100 【身内RP】待宵館で月を待つ2【R18G】
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視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
嗚呼
死神。神隠し。
嗚呼 なんという不敬。なんという冒涜。
嗚呼
其の不遜たるや 此処に極まりなし。
嗚呼
愚かな真似を。
神を名告るでは 飽きたらなんだか。
ゲイザーが自分のために使用人にお願いをしてくれた、その後ろ姿を思い出す。
今度は自分から知りたいと、そう思ったのは、あれが1番最初。
………
……
…
「身勝手なもんだなァ…」
金烏の怒りを感じたキエが抱いた感想は呆れと煩わしさの2つである。
「自ら歩こうとしないのだから勾引かされた事に寧ろ感謝するべきだと思うがねェ。神は何時何処に行っても身勝手なものだ。
気に入らないなら大洪水でも起こしたまえよ」
キエは自身を否定する手立てが限りなく少ない事を知っている。であるから敵意を向けられても感じるのは呆れと煩わしさだけだった。
「嗚呼面倒くさい、僕らだって逆らえる立場ではないというのに。
なァ、リーパー君?」
キエは中庭での出来事を知らないが故に呑気な呼びかけをした。
/*
誤字に今気付きました。
“金烏”ではなく“日輪”の間違いです。sorry!
/*
ハローハロー、あなたのベル記(思い込み)、当方です。
デイリー匿名メモポルターガイストも出来る気分でなかった浮遊想でした。
当方、引き続き『
透明な描写
』を続けますが、本窓が見えている方は特筆がなくとも、任意の箇所を『半透明な描写』として認識していただいてOKです。
何かあれば都度聞いていただければ〜〜! とりあえず今日もLoveを振り撒いておきます、キャッキャッ ٩(ˊᗜˋ*)و
「
え? なにこわ。探偵さんにこの文言で呼ばれたくなくない??
」
「…………」
その時、リーパーは苛ついていた。
キンウという少女が神隠しされたようだけれど、
おまけに自らの名を呼んだようだけれど。
自分は関わっていないから、知ったこっちゃあない!
あとまだ話したこと無いし!
──同じ、館の協力者ではあるけれど。
「あー、イラつく!
なァあのゾズマとかいうやつ殺そうぜ!
オレが殺人鬼ってこと、バラしちまった。
だから知っているやつを全員殺す必要が有る!
今までやってきたオレたちなら、簡単なコトだろ?」
そうして、また襲撃の提案を行う。
今日は永劫に続くと思っている。
”館の協力者”という安寧に、罅が入ったことすら考えない。
「……それに、アイツ。オレを見ているようでムカつくし」
「オレ“たち”ねェ…僕ァわざわざ殺す必要も無いし血など流していないよ。其処は一緒くたにしないでくれないか」
キエにとって殺人とは林檎を木の根から引き抜く事と同義である。人が死ぬ事を嫌だとは思わないが歓迎もしていない。
其れでもリーパーの凶行に口を出さないのは、此の館において其れが“神隠し”という自分達に与えられた役目に繋がるからだ。
「良いんじゃないか? 君の事だから放っておいても役目とか関係無くゾズマ君を殺してしまうだろう。
だったら今のうちに
行ってきなさい」
「あ〜〜? 色々引っ掻き回してるのテメェだろ。
オレとオマエは一緒だよ!」
リーパーにとってはそうだった。同じ悪党同士。
あなたにとってはきっと違う。
「
オレ利き手怪我してんだよ!!
ゾズマの野郎にやられて……。 ナイフが握れねえ。
毒殺? 刺殺じゃねェと意味がねェ!」
──即ち。今の殺人鬼は、無力だ。
リーパーは華奢な女ならぬ膂力を持つが、
それは脳のリミッターが動いていないということ。
あなたと違ってどうあがいても人間だ。
怪我が治るまではろくに首も絞められない。
「つまり僕に殺せと? 人間を?」
「…………」
キエは気が短くはないが長くもない。粗暴でもないが温和でもない。感情の起伏というものが乏しくもある。
しかし――……
自分の在り方を変えようとしてくるならば其の限りではない。
「殺したいなら君が殺しなさい。
利き手? 知った事か。其れが僕に何の関係があるんだい。
刺殺? 知った事か。君の在り方を押し付けるな」
キエは不確かな存在であるが故に生死の概念を持たない。だからこそ自分の在り方を自分で定めなければキエはキエでなくなってしまう。
「………
いいね?
