリの時間までベッドから出られない。
心地良かったはずの睡眠は、
ベッドの微かな沈みによって妨害された。
ベッドが沈んだと思えば、音が立つ。
]
どないしたん……
[
そんなに彼女の寝相は悪くなかったはず。
彼は体を起こして、あくびを漏らしながら
彼女のほうを見つめる。
いつものように、両腕を開いて
おいで、と二度寝の準備を促してみて。
]*
| ────微睡の中に入る時
[
彼女の願いが届いたか、届いていないか。 彼女のごめんなさいは彼の耳には入らなかった。 彼女を愛した代償に、 彼女よりも先に微睡の中に入ってしまったから。
もし、彼がその謝罪を聞いていたのなら
『そう思うなら、信用してほしい』
から入っていたかもしれない。 全部、彼女の過去も背負いたいから。 彼女との未来を考えているから、 尚更知りたくなってしまうのだ。
教えてもらえないのなら、 心が苦しくなりそうで、辛い。
]* (24) 2021/04/03(Sat) 12:59:22 |
[
とりあえずここどこだろう、
私の部屋ではないな…なんて考えて
扉のほうへ行こうとしていたら、
どないしたん……なんて声が。
ああ、まあ…起きるよね盛大に音立てたし。
てか知らない人と一緒に寝てたのかな…
気まずい…。
そんなことを思って振り返ると、
こっちにおいで、と促すような仕草。
]
……???
[
思わず首を傾げた。
当然だけど、初対面の人と寝れるわけない。
……この人寝ぼけてる?
どうしよう…と思ったけど
とりあえず挨拶くらいはしておこうか…
気が進まないけど……
]
・・・・・
あの、
初めまして。
……ここがどこか知ってますか?
[
見覚えのない場所。
どこか空気が乾燥しているような、気がした。
まあこの人が何か知ってるとも思えないけど
でも、一応聞いてみようと声をかけた。
]*
[
いつもなら、女性特有の暖かさが
腕の中に入ってくるので二度寝に入れるが、
今日は何か違うらしい。
いつまで経っても、彼女が寝ようとしない。
]
……美鶴?
[
彼は、初めましてと言われて
冗談はもっと面白いもんを、なんて
返したかもしれないけれど、
目が冴えてきて周りを見渡すと
いつもと違う光景が広がっており、
流石の彼も少し動揺の色が滲み出たかも。
]
俺のこと、分からへんの?
*
[
……名前を呼ばれた。
あれ、私名乗ってないのに。
この人、なんで私の事……
]
……わからないも何も
会うの初めて
、ですよね。
それになんで私の名前知っているんですか?
[
向こうが動揺の色を見せていたのなら
此方は疑念と困惑の色が浮かんでいたことだろう。
実際に目の前の人が誰なのかわからないし、
少し考えて。
]
誰かと人違いしているんじゃないですか?
[
そう結論付けたのだった。
世の中には三人似た人がいる、とかいうし。
]*
[どうして幸福な夢は覚めてしまうのか。
きっとそれは、夢だからなのだろう。
覚ましたくなければ、現実に落とし込むしか道はないのだ。
覚めたくなければ、願ってはいけないと。
そんなこと己も彼女も知っていたはずだ。
]
[アマミは自身でも驚く程に冷静でいられた。感覚はあの島でクラヴィーアの傷の手当をした時に近い。
気に入らないが今は声
の言う通りにするしかないということは分かっていたが、重要なのはクラヴィーアがなんの記憶を失っていたか、だ。
己の記憶におかしなところがない以上、
彼女に何かあると考えるのが自然であろう。
]
............。
[その言葉が答えだった。
有り得るかもしれないという懸念があったとしてもいざ的中すれば流石に動揺はするものだが、面を隠しているならば顔色の変化を見られることもない。]
[彼女から微かに感じる警戒心は皮肉なことにどこか懐かしげのあるものだった。
あのころはどちらかと言えばアマミの方が彼女を警戒している節があったのは否めないが、それから今に至るまでの軌跡を彼女は丸ごと取り上げられたことになる。
まるであの島でのクラヴィーアとの出来事をなぞるように、アマミはお面を外して。]
ごきげんよう。
...さぁね。俺は君の記憶を取り戻すために
手伝い役としてここに連れてこられたようだ。
有り体にいえば、君に巻き込まれたと言うべきか。
[状況整理のために改めて鍵を探せば記憶が戻ることなどを伝えた後、行こうかと声をかけるが彼女はどう答えただろうか。
警戒心が少しでも薄まればいいとは思うが、それが難しいのは人嫌いのアマミが何より分かっていた。]*
[私の言葉に、目の前の狐のお面をつけた人は少し沈黙をした。
お面は外され顔が見える。その作りが自分の趣味に合致していようとも、それに心を動かされるような状況ではない。
ただ、顔が見えた事に少し、安心しただけだ。]
……え
手伝い役……ですの?
[ただ戸惑う。
考えがまとまらない内に、目の前の人に状況整理の説明を受けた。
行こうかと言われようともまだ状況についていけてない。]
いや、いえ。待って下さいませ。
……巻き込まれた、とおっしゃいましたわよね。
でしたら私より其方の方が問題ですわ。
それならばまずは其方が帰る手段を見つけなくては。
知らない方を巻き込む真似なんて出来ませんわ。
私の事は自分で何とかします。
[目覚めれば、元の場所に帰れる。そう言われたが確実かどうかなんてわからない。ここがどういう状況なのか。普通でない以上他人を巻き込む真似はしたくない。どうしたって。私はやはり、私の事を優先する気がない。
]
[待て、一回ちゃんと考えよう。
私の記憶は消えている。
そう思っていいんだと思う。でないとおかしい。
あの声は大切な人の記憶の一部を預かった。そう言っていた。
……願いが叶う月があるのなら、こういった理不尽で、人の手で不可能な事をやる存在がいたって何もおかしくない。
何故、どうしてとか色々思うとこはあるが……今は全部無視してやる。
……この人は手伝い役、巻き込まれたと言った。
大切な人というのはじゃあどういう事なんだ?
いや、勝手にそんな事をする声の存在を信じる方がおかしいのか?
……待て、なんか変じゃないか?]
あの、どうして私の記憶がなくなっていると?
他に何か説明でも聞いたのです?
[そう、私はまだ何も相手に話をしていない。
なのにどうしてそれを理解の上でいるのだろうか。
他に知っていることがあるなら教えてほしい。
情報がないのはそれだけで不安だ。]*
[ひっかぶった布団のかたまりは、ちょっとふるふるしてるかも*]
[もうひとつ気になることがあったとすれば、記憶をなくしたとしてクラヴィーアが大人のままか少女に戻ったかという事だったが。
心が動くよりも先に事態の解決を望む姿は少なくとも少女のそれとは趣を異にするとアマミは解釈する。]
そう、手伝い役だ。
1人じゃ心細いだろう?
[とは言ったものの、彼女はまだ状況を整理出来てないらしい。無理もない事だが、続く言葉には思わずふふっと笑いが溢れてしまう。
そうだ。クラヴィーアという女は、そういう人であった。]
[アマミはクラヴィーアへと告げる。
嘘ではないが、記憶を戻してもらわないと困るという己の意志を。]
どうやら君が記憶を取り戻さないと
駄目なようだ。
それに、時間制限もあるらしい。
これはもう、君だけの問題じゃない。
[記憶をなくせば人は死んだことと変わらない。それはあの島でもよく分かっていたことだ。
クラヴィーアに死なれては己も困る。
伴侶に選ぶと決めた女の問題は、決して他人事ではない。
しかし彼女の疑問には一度首を傾げて、その真意を理解すると1人納得するように頷いた。]
[目の前の彼女には「大切な人」が何を示しているのかがきっと伝わっていないのだろうとアマミは解釈した。
記憶をなくしたからだけではなく、
己が彼女に伝えて来なかったせいなのかもしれない。
]
生憎、俺の記憶は抜けていないからね。
2人ともか、どちらかが抜けているかしか
有り得ないとしたら、きっと君の方が記憶が無いと
考えるのが自然さ。
それでは不十分かな?
[そう、そこまでは推測でも充分たどり着ける領域だ。しかし彼女の不安を拭うために必要な情報量にはまだとどかないもしれない。
だからこそアマミは彼女に手を差し伸べて言うのだ。]
少なくとも言えるのは。
俺は君を守るためにここにいるという事だ。
俺の目を見て嘘じゃないと思うなら、
俺の傍を離れるな。**
[
おれの疑問に2番の人はだんまりで、でもぐるぐるして泣き出しそうなのはわかっちゃった。
ねえ、すごい気になるんだけど。
ちょっと落ち着くまで待つ必要があるっぽい?そんなに2番の人の事情って複雑なのかな。
……ねえ、おれ、すっごい気になるんだけど!
ふるふるしてる布の塊っていつ落ち着くんだろ?
おれ、めちゃめちゃ気になるんだけど!!
目の前に答えがあるのにおあずけなんてしたくない。
だから、おれが2番の人の布団を引っぺがしにかかるのは仕方がないことだと思うんだ!
]
[
って、さっきまで思ってたおれを、おれは殴ってしまいたくなった。
]
[
2番の人は服こそ着ている状態だったけど、それでもそこからのぞく首筋や腕にうっ血のあとがあったんだ。
それがなんの痕なのかってことくらい、おれにだって──…ちがう、おれだから、わかる、から。
]
──ごめん、おれ、お湯持ってくる……
[
これって、他人に見られたくないものだよねって、おれはわかるから、
それを暴いちゃったおれは、ばつが悪くなってその場を去ろうとしたんだけど……
]
[
『旦那さんが旦那さんになった時の匂いがあった』
──ふと、意識を失う前におれが食べたものを思い出してしまったんだ。
だから、去ろうとした足は止まるし、2番目の人の布団どころか服も脱がそうとするよ、おれ!
だって、もしおれが考えたとおりのことがあったなら、この人にもおれみたいな
鱗
が生えちゃうってことだよね!!
