255 【身内RP】猫様としもべのもしもの夢【R18G】
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「……だって、なにかをくれるという約束じゃ……
あの生活が終っても、俺が遊びに行く……とか、言うから……」
つんと口をとがらせて、視線をあちこち。
珍しく照れているように見える仕草。
「独り占めしたくなった」
「だから、レグナはわしのじゃ」
おまえも「わかった」と言ったとボソボソ言う。言質も完璧。
マオは重ねた手に指を絡めると、しょんぼりした瞳で見つめる。
「……………のう、レグナ………」
「おまえも、遠くに行かなきゃいけないって
どこに、……行ってしまうのじゃ?
マオ様もいっしょに行けないのか……?」
経緯の説明で一先ず宇宙猫は解かれた。
「なる、ほど……。なあ……」
こいびとの様な真柄となるぐらいだ。マオの記憶の中の自分が"現実"の記憶を持っていない、という想像ぐらいは流石に付いていたのだが。
そこで頷く自分も自分だな……と少しだけ思った。……いや、"今だけ"という条件を付けたとはいえ、その欲を受け取った今の自分も、大概か。
しょんぼりとしながら続けられる言葉を聞く。
……後ろ髪を引かれる気持ちは、ある。あるけれど。
▽
「…………、ああ」
「何て言ったら、いいかな。ここではない、別の世界。
……どうしても、行かないといけない、理由があるんだ」
「マオの事は。……絶対に連れていけない、って訳じゃない。けど。
連れて行ったとしても、もう。会えないと、思う」
余程の奇跡でも起きない限り。
"現実"とこの世界では、何もかもが違う。それぞれが生きる場所も、誰かに会うことの難しさも。
あなたにとっては、何を言っているのか分からないかもしれない。
けれど、レグナの目は真剣な色のそれだ。
それから、ゆっくり考えて。間を置いて。
「……なあ、マオ」
「例えば、もう俺に会えないぐらいなら、」
「
――死んだ方がマシだ
、とか。
そう、思ったりは、するか?」
「…………レグナ……?」
あなたの言っていることが、やっぱりマオにはわからない。
でも、ふと蘇ったのは
"この世界が夢だと考えたことがあるか"
そう聞かれた時のことだった。まさか。そんなはずがない。
「……なぜじゃ。なぜ会えないとわかる。
外……? 外とは………?」
「………あの世とか、言わないよな………?」
外の世界と死の話を出されてしまえば、思わずにはいられなかった。
▽
「……レグナのことは、信じるのじゃ……。
だから、マオ様にもわかるように教えてくりゃれ」
あなたの瞳を不安げに、だけどまっすぐ見つめる。
「どうして、外じゃなきゃダメなのじゃ?
ずっと、ここにいたほうがしあわせじゃろう?
マオ様とも、かぞくともいっしょではないか」
むぎゅう、としがみつく。あなたの体温があったかい。
この世界はまさに夢のような、なんでもかなう幸せな世界だ。
なぜ外に行きたいとおもうのか、納得できる理由がほしい。
「わしは、死にたくなどはない……
でも、おまえと一緒にいられないのも、やじゃ」
「死んだら、終わりなだけじゃ。さみしいだけじゃ」
消え入りそうな声がぽつり、落とされた。
おまえに嫌われた世界で生きるなら
おまえがいない世界で生きるなら
おまえの手で殺されたいなんて、愚かな考えだ。
しがみ付いてくるあなたを、そっと抱きしめ返す。
優しく、だけれど。その手はほんの少しだけ、震えている。
「……そうだな。ここは、何でも叶う場所だ。
あんたもアリアもいるし、行きたい所にだってすぐ行けるし……したい事だって、何でもできる」
「けど、」
死んだら、終わり。ぽつり落とされた声が、聞こえた。
――それを痛いほどわかっている、だから。
「ここにずっと居たら、な。
……その、死が。終わりが、来るんだ。
きっと、そう遠くない未来に。この世界に居る誰にも、等しく」
「俺はそれが嫌だった。嫌だったから、……なんでも、した」
このしあわせな世界で、あってはならないような事だって。
……結局、己の願いは叶わなかったけれど。
「………え………?」
「ここは望み通りずっと幸せに生きれる場所ではないのか?