」
「…………」
「……オマエさ、ひとのこと『お前』って言えるんだな」
「そりゃそうさ、言葉を知っているからね。
しかし其れは答えになってないなァ?」
キエは喜びを知っているし悲しみを知っている。
キエは愉悦を知っているし憤怒を知っている。
キエは感情を持たないが、喰らってきた数多の夢から確かに感情を知っている。
此れを知っているのは、只1人貴方だけだ。
「で、どうするの君。僕がやるなら相手は僕が決めるけれど」
「…………」
ぐぎぎ、と歯ぎしりの音。
「あァー……。ゾズマは”役目”に関わらず、
オレが個人的に殺す。
今晩の襲撃はオマエに任せるぜ。
相手だって好きに決めればいい!」
「
知りたいって言われたから こたえただけですよ
」
「では相手とやり方は僕の方で決めよう。只候補はあるが成功可否は判らないから其のつもりで。
何となくだけど彼は館の理から少し外れてる気がするんだ。
…まァ失敗したら館の主人のせいさ。もっと便利で強大な理を僕らに与えなかったのが悪い」
先程見せたキエの怒気はすっかり霧散し一滴も見当たらない。代わりに役目に関わらず自らの意思で殺人を計画するリーパーへの感心が隠れている。
キエは殺人を好ましく捉えないが、自ら考え決意し行動に移す者は好ましいと捉えるからだ。
「また何か在れば伝えるよ。互いに運が在ると良いねェ?
……いってらっしゃい、リーパー君」
キエは名前を呼ぶ。名前こそが存在を示す証拠であると考える。
…
……
………
ポルクスの望みを叶えることは出来ない。それを申し訳なく思う。
夢を見る前、キエの言葉を思い出す。月はとても高い、寒いところにある。
――青草に透けて、ころりと横たわる少女がひとつ。
規則正しく上下する胸。眠っているのだろう。
その劇を見た。
その男を見た。
その空間を、その空間を彩る全てを見た。
「……っ」
目を奪われる。
自分が頼んだものよりも遥かに大きく、遥かに引き込まれる舞台が目の前に広がっていた。
自堕落に溺れていた心の中に、かっと熱くなるような高揚感が灯っていく。
嗚呼……嗚呼。
そう、そうだった。
己の憧れはそういう存在だった。
帽子を深く被り直して、俯く。
熱くなる心のままに泣いてしまいそうで、表情が崩れてしまいそうで。
誰に見られるわけでもないのに、そうしたかった。
「トラヴィス……ありがとう」
夢を見ていた。誰もいない、触れたいものにも触れられない、高くて寒い宙の夢。
「…………」
目を醒ましたわたしはまず、あんなにこびりついていた
寒さ
がなくなっていることに気付く。
身体を起こして辺りを見回した。
彼の姿がどこにもない。
部屋に戻ってしまったかしら、とそう思った。
「……?」
そしてもうひとつ気が付いた。
あんなに毎日お腹を空かせていたのに、その空腹感がどこにもない。
けれど夜が来たというわけではなさそう。
わたしは魔法がまだ使えない。
「……行かないと」
置き去りにしたいくつかの約束が待っている。
違和感に不安な気持ちを抱きながら、わたしはドアノブに触れようとした。
触れようとして、すり抜けた。
予想なんてしていないものだから、わたしは扉もすり抜けて転んでしまう。
廊下を、使用人が歩いていた。
使用人は、部屋の外で転んだわたしに構うことなく、廊下を横切っていく。
「────え?」
何が起きたかわからなくて、すぐに起き上がることができなかった。
そうする間にも使用人、来賓、数名の往来がある。
