[　浮上しかけた私の意識は
　　　　 私の手によって、押しとどめられる

　　　　　　　「 ごめんね 」と
　　　　　　　わたしの口で、私の意識が紡ぐ　
　　　　　　　それはどちらのやよいだったんだろう　]


　

私の最善とわたしの最善が違うことには気づかない。

　　　　　現実は、そうじゃない。
　　　　　私が現れなかった。
　　　　　その感覚は確かにわたしにあるはずだ。

　]**

[　なんだろうって思いながら、

　 心のどこかで、
　 その意味に、
　 ―――――― 気付いている。　*]

　 どこか寄る辺のないような、
　 頼りなさを覚えるから、だろうか。

　 だからこそ、僕は君の、支えになりたいと思う。
　 だけど……思っているだけでは、
　 やよいには、何も、

[　僕の幼馴染は、君だけなんだよ、やよい　]

　 そんなことを考える君なら、
　 もしかして、近い将来――

　 そのはず、なんだ、けど。

　 その時、話をしたら、
　 やよいは――僕のこと、思い出してくれていたかな。
　 そうだったら、僕はますます嬉しくなって、

　 ――舞い上がって、いたんだ。

　 ……それにね、君の言葉が、
　 全く響かなかった訳じゃない。
　 答えなかったのは、言い当てられたから、
　 というのもある。
　 ……っていうのは、今は伝えるつもりはないけれど。

[　僕は間違えたから、そんな資格ない、と思っている。
　 だけど、一人で考えて、一人で決めて、
　 ……そうしなくても、良いんだろうか。
　 口に出すことくらいは、しても良いんだろうか。

　 ぽたりと、インクのように落とされたそれは、
　 僕の中に薄っすらとひろがっていく。　]

[　―― だけど、そう。
　 彼の言葉が、"どちら"かという言葉が、
　 浮かんではんでいく。]

　
　
[　間違えちゃだめ、という言葉が
　 心の奥底で、じわりとを増していく。]

[　こうして手を取ってくれる日を、
　 　　　　　　
　　　　　　　　密かに願っていた。　　]

　 って、思ってくれったら良いのだけど。

　 何かを欲しいと強請られたら、
　 分けるのではなく、丸ごと渡してしまうような
　 そんな人間だったから、よく妹に怒られていた。

　[　大切なものは、いつだって、　

[　やよいの両親が事故で亡くなった、と聞いたのは、
　 10年前のこと。
　 僕も会ったことのあるその人たちが、
　 もう二度と会えなくなったのだと、
　 死というものを実感したのは、
　 その時だったかもしれない。

　 けれど、やよいが感じたこと、
　 それから、やよいに起こったことは、
　 僕の比ではないだろう。

　 ひとりになったやよいを抱きしめて、
　 小さな手で頭を撫でた、
　 そんなことも、あったかもしれないね。

　 幼いやよいは親戚に引き取られて、
　 ここから離れることになった。
　 幼い僕にはどうすることも出来ず、
　 守りたかった女の子に、手を振ることしか出来なかった。

　 身を裂かれる程、苦しい思い出だ。　]

[　母さんが亡くなったのは、やよいとの別れがあった後だ。
　 突然分かった病気によって……あっという間、だった。

　 不幸の比べ合いをするつもりもないけれど、
　 僕には父さんがいるから、と、
　 思っていたのも事実だ。
　 ……やよいはもっと、と、思ってしまった。

　 父さんは精神科医だけど、
　 最初から、跡を継ぐのだと思っていた訳ではなくて。
　 僕が医者を目指そうとしたきっかけは、
　 きっとここが始まりなんだろうね。

　 ――というのは、誰も知らなくていい話、だ。　]

[　もしも、やよいとの“デート”中、
　 君が、記憶の中にいる、僕の母さんについて尋ねたなら、
　 亡くなったのだということを、
　 君には話したかもしれない。　
　 当時のことを知っている子は知っているだろうけど、
　 知らない人に、わざわざ言うことのない話を。

　 きっとさらりと口にしていた、と思うけれど。　]


　　……寂しいと、思うことは、あるよ


[　少しだけ、君に弱音を吐いたかもしれないね。

　 には言わない、恋人同士の秘密だ。　]

[　ねえ、あの日僕が間違えなければ、

　 もしも、僕が望んだなら、
　 君は僕のために生きようとしてくれた？
　]

[　僕がただ、自分の手で、

　 幸せを零そうとしているだけ、なのだろうか　*　]

　 父さんに見せることを提案したのも僕の方で、

　 同い年なのに妹なんて、変な話かもしれないけど。

[　僕は彼女に、謝らなければいけないのかもしれない。

　 やよいとのデート中、彼女が目覚めることがあったなら、
　 「幼馴染」だから、と誤魔化した。
　 彼女の前ではずっと、幼馴染であるだけなのだと、
　 そんなフリをしていた。

　 幼馴染という言葉に甘え続けて、
　 おかしくないのだと、誤魔化そうとした。　]

[　だけど、もっといけないのは、
　 僕にとって、彼女は幼馴染でもないと思っていることだ。
　 幼い僕との思い出があるのは“やよい”の方。
　 だから……本当に、『幼馴染』だなんて、
　 都合の良い言い訳、だ。

　 「桧垣やよい」はやよいのものだ。
　 だから、諦めるべきは彼女の方なのだと、
　 思ったこともある。>>0:88
　 ……例え、どちらかが消えない未来があったとしても。
　 やよいは表向きは僕と幼馴染で
　 あろうとしていたのだから。
　 これからもやよいは「桧垣やよい」であろうと、
　 ……自分を隠し続けるのではないかと。
　 それは、僕には、納得できなかった。

　 彼女の幸せを願いながら、
　 愛智くんに、素直に「ただの幼馴染」だと言えなかった。
　 彼女だけの幸せを、願えなくて。>>1:5
　 やよいにも、幸せになってほしかった。
　 それに、僕だって、やよいと幸せになりたかったから。
　]

　 だからこそ、やよいの考えることも察してしまう。

　 誰と問われたら、ちゃんと結城と
　 名前を伝えただろうけど。

[　どうして、来ようと思ったんだろう
　 やよいとの約束は、なくなってしまったのに。

　 ああ、でも、そうだな、

　 もしかしたら、
　 これからずっと、こうなのかもしれないのか。　]

　 もしかしたら、文字だからこそ、
　 言えたことかも、しれない。