人狼物語 三日月国


75 【身内】星仰ぎのギムナジウム【R18G】

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 スピカ

「…きっと、ゆっくりでいいのよ。
 今日や明日に何かが変わるなんて、そうないわ。
 スピカが無理をしすぎてしまわないように、
 疲れてしまわないくらいに。それでいいの」

きっとそれが、誰かをおもうってことよ。
そう言って、スピカの微笑にまた一つ笑顔を返した。
少しずつ、確かに前を向いて、変わりつつある『みんな』を
その想いを、イクリールは何よりも愛している。

「わたしの知ってることなんて、ほとんどは
 誰かから聞いたことか、それか本人から聞いたことよ。
 だから…こうなってしまうと、むずかしいわね。」

でも、大丈夫。
言葉にできる根拠なんて何処にも無いけれど、
それでもきっと、やろうと思ってできない事なんて
優しくて、それでいて向こう見ずな子ども達の世界には
ただの一つだって、ありはしないのだ。

スピカに小さくあたたかな手を差し出した。みんなで一緒に答えを探しに行こう。

イクリールの手を握った。未来へ、一歩ずつ進んでいこう。

答えに期待していない。

返り血を浴びて、寮の廊下を歩いている。深夜の話だ。

 シェルタン
「気にしなくていい……どうせ、
食べられない
からな」

座布団に、腰を下ろす。
まだ体の痛みは残っているのか、動きは緩慢だが。

隣に座るシェルタンの手元辺りに目を向けて。

「……そう、だな。何から話したものか……

 ああ、そうだ。お前に謝らなきゃいけないことが出来た。
 …ぼくは、約束を守れなかった。
 あいつらの所には、いかないと言ったのにな」

進み続ける。手の中にあるものを、優しく、そして確かに握り締めながら。

スピカの望む答えは出せない。

けれど、そこにいる彼女を"一番星"だと思っている。

ルヴァは、ブラキウムの首筋に優しく指を当てた。
(a44) 2021/05/31(Mon) 21:36:15

ルヴァは、サルガスと――    同じ――   。
(a45) 2021/05/31(Mon) 21:37:34

深夜、一つの復讐を終えた。少なくとも、自分はそう思っている。

ルヴァは、ブラキウムが、ずっと、ずっと必要だった。
(a46) 2021/05/31(Mon) 21:40:26


「イクリールみたいな子が、苦手になったのもそのころかなぁ……」

一区切りついてしまった恐怖、ああけれど。

これから
「こっちは……これからのいえないこと。いったら。
 
ルヘナ僕らのこと、
じゃあ
って、置いていっちゃいそうで。


「……兄さん、この体がカストルなのは、間違いないんだよね、だったら」

「今まで悩んできたけど、さ。僕らは、どうやっても死ぬ間際には二人でいられるから、死ぬのは恐くなかったんだ。でも、今は別。元々の僕らなら、まず」

「僕らが、この環境を許すはずがない」


ここにいるから。息を吸い込んで話をつづける。

 シェルタン
「死ぬつもり、だったんだけどな。
 内通者も見つからなければ、ぼく自身も隙だらけだった。

 ……なあ」

連れていかれたこと、それ自体は自分も気にしてはいない。
思っていたよりも、というだけだが。

所在なさげに、手袋の嵌った手を近くの床に滑らせる。

「……"治療"するっていうのは、本当だったんだな。

 ああ、あいつらは何でも分かってたんだ。そして、ぼくたちの望む望まないに関係なく治療を行う。そういう場所なんだな、ここは」

分かっていたはずなのに。今更、理解してしまって。

スピカをまた傷付けた。

それでも、"特別な望み"が叶う日が来るのを希う。

 カストル・ポルクス

 自分が誰かを置いていくことは、ない、とは言い難い。
 だからそちらに対しては沈黙のみを答えとして、
 あなたの言葉の続きを聞いていく。

「お前の身体は間違いなく『カストル』のものだ。
 『ポルクス』の肉体は……病院にあるはずだな」