鱗そのままにしてたら死んじゃうもん!ちゃんと確認しなくっちゃ!!*
]
[
流石に、彼女はここまで頑なになれると
彼は思えなくて、凄く焦った表情が
彼を疑い深くみる彼女には写ったかも。
どうして、という感情と
なにがあった、という感情と、
訳がわからなくなってしまう。
これが家族の出来事なら
頭を掻き毟るなりなんなりしていた。
]
…………勘違いでも、人違いでもない。
貴方は、俺の恋人。
絶対に、これだけは譲らないし譲れない。
[
初めて会う人に対して言うことではない。
多分これは、彼が彼自身に対して
間違えるな、と言い聞かせている行為。
そして、彼女を見据える目は
少し朗らかになっただろうか。
]
……でも。
初めまして、忽那です。
*
[待てって言ったのにこの馬鹿犬…
暗かった布団の中が一気に明るくなって、布団をひっぺがされたんだって分かる。臥せっていた顔をシーツに押し付けて、せめて顔は見られないようにしよう。
一応、寝間着は着てる。俺は動けなかったけど目の前のこいつが着せてくれたから。でも眠っている間も抱きしめてきていた犬のせいで着崩れてたし、夢中になった犬はなんども首元に吸い付いてた。きっと痕がたくさん残ってる。
けして見られたいものではないが、やったのが目の前の本人だからそこは俺の中では許容内。なのだが]
……あぁ。
[申し訳なさげにお湯を持ってくるなんて気を使った馬鹿犬の様子に、ああそうか、こいつ記憶がないから俺が誰か他のやつとヤった後みたいに見えるんだろうなと思うと複雑な気持ちが大きくなる。
お前だよお前!!!
ほんと犬みたいに興奮して、でも腕は温かいし必死で優しくしようとしてるのが分かる手のひらで。あれが全部なくなったことになったのか、と思ったらまた泣きそうで、必死でシーツに顔を押し付けていたのに]
──?!
[臥せっていた体を乱暴に持ち上げられた。焦ったようにボタンを外そうとする手を必死で押しとどめる]
ちょ、おまえ、な
記憶、ないん、じゃ
[脱がそうとする手に抗って。どういうつもりか分からない、夕べの薬がまだ残ってる?それにしてもいきなり見ず知らずのやつ相手にこいつが襲うとも思えない。
混乱しながら、力の入りきらない手で必死で止めた*]
[
なんでそんなに焦った顔するんだろう。
そう思って言葉を待っていたけれど。
……続く言葉には眉をひそめた。
同級生でした、とかならまだわかる。
でも、恋人は……
それだけは絶対あり得ない。
私なんかが、こんな美形と?
あり得ない、信じられない。
あまりに驚いて何も言えずにいたけれど
そのあとに続く言葉で名前を知ることは出来た。
……人の好さそうな顔でこちらを見ている。
]
……忽那さん、ですか。
悪いけど、
貴方の言葉は信じられません。
私に恋人なんていないし、
いたとしても……
私は貴方みたいな人とは付き合わないです。
私だって、譲れません。
[
疑うような表情は崩さない。
はっきりと言う、絶対人違いだ。
信じろなんて言われても無理。
可愛くも美人でもない私が、こんな人に
好かれるわけない。
なんでそんな噓つくんだろう、とすら思う。
]
いっ……。
[
馬鹿にしないでください、と言おうとして
思わず手に力をいれてしまい、
鈍い痛みがはしる。
ちらりと左手首のほうへ目をやると
さっきベッドから落ちたせいだろう、
痣が出来ていた。
思わずさっと背中に腕を隠した。
]*
[
『記憶、ないん、じゃ』
2番の人がボタンに手をかけたおれの手を押しとどめなら言った言葉に。
旦那さんの時と同じだっておれはわかっちゃったんだ。
あの時と同じってことは、おれはきっとこの人を手酷く抱いたんだろうなってことだから、必死の抵抗も仕方ないって思うんだ。
おれはしちろが旦那さんだったからまだマシだったけど、この人はおれが覚えてられないほどに面識がないおれが旦那さんになっちゃったんだ。
それは、つらいことだってことぐらいはわかるから。
]
[だから、泣きたいだろう2番の人より先に、俺は泣き出してしまうし]
ごめん。
おれ、おれのせいで、君に、うろこ、死んじゃうから……。
おれ、覚えてないけど、
君を無理矢理、抱いたんだと思う。
おれの、時が そうだったから……。
ごめん、ほんとうにごめん……
[ぐしぐし泣きながらも、鱗を確認するという鉄の意志は揺らがない*]
[必死で脱がせてこようとする手をとめていたけれど。
ごめん、という声が聞こえる。ぐすぐすと鼻をすする音も。今泣きたいのは俺の方だと思うのだけれど泣きながらのこいつの発言に、問題があるのではないだろうか]
鱗、はえて、って。
ていうか、お前の時?ってなんだよ。お前、こんなのされ……って。
ああもう、いっぺん落ち着け!!!
[ぐしぐししながらも人を脱がそうとしてくる犬の頭に、拳骨ひとつ落としてやった。これで少しは会話が成り立つだろうか*]
……いたい
[
ボタンに集中してたのもあって2番の人の拳骨は、見事におれの頭を捉えたから。
ぐわんぐわんとする痛みに、俺は手を止めちゃうし、もう一回はくらいたくないから、両手で頭を覆いながら2番目の人の顔を見たんだ。
]
[
……うん、ちょっと落ち着いた。
襲われたヤツに服を剥かれかけたら普通は怒るよね。
ちゃんと説明しなくっちゃ。
]
えーっと。んーーー…
おれがお嫁さんになったから鱗が生えたんだってしちろが言ってて。
一週間くらい番ってれば血が安定して鱗なくなるって言ってたんだけど、その前にしちろが死んじゃっておれはこうなっちゃった。
あ、しちろはおれの旦那さんのことだよ。
今度はおれが旦那さんになったから、君にも鱗が出るかもって思って、
鱗出たらちゃんとやらないとおれみたいになっちゃうから……
だから鱗あるか確認しなきゃって、おれ思って……
[うまく言葉を選べなくて、でも言いたいことが伝わらないとだめだから。
おれはいろいろぶっちゃけた。ぶっちゃけすぎたけど仕方がない、人命が最優先だからね**]
──へー。ほー。ふーん。
[どこから突っ込めばいいのか分からない。旦那ね、旦那。こいつの。
それ俺初耳なんだが?鱗ってこいつの天然ものじゃなくて、旦那由来だったのか、とか。
その旦那何者?だとか。
一週間くらい連続でああいうことする気だったのか死ぬわ。とか。
なんか色々と言いたいことがありすぎて、どこから言っていいものか。
──俺が一番だって言ったその口で、旦那の話をするのか、とか。]
………。
[いろいろと文句を言いたいのに、今のこいつには記憶がなくて。しかも文句を言おうにも、相手がずっと前に死んでいると言われれば比べても仕方がないともいえるのだ。とりあえず、ふつふつと湧いてくる文句の吐き出し口がない。]
つまり、お前は一週間くらいこれから毎日俺を抱くつもりだ、と。そういう話か。
[嫌かと言われるなら、実際そうでもない。それで嫌がるなら最初の一回だって拒んでいたし。嫌ではないのだ。嫌ではないのだけれど、納得がいかない]
……まぁ、大体わかった。が。
俺さぁ、昨日コウイウことになる前に、言ったよな?
抱かれるのはいいけど、条件つけただろ。
そんで、今その条件満たしてないわけだ。じゃあ、抱かれるわけにいかないな。
[かかっているのはこいつのじゃなくて、俺の命だけど。そんなのはどうでもいい。
記憶を取り戻したとしても、こいつの中での一番が俺ではない可能性だってあるけれど。
どうなるかは分からない。けど、ハチヤの記憶の一部が消えているらしいこと及び、その手がかりについては説明してやろう。本当かは分からないけど手掛かりにはなる筈だ。けどその前に]
俺、風呂入りたい。でも立てないんだよな。
だから手伝って。
[そういって、両手を持ち上げようか**]
[
人の成長は人と関わって起こる。
私はアマミさん以外の人とも沢山接して来た。
彼の影響は決して少なくないけれど、だからと言って何もかもを失い続けて、すがっていた希望すらなくた時もブチ切れて自分の足で無人島に行くだけの精神は元からしていたんだ。
彼の記憶が抜けたからといって一気に大きく退行することはない。
ただ、心の一番の支えを失った分……それに今の私は自覚はないが相応に不安は大きい。それを他人には見せる気がないだけだ。
]
それは……
否定は致しませんわ。
一人よりは二人と言いますし。
[まだ戸惑いつつも一般論として返答した。この状況に一人は普通にその通りだから否定しても仕方ない。
続けた言葉に何故か笑われた。
当然の事しか言ってないのに何故だ。
目の前の人曰く、私が記憶を取り戻さないといけないらしい。
申し訳なさが胸に広がる。私の問題に人を巻き込むのはいい気分じゃない。]
[私の質問に対する返答を聞けば疑問は納得に変わる。
いいえ、十分です。と説明に対する納得を示しておいた。
……しかしこんな意味がわからない状況に巻き込まれて、知らぬ相手の記憶を探す手伝いを強要されているわりに冷静だ。順応力高いな
、狐のお面さん。
続いた言葉に、違和感を感じた。
嘘と思ったとかじゃない。その言葉は知らぬ相手に対してかける言葉に聞こえなかったからだ。
どういう訳か仕方なく、という感情を感じない。
ほんの少し自分のここに来る前の記憶をたどるだけでも私の中に欠けた『誰か』がいるのは流石にわかる。
あの大きな家に私は『誰か』に会いに行って、共に過ごしていた……筈だ。
その欠けたピースにいるのが目の前の人だなんて今は流石に思わない。
だが……もしかして、私の事を知っているのか? というわずかな気づきはあった。
差し出された手をどうするか考える。
────……信じるか、疑うべきなのか。
]
嘘じゃない
、そう思います。
[そう言って目をしっかり見返して手を軽く重ねる。]
ただ、無理して守ろうとしなくていいですわ。
貴方は巻き込まれただけの人でしょう?
