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【人】 水の魔騎士 ユスターシュ 「……ッ、」 甦った記憶は事実ほどは鮮明ではなかった。 ユスターシュは誰か女性と床を共にした。しかし、脳裏には別の女性がーー 頭がくらくらし、千秋を抱き締めていたにも関わらず譲は一歩よろける。 その時丁度休み時間が終わりを告げるチャイムが鳴った。 「……姫宮さん。すみません。」 ただそれだけ告げると彼女を解放し、場を去る。 やはり自分は何か大切な事を忘れている。記憶を取り戻さなくてはーー。* (11) 2023/10/19(Thu) 11:48:18 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ ーー過去の断片/婚約成立前ーー 本当の息子ではないから、こんなにも厳しいだけの訓練と修行にさらされるのか。 自分はただの、父の出世の為の道具ではないか。 本当の生まれの地は何処か。 血を分けた家族はそこにいるのかーー ユスターシュの陰鬱な想いを晴らしたのは、チアキローズとの謁見だった。 彼女を護衛するという任を授けられた時、これは自分の運命であると直観で思った。 儚く美しい花を護るのだ。 彼女は第二王女ではあるが、ユスターシュは一介の騎士。身分に差がある。 姫が出掛けるとなれば馬を走らせ、片時も離れず寄り添う。 他の従者とているのだから私語を交わす機会は少ない。 だがある日からそれは変わった。 (12) 2023/10/19(Thu) 17:34:26 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュチアキローズが乗る馬が、道端に現れたキツネリスに驚き暴れだした事が。 彼女を乗せたまま馬は暴走、森の奥深くに迷い込んだ。 近衛騎士団と従者は懸命の捜索にあたったが、運悪く天候が嵐に。 このままでは捜索隊にも危険が及ぶ状況。 「自分が姫を捜索します。皆さんは一度 安全な場所へ。」 雷鳴轟き雨が激しく降りしきる中、ユスターシュだけが愛馬を走らせる。 やがて、森の奥の洞窟に避難していた姫を見つけた時はーーユスターシュの身体もずぶ濡れになっていた。 暴走した馬は姫を振り落として何処かへ行ったのか。 「姫、ご無事で何よりです。 お迎えに上がりました。 さ、城へ帰りましょう。」 ユスターシュが手を差し伸べた時。背後に迫る黒い影ーー (13) 2023/10/19(Thu) 17:35:11 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュそれは、洞窟の主の巨大熊であった。 「はッ!」 振り向いて回避、剣をすぐさま抜くと構える。 熊は威嚇の姿勢を続けながらヨダレを垂らす。 長い冬眠から覚めたばかりか。 腹をすかせている。 鋭い爪が襲い掛かってきた。 ユスターシュは剣を握りしめ、渾身の力にて振るう。 一太刀、二太刀。 まだ、浅い。 チアキローズは援護の魔法を使ったろうか。 死闘の後に熊は倒れる。 ユスターシュは全身、雨と血に濡れて軽傷を負った。 それでも、ニッコリと笑顔を姫へと向ける。 「御護り出来て良かった。」 姫はユスターシュになんと言ったろう。* (14) 2023/10/19(Thu) 17:36:10 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ雨が激しく地を穿ち、雷鳴が耳をつんざく。 「チアキローズ様ッ! どこですか…!」 姫、チアキローズの名を連呼しながら馬を走らせるも、ユスターシュは彼女を見つけられなかった。 ーーその歌が聴こえなければ。 雨音にも雷鳴に負けないそれは、不思議な魔力を伴う旋律。 音楽によって魔法を司るミュジークの姫以外に、こんな美しい歌を歌える者がいたろうか。 ユスターシュは洞窟にて姫を発見した。 馬が居ないことを怪しむも、まさかそれが彼女の命を狙う者の仕業とは。 「姫……!」 互いにずぶ濡れになっていたが、二人は距離を縮める。 その再会を邪魔する熊が闖入者があるまでは。 (27) 2023/10/19(Thu) 23:53:00 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ熊が襲い掛かってきたのは偶然である。 姫の防御魔法を得て、ユスターシュは勇敢に剣を振るった。 姫の魔力は剣に力を与えて輝きを増し、大きな熊をも撃退する力を得た。 「くっ…!」 ユスターシュが無傷に勝利した訳ではない。 熊の鋭い爪や牙は、衣服の胸元を切り裂き素肌を傷つけた。 しかし、姫さえ無事であれば。 駆け寄ってくる姫に、微笑みかける。 「大丈夫です。貴女に怪我がなければーー。」 その言葉が遮られたのは、癒しの魔法を与えられたから。 彼女は触れることで治癒を発動する。 露出した胸板、その傷に添えられた手。抱き締められるような姿勢にユスターシュは驚く。 (28) 2023/10/19(Thu) 23:53:40 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ「そのような…」 辞退しなくては。