45 【R18】雲を泳ぐラッコ
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ご飯、はお酒のおつまみよね?
[クッキーをちゃんと飲み込んでから話すのが、
躾の行き届いた娘っぽかったかもしれない。
ディナーはコース料理を想像して、
一品料理はお酒のお供と思っている]
前はそうじゃなかった?
[立食パーティーみたいな、料理が最初に出てるやつ、
と説明を試みながら左側の店を覗く。
キラキラした宝石はふぅん、って素通りした。
リボンを売ってるお店は、興味ある?って彼に聞いた。
画商に浮世絵が飾ってあるのを見て振り返った。
その先のお店で。]
あ……
[お客のいないお店の中に、
ピアノが飾ってあるのを見つけた。
ピアノがある家は多くないだろうが、
貴族のお嬢さんが嗜んでいることがあるからお店がある。
お店があるから、音楽家が来ることもある。
普段は客の入らない楽譜のお店だった]
ひとつ、一つだけ探し物してもいいかな……?
[多分リフルは興味がないだろうお店だ、
「デート」じゃなくなってしまうかもしれない。
ささっと用事だけ済ませてしまうつもりで……]
荷物になっちゃうかしら
[食べられない楽譜を思って恋人の顔を見た。
表紙と裏表紙を含めて4ページの紙だから、
折ってしまえば鞄に入るかも……と少し悩み。]
お願いっ
[本日三度目のお願いをした**]
[アキナは、小柄な女の子。
トップは何度も持ち上げてもらうから、小柄な方が、有利だ。
体は引き締まっているけど、背が低くて、体はしなやかで。
男子にも、トップが一番モテていた。
色んな感情がごちゃまぜになって、私はアキナの名前を借りた。
ユウ君に隠し事をしてしまうのは、卑屈、じゃなくて、臆病。]**
[俺の言葉を聞いて
表情が柔らかく変化していく。
まるでその様は
雲間から光が差し込んで
七色の橋が架かる瞬間を目の当たりにしているようで
目だけでなく、心も奪われた。]
[彼が生きているからこそ
見ることの出来る、嫋やかな変貌に
感嘆のため息が止まらない。]
ああ……、本当に凄いな
先程まで在った最上を
易々と超えて
更に高みへと昇って行ってしまう
今の、その顔、 堪らなく綺麗だ…
[青いふたつの泉から
零れ落ちる雫に
どうしても触れてみたくなって、
金色の房をそっと降ろすと
両方の掌で濡れた頬を包み込んだ。]*
──鈍色の記憶2──
[怯えた者たちも立派に努めを果たし、
兵達は戦果を上げて帰郷した。
家族があるものは、再会を喜んだ。
友や恋人、知人を持つものも喜びを顕にした。
無愛想な少年を待つ者は普段はいない。
だが、伝えたい事があるのだと、妙齢の女性が少年に近付いた。]
『シグマ!わたし、結婚することになったの!』
[世話になったし言っておこうと思ってと、幸せそうに笑う女。
祝事に少年も喜びを浮かべたが、
同時にズキリと痛む頭を押さえ。
“おめでとう”と言葉にはして幾つか話したが、
すぐに回復しなかった少年は体調が悪いと言い、
日を改めて祝儀を持って行く約束をして、女と別れた。
あの人が幸せで、嬉しい事に偽りはない。
全部忘れて、きっとそれで正解だった。
あの人に呼んで欲しかった存在を捨て去っても。
]*
[裏口で言われた「ごめんね」は、呼び出した事や食堂で目立ってしまった事だろう。
何でも許される立場なのに、きちんと謝ってくれるその姿勢は好きだった。
隣を歩いてくれていたら、締まりのないその顔を見てきっとこちらも笑って、もう少し空気も和んだ事だろう]
着替えてますよ。
[着替えてないと言われたけど、ジャケットを羽織ったんだからこっちの認識としては着替えてる、の部類だった。
確かにお嬢様に比べたらきがえたレベルは雑魚だが。
何か後ろでくすくす笑い声が聞こえたのは、
着替えてないと笑われたんだと思ってちょっとバツが悪くなった。
更に突飛なお願いを持って来られて、
多分今迄生きて来て一番間抜けな顔をしたんだ。
彼女が飲み込んだものも、
不安を抱えたその胸も気付く事さえなく、
一つしか持たない答えを差し出して、
それから、あくまでも彼女の意思に従うと左手を差し出した]
………
[変な間があった。
この間の解説を彼女から聞ければきっと笑ったんだろうが、まだ主従の気持ちが抜けていなかったものだから、問う口を持ち合わせていなかった]
[義手を、こんな風に優しく握った人なんていなかった。
生身の右手だって、よく考えればそんな感触は覚えていなかったけれど。
感覚のない筈の機械の手でも、触れられた事はわかるし、握られた事もわかる……検索に忙しかった訳ではないが、関節をなぞられたとは気付かなかった。力加減は器用なもので、決して彼女に痛みを与える事はなかった]
オレの名前?
