【人】 転入生 二河 空澄 ── 翌日 ── [結局、オレのあまり出来の良くない頭では 名案は思い浮かばなくて、 (とにかく傍を離れないようにしよう!) とだけ決めて 真昼くんより先に着けるように 学校が開く時間に合わせて、鞄を背負う。] (12) 2020/12/01(Tue) 17:17:44 |
【人】 転入生 二河 空澄[昨日は呑みの席に呼ばれていたらしい父さんに 「張り切ってるなぁ」と 楽しそうに誂われたけど こっちは、それどころじゃない。 予想はしてたから 来やがったな、って感じではあるけど 脇腹が痛むのを隠しながら、 無理やり貼り付けた笑顔で 行ってきます!と挨拶を残して、家を出た。] (13) 2020/12/01(Tue) 17:18:49 |
【人】 転入生 二河 空澄[今日は、朝からアイツも来ていた。 めちゃくちゃ警戒して 真昼くんの傍を片時も離れないようにしていたけど 流石に、生理現象はどうしようもない。] ごめ、 ちょっとだけトイレ すぐ戻るからッ [断りを入れて駆け込んだ。 速攻で手を洗って、 ダッシュで戻ろうと思っていると…] (14) 2020/12/01(Tue) 17:24:18 |
【人】 転入生 二河 空澄[見た目は、本当に天使みたいな子だ。 綺麗で善良そうで 悪さなんかするようには見えない。 なのに、 半分とはいえ血が繋がってる兄弟に どうして、あんなことが出来るんだろう。 きょうだいが欲しくて 羨ましい自分には、まるで理解できない。 けど────…] なんで? なんで真昼くんに、あんな…酷いことすんの? 寄ってたかって みんなで虐めるとか卑怯だとは思わねぇの? [解決の糸口が少しでも見えればって問いかけて、 あの場面を思い出したら それだけでは止められなくて 苛立ちも共にぶつけてしまっていた。]* (16) 2020/12/01(Tue) 17:29:17 |
魔王 バルトロメオは、メモを貼った。 (a1) 2020/12/02(Wed) 1:12:40 |
【人】 帝国新聞 「祝い事でしたら、月の綺麗な日が良いでしょう。」 寡黙な女が唯一零した要望はたったのそれだけ。 叶えない理由が皆無、二つ返事で日取りは決まる。 楽団が賑やかな曲を奏でる中で、 王族や貴族、司祭、彼らに仕える騎士までもが 平民たちから搾り取った税で作られた祝い酒を浴びていた。 今宵は無礼講だと言わんばかりの宴の中でも女は座った儘、 料理も酒も、一口も口にすることも無く一点を見つめていた。 「宴の後、私の部屋へ来るように。」 美酒に酔いしれた王が耳元で告げた言葉は 城内に響くことこそないが、誰もが気づいていただろう。 常日頃から彼女に触れる手つきが粘り気を帯び、 下心が隠せていない有様なのは周知の事実だったのだから。 かの王の目当ては女研究者の身体である、と。 (17) 2020/12/02(Wed) 2:36:15 |
【人】 王室研究者 リヴァイ[まだ月が雲間に隠れた静かな夜の事だった。 下女らに身を心底丁寧に洗い清められ、薄い布を纏うのみの艶めかしい姿で王の私室の扉を叩く。 数秒も経たない内に扉が開き、太い両腕を広げる主の胸に形ばかり微笑みを浮かべてゆっくりと飛び込んだ。 腰を抱かれ、撫でさするように掌を這わされながら 広い寝台へと徐々に誘導されていく。 鳥肌が立つ程の心地悪さを感じながらも 心の中でカウントダウンは忘れずに。 5,4,3,2,1……どさ 、とベッドに押し倒されれば 口角が歪な三日月を描き、アイスブルーが獣の如くぎらついた。] [眼前で う 、 と呻き声がする。 胸元を抑えて倒れ込んだ我が王は、 毒でも飲んだかのように苦しみ始めた。 焦ることもなく、表情を隠せない儘言い捨てた。] (18) 2020/12/02(Wed) 2:36:24 |
【人】 王室研究者 リヴァイ 私を味わう前に、教えてください。 ・・・・ 今日の宴の豚のお味は如何でしたか? 家畜そっくりな貴方様にはぴったりだと思ったのですが。 [シーツに沈み込んだ身体の間をすり抜けて立ち上がれば たわわな胸の谷間に隠し持っていた金の拳銃を相手の首筋に向けて構えた。 15歳の誕生日の時、両親から護身用にと手渡された祖国の刻印のついた特別性だ。今の今まで使う機会こそなかったが、今日という日のために銀の弾丸を何発も用意してきたのだ。 腐った人間など悪魔同然の扱いでよいだろう? 藻掻き苦しみ、酸素を求め首を掻きむしる様を無表情で眺めながら 遂に動かなくなったその喉元を引き裂くように────躊躇いもなく、引き金を引いた。] (19) 2020/12/02(Wed) 2:36:38 |
【人】 王室研究者 リヴァイ 私を味わう前に、教えてください。 ・・・・ 今日の宴の豚のお味は如何でしたか? 家畜そっくりな貴方様にはぴったりだと思ったのですが。 [シーツに沈み込んだ身体の間をすり抜けて立ち上がれば たわわな胸の谷間に隠し持っていた金の拳銃を相手の首筋に向けて構えた。 15歳の誕生日の時、両親から護身用にと手渡された祖国の刻印のついた特別性だ。今の今まで使う機会こそなかったが、今日という日のために銀の弾丸を何発も用意してきたのだ。 腐った人間など悪魔同然の扱いでよいだろう? 藻掻き苦しみ、酸素を求め首を掻きむしる様を無表情で眺めながら 遂に動かなくなったその喉元を引き裂くように────躊躇いもなく、引き金を引いた。] (20) 2020/12/02(Wed) 2:36:41 |
【人】 反逆者 リヴァイ[声が潰れるまで呻き、責苦と恐怖に強張った 豚のような王様は漸く首を転がし、苦痛からの解放を許された。 踊る骸がシーツに倒れ、酒代わりの血に酔い痴れる。 この夜こそが、彼女の求めていた真実の宴。 カウントダウンは料理に盛った毒薬が効力を出す時間。 祝典の焔も消えた闇の中で、徐々に絶望が牙を剥く。 死 の天使の如く白布を脱ぎ捨て、クロゼットにしまわれていた軍服と白衣に身を包む。 蒼褪め顔に恐怖を滲ませた数多の人々の 生への希望が失われる音にしてはあっけない、深々吐き出した息を狂騒に紛れさせながら、長い廊下を振り返りもせず靴音を響かせた。 肉とワインに紛れ込ませた罠に“運よく”かからなかった生者の悲鳴を耳に確りと刻みつけながら。] (21) 2020/12/02(Wed) 2:37:36 |
【人】 反逆者 リヴァイ[予想外の事態に身を縮みこませた兵士が撃ち込んだ弾丸を交わす度、白衣の裾が翻る。長い髪は素早い動きに追いつけず、発砲に巻き込まれれば一部の長さが犠牲となった。 同じ数だけ自身の銃が火を吹けば、銃撃戦は少々興ざめする形で終わりを迎えた。 『寮長……リヴァイ寮長なんですよね? 私、貴方とは戦いたくなんかありません……! 気高くて、優しくて、美しい貴方にずっと憧れてきました! なのに、どうしてこんなことを…… 同郷の者同士で殺し合うなんて悲劇です!』 兵士の屍の隙間から、震える声で叫んだ若い女研究者には見覚えがあった。同学部の一つ下の優秀な少女だった筈だ。自分をやけに慕ってくれて、卒業時には直筆の手紙迄贈ってくれたことを今更ながら思い出す。] 君は、私のことをそんな風に思っていたのか。 ───これを見ても同じことをいえるだろうか? (22) 2020/12/02(Wed) 2:37:47 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[黒い雲間から、震えあがる程に美しい満月が顔を出す。] [────ぴき 、と掌から腕へ、腕から肩へ。黒光りする鱗が肌を覆っていく。 仇討ちに情など必要ではない。無駄に理性を残して全てを狩りつくせないのならば、この夜だけは自我を繋ぎとめる薬など持ち合わせてもいない。 絶え間なく襲い来る頭痛に思わず頭を抱え込めば、獣特有の酷い飢えと渇きに思考回路が支配され、だんだん感覚が麻痺していく。 「────ひ 、いや、化け物ッ!」と息を呑み、叫んだ彼女に微かに残った感情が浮かぶのは呆れのみ。結局見た目でしか判断できず、理解すらしていなければ救う価値すら見いだせない。 本能のままに鉤爪を伸ばせば、弱弱しく暴れる四肢を噛み砕く。 甲高い断末魔と飛び散る血飛沫の赤が視界を覆いつくして───女の“人間”の意識はそこで途切れる。] (23) 2020/12/02(Wed) 2:38:04 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ 『リヴァイ───リヴァイ! お前は俺が止めてやる、俺が楽にしてやるから!』 [意識が途切れるほんの一瞬、 学び舎時代の嘗ての悪友が自身の名前を呼ぶ声と、 ────脇腹を抉る弾丸の感触がしたような気がした。] (24) 2020/12/02(Wed) 2:38:28 |