なら守るなら私の方ですわ。
何があるか分からないことに巻き込んだ責任はとります。
記憶を戻して、無事に必ず帰れるよう致しますわ。
[そう言って空いている手で軽くスカートを持ち上げつつ頭を下げた。
私は選ぶなら、人を信じる人間でありたい。
母の事を思えば愚かな選択肢だろうし、裏切られることもあるだろう。それでも、自分で選んで傷付くならそれでいい。
どういう思いでこの人がここにいるかわからない。
だけど感じ取った守ろうとしてくれる心を踏みにじったりしたくない。相手が他人であろうとも、それでも。私は踏みにじる人間になりたくない。]
改めまして巻き込んだことをお詫び申し上げます。
大変申し訳ありません。暫しの間宜しくお願い致します。
私の名前はクラヴィーア・シーモア。
貴方の事はなんとお呼びすればよろしいでしょうか。
[名前を聞くことが出来たのなら、軽く笑ってでは行きましょうか。と進みかけて。
念の為に玄関から出れないか調べてみませんか? と歩みを進めることにする。
扉からでれない事を確認すれば、それもそうか。と軽くため息をこぼす。
そうして近くに飾られている蝶の置物に目を付ける。
なぜだろう。
『鍵かもしれない』
と認識出来た。
それを手にしたら……それは
『違う』
と消える事で認識する。……というか物が消えた。うん、これ現実じゃないな。
そうして馬鹿にしたような笑い声を聞く事になる。
]
……この館の主は随分な性格なようですわね。
[目が決して笑ってない笑顔で静かに怒った。
とりあえず、
元凶を許さないことは決定だ。
]**
[……方法が分かっている訳じゃない。
自分だって状況に振り回されている。だから言った言葉
に自信があるわけじゃない。そうしようという意志は嘘じゃないがな。
私はただただちっぽけなだけの人間だ。
心は多少
逞しい方かもしれない。だがそれだけだ。
それでも、何かあった時一回だけでもいい。巻き込んでしまった人を庇う位は出来るはずだ。
心の奥の不安はただひたすらに隠して。
相手の少し前を歩こうとするのは相手に気づかれるだろうか────…… ]
― 喪失 ―
[ピアノが好きだった。その記憶も思いも失った。
それでも今私は出来るだけ音を鳴らせるよう教会にあるオルガンに触らせて貰ったりしている。今の家に運ぶには実家のピアノは少々重量すぎたしな。
失くしても、もう一度好きになれない訳じゃない。
思い出はもうなくても練習すれば体が覚えてくれていた楽曲をへたっぴながらに響かせる事が出来た。
それが嬉しかった。
心が忘れても体が覚えてくれている事があった。
たまには聞きに来てくれてもいいんだぞ、って誘ったこともあったがあの人は果たして聞きに来てくれたことがあったかな。
教会にあるのがそれだから、という理由もあるが
オルガンを弾くとどこかくすぐったい思いがあったのは
『どこぞの誰かの本の題目を思い出すからだよ』
って事を話したことは、あった。
今は、その本の存在すら……思い出すことは出来ない。
]**
[2番の人がたてる聞き耳に、どんどん室温が下がってってる気がしたんだけど、それでもおれは話さなきゃいけないから話したんだ。
話し終えてちょっぴり静かになったあと、2番の人の口からでた言葉に]
うん……抱かきゃならない。
[って、正直に答えるよ。2番の人がそんなん死ぬわって思ってるなんて気付かないからね。
今のおれにはわからないことだけど、おれじゃなくて2番の人の旦那さんになったおれが同じことを聞かれたら「抱きたい」って答えたと思うんだ]
[
なんだろうか。
ここまで拒否されると、
意外となんでもよくなってくるらしい。
というより、距離感の感覚としては
出会ったあの頃に戻ったか、
もしくはもっと遠くなった。
どんな人となら付き合うのだろうか。
]
まぁ、とりあえず俺みたいなやつとは
付き合うことはないってやつね。
はいそうですか、で納得するほど
俺はいいやつではないので、っ……
[
話をしよう、と言おうとしたその言葉は
館の主とかいう声に遮られ。
つまり、今は仮想空間なりパラレルなりで
目の前にいるのは彼のことを忘れた
最愛の人。性格も出会う前に戻ってる。
]
ふざけんなって話か……
…大丈夫?
何かあるとそうやって隠す癖、
昔からなんだ?
[
彼女が苦痛の表情をした。
腕を隠したから何かあったとは思う。
見せてくれるならいいのだが
多分今の彼女は見せてくれなさそう。
信頼されてないし、
警戒しかされてないから。
]*
条、件……ごめん、頑張って思い出す。
[
お嫁さんになる前に条件があったらしいけど、頑張って思い出そうとしても、きれいさっぱり消えてしまったおれの記憶が戻ることはないみたいで。
思い出して満たさないと2番の人を抱けなくて、
このままじゃおれと同じになっちゃうから、頑張ってみたさないといけない。
そうなるまでは…………そうだ。
]
じゃ、じゃあ、今度から鱗出たら教えてほしい。
鱗出なくなるまで、おれが君の鱗剥がすから!
[
応急処置にしかならないけど、やらないよりはずっといい。
お風呂の手伝いはもちろんするよ!鱗のチェックもしたいもん*
]
[条件を思い出すと悲壮な顔をしているけど、悪いのはこいつじゃなくて記憶奪ったやつなんだよな。そうは思うけど俺のことを考えるって言葉に不満がちょっとだけ和らいだ。なにかの拍子に思い出さないだろうか。物語みたいに愛情で思い出すとか、信じてはいないけど。思い出してくれたら、という気は、ちょっと、する]
──、…。
[鱗が出たら、俺が剥がしてやるから教えろ。俺がずっと前にこいつに言った言葉だ。忘れてても、記憶のどこかにあるのだろうか?それともただの偶然?
コイツの中に、俺の痕跡があるのかどうか。そう思ったら、またなんか泣きそうだった*]
[この部屋のお風呂はやけに広い。
その湯船にいっぱいお湯を用意してもらい、ゆっくりと湯船に降ろされる。服を脱がされて気付いたんだが全身噛み痕やらがたくさん残っていて、そりゃこれは痛いよな、という状態だった。
そういえばこの風呂も夢の産物なのだろうか。分からないけど俺はシャワーよりも湯船にゆっくり浸かる方が好きだし気持ちいいから構わない。
さっきからハチヤが俺の体を見てはごめんねを連発している。鱗チェックはするっていって、湯船につかった俺の体を検分しているのだが。とりあえず俺はハチヤ以外が相手っていう誤解だけはされてないようなのでよしとした]
なー。左手。
[湯の中から手を伸ばして、ハチヤの左手を貸せと要求する。
昨日、あのとき。こいつは自分で自分の手を握りすぎて傷を作った。血のにおいに酔った俺は行為中にずっとその指を舐め回していて、途中から必死になりすぎてガリガリ噛んでた記憶がある。確かめた指先は爪痕と、噛んだ痕とで酷いことになっていた]
……。
[そういえば聞かれていないからと自己紹介もしていない。俺に興味を持てよ嫁のつもりなんだろうに。傷のついた指をぱくりと口に含み、指先で自分の牙に触れさせる。これで気付いただろうか、俺がクリムゾンだって。
塞がりきっていない指はちょっとだけ甘いあじがして、このまま続ければそのうち酔ってしまいそうだ*]
[
勢いで言ったけど私どんな人となら
付き合うんだろう……
いや、まあ美形とは付き合いません。
それは確か、かな。
いいやつじゃない、なんて言って
何か話そうとしたらしい目の前の人は
ふと黙った。
何?と思ったけどすぐ理由はわかった。
……声がする。
]
記憶、の一部…
[
記憶の糸を手繰り寄せてみても
自分の記憶に何か変なところがあるとは思えない。
でも、目の前の人との話の齟齬からすれば
記憶をなくしているのは私……
ってことになってしまう。
……そんな、記憶を奪うなんて。
そんなことできるわけないし、
何よりもし奪われた事実を認めれば
目の前の人と恋人だったことになる。
……ますます信じられない。
]
……何でもないですから。
貴方に心配されずとも平気です。
[
腕を隠したことについて言われたけど
見せる気なんてない。
……多分ただの打撲傷。
捻挫とかはしてないはずだし、少し痛いだけ。
それより気になることを言われた気がする。
隠す、癖……?
よく分からないけど失礼なこと言われてるような。
]
隠す癖、とか言ってましたけど。
どういうことですか。
[
イラッときたので思わず聞いてしまった。
]*
[
2番の人を湯船につける前に、その衣服を解いていくんだけと…
]
…………っ!
[
うっ血噛み跡、丹念に舐めたんだろうなって唾液黙りまである状態に、きちんと洗ってやってから寝かせなよ昨日のおれ!!!って、なるよね。
なっちゃうのはしかたないよね。
]
どんだけだったんだおれ……
[
残された痕は行為の激しさを雄弁に物語っていたから、ごめんねって言わずにはいられない。
真っ赤になったり真っ青になったり、おれの顔はちょっと酷いことになっていただろう。
]
[
言われるままに左手を出したら、その指が2番の人の、おれのお嫁さんの口に含まれた。
]
──っ! あー…
[
昨晩のあとをそのままにそんなことするのって、おれの理性試してるのって聞きたくなったけど、おあずけされてる真っ最中だから。
それは我慢するつもりだから、尖った歯でかりかりするのはくすぐったくて変な気持ちになるので止めてほしいなあって思うんだ。
……って、尖った歯の存在を主張されれば、おれにだってお嫁さんが吸血鬼だってわかるんだ。
それがわかれば、この行為も血のおねだりなのかなって気がするから。
]
お嫁さん、吸血鬼なの? 血、吸う?
