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シャルロッテは、食堂を見回したのち、トレイに幾らかの朝食を載せ、すぐに出て行った。 (a2) 2022/05/06(Fri) 21:16:05 |
【秘】 恋の呪い シャルロッテ → 中等部 バラニトン、トン、トン。 ノックの音がゆっくりと三度。 「――バラニ」 「私だよ」 次いで、聞こえるのは掠れた声。 (-7) 2022/05/06(Fri) 21:17:39 |
【秘】 恋の呪い シャルロッテ → 中等部 バラニ扉の向こうで立つ音に、瞬きをひとつ。 誰かがいるのは間違いない。 エルナトは食堂で見かけたから、順当に考えれば、それはバラニの筈だ。 そうして思考を巡らせている間に、室内から声が返って。 「そうだよ」 「食堂にいなかったから、朝ごはんを持ってきたの」 「開けてくれる?」 何だか妙に高い声だと思った。 酷く怯えているようだから、そう聞こえるだけかもしれないけれど。 何にせよ、受け答えから、目的の人物であることは確かだろう。 そして、こんな風に動揺しているのなら、昨日の彼とは違うということだ。 『お願い』を、聞いてもらえたのかもしれない。 (-11) 2022/05/06(Fri) 21:40:39 |
【秘】 恋の呪い シャルロッテ → 中等部 バラニ大きな声に、刹那、足が竦む。 けれど、少■は深呼吸をひとつ、それから、かぶりを振って。 「――そのお願いは、聞けない」 静かな声で、あなたの望みを一蹴する。 トレイをひっくり返さないように慎重に片手で支え、確かめるようにドアノブへ手をかける。 試しに回せば、扉は何の抵抗もなく開いた。……開いてしまった。 少■は室内へ足を踏み入れる。 後ろ手に扉を閉めて、それから。 ――錠の落ちる音がする。 「これは私が頼んだことだから」 「おはよう、バラニ」 「おかえりなさい」 (-16) 2022/05/06(Fri) 22:19:22 |
【秘】 恋の呪い シャルロッテ → 中等部 バラニ「そんな様子で言われたって、信じられないよ」 ちらと視線を向けた先、ベッドの上のあなたはミノムシのよう。 すぐに朝食を摂るのは難しかろうと、サンドイッチとあたたかなホットミルクを載せたトレイを、テーブルに置く。 「病気が治るのは、いいことだと思うけど」 「昨日のバラニは、大切なものも一緒に失くしてしまったみたいだったもん」 「だから、先生に助けてってお願いしたの」 酷いことはしないで、ともお願いしたけれど、それは聞いてもらえなかったのかもしれない。 或いは、少■のこのような行いが、酷いことだったのかもしれないけれど。 少■はあなたを振り返る。 ゆっくり、ベッドのそばへと歩を進める。 (-27) 2022/05/06(Fri) 23:23:19 |
【秘】 恋の呪い シャルロッテ → 中等部 バラニ少■はあなたの言葉を聞き入れず、歩みを止めることはない。 すぐそばまでやって来れば、ベッドの端へ腰を下ろして、あなたを見つめる。 不幸中の幸いか、布団を引き剥がすつもりはないらしい。 ただ、そう——ずっとずっと怯えたままだから、少しでも安心させてあげたいな、と思う。 けれど、近付かれることを恐れているようだし、それを聞くのは嫌だし。困ったな。 「こんな姿って?」 「だいじょうぶだよ、私はバラニのことがだいすき」 だから、どうにか会話を試みるしかない。 掠れた声が穏やかに、愛を紡ぐ。 (-44) 2022/05/07(Sat) 0:27:26 |
【秘】 恋の呪い シャルロッテ → 中等部 バラニ瞳にいっぱいに涙を溜めているのを見ると、拭ってあげたくなるのだけれど。抱きしめたくなるのだけれど。 今はきっと、触れようとするのは逆効果だろうな。 少■は膝の上で、手持ち無沙汰な指先をもごもごと絡ませている。 「……だいすきだから知られたくないこと」 少■はあなたから目を逸らさない。 「実はね、私にもあるよ」 「だいすきだから知られるのが怖くて、知られたら嫌われてしまうかもしれなくて。 それでも、いつか言わなきゃいけないこと」 「……バラニは、隠したい秘密を知られたら、どうなると思う? 知られることの、その結果訪れることの何を怖がってるんだろう」 それは、上級生のお姉さんが少■に言ったことの繰り返し。 秘密を知られてどうなるかは、知られるまでわからない。 もしかすると、思ったほどに恐ろしいことでは、ないのかもしれない。 (-73) 2022/05/07(Sat) 7:05:58 |
