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【秘】 宵闇 → さよなら 御山洗これはひとり祭りをさ迷った後 三人で埋めた秘密を暴きに行った後 そして、だんだんと夢が綻んでいくどこかの時 男は、一方的に吐き捨てた再会の言葉通り、御山洗を探していた。あの時は夢がこんなにすぐ終わるとは、思っていなかったから。 ──彼はまだ、家にいるのだろうか? そうでなければ、どこにでも探しに行く。 夢が終わる前に、夢が終わるとしても さよならをするとしても 男がこのままいい夢だったと終わらせるには 寝覚めが悪かったからだ。 話を、したかった。 (-27) 2021/08/19(Thu) 18:54:58 |
【秘】 さよなら 御山洗 → 宵闇>>-27 ――まだ、祭りの終わりきらない頃。夢の覚めやらない頃。 少年たちのまばゆい夏が、未来に向けた約束を遂げた頃。 御山洗はまだ家にいて、縁台から花火を見上げていた。 ぱらぱらと降り注ぐ光の帯は夢の中でも美しいもので、きっと、誰かの思い出なのだろう。 こんな田舎で打ち上がるにしては数も多く規模も大きくて、きっと、こんなに裕福なら。 都市開発に負けず、この集落もいつかのままの形で残っていたのかも知れない。 空を彩る花火の音が、細かな音をかき消して。 誰かが訪れたのだということに、未だ気づけずにいた。 見上げる顔は色とりどりの花に照らされて、目に七色が映り込んでいる。 (-28) 2021/08/19(Thu) 20:51:10 |
【秘】 宵闇 → さよなら 御山洗>>-28 男は探し人の姿を認めると、色とりどりの光を背に歩む。 しばらく思い出に照らされるその横顔を立ち止まって見ていた。 話しかける機を伺っているのかもしれない。 一際大きな花が夜空に咲き、男の黒も鮮やかに照らされた。 そして、訪れる少しの静寂。 「よう、アキラ」 いつもの調子で、名を呼ぶ声が響く。 昼間のようにはしゃいだ風ではなく落ち着いた声だ。 (-29) 2021/08/19(Thu) 21:53:46 |
【秘】 さよなら 御山洗 → 宵闇>>-29 一瞬夢を見るような顔をして、今しがた飛び起きたように目を見開いた。 前髪の向こうに透けた表情は驚きでいっぱいになっている。 薄灰色の浴衣の袖が縁台の上で引きずられて、指先が強張った。 疑うような諦めるような、未だ信じきれていないような顔をして。 「……ゆ、め……?」 (-31) 2021/08/19(Thu) 23:36:51 |
【秘】 宵闇 → さよなら 御山洗>>-31 首を傾げた。そんなに驚くことだろうかと言わんばかりに。 「……さあ。どっちだろうな? お前はどっちがいい?」 おどけたように話しながら、からころと下駄を鳴らし 目の前までやってきて、少し困ったように笑う。 「言わなかったっけ"またな"って。話がしたいって ……だから来たんだけど。ダメだったかい」 また逃げられてしまうだろうか、それは悲しいな。 目の前までやってきて、手を差し出す。 それが取られようが取られまいが言葉は続く。 「なあ、少し外歩かないか」 閉じこもってばかりでは気が滅入るだろう、と。 もう夢は終わる。この思い出のままの村の姿は もうなくなってしまう。だから、最後に見ておきたかった。 (-32) 2021/08/20(Fri) 0:41:32 |
【秘】 さよなら 御山洗 → 宵闇>>-32 喉が嗄れたように声はうまく出てこず、短い息が漏れた。 目元から鼻に掛けては赤く腫れていて、情けない顔をしている。 "また"、都合のいい夢をみているのではないかと、自分の願望で汚していやしないかと。 泣きはらしてぼんやりとした頭のまま手を浮かせて、そのままそろそろと触れる。 見上げた顔に、ああ、と。懐かしいものを感じて、また鼻の奥が痛む。 「……どうして、来たんだ」 身勝手な物言いだなと思った。勝手に耐えきれなくなって、突き放して。 宵闇の言う通り、なにも納得させられるような話なんてしていないのに。 それがいいものでも、わるいものでも――ここはゆめのなかだから、自分の願望なのではないかと。 そこから先を求めることに怯えて、逃げていた。 唇を引き結び、差し出された手にこわごわと手を乗せた。触れ合う箇所は着いては離れて落ち着かない。 距離感を測りかねるようにかさついた手が触れて、ゆっくりと立ち上がる。 見下ろした目線の高さの違いは、いつかのものとはだいぶ違っているように思う。 (-33) 2021/08/20(Fri) 2:36:00 |
