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【秘】 花で語るは ソニー → 無風 マウロ嫌がるような素振りが無かったことに、安堵したように肩の力が抜けた。それも半分くらいは演技だ。 まるでそれこそ、見た目通りのハイティーンの子供みたいな素振りだ。あどけなく、辿々しく。 見上げる表情さえ稚気を残して見える、これから相手を引き込もうとしているのはもう少し色情的なものなのに。 嫌じゃない、と目線で問いかけて、もう少しだけ唇が触れ合った。伸ばした片手は相手の顔を引き寄せた。 もう片方の手で、迷うような手を指を組み合わせるように引き受ける。大したことでもないと言うように。 一歩踏み出して相手との距離をピッタリと寄せる。街路からの光は一層に届かなくなってしまった。 浅く触れ合わせた粘膜は段々と噛み合わせを大きくして、水音が大きくなる。誘うように舌先が唇をつついた。 じ、と見上げる瞳の色が交差する。 「そう、……少し堅い感じする。もうちょっと力抜いたほうが、気持ちいいよ」 瞳は逸らさず、触れ合う唇は離れないまま、時折、鼻筋や顎をすりあわせて。 口元に意識を集中させるようにしながら、相手の手を巻き込んだ手は腰の方に。 ぼんやりと熱のこもったままの手は、相手の裾をたくし上げて指を這わせていく。 アルコールで感覚の平時と違う肌に、するりとやけにくすぐったように指の腹を添える。 触れ合う面積が増えるごとに、体に逃れようのない感覚が溜まっていくように。 (-289) 2022/08/22(Mon) 19:57:12 |
【秘】 花で語るは ソニー → 鳥葬 コルヴォ「オレも知ってる場所かな。マスターと話が出来なくって困ってたんだ。 あの人は"誰にも"優しかったからさ。そういうところが招いた結果なのかな、って思わなくもない」 それだって、聞く人間に聞かれたならばすぐに悟られてしまうような言葉だ。 危ういことをしているとも思えるだろうけど、自分だけが安全圏のまま探れる物言いなんてのものない。 コレを訝しんだ時点で、相手の立ち位置が何かというのは知れるものだ。 ――それでも。普段であればきっと慎重にやってきたからにこそ、この歳でこの立ち位置だろうに。 結局のところ、焦燥に追われて足並みを乱しているのは、変わりないのかもしれない。 「……四年も前の話に、どうして無関係なアンタがこだわるんだろ。 せいぜいアンタがその頃にもココに出入りしてたって、ティーンエイジャーくらいだろ? 知ってる話なわけないじゃない、さ」 そんなつもりでは無かったか、或いはそれも鎌掛けの一部だったのだろうか? 僅かばかり表情に、市井の人間らしからぬ歪みが滲む。嘲弄めいた、平時には必要のない貌だ。 それさえすぐに疲弊に代わる、憔悴が打ち寄せる。 提案を受け取ったならば、そう。多少張り詰めたものを打ち破るように口端を緩めた。 両手を挙げるのだって一歩間合いから離れて、己の無害さを保証してから。 「わかったよ、それまで待っててくれる? 約束しておいて来もしないなんてのはナシにして欲しいね。 ああ、でも。……否定してくれれば、こんなふうに。 」牽制し合うような言い回しなんて、しなくて済んだのにね 踵を返しざまに力なく笑って、吐息に混じるように零した言葉なんて貴方は聞きやしないだろう。 もう少しばかり耳を傾けてくれる人間だったなら、いざ知らず。けれどもう、どうすることもできない。 相手にとっては不明瞭で無関係だろう目的だけを抱えて、その日は港を後にした。 手渡した花束には何も罪もなければ、仕掛けもない。誰かに手向けるのに、過不足は無い筈だ。 → (-317) 2022/08/22(Mon) 22:24:41 |
