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【置】 鳥葬 コルヴォ最後の夕暮れ、最後の夜の、その前の事。 そして、誰かと港の埠頭で再び会う少し前の話。 僻地の廃倉庫での、誰も知る事の無い、観客の無い幕間。 「俺にとって、明日が続いていく事は苦痛だった。 いつか終わりが来る事だけが希望だった。 ……続いた先に、一握りの希望さえ信じられなかった事を」 誰にも手を伸ばす事さえしなかった者は、 何を得る事も無い。誰も悲しませたくなかったからこそ、 遠ざける事しかできなくて。誰の言葉も真と信じていたのに、 そこに希望を信じる事ができなくて。結局は最後の最後まで、 誰の手も取る事ができなくて、「 ごめんな、許さないでくれ 」この血を吐くようなひとことが、誰にも届かなければ良いと思う。 無宗教者に、懺悔する先は無い。 あてのない言葉は、人知れず夕暮れ前の薄闇に溶けて消えた。 それでいい。祈りの真似事は終わり、立って行くべき先は決まっている。 そして黒衣が翻り、重苦しい靴音の後、廃倉庫は今日もまた静かになる。 次の夜も、その次の夜も。 もう二度と、この場所で、掃除屋から誰かへの弔辞が告げられる事は無い。 (L9) 2022/08/25(Thu) 16:32:54 公開: 2022/08/25(Thu) 17:00:00 |
【置】 鳥葬 コルヴォそうして、生者達には今日も変わらない夜明けが来て。 名もなき烏はもう何処にも居ない。それが全てだった。 烏は亡骸を晒さない。 人の営みから遠い何処かの夜闇にて、 ぽとりと枝から地面に落ちて、それで終わり。 烏同士は目を啄かないが、 屍となれば共食いをする。 屍は同族に啄まれ、 後には何も残らない。 事実どのような結末に至ったのかは、今は定かではないこと。 確かな事と言えば、もう誰の死を弔う事も無いという事だけ。 (L10) 2022/08/25(Thu) 16:34:11 公開: 2022/08/25(Thu) 17:30:00 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー音も無く、幽鬼じみた影が一歩、また一歩と近付いて。 それが発する声は、やはり随分と生気の削げたように聞こえる。 柔くも鋭くもなく、ただどこかうつろに底冷えしたその音を 対話とその他のどちらともつかない距離で聞いて、息を吐く。 「烏は選り好みをしない。 仕事とあらば何だってやりましょうとも。けどね、 身内の死体をどうにかしてやろうってのは、結構なことですが」 見せたくない、ではなく、見せてやりたくない。 敢えてそのような言い回しを選ぶ事から、身内のものと推測した。 それを選ぶ人間は、世に居ないわけではないけれど。 「掃除屋に処分を頼むって事が、どういう事なのか。 あんたもわかってないわけじゃないだろうに……」 掃除屋に処分される。人によっては、それそのものが冒涜になる。 持ち込まれた遺体はバラバラに切り刻まれて、炉で焼かれる。 キリスト教圏では土葬が主流で、その理由を思えば、尚の事。 「……まあ、いいさ。 それがこっちに一つとして利の無い仕事だったとしても。 死んだ奴にだって、見るに堪えない姿を晒さない権利はある」 「お時間頂けりゃ結構。どうせ後は時間潰しだ」 どこか冷めた声色は、あなたのそれとはまた異なるもの。 何ら信の置けるでもない相手からの、大した益も無い仕事。 それでも理由はどうあれ了承を返して、何処へも足は向けない。 一度相手の言葉を待つ。用事のある者は何処に、と問うように。 (-29) 2022/08/25(Thu) 23:33:58 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ「……半分は、もう見つかってるから」 人の魂はどこに宿るのだとか、怒られるかも知れないだとか。考えないわけじゃない。 けれどもうまく答えが出なかった。相手からしてみれば呆れるようなものかもしれないな。 死んだ人間の処分に困る、なんてことは今までなかったのだ。困るほど選択肢に迷いがなかったから。 「望まないかも知れない、けど、これでいい。もう充分辱めを受けた、だから。 これ以上きれいにしてやれないなら、もうこれで、いい」 滔々と流れるような言葉はテープレコードのような無機質を孕んでさえいる。 拙い頭を動かしはして、考えるだけはして、その結果だ。他に思い浮かばなかった。 わかっている。わからないわけじゃない。貴方が本来敵対する人間なのも。 狭き門を潜る門を閉ざす行いだということだって、ちゃんとわかっていて、それでも。 暗がりの向こうを指差す。そこには白いバンの輪郭が浮かんでいた。時折街を走る、花屋の配達車だ。 こんな場所、こんな用事にも関わらず乗り合わせてくるなんてのは見るからに冷静じゃない。 どんなに頭を巡らせたところで、とうに錯乱し切って頭は壊れているのかも知れないな。 貴方がついて歩いてくるなら男はバンの扉を開いた。後部座席、小さな花びらが点々と散るその中に、 男物のジャケットを着せられた、女の上半身がやわらかいブランケットの上に寝かせられていた。 夏の三日月島は穏やかだ。死臭が満ちて、水気を含んだそれは既に状態も悪くなり始めている。 