 以前大人達が聞いているのを盗み聞いてしまったのか、
 それとも何かしらの書類を盗み見てしまったのかは覚えていない。
 けれど、
 
『ポルクス』が過去の事故以降『植物人間』で病院にいる

 その事実を自分は知っていた。

 あなたがカストルを『ここにいる』というのなら。
 自分もその前提で話をしよう。

「……行くのか? 
『ポルクス』を取り戻しに
」 

ルヘナの腕の中で泣いている。

深夜、血に濡れた棒を焼却炉に投げ捨てた。

メモを貼った。

決心をしたようだ。

メモを貼った。

図書室を去っていく。そこにスピカを置いて。

ルヘナを笑顔で見送った。

メモを貼った。

誰もいない図書室で、もう一度泣いた。

誰も居ない部屋の前を後にした。きっと、良い子の『悪い子』との約束を果たせる明日を探しに行こう。

図書室から立ち去った。


「……――――」

 図書室からゆっくり離れていく足は次第に早くなり、
 最終的にはどこまでもどこまでも駆け出していく。
 誰かに会いでもすればその走りも止まるだろうが、
 よく慣れ親しんだ人気のない道ばかりを足は選ぶ。

 ……息を切らして、壁に手をついて、崩れ落ちる。
 ひゅうひゅうと鳴る喉が苦しさを訴え、
 はくはくと開かれる口が酸素を求めている中で、
 零れ出した言葉は、

 「ありがとう」

 の一言だけ。

想ってくれてありがとう。
救おうとしてくれてありがとう。
諦めないでいてくれてありがとう。
そのどれもが自分勝手で、
より彼女を傷付けるとわかっていて、
それでもやめろとは言えなかったものばかりで。


 自分の望む救いが訪れるまで、まだ呼吸が続けられる。
 まだ呼吸が続けられるし歩いて行ける。
 まだ、続けられる。
 まだ。

「……よし、」

 俺は、まだ、待てる。

まだ、『いない』。それでも確かにここにいる。

ルヴァは、ブラキウムを抱きしめて、"愛"を囁いた。
(a76) 2021/06/01(Tue) 0:38:44

ルヴァは、血にまみれている――。
(a77) 2021/06/01(Tue) 0:39:59

"その時"を待ち続ける。いつもたらされるものかもわからずに。

ギムナジウム中を巡る。見付けなければならないものを、捜し人を求めて。

イクリールから、  を、震えを隠しもできないまま受け取った。

 シェルタン
「……お前が嬉しいなら、良かったのかもな。
 だけど、ぼくは…………、……ぼくは、怖いんだ。

 これから先、どう生きていけばいいのか。今のぼくには……分からない」

ずっとずっと、覇気がない声になった。
迷子の子供のように、酷く不安げで。

「死んだってしたくなかったことを、させられて……結果的に満たされて、……本当に嫌な場所だ。治療が成されるのが本当だと分かっても、ぼくは…ここが、嫌いだ。

 シトゥラも言っていたが、本当にぼく達が変わればここは変わるのか…?」

 ポルクス

「そ、っか」

 ……友人の、友人の完全な『死』を聞いて。
 思わず漏れたのは本当にそれだけの返答だった。

 カストルの精神が死に、ポルクスの肉体が死に。
 歪な彼らは、本人の望まぬ形でひとつになってしまった。

「……完治おめでとうとは言わない。それだけは絶対に言わない。
 それで、『お前』を取り戻しに行けないのなら、ポルクス。
 お前はこれからどうするんだ」

 問いの示すものはなんでもよかった。
 ギムナジウムに残るか出ていくのか、園芸部をどうするのか、
 明日は何をして過ごすのか、
 飲み終わったお茶のカップをどうするのか。

イクリールから受け取った  を開いた。


 それは夜の帳が下りて暫くした頃のことだった。

 恐る恐る目を通した  は、    からのものだった。
 緊張しながらそっと目を通した  の一文目を見た瞬間、
 『いなくなる』前に交わした約束を彼が
 律義に守っていてくれたことが分かって、少し笑ってしまった。
 彼が自分を見てくれていたからこその精度の高さに
 やはり彼は尊敬に値する人物だと認識を改める。

