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【秘】 美術 エノ → 普通 ナツメ噎せる姿を眺める。 唐突な質問だったかな、と首を傾げて。 「そういうのなんだ。」 別に隠さなくても良くない?と言いながら。 ジュースを口に含む。 同じ質問を投げかけられても、こちらは動じることもなく。 「…うーん、フカワ君のことは好きだし。」 「カミクズ君も友達だと思ってるし。」 「でも、別に付き合うとかではないと思う。」 「どこに惹かれたの?」 自分のを答え終わったら、カウンターパンチ。 (-15) 2022/03/04(Fri) 23:49:51 |
【神】 美術 エノ彼は欠席か、と端末の連絡を見る。 都合がいいな、と思った。 「元の暮らしに戻ったら…………」 「あんまり、考えてなかったな。」 「……焼肉を食べたり、してみたかったかな。」 過去形。 やや長い沈黙の後に、また口を開く。 「……ごめん。」 手をあげて。 (G4) 2022/03/04(Fri) 23:54:11 |
【神】 美術 エノ「理解はね、されてない。」 「理解してくれそうだなって思った人にも、振られちゃった。」 「でもね、話してて俺、気付いたんだ。」 「俺が欲しいのって多分、理解者じゃなくて。」 「忌憚なく傍にいてくれる人だったんだよね。」 「理解してほしいって、散々言っておきながら。」 「自分のことを一番理解してなかった。」 「まぁ、それは良いんだけど。」 理解してくれなくてもいい。 ただ傍にいてくれれば。 色芽木 絵乃と言う人物は。 理解が必要なほど複雑な精神をしてるわけでもない。 何か後ろ暗い過去や境遇があるわけでもない。 ただ、ぬるま湯がぬるいと泣き喚いてるだけの。 普通の人間であった。 「その人からね、生きてくれって言われて。」 「お願いだから未来を見てほしいって言われて。」 「俺、それで。」 「あぁ、生きたいなって、思ったんだ。」 「そんなに言うほど、未来に希望があるって言うなら。」 「生きてみてみたいって、本気で思ったんだ。」 (G10) 2022/03/05(Sat) 18:37:23 |
【神】 美術 エノ「生きたくて、生きたくて仕方ないから。」 「生きちゃいけないんだよね、俺は。」 支離滅裂な言動を零して。 一つ、息をついた。 オレンジジュースが飲みたいな。 (G11) 2022/03/05(Sat) 18:38:56 |
【神】 美術 エノ「うーん、少し違う。」 ハナサキの言葉に、返答をして。 傍聴席をちらりと見やる。 目を伏せて、また生存者に向き直る。 「俺さ、今まで、投票することも。」 まだ白紙の投票紙を机に置いて。 「死んでいい誰かを選ぶことも。」 端末を机の上に置いて。 「全然悩まなかったんだよ。」 「別に、自分自身が死んでも構わないって思ってたから。」 「人の死を選ぶことも、何とも思わなかったんだ。」 「俺はね、今まで一度も、運任せに投票したことなんてない。」 「全部、俺なりの理由で名前を書いて、投票してた。」 「俺なりに『死んでいい人』を選んでた。」 (G13) 2022/03/05(Sat) 19:42:22 |
【神】 美術 エノ「……昨日、生きたいなって強く思うようになってから。」 「初めて、悩んだんだよね。」 「俺が選んだ誰かが死ぬんだって思って」 「その人も、生きたいのかもしれない、と思って」 「生きたいのに死を突きつけられたとき、どのくらい心臓が痛くなるんだろうって思って」 「多分、怖くなったんだよ。」 「自分がそうなった時どうしようっていう恐怖で」 「誰かにその命運を押し付けるのに躊躇いが生まれたんだ。」 淡々とした声が響く。 きっと青年の中ではもう整理がついていることで。 だから、声が震えることもなく。 「初めて知ったんだよ、俺。」 「皆はとっくの前から知ってたのかな。」 「だとしたら俺は、とっても凄いと思うんだけど。」 「自分の意思一つで誰かを死に追いやるのって、 めちゃくちゃ怖いんだなって。」 皆ずっと、それを分かってやってたんだね、と。 周りを、傍聴席を見て。 (G14) 2022/03/05(Sat) 19:49:31 |