貴方が今朝方のニュースをアジトで耳にしていたなら、アルバファミリーの庇護下にある女が一人、 抗争の混乱の中でひどい死に方をしたのだという話を聞いていたはずだろう。その、片割れ。 海の匂いのかすかに混じり、髪には真水で洗いきれなかった塩がほんの少し残っていて。 それでもなんとか小綺麗にまとめて、顔の化粧を薄くやり直してやって。裸の体を隠してやって。 今貴方に、彼女にとって縁のない人間に引き渡す直前までは、礼儀を尽くされていたのだろうそれは、 このまま警察に引き渡したならこの男が犯人だと断定されかねないくらいには手を加えられていた。 → (-37) 2022/08/26(Fri) 8:17:53 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ胸元の皮膚を削ぎ取るように与えられた傷は、すっかり血が抜けてから出来たものなのだろう。 そこに何が刻まれていたのかだって、件の報せを聞いていたなら察しがつくはずだ。 可能な限りに整えて、与えられた侮辱を覆い隠して、あまりサイズの変わらない上着を着せられて。 それでも凄惨だ。耐え難く、おぞましい。人の悪意の残り香がある。 そういう、用事だ。 「見つかるなら、逆ならよかった。けれどそうならなかったなら、見せるべきじゃ、ない。 女たちに追い打ちをかけるわけにはいかないだろ? わざわざそんなこと、さ、 ……どうするの、移動したほうがいいの」 空笑いが声に混じった。努めてなんでもないと振る舞おうとしたのは、失敗した。 男女の情愛では無いこそすれ、目の前の彼女と男の間にはそれなりの心の通い愛があったのは、 ばかばかしいくらいきちんと整えられた彼女の有様を見れば、貴方にもなんとなくわかるだろう。 呆然と眺めるのをやめて、貴方に指示を仰ぐ。 (-38) 2022/08/26(Fri) 8:18:22 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー「せめて人知れず葬ってやるしかない事もある」 見切りをつけたような、或いはがっかりしたような。 或いは失望か諦めのような。その焼け残った灰のような冷たさは、 何れも向ける先はあなたではないものだけれど。 それはあなたの知った事ではないだろう。その逆も、また然り。 「わかるとは言わないが、わからないとも言えやしないな」 肯定はしないが、否定もしない。 共感と理解は必ずしも片一方を伴うものではない、別々のものだ。 何れも正しくそれを行う事ができるほど事情を知りもしない。 けれど空回る思考の末に選んだその選択が、 結局は何処までも生者の自己満足でしかない事は知っている。 今更道理や正しさを説いた所で、どうにもならない事なのだと。 ただどうしようもなく、その事だけを知っている。 だから他人事の男は、他人事ゆえに肯定も否定もしない。 客観的に見て、客観的な事実だけを認めて、ただそれだけを言う。 そもそもの話、あなたの話の何処までがはかりごとでないかなど あなたと死者の間柄を知らぬ者からすれば、 少なくともこの時点では、まったくわかったものではないのだ。 (-44) 2022/08/26(Fri) 22:06:42 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニーけれど何れにしたって、どうだって良い事でもあって。 何せどうにもならない事なのだから、なるようにしかならない。 心の底にはいつだってそんな諦めが広がっているものだから。 リスクを、最善を、想定はするけれど、何れも信じてはいない。 尽くを失って来た人間は、何にも手を伸ばそうとはしない。 だからあなたが先に背を向けたなら、喪服姿はその影のように。 人間二人、三人ほどの距離を開けて、粛々と後ろをついて歩く。 嗚呼成る程、たしかに半分だ。 そうして開かれた扉の先。 別れ花じみた花弁と、後部座席に横たえられた女の上半身。 そんな光景を一瞥して、他人事の思考はただそれだけを思う。 名もなき烏は生者の顔など逐一覚えてはいないし、 そうでなくたって、今ここで眠る女は知った顔でもなかった。 けれど未だ記憶に新しい報告が脳裏を過りはしただろう。 それを聞いた時、思う事が無かったわけでもない。けれど。 今ここで言う事なんて、なんにもありはしない。 弔いの言葉一つ言いはしない。それは自分の役目ではないから。 (-45) 2022/08/26(Fri) 22:07:22 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー悪意に晒されて、酷い仕打ちを受けて、剰え既に朽ち始めていて。 今は善意によって、丁寧に整えられて、こうして庇護されている。 それでももうどうにもならないアンバランスな亡骸。 もはや何処にも行き場の無いそれを、せめても一思いに葬り去る。 いつだって、ただそれだけが自分のすべきこと。 あなたの痩せ我慢を気にする人なんて、今は何処にも居やしない。 「……このまま俺の仕事場まで送ってもらえます? 生憎と、今夜仕事があると思ってなかったもんで。 持ち歩くのに難儀する道具は一つも持って来てないんですよ」 「用向きのある奴をこれ以上待たせるのも酷な話だ。 何より今から取りに戻って、 それを待つなんてのはあんたも手間でしょう」 運転は任せます、免許持ってないんですよ。 