その誰ひとりとして、わたしを見る人はいない。
背筋が凍るような心地がした。
多分また、酷い顔色をしているのだけど、それを指摘してくれるポルクスもいない。
ようやく立ち上がったわたしは、広間に向かうことにした。
莫迦ではないから、人とすれ違う度、状況を呑み込んでいく。
どうやらわたしは、誰にも見えていないみたい。
広間でわたしは彼らの姿を探す。
人混みもすべてすり抜けるから、動きやすいといえばさすがに楽観視が過ぎるかしら。
そう、わたしは冷静だった。
なぜか
ぬくもり
をずっと感じていた。
それがなければ、もっと取り乱していたかもしれないけど。
わたしは探す。
わたしに気づいてくれる人を。
少しそそっかしくて、一生懸命なお友達の姿を。
夢の中にまで会いに来てくれた、白い鴉の姿を。
いつの間にか隣からいなくなっていた、優しい、彼の姿を。
大きくてふわふわいつも浮いている、不思議な彼の姿を。
探している。広間を、中庭を、館中を。誰の目にも触れなくても、今のわたしは孤独じゃない。
ポルクスは目を覚ました。
泡沫の夢のよう。
宙に漂いながら俺は見た。
――被害者の顔をして泣く少女。
可哀想だ、ごめんねと思う。
――夢の中でも何かを探しさまよう夜の少女。
ありがとう、その温もりを手放さないでと思う。
神隠しの顛末にしては陳腐だろうか。
俺の身体は一線を画するこの空間にすら降り立てないらしい。
「……トラヴィス。礼を言う。
…………前のことは一生根に持つが、この恩もまたきっと忘れないだろう」
舞台人の一挙一動を見届けて、独り言つ。
皆が同じように願ってくれるか分からないからこれは賭けだ。
でも、「願えば何かが変わるかもしれない」という予感だけは男の中でほんの少し芽生えていた。
揺蕩っていた夢の底から、少しずつ浮き上がってきているのだろう。
「リーパー。俺を殺して満足したか?神隠しに遭わせてしまえば何も出来ないと思ったか?
俺が壇上から引き摺り下ろされて大人しくしている人間だと思ったなら。
その身をもって考えを改めることだな、ご愁傷様。
自堕落に溺れる俺を動かしたのは、お前だよ」
男は身勝手な性格で、身勝手な理由で動く人間だ。
だから、どこかの宇宙服に身を包んだ男にもし問いかけられたとしても、「俺が救いたかったのは少女だから知ったことではない」と述べるだろう。
……
少女が『彼も救いたい』と願うなら話は別かもしれないが。
今その少女は、眠りについたままだ。
「本当はお前のこと、もっと知れたのならよかったんだがな」
「少女の内側に潜む殺人鬼。題材としては非常に面白い。
作家はそこからミステリでも悲劇でもなんでも膨らませるだろうし、詩人ものびのびと感情を乗せて歌い上げるだろう。
でもな……」
▽
「すまないな」
「女を傷つけ苦しめる奴の物語など、俺は死んでも歌えない」
ユピテル
「……ユピテル」
男は振り向かない。貴方は自分と再会した時のように目を閉じているのかもしれないと予想はつくけれど、それでも、顔を合わせる事ができなかった。
断末魔を上げる少女を見捨てる事ができなくて、どうにか考えて動いた結果だ。後悔などしていない。
……けれど、自分だって事情を何一つ聞いていない。
「……いいや、知らない。
俺だって、聞けるなら聞きたいさ。
あいつに殺された瞬間はまだはっきり思い出せる。死ぬほど辛くて苦しくて、今も思い出すと怖くて仕方がないけれど」
誰にも見えないくせにッ!
オレと同じ、ひとりぼっちの癖に!!