【神】 美術 エノ「だから俺、考えたんだ。」 「誰なら死んでもいいかって。」 右手にペンを持ち、投票紙をとんとん、と叩きながら、 左手で5本指を立てる。 いつか、誰かがしていた動作。 「フカワ君は、俺によくしてくれたんだ。」 「優しくて、大人で、少なくとも俺の手では殺したくない人。」 親指を折った。 「ナツメさんは、医務室でずっと俺を見守ってくれてたね。」 「話したこともない、死にかけの奴をだよ。やっぱり君は、優しいと思う。」 小指を折った。 「カイくんも、俺の治療に来てくれたね。」 「頼まれたから仕方なくって言っていたけれど。」 「でも、わざわざ薬まで作ってくれて、あぁ、こんなお医者さんが居てくれたらいいなって思った。」 薬指を折る 。「ハナサキさんは、話したことはないんだけれど。」 「毎回合議をしっかり進めるように声を上げたり、話し合いを大事にしてたよね。」 「俺はそう言う姿勢、好きだった。あと、君を助けたいっていう人に恩があるから、不義理ができないのもある。」 中指を折った。 (G15) 2022/03/05(Sat) 19:58:44 |
【神】 美術 エノ「俺は。」 残った人差し指を、自分に向けた。 「───人を殺した。」 「誰なら、死んでもいいか。」 「誰が、死ぬべきか。」 「……考えるまでも、無かったんだよね。」 自分の手で殺した少女を思う。 あぁ、皮肉だ。 あんなに同じように傷つけ、血を流し、殺意を持っても、君のことなんてちっとも理解できなかったのに。 今は何となく、君のことが理解できる。 生きたくて、生きたくてたまらないのに、死ななければならない事。 どうしても歩みたい未来があるのに、それを奪われる事。 それはどうしようもなくムカついて、暴れたくて、泣きたくて。 悲しくて、喚きたくて、助かりたくて、救われたくて。 ただ。 ただ。 どうしようもなく怖かった。 ごめんね、ヒメノさん。 (G16) 2022/03/05(Sat) 20:05:45 |
【人】 美術 エノ【プロフィールが更新されました】 名前 :色芽木 虹谷 絵乃(にじや えの)性別/年齢:男/20 歳 外見:176cm 家族 構成 :母、父、兄、姉、姉、弟、妹 、妹、弟職業:大学生 1. 私は 、脳死の判定に従 い、脳死後全ての臓器を提供します。2.私は、合議の結果を踏まえ、臓器提供の意 思を 決めます。B.私は、臓器を 提供 しません。 (0) 2022/03/05(Sat) 20:12:00 |
【神】 美術 エノ「………」 紙に、しっかりと。 『エノ』と名前を書き、テーブルに乗せた。 「そんな感じだよ。」 「本当にそれだけなんだ。」 「皆、よろしくね。」 それを最後に、口を閉じた。 (G17) 2022/03/05(Sat) 20:17:40 |
エノは、でも、手の震えだけは、どうしても収まらなかった。こうすると決めた昨日から、ずっと。 (a4) 2022/03/05(Sat) 20:23:10 |
【神】 美術 エノ「うん、ハナサキさん、ありがとうね。」 「怖い事を強いてしまうのは、ごめん。」 「でも、嬉しいよ。」 もっとちゃんと話したかったね、なんて。 顔ばかりが冷静で、茜色の眼をそちらに向ける。 肺に酸素を通すように、大きく息を吸った。 鎖が首に縛りついて、上手く息ができていなかった。 これで、2/5。 (G22) 2022/03/06(Sun) 0:28:03 |
