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![]() | 【秘】 花信風 トット → 高等部 ラピス手渡されたメモを、首を傾げて受け取る。 黒板にも書かない内緒話である事は察しているけれど、いつもよりぎこちないな、なんて思って。 ──メモの内容を目で追えば、「ぇ」と声を漏らした。 しばらくそのメモを黙って 何度も、何度も読んで。 やっと上げた顔は、……青ざめている。 「ラ」「ラピ ス」 「おれ」 「お れの ばんなの ?」 掠れた声で 決まり切った事を問う。 (-146) 2022/05/06(Fri) 0:12:58 |
![]() | 【秘】 花信風 トット → 高等部 ラピス決まってしまったこと。 その言葉に大きな瞳を揺らして、薄く開いた口から「ぅ」「ぁ」と意味の無い音が漏れる。 「だっ て」「や」 「うん、うん わかっ た 」「おれがいけばいーなら そ、やっ て」 何度も、何度も何度も、自分を納得させるように頷いて。 ここで拒めば迷惑になってしまうから、自分が素直にならなければならないと。 素直にならなければいけないんだけれど。 ──ぐしゃりと、花飾りを掴むように頭を抱える。 「お、おれ」「はっ、」 「 おれたち が」「さけなくなる」 「さけなくなっちゃう」「はな」「が」 ……浅くなっていく呼吸の合間、とぎれとぎれに。 困らせちゃだめなのに、大丈夫なのに、 巡る血がそれは駄目だと頭を揺らす。 「わ わ、かった わかったよ んふ ありがとラピス」 「あは あの いつでもついてく 、 からさ」 (-155) 2022/05/06(Fri) 0:48:00 |
![]() | 【秘】 花信風 トット → 高等部 ラピス「ん」 「んう うん うん……」 息を整えて、整えて。 無理はしなくて大丈夫という言葉がありがたくて。 ──頭から手を離す。ぶらりと降ろした腕の包帯は、朝食の後にまた新しくなっていた。 「……いっしょにのんでくれるの?」 「おれ ラピスといっしょにおちゃのみたい……」 歩み寄って、あなたの袖を引く。 (-186) 2022/05/06(Fri) 11:42:09 |
![]() | 【秘】 花信風 トット → 司書 エルナト「えらくないよ。だめっていわれてるの」 「でも……がまんできないから それだけ」 いつもは褒められれば素直に喜ぶのに、それだけは違うとハッキリ言った。 自分の身のためにはならないことだから。 自分の身の事は、二の次にしてしまうから。 「でもこーやって、やくにたてるなら、とてもうれしい」 「おれねー おれのはなつかってくれるひとがすき」 こくりと頷いて、窓の内側まで寄って。 腕の包帯を解けば──夥しい数の 傷跡 がそこにあった。ポケットから鞘の付いたナイフを取り出して、刃を鞘から抜いて。 深呼吸して……腕へ振り下ろす。 血は 噴き出さずに。 「う」 「 ぐ 、ふ ぁ……っ、あ」「は」紅はみるみる間に芽吹き、咲かせ。 傷口から花開くのは、デイジーやアスター、ゼラニウム。 「い、ッ……あ、ぁ えへ へ も……ちょっと」「だけ、ぅ」 ▽ (-219) 2022/05/06(Fri) 18:57:47 |
![]() | 【秘】 花信風 トット → 司書 エルナト自然じゃ見られない速度で育っていく花々はトットの腕を彩り、その分だけトットの身体はびくりと震えた。 かく、と膝に力が入らなくなった。そのまま座り込む。 「んぁ、ふ、ッ、あは、は、…………っあ"、」 ブチリ。 ──勢いに任せて花を引き抜いた。 引き千切ったと言ったほうが正しいかもしれない。 「……………………、おわ、おわり」 「えへ、へ……あは、こ、こんなかんじ」 「さいたよ」 肩で息をしながら、涙の滲む上気した顔で貴方を見上げて花を差し出した。 腕に血はもう流れていなかった。花が咲けばすぐに塞がるようだ。 (-222) 2022/05/06(Fri) 19:00:59 |
![]() | 【秘】 花信風 トット → 高等部 ラピス手を繋いで先導するあなたの後ろで、鼻をすする音が聞こえたかもしれない。 調理実習室に入れば、素直に座って。 ふつふつとミルクが鍋にかけられて泡が浮かぶのを、ぼうっとした顔で見ていた。 一つ一つの手順を、緩慢に目で追って。 小瓶を見れば。 「……………………」 「うん。おれ、ねむりたい」 「そのほうがいい」 頷いた。 「……しあわせなゆめ みてたほうが」 「おれは こころのじゅんび できるから……」 (-223) 2022/05/06(Fri) 19:14:41 |
トットは、自分の部屋の鍵を掛け忘れたなぁ、とぼんやり思い出した。 (a28) 2022/05/06(Fri) 19:15:05 |
