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【人】 六鹿 稀[ 六鹿 稀。 静岡は熱海。 創業300年を誇る老舗旅館 美鶴荘現女将。 彼女は、支配人である六鹿賢斗の嫁として この場に入ってきた。 まさか、彼女も嫁いで5年目で女将になるとは 考えてもいなかったが、試行錯誤、日進月歩で 賢斗を支えながら宿経営を頑張っている。 そんな彼女には、賢斗に秘密にしていることがある。 それは……………… ]* (2) 2020/09/01(Tue) 12:50:59 |
【人】 六鹿 稀 [ 夫と出会ったのは運命と言えるだろう。 大学で声をかけてきた人が、 優しい彼でなければ、多分熱海から距離を置いた。 温泉が好きだった彼女。 美鶴荘には、流石に行ったことがなかった。 老舗旅館は泊まるだけでお金が飛ぶ。 故に彼女は 日帰り温泉巡りを楽しむ性分になっていた。 ] 私でよければ、よろしくお願いします。 [ 5月のある日曜日。 次の日からまた学校と言う夕暮れ。 告白の答えを出したのち、 彼の唇が、彼女の唇に重なった。 ゆっくりと離れた彼を見つめながら、 彼女の体は、温泉あがりとは違う、 火照りを感じていた。 それから、山あり谷ありで 夫婦になる運びとなった。 ] (8) 2020/09/01(Tue) 13:49:23 |
【人】 六鹿 稀 [ 時が過ぎて結納の日。 老舗旅館 美鶴荘はとても広く、 隣に並んでいた彼の手を 不安でギュッと握ってしまった。 自分が、この旅館の女将として 将来切り盛りしなければならないのかと、 重圧を感じていたから。 ] …………え、? [ 六鹿 稀。まだこのときは唐草 稀。 見えてしまったかもしれないけれど、 そんな噂を聞いたことはないから、 見間違いだろうと思いながら、 廊下を六鹿家と唐草家で歩き進めるのだった。 ]* (9) 2020/09/01(Tue) 13:55:30 |
【人】 六鹿 稀 [ 結納のあの日。 稀は、春先ということで 白に薄桃の桜が裾にある着物を選んでいた。 何故彼女がこれほどまでに着物を所有しているのか。 それは、彼女の実家が呉服屋だからだろう。 初めて、彼の両親に会ったときにも、 呉服屋の娘ならば、大丈夫だろうと 両親公認の付き合いになったことを覚えている。 ] しっかり、働けるのかしら…… [ 結納に駆けつけたのは、両親と弟。 小さく呟いていた言葉を、 誰かに聞かれたような。 しかし、隣の彼も誰も彼女に反応を示さない ] ………………? [ 代わりに、誰かが誰かの名前をささやいた。 この宿と同じ名前を。 もし、本当にいるのならば、 また会うことになるのだろう。 ]* (14) 2020/09/01(Tue) 14:48:49 |
【人】 六鹿 稀 [ 彼が家にいるときは、よくくっついてくた。 かといって、付き合って最初の頃は 何をやるわけでもなくお昼寝をしたり、 テレビを見たりするだけだった。 しかし、時折難しい顔をして、 何も言わなくなってしまうことがあった。 そんなとき、彼女は彼に対面で抱きつく。 ] 賢斗さん、聞いてます? [ 特に何も話していなかったけれど、 こういうと、彼の意識がこちらに戻って、 ごめんね、と言うのだ。 そしてまた、質問が飛んでくる。 ] お宿は好きだけど、それが…何か? [ 温泉が好きなのだから、当たり前に宿も好き。 そんなこと、毎週末温泉巡りを 一緒にやっていた彼が知らないわけがない。 どうしたのだろう、と不思議に思って 彼の頬を撫で、顔を近づけるのだ。 ]* (15) 2020/09/01(Tue) 15:01:16 |
【人】 六鹿 稀 [ 結納の後、彼女は少しでも慣れるために 美鶴荘で働き始めた。 勿論、右も左もわからないから まずは仲居から。 ありがたいことに、若い人が多めで、 彼女は可愛がられていた。 ] あの、…このお宿に、………… 幽霊が出るなんて、お話聞いたことは……? [ ある日の休憩時間。 彼女は意を決して、先輩仲居たちに聞いた。 すると、彼女たちは首を縦に振った。 聞いてみると、お客と従業員と、 様々な人が見たことがあるということだった。 人によっては、優しく扱われただとか、 何かを手伝ってもらっただとか、 悪さをする幽霊では無さそう。 ] そう、よね…あの時に聞こえた声が、 本当なら……うん…… [ 彼女は、それから何度か不思議なことに 出会っていた。多分、彼女の成長を 見守ってくれているのだろうと思うと、 特に嫌な気分にはならなかった。 ] (20) 2020/09/01(Tue) 18:14:58 |
