241 【身内】冬の物語
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[ 考えも想いも定まらないまま、体力が続くまで雪奈を抱いた。
駄目だと思いながらも何度も何度も、付け入るように、縋るように。]
なあ、
[ 強い疲労感と軽い眠気。
胡乱な意識の中、だけどはっきりと伝える。]
付き合わないか?俺たち。
[ 雪奈の顔を見れないまま。
仰向けに天井を見上げて、それは呟くように囁くように。]*
[柊の腕の中で、淫らにイキ狂うよう。
甘い声を上げ、躰を跳ねさせ……。
時折、呼ばれると見上げる。
その顔が声が、何かを探しているようで、でも見つからなく、
縋るようなものに思えるから。
何を探しているのかなんて、予想で来てしまう。
なにか…と思って、結局は何も伝えてない気がして、
伝えようにも、言葉をうまく紡げないから、せめてと、安心させるように笑いかける。]
[何度も、何度もとっくに限界を越していた。
それでも、求められるまま感じてしまい、途中からは何も考えられないほどであった。
本能的な何かなのに、縋るように抱き着いていたほど。]
………ん?
[身体が重い。意識が朦朧としている。
目を閉じたまま、呼ばれたら反応だけはする。
まだ一応、意識はあると。]
………ぅん………。 ………?
はい!?
[何もわからぬまま、流れで返事をする。
が、すぐに何を言われたと、考え、理解すると、がばりと起き上がり、覗き込むように見つめる。]
しゅ、しゅ、柊…何を言ったか解っている!?
解っているから、言ったんだよね。
嬉しいけど、良いの? ではなく、冷静になろう。
[どういう事と、混乱してしまう。
幻の余韻?それとも、責任を?とか…いろいろ駆け巡る。
意識もうろうとしていたのが、一気に覚醒させられたが、そうやって考えていると、
やはり、眠たいような、意識がふわふわとして来てしまう。]
返事は…ちゃんとした時に言う……。
[夢から覚めたあとも、同じ思いを持ち続けているなら…。
やっぱりなかった事にしてもいいように、後にする。
それは、こちらを見て言わなかったからかもしれない。]
あ…でも、これだけ……柊、会いたかった。
[避けていたのは自分。
それでもずっと会いたかった…。
避けないで、何事もなかったようにふるまえばよかったと思ったほど。
それにいつも通りなら、冗談にして伝えるだろう言葉だが、まだ余韻が残っているから、素直に伝える。
が…やはり身体が重い。
起き上がっているのも限界で、横になり]
ただいま…。
[その言葉だけをつぶやいて、意識は途切れてしまうのであった。
もしかしたら、その言葉がすべての返事だったかもしれない。*]
| [ すれ違っていたか。 それは夢ではなかったし、戸惑いや迷いがなかったと言えば嘘だけど、決して夢の中で告げた言葉ではなかった。 雪奈もそうだと思っていた。思っていたかった。 友人には戻れない。 なら進むしかない。 それが恋ではなくても、愛情は確かにあったと信じたかった。 友情から変化したものであっても。 だからこそ 形 を作りたかったのかもしれない。 でも、だけど、熱が冷めてしまえば───… ] (0) 2024/01/10(Wed) 20:53:19 |
| [ 雪奈が眠ったのを確認すると、ベッドから抜け出して、部屋から抜け出して、自分の部屋に戻った。 冬の寒さが部屋の空気を冷たくしていた。
そこで初めて泣いた。 先輩に振られてから、初めて涙を流して泣いた。 届かなかった想い。 浮かし切れなかった熱。
押し寄せる後悔に苛まれるように。 静かに泣いた。
残ったのは自己嫌悪と、罪悪感だけ。] (1) 2024/01/10(Wed) 20:53:47 |
| [ それからは今度は自分から雪奈を避けるようになった。]* (2) 2024/01/10(Wed) 20:55:15 |
| [ 傷 は癒える。 時間と共に、失ったもの、空いた穴を塞ぐように何かで埋めていく。 埋める何かは何でもいい。 人の心はそう強くはないのだから。 ドラマチックでもヒロイックでもなく、ただ時間と共にそれは日常へと戻っていく。 雪奈との一夜から半年が経った。 先輩との関係は良好だ。 元々泥沼になりようのない関係性。素敵な女性に憧れた年下の男がいただけで、何も関係性なんて生まれてすらいなかったから。 仕事ではよき先輩と、その後輩。 失恋の痛みが消えるにはそう時間は要らなかった。 確かに好きだった。 でも、終わってみれば、痛みが消えて仕舞えばただそれだけのこと。 大人になりかけの、まだ青い恋がひとつ浮かんで消えた。 それだけのこと。 そして、大切な友人を失った。 その事実だけは消えることなく大きな穴を空けた。 それもまた日常の中で少しずつ埋めていく。きっと出会ってから失うまでと同じだけの時間をかけて癒えていくのだろうと、そう漠然と考えていた。]* (7) 2024/01/11(Thu) 19:39:16 |