思い出したようにそれだけを付け加えて、 仕事場である僻地の廃倉庫の場所は簡潔に伝えられる。 この男の根城たるその場所に赴くかは、あなた次第だけれど。 それをあなたが許容するなら、二人と一人の道中は何事も無く。 やろうと思えばやれる、なんてのはきっと互いに同じ事。 掃除屋が手を出す事は無い。あなたが何もしない限りは。 今この時に限り後部座席が死者の為の寝台であるならば。 乗り合わせるにしても、きっとそこは避けるべきなのだろうな。 (-47) 2022/08/26(Fri) 22:08:42 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ最初から本当に友達になりたくて近付いていたわけではない。最初は偶然から。 或いはいつからか男は貴方の素性を探って、ひとつの失われた者に近しいものを見つけたから。 甘やかな絆を築くつもりではなくなってしまったのだから、貴方の瞳に映る色も。 男にとっては知ったことではないし、その逆も同じだ。 此処で何を説かれたところで、何を変えられるわけじゃない。きっと納得しない。 罅の入ったまま幹を育てた植物はいつまでもその内側に傷を残したままに育つ。 いつか傷ついたままの幼いままの心は、他人の言葉で納得するほど良い人間ではない。 「……逃がそうとしてたんだ。こいつが面倒見てた子供と一緒にさ。 こいつらはオレたちの争い事なんかとは殆ど関係ない身分のやつだから。 自分は何処にも行かない、ここに残るなんて言うもんだから、どうにか説得しようとしてて。 逃がすつもりだったんだ。どっか遠く、別の生き方の出来る場所まで……」 説得しなければならないということは、彼女の望みとは違えたもので、勝手な押し付けだった。 それを喜んだかもわからない、けれどそうすべきだと思っていた、それは全て破綻したが。 相手にとっては少しも関係のない話は、同情を買うつもりというでもないのだろう。 後悔だとか、無力感だとか。耐えきれないものと向き合えば吐露せずにはいられなくなる。 死体はころりと分厚い毛布の中に転げて、座席から少しも身じろぎせず降りようとしない。 幅の圧迫痕のある両手首の先にある爪先には、新しく塗られたネイルがエナメルのように輝いていた。 中身のないからっぽの胴体は、頭は、折れた骨と伴う肉は直しきれずにそのままで、 その凄惨さが軽減されたわけではなく、ギャップが余計に物悲しいものを思わせた。 大事にしたかったのだ。友達のつもりだったから。それも手遅れなら全てが無意味だ。 相手の答えが欲しい訳では無い、けれど。壁と話して溜飲を下げられるものでもなかった。 → (-61) 2022/08/27(Sat) 13:10:06 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォわかった、と頷いて運転席に乗り込む。助手席は空いているから、座れやするだろう。 そこにもいくらか花びらが落ちている、干からびたものはなくて新鮮なもので。 まともに体と頭が動いているうちは、きちんと掃除されていたのだとわかるだろう。 裏の顔と表の顔が混在する。つい最近まではそういう場所ではなかったのだ。 エンジンキーを回せば、少し古びたエンジンが起動し始めた。ギアを入れて、夕闇の中を走り出す。 手はハンドルとギアを行き来して、その間に狙われたなら簡単にとは言わずとも殺されていただろう。 片方が何も出来ないのが理由で、どちらも血を流すことはなく車は走り続ける。 都市部の郊外から郊外へと抜けていく道中は、誰に邪魔されることもなく静かだっただろう。 今も尚互いのファミリーを狙う問題が解消されていない今であっても。 「ビアンカを、こいつを狙ったのがアンタらじゃないのはわかってる。 ……そう構えなくていいよ、疑ってるわけじゃないから。他はともかく。 アンタが、オレがやったことをどれだけ知ってるかもはわからないけど」 そろそろようやくはっきりと、言外に己が何者であるかを明かした。 本当なら、普段ならそんな無意味なことはしない。幾らでも黙ったまま取り繕う方法はある。 迂回せずに会話を続けることが気怠くなったのかもしれない。もうそんな必要さえないから。 さして車は走り続けたわけでもなかったろうに、長い長い道中。 ぽつぽつと時折口を開いた時に出てくる言葉は、以前よりも迂闊にさえ思えるものばかりだ。 相手がそれを気にすることはないだろうから、ただただ事実の羅列でしかないのだろうけれど。 (-62) 2022/08/27(Sat) 13:10:30 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニーあなたの素性にも、その腹の底にも、大して興味は無かった。 仮令何者であったとしても、もう誰も懐に入れるつもりは無くて。 初めから、これは何処までもそんな薄情な人間の言葉なのだから。 そのようなものが、誰の心に留まるなど期待するはずもない。 何れにしても、確かな事といえば。 あなたが何者であっても、掃除屋にとっては重要な事ではなかった。 あなたは死者の前で無粋な真似をするような人間ではなかった。 今はただそれだけが判れば十分だった。 「だが、何も得るものは無かった。」 「あんたも、あんたが手を差し伸べてやろうとした相手も。 