【秘】 花で語るは ソニー → 鳥葬 コルヴォ――……そうして、次の日の夜。 埠頭は夕暮れ時の栄えも逃して、いっそうに静かになっていた。 波の音が祭りの音さえ呑んでしまうのだろうか。あれだけの騒ぎが、ずいぶん遠くに感じられる。 このときのための蓄えだってあるのか国民性か、相変わらずどこまでも暗くて先も見えない。 いつか、かれらが活発であった時であったなら、夜闇に紛れて取引が行われていただろうに。 月の光に照った人の影の揺らぎさえ、今はなんにも。 現れた男は、表情の演技にさえも精細を欠いていて。 どこか、ひどい夢を見たあとのように、面は色を失っていた。 その中で、ジェイドの輝きだけがまだ、アイスブルーを抱えたまま酷く冷たく凪いでいる。 それを向けるべき相手は、少なくとも此処に居るわけではないのに、それでも、まだ。 「……パスカル?」 人の命を狙いに来たのだと言うのなら、ずいぶんと頼りないものだ。 最盛期の輝きはない、見る影もない。己の目標としていたものを、全て失ってしまったが故に。 わざとらしく立てられていたかすかな足音さえ今はなく。 砂利の起伏の上でさえ、ひとつきりの音も立てずに、貴方を探してあるき回る。 (-318) 2022/08/22(Mon) 22:24:59 |
【秘】 花で語るは ソニー → 名もなき医者 リカルド/* なんでこんな男を……もっと手を差し伸べるべき人間がいるよ 絶対いるよ やめときなよこんな精神グラグラヤリモク男 救われたがってる人はほかにいるよ (-319) 2022/08/22(Mon) 22:26:32 |
【秘】 花で語るは ソニー → 名もなき医者 リカルド舌先は胸板の上を這う。乳輪の外側をくるくると尖らせた舌がなぞって、焦らすように転がした。 愛撫が優しいのは、耐えているからだ。皮膚を引き裂くことが無いのは、それでは意味がないからだ。 どれだけこの場では踏み躙って憎悪を刃に変えてしまいたくても、見かけは工作しなくてはならないから。 「アンタはその時何をしてたんだ? アイツと一緒に、ジャンニを殺して楽しんでたんじゃないのか? 」余った酒を、腕に絡んだシャツに浴びせかける。咄嗟に防御姿勢が取れないように。 コカレロの独特の匂いと色素も、すぐに汗の匂いに紛れてなんだかわからなくなる。 片手は相手のベルトに掛けられ、いつでも手に取れるようにテーブルの上に残置された。 打ち掛け釦を外して、ファスナーを手の甲で下ろすようにして下着の中に手を入れる。 「ねえ、アンタは先生からオレの両親のことも聞いたの? ずっと教えてくれないんだ、先生はオレに優しいからさ。 本当は、気付いてた。ずっと、花の送り主が父さんと母さんじゃなくなったことも」 貴方にとっては、全て身に覚えのない話だろう。初めて聞いた話がほとんどだろう。 誰にとっても記憶に残しておくほど大事ではない話というのはいくらでもある。 きっとそれだって、その中の一つだったに過ぎない。耳にしたとて、聞き流す程度のこと。 心当たりのない恨み。つまり、妄想症だとさえ言ったっていい。壊れかけの人間の、妄想だ。 貴方は、自分に仕事を教え引き継いだ人間のことは覚えているだろう。 では、その更に前の代の人間のことは? 覚えているはずがない。普通に考えれば、そうなのだ。 「そのポストについているアンタが、前々任者が誰だかを知らないはずないだろ。 父さんと母さんはアウグストに殺されたんじゃないのか? アンタは父さんと母さんがどうなったかを知っていて隠蔽してるんじゃないのか? 」両親の、親友の仇を失って、刃を向ける先を失って。 目の前の男は、貴方をアウグストの代わりに仕立て上げようとしているのだ。 そうしたら、大切だった人たちの仇を討てるから。 (-342) 2022/08/22(Mon) 23:13:29 |