「……救えるなら、救ってやりたいよ。
その判断をするユピテルを、俺は否定しない。許さない筈がない」
頭の奥で、かすかに聞こえた似た者同士の残滓が響いている。
殺人鬼の苦しみを完全に理解する事が出来なかったとしても、ひとりぼっちの苦しみは、自分もよく知っている。
……けれど。
▽
「でも、もしそれで、ユピテルが危険な目に遭ったら?」
自分はユピテルのように多くの為に心を砕く事ができない。
自分は親しい者を優先する。酷く身勝手で、ろくでもない人間であることは自覚している。
「もしそれで、お前が襲われて死んでしまったら?」
「そんな考えばかりが、頭に浮かんでしまうんだ」
▽
「お前が死んだら俺はきっとあいつを一生許せない。
例えお前があいつを救ってくれと願ったとしても」
「俺自身が死ぬことより、お前が死ぬほうがたまらなく怖くて苦しいよ、ユピテル」
――人はポルクスを称賛した。
心優しい王子様だと。
――人はポルクスを称賛した。
見目麗しく天才だと。
――人はポルクスを称賛した。
神の血を受け継いだ特別な子供だと。
そんなものは嘘だ。
俺は優しくはないし、努力をしただけで天才などではない。
ましてや神の子だなんてありえるわけがない。
俺はただの王の子であり、人間である。
全て特別な力を持って生まれた兄が受けるべき称賛だったはず。
兄が受けるべき寵愛だったはず。
死者に干渉する力というだけで忌み嫌った者たちが自分にはわからない。
我が半身は、力を持った特別な人間だったというのに。
わたしは彼を探している。
ふたりがひとりだったなら、きっとわたしたちは出会うことはなかった。
頬に触れた手と、この
ぬくもり
は似ているように思う。
だからかしら、胸騒ぎがして。
だってあなたはどこにもいない。
──わたしはあなたになにかしてあげることができた?
あなたはわたしに優しくしてくれた。
わたしはあなたに何も返せていない。
あなたの望みは叶えられない。
わたしでは、叶えてあげることはできない。
でも。わたしがあなたにできることは、本当にそれしかないのかしら?
わたしは探す。
わたしは彼を探している。
そしてわたしは、わたしにできることを、探している。
ようやく俺は地に足が着いた。
そこは館の外の中庭の、あまり人目につかない外れの方。
兄の残り香が……強い。
本来のそこにはないものが、この空間には確かに残されている。
薄紅色の花びらが舞う大輪の桜の木。
そして残されたおびただしい――――――血の跡が。
「これは兄さんのものではないな」
では何故だろうか。
血の跡を一瞥し、桜を見上げると、
ひらりと舞う桜が一枚、鼻の上に止まった。
――――――あ。
「これだ……」
桜の花びらから確かに漂う残り香と、兄の気配。
木に背を預けて目を閉じると、不思議と知るはずもない成長した兄の姿が映し出された。
やはり兄は、この館に来ていた。
「――――――ずるいよ、兄さん」
何に対してそう形容したのだろうか。
ただわかるのはカストルという双子の青年は、必要としあえる相手と出会ったということ。
そしてポルクスという双子の青年は、ひとり残されたということだけだった。
ポルクス
わたしはあなたを探している。
まだ自分ができることは、わからない。
それでも、あなたを探していた。
いだいたぬくもり
は、まだ、手元にある。
「……?」
広い中庭の隅、見たことのない、桃色の木。
わたしの知っている木は、みんな緑の葉を茂らせたものだけど。
足を止めたわたしは、そこにあなたの姿を見つけた。
まだ自分ができることは、わからない。 でも
「ポルクス……?」
木の根元に広がる赤い液。
あなたのものじゃ、ないのでしょう?