身分を考えたら当たり前のこと。 しかしみるみる傷が癒えると、安堵の息が溢れる。 「ありがとうございます、助かりました。 貴女の癒しは素晴らしい。」 世辞でもなんでもない言葉であった。はしたない、なんて言う彼女に、むしろユスターシュの方が照れてしまう。 「身に余る光栄です。 貴女の癒しはその笑顔や 歌声だけではないんですね。 チアキローズ姫。 貴女は国の宝だ。 どうかその優しい心を忘れずに。」 彼女を護る剣となれたことを誇りに思う。この日以来、ユスターシュは姫と個人的に言葉を交わす仲となる。 そして彼女を一人の魅力的な女性としても意識したのであったーー。** (29) 2023/10/19(Thu) 23:55:05 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ姫宮千秋は生徒である。 教師であり、歳上の男にいきなり抱き締められたら悲鳴をあげてもおかしくはなかった。 しかし彼女は譲の腕にすっぽりと収まり、二人は互いの体温を分けあった。 彼女と別れた後も譲は上の空である。 懐かしい記憶が蘇りそうで、手が届かない。 彼女から感じた癒しの波動には間違いなく覚えがあるのに。 (32) 2023/10/20(Fri) 8:12:23 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ放課後になった頃だ。 華夜は私用があるというので、譲は独りイーリスの捜索の任につく。 魔法少女がまた行く手を阻むだろうか。 彼女たちは宝石の在処を知っているのか。 ーー澄みわたる清涼、小川のせせらぎのような歌声が響く。 屋上からだ。 この歌はーーあの、嵐の夜の。 そう、自分は嵐の中で確かに聴いた。 大切な誰かを探しながら。 (33) 2023/10/20(Fri) 8:16:12 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ変身を遂げた譲ーーユスターシュは屋上へと向かった。 「ウンディーネ、結界を張れ。」 屋上を封鎖しよう。そうすれば一般人の乱入もないし、一対一になれるはずだ。 魔力を結界に使う分ユスターシュの負担は大きく戦闘になれば不利になるが。 ーー屋上にいるのは誰だろうか。 ユスターシュが目にするのは、姫宮千秋か、それとも。* (34) 2023/10/20(Fri) 8:19:24 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ何処か予感はしていた。 歌っているのは姫宮千秋なのでは、と。 彼女が語った悩みは、余りに酷似していたからだ。 ーーチアキローズ姫と。 振り向いた彼女の身体が光輝く。その目映さにユスターシュは目を細めた。 まるで天使が舞い降りたよう。 魔法少女の姿となった彼女がそこにいた。 彼女はユスターシュに正体を明かした。それは敵対関係からすると致命傷なはずである。 しかも、武器を携帯していない。 丸腰のままーー真っ直ぐに立っていた。 凛とした姿にて。 (49) 2023/10/20(Fri) 22:32:40 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ 「……ハッキリさせるために来た。 お前が言う世迷い言が本当なのかどうかーー。 そして、俺達は闘うべきなのかどうか。 お前は婚約者がいたと話した。 それが俺なのだと。 だが、俺にはそんな記憶は… ない。」 ズキリ、とまた頭痛がしたが、脳内には霧がかかったままだ。 記憶は甦らない。 「その婚約者はミュジークの者なんだろう? ミュジークは精霊の扱いに長る者はいない。 俺はこの通りーー…」 くいと首を傾げウンディーネを呼ぶ。半透明でたぷたぷと水を滴らせた美女がユスターシュの肩に止まった。 「精霊使いだ。よって、ミュジークの 者ではない。」 そう話しながら、そもそも過去の記憶が全くなく、他の国で育った記憶すらないのだが。 全ては焔が舐め尽くしてしまっている。 ユスターシュはまだ剣を抜いてはいない。 一歩、また一歩彼女に近付く。 先程譲として抱き締めた温もりを思い出す。彼女を傷つけたくない。だがーー。* (50) 2023/10/20(Fri) 22:33:27 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ自分にはない記憶について言及される奇妙な感覚は筆舌しがたい。 それが特に相手との深い関係を示す場合は。 もし自分がミュジークの騎士であれば、この美しき姫の婚約者となり結ばれる栄誉に震えただろう。 しかし、実感がない想いだ。 仮定では考えられても、それを感じていたはずの自分が不在である場合、どうしても否定が走る。 「……精霊は友だ。 俺はずっと精霊と一緒にいた。 どんな時も。」 ウンディーネが頷く。ユスターシュに幼少の能力発症時や、ミュジークにて精霊使いなのを隠してきた記憶はないが、それだけは確かだと断言出来る。 