【神】 美術 エノそうして、もう一人の少女の方へ眼を向けて。 深海を覗き込むように、視線を合わせる。 「………やめてよ。」 「取り消したくなっちゃうよ。」 困ったように、小さく笑った。 それはきっと、公の場で見せた初めての笑顔で。 随分と幼げで、拠り所のない笑顔だった。 「死にたくないよ。」 「………死にたくは、無い。」 「…でも、この紙に他の名前も書きたくないんだ。」 「君ならわかってくれるはず。」 「……俺にくれてもいいよ。」 「昨日のお返しにね。」 そうしたら、3/5。 (G23) 2022/03/06(Sun) 0:34:28 |
【秘】 美術 エノ → 普通 ナツメどうにも、恋だの愛だのはよく分からなく。 幼稚園児が、好きな人を問われて仲良しな子の名を挙げるような。 そんな感覚で名を挙げている。 そういえば女子とは全然話してないな、なんて改めて思いながら。 「気になってるんだね。」 もにょもにょを切り捨てた部分だけを切り取って。 ふぅん、なんて、興味のありげな声。 青年は、人のことを聞くことが好きだ。 人を理解したいという気持ちがあるから。 「………………」 「……なんか。」 「ちょろいね。」 そして忌憚のない意見も言う。 ごく、と喉を鳴らしてジュースを飲み下し。 おかわりが欲しいな、とコップを差し出す。 「もし生きて帰ったら、会ったりするの?」 本当に遠慮のない青年であった。 (-104) 2022/03/06(Sun) 12:21:35 |
【神】 美術 エノ「取り消せないよ。」 「死は、取り消せないもんな。」 不公平でしょ、俺だけ生きたら、と。 なんだか昨日の仕返しをされてるようなやり取りに、 意外と根に持つタイプだな、なんてぼんやり思う。 「うん、ぜひ悩んで。」 「そして、同じ意見になったならいい。」 ピースみたいになる様に、やる気満々じゃん、なんて。 クラスメイトくらいの距離感の会話。 あぁ、とひとつ、声を上げ。 「同じ意見にならなくてもいいけど。」 「その時は、君と昨日した会話をここで話そうかな。」 気になる人だとかそういう、あれ。 脅し文句だ。 青年も根に持つタイプであった。 (G25) 2022/03/06(Sun) 12:29:37 |
エノは、本当はあの薬局に居た時、次はアクタに会いに行こうとしていた。 (a12) 2022/03/06(Sun) 16:46:32 |
エノは、君のくれた温もりと、安っぽいレモンティの味が好きだった。また飲ませて欲しかった。 (a13) 2022/03/06(Sun) 16:47:50 |
エノは、目を覚まして、最初に、君が候補者に選ばれてるのを知った時、ただ純粋に悲しくなった。 (a14) 2022/03/06(Sun) 16:48:58 |
エノは、もう、何もかも遅い話だ。きっと。 (a15) 2022/03/06(Sun) 16:51:26 |
【秘】 美術 エノ → 普通 ナツメさほど遠慮も忖度もない会話。 なんとも心地よいものだった。 なんとなく、自分が求めていたのは本当は。 こういうものだったのかな、と思った。 「でも、好きならいつか会うんじゃないの?」 「早めに会ってた方が楽そうなのに。」 なんていうのは、外野の意見。 青年は見た目も今とさほど変わらない。 せいぜい髪色がもう少しまともなくらいだ。 「平安京の人みたい。」 文通、で思い浮かぶイメージ。 今の時代には馴染みがないな、と思いつつ。 君の後ろ向きな理由を察することも無く。 「住所が分かればね。」 「絵葉書、送ってあげようか。」 この時は。 誰に生きて欲しいと言われることもなかったから、そんなふうに簡単に、未来を約束する。 数時間後には、青年の挙手によって破られる約束だった。 (-136) 2022/03/06(Sun) 17:03:05 |
