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【置】 警部補 添木添木には何もない。 両親の写真は、一枚もなかった。 一枚だけ祖母がとっておいたものを、見もせずにキッチンで焼いた幼いころ。 自分を捨てた大人なんかと、自分が繋がっている由縁を、一つたりともこの世に残したくなくて。 あんたは優しいけど。 ずっと前にいるのに、時折振り返って笑ってくれた。 ずっと一緒に過ごせるんじゃないかって、そう思わせてくれた。 嘘つきだ。 あんたは嘘つきだ。 本当にひどい。 でも、今度はその嘘を俺が引き継いで、誰かに背中を見せてやる。 こうしないと、きっと救われない”誰か”がいる気がすんだよ。 これでいいよな。 これでいいんだ。 きっと。 (L15) 2021/08/16(Mon) 13:22:55 公開: 2021/08/16(Mon) 13:25:00 |
添木は、寝たフリをした。少しだけ、泣いた痕が残っても、多分気付かれないだろうから。 (a24) 2021/08/16(Mon) 13:24:06 |
【見】 天狼の子 夜長【祭り、どこかのベンチ】 夜長は祭りの中、藍鼠の甚平姿。食べ終わった飴の棒を、行儀が悪いなと思いながらかじっている。つまようじみたいな味と、しみ込んだ飴の味。嫌いじゃなかった。 雅也さんに、もう母さんを探さないでいいと言われた。母さん、ここに来ていないんだな、と思った。雅也さんも言い切れない何かはあるみたいで、ちゃんとは言われていないが……そうだと思えば、本当なんだろうなと。 母さんが約束をなかったことにするなら、ちゃんとした理由があると思うから。 探して探して、俺でない他の人も、本当に誰も見ていなかったから。 いくらかくれんぼが上手でも、日が暮れたらみんな出てくるものだから。 父さんに怒る理由が増えたかもしれない。母さんがここに来ていないのなら、父さんの方が嘘をついていたことになる。雪子さんはこの村に来ていない。ああ、晴くんの方が先に来てしまった。モモチと同じで、母さんは気にしないだろうが。 (@2) 2021/08/16(Mon) 16:04:24 |
【見】 天狼の子 夜長【祭り、どこかのベンチ】 自分ひとりで考えて、自分ひとりで決めて、ここに来た。大人になったら、全部じゃなくても、そうやって自分で決めることが増えると思って。大人になったら、出来ないことがたくさん出来るようになるとも思っていた。 でも、けっこう出来ないことは出来なかったな。怒っているからあまり考えなかったが、父さんだったら上手く出来たのだろうということはいくつもある。 あの人も晴くんみたいに、誰かに迷惑をかけてごめんなさいをして、助けてもらってありがとうをしていたことはあるんだろうか? 今度話してみようと思う。怒るのが先だが。 (@3) 2021/08/16(Mon) 16:04:45 |
夜長は、人を見ているのが好きだ。話を聞くのが好きだ。思い出に触れるのが好きだ。だから、 (t9) 2021/08/16(Mon) 16:04:55 |
夜長は、ひとりでもけっこう、この祭りをたのしんでいる。でも、 (t10) 2021/08/16(Mon) 16:05:04 |
夜長は、誰かと一緒の方がもっとたのしいだろうなと思った。 (t11) 2021/08/16(Mon) 16:05:11 |
【見】 天狼の子 夜長【祭り、どこかのベンチ】 「みんなでいて、たのしくないこともないと思う」 だからみんなのいる所に来ていたつもりだが、みんなはそうでもないのだろうか? 今日見ていない人は、俺が見ていないだけならいいと思う。 かくれんぼじゃないが、隠れている人はいるかもしれない。なんとなくそんな気がした。動かないでじっとしているだけじゃなくて、ひとりで歩いて鬼 -誰か- から隠れている人も、たぶん。隠れている人も、隠れていない人も見つけに行こう。鬼は得意でないが、そうしたいので。それが今の俺の、祭りをたのしんでみるだと思う。 (@4) 2021/08/16(Mon) 16:05:56 |