【人】 帝国新聞 「王城 血 に染まる王族貴族含め城内■■■人全てが死体で発見 祝賀会の後の犯行か?」 「件の女研究者 姿見当たらず」 首都機能を失くした帝国は混乱の一途を辿っていた。 その国の名のみを抱えた新聞が少ない情報を知らせている。 いつしか独裁国家でまとめられていた地は細かに分裂し、 小さな田舎町が転々と存在する独立区域へ姿を変えた。 獣化人間による最強の戦争大国は、 あっけなくその幕を下ろしてしまったのである。 (26) 2020/12/02(Wed) 2:39:34 |
【人】 亡国の歴史書 一夜の内に起きた悲惨な大量殺戮事件。 一部の遺体は獣に食い荒らされたようにぼろぼろで 形さえも判別できない有様だったという。 滅びた筈の月光病患者の悪夢を呼び戻したようだと どこかの誰かは例えたのだというが、 何れ人々はこの出来事に名前を付けた。 リヴァイアサン ────── לִויָתָן この国の終焉を知らせる獣の仕業だったのだろう、と。* (27) 2020/12/02(Wed) 2:41:32 |
終焉の獣 リヴァイは、メモを貼った。 (a2) 2020/12/02(Wed) 2:46:37 |
【人】 一 夜端[忠告は昨日もしたし今日もした。 これ以上はない。 俺も良い加減腹を括ることにする。 被虐の中に身を置かなければ 自己を保てないド変態な兄。 子分たちを操って趣味に付き合うのは 彼奴にだけ利益があることではない。] (29) 2020/12/02(Wed) 8:38:18 |
【人】 一 夜端[――気に喰わないのも間違いじゃない。 真昼にあって俺に無いもの。 父さんは彼奴のそこを気に入ってる。 だから俺は彼奴のことが妬ましくて仕方がないんだ。**] (31) 2020/12/02(Wed) 8:38:38 |
【人】 地名 真昼[それが何やら複雑そうな顔で 「二河くんとどういう関係なの?」 と訊ねてきた。 ……彼はとても可哀想な人種。 客の中にもそういうのは居た。 体を繋げただけで情を湧かせ 一時の熱病に罹ってしまう、哀れな――、] (35) 2020/12/02(Wed) 13:49:00 |
【人】 地名 真昼[その癖、現在の立場に甘んじてもいて 安全圏から見下ろし イイ思いをして 気まぐれに手を伸ばしてくる。 救いを与えてくれることもなければ 表面なぞって理解したつもりになって 真に知ろうとさえしない。 だからこんな僕に騙される。 可哀想な彼らを、心底嫌悪していた。] (36) 2020/12/02(Wed) 13:49:39 |
【人】 地名 真昼[だけど奥歯にも出さない。] 友達、だよ [また何やら難しい顔をする理由は わからないし知る気もない。 空澄くんが戻ってくれば 吉田は慌てて退散していく。 放課後の足音は着実に迫っていた。**] (37) 2020/12/02(Wed) 13:50:06 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ(互いを繋ぎとめているのは 酷く残酷な約束でしかない筈で、 それこそ自身への気休めにしかならないのに。 自分用にと作った最後の毒が手元にない事実に、 代わりのように短剣が懐に収まっている現実に、 酷く安堵感を覚えているのは何故だろう。 ……のたれ死ぬ期日が伸びただけなのに 狂気に呑まれないと、折れまいと抗う心に 覚えていたのは苛立ちだ、 無駄なことを…… と。) (38) 2020/12/02(Wed) 16:14:08 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[幸福な夢から醒め行くように 意識が戻るときに広がる世界はいつも無常だ。 覚えのない咆哮が独り歩きした後は、生の気配が一つもしない。] [無造作に転がる人間だったものたちは 大概が子供が残酷に壊した玩具のように、四方八方に部位を散乱させている。最早原型を取り戻せるかも不安な有様は、常人ならば吐き気どころでは収まらなかったかも知れない。 呆然と見つめた視界に映るは 彼等の首から、四肢から、中身から噴き出した一面の赤。 その余りの鮮やかさに驚きを隠すことができなかった。 どうやら彼等には自分と同じ色の血が流れていたらしい。] [自分も彼等も同じく醜いものなのだ、とここで漸く理解した。] (39) 2020/12/02(Wed) 16:14:14 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[追憶したのは、捨て去った陽だまりの日々。 柔らかく、穏やかな時間に絆され乍ら 無知故に無限に受け渡される抱擁のような優しさに包み込まれた戻らぬ記憶は脳内で黒く塗りつぶされていくばかり。 思い返す資格さえ与える事すら許されない位に 己の人生を歩んだ足は後ろを振り向く事すら戻れない場所まで来てしまっていた。 死臭が漂う地獄のような空間の中でどんなに心が悲鳴を上げようと、肝心なところで自我は狂ってはくれなかった。 寧ろ現状を享受し、運命を受け入れるべきであるのだと益々自分の首を絞めていく。 ……最早何が自分の心を抉っているのか、一体どうしてこんなに苦痛に苦しんでいるのかさえも、わからないままでいる。 自分の知らないリヴァイの皮を被った誰かが糸繰り操っているようだった。] (見下ろした掌がいつまでも小刻みに震えているものだから 寒いという感覚だけをやっと理解することができた。 ……寒いのは、嫌いだ。温もりを奪ってしまうから。 叶わないととうに理解している癖に求めてしまうのは ないものねだりの延長線に似たようなものだろうか。) (40) 2020/12/02(Wed) 16:14:19 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[世界は誰にでも平等に朝の訪れを知らせるものだから、 血濡れた満月が過ぎ去った後は、冷たい朝日が窓辺に差した。 ほのかな光が溢れた空間の中でよろよろと歩を進めれば 屍の山の中に倒れ伏した、腕の無い骸の一つを抱きしめる。 逞しさの中に友愛の籠った翡翠は最早開くことはなく 半開きで固まりかけの赤を流す口は言葉を紡がない。 愛しい日々の一部分だった元相棒は生命を悉く食い尽くされて 死を象徴する冷たさだけが、服越しに自身を冷やしていく。] [不意に走った脇腹の疼きに顔を歪め、微かに呻く。 鱗で覆われきらなかった柔らかなそこを抉った銃弾は 化け物の皮を脱ぎ去っても尚、白い肌を突き破り赤く染めていた。 意識が遠のく直前に聞いた彼の言葉を思い出す。 “……噫、彼は終わらせられなかったのか。” 行き着いた結果に、どうしようもなく心が沈んだ。 幼き頃から重ねた罪が、耐え切れない重荷となって残った自我を押しつぶす。] (41) 2020/12/02(Wed) 16:14:26 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[思い出の一部を自ら壊し、形成された世界が破壊されようと、やっぱり涙は零れなかった。 抱きしめていたものをそっと離して、温度の無い頬面を優しくひと撫でする。 