【神】 美術 エノ「そう、馬鹿なんだよ。」 「怖いけど、こうしないといけないという気持ちばかりがある。」 カイの言葉にただ頷く。 何も返す言葉もない。 「自殺はちょっと怖くて、選ばれたら勇気が出るのかも。」 「でもさ。」 「俺が投票前に自殺しちゃったら、今回の投票は、俺以外の人を選ばなくちゃいけなくなるかもしれないでしょ。」 「それはちょっと申し訳ない。」 「だから、選ばれるまでは生きる予定だよ。」 その方が君達も嬉しいでしょう、と。 せめて、役に立とうの精神だ。 エノと言う男は、幼児をそのまま大人にしたような、 呆れるほど単純な情緒しか持っていなかった。 (G28) 2022/03/06(Sun) 19:04:09 |
【秘】 美術 エノ → 演者 アクタ合議の後、青年はまだ癒えてもいない体をひきづって、空間の端に近いところまで来ていた。 そこは海になっていて、地平線の向こうを、ぼんやり青年は眺めていた。 多分ここに来る頃には君はそれはもうヘトヘトだろう。 「…おや、アクタくん。」 声が聞こえれば、そちらを振り返って。 意外そうに目を丸くする。 「嫌われたかと思ってた。」 大丈夫?とつかれてる様子に首を傾げ。 (-188) 2022/03/06(Sun) 22:30:48 |
【秘】 美術 エノ → 普通 ナツメ青年は話を聞くにあたり嫌な顔をする事は全くなく、 むしろ興味津々と言った様子で聞く。 別にそれが色恋だから、と言うわけではなく。 例えば君が昨日見た夢の話だったり、好きな食べ物の話でも、 青年は同じくらいの姿勢で持って聞くのだろう。 なのでしっかり覚えて、悪用される。 「負担になるの?」 「相手からそう言われたの?」 本当に不躾なので、何でもかんでも聞く。 ちなみに、完全にもう恋慕しているのだなと言う認識だ。 殆ど君から目を背けないまま、時たまジュースを口に運ぶ。 柑橘の香りが仄かに部屋に漂っていた。 「絵が好きだからね。」 「あぁでも、俺名字が違うからな。」 「虹谷って名字からくるよ。」 知らない人だと思って捨てないでね、なんて、他愛もない会話。 叶わない未来の会話。 「俺にも送ってね。年賀状、同年代からは貰ったことないや。」 (-189) 2022/03/06(Sun) 22:44:18 |
【秘】 美術 エノ → 演者 アクタ青年は、肩を掴まれて。 目を丸くして、君の顔を見た。 まさか、そんな風に怒鳴られて、そんな顔をされるなんて、夢にも思ってなかったから。 力任せな抱擁は、大層体に痛みが走ったけれど。 嫌だとは思わなかった。 「………泣かないで。」 「君が泣くと、俺も悲しいよ。」 ぺた、ぺたと掌で君の頬に触れて。 涙を拭うように、動かすけれど、全然拭いきれなくて。 「………………。」 「うん、俺もだよ。」 「生きたい。」 「生きたくて、生きたくて、たまらない。」 「できれば、誰かと一緒に生きたいし。」 「それが君だったら嬉しいなって、思うよ。」 ぽつぽつと語る言葉。 あぁ、最近、ようやく情緒が追いついてきたようで。 そんな風に言われたら、自分まで頬を濡らしてしまって。 (-208) 2022/03/07(Mon) 0:45:01 |