わし、不老不死だし……1000歳じゃし…………
それがウソだと、偽りの幸せだと言うのか……?」
「…………ぅ…………」
マオも元はそれを知っていたような、そんな気がして。
でも思い出したくないことがあるような気もする。
頭が痛くなる。ぶんぶんと頭を振って誤魔化した。
都合の悪いことは忘れ、ここが夢だと気づくことができないマオには──今まで仙人として生きてきた記憶のあるマオには疑いようがないこと。信じられないようなことだ。
だけど背中に伝わる震えにこれは本当だと訴えてくる。
「なぜおまえには、それがわかるのじゃ?」
あなたの背中に手を回して、すり、とやさしく撫でる。
「望み通りに居られる場所、欲しい物はなんでも手に入る、それは間違いない。……が、
同時に都合の悪い事、嫌な事、思い出したくない事を、忘れさせる場所。
……そうだな。例えるなら、幸せな
夢
。
――あんたも、俺も。こことは別の世界で。
文字通りの意味で、寝たきりのまま、夢を見続けているんだ。」
語り続ける。真実を叩きつける。
忘れていた方が幸せだった真実。
……それでも、思い出してしまったからには。
やさしく撫でる手を背に感じながら、更に話を続ける。
「……さあ、な。きっかけは分からない。
少なくとも館に集められた時には、別の世界の事を思い出してた」
世界に綻びが出たのか、神様にえらばれたのか、単なる偶然なのか。
それはレグナの知る所ではない。
突然話を遮るみたいに、大声を出した。
「……ぅ、うぅ……」
「もういい、もうききたくない……」
自分から問いただしたというのに、マオは自らの手で耳を塞いだ。
▽
「今まで……今、レグナがマオ様をたくさん愛してくれたのは、」
「
幻じゃない?」
絞り出した声が震える。
「わしの都合の良い、夢?」
問いかけは、留まることを知らない。
聞くのが怖くて、耳を塞いだまま。
ちがうって、言って欲しいのに。
ちがうって、言ってくれてもそれも都合のいい夢かも。
「帰ったらぜんぶ夢だったで、おわり?」
もしそうなら、ここで抱いた感情やたいせつなものは偽物か。
マオは顔を覆って、体を丸める。
おなかの中で眠る胎児みたいな姿勢。
どうして今いるここは"しあわせな夢"のはずなのに
こんなにくるしい思いをしなければいけないのだろう。
▽
「…………」
遮る大声を聞けば、そこで言葉は止まる。
受け入れたくないという様に耳を塞ぎ、身体を丸めるあなたを見る。
ちがうと、否定するのは簡単だけれど。
他者の感情までは操作出来ないとも、思いはするのだけど。
それを証明する手立てまではない。
目の前に居るあなたのことすら、現実に存在している人物であるかも、証明できない。
「……もし、今聞いた事を忘れたいと願えば」
「ここに残るなら。忘れられる、と思う」
この世界は、それを望む相手に対しては、どこまでも優しくあり続けるのだから。
「……………」
また大声で泣き出す勢いで声をあげたところで
急にぴたりと止まって、うずくまったままぼそぼそと話す。
「……でも……」
「おまえ以外のしもべと、おまえは違うのじゃ。
ぜんぶぜんぶマオ様の思った通りにはなってないのじゃ。
だって、もしそうなら……」
「レグナは今頃もっとマオ様をかわいがってくれるし。
いっしょに住んで、お世話をしてくれるし
おいしいメシやおやつをもっといっぱいくれるし
文句言わずにずっとずっと遊んでくれるはずだし
マオ様すきすき愛してるっていっぱい言ってくれるし」
「マオ様を置いて遠くに行くなんて言わない」
顔を上げてあなたをぼんやりと見つめる。覇気のない瞳。
「忘れたって、レグナがいなくなるのは変わらない。
……ここにいると死ぬと言うが、わしにとっては
おまえが向こうに行くのもおまえが死ぬのとそう変わらん」
マオはおもむろに起き上がると、勝手にレグナの上着かシャツを素肌に羽織り、ぺたぺたと足音を立てて隣の倉庫へ消えていった。
▽
──かと、思えばすぐにもどってきて
ベッドに向かうわけでもなく、ただあなたを前に突っ立っている。
だぼついた袖の奥になにかを隠して。
「なあ、レグナ………わし、気付いたのじゃ」
「こんなに幸せな夢を見せてくれるってことは
きっと別の世界のわしたちは今より幸せではないのじゃ」
「目覚めて、生きていたとしてもひとりぼっちかもしれない。
面倒な人間関係というやつに縛られるだけかもしれない。
