[そうしてホール担当から外され、スイーツデコ係になって数週間。
ヴィクの作った見本のシュークリームを自分の作業予定であるシュークリームの隣に並べ、
「こんなもん描けるわけねぇだろ!!!」
そう叫びたいのを必死で堪えながら日がな一日作業を続けて、僕は悟りーべるとになっていた。
存外慣れるのは早かった。元々書写や習字は得意だった。
写仏の効果に近かったのかもしれない。
寺の本堂ではないが、静謐な緊張感に満ちた空間。
先生は生徒の出来をきちんと褒めてくれるから、承認欲求も見事に満たされる。]
巧く出来てますか……!!?
本当ですか!?
嬉しいです!!!
ヴィクトル先輩!!
次は何をすれば宜しいでしょうか!!?
[
お前は誰だ。
そう言われても仕方ない変貌ぶり。
図案の愛らしい鳩の癒しも相まって、尖った心も徐々にまあるく穏やかになっていった。
悟りを開いてしまえば、今度は些細なことで怒りを顕にする客ほど気の毒に思えてくる。
それでどうする、というところまではまだ行かずとも、トラブルを起こすことは殆どなくなった。]