遠くで見ても分からなかったから、わたしは恐る恐るとあなたの名前を呼んだ。
ユピテル
唇を噛む。自分だって彼女の言葉に助けられた。死ぬことを躊躇わず何でも言えるその姿勢が大きな魅力であることはよく知っている。
何も言えなかった。
貴方の言う通り、今の貴方を作る全てに惹かれたのだから。
自分の言葉に決して頷かない貴方の答えに胸が締め付けられそうになって。でも、「ああやっぱり好きだな」という気持ちが浮かんだのも確かだ。
▽
あなたの胎の中が蠢く。
どどめ色の極彩色から、逃げ回る素朴な光。
ゲイザーには聞こえている。
それらの愁傷、苦悩、寂寥、憎悪、絶望──その声が。
その中の、僅かな後悔──その声が。
あなたは周到な手段で目的を遂行する。
相手の合意ありきで行動する。
けれど、誘われたのはリーパーの方だ。
ゲイザーは何も聞いちゃいない。 ⇒
ユピテル
「ユピテル」
もう一度名前を呼ぶ。
立ち上がり、振り返る。
自分がしたいのは愛することであって束縛することじゃない。
本当はついて行って後ろから死神の彼に睨みを利かせてやろうかとも考えたけれど。
それで彼女が聞けたいことも聞けなくなってしまうのは本意じゃない。
「信じてる」
でも、それだけじゃ足りない。
「『自分がこうしたい』と思ったことをしてくれ、ユピテル。
俺はどんな選択をしても、お前を応援しているから。
お前が道を選んで進むことを、自分のことのように嬉しく思えるのだから」
ずっと迷って傷ついている貴方を見たが故の言葉。
言葉を重ねながら、拒まれないのなら抱きしめる。もう寒さはどこにもない。氷のような冷たさは、貴方が溶かしてくれたのだから。
我儘を通した罰で動けないのなら此方が許しを与えるまでだ。
そして、ゲイザーは。
物語のヒロインでも、守られるだけのか弱いお姫様でもない。
リーパーがゲイザーなら。
ゲイザーだって、リーパーだ。
『……さん!』
『キエさん!! 聞こえていますか!!!!』
ゲイザーは怒っている。
あなたの胎の底で逃げ回るならば、
あなたの声だって聞こえている。
語りかける寝物語も、その全てが。
『あたしあなたのこと許しませんから!!
出してください、ねえっ!!』
『あたし、謝らなきゃいけないことがあるんですっ!』
『ミズガネさんに』
『チャンドラちゃんに』
『……リーパーに!!』
『そのどれもが、あなたのお腹じゃ成し得ない!
リーパーと会えるのがあなたのお腹の中なら」
『あたしたち二人揃って神隠しされて、
だれにも見えなくなったほうがずっとマシ!!』
⇒
『リーパーが頷いたからこうしたのは知ってる!』
『でもあなた、ムカつくんですよ!!』
それは正当でもなんでもない。
不当な怒りだ。
『出してくれないと
あなたのお腹蹴っ飛ばしますよ!!』
あなたは自らを定義し、そして同時に人に定義される。
人と共生することで生き永らえる存在だ。
だからこそ狡猾に動く。
ゲイザーは特別だ。記憶じゃない。
確固としたひとつの人格があなたの胎に治まっている。
だから反抗を成し得た。
この館で、願いは魔力となり力を持つ。
館の魔力を無自覚に用いて、ゲイザーは外に出たいと主張する。
さて、どうなる?
これは人ならざる怪物と、最早人の形を持たぬヒトの力比べだ。
チャンドラ
声をかけられそっと目を開ける。
あなたの姿がわかれば、にこりと笑みを浮かべた。
「ここは不思議なところだね。
チャンドラまで居るとは思わなかったな。
これが神隠し……?」
花びらがひらりと舞い、二人の間に1枚、2枚と落ちてゆく。
「もう動けるようになった?