季節も後半に差し掛かり、朝冷えで凍えそうな石畳の廊下を裸足で歩けば客室へ戻り、着ていた服を纏い直す。 ひとではない獣になる際に、纏っていたものは破れて犠牲になっていたから。 誰かも分らぬ血のついた掌を清めもしない儘窓を開けば、窓枠に赤がこびりつく。毛程も気にせず───まるで意識は遠くへと飛んでしまったかのような目つきで白い太陽を眺めていた。] (……何もかも、終わってしまった。 生きる理由を果たしてしまえば、 残るものなどひとつも無かった。 何時かに言われた言葉の通りだ。 私はもう、どこにもいけない存在なんだろう。) (42) 2020/12/02(Wed) 16:14:31 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ(後悔なんてしていない。 これは私が決めた道。これは私が抱えた決心。 無限に分れた道の中から敢えて修羅を選択し、 望んで自分を追い込んだ──全部わかり切っていたこと。 なのにどうして身体が震えてしまうのだろう。 自分が変わってしまうような感覚に恐怖を覚えるのだろう。 凍えそうな寒さしか感じない世界は嫌だと泣き叫ぶのだろう。 ……狂い果てて消えてしまえば、 それさえも感じなくなってしまうのだろうか。 血と本能に飢えた獣になってしまえば─────いっそ。) (43) 2020/12/02(Wed) 16:14:36 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[そうなっていた筈だったのだ。 花の散り際、握りしめられた 約束 が無ければ、もっと早くに。歩く屍のように虚空を見つめる彼女の元に いつかの渡り鴉がやってくるのはきっと─── 偶然なんかじゃないのだろうから。**] (44) 2020/12/02(Wed) 16:14:39 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム[ 赤黒く死が積み重なる峠。 処理の追い付かない死体が 敵味方問わず一絡げに燃やされる。 ] ( 通った後には築かれる炭の山か、 焔が嘗め尽くした灰の原のみ。 どう歩いたのかも、どう生き抜いたのかも、 ある時を境に覚えていられなくなった。 ) (45) 2020/12/03(Thu) 0:05:38 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム[ 山脈の冷気が裾を広げるかの様に、 焼け爛れた平原の戦場に新雪が降り注いで行く。 その中に立てられた軍幕の一つに仄かな光が灯り、 中央に横たえられた寝台の傍に立つ影が一人。 ] サー・アルベルタ=フォン=アイゼナハ。 誓を守り、王の意に添い、逆境にて闘い抜く。 彼女の務めは此処に終わった。 [ 別れの言葉を読み上げれば一度だけ振り返り、 遺体の安置された其の場を後にする。 爆発と崩落に巻き込まれた彼女の亡骸は、 戦い続きの兵士達に死に物狂いで捜させたのだった。 ] (48) 2020/12/03(Thu) 0:10:01 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム[ 軍幕の外では大勢の臣下や各家の当主が控えていた。 同じ歳に生まれ、同じ王宮で育った騎士団長が 皇帝にとってどんな存在であったのかは 彼等の殆どが理解している。 おくびにも出さぬ様に振舞ったとしても、 心情もある程度は窺い知れるもの。 誰もが彼の言葉を待った。 ] 生まれた家へ送り届けてやれ。 その際、戦から退きたい者はそうして構わん。 隊列に加わり、安全に帝都までの路を往くが良い。 [ そうして軍議は明日に回された。 ] (49) 2020/12/03(Thu) 0:10:25 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム[ 散っていった名も知らぬ駒を幾つ掻き集めても、 その名と生まれと家族の有無を一つ一つ聞かされても、 到底将たる其れには及ばない。 『価値』がではない。意義の有り様がだ。 陽動の為に割いた二千の兵の命より、 バルバロスの森に斃れた戦士達より、 この峠を超える際に失った臣民より、 彼女は 心の中で 重い存在だった。 ][ 彼自身が知る喪失の痛みとは 彼の瞳が初めて開く前に産褥の床に亡くなった実母、 既に定められた運命の中で手に掛けた父帝…… 判断を誤って身近な人間を喪う事はなかった。 故にこそ訃報は失態を確実に物語る。 そうして男は冬季の撤退を取り止めた。 ] (50) 2020/12/03(Thu) 0:10:48 |
【人】 『ブラバント戦記』722年 火の月2日 バルジ峠唯一の陸路を雪が覆い隠していく。 昨年秋のダンメルス家による決死の抵抗を受け、 大損害を受けた帝国軍は反撃の機会を窺っていた。 掃討部隊の空挺が丘陵を飛び交う中、 深い雪原に潜んでは近付く冬に耐え忍ぶ。 餓死者が出る様な行軍ではなかったが、 気温が下がれば傷が癒えずに力尽きる者が増える。 隊列から無念ながらに離脱する者も現れ、 帝国軍は縮小の一途を辿っていたが──── 年も明けて間もない頃、彼等は攻勢に出る。 其れは吹雪に紛れて四部隊に組み分けた布陣での 挟撃作戦だった。 (51) 2020/12/03(Thu) 0:11:28 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム( 若き騎士団長を屠ったのは、 我々の恩師でもある魔術学園の老教師だった。 本来の領分は名家お抱えの研究者だったからか、 戦争を機にダンメルス家に戻って来たらしい。 ) [ 憎かったのは彼そのものではない。 奪われた物を取り返す事だけが目的だったのに、 雪を踏み締める脚は次第に感覚を失くし…… 暫しの間、 悪 (52) 2020/12/03(Thu) 0:12:00 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム[ この深紅の鎧も、ベルベットの外套も、 眩いまでの炎を宿す宝剣も、 その悉くを血に染めながら立ち尽くしていた。 眼前には見知った顔の男。 膝をつき、擦り切れた魔導書を手に、 最後の悪足掻きに置き土産を残そうとしている。 何を思ったのか、王はつい手を止めた。 携えた剣を振りあげようとした格好の儘。 ] ( ……どう闘っていた? どうやってこのホールキープまで来た? そう思った時、足が動かなくなった。 得体の知れぬモノから自我を取り戻し、 宿ったのは躊躇だったのだろう。 ) (53) 2020/12/03(Thu) 0:12:37 |
【人】 『ブラバント戦記』────対し、死の間際に立つ者の激憤は 血に連なって流れ落ちる事など有り得ず。 男は言った。正確には諭す様な声色で嗤った。 制圧された居城、今にも降ろされようとする梟の御旗、 帝国兵の掃討を受けた残り僅かな同胞の断末魔。 戦乱の喧騒が少しずつ過去のものと変わる中、 余りにも穏やかな声は確実に居合わせた者達の耳に入る。 (54) 2020/12/03(Thu) 0:13:28 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム[ その掌の雷が爆ぜる前に、 剣を墓標の如く 突 き 立 て た ゜ 鮮血が足許を濡らし、耳障りな音を立てる。 動かなくなった其れを兵に運ばせた。 ────何も、返す言葉がなかった。 つい先程まで何かに身を任せていた者には。 ] ( だからこそ決めた。 この闘いは自分独りになろうとも続けると。 ) (56) 2020/12/03(Thu) 0:14:34 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム( 足が、身体が重い。 二度目の遠征に出て既に一年近くが経過している。 数の有利を覆す為にどれだけ力を使っただろう。 契約は確実にこの身を蝕んでいる。 此処で国に戻れば、間違いなく次はない。 そうなれば誰がこの恥を雪ぐのだ? ) (57) 2020/12/03(Thu) 0:14:51 |