[レモンという名を気に入らないという顔はしていないが、
彼女は何故かこちらにレモンを投げて来た。
彼女の頭と心に浮かんでいるレモンは感性に富んでいたのに、己は「髪の色が?」とはてなの顔をするに留まる。
まぁ、彼女は心から良いと思ってくれた様に見えたから、
うん、と頷かれたら、うん、と、同じに返して、
隣に歩く彼女と空気を分かち合った]
[「お気に入りのクッキー」は……まぁ、間違ってはいない。
屋敷では澄ましている事が多いのに、
今日は子供の様に目を輝かせている。
そのきらきらの瞳にあてられると、ふっと笑みがこぼれる。
多分、うちのパティシエが作ったのの方が美味しいぜ、とは言わないでおいた。
店員の前じゃなければ言っていたかもしれないが]
楽しい? よかった。
[聞いた事をふんふんと覚えようとする姿も珍しくて、ついじっと見た。楽しい、と言われれば、ほっとする様な、嬉しい様な気持ちになる。
片手が塞がれて不便ではないだろうかと少し心配したが、彼女は問題なくついて来た。
と思ったら、瓶を抱えていて思わず噴き出した。
いやそんなに買わねぇよと笑った。
店員にも声を掛けられている姿に、
こちらが楽しませてもらってしまっている事に気付く。
レシピをすらすら読む彼女には、「小麦粉が入ってたんだすげえな!」と合わせてみたら自分でおかしくなって肩を震わせた。
試食の皿もクッキーと勘違いした彼女には感心した。
流石頭の出来が違うなぁとおどけて言ったが、
なかなか良いアイデアじゃね?と店員に振って店員を困らせた。
ちょっとうるさくしてしまったけれど、
ずっと彼女の手が離れなかったのは、
ただ真面目なだけではないと思う。
きっと嫌ではないと汲み取れて、己は終始笑顔だった]
[彼女の好きなクッキーと、自分の好きなクッキーと、
レモンと甘い香りが詰められていって、
小さなしあわせぶくろが出来上がった。
こちらが財布を出す前に鼻息荒く彼女の財布が飛び出して、ええと、と言い掛けたけれど、まぁこのへんはいいか、と苦笑した。別に悪い訳じゃないし。淑女はこうはしないイメージだが、オレに恋人を教えろって言ったんだから、平民のデートでいいだろ、多分。
小さく驚いた振りをして、ありがと、と呟いた。
店員に、女に払わせるのが当たり前の男に見られるのが嫌だという、格好の悪いただの見栄]
[見栄を張った後は、増えた荷物に失敗した、と思った。
上手くリード出来ないのが悔しくて、
すぐに対処法を捻り出した。
流石に抵抗があるかと思ったけれど、
食べ歩きも彼女は批判しなかった。
それでもやはり育ちがよいせいか、
立ち止まって食べる事になった。
そこで感じた差を、割ったクッキーを二人で食べて埋めた様な気持ちになった。
クッキーの袋に集まる様に少し身を寄せて、
再び歩き出したらまた少し離れて、
時々人を避ける様に彼女が身を寄せて来たり、
逆にこっちが彼女の方へ寄ったり……]
ええと……
[ご飯が酒のつまみだと言われて、
説明もしてもらったが、「まぁ後で行けばわかる」「食べきれなかったらオレが食べるから」と手抜きな回答になった。
心や身体や立場や知識や経験が寄ったり離れたり、
また寄ったりしながらデートが続く先に、
彼女が心惹かれる店があった様だ]
[リボンは別に、と通り過ぎたが、
彼女の入りたがった店にはじっと視線を向けた。
ピアノ。
彼女の得意なそれは、何度か耳にしている。
音楽がよくわからない己でも、
聴けば落ち着く曲もいくつかあっただろうか]
勿論。
一つと言わず、気が済む迄。
[言った後、
ピアノをまさか買う訳ではないかとちょっと過ったが、
