100 【身内RP】待宵館で月を待つ2【R18G】
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……
どれくらいそうしていただろうか。
もう一度覗き込んだ死の淵への怯えが鎮まり、体の震えの原因が強まる寒さだけになった頃。
「……あれは……」
ふと顔を上げ、窓から見える誰かを捉える。
キエがいる。彼は一体何をしている?
全く見当がつかない。
でも、あの何を考えているか分からないインチキ詐欺師探偵の動きは正直怖い。
「あいつ……あそこで、何を……」
ようやく腰を上げる。
なんだか酷く胸騒ぎがする。
行ったところで何かできるわけではないけれど、それでも、それでも……。
男は体を引き摺るように時計塔の階段を降り、外へと飛び出した。
「………」
キエは
夢を何処から食べようかと迷っていた。其れは子供がショートケーキの苺を何時食べるか思案する様な和やかな間だった。
「…………嗚呼、今君を悪夢から醒ましてあげるとも。
辛かっただろう、
唯一の友達に忘れられて。
苦しかっただろう、
誰にも気付かれなくて。
君は沢山の苦痛と孤独を味わった。
だから、そう⏤⏤⏤⏤
」
キエは心に疎いが、リーパーがゲイザーを心の底から憎んでいる訳では無いのだと薄々気づいている。只寂しいだけなのではないかと予想している。
身勝手で愚かな此のリーパーが、かつて
他者の為に怒っていた程なのだから。
尤も其れは“そう産まれたから”かもしれないが。
しかしそんな事は、キエにとってどうでも良い事だ。
走る。寒さはずっと残り続けたままだけど、そんなことも気にしていられなかった。
胸騒ぎが止まらない。
あの探偵が報酬としてW得体の知れない何かWを要求してくるのを知っている。自分もまた彼と契約してしまったからだ。
もしそれが、取り返しのつかないものだとしたら。
もしそれが、人の大切なものだとしたら。
「おい!やめろ、お前、そいつに何をするつもりだ……っ」
男は叫んで時計塔を飛び出す。
走る。走る。世界に無視をされていても、男は声を上げる。
届かなくても、叫ばずにはいられない。
手遅れで、どうにもならなかったとしても。
リーパーは目を瞑った。
これで、あの忌々しい呪縛から解き放たれるのだ!
ゲイザーの隙を見て顔を出すのはもうおしまい。
隠れて自らの欲求を満たすのはもうおしまい!
これからは自らがゲイザーに取って代わる!
殺人鬼『リーパー』として!!
ミズガネの声が聞こえる。
これはきっと神の慈悲か。
「ミズガネ、さん……?
あたし、あなたを殺したのに、なんで──」
か細い断末魔が響いて、消えた。
──さて。極上のパイのお味はいかが?
なんにも起こりませんでした。
触る気がなかったので。
「ギャーーーーーハハハッハ!!
あーーウケる! 最高! この躰! なあ!
オマエには感謝するぜ、キエ!」
「礼と言っちゃなんだが、次回の”神隠し”を
オマエにやらせてやるよ。
誰かいねェの? 世界から消し去りたいヤツ」
「
……すっごくわざとやった動作だったけど、そう見えるん だぁ……?
笑ったか吃驚したかなら、そうなんだね
」
「
あと抱きついたとか言い辛くって適当にそれっぽいこと言って
たら見事に誘導できてしまって困惑しているよ。ごめんってミ
ズガネちゃん。言ってくれてすごいうれしかったんだって〜〜
ってここで言ってもなんにもならないけどとりあえず言うわ?
」
「消し去りたい相手はいないけれど、そうだなァ。世界の真相を見せてあげたい子は幾らかいるね。
チャンドラ君にはきっと良い刺激になると思うし、ユピテル君は自然の摂理が気になる質であるようだから。
しかしユピテル君の方には折角だし僕らの手を取らずに“館の自然現象としての神隠し”を体験して欲しくもあるんだよねェ」
キエが特定の存在に対して好悪を抱く事は無い。好悪を示すのは感情に対して程度だろう。相手の抱く感情に興味はあっても愛情と呼べるものは持ち合わせていなかった。
「はっ、……はぁっ……ゲイザー……ゲイザー…………?」
一度死んで幽霊のような身になったのに、走れば息が上がる。肩を上下に揺らして呼吸を整えれば、何度か咳き込んだ。本気で走ったなんていつぶりだろう。怠惰に生きていたツケなのかもしれない。
男は裏庭までまだまだ遠いところにいる。
だから、裏庭から少女が出て来たところしか見ていない。キエとゲイザーが何をしていたのか男は知る由もない。
でも、か細い断末魔が聞こえた気がした。
勘違いかも知れない。けれど、『勘違い』で済ませたくない。
そうやって『勘違い』で透明にしてしまった者たちは、きっと何人いたのだろう。
「……ッ、ああクソッ!面倒だ面倒だ面倒だ!なんで僕だけこんなにあっちこっちに苦められなきゃいけないんだ!」
濡羽色の髪を掻きむしり、癇癪を起こしたように苛立たしげに叫ぶ。
しばらく自分勝手に喚き散らして、結局また咳き込んで。呼吸を整えるのに幾分か時間を費やしてから――男はまた駆け出した。
何か出来ることはないだろうか。
酒も手に取れないし竪琴も触れない。
何も出来ないかもしれない、でも何か出来るかもしれない。
何にも分からないから、確かめる。
あの探偵が余裕ぶっているのが気に食わない。
自分を殺した奴が今も尚笑っていると思うとそれも腹が立つ。
自分の知っている人達が自分のような文字通り死ぬほど苦しい思いをするのも嫌だ。
身勝手な男は、身勝手な理由で走り始めた。
知らないけれど、自分の部屋を最初に訪れたのはあの人だ。
「チャンドラにユピテルぅう?」
それはゲイザーにとって大切なひとだったが。
リーパーにとっては、『ゲイザーにとっての大切なひと』だった。
「オマエに任せるぜ。オレぁドッチでもいい。
オマエの感じる『面白そうなほう』に賭けろ。
……てか、“館の自然現象としての神隠し”なんざ
そうそう自発的に起こせるモンじゃねェだろ」
「問題は其処だよ。しかし願わねば始まらない事でもある。其方に関してはあくまで運が良ければって感じだなァ。
だから先ずはチャンドラ君にヒントをあげに行こうと思うよ。
…しかし僕ァ目を付けられている様だから、君も成功を願っていてくれないかな」
/*
キエが再びランダムで吊られた場合に備えて、リーパーさんもチャンドラさんに襲撃セットをお願いします。
「オマエ……。ま、そうか。
何やらこの場所の願いは、力を生むらしい」
/*セットしました。
「……なあ、オマエなんでこんなことしてんだ?