夜長は、ベンチを離れて歩き出した。見つけられるだろうか。 (t12) 2021/08/16(Mon) 16:06:08 |
夜長は、慈姑に手を振った。 (t13) 2021/08/16(Mon) 16:09:09 |
夜長は、ばあちゃんは祭りをたのしんでいるのだと思った。振り返ってどこかに行く後ろ姿が、ご機嫌そうだったから。 (t14) 2021/08/16(Mon) 16:09:26 |
【人】 君ぞ来まさぬ 百千鳥>>67 鬼走 【四日目/夏祭り】 「……あー、うん」 頬を掻いて一度、返答のなりそこないのような声を発した。 とはいえ何か言葉に詰まるような事があるでもなく、ただ そんなふうに見えているのか、という思いがあるだけで。 「うん、つまんないよ。 …てよりは、寂しいかなあ。 一人でご飯食べるのって味気ないじゃない? 多分、そういうことなんだと思う」 それが本来どんなに楽しい時間でも、一人では味気ない。 それがあなたにとって共感に足る心情かはわからないけど 一般論としては理解の及ぶものではあるはずだ。 そんな例題を一つ挙げて、だから大丈夫と笑って見せた。 だってもうすぐ、一人ではなくなるから。 (71) 2021/08/16(Mon) 16:10:43 |
【人】 影法師 宵闇>>68 >>L14 >>69 >>70 御山洗 ──瞬き。 嗚呼、軽率だったな、と男は悔いた。 目の前の友人は、海で手を引いてくれた時と同じ目をしていた。 宵闇 翔にとっての御山洗 彰良は、幼い頃からの友人だ。 清和とぶつかり合っている中に無理やり引っ張り込んで 自慢していつも困らせているような。 けれどそれでも付き合ってくれて、影で頑張ってくれるような。 ──今でも、そうだ。 御山洗の言う好き、とは違っても。 ただ、大事な友人であることは確かだった。 何年経っても、再会できて過ごせたことは この夏のひと時は、安らぎだった。 今の宵闇 翔は今にも夢に縫い付けられそうな "かえりたくない" "このままでいたい" そういう思いでいっぱいの、だめな大人だった。 その夢が崩れていく音がして、ほんの一瞬、迷子のような妙な顔をしてしまった。 いつもの余裕で取り繕うことが、できなかった。 耳に届いた掠れた音が、苦痛を堪えるように目を伏せる姿が いつまでも焼きついていて、 気付いた時には、距離が離されていた。 男は、ただ無表情でその場に立ち尽くしている。 → (72) 2021/08/16(Mon) 17:54:17 |
【人】 影法師 宵闇>>68 >>L14 >>69 >>70 御山洗 「なあ、アキラ」 「……俺が、好きだって言ったな」 確かめるように、呟く声は夜の海みたいに、静かだった。 大きな体で小動物のように震える男を前にして まるで怯えさえないように、静かに言葉を紡いでいる。 「そりゃあ、さすがに驚いたよ。 けど、"今までありがとう"?別れの言葉に聞こえるなー…… だから俺と付き合いたいとかじゃないのかい」 わざとらしい、いつものような調子を作る。 「俺は、切り替えのできる大人ではあるが。 "はいそうですかさよなら"って今のやりとりで 友人捨てられるほど、薄情でもなかったらしい……」 「来なければよかった? なぜだ? 俺が好きなのに?」 「……どうして、逃げる? 俺が好きなのにかい?」 「なんで、そんなに怖がってるんだ」 「教えてくれないのかい、俺は聞きたい」 「話がしたい」 無責任なことを言っている自覚はあった。 → (73) 2021/08/16(Mon) 17:57:24 |
【人】 影法師 宵闇>>68 >>L14 >>69 >>70 御山洗 「──本音を言うとお前とこのまま別れたくないだけさ。 ……さよならするなら、納得がいってからがいい」 男は、まるで昔の諦めの悪い少年のような目をしていた。 「俺、この田舎にずっといれたらいいなって思ってるんだ。 ここにいたら忘れてしまった大事なことを取り戻せそうで。 ……帰りたくない、お前は、そうは思わないか?」 ──そんなことは無理とは、どこかでわかっているのに。 今の宵闇 翔は今にも夢に縫い付けられそうな "かえりたくない" "このままでいたい" そういう思いでいっぱいの、だめな大人だった。 男はあなたが本音を言ったのと同じように、本音を返してやった。 「……祭りには一人で行くよ、それは言う通りにする。 けど、──急に、いなくならないでくれよ。 俺がまた海に落っこちたら、そのまま沈んじまうかも」 笑顔を作る。 「"またな"」 男は一方的にそう言い放って、背中越しに手を振った。 (74) 2021/08/16(Mon) 17:59:29 |