少なくとも、あんたの思ったようなものは、何一つとして。」 死者は黙して語らない。 少なくとも、凡そ大半の人間にとってはそうだ。 ともすれば、それ以外の何かは得ていたのかもしれない。 それでも、あなたがそうして描いた望みの通りにはならなかった。 だから生者にとっては、今ここにある事実だけが全てでしかなく。 日常の中、薄っすらと死の気配が漂う車内は、静かなものだった。 死者は何も語らず横たわり、及ばなかったあなたの思慮を物語る。 後には破綻した願望の跡と手遅れの悔悟ばかりが虚しく転がって。 心の軋むようなその独白を、慰めるようなものは何処にも居ない。 その疵に寄り添うようなやさしい答えなどありはせず、 けれど、物言わぬ屍体や壁と言うには幾許か聞く耳を持って。 それを聞き届けるものだけが、確かにそこにあった。 (-72) 2022/08/27(Sat) 20:02:00 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー対話とも、一方通行の話ともつかない距離感の助手席で。 夕闇の中、目的地へと着くまでの、長くも短い道中の事。 取り繕わないあなたの言葉を聞いて、息吐くように笑った。 「俺があんたの仕出かした事を幾つか知っていた所で、 今更何にもなりやしませんよ。 起きた後に何をしたって、そこには何の意味もありはしない」 「後には何も残らない。たった一つ、俺達の、後悔を除いて。」 持ち込まれた遺体に何ら関わりが無いのは、言うまでも無い事。 あなたが何をしていたとて、何もしないのも本当の事。 無い仮定として、あなたが唯一の友人を殺めていたとしても この掃除屋はきっとここで何をしようともしなかっただろう。 「…そうは言っても、腹の底も知れない人間の前で、 ちっとも構えもしないなんてのは。 それはそれで、却って疑わしいもんでしょう?」 なんてのは、今のあなたの様子を鑑みれば 随分と皮肉の利いた言葉になってしまうのだろうけど。 たとえば付け入る隙があれば、誘い込むような怪しさがあれば。 魔が差す事は、或いは猜疑が首を擡げる事はあるだろう。 掃除屋は、相手が身内であっても、それ以外であっても。 何れにしても、同じだけの線を引いていた。 互いにそれをしない為の均衡は、必要なものだった。 事ここに至ってしまえば、それも不要なようだったけど。 (-73) 2022/08/27(Sat) 20:02:31 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー「結局は。さっきも言ったように、後は時間潰しなんだ」 「俺はこの後どうなろうと構いやしない。 あんたも、そこの知り合いを連れて帰ったら…… その後は、どうなるんだかな。」 回りくどく取り繕う事を止めたあなたの言葉は、 もはや殆どそれなりの事をしていると白状したようなもの。 そこには幾らかの差こそあれど、それはこちらも同じ事で そして今している事も、互いに随分と勝手な事だろう。 いったい、自分勝手に行動を起こしたツケというものは。 果たして誰にとって、どれほどのものになるのだろうかな。 結局の所、掃除屋もあなたに答えを求めてはいない。 互いに何を語った所で、恐らく殆どは互いに殆ど関係の無い話でしかなく、 だから何れに答えが返って来ようと、或いは何も無かろうとも。 きっとじきに二人と一人を乗せた車は目的地へと着いて、 そうしてきっと、この夜もまた、一つの死が葬られる。 名もなき烏の仕事場たる僻地の廃倉庫。 広くがらんとした庫内には、あたかもそこがガレージであるように 花屋のものとは違う、一台の商用バンが乗り入れられている。 暗い夜に、内部全てを照らせるだけの灯りは随分と目立つものだから。 灯されるのは幾らかの作業灯だけ。 薄暗く、人の営みの気配の感じられないその場所は、 ともすれば、その倉庫そのものが、一つの棺のようだった。 (-74) 2022/08/27(Sat) 20:03:21 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ独り言、独り言だ。決して同情して欲しかったわけではない、では何を求めていたのか。 言った当人とてこれといった展望のあるような話ではないのだろう。 けれどもこれ見よがしに突き放されたなら、それを侮りとしてとったのかもしれない。 男が反応したのはどの言葉だったろう。ひょっとすると流れるような跳ね返しの全てか。 ハンドルを切り、カーブを過ぎて真っ直ぐな道を前に見据えたところでちらとミラーを覗いて。 頭の位置を確認すると、上腕と手首を固めて反動で打つように、 相手の顔に向かって裏拳を放った。 「……口の利き方に気をつけろよ、根暗野郎。掃除屋なんだろ。 オレにはいい、でも他人の結果については利いた風な口して語るなよ」 尤もらしく言葉を付け足したところで結局のところ相手の言葉が癪に障ったに過ぎない。 ただ、執拗に突き放されるように幾重にも渡って重ねられたなら、耐えられなかったのだろう。 線引だって行き過ぎればただの対外的な嘲りだ、そう言いたかったのかもしれない。 ただ、車中でそれ以上相手に手を出すことはなかったろう。お返しも一発なら看過したかもな。 段々と地平線向こうの太陽もまた、深く深く見えない向こうへと潜っていって。 