ゲームエリアから離れようという頃、男は一人真っ白な部屋に立っていた。仮の自室として過ごしたこの場所もきっと二度と訪れることはないのだと知っている。知っていて、ほんの少しだけ後ろ髪を引かれている。
　荷物はレッグバッグに収まる程度のものしかなく――それはゲームエリアへの移動に限った話ではないのだけれど――己の身ひとつで良かったはずの男はこの無礼講を思い返す。

　無礼講前は己の欲するもののために多くの者の間を飛び交って、それでもなお留まることなど何一つできなかったのだけれど。


　漸く自分の欲したものに直面し気付かされたかと思えば、それが本当に己が欲した存在であるかを見極めようとして。


　答えは既に得られた。
　探究の果てに得られたものを抱えて、
　受け止めたの重さに満ち足りて。



　男は、胸をちりちりと刺激する熱を感じながら、心地良いそれに麻痺するものがあると感じながら、踵を返して歩き出す。

　星に潰されるだけのものじゃない。飛び回る星とともに在るのならば、自分もまた。
　知りたいと、与えられたいと願い、未だ知らないものを探しては様々なことを知り続けていこう。


　取り戻した多くと得られた多くを胸に抱えた男は、彼が見つけ出した道を切り拓き、永き時を駆けるのだろう。
　無礼講から日常へ。日常から、新たな日常、更にその先へ。

元の場所へ戻されるため、拘束が再び付けられてゆくのをぼんやりと眺める。


それでも、宴が始まるよりも枷が軽く感じるのは心境の変化なのだろう。



一度目を伏せる。目に焼き付けたものを思い出せば自然と笑みがこぼれた。

迎えに来てくれるといってくれた主人との約束。
いつの日か会おうという君との約束も。
かつての思い出だけに縋るのではなくて、"また"の約束がある今が、好きだ。

檻へと戻っても、もう俺は独りじゃないのだろうなと、思えるから。

「またいつか遊べたら嬉しいのよ。楽しかったの」
さようならみなさま。お元気でね。

「それじゃ、精々死なないようにね」
こんな時代でも、ね。

「それではまた会いましょう」
いつの、どこでも。