【置】 学生 涼風拝啓 夕涼みにほっと一息つく、晩夏のきょうこの頃、いかがお過ごしでしょうか。 (中略) 今の私は沢山の欠片を持っています。 例えば、こうして便箋を手に取ってペンを持った時。 例えば、どこかの街で賑わう夏の祭りを目にした時。 やはり私は昔を思い出すのです。皆と会ったあの頃を。 いなくなってしまった人を思う度、美しい思い出たちはガラスの破片となり、振り返ろうとする私の足に噛みついて鋭い痛みを与えてこようとする。 痛みに泣いて、蹲って、砕けてしまった思い出をかき集めて抱きその場から動けなくなってしまったら、きっとどれほど楽だったことでしょう。 でも、優しい夢に囚われ続けるのであれば。 完璧な形でないといけない、そう思いませんか? いてほしい人がいない甘い夢では、いない人の事ばかり考えてしまうもの。弾き出されたその人が寂しい思いをしてしまわないかと、私は気になってしまうのです。 だから私はここにいる。こうして貴方に手紙を出す。寂しさが少しでも埋まるように、お裾分けできるような思い出の欠片を沢山拾いながら。 生者のエゴだと思いますか?ええ、きっとそうでしょう。葬儀とは、弔いとは、死者のために行うものは、生者が己の心の整理をする為にあると言われるほどですから。 じゃあこの手紙も送るのをやめましょうか?なんてね。 エゴかどうかは、生ききって私も死んだ先、貴方と合流してから答え合わせをしましょうね。 それまでに土産話を沢山用意しておきますから。 (中略) 敬具 20××年 8月××日 涼風薫 (L16) 2021/08/16(Mon) 18:42:39 公開: 2021/08/16(Mon) 19:00:00 |
涼風は、相手の手を優しく握り返す。 (a25) 2021/08/16(Mon) 18:46:32 |
涼風は、ふらりゆらりと歩き出す。からん、ころん。下駄が鳴る。からん、ころん。それは遠くへ。 (a26) 2021/08/16(Mon) 18:47:36 |
百千鳥は、その手を握って、喧騒に背を向けた。 (a27) 2021/08/16(Mon) 18:56:02 |
百千鳥は、ずっと前から、全ては夢だと知っていた。 (a28) 2021/08/16(Mon) 18:56:16 |
百千鳥は、見ないふりをしていただけ。 (a29) 2021/08/16(Mon) 18:57:31 |
涼風は、ただ寄り添う。寄り添って、二人でそっと抜け出して。 (a30) 2021/08/16(Mon) 19:00:10 |
涼風は、ようやくここが夢だと気づいた。それでも、何も言わずに貴方と並んで歩く。 (a31) 2021/08/16(Mon) 19:01:08 |
【人】 さよなら 御山洗>>72 >>73 >>74 宵闇 「……ひどいやつだな、お前は……」 喉の奥からほとんどつっかえて出てこないような涙声が、ようやく震えながら音を成す。 なぜかだなんて。克明に思い出さずに済んだなら、この想いを風化できたからだ。 どうしてかだなんて。そんな気持ちを抱いたところで叶うわけが無いのを理解してるからだ。 目の前の彼が思うよりもずっと不届でみっともない願いを抱えて、 唄うような声もはしゃいでる声もとぼけたような声も、 長い前髪から覗く目もろくに体を作れるものを食べてないような細さも、 全部どうしようもなくこの手に掻き抱いてしまいたくて、そんなのは、お前には向けるべきじゃない。 "友達"だと言うのなら、こんな不自然な気持ちは最初から持つべきじゃなかったからだ。 