【秘】 花で語るは ソニー → 家族愛 サルヴァトーレ思えば、どうしてこんなことをしたのかなんて。 先走った愚か者、背信に狂った裏切り者が誰かなんて。 言葉にしてもよかったのかもしれない。あの会議の場でも。どこでも、なんでも。 "マウロ"と呼ばれた男が誰に殺されたのか。組織の益にならないとわかっていて、なぜ。 誰のせいでもない。男は己自身の我意と傲慢によって、地獄の底まで落ちるのだ。 本当は誰かが止めてくれることを望んでいたのかもしれない。 本当は誰かに裁かれることを望んでいたのかもしれない。 けれどももう、たらればでは意味がない。 友人も、追う背中も、連れ立つ小さな手も、見守る瞳も、全部一度に失って。 見据えるべき明の金星さえ失った男はいずれ、自分自身さえ手放してしまうだろうから。 みなが貴方という傘の下に身を丸めて体を寄せ合う、その中に在れたなら。 ひょっとしたら、誰のことも失わずに済んだのだろうか? 「……うん」 寄せられる唇の柔さ、体温の暖かさ。優しさの帳の中に隠れるようにして、口を閉ざす。 丸まってあやされる子供のようだ。抗うこともなく、腕の中で目を閉じて。 己が組織の中で用立てる為に、その体はしっかり鍛えられたものだったけど。 それでも、どこかで立ち止まってしまったままのような面立ちはあどけないままだ。 「ドライブがいいかな……車の中でするの好きだから。 ……ね。もうちょっとだけ甘えてても、いい?」 首筋に頭を擦り寄せながら、煙草を手にしていた手は火口を灰皿に押し付けて手放される。 ほんのすこし、最後のひととき。貴方が居なくなってしまうその前までは。 短い安寧に身を委ね、失われるものがないようにと願い続けているのだろう。 全部手遅れだ。 (-381) 2022/08/23(Tue) 7:20:59 |
ソニーは、かつては《天使の子供(Sonny Amorino)》だった。 (a28) 2022/08/23(Tue) 7:22:20 |
ソニーは、けれども己の中の悪魔が囁く言葉に耳を傾け、復讐に己の人生を売り渡してしまったから。 (a29) 2022/08/23(Tue) 7:24:15 |
ソニーは、マルガレーテの居ないフォースタスには、祈りによる救済が与えられることはない。 (a30) 2022/08/23(Tue) 7:25:06 |
【秘】 花で語るは ソニー → ザ・フォーホースメン マキアート上がる嬌声を呑むように、背筋を伸ばして首筋や顎に何度もキスをする。 自らの手を受けてこうも反応してくれる、相手がとても愛おしく感じる。 快楽を分け与え合い、熱を交換するだけの作業でこれだけ胸の内が満たされるのだから堪らない。 触れ合いたいと、そう願う。そんな行いの甘やかな優しさが、男は好きだった。 肌の感覚さえもが邪魔するような焦れったさに、抑えきれない己を宥めるように肺から息を吐く。 「……かわいい」 懇願する言葉さえも、どうしようもなく歓喜を呼び起こすのだ。 深く吐き出した息でそれに返事をして、相手の陰茎からするりと落ちるように手を離す。 僅かに濡れた手で二、三自分の陽物を扱く。少しの興奮でも十分に固くしていたのだから、 準備のために掛かる時間だってそう長くはない。足と指とで引っ掛けるように渡してゴムを手に取る。 封を開け、自分のものにするするとかぶせる。薄いゴムの擦れる音が響いた。 片手で照準を合わせ、揺れる相手の体をそっと誘導するように下ろさせる。 指が抜けてもまだ平時のように締まりきっちゃいないのだろう後孔に指を添えて、 角度を合わせて相手の尻をゆっくりと下側に導く。亀頭が包まれて、く、と喉を鳴らした。 はじめはなじませるように奥までじわじわと挿入していって、姿勢であったりも含めて落ち着かせて。 深く深く、息をして。軽く呼吸を整えてから添えた手で誘導するように腰を動かす。 ベッドの上だったならもっとあちこち構えもしただろうけど、今は一点集中でお預けだ。 「は、ぅ……あったかくて、とろとろしてる……どう、……気持ちいい?」 (-419) 2022/08/23(Tue) 16:19:44 |
