「――あ……」
彼を見送った後、改めて思い出だらけの部屋を見た顔からは
自然と彼の余裕が、見得が、強がりが、剥がれ落ちて行く。
若草色の瞳が滲む。『これから』を認識することを恐れた。
両の手が震える。抑えようにも指先の感覚がない。
呼吸が乱れる。息をすることはこんなに難しかったっけ?
歯の根が合わない。おかしいな、まだ冬は来ていないのに。
いやだ、みたくない、わかりたくない、うけいれたくない、
だっておれは、おまえは、おまえの、
そう思いながらも思考を巡らせることはやめられない。
よく慣れた行いで、簡単に心が追い詰められていく。
「――シトゥラ。シトゥラ……」
呼ばれたらすぐ駆けつけると言ったのはお前だろ。
それなのに、こんなに呼んでいるのに、お前は来てくれない。
お前の手で大人のもとに連れて行かれた夜に、
大人のもとに連れて行かれる前に、お前のものになった時に。
俺のことをちゃんと見ててって伝えたし。
愛してる
って、お前に応えた、はずなのに。