[
おれは、真っ赤な顔のままでお嫁さんに確認することにしたんだ。
名前は聞いていないし教えてもらえなかったけど、お嫁さんはお嫁さんだから、お嫁さんでいいかなって**
]
[吸血鬼じゃなくて、クリムゾンだって。
それは何度も言ったけど変わらなかったから、きっと言っても変わらないのだろう。だからそれはそのままに]
……エン、だよ。名前。エン=クルス。
ん。のむ…
[やけに赤い顔をしてるのはなんだろう。まだのぼせるほどの時間は経ってない、というか湯に浸かってるのは俺だけで、こいつは服も脱いでないんだけど。
牙で触れていた左手をポイと手放して、服を着たままの体にぎゅっと腕を回す。指からの血液は少量すぎて、燃費が悪く人より多めの血を必要とする俺には物足りない。ちゃんと血を飲むなら、こっちがいい。
首元にちろりと舌を触れさせて。やっぱり思い直して服のままのこいつを湯に引き込もう、こっちの方が安心して抱きつけるし]
[改めて、首元の下の方。襟で隠れるくらいの位置に牙で小さく傷をつける。噛んでしまうのが一番吸いやすいって知ってるけどめちゃくちゃ痛いとも知っている。ノアさんなんかは傷をつけたら後でちゃんと回復するらしいけど、魔法の効率が悪い俺が回復をすると、せっかく血を吸って得た力を全部使ってしまって血を吸った意味がなくなってしまうから。俺に回復はできない。その代わり、長い寮生活の中で覚えたのが]
──ん。ふ…
[小さく傷をつけて、流れた血を舐めるって行為。これなら血もあったかい。
ただ問題があって、俺は血に酔いやすい。だから最初の頃はこいつに注射して血をもらい、水で薄めて飲んでいた。こいつは注射を嫌がってたけど。でもこれで血を舐めると、どうしても血液そのままを舐めることになる。現に今、だんだんと思考力が弱まっていってるのが分かるけど……どうしてもやめる気にはならない]
はちやぁ…
[首元に舌を這わせながら零れた名前は弱弱しいものだった。あまえる。体を包む温かいお湯も、抱きついた体もきもちいい。頭がぼんやりする]
おれを、おもいだせ、よぉ……
[どっか、おれのこえで、しゃべってるのが、きこえる……**]
[人間は足さえあれば歩ける。
彼女の足を支えるのは何も自分だけのことではなかったようだ
考えてみれば当たり前のことかもしれないが、人との付き合いがないアマミにはそれを察するのに時間を要するのである。]
だろうな。
俺がもし君の立場なら1人はごめんさ。
[助けを求めることは決して悪では無い。
そこに後ろめたさがあったとしても、そうやって互いに義理を通して行くことで人はこれまで生きてきたのだ。
だからアマミは彼女の問題に躊躇いなく
首を突っ込むことになる。
こちらの返答は納得いただけたようで、彼女の聡さを改めて実感しつつアマミは彼女の答えを待っていた。]
[たとえば記憶の欠片をピースに例えるとして。ピースを填める外枠は何に当たるだろうか。
それは即ち記憶を元に感じた情動と言うべきか。欠けたピースがアマミであろうと、クラヴィーアが気づかないのも無理はない。
そもそもアマミというピースが存在する、その事実そのものをこの館の主は彼女から奪ったのだから。
アマミは今の彼女にとっては、外枠の更に外側にいる異分子でしかないのだ。]
[嘘じゃない。
そう答える彼女は少なからず己を思い出してくれているのかと一瞬そんな期待が脳裏をよぎる。
しかし、そんな都合のいいことなど起こり得るわけはない。
期待はすぐに捨て去られることとなる。]
俺は無理して人を守るような人間じゃあない。
単純に、君に危険な目に遭われたら俺が困るんだ。
[それは義理ではないのだと、今一度つよく彼女に主張するのは自身がクラヴィーア程に義理堅い人間ではないことを示すためだった。
彼女と自身では思考の根幹が決定的に異なっているのだと。]
俺か?俺は.........アマミ。
君がこの先二度と忘れられなくなる名だ。
[そう意味ありげに微笑むとクラヴィーアの一歩前を歩くことにした。]
[それからアマミは彼女に顔を向けないまま、クラヴィーアにひとつ提案を示す。
それは言葉遣いのこと。いきなり示されればクラヴィーアは混乱するだろうか?
アマミは彼女程気遣い上手でもなければ優しくも無いためにそこまで気が回せないのだ。]
ところでこれは老婆心のようなものだが...
その口調、喋りづらくないかい?
[クラヴィーアの提案に乗る形で玄関を調べている時、さりげなく話題提起を試みるのだった。]**
[それから結局、大方の予想通り玄関の扉が開くことは無かったわけだが。
彼女が
それ
を手にした時、アマミは独り言のようにその名を呼んでいた。
Бабачика(バーバチカ)、『蝶』と。
しかしクラヴィーアが静かに怒りを滲ませた時
にはその通りだとしか思えず、同調するように下唇を軽く噛んでいただろう。]
あぁ。それについては同感だ。
人の記憶で遊ぶとは、悪趣味が過ぎる。
[赤の他人がヘラヘラと弄っていいほど記憶というものは安くないのだと。
彼女の前では久しく怒りで声を震わせていたのだ。
昨日ロゼリアを追い返した時よりも
怒りは強かったが、今の彼女がどう覚えているか
分からない以上、比較出来たのかは不明だ。
]
[それから彼女の様子を見つつ探索を続けることになるのだが記憶の鍵を探すのは手伝えるが直感的に正解を導き出せるのはクラヴィーアのみだ。
ならばと彼女の進む方向について行く事にしたのだが、彼女の前に出ようとすると何故か彼女が更に前に出てくる。
彼女の言葉
は、その行動の裏付けとなるのだろう。
アマミはその場に立ち止まって、彼女に語りかける。]
クラヴィーア。突然だが...
これは俺の持論なんだけどね。
記憶を無くすというのは
死んだも同然だと俺は思うんだ。
その人が得た経験や感情の成り行きが
丸々抜け落ちてしまうからな。
その人の歩みの記録が無くなったというべきか。
[緊張を解すための話題提起にしては少々重すぎたかもしれない。
それでもアマミは言わずにはいられないのだ。このまま彼女の記憶が戻らない可能性は避けたかったから。
アマミは前に出ようとする彼女を止めるように腕を彼女の前に出して庇ったのだった。
奇しくもこの言葉を彼女に向けたのは初めてではなかった。
]
美鶴さん、何かあるとよく隠す。
寂しい時も、大丈夫っていう。
軽く怪我した時も、指摘するまでおしえない。
あぁ、生理の時も……
いやこれは俺の配慮不足だけど、
教えてくれればいいのにって思ってた。
[
若干喧嘩腰の彼女に
ひとつひとつ説明していく。
1番最後は、気づかなかった彼が悪い。
察してあげられれば良かったけれど、
そんなことは容易にできず。
彼は、見せてくれないならそれでいい、と
とりあえず彼女にも椅子か何かに
腰掛けたらどうかと促しただろう。
]
距離保ったままがいいなら、
それはそれでいいので。
*
[私の意見に同調する言葉にそうですか、と返答した。
助けを求める重要性は身にしみている。それでも、どうしたって自分は頼るのが苦手な性分を変える事が出来ない。
────それは、かつて頼りたいと願っていた相手に信じて貰えなかったトラウマが起因となっている訳なんだが。心のトラウマは簡単に完治しない。
巻き込まれただけの人に望まない事を、無理をさせる気は一切ない。
それなのに目の前の人はそうじゃないと言葉で示す。
この人は私を知っているのかもしれない。
それを確信に一歩一歩進めていく。]
困る事がありますの……?
[可能性を確信に進める質問を一つ投げてみた。どう返ってきただろうな。
意味ありげに笑って告げられる名前。
どこからくる、その自信は。夢なんて覚めたら忘れてしまう事も多々あるというのに。]
……アマミ…殿ですか。
え、と。それはどういった意味で……?
[今まで一度も呼んだことのない敬称を付けて呼べば、体が違和感を訴えた。違う
、と。
その呼び方でない
、と。でも私はその違和感の理由に辿りつけることはない。
とりあえず、今回のこの人の第一印象は落ち着いて冷静な大人の人だな。とはなった。加えて変わった人だな。という評価もついた。
]
[玄関を調べている時、不思議な事を言われた。
……日ごろから使ってる口調なんだがなぁ。
見た目からして私は貴族とまで仮に見えなかったとしても、いいところのお嬢様以上には見えるはずだ。
目の前の人だって身なりがいい。ごきげんよう、と返答してきたり、言い回し的にきちんと教育を受けた事のある立場の人間だろうという事はわかる。
そういう立場の人間が口調を指摘してくるという事は余程変だったのか……?
え、そこまで板についてないのか?
]
いえ、特には……。
どこか変でしょうか?
[もしかしてとてつもなく言葉遣いを間違えているのだろうか、とかなり不安になった。]
[そういえばバーバチカは蝶という意味だったな。
と思ったのは小さな呟きとほぼ同時だった。
]
全くだな。
[あ、いかん。怒りすぎてちょっと素が出た。
さっきの指摘をくらったのでどう喋るべきか考え過ぎた。軽く咳ばらいをする。]
……記憶というのは軽いものではありませんものね。
[失った事がある分余計にわかる。
あの時は願いの為の対価。だから納得も出来た。
今は? ……見返りなんて何一つないじゃないか。
関係ない人(?)まで巻き込まれているとかどんな冗談だ。
ロゼリアさんの事は今は連想することがない。
ただ、記憶を浮かべるとしたら彼女が来訪して来た事がある事実のみ。顔は浮かんでもどうして来たか、どんな会話をしていたかが浮かぶことはない。
]
[少し前を歩こうとすると前に出られる。
身長差というのは歩調にも出る。小さいもんな、私。頑張らないとどうしても抜かされる。
くそぅ。
アマミ殿が立ち止まったのに合わせて私も足を止めた。どうしたんだ? と思うと言葉がかかる。
]
……死んだも同然。
[記憶を失くすことを軽く見ている訳じゃない。
それでもなお私は、人より自分の方が軽い。それだけなんだろう。
前に出るのを止められる。
腕で庇われる。]
…………
[とっさに言葉が出なかった。
“失くしてほしくない”そう願われた気がした。]
どうして……。
[どうしてなのだろう。
この人にとって本当に、私が他人じゃないという事なのだろうか。
どうして、そこまで……。
ただ、その言葉に心を強めに叩かれた。
最悪この人が無事に帰れれば、私は記憶を失くしてもきっと満足するんだと思う。
それを許さないような言葉が、ちっぽけな自分を救いあげようとしてくれているようで……。
どうして 私にそんな言葉をかけれるのだろう。
……少し泣きそうになるのをぐっと堪えた。
そしてあの時と同じ返答を、今の私はまだ 返せない。
]**
[
喧嘩腰なのにも動じてないのか
一つずつ説明される。
…初対面の人になんでこんなこと言われてるんだろう。
でも確かに、心当たりがないわけでもない。
軽い怪我なら指摘されるまでほっとく。
寂しいとき…に関してはちょっと―――…。
避けるように目をそらした。
なんでほっといてくれないんだろう。
でも言われっぱなしも癪なので
]
教えてもらえないくらい
信頼されてない
ってことじゃないですか?