【秘】 宵闇 → さよなら 御山洗>>-33 「"ばーか。なに泣きべそかいてんだ。 お前がいつまでたっても来ないからだよ"」 なんてな、子供の頃のような戯言を吐いた。 細いけれどしっかりとした手が、大きな手を引く。 一歩踏み出す、夜に溶けそうな後ろ髪をふわりと翻す。 今や見上げるほど大きな彼を一瞥した。 田舎の夜道を照らすのは、時々上がる花火と 月明かりがほとんどだ。 男は、こうして夜に出歩くのが好きだった。昔も、今も。 「どうして、か。聞きたいのは俺のほうなんだがな。 お前が抱え込んでたもの……全部この耳で聞きたかった。 俺は言葉を音楽にして届ける仕事をしてる。 だから大事さは知ってるつもりだ」 長い前髪が風に乗って、横顔の目元を隠す。 焦がれるほどに誰かを好きな気持ちを抱いたことがない男には きっと、全部は理解できないのかもしれないけれど。 だからこそ、図々しく聞こうなんて思えるのだろうか。 「……じゃあ先に俺もなんか言うか? 祭り一人で行けって言われて割とショック受けた」 夢が綻び始めた夜の道 あてもなく歩く先にはなにがあるだろう。 (-34) 2021/08/20(Fri) 11:02:01 |
【神】 宵闇>>G11 清和 百千鳥【4日目 『不発弾』処理】 曇った表情の清和に少しばつが悪そうにした。 「……アイツは約束破ったことなかっただろ。 だから来れないのは、俺のせいだ」 子供の頃も男が振り回したりしたせいで 彼がなにかを守れなかったことが、あったかもしれない。 淡々と話しながら、幾分か真面目に掘り進めて ついに中身が開けられるときにぼんやり思ったのは 自分がなにを埋めていたのかよりも、御山洗のことだった。 「まずい、10年前の俺なら……エロ本入れてるかも。 モモチは見ない方がいいかもしれない」 冗談ひとつ、スコップを置き、不発弾の中身を覗く。 カセットテープや、写真、何かを書き残したらしいノート。 男子高校生が埋めるものなんてこんなものという平凡なもの。 当時は面白がってなんでもかんでもいれたのかもしれない。 → (G12) 2021/08/20(Fri) 11:21:29 |
【置】 あの頃の 宵闇──宵闇 翔『不発弾 <タイムカプセル> 』の主な中身『一枚の写真』 10年前の三人が自分を中心に写っている。 卯波少年からもらった(宵闇談)ベストショット 背景は宵闇の家の前、今の田舎そのままだ。 『カセットテープ』 当時宵闇が文化祭のバンドでボーカルをやった ──という設定で歌っている流行りのロックな歌。 今聴けなくてよかったかもしれない。 『ノート一冊』 なにやら色々な言葉やらくがきが書きなぐってある。 村の人たちの名前、料理のレシピのようなもの。 いわゆる、混沌と化したポエムノートかもしれない。 『楽譜』 10年前、初めて自分で作詞作曲したもののようだ。 『薄っぺらい紙切れ』 "10年後の清和へ、お前はたぶん今彼女いないに5000円賭ける" と書いてある。バカ。 (L5) 2021/08/20(Fri) 11:24:14 公開: 2021/08/20(Fri) 11:25:00 |
