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【人】 環 由人[ 秋の夜は、思っていたよりも寒い。 さっきまで火照っていた体が、 風にさらわれて熱ごと奪われていく。 徐々に頭がはっきりしていく。] バっ…カだなぁ…… [ どうせさらわれて消えるから、 小さな声で呟いて、自嘲するみたいな 笑みを浮かべた。 なにも持たずに飛び出したから、 コンビニには行けなくて、ぼんやりと 歩いていたら辿り着いたのは、 あの日彼を見つけた公園だった。] (114) 2020/09/13(Sun) 19:16:41 |
【人】 環 由人[ 外灯が照らす砂利がぼんやり、 浮かび上がるみたい。 なんとなくそちらに足を向けて─── あの日と同じブランコに腰かけたら、 鎖がまた、ぎぃ、と小さく音を立てた。 あの距離感が必要だったんじゃないのか。 ただ、一緒に飯を食って、 隣で眠るだけの関係でよかったんだろ。 それ以上を求めるつもりなんてなくて、 ───ちがう、結局自分本位なんだ。 一度知ってしまった熱をまた 求めてしまいそうになるのが怖い。 期限が、すぐそこまで迫ってるのに、 今更関係を変えてしまうのが怖い。] (115) 2020/09/13(Sun) 19:17:08 |
【人】 環 由人[ ───離れたくないだとか、 ここにいてくれだとか、 そんなことを言える立場じゃない。 救われたのは───俺だったから。 結局コンビニには寄らずに、 しばらくぼんやりしたあと、 夜風の冷たさに震えが走ったから 自宅に帰った。 リビングにある背中に、唇を結ぶ。 声をかけてはいけない、きっと。 ごめんって声をかけそうになったから、 飲み込んだ。その意味を悟られることは きっとないのだろうから。] (116) 2020/09/13(Sun) 19:17:35 |
【人】 環 由人[ ひとりぼっちでベッドに入った夜は、 やっぱり思った通り、寝られなかった。 朝起きたら寝不足で気分は悪いし、 なんだか頭は痛いし───散々で。 それでも店は開けなきゃいけないし、 接客もしなければいけない。 おばさま方には「顔色悪いわよ」と 言われてしまったけれど笑って誤魔化した。 それからも、ずっとWいつも通りWだ。 相変わらず美味いとはいわない男に 余り物の処理を手伝わせて。 あの日のことには触れないまま。 ただ一つ変わったのは、あの日からずっと、 狭いベッドの右側をあけたままひとり、 丸まって眠るようになったことだけ。] (117) 2020/09/13(Sun) 19:18:14 |
【人】 環 由人[ 季節が変わっていく。 白菜と鳥もも肉とジャガイモのクリーム煮 ベビーほたてのしょうゆ炊き込みご飯 鮭のちゃんちゃん焼き 大根とえのきの肉巻き照り焼き とうふのあんかけそぼろ かぶと鶏団子のとろとろ中華スープ ごぼうとにんじんのサラダ ピリ辛ネギチャーチュー レンコン入りしゃきしゃきつくね ほかほかあったかい料理に変わる 惣菜のラインナップとは裏腹に、 どこかぎこちなくなってしまったけれど、 それでも旅行は楽しみだった。 ───いつあの茶封筒の話を 切り出されるのだろうかと、 半ば生殺しのような気持ちは 拭えないままだが。] (118) 2020/09/13(Sun) 19:18:41 |
【人】 環 由人[ 海外用のでかいスーツケースは さすがに邪魔だなと思ったから、 小さなボストンバッグに詰めた、 いつもの服や下着。 チケット類は忘れないように 手持ちの鞄に詰めた。 出発前夜。 またいつもと同じほうじ茶をいれる。 なんとなく、本を読むのはやめて、 彼が食べている様子を見ていた。 別に意味はない。ただ、見たかっただけ。 だから、なにを聞かれたって「別に」と しか答えることはしないだろう。 空になった器を片して、 今日もまた、あのベッドの左側で眠る。] (119) 2020/09/13(Sun) 19:19:24 |
【秘】 環 由人 → マリィ[ ただひとつ違うのは───] おやすみ、 ───明日、楽しみ、だな [ ほんのすこし眉を下げて 笑ったことくらいだろう。] (-47) 2020/09/13(Sun) 19:19:52 |
