[接客は嫌いだった。客に謙る意味がわからない。
女顔で一見優男に見えるからだろうか、面倒な客に限って吸い寄せられるように僕に寄ってくる。
そして思うように優越感を得られない相手と理解した途端、決まって顔を真っ赤にして声を荒らげ出すのだ。
「金払ってやってるんだからこれぐらい当然だ」
「こんな不味いもんを俺に食わせるつもりか!金返せ!!」
彼らは日頃の鬱憤を晴らしたいだけなのではなかろうか。
店員が抵抗出来ないとわかっていて吹っ掛けてくるから、余計性質が悪い。
売られた喧嘩は買ってやるが、勝たせてやる気はなかった。
記憶力には自信がある。
常連らしい客の顔はすっかり覚えていたし、場合によっては大抵何を注文するかまで記憶していた。
「また来たんですか」とつい零してしまえば、
「
覚えてくれてたんですか!?
」などと調子に乗って連絡先まで尋ねてくる客。
「態度がなってない」とクレームを投げ付けてくる客。
場合によっては「俺の女泣かせやがって……!」等と言い掛かりを付けてくる輩までいた。
人と関わると碌なことがない。
最初から凄んでいれば、不必要に舐められずに済むのではないか。
そう思って意識的に鬼神面を保っていれば、今度は
「あの店員は愛想が悪すぎる」
「怖くて店に入れない」「接客されたくない」
……一体どうしろと言うんだ。
かといってキッチンにも立てなかった。
僕の手先は壊滅的に不器用で、皿洗いさえあの頃はまともに出来なかった。]