【秘】 さよなら 御山洗 → 宵闇>>-34 変わらない言葉を掛けてくれるのだと、変わらず手を伸べてくれるのだと。 こらえきれずに瞼に溜まっていた涙がぽろりと目頭から落ちて、 それだけで揺らぐくらい色んなものがもろくなっていることに、自分で笑ってしまう。 見下ろす目はまだ恐れていて、怯えていて、壊れ物を見るように愛しさで溢れている。 「……それは、ごめん。 一緒に行くなんて、もう出来ないと思ってたから」 御山洗はどうして彼が帰ってきたのか、わかっているようでわからなかった。 急なことで何もわからなかっただろうというのはわかるのに、 それでも遠ざけきれず、遠ざけられきれなかったのは、不思議でしょうがなかった。 「俺は、同じくらい三人でいるのが好きで、楽しかったから。 もし不用意に口にしたり態度に表れたら、もうあんな風に遊んだり出来ないんだって。 そう思ったら……もう絶対に誰にも言わずにしまっておけば、今まで通りにいられる筈だって。 ずっと、昔から、そう思ってた」 実際にはここに帰り着いて、胸の中を占めていく心に耐えきれず鬼走に打ち明けたりもした。 自分の意思で抑え込むよりも育っていく願望を恐れている事ごと口にして、満足しようとしていた。 懐かしさの中に抱いていたいつかの面影や今の宵闇に対する思いは、 結局ふとした瞬間に耐えきれなくなって口を衝いて吐き出されてしまったのだけど。 下駄の歯が控えめに地面を叩く音ばかりが耳に響く。 指先まで心臓の鼓動が伝わるくらい、やけに血が集まって熱い。 細い蜘蛛の糸のようにつながっているだけの手は、ガラス片のように剥がれ落ちそうだった。 「言うつもりなんてなかったのにな」 (-36) 2021/08/20(Fri) 12:59:46 |
【秘】 宵闇 → ただいま 御山洗>>-36 「そうか」 どうしてか遠ざけきれなかった男は、眉を下げて笑う。 見上げた先の涙を見れば、どうしても、あの時の表情が浮かぶ。 苦痛を堪えるように目を伏せる姿──同情だろうか。 過ぎ去ってしまった日のことはもうどうにもできないけれど。 「ごめんな」 お前はひどいやつだ、と言われたのを思い出して自嘲する。 彼の気持ちを知りたかった、手を取って振り回すのではなく 隣で歩いてみたかったのだ。もう、あの頃の自分のままではない。 「お前がそんな想いずっと抱えてたなんて知らなかった」 昔。10年もだろうか。忘れられてもおかしくない長い月。 男はそんなに想われるような価値のある人間だっただろうか。 「俺、いつもお前を振り回してばっかだな。大人になってもさ」 こうして手を引いて歩いていても、伝わらないことだらけだ。 男の手は体温が低くて、すこしひやりとしている。 (-37) 2021/08/20(Fri) 16:23:15 |
【秘】 ただいま 御山洗 → 宵闇>>-37 「いいんだ。隠してたんだから、知られてないならそれでよかった。 今だって困らせてるのは俺で、翔が悪いことじゃないんだから」 遠巻きにする手、遠巻きにする言葉。泣いて萎れた頭はなんだか遠い風景のように隣を見ている。 見納めるように横顔を見つめて、視線が輪郭を滑っていく。 いつかも、この夏も。ずっと見つめていたもの。風景の中にある彼を見ていたのだ。 年甲斐なくはしゃいでる姿も、バーベーキューにかぶりつく様子も、 日の傾き始める空と海の間にある姿も、等身大の彼を。 「……ありがとうな。連れてきてくれて」 きっとこれで最後になるのだろう、それを視界に収めてられるのも。 きゅうと指先を皮膚の固くなった手が握る。 握りしめているのに、身動ぎしただけでするりと落ちそうなくらい脆い。 (-38) 2021/08/20(Fri) 16:45:18 |
【秘】 宵闇 → ただいま 御山洗>>-38 沈黙。いつしか頬を撫でる風は潮風になっていた。 ──すこし遠くに、しずかな海が見える。 「なあ、」 ふいに見納める視線から逃げるように手が離れて行った。 男は少し先を歩くと、数歩先で振り返る。まっすぐ視線をやる。 「昔からって10年以上も俺のこと好きだったってことだよな。 やっぱりさ、この夢の終わりに語るには時間が足りないだろ」 「それに、まだ話は終わってない」 「俺は最初からこれを言うつもりでお前に会いに来た」 ──そして、楽し気に目を細めた。 「俺さ、驚いた、知らなかった、とは言ったけど お前の告白に対する返事をまだ"ちゃんと"してないんだよな。 ずっと考えてた……これは、本音だから真面目に聞いてくれよ」 「きっともう、ここ <同じ景色> には二度と帰ってこれないから」この場所に未練を残すのは勘弁だ。 せめて、おかしな夢だったと笑い飛ばしたい。 → (-39) 2021/08/20(Fri) 19:52:35 |