【人】 『ブラバント戦記』722年 土の月16日 『724年中にはこの戦争を終える』──── 主君の言葉の元、数を減らした帝国軍は 軍隊を複数に割いて暫しの休戦期間に入る。 とは言え、制圧圏よりそう離れていない砦では 変わらない厳戒態勢が敷かれていた。 ダンメルス家滅亡より数ヶ月を経て 残るアングレール、ロイス、ベストラの三家へ 侵攻を開始する。 最も社会的地位が低く、地理的にも北方に位置する アングレール家が真っ先に矢面に立つこととなった。 (58) 2020/12/03(Thu) 0:15:31 |
【人】 『ブラバント戦記』────と思われたが。 自領への帝国軍の侵入を確認するなり、 アングレール子爵側は兵を差し向けず白旗を上げた。 数度使者による伝達が行われた結果、 ブラバント帝国は城の明け渡しを要求。 それは二百年前に大部分を焼失した後、 再建されたかつてのシェーンシュタイン城だった。 交渉はその大広間で行われる事となる。 血濡れの婚儀となったその場所で。 (59) 2020/12/03(Thu) 0:15:50 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム[ 使い鳥はこの所頻繁に本国と送り合っていた。 兵站の要求や人員の増量、必要物資の買い付けなど 用途は多岐に渡るが、 数ある中でも一番大きな報せは男児の誕生であった。 ] ( 帰った処で抱いてやれるかも定かではなく、 己に似てゆく成長ぶりを見る事も叶わない我が子。 ならばせめて乱世は俺の代で終わらせよう。 そして泰平の名君となり、その統治の栄えんことを。 ) [ その為には誇り高き家名と、慕う民草と、 豊かな国土と、其れを治める貴族が要る。 故にこの交渉は重要な意味合いを持ち、 彼が下した決断は────…… ] (60) 2020/12/03(Thu) 0:16:18 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム ( 死んで欲しい奴こそ、金で命を買い戻す。 ) [ 穢れた施しは受けぬと心に決め、 腐り果てた精神を隔絶する為に裏切りを選ぶ。 招き入れられた城に武器は持ち込まず、 その代わり……ありったけの“火酒”を振舞おう。 独断での交渉に走った子爵を守る味方はない。 僅かな兵のみが控える城内で 仇敵を一思いに燃やし尽くすのは容易かった。 ] (62) 2020/12/03(Thu) 0:17:10 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム[ 燃え盛る階下。 増設された回廊から大広間を見下ろし…… 其れから床に額を付けた眼前の男に視線を移す。 この二百年シェーンシュタインを支配してきた子爵は 肩書きだけ与えられたに過ぎなかったらしい。 『未来永劫忠誠を誓います』と 上擦った声で命乞いする様には 嘲笑だけを降す。 ] ( 悪意の芽は摘まなければならない。 いつか玉座に着く息子の敵は全て滅ぼし、 その上で汚名は返上し 皇族の立場を確固たるものとする。 ……故に。 ) (63) 2020/12/03(Thu) 0:17:33 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム────貴様がこれまで重い税を巻き上げて来たのは 誰の民だったのだろうな。 ( 冷たく言い下した先の、気に食わぬ髭面が歪む。 懇願が通らぬと知れば歯を剥き出して怒り狂う。 嗚呼、醜く、鼻持ちならぬ、人の子に有るまじき貌。 そんな唾棄すべき様が“見たかった”。 ) [ なれば己は是と思えたから。 ] (64) 2020/12/03(Thu) 0:17:48 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルムもっと深く跪け Mehr knie dich, Scheisse! [ 憎しみの儘に、床を掻く指先を靴底で踏み躙る。 骨が砕ける音が響く迄、悲鳴と嗚咽が言を封じる迄。 ] (65) 2020/12/03(Thu) 0:18:08 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム[ ────薄汚れた腕を掴み、 片手で軽々と短躯の男を釣り上げれば 廻廊の手摺から業火が渦巻く階下へと放り出した。] 貴様の先祖が好き勝手に造り換えたこの場所は、 いずれ七諸侯が隠し持つ金で再建しよう。 故に、貴様の手垢と靴底の泥が着いた 偽りのシェーンシュタインに────価値などない。 [ 呪われた血に流れる祖先の記憶が この場所を懐かしむ事はなかった。 或いは、感動など既に失くして 人でなくなってしまったのかも知れない。 ]* (66) 2020/12/03(Thu) 0:18:36 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム( 勇敢な人物の死に目には、必ず雨が降る。 天泣という言葉がある様に──── 餞なのだとすれば其れは、 ・・ 実に結構な事だ。 ) [ また一つ、名家が滅びる。 主君に背いてまで独立を志した者達の旗が燃える。 地図から、歴史から……消されていく。 全ての領民と兵の行く末を賭けて 決闘を申し込み、そして破れた男。 その亡骸を雨が濡らしていくのを見据えては 己が胸の内の向き合っていた。 惜しい人間を亡くしたものだと、 この戦争で初めて敵側に抱いた感情。 ] (67) 2020/12/03(Thu) 12:55:55 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム[ 其れでも振り返る為の時間が足りないのは 残るベストラ家の本拠地が山脈の先、 堅牢な自然の要塞の中にある故だった。 21回目の命名日を迎えても、祝う暇もなく。 葬られた墓も、焼けた城も、総てを春の芽吹きの中へ 置き去りにして行軍は続く────…… ] ( 兵は休み休み入れ替わるが、己は違う。 常に前線に立って軍を率いるのは、 気が狂いそうになる程の熾烈さに身を置くことだ。 戦場に出ると悪夢を見ずに済むことは、 血腥い本質ではあるが、幸運とも呼べる。 ) (68) 2020/12/03(Thu) 12:56:17 |
【人】 『ブラバント戦記』723年 風の月5日 第一回の出兵より三年。 獅子戦役最後の攻勢が始まる。 山岳に護られた高巣城を落とすのは至難の技。 ベストラ家は近道となる全ての橋を落とした上で、 魔道部隊が谷間を通る帝国軍を崖の上から迎え撃った。 降り注ぐ氷の礫は火を用いて相殺する訳にもいかず、 傷口に凍傷を作った兵がそのまま凍え死ぬ事もあった。 帝国は丸一年と数ヶ月をかけてこれを攻略。 舞台は城内戦へと移ることとなる。 この戦いでの死者は両陣営合わせて数万人に及ぶ。 魔法によって発生した洪水で行方知れずの者も少なくない。 (69) 2020/12/03(Thu) 12:56:47 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム[ 人間にとってはこの世こそが地獄であると かつて説いたのは何処の誰だったか。 そして時は紡がれ 戦況は刻一刻と姿を変え 最期の仇を前にして、 城壁の外ではまたも冷たき秋の雨が降る…… ] ・ ・ ・ (70) 2020/12/03(Thu) 12:57:35 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム[ ────迸る焔は怒りそのもの。 向けられた切先に宿る其れは留まる事を知らず、 溢れ出る程に術者の命を削る。 