彼女のお目当ては楽譜の様でほっとする。
興味が薄いものでも、
恋人と一緒なら楽しめるところもあるかもしれない、とか意見を述べるタイミングは逃して、荷物も大したものじゃないだろう、お願いっておおげさだなぁと笑った後、
二人きりになると、
彼女がどこか屋敷のシャーリエの顔で話し出した]
|
なんでも、しんとした、 澄みわたった夜が、星たちには、 いちばん好きなのです。 星たちは、騒がしいことは好みませんでした。 なぜというに、星の声は、 それはそれはかすかなもので あったからであります。
─────『ある夜の星たちの話』 小川 未明
(47) 2020/10/01(Thu) 22:50:26 |
| [結局「アキナ」の情報もないまま 家に帰ってきてしまった。
顔色を覗き込むような母親の顔から逃げるように 自室に籠って、俺はまた本を開くだろう。
読み慣れた本の世界に、ではなくて 目に見えない女の子との会話に夢中。
いっそ、ソシャゲの推しを引くために ウン万つぎ込んでる、とかの方が 親も心配しなかったかもしれない。 ……なんて、部屋の外から話しかけてくる か細い母さんの声を聞いて思うんだ。] (48) 2020/10/01(Thu) 22:50:44 |
| 「……ねえ、リビングでお茶しようよ」
…………。
「あなたが好きだった、裏のケーキ屋の バームクーヘン、あるわよ」
…………。
「ねえ、友。何かあったら話した方がいいわ」
……何も無いよ。今、本読んでる。
「何も無いなら、それでいいから。 一緒に顔みてお茶飲もうよ」
……本、読んでるから。
「…………そっか、ごめんね」
(49) 2020/10/01(Thu) 22:51:33 |
[それは例えば寝癖で一束だけ跳ねた髪を
見つかってしまったときや
声を上げて笑ってしまったときに
吐き出された溜め息とは
質が異なるものだ。
温かい吐息と彼の言葉が
開かれたワイシャツの間の肌を撫ぜ
熱を持つ二粒とその奥の心を震わせる。]
……、……
[脂汗を噴き出させる痛みは
相変わらずあった。
けれど、味わったことのない幸福感が
次から次に溢れてもいて
痛みによる辛さと綯い交ぜになる。]
[新しい自分に変わっていく。
けれど、不思議と怖くはない。
────かの男も、復活を遂げる前には
手足を貫かれて磔られ、痛みを伴ったものだ。
生まれて初めて吸った空気は彼の――、
在原治人の、匂いがした。]
[濡れる顔を包むように触れられれば
混ざり合ったそれらはいよいよ
結合してしまったのだろう
嬉しい、正の感情だけが残り
とろりと蕩けた瞳で
彼の左目、……右目、…また左、と見つめ
頬は血色を取り戻し淡く色づいていった。
同じ色の唇を、ゆっくりと動かす。]
……、……
[けれど、饒舌になった彼とは裏腹に
僕の口からは言葉が出てこない。
貴方のことをもっと知りたい。
僕のことを知って欲しい。
そんな欲が確かにあるのだけれど
音に換えることが出来ない。
頬に伝わる温もりに、声を奪われてしまって。]
[七週の間、
何度焦がれ、何度妬んだことだろうか。
あの標本を作り上げたこの掌に。]
(あったかい……)
[安くはない代償を払って
危険な海の外に出て
最期には泡になって消えてしまうだなんて
馬鹿のすることだと思っていたけれど
W声を犠牲にしてでも逢いに行きたいW
その気持ちが少しは理解出来た気がする。]
[言葉で教えて貰うのではなくて
この世界一の職人の掌を通じて
教えられたい。
贅沢にも、そう願ってしまう。]
……。
[唇を結び直せば、緩く弧を描かせて