そんなので恋人だなんて言われても。
[
そんなことを言って、
立ちっぱなしなのも疲れるので
手近にあった椅子を引き寄せ、
忽那さんからは離れた位置に座った。
座って相手が何か言いかけたと思いだせば、
渋々促してみようか。
]*
何か私に言いたいことでも?
[
え、ん。
お嫁さんの名前はエンっていうらしい。
確かめるように名前を口にしていると、エンはおれの手を離して服も着ないでおれに抱きついてきた。
お風呂だから服着てないのはあたりまえだけど、あたりまえだけど!
意地悪って自覚はないんだろうな!
なんかぽやぽやした顔をしてるけど、おあずけまるっと無視して襲われるとは思わないのかな。
エンと一緒にいたおれってそんなに信用されてたのかな。
エンの隣にいたおれってどんなヤツだったのかな、エンの隣でどんな顔してたのかな……。
そんなことを考えてたのもあって、腕力の差があるのもあって、ろくな抵抗もできないまま、おれはエンの手によって湯の中に引き込まれてしまったんだ。
……着替えってあるのかなぁ]
[濡れた服は脱がせにくいと思うんだけど、それでもエンはおれの首元に牙をたてることができたみたいだ。
しちろみたいに、がぶっと噛むと思ってたから、おれはぎゅっと目を閉じてくるだろう痛みに備えていたわけだけど、なんか空回りしたっぽい]
……んっ
[ぴりっとした痛みのあと、滑ったものが首から下を這う感覚に、おれは体を捩って逃げようとするんだけど、
上に乗ったエンがそれを許してくれなくて。
舐める音に混じるような弱々しくて切実な願いに、
おれは頭を捻って応えようとするんだけど、
手強いにすぎる記憶の蓋がそれを許してくれない。
逃げ場なんて見つからないまま、おれはエンが大人しくなるまでされるがままになるしかなくて。
やっとのことでエンを寝かし付けると、おれは一人で部屋の外に出ることにしたんだ*]
[襲われる心配はしないのかって?大丈夫俺の方が力は強い。もっとも酔っぱらってる間の記憶はほぼないのだけど。以前から酔うとやらかしてるのかたまにじっとり見られるけど、記憶にはさっぱりない]
んん…
[気持ちよくて、足の間で緩やかに反応してる。自分で触ってもいいけど、昨夜散々気持ちよくされた俺はもっと気持ちよくなる方法を知っている。
片腕はハチヤの首に回したまま、片手でこいつの手首を掴んで触らせると、自分の手のひらよりも気持ちいいんだって]
[硬直したみたいに動かないから、勝手に握らせて上下に動かすと、昨夜の行為で敏感になったからだはあっさりと上り詰める]
んっ、あ、あ、ふ…
[昨日散々出したからそこまで反応はよくないけど、時折舌を伸ばして流れる血を舐めとりながら手を動かすと、ちゃんと吐き出すことができた。
もっと気持ちいいのもしってるけど、それはお預けだから。あ、指くらいならいいかな。でも今は無理、昨日は本当に激しかったから。体力尽き欠けていたところにもう一度の吐精で、俺はもう限界だったから。ハチヤに体を預けて、とろとろと意識を落としてしまったんだ**]
[
彼女の一言は1発KOものだった。
そう、彼は付き合って以降も
彼女から絶対的信頼というものを
得ていないことを分かっていた。
何かあるなら言ってほしかったし、
聞いてほしかった。
でも、そこまで踏み込んでもらえなくて
一緒に暮らす時も彼女の意見は
そんなになかった気がする。
勿論、聞いたけれども。
好きなようにしていいよ、と
言われていたので選択肢を作って
何度も彼女に選んでもらった。
]
そうなんですよね。
信頼されたかったけど、
信頼に値しなかったみたいです。
だから、……潮時かなとか、
たまに頭によぎる時もあったんです。
だって結婚しようって言っても
彼女すんなり受け入れてくれるとも
考えられなかったので。
[
自嘲気味にはなしていると、
彼女から話したかったことがあるのでは、
と改めて話を振られた。
あぁ、と彼は悩んで一瞬口をつぐんだ。
早速というにはあれな内容で、
彼女はすぐに教えてくれなさそうな
内容なのである。
]
んー…………
そうだなぁ…………
話せるなら教えてほしいことがあって。
貴方の学生時代の話。
どんな人と仲良くて、
どんなことが好きだったのか。
[
記憶がある彼女に聞いても
過去の話はあまり好んでしてもらえなかった。
だから、まぁ今の彼女に聞いても
教えてもらえないとは思うのだけれど、
聞いてみないことには何も始まらなくて。
]*
[
信頼されてないんじゃないかと、
半ば挑発気味にいったのに
相手は怒らない。
自嘲気味に話しているのを、淡々と聞いていた。
……なんか若干可哀そうな気がしなくもない。
でも、結局この人の話は
“私”が踏み込んでこないって話だ。
踏み込まれないなら踏み込めばいいのに。
なんて、思うけど。
それこそ、今している話をそのまま
“私”にすれば何か変わるかもしれないじゃないか。
]
[
正直今の私に恋人?だった頃の話をされても
反応に困るとしか言いようがない。
だから黙って聞いてた。
そのあとに促した言葉には、
一瞬の沈黙の後、言葉が返ってくる。
……話せない。
恋人だったという話が本当なら、
この人は私にとって大切な人だったはずで
そんな人ですら知らないのなら、
“私”は話そうとしなかったってこと。
……今の私もそれは同じ。
話したくなんて、ない。
]
恋人だった私から聞き出せていないのなら
今の私から聞き出せるわけ、ないと思いますけど。
それこそ、私は貴方の事、
信頼なんてしてないんですから。
[
冷たい返事だと思うけど事実。
でもこれでは流石に少しだけ可哀そうかな、
なんて思ったから。もう少し言葉を重ねる。
]*
人のことを聞きたいなら、まずは自分のことを
知ってもらうことからじゃないですか?
私は貴方の下の名前すら知らない。
そんな人に何か話したいなんて
思えるわけないと思いますけど?
……忽那潤。
京都生まれ京都育ち。
貴方と同い年で、
母親は専業主婦。父親は会社員。
大学からこっちに出てきて、就職決まって
歳月荘に引っ越してきました。
貴方の住んでいた203の横、202に。
菓子折を持って行ったら、怪訝そうな目で
見られて、名前聞いたら若干嫌そうな顔されて。
でも、自然体で生活してるんだって
思ってしまったから、一目惚れをしました。
そこから、貴方に連絡先を聞くまでに2年。
付き合うまでに2年かかりました。
…………自分が覚えている体型より、
体つき丸くなったと思いません?
[
確かに、今回に関しては
フルネームで自己紹介をしなかった。
故に、彼はダム決壊のように
つらつらと真顔で彼女を見ながら
ある程度のことを話した。
それで彼女がどう出たかは定かではないが
少しでも、彼女に警戒されないように
話せることは話したかった。
]*
[
自己紹介をひとまず遮らず聞く。
正直ツッコミどころだらけというか。
いや、彼にとっての事実ならおかしなところは
ないんだと思う。思うんだけどー…。
……一目惚れなんて、現実にある…?
でも、この人は顔じゃなくて
私の……素に惚れた…?
そんなことある……?
だって私、相当自堕落な生活をしてたはず。
自然体って言えば聞こえはいいんだけどさ…。
……少なくとも四年間くらいずっと、
この人とは何らかの付き合いがあった。
そういうことになる、んだけど……。
……………私の記憶に、ない。
え、そもそも……
]
……ありがとうございます。
あの、いくつか言いたいというか、
確認というか……。
一つ目。
私は確かに歳月荘の203に住んでました。
でも……
・・・・・・・
202は、空室だったはず、なんですけど…。
[
そう、204なら隣人の記憶がある。
でも、202は…ずっと空室だったと思う。
……あれ、もしかして本当に記憶が消えてるなんて
そんなこと、ある…?
だって、この人が嘘ついているのなら、
私が歳月荘の203に住んでたって
知ってるのはちょっと不自然、だよね…?
]
二つ目。
……隣人としての私は、
どんな態度を取っていましたか?
連絡先を私から聞くって相当…
難しかったんじゃないかと思うんですけど。
[
私は基本的に煩わしい付き合いが嫌いなので
警戒している相手にはまず連絡先なんて渡さない。
年下の男の子であったり、私が苦手なタイプでなければ
隣人として連絡先を交換してもいいか、とは
思うだろうけど…この人は多分。
私が連絡先を渡さないタイプの人だ。
関わったら面倒ごとに巻き込まれそうだし…
]
三つ目。
体型は……私ちゃんと朝食をとるようになって
自炊も…………。
………もしかして、
貴方が私に食べさせたりしてましたか…?