 そこから更に目を通して彼の考えの一端に触れて。
 ――ある一文を見た瞬間、もうそこにはいられなかった。

 走り出す。『いなく』なった自分がずっと『見て』もらうことを待ち続けた彼のもとへ。

図書準備室へと走る。


 そうして、非力な自分で駆け抜けて、
 ローブの重さにこの時ばかりはもどかしさを感じて、
 ようやくたどり着いたその場所に駆け込む。
 通常の生徒であれば入る機会のないこの場所に
 こんな時間にいるのは、
 あの手紙の差し出し人だけだと思ったから。

「――シトゥラ!」



 うんうん。なるほどポルクスらしい選択だ。
 ……と思ったのはついさっきまでのことで、
 それから滝のようにあなたの口から飛び出していく言葉の密度と
 ところどころに生じているツッコミどころの多さに
 何も言えなくなった。

お嫁さん……?養う……??家に無理やり……???

 
言えた。やったね。


「……とりあえず、俺はお前達の嫁にはならないのと、
 お前の教養レベルは間違いなく高いのと?
 養われるつもりがないのと……ふむ。
 俺は俺の自由に動かせてもらいたいよ、ポルクス」

 愛の重さも執着の重さも知っていたが、
 これだけ具体的展望を語られてしまうと
 ほんの少しだけでも修正したくなってしまう。
 自分が愛を向ける先がもう決まっているから、というのもある。

 ……そんなちょっとしたことはともかくとして、
 彼の語る展望の姿を、自分は少し見て見たくなって。

「何かを始めることに遅いなんてことはないさ。
 俺達はここで多くを学び成長していく子供だし、
 卒業までいるならあと4年もある。色々変わっていけるはずだ」

 自分が誰かを想うことができたように。
 自分が誰かに想われることができたように。

 シトゥラ

「いない、……っは」

 息を整えながら入るその部屋は、
 自分達にとってとても馴染み深い場所だった。
 多くを語り多くを学び、舌の上に乗った本の名前は数え切れず。

 そうして知識を追い求めた者同士の、
 互いの知識欲を認め理解しあった者同士の、
 思い出ばかりが真に溢れた部屋。

 日誌に書かれた本の名前とその内容がほとんど思い出せるほど、
 自分達二人は多く目を通していたことだろう。
 図書室に住んでいる、という言葉も過大評価ではなく、
 普段からいる自分達はある意味ここの名物だったかもしれない。

「ふふ、……?」

 冊子に挟まれた紙を見る。
 そこに描かれた者と描いた者との関係性を思えば笑みが漏れ、
 愛おし気に指がその上を滑る。
 ……描いてそこまで時間が経っていないが故の黒が指を汚して。  

 シトゥラ

 突然の轟音に思わず肩をすくめて驚いてしまう、が、
 そこにいたあなたの存在が、
 あなたが自分を『見て』くれたことが、
 本当に嬉しくてくすくすと小さな笑いが零れた。
 手を引かれるままに向かう先が容易に想像できてしまったのも
 やはりこの部屋で過ごすのに慣れていたからだろう。
 大人しく座り込んだ後、あなたに握られた手をこちらからも
 握り返して逃がさないように捕まえる。

そもそもどうして帰ろうとしたんだよ

 あんな手紙寄越しておいて俺から逃げるな、シトゥラ」

 大惨事を引き起こしたあなたに追い打ちをかけるように
 はっきりと文句を垂れるあたりも含めて
 (小声で話しているという点はあれど)至って普段通りで、

「……俺は俺のままだから、ちゃんと『見て』くれ。
頼む


 けれど、そう告げる時だけはほんの少しだけ不安が滲んだ。

くしゃみをした。

 カストルとポルクス

「……うん。ありがとう、ポルクス」

 あなたたちは狂っているが頭がいい。
 ……狂っていたが、頭はいい。
 自分の言葉の意味だってきっと分かっていて。

「俺がなりたいものになれるかは、ちょっと分からないけど」

 それでもこうして受け入れてくれることの優しさと、
 あなたたちの好意を利用してしまっている後ろめたさで、
 ほんの少しだけ眉が下がった。

「お前達のことを見捨てることはありえない。
 俺だってお前達とのお茶会は好きだし、二人とも大切だ。
 変わろうとするのならなおのことだ、
 どう変わっていくのかについて興味がある。
 ……これからもよろしくな」