精霊はパートナーだ。 ない記憶について、ユスターシュは恐れていた。 それをハッキリさせたいと考えながら、自分が変わってしまうので、間違っているのではと考えると怖い。 目の前の彼女は恐れず確かめようとしているのにも関わらず、だ。 (56) 2023/10/21(Sat) 8:50:19 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシューー覚悟が想いなら。 むしろ剣を交える覚悟を決めるべきではないかと考えていた時、彼女が意外な行動に出た。 「なッ……」 はしたないとは、思わなかった。 しかし彼女が1つずつ、そう一枚ずつ身に纏うものを外す様に目を見張る。 無防備過ぎる。昨日屋上で相対した時のようなシールドもない。 もしユスターシュが剣を抜いて喉元を貫けば簡単に命を奪える状態だ。 「血迷ったかッ……」 剣の柄に手を掛けた。しかし、長い刀身を晒すことは出来ない。 均整が取れながら肉感的なボディにユスターシュは釘付けになる。 罠だろうか。じり、と一歩下がるもそれ以上離れることは出来ず。 「治癒だと?」 姫宮千秋を譲は抱き締めた。その際、過去の記憶が僅かに甦る感覚を味わった。 彼女の能力は本物かもしれない。 「……ーーやってみろ。 その代わり、妙なことをしたら すぐさま命を奪う。ーー構わないのだな。」 (57) 2023/10/21(Sat) 8:50:59 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ 「俺はーードローイグの貧民街に産まれた。 小さな時、姉と二人で暮らしていた所に男達が押し入って来てーー浚われたんだ。 あれは、あの鎧はミュジークのもの。 ……姉さんと俺を引き裂き、焼き殺した犯人は、ミュジークの騎士だッ!」 ユスターシュはチアキローズを突き飛ばす。 思い出した壮絶な記憶に苦しみ胸をかきむしる。 「おのれッ!ミュジーク…! この鬼畜な所業を赦すものかッ」 あの焔に包まれて姉が生きているはずはない。 連れ去れた自分がどうなったかの記憶はないが、きっと奴隷のような扱いを受けたに違いない。 ユスターシュは恨みの籠った瞳でチアキローズを睨み付ける。 「お前の国が…俺の人生をめちゃくちゃに したんだッ!」 (58) 2023/10/21(Sat) 8:56:21 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ強力な精霊使いの素養を持つ子供がドローイグの貧民街にいる。 密偵からの知らせを受けた、当時の近衛騎士団隊長ゲオルグは直ぐ様作戦を実行した。 近衛騎士団といえば、王宮に仕える勇ましく立派な騎士達、というイメージであろう。 しかしそれは表向きの顔に過ぎなかった。 国を、王族を護って行くには裏の活動も必要である。 煌やかな世界はそうした闇に支えられているのだ。何処の世界でも。 (70) 2023/10/21(Sat) 18:52:38 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュユスターシュを拐ったのには二つの利点がある。 1つ。そのまま放置すれば彼はドローイグの戦力となるであろうこと。 実際、ユスターシュの双子の姉であるベアトリスはその後に焔の精霊使いとして開花し、ドローイグの宮廷魔術師、つまりミュジークの脅威的存在と化した。 もう1つは、ミュジークにはない精霊の力を研究し、あわよくば戦力に加えることが出来る、というものだ。 こうした理由により、ユスターシュの誘拐という非道は王族には秘密裏に敢行されたのである。 チアキローズが知らなかったのは当たり前だ。 裏の世界、裏稼業。 人を殺める事すらある。 国の維持に必要な裏を、表の人間が知る必要はないから。 (71) 2023/10/21(Sat) 18:53:14 |
【人】 水の魔騎士 ユスターシュ余りにも突然に甦った過去はユスターシュを狂気に走らせるに十分なものだった。 姉が亡くなったと勘違いしたなら尚更。 ユスターシュはまだ、姉の名を思い出してはいない。 今脳裏にあるのは幼き日の面影だけ。 怒りに任せ、屋上の硬い床に彼女を押し倒す。 瞳には憎悪の焔が燃えている。 ユスターシュが思い出した記憶は彼女が望むものではなかった。 それに絶望してもおかしくなかったし、または部下のしたことなど知らないと言っても不自然ではなかった。 しかしーーユスターシュが組み敷いた彼女は、王族であった。 それはただ地位だけで決まるものではない。 生まれながらに彼女は、その品位を持ち生きていた。 彼女の謝罪はまるで聖女のようであった。覚悟に満ちた人間のもの。 もしユスターシュが正常な状態であれば心打たれ、その場から立ち去ったかもしれなかった。 だが、怒りの焔がユスターシュの身を焦がす。 恋い焦がれるように身体を舐め尽くすーー。 (72) 2023/10/21(Sat) 18:53:46 |
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