寒くなくなったなら、良いんだけど」
ポルクス
よかった、この赤はやっぱりポルクスのものじゃない。
安心したわたしは、少しだけ緊張を緩める。
「あなた、わたしが見えるのね。
……目を醒ましてから、わたしのことが見える人、ほとんどいなくて」
それが神隠しなのでしょう。わたしは頷く。
「もう、寒くないわ。
むしろ少しあたたかいくらい。……不思議ね」
チャンドラ
「見えるよ。不思議なことを言うね、館にいる皆には俺達が見えなくなってるの?」
未だ館に入ってない俺にはその現象がわかっていない。
けれどもこれが神隠しを経た空間だというのなら、そういうものなんだろうと納得だ。
「寒くない。……そう、それならよかった」
願いは聞き届けられたということだ。
驚いた様子も、ホッとした様子も見せることはなく。
理由を告げるつもりはないのか、静かに答えるのみだ。
ポルクス
「ええ、その通りよ。
誰にも見向きされなくて、最初は驚いたものだけど」
わたしは目を閉じる。
そうすると、このぬくもり
がより強く感じられる気がして。
「ひとりじゃないって、思えたの。
あなたのことも、思い出したわ」
このぬくもり
は、あなたの掌にとても似ている。
あなたがわたしに無償でそそいだ優しさに、とてもよく似ている。
無償でしょう? あなたが言った通り、あなたの望みを叶えるならば、わたしに酷いことをするべきだもの。
「君に許されなくたって僕が僕を許すんだから其れで良いんだよ。人間は本当に身勝手だなァ…君達の都合に僕を付き合わせないでほしいね」
キエは胎の底から聞こえる声を聞き流していた。其れは自分が得意とする
夢の世界にいるからこその余裕であり慢心でもあった。
“人格を喰らうのは僕も初めてでねェ。
咀嚼に時間がかかってしまうだろうがそこは許してほしいな”
此の言葉に嘘偽りなくキエが胎に人格を収めたのは初めての事である。意思を持つ食べ物など初めて口にしたが故に胎の中から抗われた事も初めてだ。
だからこそ、此の展開をちっとも考えていなかった。
未だ“ゲイザー”に此処まで意思が残っているだなんて思っていなかった。
「
」
キエは初めて吐き気を催す。
キエは嘘吐きであるし数え切れない程の嘘を吐いてきたが幾つか本当の事がある。其の内ひとつが食の細さだ。
大食らいでないからこそ此の在り方に馴染んでいる。
性でもなく感情でもない力が胎で溢れれば直ぐに許容量の限界は訪れてしまう。
「ちょ、
ちょっと
」
「待って、本当に待って………此の儘だと
。君以外の感情も全部を撒き散らしてしまうよ、其れは望む処じゃあないだろ…」
此の小さな箱庭で禍根を全て零してしまえば結果は目に見えている。此れまで散々見せて来た高圧的な態度は今や見る影もない。
あのキエが、心底から焦燥している。……効いている!
「ええっ!?」
だが思わずゲイザーはその足を止める。
それが嘘じゃないのはわかった。胎動している。
このおどろおどろしい、感情のひとつひとつが。
その中にはきっとリソースとなったトラヴィスや、
ほかゲイザーも知らぬ契約を交わした
ゲストたちの記憶が混ざっている。
「そ、それは困ります……。けど、そうは言われたって!