業火に照らされる王の面持ちは対照的に冷たく、 這い蹲る黒衣の男を無感動に見据えていた。>>0:64 ] [ 二百年の記憶を得てしても、 彼等が背いた理由を悟ることは出来ない。 それ程までに欲は歴史を左右し、 同時に歴史書を複雑に変えていく。 戦争の歴史こそが人間の歴史ならば、 その火種である『欲』とはインキだ。 時と共により深く染み渡り、誰にも消すことは叶わない。 ] (71) 2020/12/03(Thu) 12:58:18 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム貴様らは眠っている幼子も、 きょうだいも、その妻も殺した。 唯一落ち延びた我が祖先を錻力の玉座に追いやっては 囃し立て……嘸かし可笑しかっただろうな。 俺は貴様と同じ轍は踏まん。 だがその旗を燃やし、史書から抹消するのは変わらない。 [ 対峙する王は瞳こそ焔の色であれど、 声色は何より冷たく悍ましかった。 ] (73) 2020/12/03(Thu) 12:59:22 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルムでは誰が対価を支払う。天が恵み給うとでも? 貴様の血肉と首に代えねば、 我々に残るのは家名だけだ。 ────貴様らが身勝手に踏み躙り、貶めた家名がな。 [ 受け継いだ記憶がそうさせるのか、 微かに声色に怒りが混じる。 在り方で言えばとうの昔に人間ではなく、 其れは四年に及ぶ戦で表面化していた。 ] (75) 2020/12/03(Thu) 13:00:14 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム死者は蘇らない。これは生者への報酬だ。 再びの栄光を示し、その忠誠が報われたと証明する為の。 ・・・ [ 誰もがお前の死を望むと言わんばかりに 鋭い言葉を用いて言い切る。 国の為、一族の為、家名の為。 ] [ 此処まで殺めて来た。これ程迄に死なせた。 墓標が生者にとっての罪や喪失になるからこそ、 “後戻りなど出来はしない”。 ] (77) 2020/12/03(Thu) 13:01:18 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム奥方の命は保証してやる。 精々西の大陸で慎ましく暮らすが良い。 全てを失った時、命に価値など無いと分かる。 [ 見え透いた問いには答えない。が、 僅かに覗かせたのは生き様への価値観。 まるで自分が“そう”在るかの様に。 ] (79) 2020/12/03(Thu) 13:02:16 |
【人】 燎原の獅子 ヴィルヘルム[ ────だが、最期の仇を前にして火は揺らがない。 降り頻る雨に掻き消されることもない。 ] [ むしろ落ち着き払った様子で言葉を受け止め、 やがて静かに唇を開いた。 配下達が掲げる篝火の明かりが近付く。 ] ……“我 Wilhelm von Arenberg、 テリウスの指導者にしてブラバントの王。 家名の誇りに懸け、獅子の御旗の許に” “汝、Judas von Bestlaに死刑を言い渡す”。 ( 吐き出せば、重荷は自然と消えた。 而してArrynに然うした様に、首を落とすだけ。 ) (81) 2020/12/03(Thu) 13:03:54 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 使い鳥に終戦の報せと行き先を託し、 たった一羽、籠から高く送り出す。 もう暗号を用いる必要も、 撃墜される心配をする必要もない。 筆は軽く、迷うことなく進み──── “待っている” そんな一言で締め括られた。 ] (83) 2020/12/03(Thu) 13:07:39 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 誰かが訊いた。 契約の果たされる時は来たか、と。 ] ( ────否、未だだ。 報せを国に持ち帰る迄。 得た物の処遇と治め方を決める迄。 全て『王』の役割よ。 ) [ 声は脳裏で囁いた。 城に戻れば必ず命を貰う、と。 ] (84) 2020/12/03(Thu) 13:07:56 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 悪夢は完全に消え去り、 一人の脳が抱えるには重すぎる二百年の記憶は 眠る度に少しずつ薄れて往くのだった。 三週間に及ぶ帰郷の中で誰かの名が消える。 今では古き当主の名が思い出せない。 ] [ 幼い頃から夢の中で継承し、植え付けられて来た記憶が 抜け落ちれば、何も知らない子供に戻って行くかの様。 充たされず、飢えと渇きに支配された獣の如く 思考を占めていた 憎 ( 其の憎しみが誰の物であったのか、 影も形もなければ確かめる術もない。 ……そんなものだ。 ) (85) 2020/12/03(Thu) 13:08:17 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ ────祝賀に飲み交わす兵達の宴から抜け出して、 砦の暖かな寝室に戻る。 従者に火を焚かせ、灯りを付け、机に向かう。 ] [ “もう下がって良い”と告げれば、 目的のものを執筆する為に羽根ペンへと手を伸ばす。 相続に関しての取り決め、領主の割り当て、 功績を立てた者への褒賞、戦死者の弔い、 やるべき事は山ほどある。そして…… 真実を知らぬ息子に宛て、最期の言葉をしたためようと。 ] ( 何も浮かばないのは 疲労の仕業であって欲しい。 ) (86) 2020/12/03(Thu) 13:08:50 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 考える内に時間は徒らに過ぎ、 窓の外を見遣れば宴の気配も殆ど消えていた。 秋の終わりの長い雨は月の見えぬ晩を一層冷たく、 憂鬱なものに変える。 ] [ 黄金のゴブレットに葡萄酒を注ぐ。 遺書の為にも多少は“馬鹿”になった方が良いだろうと。 薬は既に不要であるから、 代わりにシナモンを加えて温める。 甘く芳醇な味わいが喉を満たした。 ] [ 再び筆を手にしては溜息を吐いた。 背凭れに頭を預け、時折寝室の天井を仰ぐ。 揺れる髪には古びた紙紐。誰かが遺した依代。 彼女の生存を知らせた最も古い手紙の代わり。 ]* (87) 2020/12/03(Thu) 13:09:11 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[一番の仇の骸が崩れ落ちた時、 浮かんだのは怨恨でもなければ歓喜でもない。 苦労せずに潰せたという……なんとも無感動な感想だった。 城内の人々がどうなろうと、 此方に武器を向け罵倒を浴びせてこようとどうだってよかった。 人の不幸で飯を食うような下卑た連中は、さっさとくたばってしまえばいいのだ。 寧ろ、まだ息があるのだという主張をするから都合がいいとさえ思っていた。 それ程までに、死というものに抱くものが少なくなった。 本能のままに躊躇いも無く葬る獣に近づいてゆく。 「安心しろ。お前の同胞も直ぐに其方に送ってやる」と、引き金を引く度に吐き捨てた言葉は存外、淡々としすぎる程に淡白になった。 心底、所詮有象無象の末路なんてどうでも良かったのだろう。] (88) 2020/12/03(Thu) 19:31:03 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[城中にまで響きそうな悲鳴は、まるで狂った猿のような煩さだった。 絶叫をあげ、惨めに這い蹲る無力な家臣に追加の銃弾を放ち、 倒れた腕迄踏みつけながら、冷えた息を零すこともあった。 (微かに、感覚麻痺した筈の胸が軋む。 