22 【身内】Valentine's black art【R18】
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視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
[右上を凝視するのは
深く思考を巡らせている時の癖だ。
邪魔をしないように
息を潜めて
指先の感覚に集中する。
…が、それもあまり得策ではなかったようだ。
ヒューによって満たされた心が
愛したい、と騒ぐのを
留め置けなくなりそうで。
昇ってきてしまう快感を
細く吐き出す息では逃しきれずに、
腹の奥に力を籠めて
押し殺す。
何喰わぬ顔を取り繕い切れず
欲情を滲ませてしまっている気がするから
視線が合わないのは
幸いだったかもしれない。]
[けれど、
ヒューが切り出した
問題解消の方策があまりにも衝撃的で]
────‥!!!
[意識を全部、攫っていかれた。]
[不老不死の術を
机上の空論だと思ったことはない。
ただ…、実現可能になるのは
もう少し先の未来だろうと考えていた。
取り組んでいるからこそ見える
超えなければならない
いくつもの分厚く高い壁の存在が
ある種の諦めを呼んでいて
死の呪縛から
ヒューを開放することも
自分が開放されることも
妄想の中ですら持ったことはなかった。
(なのに、君はいつも
あっさりと壊していくんだな。)
自分で作った壁に阻まれて
視界が狭くなってしまっているのを
取り払い、広げてくれるのが 目の前の恋人だ。]
[ヒューが紐解いた不老不死の理論は
俺の原点と言っても、過言ではない。
大学に入って間もない同級生の偉業に
地に這うような衝撃を受けて
それから、真剣に考えるようになったのだ。
こんな爪弾き者の自分でも、成せることはある筈だ…と。
そうして、世界に影響を与えてやろうと
研究職に進んで、今の俺がある。]
[迷いが生じた時には
都度読み返し、思いを新たにしてきたから
全容が頭の中に叩き込まれて久しい。
膨大なプロセスが
無駄なく配列された美しい術式だ。
ヒューの著した物には
隙…というか、遊びの部分も見受けられるのに
肝要であるべき部分は研ぎ澄まされていて
本人とどこか似ている。
全てを受け入れ記憶してしまう
明晰すぎる頭脳と、
魔力を取り零す綻んだ器、不器用な指先。
そのアンバランスさも、また…
愛
おしくて
俺を虜にしてやまない。]
[視線が絡んで
恋人の意識が己の元へ
戻って来てくれたことを知らせる。
諸々の問題はあれど
それらは超えられない壁では無いと
教えてくれた君を、眩しそうに見つめて
まずは…、と
最も伝えたいことを音にした。]
ん、名案だな。
ヒューが居てくれるなら
他には、何も要らない俺にとって
この上なく
素晴らしい策だと思うよ。
[永久なんて
話が大きすぎて想像しきれないが
唯ひとつ、即答できることは]
[ふたりで…なら
尚、最高だったのだが
そう上手くはいかないようだ。
彼奴とは切りたくとも切れない縁があるらしい。
恋人を護るという一点に於いては
これほど信頼できる男も、他には居ないが。]
…………キースリング家か
そうだな。
協力を仰げれば、助かるよ。
[つまらぬ嫉妬のせいで
ヒューを失うのでは本末転倒。
借りを作りたくない気持ちも含め
胸の奥へと押し込めて、
味方についてもらえるならお願いしたいと
迷いの見える君を後押しする。]
実は…
外部の器に魔力を貯めること自体は
理論上、可能な段階なんだ。
まだ本当に微々たる量で
不老不死には掠りもしないが。
[あれは、センセーショナルな発表だった。
幼い少年が見つけ出した理論に、世間は湧きに湧いた。
にも関わらず
魔力の保持量を増やす研究は
瑣末な成果しか上がっていない。
オルグレンの手によって
萌芽の段階で摘み取られているのか、
はたまた管理下に置き、成果を独占しているのか。
捗々しい状況ならば
回りくどい手など使わず、潰しに来れるだろうから
あまり進んでいないと見て良いのかもしれない。
俺の研究が先行しているなら
ヒューが言うように危険は増していくだろうが、
出し抜ける可能性は高い。]
だが、問題は色々とあって…