アスファルトを照らす光は月光のそれに変わりつつある。 最早誰を相手が手掛けたか、なんてのは仔細に問い詰めるべき対象ではなくなっていた。 漠然と憎悪はある。けれどもそれを上回って無力感が強かった。 今更何をしたところで状況に変わりがない、そう骨身に滲みすぎてしまったから。 倉庫の中へと車を乗り入れ、都合の良いところで停める。運転席をおり、後部座席を開けて。 半分しかない女の死体を、ごく丁寧に抱えあげて目線で指示を仰ぐ。 既に肌の下の肉は腐臭に変わりつつあった。発見場所は水辺に近かったから。 それでも決して、粗末には扱わない。その後は切り刻んで燃やすのを了承しているくせに。 目に見え、己の手の内にあるうちだけは丁寧に扱おうと、そうしていた。 (-88) 2022/08/28(Sun) 2:04:57 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー掃除屋というものは、依頼者を取り巻く諸般の事情に対して 如何なる理由があったとて、何を言うのも褒められた事ではない。 常ならば当たり障りのない相槌を返して、それで終わる事。 けれど今そうしなかったのは、どうしてだっただろう。 何を仕出かすかわからない、という後ろ向きな信用は続いている。 随分な言い方をしている自覚も。そうなる事も予想はしていた。 さりとて予想していて何になるでもなく。一度、鈍い音の後。 口の中で呟くように、遅れて広がる鈍痛に小さくぼやきを零した。 「……気は済みました? 他人に知ったような顔をされたくなかったのなら、 あんたはそれをもっと大事にしまい込んでおくべきだったよ」 「それともあんた、俺に何か期待してたんですか?」 その後にもう一度耳障りな言葉を吐いて、今はそれだけ。 何も死者の眠るすぐ傍で口論をしようってわけじゃない。 それは直接的な暴力も同じ事で、報復に手を出す事もなかった。 わかっている。それがもはや内に抱え切れず分水嶺を越え、 心の内から零れ落ちてしまった苦悩の表出でしかない事を。 摩耗しきった精神や思考に正論は何ら正の影響を及ぼさない。 そこに何を求めていたかなんて、あなたにさえ不明瞭な事だろう。 求めるものも、今よりもう少しましな道も、きっとわかりやしないこと。 それをわかっていて、態とその事を考えさせるような事を言う。 もはや正しさでは救われも納得もできやしないのだとしたら。 そんな思考の袋小路に行き着いた時、あなたは何を選ぶのだろう。 やがては自分と同じような考えに至るのだろうか。或いは、それとも。 (-114) 2022/08/28(Sun) 23:58:47 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー今は取り留めの無い思考に考えを巡らせる猶予も無く。 それから程なくして、配達車は目的地へと辿り着いてしまう。 助手席から降りて、男が腕の中に抱え上げたものを見遣る。 既に幾らかその中身を失ってしまった、華奢な女の上半身。 仮に今ここにあるのが全身であれば、話は違っただろうけれど。 けれど半分だけのそれは、解体するまでもないと判断した。 先に倉庫内に停められていた方の商用バン。 特別用向きもなしに連れて歩くには持て余す道具の最たるもの。 火葬車のバックドアを開け、炉内から火葬台を引き出し、 先に炉に火を入れて、男の抱えた遺体を火葬台に寝かせた。 そうして遺体を横たえた台は炉内へと収められ、 それきり火葬炉の扉は重く閉ざされて。 それが彼女の姿を見た最後の光景になる。 火葬に掛かる時間は焼かれるものの体格や体重に左右される。 女性の、それも上半身だけであれば、そう長い時間は掛からない。 たとえ既にその遺体が朽ち始めていたとしても、 火葬炉というのは、焼かれる臭いは殆どしないようにできている。 やがて、きっとまだ夜が深まり切らない内に扉は再び開かれる。 炉と焼け残った灰から幾らか熱が去った頃。 (-115) 2022/08/28(Sun) 23:59:26 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー灰と、幾らか残った骨は台の上から容れ物に移される。 骨壷なんて上等なものは無いから、何とも無骨な保存缶の中。 ただ淡々と納められて、あなたの方へ差し出された。 「どうぞ。連れて帰るくらいはするでしょう」 受け取らないなら、掃除屋の方で"処分"されるだけ。 少なくとも、それはあなたの望む事ではないだろう。 未だ目に見えて、あなたの手の内に戻るものだから。 「それで。先に用があった方は済んだわけですが。 あんたはどうしたいんでしたっけ?」 受け取るにしても、受け取らないにしても。 仕事は済んだとばかりにもう一つの用は切り出される。 あなたは最初に、自分より先に用事がある、と そう言って彼女の事をこの掃除屋に任せたものだった。 であれば結局、それだけが用向きの全てではないのだろうと。 (-116) 2022/08/29(Mon) 0:00:08 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ貴方は、男が何を失ったと感じていて何が残されていると感じているかなんて、 別段わかりゃしないんだろう。