抑えられないくらい好きな自分が、夢に見るくらいに好きな自分が、 自分では制御できない怪物になったようで、自分から思い出を守れないのが、恐ろしかったからだ。 宵闇の思いと御山洗の想いは全く違っていて、それはどちらも両立することは出来ない。 「俺は……」 首を横に振る。同じ思いを、抱けなかった。 ここにいたら、綺麗なまま額に入れてとっておきたかった大事なことを壊してしまう。 此処には居られない。いてはいけない。思い出に触れないまま、しまっておきたいと願う。 帰ってよかったと思う気持ちより、帰ってこなければよかったと後悔する愚か者は、 永劫の花園にはいられない――帰りたくないなどと、思えない。 このままでいることにも、ここままでいられないことにも、何もかも耐えられなかった。 → (76) 2021/08/16(Mon) 20:14:32 |
【人】 少年 編笠>>78 夕凪 視界の中の風景は、過去を移す。 憧れであり、淡い思いを抱いていた相手の姿が、 憧れであり、追いかけていた背中である誰かが、 今の夕凪に重なる。 「でも、ごめん。 俺はここで、嘘を吐くことに決めて。 だから、その嘘に今縛られてんだ。 ……ここにきて。 俺のことを好きって言ってくれたやつがいるんだ。 でも俺は、応えられなかった。 答えすら与えてやれなかった」 それはもう実感としてあるかもしれない。 この世界が、誰かの思いで紡がれていることを。 「"夢"が"夢の中"である限り。 俺にとっては、それは"夢のような言葉"なんだよ。 黙ってようと、思ったんだけどな……」 そしてそれを自覚した今。 この夢の時間が綻び始めていることにも気づいている。 (79) 2021/08/16(Mon) 20:42:14 |
【置】 君ぞ来まさぬ 百千鳥ここが都合の良い夢だなんてわかっていた。 慈姑が姿を消した時に、あの人は夢に還ったのだと思った。 姿を消しては現れる夕凪や卯波を見て、 そういうものなのだと思った。 夢の中で何の根拠も無く、けれど確信じみてそう思うように。 居なくなった人も確かにここに居て、 決してどこかへ消えてしまったわけではない。 会おうと思えば会いに行けて、一緒に遊ぶ事だってできる。 今はここに居ない人も、きっと見えないだけでここに居て ここで待っていればいつか、 せめてその面影に触れる事は叶うと思っていた。 皆に会いたいと願いながら亡くなった姉が寂しくないように。 あの頃のままのみんなと一緒に、 あの頃のままの村を保って、待っていてあげたかった。 それは決して叶わないという現実に見ないふりをして。 夢を見せるなら、最後まで騙していてくれたらよかったのに。 (L17) 2021/08/16(Mon) 20:46:45 公開: 2021/08/16(Mon) 20:50:00 |
【置】 さよなら 御山洗「――……ああ」 バカだ、と。やってしまったな、と思った。 今まで自分が大事にしてきたものは、この手で壊してしまった。 今までひた隠しにしてきたものは、この手で暴いてしまった。 思い出は浅ましい思い出塗りつぶされて、曇ってよく見えない。 これが、自分の望んでいた"夢"なんだろうか。 もしもそうなら、とんでもなく悍しい悪夢だ。 それでも俺は、翔のことが。 「……本当に、バカだ……」 (L18) 2021/08/16(Mon) 20:53:30 公開: 2021/08/16(Mon) 20:55:00 |
涼風は、百千鳥の手を握った。 (a32) 2021/08/16(Mon) 20:55:32 |
御山洗は、恐れていた。怯えていた。今は、後悔ばかりが焼き付いている。 (a33) 2021/08/16(Mon) 20:56:40 |
花守は、諦めて、諦めなかった。 (a34) 2021/08/16(Mon) 20:59:00 |
添木は、”遊び”を終わりにする。 (a35) 2021/08/16(Mon) 20:59:10 |
花守は、ウソをホントにする、きっと。いつか。 (a36) 2021/08/16(Mon) 20:59:57 |
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