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【人】 矢川 誠壱[朝が弱いのは、昔からだった。 スマートフォンのアラームの音は聞こえない。 電話の着信音だって、聞こえない。 ただ、ひとつ、メッセージの着信音。 鳴ったそれに、瞼が薄く開いた。] (7) 2021/06/17(Thu) 20:53:20 |
【人】 矢川 誠壱[ぱちぱちと瞬きを繰り返して、 ぼんやりとした視界を鮮明にすれば、 手に取ったスマホの画面に表示された スヌーズの文字をキャンセルして、通知の確認。 そこに表示された名前を見れば、 ふにゃりとそれはそれは緩んだ笑みを浮かべ、 うつ伏せのまま、頬を枕につけていた体勢を 仰向けに変えて、顔の目の前に画面を持ってくる。 スライドして開ければ、そこに表示される 大切な親友───そして、今は、恋人となった その人の名前に目を細めるのだ。 憂鬱な朝も、そんな些細なことひとつで、 こんなにも幸福感を感じられる。 それが、うれしくて。] 「おはよ」 [きっと、己の目覚める時間にあわせて くれたのであろう、愛おしい彼に、 まずは朝一番の挨拶を。] (8) 2021/06/17(Thu) 20:53:39 |
【人】 矢川 誠壱「今日は休み」 [大学に入って、一人暮らしを始めた恋人。 ちょうどいいから、と己もはじめようと 思ったのだけれど、いずれは離れるのだから もうすこし実家にいたら、と母の声に 仕方なく今はまだ実家暮らし。 ───実家とは言っても、転勤族だから、 父と母はまた、己が大学生活を送る途中で また別の土地へと引っ越すだろうから、 本当に、いずれは離れる住処、だ。] (9) 2021/06/17(Thu) 20:53:58 |
【人】 矢川 誠壱[『会えるんなら』という言い回しに、 ふ、と眦を下げる。 それって会いたいってこと?って そう聞きたくなるのを抑える。 恥ずかしがり屋の恋人の赤の差した頬は、 会って見るほうが、いい。] 「小夜子さんのカレー好き。 じゃー雨宮んち行っていい?」 [そう、打って送って、それから、 思案して、5秒。] (10) 2021/06/17(Thu) 20:54:19 |
【人】 矢川 誠壱「会いたい」 [まずは己から、素直になってみたけれど、 ───なんとなく、このメッセージを 見た雨宮の顔もみたかったなって、 そんなことを思ってしまうのだ。]* (11) 2021/06/17(Thu) 20:54:38 |
【人】 矢川 誠壱[ふぁふ、とあくびを殺して、飲み込んだら 一層大きな波が来て、今度は飲み込めないまま 大きく口を開いて、伸びを一つ。 送ったら送っただけ順番についていくW既読Wに 同じ時を生きている感じがして、 離れているのにすぐ隣にいるような気がして 己のメッセージの続きを彼が、 画面の前で待ってくれていると思うと どうしたって愛しさは募ってしまう。 だからつい、本音が溢れたんだ。] (21) 2021/06/17(Thu) 23:44:41 |
【人】 矢川 誠壱どうしたって愛しさは募ってしまう。 だからつい、本音が溢れたんだ。 聞き流されると思った。 もしくは、無視されると思った。 それが、こんな返事が、返ってくるなんて。 頬だって緩むし、目を閉じて息を吐いてしまうし 「うわ、好きだなー」って寝起きのかさかさの声で つい、口に出してしまったりもする。 2テンポ置いて、付け足したみたいに届いた その照れ隠しの続きに、また増していく。 ふ、とまた表情を柔らかくして、 WOKWのスタンプを送っておいた。] (22) 2021/06/17(Thu) 23:44:56 |
【人】 矢川 誠壱かーさん、今日飯いらない [そう、母に告げると「雨宮くん?」と 続けられるから、一つ頷いた。 おかずひとつでも多いほうがいいでしょ、と 手渡されたのは、かぼちゃの煮付け。 こんなの食べるかなあっていうか、 カレーと煮付けは合わない。 ただ。無下にするわけにもいかないから。 …そっと受け取って、彼の家に向かうのだ。 手土産は、かぼちゃの煮付け。 それからすこし飲み物と、つまみ。 チャイムを鳴らしてしばらく、愛しい恋人が 扉を開いてくれるのを今か今か待ち侘びている。]* (23) 2021/06/17(Thu) 23:45:33 |
【人】 矢川 誠壱[開いた扉に、その髪の先が垣間見えただけで、 ふにゃ、と表情は崩れてしまう。 しなやかな指先が、ドアをおさえて、開くと 短く響く、耳心地の良い中低音。 そこにある自分よりもすこし背の低い 彼の、頬に落ちる睫毛の影に。 それがゆっくり持ち上がって己を視界に捉え、 緩んだ緊張にわきあがる笑み。 その過程を見ながら、どうしようもなく 幸せだなと感じた。] おはよ。 …っつっても、もう昼過ぎだけど。 [彼に導かれて、一歩中にはいると、 ふわりと漂うカレーと、米の炊ける匂い。 後ろ手にばたん、と扉が閉まった。] (31) 2021/06/18(Fri) 9:48:37 |