[ その手紙は決別だった。
夜遅くに帰ってきて見つけたそれは、その半年ぶりのコンタクトは決定的な別れを告げるものだった。
半年経ってどんな大きな穴でも埋まっていくのだと。
そう確かに思えたのに。
こうしてまた心を揺さぶられる。
いつまでも。
まるで化膿した傷口のようにじゅくじゅくと。
膿んで熱と痛みを忘れさせない。]
どうしろって言うんだよ。
[ 呟いた暗いひとりの部屋。
どこにも向けられない感情と、どこにも届かない言葉。
テーブルの上の手紙。
メッセージならすぐ返せるのに。
本当に返すかどうか自分でも不確かなままそんな不満を抱く。]*
[夜も、随分ふけってきた。
だから余計、思い出すのかもしれない…この部屋にいるから。
と、息継ぎをするように、ベランダに出る。
空を見上げて、隣を見つめて、会いたいなと思えば…溢れそうになって。
夜の空気を吸い込んで、気持ちを落ち着けようとするのであった。*]
[ 暫くして、ベランダに人の気配。
というより、隣の部屋の雪奈の気配。
いつもなら避けるように決して外には出ない。
けど。
こんな手紙のせい。
隣に雪奈がいることがわかっているのにベランダに出た。]
よっ
[ 初夏の生ぬるい夜の風。
手すりに体を預けて隣の部屋の方を見た。]*
[久しぶりに聞いた声。
会いたいと思っていた人が、すぐそこにいる。
会いたいなと思っていたところだから、よけい。
夜だからはっきり見えなくても、そこにいるという事実。
驚きと、嬉しさでいっぱいになる。]
…………っ
[何か言いたいのに、こみ上げてくるものがあるから、言葉がでてこない。
こみ上げるものを抑えるように、空を見上げて息を吸う。
落ち着かせるように、俯いて、吐き出す。
それを数度繰り返した後]
ょ…よっ……
[同じように返すが、声をはっすると、同時に我慢できなくて、涙が落ちてしまうのであった。*]
[ ビールの缶を片手に言葉を交わす。
防火壁のせいで雪奈の姿は見えない。]
引っ越すのか。
[ 言葉にしたのはそれだけ。
ベランダから今度は遠くを見てビールを一口。
全然美味しくない。]*
[我慢しようとしても、溢れるものが止まらない。
読んでくれた。無視されてもおかしくないのに、読んでくれた。
それだけでまた…。
息を吸い込み]
……その…つもり………
[何とか一言吐き出した後、がんばって声のトーンを上げる。]
隣に住んでいるって、気にさせるかな…って思って…さ……
[何でもない事のように言ったつもりである。]
………ごめん。それは、建前。
本当は、私が気にするから……。
ここは、思い出がいっぱいだから……
どうしても在りし日を思ってしまうの。
隣だから、偶然とかも考えてしまう。
それに、声を聞いただけで……。
[想いが溢れてしまう。
この場で座り込みたいが、それでは声が遠くなってしまう気がしまい、壁に寄りかかりながら]
………未練がましくてごめんね。
本当はさ…あの事なんて、無かったかのように、友達して、
また飲みに行ったり、遊んだりしたいよ。
けど…そうするには、私の気持ちが、大きすぎるから……。
[言葉にすれば、否応にあふれ出してしまう。
目元をぬぐうが、それ以上は、言葉が出てこない。
好きと言う事も、今度こそ、さよならと言う言葉も。*]
[ 雪奈の声が震えている。
あの夜、決定的に変わってしまった二人の関係。
だけどそれは不幸なへんかだったのか。
友人という形におしこめて。
それが変わってしまうこと、変わってしまったことを恐れたのは何だったのか。罪悪感と後ろめたさにただ変わることへ怯え、びびっただけではないのか。]
無かったことに、しなきゃ駄目なのか?
[ 問い掛ける声は雪奈に向けたものだったのか、それとも。]*
………………えっ
[口に出したのか、思っただけか、定かではないほどの驚き。]
な、無かった事にしたくない……ううん。
出来ないよ。
だっ、…だって……あんな方法でも…嬉しかったから。
[ああでもしないと、関係を持つなんて事はなかったと思うから。
それでも、嬉しいだけでは終わらない。
一つの時間を手に入れたために、それ以外の…
傍に居る事すら叶わなくなった事は、後悔するほど辛かったから。]
それになかった事にしたいのは、貴方の方でしょ。
後悔したから…だから………
[だから一人で残された…と言う言葉は飲み込む。
半年も前の事だとしても、今もまだ昨日のように痛んでしまうが、それは過ぎた事。
どうにもならない過去だから。]
無かった事にするのが良いと思ったんただよ。
ねぇ…それを聞くと言うのは……貴方は、どうなの?