 時間が来るまで。
 時間が来てからも、道が完全に分かたれるまで。

森の近くを歩く。

「あ、看板残ってる、よかった」

わざわざ、口に出して言う。
それは彼女が考えた決まり事の一つーー口に出すこと。
そこにいる、と主張するために。

ほとんど日にちは立っていないのに、
色々あったなあと思い返す。
突然大人に呼び出されて、
殴られて、他にも色々されて。
恋をして、失恋して。

「あっ……まずいまずい」

意中の相手のことを考えてたら泣きそうになったので、
慌てて思考を切り替えた。

「いない人に目を向けようとする人も増えたもんね」

こっそりと『見る』、それでもいいのだ。
それは確実な一歩だから。

しばらく、森の近くを散策しているだろう。

 シトゥラ

「そうだ、俺はそのことについてもお前に聞きたかったんだ。
 イクリールと食事ができなくなる、とは穏やかじゃないな
 ……明日"以降"に何がある?」

 恐る恐るといった様子で伸ばされた手を受け入れた頬に
 いつかのように少し擦り寄ってもあまり表情は晴れない。
 ――――明日"以降"には何かがある。
 その"何か"の内容が読めない。分からない。不安だ。

 そういった不安の蓄積があったからこそ、
 数日前を思わせる問いについても隠し事ができない。
 あなたと離れた時間だけでも多くのことがあった。

「……
少し、大人の甘言を飲みこみそうになりもしたけど

 結局のところ、『いなく』なってからの俺も、
 ほんの少し『知る』ことに恐れを抱いただけで、
 貪欲であることに変わりはなかったんだ。

 お前が無事であることを願いながら他のヤツに協力する。
 お前の味方だと言いながら友達の願いを応援する。
 相手が傷付くと分かっても手を放すことができなくて」

 俺は何人の好意を受け取ろうとしなかったんだろう。

「ああ、でも……そのおかげで自覚できたこともあって、
 それがこの不安の原因だけど悪い感情はないんだ。
 単純な話だ、お前に何もかもが届かなくなってしまうのが
 怖くて仕方ない。
お前のこと、好きだからな

サルガスを探している。

ずっと復讐の事ばかりを考えてきた。

その結果の空回り。空回り。失敗。

間違っていたのだろうか?

自分は、姉さんの仇を取りたかっただけで。
その為に生きてきたのに。

それは間違いだったのだろうか。

―――やり方が良くなかったんだろう。分かっている。

 シトゥラ

「そりゃあ落ち込むに決まってるだろ。友人の好意をふいにして
 その上泣かせてもいるんだ、気分はあまりよくない。
 明日になったら各所に謝罪に駆け回るべきだろうか」

 結構本気ではあるが、そもそも自分の内情を打ち明けても
 特段自分を責めもしなかったお人好したちのことだ、
 しれっと許されてしまうんだろうなとも思う。

「……喧嘩で派手な傷を負う前提なんだな、
 
なるほど、なるほど。

 いいよ別に、それをお前の望んだことなら俺は止めない。
 怒りはするし不安になりもするけど許す。
 ただし死んだら本当に許さないからな。
本当に


 しっかりと念押しするくらいは自分にも許されていいだろう。
 あなたの全てを許すことと比べたらきっと、小さいことだから。

「それと、あー、と。これ絶対伝わってないなお前」

 他人に興味をあまり持たなかった同士、仕方ないかもしれない。
 自分からもあなたの頬に両手を添えてぐいと顔を近づける。

「俺の言いたい好きはそういう方向じゃなくて。
 愛してるのほうの意味で、言ってる」

シトゥラにキスをした。

 この日、シトゥラは朝食以外姿を見せなかった。
 先生に会いに行き、
 レヴァティに頼み事をして、昼間の放送を聞きながら
 体調不良で授業をサボってこの部屋で眠っていた。