【人】 矢川 誠壱いいにおいすんね [そういったら、彼が微かに鼻を鳴らすのが聞こえて 告げられた言葉に、ああ、と頷いて、 紙袋を差し出した。かぼちゃの煮付けだって、と 苦笑して言えば、彼は受け取ってくれるだろう。 彼の母が己のことまで案じてくれているのは とてもありがたいことだけれど、 もしも息子とその、大切にしている友人の 本当の関係性を知ったならば、 同じ顔をしてくれるだろうかと思わないではない。 それを知った途端、あの優しい声色が、 豹変するのではないかと。 ただ、それに怯えて、彼との関係を元に戻すなんて そんなこと、考えられるわけもなくて。] (32) 2021/06/18(Fri) 9:48:58 |
【人】 矢川 誠壱[彼の母と同じように、「一緒に食べな」と かぼちゃの煮付けを寄越した母については、 以前に、己と彼のような関係性の男性2人が 登場するドラマを見ていたときに、 「もし俺が同性愛者だったらどうする?」 と話したら、テレビから一瞬顔をこちらに向けて 「…好きに生きたらいいと思う」と落とされた。 それが本心かどうかはわからぬことだけれど、 そう、茶化すことなく口に出してくれた手前、 きっと、反対することはないだろうと思っている。 …それが、表面上でだけであったとしても。] (33) 2021/06/18(Fri) 9:50:03 |
【人】 矢川 誠壱[ふわりと緩んだ表情を見せてくれる彼に、 こちらも微笑みかけて。 ほんの2日前には会っているのに、 W久しぶりWなんて言葉が一度でも 口から出るのを見れば、余計に緩んで。] ───会いたかったんだもんな?俺に。 [と目をすがめて首を傾げてしまうのだ。]* (34) 2021/06/18(Fri) 9:50:30 |
【人】 矢川 誠壱[じろりと睨むその視線すら、愛しい。 ふ、と笑みを返せば、不貞腐れたような声が 飛んでくるから、今度こそ噴き出して。] ふは、 くく、っ…うん、そうだな、 …だって、会いたかったし。 [唇に拳を当てて笑ってから、 くるりと向いた背中に向かってそう、 呟くように投げかけた。 2人きり。狭い部屋の中ではきっと、届いたはず。] (63) 2021/06/18(Fri) 19:56:17 |
【人】 矢川 誠壱[その背を追ってキッチンについていけば、 紙袋を置いた彼がくるりと振り返る。 何か用か、と首を傾げれば、その手のひらが こちらに伸びて、頬に触れるから。 どくん、と心臓が打つと同時、視界の端に映る 手に視線を遣って、揺れて、彼の方に戻す。 また、爪の先に視線を寄せて、それから、 そっと甲の側から包むように掌を重ねた。 ゆっくりと関節に沿って内側を なぞりおろすように絡めれば、視線を 彼の方へとゆるり、戻して。] ………なに? [そう、なんでもないことのように聞こうとした 声は、どうしたって喜びが滲んで、 少し跳ねて、語尾が少し上がった。] (64) 2021/06/18(Fri) 19:58:45 |
【人】 矢川 誠壱[眉根を上げて、彼の行動の続きを促すように 一歩、そちらへと近づけば。 体を少しだけ折って、額をつける。 ゆらゆら、定まらない焦点の先。 微かに茶色の混ざったその瞳に、笑んで。] ………─── [もう一歩、体を寄せた。 彼がさらにその距離を縮めることを躊躇うならば こちらも動いてしまおう、と目を細め。]* (65) 2021/06/18(Fri) 19:58:59 |
【人】 矢川 誠壱[なんも、と返ってきた声に、ふ、と笑う。 だって少しうわずって、掠れてる。 己のものと、同じように。 同じ気持ち?ねえ。 触れたいって、おもってる? そう聞いてしまいたいのを堪えて、 こくりと喉を湿らすと、一歩、詰めた。 続きを促すように触れ合った額を離して、 もう一度、くっつけて、見つめる。 もう一歩、詰めたら、触れた唇は、 まるで戯れのそれで。 かすめるみたいな、触れ合い方に、苦笑して。] (78) 2021/06/19(Sat) 14:15:24 |
【人】 矢川 誠壱───…ほんとに? [微かに2人の間の空気を揺らすだけの 小さな声が届けば、眉尻を下げて。 額を離して距離を取る。 先ほど触れた唇の代わりに、 包んだままの手のひらを引き寄せて、 その手首の内側、薄い皮膚の上から、 わざと音を立てるようにちゅ、とキスを。]* (79) 2021/06/19(Sat) 14:15:33 |
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