もう寿命が、残り僅かかもしれない。
そもそももう既に死んでいて、魂になった存在が
終わらない夢を見ているだけかもしれない。
ここから出たら本当に永久の終わりが来るかもしれない」
マオはぽつぽつ、淡々と語り始めた。何かを悟ったみたいに。
「……そもそも、人ですらないかもしれない」
「あんたほんと相変わらずだな」
ぼそぼその中に羅列されている諸々を聞きながら。
「……けど、うん」「そうだな」
「全部が全部、あんたの望み通りになってるのなら」
「こんな事言わない、な」
困った様な表情で、それで先程の答えになってるか、と付け足してから暫くそのままでいたが。
勝手に上着かシャツを奪って何処かに行こうとしたなら「あっ、おい」とは言ったかもしれない。
追いかけるべきか、と身を起こした所であなたが戻って来る。
▽
「…………」
そのまま。ゆっくり、ゆっくりと。あなたの語る話を聞く。
少しだけ長い間を置いた沈黙の後。
「分かってる」「分かってるよ」
「少なくとも俺は、だけれど」「あっちの方が、ずっと苦しい」
「……でも、な」
「これだけは破れない、破りたくない」
「そんな約束を、向こうに残しているんだ」
――目を、伏せる。
「ごめんな、マオ」
「…………謝るな!」
必死で縋りつく自分が哀れで、惨めじゃないか。
マオは突然あなたの胸に飛び込んで、ひしと抱き着く。
「人間はなぜ苦労するほうを選ぶのじゃ?」
そういうものが美しいとでも思っているのか。
信念かなにかなのか。マオにはよくわからない。
愚かだとマオは思うが──
今自分がやろうとしていることのほうがよっぽどだろう。
「都合の悪い事、嫌な事、思い出したくない事がある世界に
わざわざ戻る必要なんてないのではないか?」
「そんなに、その約束が……だいじなのか?」
すり、と胸元に頬をすりよせる。甘えるように。
手を背に回した、袖の奥でなにかがきらりと銀色に光っている。
──ナイフだった。
マオは引き剥がしでもしなければあなたには見えないだろう。
しがみ付く様に抱き着かれる。
抱きしめ返しは……しなかった。
伏せた目をそのままにして、考える。
まるで自分の事を、ひとではない何かの様に言うんだな、とぼんやり思った。
「……ああ」
「とても、大事なもの、なんだ」
「都合の悪い事が、嫌な事が、思い出したくない事があっても。
苦労する道だとわかっていても、これだけは」
「例え相手があんたでも、譲れない」
きっとこれは、綺麗ごとで、愚かで、どうしようもなく自分勝手な考えだ。
それを他者に対してまで押し付けようとした自分は、本当に"悪役"でしかなく、そしてそうあり続ける事すら叶わなかった。
――それでも救いたかったんだ。
| レグナは、マオの背に隠された"それ"に、気付いていない。 (a0) 2024/04/17(Wed) 12:43:15 |
「そうか、レグナがそこまで言うなんて思わなかった。
本気なのじゃな。おまえのことだからきっと
やさしい願いを抱えているのじゃろう……」
「レグナはえらくて、いい子じゃ」
そっと、鼓動を確かめるように背中を撫ぜる。
慈しみにも、最後を惜しむようにも似たやさしい手つきで。
そう言いながら笑む表情は、あなたの胸にうずまり見えない。
「わしは、おまえのそういうところもすきじゃ」
あなたに幸せになってほしいと願ったのは遠い昔。
今やあなたに依存しきってしまったマオにはもう及ばない考え。
自分よりも大事なものがあることに妬ましさすら覚えた。
マオは顔を上げて、
若草色の瞳
であなたを見つめる。
狂おしいほどの愛欲と
憧憬
の炎をその奥に宿して。
「わかったのじゃ。譲れないというのなら仕方ない」
ひどく穏やかな声で囁いた。
諦めにも、悟りにも聞こえるような声色で。
マオは逆手で持ったナイフをぎゅ、と強く握りしめた。そして──
すぐに死んでしまわぬよう、急所からはややずらして
▽
「それなら、奪うまでじゃ」
あの頃のレグナが悪役だとするのなら。
今のマオはあなたにとって悪魔の使者に違いない。
やさしげな手が背を撫でる。
重ねられる声に、その言葉の内容に。
少しだけ、赦される様な、救われる様な。そんな心地がした。
投げだしていた手を、片方。ぽん、と、あなたの頭に置いて、撫でる。
見慣れた若草色が、蜂蜜色とかち合った。
「マオ、」
――その瞳の奥に、声色に。しらない、何かが混じっている。
「…………。マオ?」