【秘】 花で語るは ソニー → 墓場鳥 ビアンカまだ、朝も明けたばかりの早い時間のうちだった。 花屋に顔を出して、草木の準備をしながら電話を取る。内容は、娼館からの伝達だった。 ソニーが努めているのは何も知らない表の店ではなく、裏稼業のものとのやりとりもある店だ。 資金洗浄の窓口であったり、連絡役との伝達だったり。仕事に事欠く立場ではない。 だから直接組織の人間から店に対して連絡が来るのだって、不思議な話ではなかった。 「……カテナ? なんでこんな時間にウチに……」 電話先の女性の声は、まくし立てるような速さで喋る。焦っているようだった。 従業員の一人が、不穏当な話を小耳に挟んだということ。 まだ、組織の方との橋渡しとして顔役を請け負っている女性と連絡が取れていないこと。 不安を掻き立てるような噂の実際が、確認出来ていないということ。 焦燥のせいか脈絡もなく前後してまとまらない話を、頭の中で整理して、 息を、呑んだ。 宥める言葉もそこそこに電話を切り、店主に短く事情を説明して店を出る。 通報とどれだけ前後したのやら。いずれにせよ朝の街はまだ、呑気な風景を広げているだけ。 ひょっとしたらこの街の中で何人かが消えたということも、耳にしてはいるのかもしれないけれど。 死んだマフィアの人間のことなんて、市井は気にしてやくれなかった。 花の積まれていない配達車を走らせ、目撃情報を精査して。 その間に、通報された下半身の話も耳に入り、車が通ったのだろう道筋を精査する。 ひとりきりで探しているのでよかった。みっともない顔を誰かに見せずに済んだから。 最終的に車を走らせた先は街の漁場、何度か訪れていた埠頭のすぐ傍。 おそらくは、きっと。"使いで"のない上半身は、下半身よりひどい状態なんだろう。 探し出してやっと対面した頃には、元の形を想像するのも難しいのかもしれない。 それでも、ジャケットで包んで、震える手で、持ち帰った。 ……誰にも見せず、荼毘に伏そうかと。そう、わずかに頭をよぎった。 (-423) 2022/08/23(Tue) 18:03:02 |
【秘】 花で語るは ソニー → 墓場鳥 ビアンカ/* お疲れ様です。諸々連絡が遅れてしまい申し訳ありません。 上半身についてなのですが、ひとまず提示のあった漁場で発見することにしました。 あともう一往復で終わるとは思うのですが並行して確認したく、 ・上半身はどんな状態でしょうか(これはロールで返答いただいても構いません) ・他の方々に見せず、こちらで処分することは可能でしょうか (想定される今後の話もあると思いますので、誰かに渡す予定があれば従いますし、 ふつうにクリスティーナのところに持ち帰るのでも構いません) 手が空いたときにでもご返答いただければ幸いです。 (-425) 2022/08/23(Tue) 18:06:30 |
【秘】 花で語るは ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ非常灯だけが病室を照らす、深夜を回って明星さえ落ちてしまった宵の内。 足音を立てずに歩くのも、人のいない間を縫って歩くのも得意だった。 けれども朝になってしまえば、何かがあったというのは知られてしまうのだろう。 何処かで誰かと交戦をして、手傷を負った体からは長い間隔で血が滴っている。 死ぬことは出来なかった。死ねないだろうとは思っていた。 それでもどうしても今、此処に来なければならないと決めて、足を踏み入れた。 既に冷たくなって久しい体は、生きて笑っていた時とは同じようにも違うようにも見えた。 乏しい明かりの中に横たわる貴方の傍に立って、見下ろして。何も言えずに佇んでいた。 もうあと一歩もない場所に貴方が居る。だのに突き放しさえ、してくれやしない。 自分以外に動くもののない部屋の中で、しばらく自分の心臓の音だけが聴こえた。 幾許か振動にも似た音の鳴った頃にやっと動いた手が、かすかに貴方の指先に触れた。 熱のない感触をたしかめた瞬間、肘を伝って肩まで震えた。ひどく、恐ろしかった。 死んだ人間に触れるのだなんて初めてでもなんでもないのに。 「、ふ」 少し喉が動いただけ。ちょっと呼吸をしただけだったのにも関わらず、たったそれだけで、 それまで抱えていた何もかもが崩れ去ってしまったかのように、瞼の内から涙が零れた。 痕跡を残すヒットマンだなんて、その有り様としては失格だ。 誰にも知られず、悟られずにこの場を後にすべきだった。そのはずだった。 けれども溢れて顎まで伝う涙を拭うことさえ忘れたように、寝台に手をついて。 まだ夏の気温の下、死体の置かれた部屋はもっとずっと管理されているだろうか。 どちらにせよまだ死後硬直の緩解しない指先を握る。蝋のような感触だった。 「先生、」 → (-442) 2022/08/23(Tue) 19:48:34 |