ふ……、とただ微笑みを浮かべた。
貴方に仕上げられることを
望むだけの作品だ。**]
| [─────昔、小学校の頃 俺はいじめにあっていた。
嫌なくじ引きに当たった……みたいな 特に深い理由もなくそれは始まった。 朝一番の「おはよう」に誰からも返事がなくて それを切っ掛けに、靴が無くなり 教科書やノートも消えた。
友達だと思ってた人達が、 ある日突然敵に変わる。 何故?と問うても誰も答えない。
それで……少しだけ、堪えてみようと思った。 何が原因かは分からないんだから 少し待てばまた前みたいに友達になれると思って。
待って、待って、待って、待って、 待って、待って、待って、待って…… でも全部元通りになるより先に 俺の心が折れる方が先だった。] (50) 2020/10/01(Thu) 22:52:00 |
|
かあさん、おれ、がっこういきたくない。
[そう、勇気を出してしぼりだした時 母さんは半狂乱になって、自分を責めてしまった。 何も気が付かずのんきに息子を学校に送り出して 暗い顔してても勇気を出せと言うばかりの 何も分かっていなかった自分を。
結局、母さんが学校に突撃して いじめは急速に収まったけど…… でも元通りにはならなくて。 というか、元通りに接しろ、なんて 俺自身が無理だった。
元通りに笑えないし、喋れない。 何話していいかも分からない。 相手の目を見た時、冷たく歪んでたらどうしよう ……そう考えたら、目すら合わせられなくなった。]
(51) 2020/10/01(Thu) 22:52:31 |
| [そうして小学校を卒業して 中学から、高校まで。 幸いまたいじめられることはなかったけど 一度ついたオドオドした態度は変えられない。
特にこの桐皇なんか、良い奴ばかり。 ……だけど、俺だけがずっとダメなまま。
何も心配いらないよ、母さん。 あんたの息子は今日も 良い奴にだけ囲まれて過ごしてた。] (52) 2020/10/01(Thu) 22:53:04 |
| [他愛のない会話だって自分でも思う。 本当に面白いやつはもっと違う話をすると思う。
それでも必死こいてる自分を どっか冷静な自分が冷ややかに 笑ってることすらある。
それでも。] (53) 2020/10/01(Thu) 22:55:17 |
|
[たったそれだけなのに 神様はひどく残酷なことをする。]*
(54) 2020/10/01(Thu) 22:59:27 |
| [俺がバスケ部でもないし陽キャでもない ただの卓球部のクソ幽霊部員で、 教室の隅っこで震えてるだけの人間だって アキナにだけは知られたくない。 知られたく、なかった。
なのに、どうしても会ってみたくて、 勇気出して陽キャに声なんかかけて。 矛盾してるのは分かってるけど、でも。
なのに、違和感は募るばかり。] (55) 2020/10/02(Fri) 0:41:59 |
| [だって、おかしいだろ。
友達とカラオケも行けない世界って?
田舎のじいちゃんが「帰ってくるな」って?
街から人が消えて、
世界中で戦争みたいにひとが死んで……
おかしいだろ。ありえないだろ。
漫画かハリウッド映画の世界みたいじゃん。] (56) 2020/10/02(Fri) 0:51:57 |
|
[俺は、そんな世界を知らないんだ。]*
(57) 2020/10/02(Fri) 0:52:40 |
| (a13) 2020/10/02(Fri) 0:53:32 |
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