【秘】 美術 エノ → 演者 アクタ「………でも、駄目なんだよ。」 「俺は人を殺しちゃったんだよ。」 「たとえ、ここでそれが罪に問われなくても。」 「あの中で、誰が死ぬべきかなんて、決まってるでしょ。」 「俺、他の人を選べないし。」 「ヒメノさんだけ死んだら、不公平だし。」 「……………それに。」 これは、言おうか、いわまいか迷って、合議の場では閉ざした言葉。 特に、君に聞かれたくなくて、言わなかったのだけど。 「………君も、提供候補者でしょ。」 「このままだと死ぬよ………でも。」 「提供候補者は、臓器が足りてれば、提供を免れるから。」 「だから。」 俺の分の臓器が、君の代わりになればいいと思った。 馬鹿みたいだって、ふざけるなって、思うでしょ? 一度ちゃんと話したくらいの、まだまだこれから知っていく途中だった人に、軽率に命をって、思うかもしれないね。 ……でも、君が温もりをくれたこと。 好きなものを教えてくれたこと、傍に寄り添ってくれたこと。 俺にとってそれは、とてつもなく嬉しかったことなんだよ。 だから。 (-209) 2022/03/07(Mon) 0:51:49 |
エノは、生きてほしいと願われている。 (a19) 2022/03/07(Mon) 12:19:13 |
エノは、沢山の人に、生きてほしいと願われている。 (a20) 2022/03/07(Mon) 12:19:31 |
エノは、何故、俺なんかにそんなことを言ってくれるのだろう、と思った。 (a21) 2022/03/07(Mon) 12:23:18 |
エノは、ここ数日、泣いてばかりだ。20年の分を、取り返すみたいに。 (a22) 2022/03/07(Mon) 12:23:52 |
【秘】 美術 エノ → の名残 カミクズ青年は、その通知を。 どこか、海の見える場所で見た。 「……なんだよ、そんなの。」 「俺だって、ずっと思ってたよ。」 「君に生きてほしかったんだ。」 「俺だって。」 「……俺、だって……………」 ぽた、ぽたと、砂浜に涙が溢れていく。 ずるいよ、自分ばっかり。 俺は君の事、ちゃんと見送りだしたじゃん。 君もそうしてよ。 そうして、くれないと。 「……っぅぅ………く…………」 ───せっかくの脆い決意が、揺らいじゃうよ。馬鹿。 呪いみたいな優しさに、浸されていく。 友達って、ずるいよ。 (-240) 2022/03/07(Mon) 13:03:32 |
【秘】 美術 エノ → 演者 アクタ抱きしめられた青年の体は、ずっと小さく震えてて。 小動物は、自分の鼓動で体が揺れてしまうのだと聞いた。 きっと今の自分もそうなのだろうと思う。 恐怖で張り裂けそうなくらいに叫ぶ心臓が、 死にたくないと体を揺らし続けている。 虹谷 絵乃は、恐怖に打ち震えるだけの小動物だった。 「俺は」 そんな奇跡を願っちゃいけない人間で。 だって俺、人を殺してるのに。 皆それを知ってるのに。 人殺しだって石を投げられて、当然なのに。 俺、自分の意思で彼女を殺したんだよ。 刺された場所と同じ場所を狙って撃った。 斬られた場所と同じ場所を、自分でナイフを作って斬った。 それでどうなるかなんて、分かってたのに。 理解したくて。 ただそれだけの理由で人を殺しちゃうような、 優しくされちゃいけない人間なんだよ。 なのに。 (-241) 2022/03/07(Mon) 13:17:38 |
【秘】 美術 エノ → 演者 アクタ「───くない」 「─きたい………」 「……死にたく、ないよ…………」 「生き、たいよ……………」 雨のように零れる言葉。 未来への未練、渇望、望み。 死への恐怖、後悔、怯え。 一度降り始めれば、ざぁざぁと。 音を立てて降り注ぐ。 「なんでそんな風に、言ってくれるの……」 「なんで、一緒に生きようとしてくれるの……」 「なんで」 「……なんでこんな印をつけられて、そんなことが言えるの………」 掌を、両手で手繰り寄せる。 付けられた印を、指で撫でる。 君、夢があるって言ってたじゃん。 夢を語る君の顔が、楽しそうで、素敵で。 俺、君には生きててほしいよ。 ……俺が死なないせいで、君の分の臓器が足りなかったら。 俺、死んだ後も後悔しちゃうよ。自分を許せないまま死ぬよ。 ───そんな辛い決断を、俺にさせる気なの?ねぇ…… (-244) 2022/03/07(Mon) 13:26:51 |