[
体型の事を指摘されれば、
確かにそう。
いつから太るほど食べるようになったっけ、
と思い返しても、食べてる時の記憶がない、
と言うか…お昼ご飯の記憶なら思いだせるけど
朝と夜の記憶が、いや一人で食べてはいるんだけど。
夜は私が作っている記憶が確かにあるんだけど。
朝食は、誰が作っていた……?
]*
う…ん
[ぱちり、と目を開けると寮の自室だった。俺はあまり寝起きがよくないから眠る前のことをゆっくりと思い出して──]
……ん?
[ハチヤが俺のことを忘れていた。
あれは夢だったのか現実か。よく分からない。寝返りをうとうとしたけど、腰がだるすぎて諦めるしかないらしい。
ハチヤに風呂に入れてもらったのは本当?あれが本当だとしたら、ハチヤの記憶喪失も本当になるのだが。でも寮の自室の風呂は木製なのに、あの時に風呂は大理石風だったような。あれは寮じゃなくてクルスの家の]
……そっけなさすぎて、
引越しを考えるくらいだったかな。
挨拶しても若干避けられたし、
お裾分けに行ってもなんとも言えない対応。
あれ、俺初対面で何か悪いことした?
ってすごく考えたこともあった。
別になびいてほしかったわけでもないし、
警戒され続けるなら友達にもなれない。
めちゃくちゃとまではいかないけど、
かなり、滅入った時もあったかな。
ご飯は付き合い始めてからはよく
一緒に食べるようになったんじゃない?
美味しそうに食べてくれるから
作るときは結構頑張ったなぁ……
……分からんなぁ。
[そもそも記憶なんて狙って取れるものか、取れたとして何の意味があるのか。それから
ほんとうに、その記憶を戻らせる必要があるのか]
[
彼女の確認事項に、丁寧に答える。
それは、現状把握のために
とても必要なことだから。
彼女との物理的距離が少しでも
短くなれば行動しやすくなるけれど、
多分それにはもう少し時間がかかりそう。
彼は彼女に、まだ質問ある?と尋ねただろう。
]*
[ハチヤは俺と違ってコミュニケーション能力が高くて、俺はいつもハチヤの斜め後ろから学園を眺めていた。
例えば、記憶が戻らなかったとして。あいつは俺とあったことなんて忘れて皆と楽しく過ごして卒業していくのだろう。なんの問題もない。これが記憶をなくしたのが俺だったら、そうはいかない。ハチヤ以外に知り合いのいない学園でハチヤを失ったら。なかなか打ち解けられない俺は、きっと今よりも孤立するのだろう。
そう、そう考えればハチヤの記憶なんて戻っても戻らなくても大した問題ではないじゃないか。鍵も、みつかったらラッキーくらいで。気楽に、さがせば、いいじゃないか。
なんの問題もない。忘れられた俺のこの感情なんて。]
──嫌、だなぁ…
[どうでもいいものだ]
[ちょっと目じりに浮かぶものを振り払って視線を動かすと、視界の端に光るものがみえた。何の気なく手を伸ばして触れて、あ、これひょっとすると鍵?と思うのだけれど]
うわ?!
[触れた瞬間にぱちりと小さく痛みが走る。静電気のような。同時に頭の中に笑い声と、話し声が響く]
『あいつめんどくさいよなー。クルスに拾われただけの出来損ないのくせに』
[誰の声だかは知らないが、言われている内容はいつものものだ。俺は陰で俺がなんて呼ばれているかなんて知っている。『クルスの出来損ない』なんて、もう言われ慣れたものだ。けれど]
『だよねー。クルスじゃなきゃ、話しかけないって』
[答える声が聞きなれたものというだけで、意味が違ってくる。ちがう、あいつはそんなの言わない。俺は枕で両耳を塞ぐようにして、必死で聞こえないふりをした*]
[
確認事項に相手は丁寧に答えてくれる。
素っ気ない態度。
避けてた、お裾分けにもあんまり反応しない。
……私が想像した通りの対応。
本人がそうするだろうって思うことを
この人が知ってるってことはつまり、
ほんとにそうされたってことで……
私は結構その、極端なことしてしまう自覚はある。
多分、“失礼だろうな”と自覚するくらいに、
素っ気ない態度を取ってたんじゃないだろうか。
……ご飯も作ってもらってたことがあるなら
作った記憶がないのに、美味しい料理を食べた記憶とか
私なら作らないような朝食を食べた記憶とかを
覚えているのは……辻褄があう。
しばらく考え込んでしまったと思うけど……
記憶が欠けているのは、多分事実だ。
頭では多分そうだろうとわかっても
心が追い付かないので、質問を重ねる。
]
……そうでしょうね。
私なら、そうする。
その上でもう一つ聞きたいんですけど。
そんなことされて嫌いにならないんですか?
滅入るくらいのことされて、
失礼な態度を取られて
……私じゃなくたっていいじゃないですか。
私なんかよりいい人なんて絶対いるのに、どうして。
それに……私と貴方が恋人だったのなら聞きたい。
貴方は幸せだったんですか?
さっき言いましたよね、
潮時かもしれないと思ったって。
私は隠し事してて、信頼されてないと感じてたって。
そんなふうに思うなら……
私に執着する必要ないじゃないですか。
そう、今この瞬間だって。
*
[勢いよく扉を開け、部屋に転がり込んで、
おれはすぐさまエンの眠ってたベッドを見たんだけど]
……エン?
[枕を被ってぷるぷるしてるエンがいるんだけど、一体何があったんだろう。
厨房のあれを見た後だと、震えるエンに不安になるから。
おれは枕をひっぺが──…せるかはわからないけど、エンの安否を確認したいから頑張る]
[ふっくらした枕を通すと音は遠く鈍くなるらしい。
くい、と枕を引っ張られて俺は素直に枕を手放す。だってここにいるとしたら、ハチヤしかいないだろうから。
現れた顔はやっぱりハチヤのもので、ほっとした顔を見たら胸に蟠ってた不安のはしっこが崩れる。だってこいつの目はすごく感情を表すから。心の中ではあんなことを思いながら俺に接していただなんて、こいつを見ていたら、ないって思える]
はちや…
[それでも残る不安に、声は小さく頼りないものになった。掴まるみたいに、片手を伸ばす*]
[弱弱しい声と一緒に差し出された手を取って、遅れてやってくるエンの体も抱きとめると、エンの顔がこんなにも近い。
今にも零れそうだった涙がぴんとまつ毛に弾かれて、雫となって流れるのを、おれは、とてもきれいだなんて思ってしまったから。
だからおれは──…
額に落とす唇に許可なんてとらない。
頬を撫でる唇に許可なんてとらない。
耳を緩く噛む唇に許可なんてとらない。
エンを宥めるようにあやすように唇を落として、きょとんとするエンを抱きしめたベッドに潜り込んでしまおう]
[
それにしても。
こんなに可愛くてきれいなお嫁さんを不安にさせるなんて……
ハチヤって奴はほんと悪い奴だな。
おれだったらこんな……
……記憶が戻ったら、おれは、どうなるんだろう。
消えるのかな? それはちょっと嫌だな。
でもエンが会いたいのはきっと、おれじゃないハチヤだから。
*消えなきゃいけないんだろうな……*
]
[夕べこそああいうことになったけれど、もともとハチヤと俺の間にあった感情は恋愛ではない。いやそうだったのかもしれないけど、少なくとも俺がそうだと認識する関係ではなかった。なのに。
緩く額に唇が落とされる。
そこから頬までゆるゆると移動して、
最後に耳がやわく食まれる感触に俺は身を震わせた]
ん……
[安心させるみたいな唇。なんでこんなことをするんだろう。こいつは、俺を覚えてないのに。
俺のいるベッドの中に潜り込んでくると、ぎゅっと抱きしめられるのに安心する]
──、
[今度の声は、小さすぎて声になってない。ほとんど唇が動いただけみたいな小さな呼びかけなのに、さらにぎゅっと抱きしめられて心のどこかが安心する、を通り越してぽっと温かくなった。だから]
おや、すみ。
[耳元でそっと囁いて、あいつからは触れなかった唇に小さく口づける。お預けって言った俺がこういうことするのはダメなんだろうけど。なんか、胸の中心が熱くてしたくなったんだよ**]
まぁ...色々とね。
[困ることがあるのかと聞かれたなら、ついついはぐらかすことになってしまった。
「求婚予定の女性に記憶を無くしままでいて欲しくない。」
などと、まさか今の状況では言えるまい。]
その辺は好きに呼んでくれていいよ。
ん?あぁ、意味は.......明日になればわかるさ。
[起きる確証を持っていられるのは、ここが夢の中であるとわかったからだろうか。
夢は必ず覚める。それが自然の摂理というものだ。
ところで、記憶があってもなくても変人としての印象を植え付けてしまったようだ。
己は何も変わっていないから評価が変わらないのは当たり前だが。
アマミは相変わらず嘘をついたり自分を取り繕うのは下手くそなのである。]
[会話の中で彼女の言葉を指摘したが、もしかしたら説法などと誤解されたのかという不安が過ぎり。]
............いや、気にするな。
変ってわけじゃない。
[余計なことを言ってしまったかとアマミは口を噤んだ。
今のクラヴィーア
に我が家にいた頃の彼女のような振る舞いを求めるのは酷が過ぎる。
彼女の顔色から察するに、余計な不安を煽ってしまったようだ。
アマミは彼女にすまないと一言謝罪を告げて。]
バーバチカ島の再来、か。
皮肉なもんだ。
[とぽつり呟く。
それはクラヴィーアの前で発した言葉であるが、彼女に向けた言葉というよりは独り言に近い。
しかし彼女は記憶の重みを忘れてはいないようだったから。
無くなったのはもしかしたら己の事のみかもしれないとアマミは推測を伸ばすに至る。
もしも記憶をなくした者と無くしていない者、立場が逆であればなどと、何度もたらればの空想を思い描いてしまうのだ。]
[大切な人の記憶を預かる。
己の大切な人の記憶を預かるという名目で奪われる。
彼女にとって大切な人との記憶が奪われる。
どちらにも通ずるような声の主の物言いは、腹立たしく思えてならないものだ。
気づけばアマミは無意識に彼女を庇うように差し出された手は怒りを堪えるように拳を握りしめていた。]
[思想に耽けてしまいそうになった時、聞こえた声はどこか弱々しい...あるいはか細いと言うべきか。
彼女の顔色を覗けばどんな表情を見ることが出来ただろうか。]
ふむ、どうして俺がこんな事をするかは。
帰った後に改めて教えてあげよう。
さぁ、今は時間が惜しい。
少しでも気になることがあれば言ってくれ。
[アマミは考える。
彼女は己を大人のようだと思ったかもしれないが、お面の奥に伏せた焦燥は。
少しずつ確実にアマミに負荷をかけ続けていた。]*
[彼女に合わせるように探索をしていると、どこかのタイミングで書斎のような場所にたどり着いたことがあっただろう。
クラヴィーアには鍵はありそうかなどと尋ねつつめぼしいものを探していると、一冊の本がアマミの足元にパタンと落ちてきたが。
その表紙を見た時アマミは驚いたように息を呑んでしまった。
その本がかつて自分が書いた小説『όργανο』だったからだ。]
............。
[アマミは本をパラパラとめくり始める。
クラヴィーアをモデルとした一人の少女が成長する軌跡を描いた長編文学は、自身の彼女への感情の変遷を分かりやすく書き記していた。
彼女への想いを指先でなぞっていくようにページをめくると、最後のページが空白になっていた。]
クラヴィーア。
すまないが、そこら辺にペンはないか?