【人】 六鹿 稀 [ 2年目過ぎた頃、稀は賢斗と一緒に 新しい旅館経営について 話を詰めていた。 というのも、輿入れした後間髪入れずに、 彼の両親が近いうちに引退したいと 決意表明をしていたから。 ] 今のご贔屓様を蔑ろにする ということにならないかしら…… [ コンセプトをそのままにしつつ、 新しい風を入れようと思い、 言ってみれば隠れ宿で 乱交パーティーを催すという おかしなことをやろうとしていた。 代替わりのときにあわせて、 パーティーを開くついでに、 その色を顕著にさせたいと。 ] (21) 2020/09/01(Tue) 18:33:08 |
【人】 六鹿 稀仲居さんたちは、どうしましょう…… [ 勿論、従業員にも危険というか、 手は伸びることは目に見えている。 先輩仲居たちの中には 既婚者だっている。 彼とは偶に、 喧嘩のような状態になったこともあった。 そんなときには、大体中庭に出ていたが、 何故かふわっと風を近くに感じた。 一瞬だけのこと。 誰か、近くを通ったのだろうかと 考え始めたのは何度か経験してからのこと。 ]* (22) 2020/09/01(Tue) 18:34:11 |
【人】 六鹿 稀 [ 就職。 彼があの質問をしたのは 大学2年の冬くらいのことだった。 そのとき、稀はそこまで考えていなかった。 実家に戻って呉服屋の手伝いをすると 思っていたから。 ] どこに、とかはあまり…… ……賢斗さんと離れちゃうのかも。 [ 本心というか、可能性はあるから、 ついつい口にしてしまった。 彼といる時間は、甘くて幸せが詰まってる。 だから、もう少しだけ、と 彼をねだってねだって離したくない。 働くことは、なんだって利害関係だと 家族からは教えられてきた彼女だから、 彼の負担になるようなら別れることも 辞さないという心持ちだった。 ]* (23) 2020/09/01(Tue) 19:17:35 |
【人】 六鹿 稀[ 彼は、賢い。 だから、しっかり話せば事は収まる。 それでも偶に、 話していることが嫌になる。 話を切り上げて、彼と距離を取る。 勿論物理的な、距離。 ] ……なら、明日は書類作りです。 私は少し席を外しますので、 追いかけてこないでくださいね。 [ こういうと、彼は追いかけてこない。 それがわかっているから、 頭と心を落ち着かせるために、 また中庭に向かった。 ] (29) 2020/09/01(Tue) 22:45:34 |
【人】 六鹿 稀ふぅ……賢斗さんと、また喧嘩になっちゃった。 …………聞いてくださる? [ 風を感じた彼女。 誰がいるのか分からないけれど、 ぽつり、ぽつりと事の次第を話す。 彼に声を荒げて質問をしたら、 落ち着いた声で返事が返ってきた事。 そんな場面を作った自分が 子供っぽく思ってしまった事。 落ち着いたら謝ろうとは思っていることを。 ] 私、少しだけ怖いの。 まだ未熟なのに女将なんてやれるのかと。 勿論、賢斗さん含めて、大丈夫と 言ってくれるけれど…ね。 [ 誰かに話しているかのような独り言。 受け止めている人が近くにいるとは知らず。 休憩も兼ねて、彼女はもう暫く中庭に 佇むことだろう。優しい風を感じながら。 ]* (30) 2020/09/01(Tue) 22:48:49 |
【人】 六鹿 稀 [ 誰に向けて話すわけでもないけれど、 誰かに向けていると思って話せば、 少しずつではあるけれど、 落ち着きを取り戻すことができる。 彼と良い旅館にしたいと思うから、 ここまで思い詰めるのだろうか。 ] 賢斗さんの考える新しい旅館、 とても良いものだとは思うの。 だって…知らない方と一夜の営みを楽しむのよ。 私は賢斗さん以外は、…… そこまで興味もないけれど、 人の中には、いるものでしょう? [ 乱交。乱れ交じること。 見ず知らずの人間と取っ替え引っ替えに。 稀は小さな声で、みてみたいわ、 なんて呟いただろうか。 ]* (32) 2020/09/01(Tue) 23:09:22 |
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