非道な迫害に憤りさえした保健室補佐が 今の私を見たらどう思うだろう……そんな戯言。) ふとうすぼんやりとした思考回路の中で過ぎったが、下らないと首を振る。 捨てた想いを振り返ったところで、無駄なことでしかなかった。 ( 人を嫌っている癖に、 人と寄り添いたかった自己矛盾は、 見ない振りをし追いやってしまおう。 自分は最早人とは呼べぬことを重ねた。 自分の道を確固たるものにするために、 家族の記憶も、同胞の命も 唯一無二の全てをこの手で捨ててきた癖に “後戻りする選択肢なんて存在しない”。 そういう事にしておいた。 ) 満月が昇ってしまえば、微かに残った邪念でさえも消え果てる。最早ひとの姿も保たなくなった怪物が全てを掌握し、その果てに示された結末は───ご覧の通りの有様だ。] (89) 2020/12/03(Thu) 19:31:29 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[この色を、この光景を、この寒さを、知っている。 ────……初めてのことではなかった。 横たわる少年の髪が土に汚れ、鮮血が血を舐めた追憶の中、 その頭を、獣の毛皮を梳くように撫でていたのを思い出す。] ……ビビ。 私、ずっと君と生きていたかった。 君のためならなんだってしてきたし、 君のことをずっと思ってきて────…… [「君を苦しめる奴らはみんな、居なくなったぞ。」 「……なあ、これからどうすればいい?」 「私はどこへ行けばいいんだ?」 白く輝く太陽に手を伸ばしても、遥か遠い。……返事が帰ってくることもない。] (毒を飲ませたもうひとりの戦友が言った 代弁者であるかのような言葉だけが、脳裏に響いた。) (90) 2020/12/03(Thu) 19:32:31 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ( 「 ────“死ぬなよ” 」 ) (互いに安らかな死さえも許されない癖に。) [静寂を割く翼の音に、意識が引き戻される。 秋も半ばの冷ややかな朝の光を遮るのは、受胎告知の天使には程遠い───いつかの遣い鴉。] (まるで呼び声に応じたかのようだった。 引き合うように窓辺に静かに留まるのは、 難解ではない達筆な文章が示す送り主は、 最後に柄でもない約束を交わした相手は、 喰らったあの子ではないと分かっている癖に。) …………… 臆。 (92) 2020/12/03(Thu) 19:33:29 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[文句を言う癖に口調が少し弾んでいるのは、 無事を安堵した安らぎ故か───それとも。 生者の息せぬ変わらぬ城内を再び走る靴音は、しっかりと意思のある重みを帯びていた。 朝を迎えてもあまりにも静かな城内は、罪なき平民の不安をいずれは煽ってしまう。その中から異形の怪物の姿や“ある意味有名な”己の姿が出てきたのだとしたら……尚更。 向かった先は密かに建設された馬小屋だ。 学び舎を巣立った時にも世話になった、相変わらず骨ばった黒い不気味な馬たちの特異性は、隠れて国を抜け出すには随分と都合が良かった。] [小屋の奥で縮こまった、随分と鞭傷の激しい個体を選んで引き出したのは───縛られて息苦しそうな場所から自由にしてやりたいという気持ちの表れか。] [乗馬の知識はなかったけれども、 そのセストラルは心が通じたようにおとなしかった。 脆い背中にまたがって、合図するように腹を蹴れば 黒き翼が鈍色の空に大きく羽ばたき飛び立った───] (94) 2020/12/03(Thu) 19:35:23 |
【人】 平民の日記今日の朝、 いくら待ってもお城の鐘が聞こえなかったわ。 朝になればいつも大きな音が響いてくるのに。 お陰でいつもその時間に 病死した母さんに祈りを捧げる習慣だったのに 少し遅れちゃったの。ごめんね母さん。 ……あ、でも今日、変なものを見たの。 お城から真っ黒で不気味な馬が飛んでいったわ。 そのまんまお空の向こうへ消えて行っちゃったの。 あれ、なんだったのかしら? (95) 2020/12/03(Thu) 19:36:18 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[黒い天馬に任せた責務は、国の境界を跨ぐまで。 さんざ重荷を押し付けられた国家の動物に、これ以上の負担を背負わせることなどできなかった。 するりと背中から降り立ち地を踏めば、轡を外してやる。 硬い鬣をゆっくりと一撫でしてやれば、一歩下がって指笛を吹いた。 甲高い嘶きと共に、再び青空へと舞い上がる。 もう二度とその背に誰かを乗せることはない。 解放された自由な世界で逞しく生きてほしい。 心からそう願ってしまった。 姿が見えなくなるまで見送って、軍服のポケットから小型の薬品ケースを取り出した。 赤色の錠剤をひとつ摘み取り、口に含んで噛み砕く。 酷く酸っぱい味わいと、激しく揺らぐ視界に一瞬ふらつき反動に耐える。] (96) 2020/12/03(Thu) 19:36:44 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[ 「獣化解放薬」 抑える薬があれば、促進させる薬も存在している。 寧ろ戦争国家であれば其方の方が都合が良かった。 遺伝子を活性化させ、満月無しにその身を変えさせる。人外並の力も手軽に引き出すことが可能であった。 その効力も些か完璧とは言えず、飢えが湧き出る程に悪化もしなければ自我も落とされることはない。 殺戮に戸惑いが生じることは国としては都合が悪いが──速度だけ欲しい彼女にとっては都合がいい。 無理やり身体の組織を捻じ曲げる副作用は酷いもので、倦怠感、頭痛──その他数多のダメージは避けられないが、背に腹は変えられない。] [残された時間なんて限られているから、辿り着くまで薬を重ねて誤魔化して──その後のことは考えない。 口内に残る酸味と共に、鱗に覆われる身体の変化が終わりきるよりも先に足を踏み出しかけ出した。] (97) 2020/12/03(Thu) 19:37:14 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[野を越えた。 山を越えた。 川を越えた。 数多の障害を経る。 計り知れない苦痛を更に酸味を飲み込むことで相殺し、悲鳴をあげる四肢を絶え間なく働かせる。 どんな苦痛よりも、降り頻る雨が寒かった。 鱗に注いだ水滴は乾くことを知らず、 空気の冷気に冷やされ、体温を下げていく。 ───何れ見えた砦の軍幕に見覚えがあれば、ラストスパートのように速度が上がった。 誰彼の視線も気にすることなく、巨体を外壁へ凭れかけ、鉤爪をめりこませ、荒い呼吸に合わせるように攀じ登る。] (ひとつの賭けのようなものだ。 「待っている」とは言ったものの、 どこに居るかがわからない。 権力者様なら高いところにいるのだろうと 捻くれた偏見は───どうやら当たっていたらしい。) (98) 2020/12/03(Thu) 19:39:17 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[濁った赤目が窓を隔ててひとつひとつ、砦の内部を覗き込む。 その中に───身知った 赤 を見つけた気がした。][かん ッ と、尾を硝子が割れない程度に強く叩きつける。 応じて窓が開けられるのなら、倒れ込むように開けた相手を押し倒していたかもしれない。] ………………………… 無事 か。 [薬の効果が切れかけてしまえば、重ねた苦痛が一気に押し寄せて仕方がないから。 アイスブルーを取り戻せない濁った赤目が、魂が抜けかけたように揺れていた。 脇腹を抉った傷口は未だに癒えず、清めもしなかった身体からは死臭と鉄臭さが消えてくれない。 ……屍のように凍えていた。 不意に感じた温もりに、縋り付くように抱きしめて。 ────鉤爪で傷つけない程度にその背を撫でたりしたかもしれない。]* (99) 2020/12/03(Thu) 19:39:54 |