![]() | 【秘】 花信風 トット → 高等部 ラピス「ありがと」 ティーカップを貰えば、少し微笑んだ。 倣うように両手で持ち上げて、ふう、と息を吹きかける。 空気の揺らぎと小さな波に混じって、花の香りがした。 瞬きをして、そのまま一口。 甘い。 ……もう、後戻りもできない。 コク、コク、とまた飲んで、ほうと吐き出す息さえ温かい。 ……少し思考がぼやけてきた。眠る前に、と。 「ラピス」 「おれ、たぶん……だめになっちゃうとおもう」 「なおったら」 「 おれたちさかなくなったらつかわれなくなっちゃう 」「それがこわいの」 ゆっくり、まばたき。それから、もう一口。 「ラピスは」 「 さかないはなをゆるせる? 」 (-235) 2022/05/06(Fri) 19:59:49 |
![]() | 【秘】 花信風 トット → 司書 エルナト気持ちいいのかと問われれば、「ん"う」と唸る。 いつも図星を突かれた時に出す声だった。 「いうな……」 恨めしげな目、恨めしげな声。恥ずかしいというのは、これが原因らしく。 確かに、花が育つ時のトットの様子は正に"そう"であるようだった。 熱い息に、潤んだ目。跳ねる肩に蕩けた声。 年齢に相応しくないとも言えるその様子は、過ぎた感覚をトットに与えている証左でもあった。 だから、痛くはなかった。 「んふ」「き、もちい……よ」 「だいじょぶ」「あは」 一度は自分から不服とした事実を、簡単に認めた。 掬われた涙が、咲いた色とりどりの花が貴方の口に運ばれるのを、どこか恍惚としながら眺めて。 ▽ (-239) 2022/05/06(Fri) 20:15:18 |
![]() | 【秘】 花信風 トット → 司書 エルナト美味しい、と。 その言葉で、なにか どこか 今までにないくらい、色んな気持ちが溢れた。 「おいしい」「あは」 「ふ、んふ あはは えへ ああ……」 「おれおいしいっ?おれたちのことたべてくれるのっ?」 「つかってくれる?おれやくにたつ?」 「うれしい」「うれしい!」「おれたち、もっとさきたい」 ……ゆっくり立ち上がる。足が震えるのは、痛いからではなくて。 体に力が入らないから。ぬるま湯に浮いているような感覚だ。 多幸感。 年相応にはしゃぐ姿は、けれどいつもよりどこかおかしい。 「おれ〜 あは とってくるねぇ」 「もっとあげる んふふ」 言うやいなや、ふらりと図書室を出ようとした。 まるで褒められた犬のよう。……無抵抗に、無邪気に、盲目に。トットは 喜んでいる。 (-243) 2022/05/06(Fri) 20:29:58 |
![]() | 【秘】 花信風 トット → 高等部 ラピス「…………、……ふふ」 蕩けていく思考の中。狭くなった視界であなたの文字をなぞって。 「よかったぁ」 「じゃあ、 おれ さけなくなっても」 「まだ さけてても」 「いーんだ」 遠のく意識の中、置いたカップは もう空だ。 「ありがと」 「……らぴす」「これ」 座っていられなくなって、机に伏せた。 おもむろに頭に──花飾りに手を伸ばして、 ぷちり、と 音がした。 「……じつは これも」 「おれ のはな……ヘヘ」 「あげる」 あなたのカップの横に、そっと置いて。 そのままふと、意識を手放した。 幸せそうな顔で寝息を立てている。 (-248) 2022/05/06(Fri) 20:39:40 |
![]() | 【置】 花信風 トットトットの部屋は、トットが一人で使っていた。 寂しがりやのトットが自分から「一人部屋が良い」と申し出た時は、周りから驚かれた事を覚えている。 トットの部屋にはトットしかいなかったから、閉め忘れた部屋の鍵を掛ける人も居ない。 薄く開いた部屋の扉の隙間から、ひとひら。 それから、開けたままの窓から吹き抜けた風が扉を押して。 花を、 花を、 花を、 花を、 花を、 ゜花を、 花を、 *。 花を。 廊下へと散りばめるように、花を溢した。 部屋の中は行き場のない花に溢れている。 ベッドに、棚に、机に、床に。 遅すぎる花信風が吹く部屋に、今夜トットは帰らない。 (L8) 2022/05/06(Fri) 20:51:47 公開: 2022/05/06(Fri) 20:55:00 |
![]() | 【秘】 はなわずらいの トット → 司書 エルナト「ゎ」 体を支えられて、ハッとしたようにそちらを見る。 少しだけ元に戻ったような様子は、あなたの恍惚とした顔に、耳に残った蜂蜜のような声に、また溶かされて。 「……ん〜ん」「だいじょぶ!」 今度はさっきより確かな歩みで。 「おれ ほんとにうれしいから」「おれいにあげる」 「あは」 風に乗るように、ひらりと開けた扉の隙間からすり抜けた。 ……それから、トットが戻ってくる事はなかった。 少なくとも、今日は。 (-252) 2022/05/06(Fri) 20:59:24 |
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