当たり前だ。表層上の情報以外知り及ぶ手段はない。 誰と、どんな関わり合いをしていたかなんてのを探るなんてのは警察の役目だ。 けれどそう、幹部候補であった男やその幼馴染らの事情までは探り当てることは出来なくても、 この数日間のうちに貴方の顔見知りはどれだけ失われたか。 その中にはやけに慣れたような手口で殺された人間がいくらか居たかもしれなかっただろう? はだかの体は、着せられた男物のジャケットごと火葬車の中へと消えていく。 これ以上誰にも辱められることのないように、世界の目を覆うように彼女の体が消えていく。 もしも、引き渡すに値する誰かが生きていたならば彼に渡すことも出来たろうに。 順番を違えたから、もしくは共に逝くことの出来なかったから、こうするしかなかった。 男は中も見えやしない車をじっと、無防備に思えるくらい只々に見つめていた。 何もかもが灰になってしまうまでは、傍に在ろうとするみたいだった。 やがて、夜にさえなってくれない内にあらわれた残響が容れ物へと移されるのを見たならば。 男は首を横に振った。とはいえ、これから起こることを考えたのなら結局は己で持ち去るのだろうけど。 今は、受け取らない。今は、手を塞いだりはしない。 「……今は、いい。そう、用事が、あるから」 歯切れが悪い。今までだったらもう少し滑らかに言葉を交わし、弄していくらでも誤魔化せたろうに。 火葬車から一歩離れ、倉庫を見渡す。誰もいないのを確認したのか、或いは言葉を探していたのか。 一歩。適切な間合いを取るように横にずれた足は、やはり少しの足音も立てやしなかった。 「ずっと追っていた男が、死んだ。 仲間も、友達も。おそらくきっと、父さんと母さんも。 ……ほかの何にも渡したくないくらい、好きだった人も、多分。 人は前向きに生きろって言うんだろうな。生きていく先に何かを見つけて、ってさ」 → (-121) 2022/08/29(Mon) 1:58:06 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォやっと語った言葉は結局、己の話だった。けれども説明と言うには端的に過ぎて。 指折り数えて階段を昇るような調子だ。身の回りから、多くが居なくなる。それをカウントする。 薄っすらと思い出されるのは、昨日言葉を交わした人間のこと。けれど、されど。 「どうする? アンタなら。 オレは、こうすることにした。 けれどもどんどん取り落としていくだけだった。 どうする? 何一つ変わるわけじゃなかったなら」 質問は、少なくとも形だけの投げかけではなかった、どうしたらいい、とジェイドの目が訴えていた。 されど答えを貴方から得るよりも前に、男はベルトに手を掛けた。 ジャケットを脱いだ下に纏った服装と装備は、割りかしわかりやすいものだった。 貴方の仕事着が重たいのとおんなじ理由が、そこにはあった。 答えを知りたいのに、なぜ待たないのか。理由は簡単なものだ。もう止まり方さえわからないからだ。 「いつかは気が晴れると思っていた。もうそいつは居ないってのは頭じゃわかってるしさ。 やりきれない思いが解消されるまでのつもりだった。けど、いつまでも消えないんだよ」 銃口が向けられる。掌に収まるくらいの素朴なデリンジャー。 真正面に向けられたなら避けるのは容易くも思えるし、狙いを定めた威圧感もありはするだろう。 此処で男が貴方を殺さなければならない理由なんてのは無い。無いんだ。けれど。 理由と理屈があれば止められるのだったら、きっともっと早くに誰かの言葉を聞けていた。 → (-122) 2022/08/29(Mon) 1:58:39 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ「怖いんだ、誰かが死なないと止められないんだ。 もうそれが誰で、何であったなら満足するかも自分じゃわからないのに。 誰も教えてくれないんだ。 助けてよ、 パスカル―― 」目の前の男は掃除屋の烏だとわかっているのに、男は教えられた仮の名前を呼んだ。 最初に出会った男の名を、互いを知らないうちに巡り合った人間の名を。 多少の探り合いはあったとしたって、未だ気軽に仲良くなるつもりだった時の貴方を。 助けを求める相手は、仕事人としての人間ではなかったから。 意思を聞きたいのは、答えを求める相手は敵としての貴方ではない、つもりだったから。 誰でもいいのに、誰かでなければいけない。 そんな矛盾を口にしたところで誰も真面には受け取らない。 己の中では確かなのに、己の中でさえ確からしいものはない。 貴方が答えを口にするにしろ、しないにしろ。動くにしろそうしないにしろ。 男は違えなく、迷いなく。烏に向かって、引き金を引いた。 (-123) 2022/08/29(Mon) 1:59:03 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー相手の全てなど、語られざる事など、他者に判るはずもなく。 失ったものを数えても、それが掌の中に戻る事は無い。 そしておそらく、今はもう、それらを知った所で手遅れだった。 つまるところ、全てはきっと、何ら意味の無い事で。 けれどこうして何かを選ぶことに、 僅かばかりであったとしても、意味らしきものがあったなら。 そんな届かぬ祈りじみた考えがあったのかも、最早定かではなく。 