【人】 転入生 二河 空澄── 朝:校門前 ── [学校が始まる一時間前には 校門の前に着いていた。 転入生が珍しいのか それとも、もう既にニノマエ家の跡取りに 楯突いたことが耳に入っているのか 登校して来た子らの視線が痛い。] おはよー! って、またか…… [それを跳ね返すくらい大きな声で挨拶すると 視線を逸して そそくさと門の間を抜けていく。 完全にアウェイ。 昨日のこの時間には、まだ この全員と友達になれたらイイな、って おめでたいことを考えていた自分。 たった一日で、驚くほど世界は変ってしまった。] (100) 2020/12/03(Thu) 21:39:07 |
【人】 転入生 二河 空澄[彼の姿を確認した時には 飼い主を見つけたワンコのように駆け寄った。] 真昼くん、おはよっ うん、だいじょーぶ! お風呂の後にもっかい貼ったからね。 [背がぐんと伸びたとしても しばらくは着れそうな 大きめのトレーナーの裾をぺろっと捲って 貼ってもらった時と同じ位置の湿布を見せる。 心配させたくないから 痛むことはナイショにして、にこっと笑った。] (102) 2020/12/03(Thu) 21:41:19 |
【人】 転入生 二河 空澄[共に歩き出しながら それよりさ、と 少し神妙な顔つきに戻して話し掛ける。] オレね。 真昼くんが来てくれるまで 心配で、心配でしょうがなかったんだ。 だから明日は 家までお迎え行っていい? [断られたとしても こっそり木の陰とかから 見守ろうって考えるくらいには 自分の知らないところで 何の手立ても講じることが出来ないまま 彼が傷つくのだけは、どうしても嫌だったから。]* (103) 2020/12/03(Thu) 21:43:38 |
【人】 転入生 二河 空澄── 5分休み ── [向こう見ずな態度を取ってしまったから また鋭い蹴りが来るんじゃないか、と 内心 身構えた。 けど、返ってきたのは 解決の糸口を掴ませることのない 端的で横暴な答えだけだった。>>30] なッ……、 [どう切り返せばいいのか分からずに 絶句して突っ立っていると、あっちへ行けと仕草で示された。 頭の悪い仔犬が 吠えかかってきて面倒くさい、といった扱い。 悔しいけど、 何も思いつかないまま挑んだって 敵わない相手なことは明白で 大ボスが戻る前に 真昼くんの元に辿り着くのが先決だ、と 追い払われるままに、教室へ戻った。] (104) 2020/12/03(Thu) 22:06:32 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム( 冷たい戦乱が心さえ凍らせていたかのように、 凝り固まった情緒は言葉として表すことが出来ない。 揺れる暖炉の炎にもう一つ薪を加えて、 再び机に向かおうとした時だった。 ) [ ────使い鳥の嘴とするには大きい、 硬質的な音色が部屋に反響した。>>99 天候が雹に変わった様子でもない。 敵襲など有り得ない立地と高さだ。 加えて周囲は砦に収容し切れない人員が 軍幕を張っているものだから。 思い当たる前にナイトガウンの裾を翻し、 窓辺へ駆け寄った。 見れば薄闇の中に濡羽色の魚鱗めいたものが光っている。 思わず框に手をかけて、一息に頂点まで押し上げた。 ] (105) 2020/12/03(Thu) 22:07:18 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ すると破れた布切れと不規則な黒鱗に覆われた脚が、 それに続いてヒトの輪郭を保った顔が視界に現れる。 血溜まりの如く濁った 瞳 であっても、一度目の当たりにした其の姿を忘れる筈もなく。 吹き込む風に混じる死の匂いは、 彼女が長い長い闘争に身を置いていた事を悟らせた。 ] リヴァイ、お前…… 今晩はまだ三日月の筈──── [ 言い切る前に其れは窓の下枠に脚を掛け、 濡れそぼつ身のまま飛び込んで来た。 寛いだ衣装では一人分の質量以外に抗うものはなく、 衝突した威力に押されるままに後ろ向きに倒れ込んだ。 古びた絨毯から鈍い音が鳴る。 ] (106) 2020/12/03(Thu) 22:08:08 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 振動と共に全身へ打ち広がる様な鈍痛。 痛みには慣れてきたが、頭の中が揺れたまま治まらない。 深い瞬きを繰り返して定まらない視界を確かめるが、 一向に効果は出ない。 言うべき事も、迎える言葉も、募る話も、 沢山あった筈なのに。 瞼の裏に文字通り星が散る有り様では、 “ああ”と短く肯定を返すのが精一杯だった。 ] [ その実、狭義的な“無事”とは言い難く。 命を酷使したお陰で身体は重い上に、 受けた矢傷は今も包帯の内側で疼いている。 取引の『刻限』が迫る身体は、 不可逆で緩やかな衰弱の途中に在る。 ] [ 分厚い生地に冷たい雫が染み渡る。 背へ控えめに回る腕があれば体温は尚更混ざり合い、 腕を広げて迎え入れようとした中途半端な格好のまま 疲労困憊への追い打ちとなった眩暈と戦っていた。 ]* (108) 2020/12/03(Thu) 22:09:53 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[平民なら兎も角、兵士相手ならば斬り捨てられてもおかしくはない。 さんざ人を喰らった獣の見た目は禍々しいものだったからこそ───元からあった銃痕以外、此処に無傷で辿り着けたのは奇跡に近いのではないか。] [自身が経てきた時間は彼と比較すると激動と言うには程遠いのかもしれない。 大半を診療所で過ごしてきた。 勝負に出たのは最後の一年間のみだというのに 祖国を崩壊させた人生は、屍の数が多すぎる。 酩酊したかのように揺れる意識を支えるように抱えれば、 彼に初めてこの姿を曝け出した時のように倒れ込む。 見た目の変化こそあれど、相変わらず打たれ弱い身体だと思った。] ……喧しい。 月に頼らずお前の元に辿り着く等酷にも程があるわ。 一定時間だけ力を解放しただけだ……直に戻る。 [軋む絨毯に唸り声をあげ、手を床につき、軽く上半身を起こそうとする。 濡れた髪を鬱陶しそうに揺らし乍ら不機嫌そうな声を返した。>>106] (109) 2020/12/04(Fri) 0:01:15 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[瞼が下りそうな怠惰感が全身を襲っているのに、開きっぱなしの窓から吹く風は刺すように冷たく、湿った鱗に叩きつけてくる。 「寒い」と抗議の声を漏らせば相手を片手で抱えたまんまよろよろと立ち上がり、雑な動作で再度閉め下ろす。 温もりを探すように雫を落とし、無抵抗のまま目眩と戦う相手を半ば引きずるようにして彷徨い───寝台を視界に入れればそのまま放り投げた。] ………………怪我は。 (あの子はいつも傷だらけだったから。) [相手に息があったのはひとつめの幸運。 命こそ存在されど、受けた傷の程度をこの目で確認しなければ満足できなかった。 ナイトガウンを邪魔臭そうにはだけさせれば、器用とはいえない鉤爪さばきで相手の身体を暴こうとする。 彼女に下心は皆無ではあれど───側から見れば夜這いと勘違いされていてもおかしくはない。 具合を直接見えなくとも、証明のように包帯が巻かれているのを見ることが出来たならば、そのかんばせは酷く歪んだに違いない。] (110) 2020/12/04(Fri) 0:01:47 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ(なんだこの怪我は。 お前は私の獲物だと前にも言った筈ではないか。 