[クラヴィーアの捜索の邪魔をしない程度にアマミは彼女に尋ねるのだった。
そして彼女からもらったかあるいは自分で拾ったペンで空白のページに文字を書き始めるのだった。]**
[はぐらかされた返答にそうですか、と軽く答えた。
初対面の人間にそう突っ込む真似はしない。
誰にだって言いたくないことくらいあるしな。
明日になればわかる。
その言葉に確信をほぼ持つ。
でもそれは言葉に出さず、わかりました。とやはり追及しない。
嘘をつかれてる感じがしない。それに信じると決めたならそれを貫くだけだ。明日にわかる。それならそれでいい。]
[どうやら喋り方は変ではなかったようで。
わかりやすく安堵をこぼす。
流石に初対面の年上の異性に対して口調を崩す気はなかった。
謝罪にいえ、と返答して気にしてないと示した。
『バーバチカ島の再来』その言葉が耳に入って思わずアマミ殿を見てしまう。
……あの島の存在や願いの話だけを知ってたっておかしくはない。ただ、現状の記憶喪失と絡めてつい考える。……この人もあの島に、あの時もしかして……?
首を振った。今はそれどころじゃない、と。
怒るように握られている拳。
それは何かに耐えているようにも私の目に映る。
思わずつぶやいた言葉を出した時の私は、不安も相まって迷子になったような顔をしていた事だろう。
実際、自分の欠片を失っているこの現状は迷子と近いのかもしれない。
わからないだけで、心が欠けているのと同義なのだから。それが、私の一番大事にしているものならなおさら。]
……わかりました。
では帰った後。約束ですわね。
[帰った後に会うのを確信している言い回しに疑問を示さず、凛とした態度でカーテシーをした。]
[思い返せば、巻き込まれたという言い回しと自分にとって初対面だから、相手も初対面だろうと勝手に判断したのは私の方だった。
アマミ殿は一言も“初めまして”と言ってない。]
[探索を続ける。庇われた腕に根負けして前を歩くのは諦めた。
部屋の扉を開いては見回して。
鍵になりそうな物がない部屋もあった。
次に見つけたのは、ガブリーシュの実だった。
──エリック先生に教えて貰ったんだっけ。ああ、それとアラウダさんと出会う切欠はこの実だったな。
なんて思い返して懐かしい気持ちになって触れれば……消えた。
余計な笑い声には構わない。
絶対に構ってやらない。
ピアノもまた鍵でないものだった。ふむ、あの島の時と関連あるものだけが鍵とは限らないのか。
こうなってくると段々気づいてくる。
私の記憶に関連している物が鍵かもしれない物だ。]
…………………
しゃぁないやん。好きなんやから。
滅入って引越し考えた時も、
好きっていえない関係が続くなら、
物理的に距離をとって
貴方のことを忘れたほうがいいと思って。
でも、好きだったから踏ん切りつかなくて。
付き合ってからも、潮時かなって、
信頼されてないなって思った時も、
それでも貴方の笑ってる姿とか
ちょっと怒った姿とか、
その全部が愛おしくて仕方なかった。
だから、好きな人とわざわざ
辛い思いして別れる必要は
微塵もないんだ、って思ったから
ずっとそばにいてもらってる。
[
彼女が投げかけた質問は
的を得ている内容なので
これから先の何かに繋がればと思った。
彼女の記憶が戻らなくても、
お友達くらいにはなりたい。
そんな諦めにも近いことを
彼は既に選択肢の中に盛り込んでいる。
ズルくてごめんね、と呟いた言葉は
彼女の耳に入っただろうか。
]*
[だからと言って、流石に虐待を受けていた頃の関連の物が現れた時には……引いたが。
苦い思いを顔に出さないよう必死に堪えて蝋燭や、乗馬用に使う鞭にも渋々触れた。
本物でないのに逆に安堵したぞ。ったく。
……ちょっとこの館の主、
顔を貸してくれないかな?
と思考は少々危険な方向に向かっていた。まぁ顔を合わせてもどうせ私は殴れないくらいちっぽけな人間ではあるんだが。]
[書斎のような場所に入った時、慣れてきたのもあり少し別に動いていた。ふと、自分のポケットに何かが入っているのに気づく。
……私の字の招待状。宛先は 『Amami Oda.』 ]
[私が失ったピースのどこかにこの人は いる。
ピースの外枠に追いやられた人は、まだ元の位置に当てはまらなくても、内側に入るものだと理解が出来た。
自分が残していた私の残滓を開いてみる。招待状はまた書けばいいだけだ。内容はいたって普通の誕生祝いの夜会への招待。これと言った手掛かりはない。
ただ、最後に小さく
なんて書かれている。
……どうにもしっくりこない。
私が男の人にこんな文章を書くことが、わからない。
友人関係ならまだわかるが父と婚約者の件を考えるとどうしたって恋愛をする自分なんて想像も出来ない。
ただの友人に頼むにしては、違和感のある書き方にただ混乱した。
あの声は言ったのは君の大切な人の記憶の一部を預かった。
その君は、私?
それとも……
どっちの意味なのか。
その答えを私は知らないといけない気がした。 ]
[かかった声に慌ててその手紙をしまい込んだ。
ペン? と周りを探す。
万年筆があって、慌ててとっさにそれを手にしたら……消えやがった
。
あれ? 今の鍵(偽)だった感じはあるが……あんな万年筆に見覚えはないぞ? 失くした記憶の欠片まで混ざっているなんて、わかるわけがない。どこまでもこの館の主は意地が悪い。
]
申し訳ありませんわ、こっちには見当たりません。
[そうこうしている内に相手は自分でペンを拾う事になる。
だから見なかった。気づけなかった。
アマミ殿が手にしたその本もまた
『鍵』である事に───
]
[書斎の奥にまだ扉があったから、私はそれを開く。]
……冗談だと言ってくれ…………。
[思わずつぶやいた言葉が素だったはもう仕方ないだろう。
目の前に広がった何百という本がつまった本棚がつまった巨大な図書館のような部屋。その本のいくつかが見ただけで『鍵かもしれない』と感じたのだから。
広すぎる。対象が多すぎる。だが触らない訳にいかない……。]
ええと、目の前にいくつか鍵らしきものはありそうですが……
申し訳ありません。少し休憩させてくださいませ……。
[動く前に流石に気力を戻したい。
返答がどうであれ私は御免なさい、と部屋にあった椅子を引いて座り込む。
……そういえば、ここまでアマミ殿が何かを手にして消える、という事がなかったし記憶が消えてないという判断はそれで多分平気だと思う。思うがちょっとだけ心配だった。]
アマミ殿、生憎でもなんでもなく記憶がなくなってないとおっしゃってましたが
昔の記憶は平気です?
ほら、そういった時期ならすぐ思い出せなくても不思議はないじゃないですか。
[自分が過去そうだったから心配だった。
踏み込むのに躊躇していた理由すら覚えていない。今まで問えなかったことも平気で口に出来る。]**
……っ、…………。
[
正直に言おうか、ずるいのは私だ。
貴方が少しでも迷ったそぶりを見せるなら
好きじゃない面もあったなんて言うのなら
記憶なんて捨てて、離れればいいと
そう思ってしまった。
だって、私は好かれるわけない、から。
それなのに――――
]
ず、るい………。
わたしは…
好かれるような人じゃ………。
[
何故だろう、じわりと涙がにじむ。
見られたくなくて俯いてしまったけど
ずっとこっちを見ていたのなら
泣きそうな顔も見られてしまったのかな。
ああ、この人は確かに
恋人
で
記憶はないけど、多分そうなんだろうなと
そう思わせるだけの
好意
を…
愛
を
この人の言葉から感じてしまった。
……私はどう思っていたんだろう。
この人のこと、どう思って……。
気になるのに、こんなに色々教えてもらっても
微塵も記憶は戻りそうもなくて
この人と過ごした時間を
一瞬でも思い出すことは叶わなくて。
……もどかしい、って少し、思った。
]*
[目が覚めた時、ハチヤはそばにいるのだろうか。いなければ、手がシーツの上を辿って動くのだけれどそれはほとんど無意識のもの]
……、
[ここにいるのは、確かにハチヤだ。ハチヤだけれど、どうしてだろう。俺の中で、今のハチヤはあのいつものハチヤとイコールにはならないのだ。
俺とハチヤの関係は、犬と飼い主だったのに。今のハチヤは、重ねようとしてもどうしても犬ではない]
呼び方…?