【秘】 美術 エノ → アイドル ヒメノ合議が終わって、すぐの頃。 青年は君の遺体がある場所を人から聞いて、 そのすぐそばまでやってきた。 VRの世界では、遺体は奇麗なままだ。 あるいは遺体はもう残っていないのかもしれないけど。 「…………ヒメノさん、俺ね。」 挨拶もなしに語りだす。 青年にとっては、独り言のようなものだ。 死人は喋らない。だからこれは、自己満足な自分語りだ。 「本当は、虹谷 絵乃っていうんだ。」 「ニジヤ製薬って、知ってる?凄いおっきい所で、多分、うちの薬くらいは何回も見たことがあるレベルの。」 「そう、その製薬会社の社長の、息子なんだ、俺。」 ぽつぽつと、語っていく。 それはあるいは、『自分が特別である』という事を誇示するような。 自慢話にしか聞こえないのかもしれない。 「特にお金とかに困る事も無くてさ。」 「欲しいものは何でも買ってもらえたし。」 「美味しいものだってたくさん食べた。」 「著名人が集まる立食パーティとかもね、家で開かれたことがある。」 (-247) 2022/03/07(Mon) 13:38:57 |
【秘】 美術 エノ → アイドル ヒメノ「なに一つの苦労もない人生だった。」 「虹谷って名前があるだけで、色んなことが許された。」 「俺さ、そんなに体格だってよくないけど。」 「変なのに絡まれたこともないんだよ。」 「ドラマみたいな誘拐事件だって、1回も経験したことない。」 「ただそれなりに、やりたい事を自由にやれる人生だった。」 自分の人生を思い返す。 嫌なことを我慢してやる、という事もなかった。 誰一人、叱ったりすることもなかったから。 したい事をして、したくないことはせずに生きてきた。 それでも、青年はそんなに破天荒な性格でもないから。 きちんと学校には行き、法も犯さずに生きてきた。 ただ家柄がいいだけの、普通の人生だった。 「……でも俺は、この名前が嫌いなんだ。」 「『虹谷』っていう、一生付きまとうこの看板が。」 「『絵乃』を覆い隠してしまいそうで。」 (-251) 2022/03/07(Mon) 13:44:53 |
【秘】 美術 エノ → アイドル ヒメノ「『虹谷』というだけで、皆が俺と距離を置く。」 「あんまり話しかけても貰えなかった。」 「話しかけられても、無理して笑顔を作ってるような」 「媚びるみたいな感じだった。」 「友達と一緒に出掛けることもなかった。」 「『万が一怪我させちゃったら怖いから』とか」 「『庶民向けのご飯屋だから貴方の口には合わないと思う』とか」 「言ってもいない言葉で遠慮されて」 この前ね、人から、コンビニで売ってるレモンティーを貰ったんだよ。 美味しいんだね、あれ。 午後のって書いてあったけど、午前中でも飲みたいくらい、なんて、笑って。 「………親も、忙しくて、あんまり家にいなかったな。」 「兄弟仲も、悪くはないけど、仲良しって程でもなかった。」 「俺が、『虹谷』じゃなかったら。」 「もっと家族の距離は近くて、友達は普通に笑ってくれて。」 「一緒に遊んで、怪我して、安いご飯をお腹いっぱい食べて、楽しい時間を過ごせるような」 「そんな、『普通』の人間になれたのかなって。」 それは、特別であることを押し付けられた贅沢な青年の、呟きだった。 (-253) 2022/03/07(Mon) 13:52:04 |
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