165 【R-18】シュガートースト、はちみつミルクを添えて
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[しばらくして、風呂から出て着替えれば、
その足で食事を頼みに行った。
出来上がったら部屋まで運んでくれるようだ。
部屋へ戻ったとき、彼女はどうしていただろうか。
その場にいたなら「ただいま」と一声かけるだろう。
濡れた衣類は脱衣所で水気を絞った末、
部屋の隅にかけておくことにした]**
お、気ぃきくじゃん。
ありがとな。いってら。
[そう言って送り出してから、暫く経った。]
おかえり。
風呂どうだった?
メシ食ったら行ってくるわ。
[少しの間だったのに、やけに長く感じた待ち時間。
こちらは既に浴衣に着替えており、濡れた衣服も干している。]
[浴衣姿の男を見て、小声で呟く。]
……改めて……わりとガタイいいのな、羨ましいわ。
[掴みかかられた時に薄々察してはいたが。
小柄で筋肉もあまり付いていない己の身体とつい、比較してしまった。性差もあるだろうし、育った環境の違いもあるのかもしれない。]
とりあえず寝床決めるか。俺が布団でお前がソファでいいな?
[先程、呟いたことは無かったように。寝具をどちらが使うか決める事にした。]**
[戻ると普通に挨拶を返してもらえて、
微笑み返した]
ん、思ってたより落ち着くとこだった。
メシは出来たら届けてくれるってよ。
[他にも頼んでいる人がいるだろうし、
適した時間帯にまとめて各部屋に届けられるのかもしれない]
[浴衣に着替えた彼女は、身体の細さが際立つように思えた。
その彼女の呟きが微かに耳に届いたが
打ち消すような言葉を聞くと、追及はせず]
いいけど……、狭そうだなソファ。
床よりマシか……。
[女性のほうが上等な寝床を使うのが筋であろうし、
無礼をはたらいた立場でもある。
あまり強く抗議する気はなかった]
[寝床に決まったソファに移動して座ってみれば、
予想より座り心地が良く、そこそこ眠れそうであった。
そこから彼女をじっと見据えて]
ところで、お前さ。
なんでそんな荒々しい口調なんだ?
[ふと疑問に思ったことを尋ねた。
それもあって少年かと思い込んだのだが。
何か意図があるのだろうかと、首を傾げた]**
そーかい。なら、何より。
メシ楽しみだなー
じゃ、決まり。本当だったらカッッタイ床で寝かせてやってもいいんだからな?
[夕飯までの間、とりあえず当たり障りのない話題を振っておくか……と、相手への返事をしながら考えていた]
[……ところで、相手から話題が出てきた]
え?
…………なんとなく?
[口調の事について尋ねられたのは、初めてな気がする。
そもそも、己が男だとか女だとか気にしてくるような輩は、そんなに多くなかったという理由もあるが。]
…………なんとなくさあ、身内をさ、守りたかったから…………かなあ。俺が「女」だって知られると、色々めんどいってのもちょっとはあるけど。
……大本の理由は、それだな。
[明言は避けたが、自分がこうなった理由は、実は覚えている。
母は、よく自分を「あの人にそっくり」だと語っていた。
……その、「あの人」が、顔も名前も知らない父親の事だろうということは、なんとなく察していた。
『母さんはきっと、まだ忘れられないんだ』
そう、思ったから。少しでも、「父さん」の代わりになれたらと、そう思って。なんとなく男らしく振る舞うようになった。
……それがきっかけ、だったと思う。]**
……床は勘弁。
[寝床の話にはそれだけ返した。
一応折り合いはついているし、一夜だけのことだ。
だからこれで良しとした]
[口調について尋ねて返ってきた言葉は
あまり予想していなかったもので、更に首を傾げた]
身内を……守る……?
口調や態度で守れるってのはよくわかんねぇな……
女と知られたくねえってのはわかるけど。
この辺、治安悪そうだし。
[男にとっては仕事のしやすそうな土地でもある。
治安だけが理由でもないのだろうが、
理由のひとつにはなりそうなものだ]*
んあー……変な返事して悪ィけど。お前に言えるのはこれくらい。
そうそう、女だって分かると色々ナメてくる奴とかいるしさ。
オッサンは?なんか苦労話とかねえの?
[深く掘り下げてくることはなさそうだ。安堵しつつ、こちらからも深入りしない程度の話題を振る。
話が一通り終わったところで、食事を運びに使用人がやってくるだろう。]**
あー、おう……まぁ初対面だしな。
[思わせぶりなことを言われたかと思うと、
きっぱりとラインを引かれた。
そのぐらいの距離感を保ちたいということかと、
大人しく引き下がることにして]
俺の苦労話ねえー……?