今はただ、何も言わず、あなたに干渉もしない事だけが確かな事。 軈て亡骸が形を失っても、やはり烏にはあなたに問う罪なんて一つも無かった。 結局の所は、何もかも全ては自己満足であって。 あなたを罪に問うた所で、烏は到底自分が納得できるとは思えなかった。 ああ、そう。 そうして首を振った後の返答に、ただそれだけを返して。 開いたままのバックドアの内側、火葬炉の手前。 その僅かなスペースに遺灰の納められた容れ物を一度置いて。 がつ、ごつ、重たい足音は対照的に。 あなたが訥々と言葉を語る間にも、何歩か火葬車から離れて行く。 掃除屋の仕事着が重たい理由は、数多の死を吸ったから。 そんなフィクションのような理由でなんか、あるわけもなく。 (-126) 2022/08/29(Mon) 4:46:02 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニーその間にも、つたない問いがただ流れていく。 それを聞いていないわけじゃない。確かに聞いているからこそ。 結句気休めでしかなくとも、仕事の場からは離れる必要があった。 両親、仲間、友達、奪われたものを奪い返すべき相手。 その内の幾許かは、或いは、あなたの手によって。 名もなき烏はおおよそあなたと同じようなものを失って来た。 けれどそれが等価であるとは思わない。 その重みは人によって異なるような、似ているだけで違うもの。 何れにしても、手の届く限りの殆どのものを失ってしまった時。 後に残された者のやりきれなさというものは、 いったい何をどうすれば納得が、満足がいくものだろう。 「本当はもう、答えは出てるんだろう。 何も変わらない。あんたの空虚は、永遠に満たされる事は無い」 少なくとも、それを埋めてやれる人間は居なくなってしまった。 「あんたは、あんたが死ぬまでそのままだ」 生きている限り、この耐え難い苦しみは和らぐ事無く続く。 その言葉を否定できる人間も、今この場には居ない。 続いた先に、たった一握りさえも希望を信じられなかった人間が 生きていれば、いつかは、ひょっとしたら、なんて。 そんな何処までも無責任な希望を他者に語れるはずもない。 (-127) 2022/08/29(Mon) 4:47:26 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニーだからただの一人の死にたがりからあなたに差し出すものは、 終わった先の安息の示唆と、それに行き着く手段だけ。 喪服の懐から音も無く拳銃が抜き出され、銃口をあなたへ向けて、 「楽になりたいなら、あんたは早く死ぬべきだったのさ」 「──Addio. ソニー・アモリーノ」 同じく自らに向けられたそれに構わず、引き金を引く。簡単な事。 殺すつもりはあったけれど、生きるつもりがあるでもなかった。 名もなき烏にも、或いはそれ以外の誰かにも ここであなたを殺さなければならない理由は無かった。 死にたい人間は、死ぬしかない人間は、死ぬべきだ。 そうでないなら、せいぜい生きていればいい。 このような行動に出た理由なんてのは、そんな思想だけで。 乾いた銃声が鳴り響いたなら、それは幾つだっただろう。 がらんどうの倉庫が誰かの棺となったなら、それは誰だっただろう。 誰に何処までの言葉が届いたかも定かではない。一つ確かな事と言えば、 夜が明ける頃には何れの姿もそこには無いという事。 願わくばどうか、殺すなら上手に殺してくれ。 もしもあんたがしくじった時は、俺もそうする事にしよう。 そんな思いがあったかは、やはり誰も知らぬこと。 何せそれを語る者は、結局は何処にも居やしないのだから。 (-128) 2022/08/29(Mon) 4:50:38 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ互いに失ったものを比較するほど愚かしいこともない。されど二つは似通っていた。 決定的にそれ以外は何もかも違えていても、尚取りこぼしたものの多さは近しかった。 失い続けた結果、更に失い続けることは無いだなんて空論を誰が信じることができる? 希望が重たかった。期待が重たかった。一笑して否定されたことでようやく足元が見えた気がした。 失った時点で死ぬべきだったのかもしれない。他を失わせるくらいなら、確かにそうだろう。 影法師のような男の姿をサイト越しに見据えて、微かに溜息を溢す。 「……ああ、そう。 よくわかってくれるじゃんか。オレはもう、一歩も動けやしないよ」 ひどく熱のない声は、何もかもが腑に落ちてしまったからだった。 惑う脚も誰にも伝わらない恐慌も、全てがどこに向かわせればいいものなのかを理解してしまった。 貴方の言う通り最初から答えは己の中にあって、それを肯定することが今、出来てしまったから。 銃口は相手の眉間に向けられた。己が推理したアウグストの死因と同じく、頭骨を効率よく貫いて。 交わされた相手の銃弾は腕が跳ねたせいで致命の一撃を外してしまった。肩の骨が砕け鉛が減り込む。 利き腕の神経を元に戻すにはどれだけの賭けをせねばならないだろうか。その時点で暗殺者は死んだ。 それ以外の生き方もできないのに、ヒットマンでさえあれないならその価値と意義は一切を失われたのだ。 相手の姿がぐらつくのを見て照準を下げる。