【秘】 宵闇 → ただいま 御山洗「俺は、アキラのことは好きだ──友人としてな。 お前が手を取ってくれると安心するんだ。 好きだと言われて、嬉しかったよ」 これはいつもの軽口ではない、嘘偽りのない言葉だ。 「俺とお前の好きが違うことは百も承知で言うが だからって……このまま手放したくもない。 傲慢だと思うかい、俺はいつも満たされない気分で一杯だ」 想いが両立しないときはどうしたらいいなんて、ひとつだ。 「なら俺が、考えを変えよう。変えたい、そう思った」 いつまでも同じ考えに囚われる必要を捨てる。 それに、やっぱりお前が悪いとは少しも思わないからだ。 そう思わせてしまうほど、きっと心に灯がともってしまった。 これで最後なんて、やっぱり寝覚めが悪いんだ。 どう思われようが構わない、きっと、後悔はしないだろう。 思い出は思い出のままだ。壊れはしない。 あの時楽しかった日々のままだ。 誰がどんな気持ちを抱いても、そうだ。 一歩、また一歩と近づく。目の前までやってくる。 御山洗の胸倉をつかんでぐいと引き寄せる、二つの影が重なる。 → (-40) 2021/08/20(Fri) 19:59:25 |
宵闇は、御山洗に口づけをした。 (a11) 2021/08/20(Fri) 20:02:26 |
【秘】 貴方の隣に 宵闇 → ただいま 御山洗「……どうだ、参ったか?」 顔を離すと、不敵に笑む顔が間近にある。 思い出でも今でもなく"これから"を見つめていきたくなった。 ただ、それだけ。もう、夢は終わるのだから。 (-42) 2021/08/20(Fri) 20:02:54 |
【秘】 ただいま 御山洗 → 貴方の隣に 宵闇>>-39 >>-40 >>-41 >>a11 >>-42 宵闇 夜の海は空との境界を失くしてどこまでも真っ暗なそれらが続いているみたいだった。 黒い髪に、黒い浴衣。時折ぱらぱらと光の粒を振りまく花火が、そこにいると教えてくれる。 やっぱり、海が似合うなと思った。掴みどころがなくて、波間の泡沫と一緒に流されていきそうで。 「うん、……うん。 きっとお前が思いもしない頃から……そうだったんだと、思ってる」 望みのないことだというのも、それ以上に何もかも終わらせてしまう一言だということも。 その先に何かあるだなんて思えなかったし、思いつきもしなかった。 瞼を閉ざすようにその先を閉ざされてしまうくらいなら、何も聞きたくはなかった。 だから逃げて、突き放した。その先を聞かなくて済むように。 けれども今彼が続く言葉を告げるというのなら、それを止める術もまた、なかった。 明かりになるようなものはほとんどありもしないのに眩しそうに目を細める。 告げられる言葉のひとつひとつを拾い上げて耳に入れる。返すのは小さな頷きばかり。 どんなことを望み、声にしているのか。望んでしまいそうで、期待してしまいそうで。 浮つきそうな気持ちを、きっと違うと押し止める。自分の都合のいいように思ってしまいたくなくて。 立ち尽くしたまま下がった指が、袖口に寄った皺の形に癖がついてしまいそうなくらい力を込めている。 → (-43) 2021/08/20(Fri) 20:34:57 |