【秘】 恋の呪い シャルロッテ → 哀れな子羊 バラニ「……ねえ、それって、もう絶対にだめなのかな。 あんな、すべての情動を削ぎ落してしまうみたいな方法でしか、どうにもできないの?」 「一昨日話したみたいに、これからうんと勉強して、遊んで、強い勇気を持つ、そういう時間のかかる方法では、だめだと思った?」 ゆら、ゆら。濡れて揺らめくあなたの視線は、少しこちらを見たかと思えば、すぐに逸らされてしまう。 それでも少■は、ただじっと、あなたを見ている。 見ていたから。 ああ――やっぱりだめだ。 ぽた、ぽた。 光の雫が落ちるのを見て、少■はあなたに手を伸ばしてしまった。 これ以上、怯えさせることのないようにと、膝に置いていた手を。 その涙を掬うように、あなたの頬へ。 ▼ (-94) 2022/05/07(Sat) 20:24:31 |
【秘】 恋の呪い シャルロッテ → 哀れな子羊 バラニ「……あのね」 「私、いつも支えてくれて、勇気をくれるバラニがだいすき」 「でも、こんな風に怖いことが起きて、バラニだって不安なんだって思った」 「だから、守ってもらうばかりじゃなくて、私もバラニのことを支えられたらいいのにって思ったの」 「いつもかっこいい姿を見せてくれてありがとう」 「これからは、そうじゃないところも見せてくれたら、きっと、もっとうれしい」 「たぶん、弱いことが悪いんじゃない。 不安になっても、泣いてしまっても、また立ち上がれるなら、それは立派なことだよ」 「もしも一人で立てなくなっちゃったら、私が手を握ってあげる。 ……頼りないかな?」 ――たとえ手を振り払われたとしても。 少■は夢見るようにやわらかに微笑むだろう。 あなたを繋ぎ留めようとするこの感情は、きっと、やっぱり、恋なのだ。 (-95) 2022/05/07(Sat) 20:25:48 |
【秘】 恋の呪い シャルロッテ → 哀れな子羊 バラニすり、すり。白い指先があなたの頬を撫で、こぼれる涙を丁寧に拭う。 手を振り払わずにいてくれることがうれしかった。 もしかすると、そんな気力もないだけかもしれないけれど。 「――ねえ、それじゃあ、今から私と、別の方法を試していこう」 ひとりのあなたが挫けてしまったのなら。 ふたりの私たちで、何かを変えられるかもしれないから。 ぐっと身を寄せて、あなたの額に口付けをひとつ。 それは、おまじないのような。 或いは、最後のお別れのような。 すぐに離れて、少■は一度、立ち上がる。 「――もしも、私の秘密を知っても。 バラニがまだ、私のことを好きでいてくれたらだけど」 ▼ (-109) 2022/05/07(Sat) 23:36:20 |
【秘】 恋の呪い シャルロッテ → 哀れな子羊 バラニ嫌われてしまうかもしれないと思うと、今も怖い。 けれど、知らないところで他の誰かに壊されてしまうより、自分できちんと話をしておしまいになる方が、ずっといい。 少■は躊躇いなく、ふわりと揺れるジャンパースカートのファスナーを下ろした。 ――床へ落とせば、ごとりと固い音がする。 次にリボンタイをゆるめて、ブラウスのボタンを外してゆく。 ――最初に見えるのは、目立ち始めた喉頭。 露わになるのは白皙の肌。 薄く華奢な、少年のからだ。 「バラニが好きになってくれた『女の子』は、いないの」 「ずっと黙ってて、ごめんね」 ――脱ぎ捨てられたジャンパースカートのポケットからは、 鈍く輝く鋏が飛び出している。 ――いらないところを切り落としたら、まだ、好きでいてもらえるだろうか。 などと、そんな絵空事を少しだけ、考えていた。 (-110) 2022/05/07(Sat) 23:37:34 |
【秘】 恋の呪い シャルロッテ → 中等部 バラニだって、見た方がわかりやすい。 少年は自分が男性であることをずっと、わかっていた。 心が違っているかと言えばそうでもなくて、自身の性別に違和感を抱いたことはない。 「『シャルロッテ』は、お母さんの名前だったんだって」 「私を生んで、死んじゃったお母さん」 「私が殺したお母さん」 「だから、代わりにならなくちゃって、思って」 お父さんの最愛の人を奪ってしまったのだから、埋め合わせて償わなければならないと、ただずっと、そう思っていた。 少年は『お母さん』にならなければならなくて、けれど、それは『女の子』になりたいと思うのとは違う。違ったはずだ。 「……嫌いになった?」 「うそつきって思った?」 ——あなたの隣にいられるのはどちらか、と考えるまでは。 ▼ (-146) 2022/05/08(Sun) 10:40:35 |