 そして、
 
明日の朝に自分は姿を見せられないと思ったので

 イクリールのために手紙をかいていた。

 だが、いい子の自分は連れて行かれた彼らへの
 干渉をするつもりがない。
 シェルタンにあいにいったのも、
 犯人であることを明かすためだけだった。
 だから、もし自分の部屋を訪れる人がいたら
 彼らに手紙が届くようにほんの少しだけ手回しをした。

 自分はいい子でいつづけなければいけない。

 あの子がいつ部屋から出てくるかわからない。
 みんなが何されているかわからない。
 ひどいことをされて傷ついていたら?
 自分のことをどこかで知って嫌いになっていたら?

 知りたいけれど、知りたくない。

「……深夜は流石に、迷惑だったか」

 裏切者はどうしているだろう。任せっきりで、
 また明日をここで皆で迎えられるのかが不安でまた瞳を閉じた

 シトゥラ

「……シトゥラ、お前、今の返事
『味』がしなかった


 『味』がしないと思った最初はレヴァティの言葉だったか。
 それがあったからこそ彼に興味を持ち、
 あなたに相談を持ち掛けたのが始まりだった。
 ここで、ただ二文字だけの言葉で、『味』がしない理由は。

死ぬのか?
 誰と喧嘩して? どういう理由で?

 
それでお前は満たされるのか?
 ……それでお前はいいのか」

 あなたが歪んでいることなどとうに理解している。
 けれど、あの時のあなたは、自分を欲しがったあなたは、
 少なからず『人間らしい人間』であるところが見えたのに。
 満足いくまで『食った』ら離れてしまう自分が、
 散々互いに『食事』をしておいてなお留まり続けたいと思えた
 ……それがルヘナにとってのシトゥラだったはずなのに。

「これから『喧嘩』するならこんなところで体力を使うな。
 そもそもお前ってどれくらい動けるんだ……?
 ……お前のこと、まだまだ『食い』足りてないな俺」

 先程、絵に触れて指についた黒い粉末は
 あなたの頬を汚してくれていただろうか。

 シトゥラ

「俺が気にするのはお前のことだよ馬鹿。本当馬鹿。馬鹿」

 誰かに興味を持ってもらうために、誰かを引き留めるために、
 そんな目的で言葉を探したことなんて全然なくて、
 だから何を伝えたらいいのかが分からなくて、揺れる。

 
俺が「行かないで」と言ったら応えてくれる?

 
俺がもっと求めていたら何か変わった?


 
伝えたいものは、ただ愛であったはずなのに。


 ……そうしてあなたが告げる言葉を聞いていれば、
 思い当たる人物の顔だってすぐに浮かんだ。
 『お前に殺されるのは痛そうだ』とあいつに話したな。
 ならきっと、とてもとても痛いのだろうな。

 感じる『味』がどれも
不味い。
クソ、クソ。

「お前からは俺がああ見えていたのか、と勉強になったよ。
 ……お前から見える皆はどういう姿なんだろう……
 描き終えたら俺に見せてくれ、ずっと待ってるから」

 静寂の中、立ち上がろうとしたあなたを引き留めるのは
 力のない指先が引っ掛けたあなたの服の袖だった。

「お前に伝えた"特別な望み"、
 いつ、叶えてくれるんだ」

子供だ。

「カストル、ポルクス、それにメレフ……
 どこにいるの…?」

携えた想いは、あと二つ。
届くべき先も、あと二つ。

或いは、屋上?
或いは、園芸同好会の花壇?
或いは…………

たとえやみくもでも足は止めない。
声を上げる事を、手を伸ばす事を諦めはしない。
大人に何度窘められようと、
傍から見れば気味が悪い程に優しく宥め賺され、諭されようとも。