もう一発は胸元へと。心臓が傷付けば血が溢れる。 確実に殺すための二発。省みる必要が無いが故の二発。己の姿を隠す必要はもう無いのだから。 血の流れる腕は相手の体が痙攣を止めるまで向けられていて、呼吸の音が途絶えてやっと下された。 銃を握ったままの影法師を、銃を握ったままに見下ろしている。 「──Addio. コルヴォ・ロッソ」 (-155) 2022/08/29(Mon) 19:52:32 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォそれから先は、どうしたっけな。 死体から服を剥ぐのも億劫なくらい片腕が重くて、そのままフルタングナイフの刃を入れた。 関節に刃を差し込み、ナイフのハンドルを足で抑えて軟骨を寸断してようやく死体を小さくしてやった。 それを、先程まで動いていた火葬車の中に寝かせた。入れ替わり、立ち代わり。 ここへ連れてきた彼女の灰を退かして、見様見真似に 異端者の地獄 へと押し込んだ。誰が来るのかもわからないのに、扉の向こうで燃える様子を眺めている。 いくらかに分けて、ひどく手間と時間を掛けて。ひとつ、ふたつ。全て灰になるまで。 途方もない時間は、宵の口の空をすっかりと昏れきった星色に変えてしまった。 そんなことをする義理なんてなかったし、望んでいるかどうかもわからないのに、 勝手にこんなことをしたところで文句を言う人間だって居やしないのだ。 自己満足、或いは酷く曲がりくねった感謝のつもりだったのかもしれない。 貴方の言葉と弾丸は、男をもう行き先の決まりきった道に押し込んだのだから。 最後のひとかけを押し込んで火を入れてから、腕の痺れが酷くなった頃に漸く離れた。 きっと用意周到な彼のことだから、あとのことを自分で何とかする手筈なんてのは済んでるんだろう。 遠くの街は祭りの最中とは言えすっかり静まっていて、そこから聴こえる音なんてのもなかった。 夏の気配だけが、なんでもなかった一週間を見下ろしてそこに或る。 血の滴る腕はそのままに、配達車へと戻っていく。片手には、娼婦の片割れであった灰。 焼け付いた死の匂いだけが、男の背中を押している。 エンジン音を最後に、廃倉庫からは誰一人いなくなってしまった。 もう、だれも。 (-156) 2022/08/29(Mon) 19:54:56 |
【秘】 紅烏 コルヴォ → 天使の子供 ソニー返る言葉を聞いて、最後の一瞬。 ただ息を吐くような、音のない笑いが、銃声に呑まれて消えた。 何もかも、諦めのついたような笑みだった。 斯くして血染めの烏は地に落ちた。 或いはあなたの影法師であって、 或いはいつかあなたの行き着く姿であったかもしれないもの。 それと向き合って、それを認めてしまったから。 それがすっかり姿を消したって、もうきっとあなたの道は変わらない。 ──曰く、ドッペルゲンガーを見る事は、死の前兆なのだと言う。 (-161) 2022/08/29(Mon) 20:33:12 |
【墓】 紅烏 コルヴォ返す返すも、運の無い人生だった。 望んだ事は叶わない事ばかり。だからいつしか望む事さえ諦めた。 諦めた、つもりになっていただけだった。 奪われたものは、奪い返すべき相手からは得られなかった。 未来があって欲しいと願った人々は、やはりその大半を見送る事になって。 受けるべきであった、誰かを殺めた報いを受ける事も無く。 もしも果たされる時が来るなら、ずっと先の事であればいい。 そう思って口にした、他愛無い口約束を果たす事も無かった。 見届けるべき死の全ても、その目で見届けるに能わず。 それらの不誠実を、無力を、差し伸べられた手を取れなかった事を。 誰に謝る権利が自分にあっただろうか。 わかっていて、友人の全てを徒労にし続けた自分に。 (+0) 2022/08/29(Mon) 20:33:45 |
【墓】 紅烏 コルヴォけれど、いつかの昔に奪われた終わりは取り戻された。 誰かの道は途絶えても、確かにその先を歩いて行く誰かが居る。 全ては叶いはしなかったけれど、全てが叶わなかったわけでもなく。 良くも、悪くも、結局自分は何もしなかったのだから。 そんなものか、とも思う。 望む事も、望まない事も選べなかった、半端者には相応しい結末だ。 だから、見届けて来た全ての死だけを連れて。 家族も、帰る場所も、行き着く先も求めない。 名もなき烏は、何処へ行く事も選ばない。 (+1) 2022/08/29(Mon) 20:34:03 |
コルヴォは、もう誰の元にも戻らない。きっと子守歌を聞く事も無い。 (a9) 2022/08/29(Mon) 20:34:09 |
コルヴォは、もう誰の死を葬る事もない。その必要がない。 (a10) 2022/08/29(Mon) 20:34:19 |
【置】 紅烏 コルヴォそれでも、うっかりいつか、何処かで再び逢う事があったなら。 誰にも許しを請いはしないから、許さなくていいから。 その時は、ただ怒ってはくれないか。 家族の望み一つ拾い上げられなかった、このちっぽけな男の事を。 (L29) 2022/08/29(Mon) 20:34:43 公開: 2022/08/29(Mon) 20:50:00 |
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