【秘】 逃亡者 ポルクス → 探偵 キエ「俺の思うままに進んでくれるの? じゃあ…………あっちかな」 兄の残り香を辿ってほしいんだ。 塔に閉じ込められた兄からたった一つ落とされた紙飛行機は。 兄が俺をずっと見ている証拠だと、嬉しくて、ずっと大事にした宝物。 俺も兄へと沢山紙飛行機を飛ばしたけれど、下から上に届くはずがなくて、全てが地に落ちて途切れた。 愛された王子がたった一つ手を伸ばしたのは、決して手が届かない半身だったという話だ。 それでもポルクスは残り香を辿っていくだろう。 決して兄自身へは届かないとわかっていても、見たい景色があるからだ。 船はまっすぐに進んでいく――― (-220) 2021/10/23(Sat) 8:41:41 |
【秘】 探偵 キエ → 逃亡者 ポルクス宙の海を縫う様に進んでいく。速度は上がり続けついには光の速さを超えた。 されど其れはカストルが過ごした刻よりも短かい。 しかし甲板には頬を撫でる心地よい風が吹いている。 速さに耐え切れず破れた帆は新たに張り替えられ、軋み割れた船底は直様新たな樫で埋められた。 「僕ァ目的地が判らないから君が案内してくれよ? 何処を到達点とするかは君が決めなさい。 此れが航海かどうかも君が決めなさい。 決定ができない程君は愚かではない筈だ………さァ、どうだい?」 そう話す船首は祭の際キエが被っていた山羊の頭蓋骨によく似ている。キエの姿は船の何処にもいないのに、其処には確かにキエが居た。 「素直に自分の思った事を言葉にしよう。自分の思っている事など案外人は気付かぬものだから」 (-221) 2021/10/23(Sat) 9:35:26 |
【秘】 逃亡者 ポルクス → 探偵 キエ航海は続く。 生 き た い 終わらないのはきっと、自分が行きたい場所が定まらないからだ。 兄の残り香がわかるのはどうやら自分だけらしい。 どうか俺に、あなたの足跡を見せて欲しい。 ――そう願った瞬間、揺蕩う海が弾けた。 「あぁ、探偵。 あそこだ……あの場所で俺を降ろしてくれ」 弾けた海の先はなんのことはない、館の中庭の外れだ。 あれだけ進んだように感じていたというのに不思議な話だが、ただ一点、現実の館の中庭とは違うところがある。 そこには…… 大輪の桜の木がそびえ立ち、 その周りにはおびただしい血の跡が残されていた。 (-226) 2021/10/23(Sat) 12:29:59 |
【秘】 探偵 キエ → 逃亡者 ポルクス「相分かった、此処で到着だね」 音も無くぼろぼろの船が桜の木の前に止まる。見えない船員が舷梯を下ろすとポルクスへ促す様な視線を向けた。 ポルクスが降りれば後から骨だけの山羊が二足歩行でついてくる。骨は不規則な音を鳴らす。 死体でも埋まってるのかねェ。 からから、からから。 其処から兄君が見えるかい? からから、からから。 木に背を預けて目を閉じるカストルを横目に骨の山羊は血の跡を見つめている。 キエに家族などいないし欲しいとも思わない。どんな関係の相手を示すか知ってはいるが其れだけだった。桜の1枚程も今ポルクスが抱く感情を理解していないし、しようとも思わない。 (-229) 2021/10/23(Sat) 13:20:07 |
【秘】 探偵 キエ → 不眠症 アマノ「人数なんざ関係ないのにねェ…まるで何もかも“自分にはできない”と道を塞ぐんだもの。 ……おや休憩は終わりか。しかし僕ァ未だ用がある」 ベッドから起き上がり短い葉巻を深く吸うとアマノの前に立つ。 「何か言う事があるんじゃないかね。ん? 僕を突き飛ばしておいて、更には科学者としての在り方まで説いてやったというのに。僕ァ君から謝罪と感謝を貰うべきだと思うよ」 勝手に話しただけだがキエの中では“してやった”という事になっている。 そして煙をアマノに吹きかけ、葉巻の灰を其の手に少し落とした。勿論熱い事を知っていながら行っている。 (-230) 2021/10/23(Sat) 13:41:23 |
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