ヒントを与えて、何になる。
人間を引っ掻き回して……愉しいから、それでおわり?
オマエ、そんな単純な動機で動いてんのか?」
「オレはそれでおわりだけど!」
「其れを説明するには先ず僕の在り方から説明する必要があるね。
知っての通り僕ァ夢を食うが、普段は夢其の物を食べる訳じゃない。夢から滲み出る感情を⏤⏤負の感情だけを食う。
夢を丸ごと食べれば記憶も失ってしまうのは説明したね?
其れは林檎の木を根から引っこ抜く様なものさ。林檎の実だけ食べれば其の木はまたいつか素敵な果実を実らせるのだから、木を抜く必要なんて無いじゃないか」
キエの物言いは誰かに苦言を呈するかのような言い方だが決してリーパーに向けたものではない。
「賢者というのは視野が広すぎて中々絶望してくれない。
しかし皇族、一族の長……彼ら賢者はその他大勢の愚者を動かす事ができる存在だ。
。
僕ァね、チャンドラ君には人災を振り撒く側になって欲しいんだ。だから賢者に至る手助けをしようと思う」
「賢者は肥料、愚者は土壌と喩えれば判り易いかな?
良い肥料と良い土壌、此の2つが揃えば上質な
果実が実る可能性が高まる。実際には天候も関わるから絶対に上手くいく訳じゃあないが可能性は限りなく高くしたいだろう?」
「オマエ……やっぱムカつくぜ。
自分が賢者──自分がそれ以上の存在だと信じて疑っていない。
まるでマリオネットを動かす人形師だ!」
感情喰らいと称すべきだろうか。
そんなヒトならざるものであるあなたにとって、
ニンゲンの負の感情を肥やすことは、
正しく林檎を育てるような行為に他ならない。
けれども一際怒りっぽいリーパーは、
それがまるで、自分を下に見ているようで腹立たしかった。
自分は林檎でも愚者でもない。
「ま、オマエがこれから何をしたいのかは分かった。
どうして暗躍しているのかも……。
オマエ、探偵からそろそろ脚本家に
仕事変えた方が良いんじゃねーの?
……しかし、チャンドラか。チャンドラ……ふん!」
ゲイザーとチャンドラは友人だ。
「好きにすれば!」
「
人間の“形”は保っていると思ってるんですよ、これでいて
」
「
ばいば〜い 悪くなかったよ、言ってもおくね
」
「僕ァ人が滅びれば消えてしまう儚い存在だよ? 僕らは君達知的生命体によって創られたから、君達の中に巣食わないと存在を保てないんだ。
そして折角の言葉を否定して申し訳ないが…僕は賢者などでは無いよ。禍を撒くのは神と人のやる事であって僕らのやる事じゃあない。
しかし見下した様に見えたのならすまないね」
少しも申し訳なさなど見られない口調だった。
「其れに脚本なんてものは無い方が良い。筋書き通りの悲劇なんてつまらないじゃないか。物語は予想外の事が起きてこそさ」
「……ではそろそろ好きにさせてもらおうかな。
もし神隠しに遭ってもきちんと手伝うし助言もするから、安心しておくれ?」
普段より僅かに上がった調子で告げた後、声は途絶えた。
…
……
………
リーパーは終始この調子だった。
あなたと協力関係でこそあるけれど、心を許す気は一切ない。
例え彼が恩人であろうとも。
心を許した瞬間喰らわれると。
餌のひとつにされると、生存本能が敬称を鳴らしている。
だけれどどこかのグズのように、下手に出る気も毛頭ない。
この二人は、目的が一致している。
それだけの理由で、行動を共にしている。
けれどもあなたにとって、それくらいのほうが丁度いいだろう。
扱いやすいし。
ぎゃあぎゃあ騒ぎつつも、リーパーはもしもの時に備えて、
ナイフを研いでおいた。
今日のいけにえは、きっとあいつだ。
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