【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ喉から溢れ出した音は涙声のせいで不鮮明だった。耳のある者が居たとて、聞き取れやしなかったろう。 ほとんど崩れ落ちるように、白いシーツを握り込む手に体重が掛かった。小さく寝台が揺れる。 行き場を失くした涙が落ちて、床に僅かな血が溜まり始めてそれでも尚、何も起こらない。 動くものはない。誰一人。自分以外は、何も。 堰を切ったように泣きじゃくる顔はひどいものだったろう。息をするのも苦しいほどだ。 泣いて、泣いて。そのせいでやっと、凍りついた喉が開いた。吐いた息は全て嗚咽に替わった。 「……先生、なんで、……置いていかないでよ、頼むよ…… オレを傍において、連れて行ってよ。どうしたら、よかったんだ……」 あの日、貴方に最後に会った日。本当は貴方を殺すつもりだった。又は、殺されるつもりだった。 貴方が最後に見るものが自分であればいいと思ったから、もしくは、逆ならばいいと思ったから。 幼稚で独りよがりで、相手の都合など何も考えてやしないろくでもない考えだ。 けれども本気でそう考えるほどには、誰が死ぬかもわからない状況下で追い詰められていた。 耐えられなかった。ほかの誰か、何かに貴方を奪われてしまうことが。居なくなることが。 固まったままの指を何度も握り直して、手を添える。いつか握り返されたときのように。 そうすれば、熱を移せばまた動き出すのじゃないかと試すように何度も、何度も。 手の中でろくに動きもしない関節を包み込んで、頬を寄せて。指先に口付けた。 思慮深い頭の働きなど、もうほとんどしてやいないのだろう。泣いて酸欠の頭では手一杯だった。 ただ、目の前の貴方がもう二度と動かないことを受け入れられないように触れ続けた。 それだって稚拙で弱々しく、自分のことばかり考えているのがわかるような行動だ。 けれどもそれ以上の何にも踏み出せない、馬鹿馬鹿しいほど些細なものだ。 「何も、手に入らなくったって、いい。もう望んだりや、しないから。 生きて、あってくれるだけで、……それとも、オレが、殺せなかったから?」 結局は貴方にとって満足の行く終わり方だったのだとしても、男には伝わらなかったから。 ただ勝手にこうして己の不足を責めて、苦しんで。動かない体に、瞼に唇を寄せて。 生きている間に伝えられなかったものを今更に語るように、乾いた唇にも、同じようにした。 (-443) 2022/08/23(Tue) 19:50:22 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 墓場鳥 ビアンカ引き上げた体を腕の中に抱く。タオルでも持ってくるべきだったろうか。 こうなってしまった貴方を見てすぐに、どうするべきかなんて考えられるほど男は冷静じゃなかった。 せめても彼が大事にしていた彼に見せることにはならずに済む、それが幸運か幸いか、なんて。 彼らひとつひとつの末路を考えれば一概に言えるものでもないのだということさえわからないほどに。 引き上げた体は、濡れたままジャケットに包まれた。それだって十分じゃない。 人目をはばからずに配達車まで引き上げると、助手席に渡すように彼女の上半身を寝かせた。 顔に這うように固まった血をアルコールの入っていない使い捨てのウェットタオルで拭いた。 メイクの上からでも使えるリフレッシュシートだ。香水みたいな、いい匂いがした。 