その度に、我儘を言って屁理屈を捏ねた。
イクリールは大人にとって『都合の良い子』だったけれど
だからといって別に、良い子でなんかなかったのかもしれない。
初めから。

カストルとポルクス、そしてメレフの姿を探している。届けるべきものの為に。

 『カストルとポルクス』

「──ああ、よかった、ここにいたのね…
 ……この間?」

二人に謝られるような事をされただろうか。
記憶を手繰り寄せても思い当たる節は無くて、
それでも謝りたいという気持ちは受け入れたくて。
差し出された花を、素直に受け取った。

「……ありがとう、カストル。それからポルクスも…
 わたしも、あなたたちに渡したいものがあるの」

それから一歩、イクリールは歩み寄って
その小さな手に持っていたものを、『二人』に差し出した。

手紙を読んだ。嫌な予感がした。

 シトゥラ

「――――――――…………」

 たっぷりの沈黙の後に最初に吐き出したのは
 力のない吐息だけだった。
 こっちばかりがずっと勘違いして、届いていなくて、
 馬鹿みたいに苦しんで、泣いて、ああ、けれど。

 
やっぱりそう、なのだ。

 
愛の宿った瞳も、未来を望んでくれることも、

 
真実ではあってもそれだけだ。


 
知識を求めるだけの盲目で貪欲で愚かなままなら

 
きっとこんな思いも知らずにいられた。


『知りたいと思う情は飢えているものを満たす』


 
そう教えてくれたのもあなただったな、とどこか遠くで思う。

 
包まれた手の感触も、囁く声音も、全てが痛い。



「……ああ、わかった。
 それじゃあまた、次に会った時にでも『食わせて』もらうよ。
 引き留めて悪かったな」

 あなたに包まれた手に一度だけ、一度だけ強く力を入れて。
 それからそっと力を緩めた。

全ての手紙を届け終えて、そして受け取った。それから、まったくもう、とだけ呟いた。

ブラキウムの行く末を案じた。


「――あ……」

 彼を見送った後、改めて思い出だらけの部屋を見た顔からは
 自然と彼の余裕が、見得が、強がりが、剥がれ落ちて行く。
 若草色の瞳が滲む。『これから』を認識することを恐れた。
 両の手が震える。抑えようにも指先の感覚がない。
 呼吸が乱れる。息をすることはこんなに難しかったっけ?
 歯の根が合わない。おかしいな、まだ冬は来ていないのに。

 いやだ、みたくない、わかりたくない、うけいれたくない、
 だっておれは、おまえは、おまえの、

 
――――俺は、お前のものじゃなかったの。


 そう思いながらも思考を巡らせることはやめられない。
 よく慣れた行いで、簡単に心が追い詰められていく。

「――シトゥラ。シトゥラ……」
 
 呼ばれたらすぐ駆けつけると言ったのはお前だろ。
 それなのに、こんなに呼んでいるのに、お前は来てくれない。

 お前の手で大人のもとに連れて行かれた夜に、
 大人のもとに連れて行かれる前に、お前のものになった時に。
 俺のことをちゃんと見ててって伝えたし。
 
愛してる
って、お前に応えた、はずなのに。


それもすべて、届いていなかったの?

「……でも、いいよ」

 己のやるべきことは変わらない。

 『知識』を求め、大人を利用するために近づこうとした少年は
 己のことを"魔術師"と呼んだ。
 大人に従う意味、大人に従う事情、与えられるモノの真実、
 知る度に湧き上がる更なる興味と感情に振り回されながら、
 より多くの『知識』を求めて他者と関わり『情』を得て、