文句は決壊したダムのように溢れて止まらない癖に 久しぶりに得た人肌の温もりが酷く身に沁みる。 ……何れはそれも反応が涎を垂らす一因にもなる癖に。 もう与えられる資格などないに等しいはずなのに。) …… 良かった …… [枯れきって流さない涙の代わりに、雨粒が髪を、鱗を伝って滴り落ちる。 文句の代わりに安堵の四文字を並べたのは、隠された本心が漏れ出たもの。最後に残ったたったひとつが失われていないことがただただ嬉しかった。] (111) 2020/12/04(Fri) 0:02:24 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[ぐうらぐうら。 何重もの副作用が襲う頭はまともな思考回路を保ってくれない。 中途半端に暴きかけた据え膳のような状態のまま、力尽きたように倒れ込み、そのまま抱え込んで胸に顔を埋めてしまった。 幼児のように擦り寄れば、大きく息を吸う。 混ざり合った体温がいつも以上に心地が良い。 触れても触れても命なき冷たさばかりに触れていれば そこに燃えている熱に縋ってしまうのは当然のこと。 「……ん、」と小さく声を漏らせば、密着するように身体を文字通り重ねようとした。 変化時に衣服が破れてしまえば、鱗に覆われていれど裸体同然の姿なのだが麻痺した頭は碌に気にもしないまま。 足りない熱を補うことだけに意識を向けて、まだ薬の効果が残り続ける長い尾までもを巻きつけた。] (112) 2020/12/04(Fri) 0:02:52 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ(相手のことを異性としてみたこともなければ 下心さえも存在していない故───── これは一種の気の迷い。 彼女自身も深く考えちゃいない、熱を求めるが故の行為。 冷えた身体は通常の人肌の温度では足りなくて、 更に温もりを享受したいと本能が叫ぶ。 自我も忘れてそれに従ってしまうのならば…… 今、満月は昇ってこそいないが、 今夜だけは───欲張りな獣に成り果ててしまおう。)* (113) 2020/12/04(Fri) 0:03:35 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム『他の国家の如何なる法もこの地では無効。 敵意を持たない対象への攻撃は許可しない』 [ いつか戦争が始まる前に敷いた則。 其れは実質的には彼女を保護する為の決まり事で。 獅子の御旗は定めた獲物以外には靡かない。 ────たとえ国際的な指名手配であったとしても。 ] [ どれ程冷たく過酷な闘争であったとしても、 生命の証明は、体温と鼓動は変わりなく其処にある。 本来なら死に至る運命を幾度となく捻じ曲げ、 “違和感の無い程度”に書き換えられた筋書きは 何もかもが悪魔の筋書き通りであるが、 同時に約束を確実に守る動因となった。 床に落ちた黒髪を受けたばかりの雨粒が伝う。 揺れる度に張り付いては触れたものを しっとりと濡らして行くのが擽ったい。>>109 ] (114) 2020/12/04(Fri) 2:14:03 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 碌に身動きの取れないまま放り出されれば、 自ずと暖炉の火に近づく事になる。>>110 気付けば窓はいつの間に閉められていて、 寝室は暖かな空気と橙色の光に満たされつつあった。 ] 四年闘って無傷で済む戦士が居ると思うのか……? だとしたら其奴の度胸を疑った方が良かろうに。 [ 結局、再会して初めてのまともな返答は いつかの日にも似た憎まれ口になってしまう。 回り始めた思考は傷の手当だとか、祝杯だとか、 先程浴びた湯を従者に沸かし直させる事だとか、 ────考えたその全ては再び何処かへ葬られた。 ] [ 漸く平常に戻りつつある視野が最初に捉えたのは 揺れる火に照らされ浮かび上がる女の肢体。 末梢や頬、背と尾を除いてヒトの形を既に取り戻し、 この身を覆い隠す形で寝台に膝を乗り上げていた。 ] (115) 2020/12/04(Fri) 2:14:44 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 艷めく鱗と同じ色合いをした髪が首筋に描く線が、 宗教画じみた非現実的さを孕んでいたものだから。 ] ────おい、 ………… ( 今、“月に頼らず”と言ったか? ) [ その行動に異を唱えようとしていた唇を閉ざした。 壊れ物を扱うかの様に触れた掌は恐ろしいほど冷たく、 同時に零された言葉は最早意味を成してはいない。>>111 安堵の意味を思考し、 手繰り寄せた結論は酷く苦しいものだった。 ] ( 温かな家庭で得られる幸福の選択肢を蹴り、 同胞も、名誉も、故国も、居場所でさえも投げ捨てた。 お前が自ら望んで獣に身を窶す程に、 この 約束 は重かったのか。 )[ 中和されるかのように肌は冷えて行くと言うのに、 長き戦に凍り付いていた情緒は溶け出し始める。 ] (116) 2020/12/04(Fri) 2:16:09 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム( 立場が異なるからこそ、 同情は叶っても共感は出来ぬ。 だが、憐れみに混じる喜びに似たこの感情は何だ? ……奴は血に染まるのが喜ばしい、 これまでの復讐相手とはまるで違う筈なのに。 ) [ ────不理解。空白感。 掴み所のない感情の出処を知らないのは 彼が精神的充足と共にある『恋』を 経た過去がまるでないからだった。 ] (117) 2020/12/04(Fri) 2:20:56 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム 守るべき平民 [ 唯の田舎娘にそこまでさせる程の呪いを投げ掛けた。 互いに律し、戒め合ったこの運命は 漸く終局に差し掛かろうとしている。 戦を終えれば、心を奮い立たせる理由も 慈悲や情けを殺して埋める必要もなく。 奇運に振り回され続けた少女のこれまでを思えば、 ] ■かな■り ( せめて安らぎを、と思わずには居られまい。 ) [ いつかの様に凭れ掛かる身体を受け止めて、 “今度は”紛れも無く自らの意志で華奢な背に腕を回した。 体長の半分はあろうかという尾が 応えるように巻き付けば、体温は更に奪われる。>>112 ] (119) 2020/12/04(Fri) 2:21:55 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 微かな震えが起こるのも厭わずに、 唯々凍え切った身を温めようときつく抱き締めた。 濡れて張り付いた衣服の残骸など投げ捨てて、 人と獣の合間に在り、倒錯的ですらある肉体の 薄い肩をさすっては、髪を梳いて退かしてやる。 ] ……幾ら祝賀とは言え、女など頼んでおらんわ。 ( お前はもう“物”から脱却したのだから ) [ ずっと前に教わった抱き締め合う事の喜びを実践し、 やはりと言うべきか、突っ慳貪に吐き捨てたのは 彼なりの“逢いたかった”の感情表現だった。 ] (120) 2020/12/04(Fri) 2:22:19 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 縛り付けられて来た心が、愛されなかった子供が、 本当は心の中で何を求めていたのか。 其れを表現する術を持たない儘触れ合って、 名前も知らない“与え与えられる喜び”に溺れていく。 枷の外れた心は二十余年未知だった領域に踏み入っても もう、どんな恐怖を覚えることもなかった。 ……総ては雨の降り頻る、長い夜の秘め事の中に。 ]* (121) 2020/12/04(Fri) 2:23:48 |
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