[自分は告げた…柊はどうなのか。
目元をぬぐい、ベランダの柵から身体を乗り出して、隣の…柊の部屋の方を見る。
声だけでなく、しっかりと見たいから。
でも…うっすらでも見るとこみ上げるから、唇を噛んで、答えの行方を待ってしまう。*]
俺は……
[ 無かったことになんかしたくない。
後悔はあった。罪悪感もあった。
雪奈を利用した。そんな自分が嫌だった。でも。]
雪奈にそばにいて欲しい。
[ それは恋ではないのかもしれない。
それもまた、後ろ向きになった原因だった。
でも。
恋ではないとしても、雪奈が好きな気持ちに嘘はない。それは友情の延長かもしれない。執着かもしれない。失いたくないだけなのかもしれない。
だけど、それの何が悪い?]
[ 本当に自分が嫌になる。
身勝手で、雪奈を利用して、雪奈を傷つけて、でも。]
俺は……お前を失いたくない。
[ それは何一つ偽らざる本心だから。]*
………。
[ゆっくり、自分の気持ちを確認しているよう。
何を言われるのか…とても怖い。
怖くて逃げだしたい。
あんな言い方をするんだから、期待してしまう。
でも同時に、期待してもと、後ろ向きになっていたが…]
………っ
[目を丸くして、息を飲んでしまう。
そんな事を言われるとは思わなかったから。
嬉しいと同時に、どういう意味なのと浮かんでしまう。
でも……そんな事を言われたら、どんな意味だろうが、どうでもよくなる。
嬉しいから…どんな意味だとしても、そう思ってくれる事が嬉しいから。
嬉しくて、別の意味で目の前が霞む。
やはりすぐに言葉を口に出せない。それほど胸がいっぱいだから。
乗り出していた身を、引っ込めて]
いるよ……傍に居る。
私から、離れるなんて…出来ないよ。
しないとと思って…でもずるずるできなくて、今度こそするぞって意気込んで、
手紙を出したのも、決意と言うかけじめというか、振り払う為とか…。
でも、結局最後の踏ん切りはつかなかったから…。
[大きく息を吸う。
別に今までだって、何度か口にした事であるが、初めて口にするような緊張が走るから]
ねぇ……そっち行って…いい?
柊に……会いたい。
[声だけのやり取りではなく、顔を、しっかりと会いたいから。*]
いいよ。
俺も……雪奈に会いたい。
[ 半年の間、避けていた。
会えない理由も、合わない理由も曖昧で定まらないまま。
だけど半年経ってみて残ったのは雪奈に会いたいということだけ。
ベランダから部屋に戻る。
それから、玄関に行って鍵を開けた。
いつでも彼女を迎えられるようにそのままそこで待っている。]*
すぐに行く。
[会える…それだけで胸が躍る。
ずっと笑い方なんて、忘れていた…けど、会えると思うと自然と笑っているだろう。
ベランダから部屋に戻って、気づく。
今、Tシャツと短パンの部屋着である。
久しぶりに会えるのに、こんな格好なのは…が、着替えるとなると、選ぶだけで時間がかかる。
許してと、鍵を持ち外へ。
部屋の鍵をかけて、すぐ隣に。
柊の部屋の前で足を止める。夕方…ここで足を止めた時とは違う気持ち。
行くと言ったから、勝手に開けてもいいだろうが、久しぶりなのもあって、インターホンを押してしまう。
扉が開けば]
会いたかった。
[はにかんだ笑顔を向けるだろう。*]
[ きっとそれは熱に浮かされるような激しい想いではない。
雪奈が向けてくれるそれとは違う。これは恋ではない。]
よ、久しぶり。
[ 扉を開けて雪奈を迎えいれて。
それから強く抱きしめた。
半年の空白を埋めるように彼女を強く腕に抱く。]
俺も会いたかった。
お前がいないのは寂しくて苦しかった。
[ そのはにかんだ顔を見て思う。
自分は確かに雪奈を必要としている。
そして確かに彼女を想い、愛していると。]*
[変わらない事が嬉しい。
半年も離れていたけど、それが嘘のように思えるくらい。]
うん。久しぶり…っ
[でも変わったのは、その腕の中にいる事。
行動一つで、すぐに胸がいっぱいになる。
その力強さに、実感させられ、負けじと手を回して、力を込めて抱きしめる。]
それは…私も……
ずっと、寂しくて苦しくて…辛かったよ。
声が聴きたくて…………会いたかった。
[もう一度、会いたかったと呟く。
ずっと、ずっと願っていた事だから。]
ねぇ、柊……覚悟してね。
がんばって、貴方を口説き落とすから。
[必要とはしてくれる。
でも、そこに恋があるかは解らない。
もしかして今更の宣言かもしれないが、それは解らないから。
見上げてにやりと笑う。*]
[ そんな必要もうないのにって思いながら。
雪奈に負けないぐらい不敵に笑って答える。]
楽しみにしてる。
……これからずっとな。
[ 先輩に失恋した
傷
はとうに癒えた。
そこに残ったのは埋められなかった喪失感という穴だけだった。
恋をした。
それは実らなかった。
恋はしなかったかもしれない。
でも、そこに愛情はあった、今もたしかにここに。]*
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