【秘】 恋の呪い シャルロッテ → 中等部 バラニぎ——と、ベッドの軋む音がする。 ベッドの端に膝をつき、手をつき、少年はあなたの顔を覗き込む。 あなたの恋した少女のかんばせ。 あなたの知らない少年のからだ。 掠れた声は歌のせいではない。 ただ、自然に迎えた変声期の途上にあるだけ。 治まれば、ソプラノの声は永久に喪われる。 これから身長だってきっと、伸びてゆく。 『少女』の寿命はもう、幾許もない。 「——バラニ」 苦しいな。 『シャルロッテ』をやめて、『お母さん』になることをやめて、あなたのそばにいられたらいいのに。 『少女』でなくなれば、やっぱりそれも叶わないのかもしれない。 (-147) 2022/05/08(Sun) 10:41:19 |
【秘】 夢の終わり シャルロッテ → 哀れな子羊 バラニ「——————」 あなたが目を逸らすから、何もかも終わってしまったのだとすぐにわかった。 伝えてみるまでわからないというのはただの希望的観測で、やっぱり、蓋を開けてみれば、こんな風に。 あなたは何に謝罪しているのだろう。 もしかしたらと有りもしない期待に縋ってしまったのは、少年が浅はかだったから。 それでも瞬きの拍子に一粒、色のない雫が頬を滑り落ちていった。 いつかおしまいになってしまうことを知っていて、自分でおしまいの瞬間を選んで、それなのに。 酷く胸が痛かった。息が苦しかった。 幽鬼の如くふらりと、少年は立ち上がる。 ——ブーツの踵が、床に転がる鋏を蹴った。 ▼ (-172) 2022/05/08(Sun) 18:41:52 |
【秘】 夢の終わり シャルロッテ → 哀れな子羊 バラニ「……ううん、いいの」 「こうなることは、最初からわかってたんだから」 今更もう、何もかも遅いけれど。 少年は自らを受け入れられなくなってしまった。 「それでも、だいすきだよ」 ▼ (-173) 2022/05/08(Sun) 18:42:27 |
【秘】 夢の終わり シャルロッテ → 哀れな子羊 バラニ少年は震える指先で鋏を拾い上げる。 それは酷く冷たくて、重くて。 ————しゃき。しゃきん。 じょき。 白いドロワーズを裂く。 それから。 それから。 それから。 皮膚を裂く音。肉を断つ音。 ぼたぼたと赤い液体が滴る。 上手く切れない。鋏ではだめかもしれない。 ふらついた足音。錠を上げる音。扉の開く音。閉まる音。 この部屋にはもう、あなたしかいない。 机の上のホットミルクは、冷めてしまった。 (-174) 2022/05/08(Sun) 18:43:25 |
シャルロッテは、廊下に赤い線を引き、当て所なく歩く。 (a40) 2022/05/08(Sun) 18:45:54 |
シャルロッテは、そのうちに、医務室へと運ばれるだろう。 (a41) 2022/05/08(Sun) 18:46:11 |
【秘】 どこにもいない シャルロッテ → 少年の勇気 バラニこんなからだは必要ないと思った。 要らないところを切り落として、喉を潰して、そうすればもう少しぐらいは、みんなの望む姿でいられるかもしれないと思った。 だから。 大きな声に驚いて、刹那、身が竦む。 震える手に握られた鋏は、簡単に落ちてゆく。 ――かしゃん。 金属が床を叩く音。 真っ赤な夢の終わりは、やってこない。 ▼ (-213) 2022/05/08(Sun) 20:54:44 |
【秘】 どこにもいない シャルロッテ → 少年の勇気 バラニ「だって、」 赤い瞳から、ほろほろと涙が落ちてゆく。 「いらないんだもん」 「『女の子』の『シャルロッテ』じゃないと」 なんだかひどくちいさくなってしまったあなたのからだを。 なんだかひどくやわらかさを感じるあなたのからだを。 縋るように抱きしめて、潰れた声を絞り出して泣いた。 (-215) 2022/05/08(Sun) 20:55:10 |
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