【人】 環 由人* [ 新千歳空港までは1時間30分。 最大で350トンにもなるという 人と貨物を乗せた金属の塊は、 白い雲を抜け、青い空を横切って 北の大地に降り立った。 光の差し込む近未来的な建物に、 「おお」と小さく声を漏らして。 予約していたレンタカーを借りに 受付のカウンターまで向かう。 借りるのはブルーのエコカー。 陽の光をうけてきらりと光った車体に、 荷物を詰め込んで、運転席のドアを開いた。 体を滑り込ませて、扉を閉め、 シートベルトをして、エンジンをかけた。 ナビを操作する。] (120) 2020/09/13(Sun) 19:20:11 |
【人】 環 由人───チーズ食いにいかない? [ そう提案するのは、ガイドブックの 付箋の一つ、富良野のチーズ工房。 ピザが美味いというその場所に いくのはどうかと。]* (121) 2020/09/13(Sun) 19:20:25 |
【秘】 マリィ → 環 由人[そうして寝る前に 久しぶりに声をかけてもらったなら] ─────楽しみで眠れない、なんて こどもみたいなこと言わないでよね。 [そう微笑み返して、ソファーの上で丸まるの。] (-56) 2020/09/14(Mon) 11:41:02 |
【人】 環 由人[ その地に降り立った瞬間響き渡った となりの男の野太い声に、 眉根を寄せて、それから ふは、と噴き出して笑った。 「声がでけえ」と呟いて、さっさと 受付の方へと向かってしまおうか。 伸ばされた手が繋がれる。 ───こんなふうに誰かと外で手を繋いで 歩いたことなんて、一度たりとも なかったのに、気恥ずかしくも嬉しくて、 振り解いたりはせずそのまま繋いでいた。 外に出ると刺すような寒さが 体を覆うから、思わず小さく 「さむ」と呟いた。 借りた車に体を滑り込ませれば、 温められた車内に、ため息が溢れた。] (160) 2020/09/14(Mon) 13:06:59 |
【人】 環 由人[ このまま二人、乗っていたらきっと 外気との温度差にそのうち車窓は 結露して、曇るんだろう。 提案が受け入れられればほんのり微笑んで ナビに場所を入力する。 ブレーキを踏んで、サイドブレーキを外し、 ギアをドライブに入れれば、 スタッドレスのタイヤを履いた青い車体は 広い大地に敷かれたアスファルトへと 滑り出していくのだった。] (161) 2020/09/14(Mon) 13:07:15 |
【人】 環 由人 ───チーズ工房 [ 銀世界の中にたたずむ建物は、 実際に見ると、男二人でくるには かわいらしすぎるなと思った。 大きな牛のオブジェを横目に、 説明を一通り聞き終われば、 悪戯っぽくされたおねだりに、 眉尻を下げて、困ったように笑った。] ピザは作ったことないな [ くるくる生地を回すイメージはある。 ただそれが自分にできるとは思えない。 絶対プロが作った方がうまいだろ、と 思ってしまうから断ろうとしたのに。 そんなことを言われたら、 うまくいえないじゃないか。] (162) 2020/09/14(Mon) 13:07:45 |
【人】 環 由人[ 「いつも食ってるだろ」と言いそうに なった唇をそっとつぐんで、代わりに] わぁかったよ [ と了承して、申し込んだ。 メニューは3種類あるらしいが、 スタンダードにマルゲリータを選ぶ。 通された工房で教えてもらいながら 作るピッツァは案外たのしくて。 残念ながら回すのは全く出来なかったが、 麺棒で伸ばした生地がうまく 均等になったときは誇らしくもさえあった。 窯から銀が色の大きなヘラで 網ごと取り出されたときは、 思わず「おお」と声を上げたものだ。 香ばしい小麦の匂いと、トマト、バジル、 チーズのいい香りが混ざって、食欲をそそる。 もう一つ、特製のチーズが5種類 乗っているというピッツァも注文して、 席に着いた。] (163) 2020/09/14(Mon) 13:08:17 |
【人】 環 由人[ 大きめに切られた熱々のピッツァを 一切れ皿に移して、そのまま持ち上げて 口に入れると、まずは生地のざらつきと ほんのりとした甘さが広がる。 かぶり付くと、トマトの酸味とバジルの香り、 そしてチーズの旨味がまざって、 香ばしさが鼻から抜けた。] はふ、 あっふぃ、けど、んま、 [ 噛んだまま離すとびよーん、とチーズが伸びる。 はふはふ空気を取り込みながら、咀嚼して 飲み込むと、ふ、と息が漏れた。] (164) 2020/09/14(Mon) 13:08:42 |
【人】 環 由人焼きたて、うンまい [ そうしてもうひとくち、運ぶ。 プロが作ったものとは違うし、 きっとプロが作った方が美味いのだろうけど 自分で作ったものは愛着もわくし、 どこか特別な気がした。 ジンジャーエールがしゅわしゅわと 喉を潤してくれる。 一通り楽しんで、お土産にチーズを 自宅に送ってしまえば、 夜にでも食おう、とワインチェダーチーズを 一箱買って、車に乗り込んだ。] (165) 2020/09/14(Mon) 13:09:00 |