 ――――そうして、『いなくなった』。

 己が不和の種である事実は少年を苛み、
 苦痛から逃れるために情を捨てようとするもそれは叶わず、
 他者から差し出された手を結局は受け入れて未来を望んだ。

 自分の望む未来など訪れない。
 自分の心など変えようがない。
 そうしてたったひとつに追い縋り、
 
だからこそこの先にある『地獄』をはき違えて。


 ああ、けれど、そこで交わした約束を、
 少年は決して破りはしない。それも誠意と、愛のため。


「俺は全部許すから」

 
『情』を知り、『愛』を知り、動けなくなった愚者のはなし。

メモを貼った。

二通目の手紙を読んだ。誰も救えない、と思った。

 
「私が本当に救えた人はいる?」

 

心にヒビが入っていくのを感じている。

 シェルタン

「…………」

少年は、触れられたなら それを拒まなかった。
今は、顔色も変わっていない。

「お前の、傍で?……はは…お前、本当に……本当に、馬鹿だよ。

 ぼくは、人の肉を食べないと生きていけない。お前を……たまらなくなって、殺してしまうかもしれない。
 だから、言いたくなかったんだ。
 お前達と幸せに暮らす事は出来ないから、ぼくは ぼくは…………」

死にたかったんだ、と。静かに、頬を涙が伝って。
重なっている君の手の上に落ちる。

「わだかまりがなくせるのなら、おまえ達と……未来を、見たい……

 どうすれば、幸せになれるか 分からない。分からないけど……

 許されるのなら、ぼくは…普通に生きていきたい……」

少年は、愛を知らない。返せるものは、持っていない。
だから、ただ そうありたいという気持ちだけを。
君が一緒に見つけてくれるのなら、と。

涙と一緒に、気持ちを 不器用にこぼした。

【人】 一人の少年 ルヴァ

恋は多くの人を狂わせてきた。

ただ、狂った者を人に戻すのもまた。
――恋に他ならない。
(54) 2021/06/01(Tue) 19:57:00
 




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生存者 (4)

レヴァティ
1回 残 たくさん

ポルクスはいます

シェルタン
0回 残 たくさん


ルヴァ
3回 残 たくさん


シトゥラ
4回 残 たくさん

置きメイントゥラ

犠牲者 (5)

ヘイズ(2d)
0回 残 たくさん

 

ルヘナ(3d)
5回 残 たくさん

のんびり返信

イクリール(3d)
1回 残 たくさん

のんびりやります

カストル(4d)
0回 残 たくさん

置き去りカストル

ブラキウム(5d)
1回 残 たくさん

新規〇夜から

処刑者 (3)

スピカ(3d)
14回 残 たくさん

部屋なう 新規○

メレフ(4d)
5回 残 たくさん

新規◎

サルガス(5d)
1回 残 たくさん

白鳥の歌を謡おう

突然死者 (0)

舞台 (4)

デボラ
0回 残 たくさん

 

ラサルハグ
23回 残 たくさん

先生は今日いる

アルレシャ
0回 残 たくさん

先生いますよぉ〜

ポルクス
23回 残 たくさん

おやすみ。

発言種別

通常発言
独り言
内緒話
囁き系
死者のうめき
舞台
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一括操作




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狼兎 by クロマ
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噛志野医院 by manamiz
メギド人狼 by メギドチップ企画
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歳時抄 by 小由流
文アルセット by 文アルセット企画
荘園パック by ARC(企画代表)
Friends by 真知
城下町の酒場 / 大神学園 by じっぷ
エッグ by 朧恩
ぐれすけ・ぷらす by 純
ニューホライズン by youden
バーバチカ / プトロレ by たべ
ユメツナギ by 天瀬春日
StarGazer / LittleStar by CONBE
御常紀学園 by HS_29
オハナシノクニ by オハナシノクニ制作委員会
Fragment of Jewels by 粉海月
花園女学院 / 他種族孤児院 by はこみ
xxxx組 by サイコ瓦
おりふし学園 by めんるい
Fairytale Syndrome by hTuT
Salute by むくっこ
Le parterre by イヌバラ
Troopers by 人類管理連合
お野菜キャラセット画像 by 無料素材倶楽部
Siuil a Run by 匈歌ハトリ
紫煙をくゆらせ by 空砂
RocketPencil by 山本羅刹
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