……どうすればいいんですか!」
胎の底から1匹の鰐が浮かび上がると其の背中はゲイザーの足場になった。
「はいはい、出してあげるから大人しくしてなさい。…で、何処に出るの君」
鰐が発する声はキエのものだ。此の鰐が“キエ”だと夢を見ているゲイザーならば判るだろう。
鰐はゲイザーを乗せてゆっくりと感情と記憶の沼を泳いでいく。
………そう、沼だ。ゲイザーは人格であるから直ぐに混ざらなかったというだけで、本来胎の中は泥濘のように混ざっている。此処から特定の何かを掬い上げる事など砂浜から一粒の砂を探し当てる事に等しい。
何処かから赤ん坊の泣き声が聞こえる。
「君達が勝手に持ち込んだ魔力とやらを使わせて貰うからね。君も出られるんなら文句無いだろ?」
キエの行動は酷くあっさりとしていた。此処から出る為の試練も無ければ課題も無いが其れが“キエ”だからだ。
チャンドラ
「俺達は死んだのかな。
神隠しに遭った者が帰ってくることはあるようだから、生きてるのかな。
これが死後の世界だというのなら、悪くない」
痛みも苦しみもなく死ねたというのなら、これ以上の死に方はきっとないだろう。
「けど……俺だけじゃなくて君もここにいるというのは良くないね。
思い出してもらえたのは嬉しいけど……君は、もっと生きるべきだ」
底冷えする寒さがあるわけではないが、今、自分には一欠片のぬくもり
も存在していはいない。
自分の魂は兄のものだけど、ぬくもり
だけはあなたに遺して行こうと思ったことは後悔もしていない。
そこに取引も駆け引きも欲望も、ひとつもありはしない。
ただただ一方通行の感情でしかなかった。
定義がキエを形作るとするならば、
この鰐もまた、キエの一部分なのだろうか。
ゲイザーは悍ましいアトラクションのような景色を進む。
「ま、魔力……? あたしっ、魔法使いじゃありませんし。
よくわからないですけど……。
わ、悪いことしないならいいですよっ!」
きっとあなたは、
”悪いことなんて滅相もない”なんて返してしまうのだろう、
そも善悪基準が人間とは違うのだから。
拍子抜けするほど簡単な脱出に、
”もっと早く声をあげればよかった”なんて思いながら。
⇒
ポルクス
「言われてみれば。
死んだっていう発想は、しなかったわね」
死後の世界なんてものを信じていない。
夜でないなら、わたしたちにはその権利すらない。
わたしたちは夜にしか生きられないの。
「……ポルクス。
それはあなたは死んでもいいと、そう言っているの?」
常昼のこの館で死後の世界を信じないわたしは、自分が生きていることを疑わない。
もちろん、あなたも。
あなたの望みは知っている。
それは叶っていないと思っている。
同じくらい、叶わない方がいいとも思っている。
あなたの言葉を借りるなら、わたしはあなたに生きてほしいと思っている。
チャンドラ
「わからない。
この花弁が教えてくれたから……兄もこの館に来ていたこと、館であったこと、兄が得たもの、兄が捨てたもの」
今更捨てたものを欲しなどしないだろう。
ならば俺の行き場はどこにあるのだろうか。
「でも……一度捨てようとした命だから、あまり惜しくはないかな」
「…ん、見えた」
目的地を意識に捉えると迷う事なく速度を上げた。
キエは人を導かないし救いもしないし愛していない。されど人を大切にせざるを得ない曖昧模糊な存在だ。
人によってキエは善にも悪にも成ってしまうし、キエ自身も自ら其の在り方を選んだ。其れはキエの嫌う面倒が多く在る筈なのに選んだ道だ。
赤ん坊の泣き声が遠くなっていく。
「相も変わらずおかしな事を言うねェ君は」
ポルクス
「……お兄さんが?」
偶然か、双子の神秘がそうさせたのか。
でも偶然にしてはできすぎていて、わたしは驚いていた。
追うものと追われるもの。
あなたとお兄さんの関係は、聞いた話ではそんなもの。
それなのに、先にこの館に来たのはお兄さんの方。
そしてあなたが追うようにここを訪れた。
とんだ運命の悪戯ね。
それともこれも、館の主の意志かしら。
「惜しくはない……あなたはそう、思うのね」
ひとつ知る。
お兄さんの影がなくなって尚、あなたを蝕むもの。
わたしが思っていたとおり、そしてあなたの話していたとおり、あなたの中のお兄さんの存在はとても大きい。
ポルクス
「わたしはそうは思わないわ。
命は粗末にするべきではないもの」
ひとつ知ったなら、次はわたしの番。
わたしはわたしの道徳を語る。
そしてこれはわたしだけの道徳では決してない。
「命を危険に晒しても、やりたいことがあるなら別よ。
わたしはそれは、粗末とは別と思うもの。
わたしはあなたに、命を粗末にして欲しくないわ」
わたしは探して欲しいと言う。
どうせなくなってもいい命なら、それを賭けてでもやりたいことを。
叶うかは、また別の話。
それでも目標のために冒険する時間は、きっと有意義なもののはずだから。
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