ダッシュボードの中から櫛を取り出して、あの綺麗だった髪にいつも通りに通そうとして。 海水でからまった髪は、無理に引っ張れば柔い皮膚ごと離れてしまいそうだったから、やめた。 少しずつ、少しずつ丁寧にきれいにしていった。無心で、無言のまま。顔貌には表情も無い。 ただ、それだけが出来ることであるように、出来る限りのことをした。 クーラーを効かせた車の中に満ちていた花の残り香は次第に死臭に追いやられていった。 時折通りかかる漁師が車の中を覗いている気配があっても、気にもとめないまま。 ベルトに着けた隠しポケットから、Tハンドナイフを取り出して肌の上にすべらせる。 書き殴られたメッセージを、ナイフで削いだ。それは彼女には相応しくなかったから。 刃を通しても、血が出ることはなかった。 外の気温の安定してくる頃には、最初よりはずいぶん見栄えするようになった死体を見下ろす。 あの日相談を受けたその日に、彼女と彼を外へ逃がせばよかったのだろうか。 呆然と考える。合理性や確実性を加味する余裕もない、思考の逃避でしか無かった。 「……綺麗に、……しなきゃ」 働かない頭のままに考える。誰かに、こんな彼女は見せられない。ただ、それだけの考え。 何度も体を合わせた彼女との間にあったのは友情に近いもので。果たさなければならない義理があって。 だから、彼女のことを。誰よりも死体に対して礼儀を向けてくれそうな彼に、託すことにした。 マフィアの烏に渡したなんて言ったらきっと夢で悪態をつかれるのだろう。力なく笑いながら、配達車のエンジンを掛けた。 (-452) 2022/08/23(Tue) 20:25:41 |
【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ胸に灯った火がいつからそこにあったのかはわからない。初めは見えないほど小さな星火だった。 けれどもこの瞬間に至るまで、その命の尽きるまで、ずっと男の心は貴方のものだった。 貴方だけのものだった。絶えず、揺れることさえなく。ひとつきりの持ち物だった。 だからきっと、そこに違えがあったのだとするのならば。それは隠し続けた青年のせいだったのだろう。 交わした口付けはほとんど触れるだけのものだった。それで精一杯だった。 或いはあの日手を引かれていたのならば、重ね合う熱はもっと暖かなものだったかもしれない。 涙が皺に滲みてうっすらと水気を増す。それも僅かな隙間に吸い込まれて、失くなってしまった。 ほんの小さな現象でさえも、まるで二度と青年が貴方に与えられるものなど無いことを示すようで。 唇を重ね、指を触れればそうするほどに、もう異にされた幽明境を感じられるようだった。 もっと移り気で、気軽で、只々の別れとして思えるくらいのものであれば良かったのだろうか。 そうであればこんなふうに貴方を心配させ、呆れさせてしまいそうな別れをせずに済んだのか。 ぎゅうと、最後に指を握り込む。もう血の通わない指の肉が、少し潰れて痕がついた。 「……、こんなことしたら、怒るかな……」 ぼんやりと、浮かされたように曖昧な言葉が唇から出る。涙を吸って、息がし辛い。 懐から取り出したのは、いつか街中で誰かと交わした話題の中にあったもの。 アーモンドの花の枝を象った、プラチナの指輪だった。 小さく散りばめられたジェイドは己の瞳の色。それもまた、独善的で幼稚なものだ。 貴方の指にそれがあったなら、いつでも貴方を感じられるかもしれないと、そう思っていたのだ。 少し、貴方の指にはほんの少しだけ小さな指輪。きっと合わないと、買った時は思い返していて。 やっぱり上手くはまらないそれを無理やり、左手の薬指へと添えた。 誓い合わずに一方的に押し付けられたものに、どんな価値があるというのだろう。 (-464) 2022/08/23(Tue) 20:50:38 |