[犬のハチヤは俺をエン君と呼ぶけど今のハチヤはエンと呼ぶ。試しに、前のハチヤは俺をエン君と呼んでたって言ってみたけど呼び捨て嫌?と聞かれたから。嫌ではないと伝えたら、それならエンがいい、と言われたからそのままになった]
[実際嫌ではないのだ。けれど犬ではないハチヤは、何故だか俺を大切にして守ろうとする。いつの間にチェックしたのか、食堂にはエンは行っちゃダメだとか。この部屋は狭いから俺が探すから他の部屋に行こう、とか。
寝付くまでと抱きしめてくるのに、やたら心音が早いとか。あれでは眠れないだろうに]
[俺を嫁にしたのは、犬のハチヤだ。
だから言ってしまえば今のハチヤは、俺の旦那のハチヤではない。けれどこれもハチヤの筈なのに、
なんで俺は二股かけてるみたいな気持ちになってるんだろうな!
]
[
彼女が何を言ったのか、
彼には聞き取ることができなかった。
物理的距離がありすぎたのだ。
でも、彼女が泣きそうなのは分かったので
彼女の様子を見ておくことしか出来ず。
少し落ち着いたのなら、
彼女に声をかけて次のアクションを。
]
鍵……探してみますか?
貴方が俺と一緒に行ってくれるなら、
見つけ出したい。
[
鍵。鍵……
とりあえず、この部屋を出たら
何があるのかさえわからない状態なのに
反応に見つけられるのか不安でたまらない。
でも、不安な様子だけは絶対見せない。
見せたら、彼女も不安になるかもしれないから。
]*
[
幸か不幸か、私の言葉は相手に届いてない。
届かないほうがいいのかも、しれない。
泣きそうになって、
でも忽那さんの前で泣きたくなくて。
だから、俯いて泣きそうな目をこすって
泣いてないって、言い聞かせた。
……ああ、質問に答えてもらってばかりで
私は質問に答えていなかったな、なんて
そんなことをしながらも思ったから。
鍵を探す?と言う質問を聞いてから、
でもその質問にはすぐに答えずに。
]
…友達は少なかったです。
私に似た、今でも交友のある人が数人。
ゲームが好きで、あまり外に出たりはしなくて
客観的に見れば悪くない学生生活だったはずだけど
――――……。
私個人は、楽しかったとは、思っていません。
[
だから、話したくないと思ったし、
“私”も話したがらなかった。
それだけ相手の目を見ずに話して
ようやく顔を上げて、意思を告げる。
]
探します。
貴方と、一緒に。
…欠けている記憶がどんなものか
少し、確かめたくなりました。
*
…………楽しかったわけじゃない、か。
だから話してくれんかったんかぁ……
…なんか、いじめられたとかはない?
[
異様に避けられていた気がしたから、
似た顔にいじめられていたのかと
一瞬思ったこともある。
けれども、彼女の口からそういったものは
聞いていないので、聞いてみた。
違うのなら、詳しく話をいたはず。
]
ありがとう。
何かあったらいけないから、
手を繋いでみてもいい?
嫌なら、何か別のものを
それぞれを持とうか。
[
例えばロープだったり、布だったり。
はぐれたら見つけられるか
わからない場所だからそういうものは必要。
周りを見たら、何かしらはあったはず。
なければ、道中見つけることにしよう。
]*
[
話さなかったことに納得している様子。
いじめられたのかと聞かれれば、
少し迷って首を振る。
いじめくらい明確なものだったら
むしろよかったのに
]
そんなにわかりやすいものだったら
解決もしやすかったでしょうね。
[
それだけ言って、口をつぐんだ。
ただの悪口だ、私が言われたのは。
その悪口にいつまでも縛られている、
それだけのこと。
でも、詳しく聞こうとされるなら…
本当に些細な出来事を話すことになるだろう。
彼が意図しているだろう学生時代、より前のことを。
]
[
最初はそう、大したことじゃなかった。
小学校低学年の時。
可愛いと思った服を着て登校した時の事。
たまたま買った場所が同じなのか
同級生と同じワンピースを着ていったことがあった。
]
「みつるちゃんには、にあってないから」
[
似合ってないから着てこないで、と言われた。
被ってるのが嫌、なんて
客観的に見るならそんな理由だったのだろう。
気にしなくていい言葉だったはず、だけど。
私はそのあとワンピースを着る勇気が出なかった。
似合ってないなら着ないほうがいい、なんて。
私は、“ワンピース”が…
可愛い服が似合わないんだなって思った。
最初は、その程度だった。
その程度だったけど、私の認識は少しだけ、変わった。
可愛く、ないんだなって。
]
[
自嘲気味に笑って、そんなこといつまでも覚えてるなんて
変でしょう?なんて言って見せて。
まだあるけれど…というより
楽しかったわけじゃない学生時代の話はここじゃない。
楽しくなかった原因は、この程度の出来事だと
伝わればよかった。
いじめとかだと思われてから話せば
たいしたことないって、言われそうだったから。
もっとも、すぐ話そうとしてるわけじゃないけど。
]
……つなぎ方にも、よりますけど
[
恋人つなぎくらいは知っている。
それだったら、まだ無理だな、
気持ちが追い付いてないからって思ったから。
普通に手を握るだけならいいって伝わっただろうか。
恋人だったんならそれくらいはしてるだろうって思えば、
手をつなぐこと自体には抵抗ない。
それに……
見知らぬ場所で不安を感じないわけ、ないから。
]*
……まぁでも、そうなんよなぁ。
なんでもかんでも、
そんな簡単に解決できるもんでもないなぁ。
[
彼女が口をつぐめば、とりあえず、と
彼女に近づいて手を差し出した。
勿論、普通の繋ぎ方。
恋人ではない関係に戻っているので
そこは線引きとして。
部屋から廊下に出ると見えるのは
長い長い廊下。
でも、1ヶ所光が差す場所が見えたような
気がしたので、彼女に行ってみないかと、
誘ってみたと思う。
]*
なんで……
[ぽつりぽつりと知らない風景が流れ出す。俺に見せつけるように。
それは決まってハチヤのいない時ばかりで、見ているだけで気分の悪くなるそれらのどれにも一人の少年が映っている。その顔は、今よりずっと幼いけれど、ハチヤとそっくりだ。あれが本当にハチヤなのか、あれはハチヤの過去なのか。聞いてみたいけれど]
う、え……
[見るたびに気持ち悪くなる。ハチヤが戻ってくる前になんとかしないと。くたりとベッドに横になって吐き気を堪える。ああ、けれど]
あれ、旦那ってやつ…?
[最後に見えた風景。ハチヤにそっくりな少年に話しかける見知らぬ男。いつも不安そうな顔をしていた少年が、こらえきれないように笑みを零す、暗い風景の中唯一の]
──あー…
[目を開ける。あれがハチヤだとして。あいつが一番になるのは、当然じゃないか?だって一番つらい時期にきっと救いになったのだろう。分かる。けれど
もそもそと布団に潜り込み、自分の胸に手を当てる。その時に俺がいれば、何かをしてやれたのだろうか。もやりと感じる嫌な気持ち。これは多分あれだ。うん。ということは]
俺、ハチヤ好きなんだなぁ……
……忽那さんは、大人ですね。
いや、同い年だけど……
[
なんとなく、彼の言葉に気苦労と言うか
そんなものを感じてしまった。
……“私”も原因かもしれないけど。
手を差し出されておずおずと握る。
普通のつなぎ方でちょっと安心した。
部屋から出てみれば長い廊下で、
本当に見知らぬ場所に来たんだと思い知らされる。
行ってみようという誘いには乗って
歩きながら少しだけ、聞いてみようか。
]
忽那さんは…他人の悪口とか
気にならない人ですか?
[
まあ、この人そもそも悪口言われるというよりは
ちやほやされてそうな気が……とか言うのは
偏見が過ぎるから黙っておこう。
]*
[なんだろう、これは。
俺に見せたいのか?ハチヤは自分のものだと。うるさい知ってる。きっと今でもあいつの一番はこの男のもの。
思い出にどうやったら勝てるのかなんて知らない、知らないからもう見せなくてもいいんだ]
[ハチヤが戻るまでに普段通りに振る舞えるまでは繕うつもりだったのに、悪意に中てられ布団の奥の奥に潜り込む。
きっとハチヤが戻ってみるのは丸く縮まった布団の塊*]
[追及こそされないが彼女は実に聡いとアマミはよく知っている
ならばアマミが何者であるかは、彼女もそのうち気づくことになるのだろう。
なにより、それをアマミが知ることは重要では無いのだ。]
あぁ、約束だ。
忘れたりするなよ?
[アマミはカーテシーをするクラヴィーアの頭をぽんと撫でようとする。
その様子は貴族らしく凛と振る舞う彼女と対照的に、砕けていた。]
それは...?
[クラヴィーアがガブリーシュの実を見つけた時、彼女はなにか思うところがあるような様子でその実を触れていた。
消えた途端に聞こえた笑い声は、彼女の様子を見ていたアマミの耳には届かない。
ピアノはアマミにはまるで思い当たる記憶が無いが、もしかしたら己と出会う前の彼女の記憶の中にあるのだろうか。
彼女があの島で失った記憶だとすれば、知る術は誰にも持ち合わせてない。
途中見た蝋燭や鞭をクラヴィーアが触れた時、アマミの中には嫌な予感が浮かんでいたが。それ以上を考えるのはやめることにした。
考えだすと、声の主を本気で殴り飛ばしてしまいそうになるからだ。]
[別々に行動をしていたために彼女が手紙の切れ端を見ていたことには気づかない。
そもそもそんな手紙を彼女が書き留めていてくれたことすら、アマミは知らないのだ。
彼女の誕生日が近いことを彼女から聞く機会はあったか、
なんにせよ誕生日はいつだったかと気になっていたのは本当のこと。
返事を求めてクラヴィーアの方へと目を向けると、見当たらないという返事が来る。
]
あぁわかった、気にしないでくれ。
[そう言ってアマミは自身で拾い上げたペンで空白のページに綴る。]
最愛なる君へ。
『Dear you, Klavier.』
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