【人】 若者 ミスミ[仕事の都合で彼方此方国内を飛び回って忙しかった父親の代わりに、自分の面倒を見てくれたのは古ぼけた定食屋を営む母方の祖母だ。 お遊戯会も、授業参観も、入園式も、卒業式だって、父親が来てくれたことなんて一度もない。 遠足も運動会も、弁当を用意してくれるのは祖母だったので、大河自身は母親のお弁当というものを知らないし、自分が歩き出す前に母は事故で他界してしまったので母親の味どころか声も顔も古いホームビデオぐらいでしか知りようがない。 そんなわけだから、周りの同級生のようにカッコいい飛行機のチーズが乗ったドライカレーでもなければ、親指姫デザインのドリアでも、うさぎちゃんおにぎりのはいったお弁当でもなかったけれど、ばあちゃんの作ってくれる醤油の香ばしい竜田揚げは飛び切り美味しかったし、薄焼き卵で巻かれたおにぎりをがぶりとかじれば豆ごはん独特の甘いかおりがぷんと口いっぱいにひろがった。 ちょっと地味だけど、誰にも負けないお弁当だと保育園児ながらに思っていたし、春夏秋冬どの季節でもばあちゃんのご飯はおいしかったから、いつか自分もばあちゃんと沢山おいしいものを作りたいと自然と思うようになったのだけど] (430) 2023/03/02(Thu) 22:25:52 |
【人】 若者 ミスミ(やっぱり、日本に残ればよかったかな) [日本再上陸まではあんなに軽快に、跳ねるようにリズムを刻んでいたデッキシューズの裏も今ぺったらぺったら、下手くそな餅つきのような音を立てている。 祖母が亡くなったのは自分が父親と、彼が再婚した義母と共に渡英したしばらくあとだった。 大人になったらばあちゃんと一緒に店がやりたいと伝えた時に握った手は、どうしてあんなに大きなおにぎりが握れたのかと思うほどの、痩せて骨に皮がやっとへばりついているかのような小ささだったのを思い出す。 それでも、そしたらばあちゃんは大河が帰ってくるまで元気でおらんとねえ、と、笑っていたのに、時間というやつは何て残酷なんだろう] (431) 2023/03/02(Thu) 22:26:05 |
【人】 若者 ミスミ…。 [ぐず、と鼻が小さくなる。 こういう時に花粉症ならまだ言い訳も経つのかもしれないが、残念なことにこの短い人生いまのところ花粉よりも自分のほうが強かった] …ばあちゃんの芋ご飯、食いてえなぁ。 [ポツン、とつぶやいた声は蝋梅を散らす春一番に乗って。 馬鈴薯でも、甘藷でもない、里芋のご飯。 彼女の作る物は何を食べてもうまかったけれど、元気がないときに何も言わなくても作ってくれた大事なメニュー。 日本から離れる時に食べられなくなると困るだろうと教えてくれた分量はレシピブックの一番最初のページにある。 でも、分かっている。 あの味は、もう、永遠に食べられない。 材料もレシピもわかっているのに、絶対に、永遠に同じ味にはならないのだ] (432) 2023/03/02(Thu) 22:26:16 |
【人】 若者 ミスミ……。 [ずび。ずびび。 ああ、胃袋よりも鼻のほうが煩いとは、なんてことだ。 ばあちゃんが言っていたじゃないか、悲しい時ほどちゃんと飯を食え、と。 お腹いっぱいになったら、悲しいこともつらいこともどうでもよくなって、そんなことよりも次にどうしなくちゃいけないのかを自分の胃袋が教えてくれるのだと] …。 [すん、と、鼻を一つすすった。 日本に独りで戻ってきた以上、自分自身でどうにかするときめたのだ。 勝手に立退書類にサインしやがった親戚はおれど、そんな奴らと仲良くできる自信はない。 ならば、今の自分がやるべきことは何か] 飯を、食う。 (434) 2023/03/02(Thu) 22:26:28 |
【人】 若者 ミスミ−→店内− [そう、話はそれからだ。 和食の店や定食屋は祖母を思い出して勝手にしんみりしてしまうから今は洋モノがいい。 何も考えず、ただ飲食店だなと思って入った店の中はオールドカントリーと呼ぶにはちょっとおしゃれ。 許されるならユーズドアメリカンというよりも一昔前のイギリス、のような。 かといって雀の涙のような量しか出てこないようなオシャレなボリュームの店は今の気分ではないので、店の構え通りに田舎料理のボリュームがあることを期待するしかない。 店の戸を開き、独りであることを伝え。 カウンターでもテーブルでも構わないことは伝えたが、それよりも] のうこうかるぼなーら。 [本当だな?絶対だな??? 目に飛び込んできたメニューの日本語情報を脳内で確認してしまうのは、空港でとりあえずと食べたファミレスのカルボナーラがただのクリームスープかと思うほどさっぱりさらさらだったからだ。 さらさら、といえば味覚の好みもあろうが己の味覚は今更ながら訴える、あれは水っぽいカルボナーラだったと。 Alice in the wonderland といった店構えは帰国前からの延長戦のようでもあり*] (436) 2023/03/02(Thu) 22:27:22 |
若者 ミスミは、メモを貼った。 (a66) 2023/03/02(Thu) 22:30:57 |