ろくな仕事にありつけねぇってくらいかね。
なんとか食い繋げてはいるけどな。
[入浴中にも思い浮かんだせいだろう。
真っ先に出てきたのはこのことだった。
普段からこんなことを考えているわけではないのだが]
最近は地元じゃ稼ぎづらくなってきてな。
ちょっと遠出してみることにして、ここまで来たんだ。
[ここまでの道中でも少し話した内容を補足する。
詳しく知らせるような話でもないのだが、
なんとなく話したい気分になったのだった]
[料理が着くのはその頃か。
テーブルに並べてもらって礼を言い、使用人を見送って]
美味そうじゃん。
食べるとするか。
[一日の終わりだし、肉体労働の後である。
雨の中に屋根の下にいられて
温かい食事にありつけることに、素直に感謝が湧いた]*
ふーん。……やっぱりお偉いサンとかに目ェつけられたりとかしてんの?
[もう少し詳しく尋ねてみてもいいかな、と一瞬考えたが。向こうにだって言いたくない事はたくさんあるだろう。軽めの問いかけにしておいた。
たまたま拐おうとして、アテが外れて。妙な縁で一緒にいる相手に、吐き出すような内容でもないだろうし。]
ありがとさん。
[運ばれてきた食事に、同じようにお礼を言って食べ始める。
味はそこそこ、実に庶民的な味だが。
……久しぶりに、誰かと一緒に食べる食事は、なんだかいつもより美味しくて。]
……なんか、今日のメシはいつもより、美味ェわ。
[気が付かないうちに、笑顔になっていた、のだった。]**
そんなとこだな。
俺がってーより、仲間が全体的に。
[やっていることがことだけに、想像がつくだろう。
その程度のことは隠す気もなく、正直に明かした。
あまり深く語る気が無いのはお互いさまであった]
[旅先で、奇妙な縁で同室になった人と食べる料理というのは
味わいも変わるものなのかもしれない。
普通と言われた料理が、何だか際立った印象を持っていた。
それは彼女も同様なのか、感想を聞いて顔を上げてみると、
笑顔を浮かべているのが見えて]
散々な一日だが、飯が美味いと元気出てくるな。
[今日はお互いに『ツイてない日』である。
それでも終わりが良いと、悪くない日だったように
思えてくるから不思議なものだ]*
なーるほどなあ……あの、オッサンと一緒にいたヤロウどもだろ?
仲間思いなんだな。
[返ってきた返事に「仲間」という単語があったので、少し意外だな、と思う。……彼は、褒められたような仕事はしていないものの、一人で生きてきたわけではないのか。
なんとも言えない感情が内側で渦巻いたが、口にすることはなかった。]
だなあ。ま、こういう日もあるもんよ。
[『ツイていない日』だな、と最初は感じていたのに、気がついたら少し、楽しい日だったな、に変わっている己に驚きつつ。
悪い日ではない、というのは良いことだから。適度に会話をはさみつつ食卓を囲んだ。]
じゃあ、俺は風呂行ってくるわ。
寝たいんだったら先に寝てていいからな。
……先に言っとく、おやすみ。
[食後、部屋を出て風呂場へと向かう。途中で従業員に食器の片付けを頼んでおく。
……風呂から戻ったとき、彼は起きているだろうか。寝ているだろうか。]**
[「仲間思い」と言われてきょとんとした。
そんなに特別なことという意識がなかったからだ]
……そりゃあな。
何年も一緒に暮らしてりゃ情も湧くし、
似通った事情の奴らが多いし。
[早くに親を亡くしたとか、親に捨てられたとか。
経緯はともあれ、皆、身寄りのない子どもだった。
生きていくには犯罪に手を染めるしか
なかったというわけだ。
そこまで彼女に語る気は無かったが]
こんな日は一生の中でも
そうそうない気がするぜ?
[誘拐しようとした相手を手助けして、
共に宿に泊まって、一緒に食事をしている。
なんとも奇妙な話である。
彼女にとってもそれは同じだろう。
結果的に『いい日』で終わるのなら、
詫びになったとは言ってもいいのかもしれない]
[食事を終えると、今度は彼女が入浴する番だった]
食後すぐって気持ち悪くならねぇか……?
まぁ、おやすみ。
起きてるかもしんねーけど。
[素朴な疑問を投げかけつつ、彼女を見送る。
その後少ししてやってきた使用人には、
食器を片付けてもらった。
その後はソファに寝転がってみて狭さを実感しながら、
止まない雨音に耳を傾けた。
一時は静かになっていた雷鳴も、また轟き始めている。
彼女が帰ってくる頃には一瞬うたた寝しかけていたが、
物音でハッとして視線を向けるだろう]**
ふうん。そうなのか。
……大事にしてやりなよ、「別れ」ってのはいつだって突然だからさ。
[間の抜けた表情をした男に、「俺とコイツは似てるようで似てないのかもな」と思う。
お互いにあまり裕福な暮らしはしてないだろうし、阿漕な事もやってきたのであろう事は想像に難くないのだが。
「近くに誰かがいてくれた」「離れないでずっと側にいる」
……そんな事がきっと当たり前だったのだ。自分と違って。]
もう二度と遭いたくはねーけどな。
[軽く笑ってみせて、誤魔化す。
明日になったらただの他人。もう二度と会うこともないだろう相手。
こうなった経緯は、あまり良いものでは無かったはずなのに。内側でずっと燻っている感情が溢れそうになって、]
んじゃ、風呂入ってくるわ。
[思考を振り払い、風呂場へと向かった]
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