▽
撫でていた手が止まる。
強く抱きしめられる、それと同時に、背から冷たい何かが入って来る。
「……――ッ、」
何が起きたか認識した瞬間、その温度は一気に熱く、熱く。変わっていく。
小さく呻き、置いていた手がぐしゃ、とあなたの髪を掴んだ。
マオはナイフを引き抜く。
溢れてきた温かい液体が真っ赤に手を汚した。
すぐには殺さない。あなたがどこにもいかないように。
痛みで縛りつける。放っておけばいずれは出血多量で死んでしまうだろうが。
「レグナ、」
マオは、あなたの瞳をじっと見つめたまま愛おし気に微笑む。
あなたはまだ動けるだろうか?逃げようとするだろうか。
動く様子がないようならそのままベッドに押し倒し
動こうとするのならもう一度、逃げる気が起きなくなるまで
赤く、銀色に光るナイフが腹へ向けて突き立てられる。
引き抜かれれば痛みに呻く声がもう一つ。
それから、冷や汗と混じった血が背を伝っているのを感じた。
髪を掴んでいた手はずるり、落ちる様に肩の方へ。指先が痺れ、酷く震えている。
「…………、」
「そう、か」
諦観の様な、覚悟の様な。そんな呟きと共に、あなたの表情を見る。……視界が少しだけ、揺れている。
動こうとする様子はなく、そのまま押し倒され。ベッドに沈み込むと共に、じわ、とシーツに赤い色が広がった。
「えらくて、いい子のレグナはずっとわしのじゃ
どこにも行かせないのじゃ……」
そのままあなたの上に跨るようにして乗っかり、うつ伏せになる。
ぎし、とふたりの重さでベッドが軋んだ。
血まみれの手であなたの髪や頬をそっと撫でてやる。
マオが夜中に勝手にあなたの布団に潜り込んだ時のような光景。
──血みどろなところ以外は。
「レグナ……震えているな。
大丈夫じゃ……痛くて苦しいのは今だけ」
震えるその手に指を絡めてぎゅっとにぎる。
ナイフを持ったままの片手を、自分の首元に宛てがう。
「……おまえとさいごまでいっしょなら
さみしくないから良いのじゃ……」
ああ、でも。
夢の中で死んだら……どうなるのだろう。ぼんやりそう思ったときにはマオは既に自身を斬りつけた後だった。
▽
「……っぐ………」
鮮血が、あなたの服を、マオを染める。
ナイフが傍らに落ちて。マオはあなたの上に倒れた。
「…………どうせ……わしがおまえといっしょに……
かえっても…………
長く、ないし…………
」
だって、年老いた猫なんだから。
「……がっ……げ、ほ……っ……」
年老いた猫を夢と同じように愛してくれる
ニンゲンなんていないだろう?
血に濡れた手が自身に触れる感触。腹にのしかかる重み。
それに、いつかどこかの記憶が重なった様な気がした。
……夢の中で死んでも、走馬灯は流れるものなんだろうか。それにしたって、覚えのない筈の記憶なのだけれど。
痛い。苦しい。握られた手が上手く握り返せない。
警告音が鳴りやまないのに、少しずつ体温が奪われていく、気配がする。
霞んでいく視界の中、あなたが自身の首元にナイフを宛てがい、引く様子が映った。
▽
どさり、先程より重い音がして、身に体重がかかる。
哀しいほどに綺麗な赤が、二人を染めていく。
「……ほんっ、と、」
「しょうがねえなあ、」
遠のいていく意識の中。
下手すると、自分の考えを全て破られていた事態にも関わらず。
何故だろうか、不意に。少しだけ、笑みがこぼれていた。
「……っ……ぐ、な……」
もはや、声よりも血の出る量が多い。
もうどくどくと溢れる血は止まらない。
それでも、マオはあなたの名前を呼んで、さいごの力を振り絞って顔をあげ、あなたにへたくそなくちづけをする。
もう、血のにおいしかしなかった。
「……、…………」
あなたの声はまだちゃんと聴こえた。
こんなことをしても、ゆるしてくれるのだろうか。
涙が溢れてくる。
あなたと同じように口元を笑みのかたちに歪める。
やがて、血の気が引いて、意識が朦朧として
握った手に力が入らなくなってゆく。
自らの意思で死を選べる生物は人だけと言われている。
だからマオにはこの行為は夢の中でしかできない。
最初で、最期のレグナへの愛情表現。
▽
| (a2) 2024/04/18(Thu) 21:38:43 |
| (a3) 2024/04/18(Thu) 21:38:54 |
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