【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ部屋の中の僅かな光が、貴方の薬指で輝くほんの小さな色を照らしてキラキラとしていた。 それで、何か区切りがついたように、終わりを見出したかのように。 指輪に、唇に。もう二度と開かない瞼にもう一度ずつだけキスをして。 去り際に見たのは、サイドテーブルの書き置きだった。 小さく、けれど長く、今までの多くが書き綴られていたのだろうくしゃくしゃの紙を手に取る。 「……知ってたよ。遠い国から、あんなに正確にこの国の季節の花がわかるわけないんだ。 花屋の店主さんがさ、そう言っていたから。そう、教えてくれたんだ」 貴方から託されたものは、本当は気付いていたはずなのに。 この結果はいずれ伝えるべきものを先延ばしにしていた罰なのだろう。 見下ろした表情に、最後に一度だけなんとか笑い返そうとして、うまく笑えなかった。 「さようなら、……先生。オレの、ヴェネリオ」 最後まで果たして、青年の声は大気を震わせられただろうか。 自分じゃ聞けなかった、わからなかった。貴方が教えてくれたならばいいのに。 もう叶わないことを思い浮かべて、貴方の部屋を後にした。 (-466) 2022/08/23(Tue) 20:55:11 |
【置】 天使の子供 ソニー小さな部屋の中に、音楽が流れ続けている。子供のための祈り、子守唄の伴奏だ。 締め切った部屋は蒸し始めて、細く流れる血の匂いが壁に塗り込められるように充満し始めている。 バスルームの壁を背にして、乾ききっている空のバスタブの中に座り込んでいた。 此処までに至る幾つもの部屋には鍵が掛けられている。辿り着くまでには、時間が掛かるだろう。 ぼんやりと天井を見つめていた。そこに楽譜があって音符が踊っているかのように、指で辿る。 目線はタイルの色をほとんど形も判然としないままに見つめている。ジェイドの色が輝いていた。 僅かに差し込む月の光はちょうど目元を映し出していて、瞼に嵌った宝石を照らし出す。 考えていた。自分に何が残っているのかと。 親友と親の仇、そう思いこんでいた人税の目標のような誰かを失った。 仰ぎ見るように心の中にあった、甘い匂いのする眩しい明星を失ってしまった。 たった一人きりの友人を失い、己が助言を仰ぐ優しい手を失い、 己が先に順番が来たとしてもその背にして守るはずだった目上の彼を失い、 この街から逃がそうとしていた友人も、彼女が大事にしていただろう脆い存在も失ってしまった。 此処に残り続ければ自分の手に何が余るのか、何が出来るのか。考えた、筈だった。 ぼんやりと麻痺した頭は、死臭に囚われてしまったように眩んでしまって。 自分の中には何も無いのだと、ようやく気付いてしまった。 「……♪……♪……」 手の中にはくしゃくしゃの紙。手の中には一丁の拳銃。 それは誰かから買い付けたものではなくて、隠し持っていた虎の子の一丁だ。 思い出の中のメロディを鼻歌でうたってみて、それを耳で聞く。けれどもそれは、自分の声だ。 本当に欲しかった誰かの声ではない。それはもう、得られはしない。 (L8) 2022/08/23(Tue) 20:56:43 公開: 2022/08/23(Tue) 21:00:00 |
【置】 天使の子供 ソニー「……ああ、約束。果たしておけば、よかったかな」 ほとんど抑揚のない声が思い出したようにこぼした。誰に向けるでもない声だ。 けれども一度言葉にしてみたなら、誰かが聞いているような気がしてしまって。 叶いもしないことを、口にしてみた。 「ねえ先生、最後に。オレに、――……」 最後に口にしたのは何だっただろう。 誰も聞かない。聞こえない。届かないだけのもののまま。 その声も、心も。命も。思い出も瞳も、花の匂いも何もかも、一人のもののまま。 どこかそれに安堵しながら。 拳銃の引き金を、引いた。 (L9) 2022/08/23(Tue) 20:59:44 公開: 2022/08/23(Tue) 21:00:00 |
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