器に向く素材が
取り扱いが酷く煩雑な上に
素人が手を出して失敗するには
あまりにも値が張りすぎるという点。
あと、現状だと…伝導率が悪すぎて
埋め込むか、刺し貫くしかなく
ひとつ、ふたつなら良いが
17人分の魔力量ともなると体が保つかどうか…
[だから、ヒューには
ピアス型のものを贈ろうと考えていた。
下着のように
所有を主張したかった訳ではなく
少しでも楽になれば、との意図しか無かったが、
己が手掛けたものを
身につける恋人を想像するのは、愉しかった。]
とりあえず、
理論に穴がないか
確認してみたいというのが本音かな。
資金提供が望めるなら
手を出すのが難しかった希少な素材を取り寄せて
器の試作を頼んでみたい。
海を渡った東の国に
義眼の制作を任せている
口が固くて、すこぶる腕の良い職人が居るんだ。
早翔け竜でも日帰りの難しい場所なんだが
ヒューの助言も欲しいから
その工房に赴くことになったら
同行してもらえると、嬉しい。
[先走る気持ちを表すように
常よりも早い口調で、可能かもしれない未来を語る。
そういえば、
ヒューと泊りがけで遠出すること自体
始めてだな…と考えかけて
例の御曹司が噛むなら、ふたりきりは有り得ないか…と
甘い妄想は、期待が膨らむ前に打ち消した。*]
[視線を向けると、名案だと認め、
剰え俺さえ居れば他は要らないと
断言してくれる恋人の声が真っ直ぐに届けられた。
両手を繋いだままでなければ、
頬でも掻きたかった所だ。]
……ン。
……、その。……光栄、だ
[早口、ぶっきら棒な返事となった。
思慮深く警戒心の強い彼だ、
口先だけの言葉ではないと解るから
……照れてしまったのだ。]
[素養にのみ依存するとされてきた魔力を
外部媒体に貯蔵することも
誰もに等しく存在してきた
死の恐怖から逃れることも
何れも常識を覆す偉業であり、
自然のことわりを蹂躙する涜神行為であり、
簡単な問題ではないのは明白だ。
けれど目の前の恋人ならきっと……、と思う。
ひとたび不可能という壁を取り払って仕舞えば、
あとは発展させるだけ。
限界を越えた人類の成長が著しいことは
自身は余り好きじゃない歴史が教えてくれている。]
[痛い
ばかりではない
仕置きを受けたのは
記憶に新しく。
名を出すのを躊躇ったが
言わずとも伝わったようだ。
オルグレン家に比肩し、
尚且つ血統主義ではない家といえば
ごく限られているから、当然と言えば当然だろうか。
因みにヒューゲルは彼らの足元にも及ばないし
先代の家長以外は血統主義だ。]
…………、ああ
キースリングの現当主は義父の代から
継続して懇意にしてくれている
彼らの力を借りたい
[ジェレミーが気にならない様子なら
躊躇する要素はないから、頷いた。
……取り繕われたら、そのまま騙されてしまうんだ。
愚かな俺は。]
[課題は山積みのようだが
簡単なことでないことは重々承知している。
世間に、神に、石を投げる行為に等しいとも。]
千里の道も、歩き続ければ必ず踏破できる
最初の一歩を踏み出すことが肝要なんだ
ジェレミーなら出来るよ
[何となく、不安を抱いてそうに感じたから
ぎゅう、と握った手に力を籠めて激励した。]
[この先の予定を語る恋人の口調が、
中途より逸る。
……リアも、卒業旅行の話をしたとき
こんな風に興奮してくれていた気がする。
どちらも愛らしい。]
器の問題があるから
国外に出たことはなかったんだ
ジェレミーが一緒なら
何処へでも行ける
[そう言って、微笑んだ。]
[国を出て世界を見て回るのは夢だ。
用事の為とは言え、嬉しくなってしまう。
魔力炉の暴走は加速度的に悪化しているから
リアの卒業まで持ち堪えられるかは
あやしいところだった。
────自分の生命は、持って、あと五年だ。
一度で数年分働かせられる魔力炉の
摩耗具合から数字を出したのは
研究者としてのサガ。]
[それはあとで恋人たちに話すとして。
方針は決まったから、
ここから出ることを考える。
少し、悩んで。]
ジェレミー えっと その、だな
[……不味いな。
可愛く誘う方法が、わからない。]
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