【人】 環 由人[ 次に向かうのは小樽。] わりと離れてるし寝てていいよ [ と断りを入れて、ナビに入れた、 芸術村までの道のりを走り始めた。]* (166) 2020/09/14(Mon) 13:09:18 |
【独】 環 由人/* 富良野いく予定にしてなかったのにわたしがチーズ工房行きたくてつい入れてしまったので全日程をずらすはめになる 北海道は広いね (-57) 2020/09/14(Mon) 13:10:08 |
【人】 環 由人なにそれ、バター? [ ピッツァを食べ終わった後、 店員さんに渡されたココットを受け取る 彼の手元をそっと覗き込む。 いつも見るものよりも空気を含んで すこし白い気のするそれと、 彼の顔を交互にみて。] 作ったの? [ と尋ねた。 是が返って来れば、「すげえ」と 小さく落として、口元を緩めた。 どこかでパンでも買うか、そういえば ここにも確か売っていたはず…と 思ったのだけれど、クール便の中に 入れるから、目を眇めてから頷いた。 「帰ってからの楽しみ、増えたな」と わらって、その蓋が閉じられるのを見ていた。] (181) 2020/09/14(Mon) 19:15:23 |
【赤】 環 由人[ ひとに何か作ってもらうって いつぶりだったんだろう。 まだ口に入れてないし、 ココットの中身はきちんと成形されてもいない、 不格好なただの白い塊だったけど、 それでもそれが、たまらなく嬉しかった。] (*8) 2020/09/14(Mon) 19:15:40 |
【人】 環 由人[ 次の場所へと向かうまで、 寝てていいよ、と気遣ったつもりなのに、 あっさりと断られて、「それより」と 切り出された話に耳を傾けた。 失礼なあだ名をつけられたといいながらも その表情と声色に滲むのは喜びで。 相槌を打ちながら、なんとなく、 自分まで嬉しくなってしまう。 伝染したのかもしれない。 マリィは子供に好かれると思ってた。 どう接していいかわからない、という 気持ちは己にもわかるけれど、 わからないなりにどうするか、という点で きっと彼と自分ではかなり差が出るだろう。] (182) 2020/09/14(Mon) 19:15:54 |
【人】 環 由人あんたは、面倒見いいから [ まっすぐ前を向いたまま、思い返す。 カウンターの向こう側に立って、 いつも誰かの癒しになっている人。] 楽しかったならよかった、 俺も結構楽しかったよ [ 本音を曝け出すこともできずに、 笑い飛ばそうとしてしまう不器用さ。 夜の公園でぼんやり、ひとりで 悩んでしまうような繊細さも、知ってる。] (183) 2020/09/14(Mon) 19:16:17 |
【人】 環 由人[ だけど家族の話も彼としたことはない。 さすがに、己の実家に住んでいるのだから 己の両親については話しているが、 そう思えば彼についてはなにも 知らないんだな、と思った。 ───あの、茶封筒の話も、結局。 だがそんなことを考えているとは 一切顔に出さないまま、車は走る。] (184) 2020/09/14(Mon) 19:16:33 |
【人】 環 由人[ ちなみに、家族にいいところを見せたい パパたちに混ざって真剣にピッツァを 作っている間そう広くない建物の中に 響き渡った声は、はっきりと、 とはいかずとも届いた。 間違いなく、ドスの効いたそれは 彼の声だったから、思わず ふは、と笑って、そのままくつくつ 肩を震わせて、ツボに入ってしまって 隣にいた参加者のひとに、 「どうしたんですか?」と困惑した 視線を向けられてしまった、 なんて話も続けてしてしまおうか。] (185) 2020/09/14(Mon) 19:17:06 |
【人】 環 由人[ 白銀をひた走る車体。 広くまっすぐな道のりは車通りも少ない。 この寒さだ、人もほとんどいない。 ときどき、前方にも後方にも車が見えず、 対向車も一台も通らない時間がある。 そんなとき、ふと考えるのだ。 もしも、今時が止まったら。 もしも、世界が二人だけなら。 こんな曖昧に乱れた思考は放棄して 今考えてることや感じてること、 曖昧にして気づかないようにしようと していることもすべて、吐き出して しまえたらいいのに、と。] (186) 2020/09/14(Mon) 19:17:38 |
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