【人】 若者 ミスミThanks, あー…はい、カウンターで [だいじょぶです。 今の日本の事情が分からなくて後半は軽くもごもごと口の中でこねくり回してしまったが、日本人は概ねシャイな気質だというのが国際社会の判断だから問題あるまい。 カルボナーラが本当に濃厚なのかと問いかけるようにメニューからずらした視線が、ちら、とカウンターを案内してくれた人>>441を見てしまう。 別に濃厚かどうかでなくても店員の責任ではないのだが] カルボナーラと…あとなんか、お勧めありますか。 めっちゃお腹すいてるんで、割と、たくさん食べたいです。 [ことにお勧め>>443と聞いたら胃袋がキュッッと鳴いた。 大丈夫だ、腹はすいている。 ブリティッシュポンドから日本円に換金した額面だって少なくはないので、ここ数日の食事には困らないはずだ、と思っている。 まあ、今のレートがどのぐらいかまでは深く考えたことはないけれど、だからといってブレグジットの時のようなレート暴落にはなっていないことだけは親に確認したし、きっと大丈夫だ。 ……きっと、いや、恐らく、多分。*] (451) 2023/03/02(Thu) 23:09:29 |
【人】 若者 ミスミ[何だかうれしそうだ>>454。 エプロンをしているのは見えるが、相手がご近所の昼行燈だったらどうしよう、なんてことは出てきたお冷とおしぼりの前に霧散したし、なんならうっかりお絞りの熱々さが気持ちよくて顔に当ててしまった。 これだから日本は最高だ] うーん…メインがカルボナーラだしなぁ…。 [ほこほこのおしぼり越しに示されたメニューを眺めながら緩やかに首をひねる、 チップス、スプリングロール、どれもマーケットで見かけた移民系のメニューだが] あ。 [視線が止まる。ゼッポリーニ。 ニョッキと焼き麩の間のようなメニューを見つけて瞳がひらめく。 周りはかりっと、中はもちもち。 ばあちゃんがすいとん揚げたよ、なんて、食べ盛りのころにたまにおやつに一味を振ったやつを出してくれたが本場では青のりをまぜてつくるのだと知ったのは渡英してからイタリア系移民のマーケットに顔を出すようになってからだ。 これがあるなら、昼から白ワインと一緒に今日はイタリアンランチとしゃれ込みたい。 まあ、たとえ見た目が高校生であったとしても、だ*] (466) 2023/03/02(Thu) 23:41:51 |
【人】 若者 ミスミそれは、とんでもない誘惑何ですが……いや、俺は!今は!カルボナーラが食べたいんです! [相盛りの誘惑>>478に打ち勝つように、よろしくお願いします!と頭を下げればあと少しでおでこを打ち付けるところだった。 余った勢いを宥めるように顔をゆるやかにあげれば、カウンター席ゆえ自然と視線が奥のキッチン>>465へと向かってしまう。 自分にとってカウンターの奥は仕事をするばあちゃんの独断場であり、一度暖簾が下りれば美味しそうで楽しそうな、この世のどこを探しても他に見つけられない魅惑の教室だった。 ふつふつと沸騰しないように、けれど麺を茹でる1%塩水の温度が下がらないように保つ技術が鍋の中には確かにあって、さらに薄いパンの中にはチーズと塩水とベーコンの油を三位一体にさせるための技がある。 それに、卵は思春期の女の子のように難しいのだとばあちゃんは言っていた。 熱すぎる火は卵を固くしてしまうし、温度が低すぎても卵が出汁と分離してしまうのだと] (481) 2023/03/03(Fri) 0:34:40 |
【人】 若者 ミスミ……えっ。 [経験と技術が詰め込まれたその手元を見ていた目の前に、甘くて香ばしい湯気>>457が一瞬の紗をかける。 ランチセットでで頼んだ記憶はないので、スープが出てくること自体が想定外] Who's gift …じゃない、ええと、ど、どちらさまから… [間違いではないのか。 でも、目の前に、確定的に出てきたのだから誰かの意思が働いてるとしか思えない。 一つ、首をひねり。二つ、短く唸ったその三秒後] いただきます。 [独り言で済ませるには随分大きな声とともに、ぱん、と大きめの柏手が一つ。 自分にこの一皿を届けてくれたSomeone's goodwill。 それは、ばあちゃんが昔誰とも知らない学生>>470にご馳走した一膳の里芋ご飯>>471と同じものだと思ったから] (482) 2023/03/03(Fri) 0:36:08 |
【人】 若者 ミスミゼッポリー二、なかなか日本だと食べらんないですよね。 日本の人もちもちカリカリ系好きだからうまくマーケティングしたら流行りそうなのにな。 [美味しいですよね>>478、その言葉に同意したくて首を縦に振る。 カルボナーラ、ゼッポリーニ、白のグラス。 オニオングラタンスープの次に目の前に現れたのは果たして度の皿か。 今の自分は目の前のスープに涙を流してしまうほど飢えてはいなかったが、お腹がすいているという呟きを拾った誰かの善意が目の前に形になって表れたということだけは十分にわかる。 ばあちゃんはご飯を食べながら泣いていた学生へご飯と具だくさんの味噌汁に、二切れの甘じょっぱい卵焼きとその時余裕があるおかずを一つつけてやっていた。 学校から帰ってお腹がすいていると、よくその学生の二つ隣の席で自分にも同じように出してくれた。 もう随分と会っていないのだが彼はどうしているのだろう。 まさか同じ店の扉をくぐっている>>473だなんて気づかないまま、銀色のスプーンをよくとろけたバゲットの上のチーズに食い込ませた。 ふぅ、っ、と、熱々の一さじに息をふきかけて。 大きな口で、大きな一さじをぱっくりと飲み込んだ**] (483) 2023/03/03(Fri) 0:42:21 |
(a72) 2023/03/03(Fri) 0:49:05 |
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