【秘】 ただいま 御山洗 → 貴方の隣に 宵闇>>-40 >>-41 >>a11 宵闇 「でも――」 形のないものを恐れてまだ駄々を捏ねようとしていたのだと思う。 変わらないままでいればいい、変わらないままでいることがいいと信じてきたから。 喉の奥に封じ込めてきた思いを飲み下してしまえば丸く収まるのだと思っていた。 だからこそ何も聞かずに逃げ出したのだし、何も耳に入れようとせず。 じっと蹲ったまま時が過ぎるのを待っていた、それでいいと思っていた。 自分の上背が落とした影の中で睫毛が動くのを見ていた。 息のかかる感触があって、触れ合うものがあって。 指折り数えるようにそれを確かめて、声の近さに気付かされて。 「――」 まだ胸の奥で都合のいい事を押し込めるものがある。 それを、彼の声がそうではないと引きずりあげるのだ。 俺にとって都合のいい夢がそこにあるのではなくて。 情けなく蹲った俺に、自分で選んで手を伸べてくれたのだ。 歩み寄って、声を掛けて。いつだって、そうしてくれたように。 立ち竦んでいる腕を引いて光のある方に連れて行ってくれたのはいつだって。 (-44) 2021/08/20(Fri) 20:35:14 |
【秘】 ただいま 御山洗 → 貴方の隣に 宵闇>>-42 宵闇 「――……降、参……」 しゃくり上げて閉塞した喉からやっと出たのはそれだけだった。 涙が絡まってほとんど言えたかどうかも怪しいくらい。 背中に回したのは片腕だけ、それも一歩退かれれば押しのけられてしまえそうなくらい遠く。 それでもごく微かに背に支えたてのひらは、そこにある体温を確かめている。 うなだれた頭が側頭部に寄せられる。めちゃくちゃになった顔を見られたくなかった。 互いの髪越しの体温はほとんど通い合わなくて、がさがさと音がするばかりで。 ごくかすかに頭の重しを乗せて、腕の中にあると、きっとそう信じて良いのだろう音を聴いている。 (-45) 2021/08/20(Fri) 20:39:20 |
【秘】 貴方の隣に 宵闇 → ただいま 御山洗>>-43 >>-44 >>a12 >>-45 涙声でも、確かに聴こえた言葉に笑う。 「──は、じゃあ、俺の勝ちってことで……」 小さく吐くのは、安堵のため息だ。 得意気に湛えた笑みは少し和らいで その身を目の前の彼に委ねる。 たしかに宵闇は御山洗の腕のなかにいる。 波の音、夜の海がしずかに見守っている。 ここにある想いは、海の泡沫のように消えゆく夢ではなかった。 「もっとちゃんと捕まえとかないと 勝手にどっか行っちまうけど……?」 そっと大きな背に手をまわす こちらはしっかりと体温が感じられるくらい。 「目覚めたらちゃんとお前が見つけられる ようなとこにいてやるけどさ、」 (-49) 2021/08/21(Sat) 11:33:40 |
【秘】 ただいま 御山洗 → 貴方の隣に 宵闇>>-49 宵闇 返事をしようとして喉の奥で高い音が鳴った。しゃくり上げてうまく発音出来ないのだ。 どうにも情けない反応ばかりしているのをごまかすように、喉が唸る。 「どこにも行かないでほしい、けど。 置いていかれてもきっと帰ってきてくれるって、信じてる」 ひとつひとつを返すように、進みすぎて遠ざけてしまわないように。 同じようにそろそろと両腕を背中に回して、遅まきにぎゅうと抱きしめる。 嫌われたくない。一歩一歩、隣で歩んでいけるように。 歩むあしを揃えて、置き去りにせず、されてしまわないように。 「……俺も、きっと会いに行く。 もう見失いたくない」 背丈の違うふたりの視線はうまくは通い合わない。 同じものを見るのは簡単なようで難しい。だから手をとって確かめ合うように。 聞きそびれられてしまわないように耳に声を注ぎ込んで。 かたちがわかるように頬を擦り寄せて、肩越しの骨っぽさを感じ取って。 鼓動が伝わる。もう目を逸らしてはしまわない。 夢の終りが早く、訪れますように。 今度こそは、現実でその手を取れるように。 (-50) 2021/08/21(Sat) 13:26:53 |
【神】 宵闇>>G13 >>G14 >>G15 清和 百千鳥【4日目 『不発弾』処理】 「なになに、なんの手紙よ。ラブレター? 俺ルカちゃんへのラブレター書いたけど見るか?」 にやにやしながら、からかうような口調で言って おそらく悪戯や軽いノリで入れたであろうしょうもない 一言が書かれた紙切れをひらひらとさせた。 「反面教師は言うねえモモチさん。 まあ、たしかに俺は家にあったら捨ててそうな しょうもないモンばっか入ってたけど。 ……悪くはなかったよ。」 自分のノートを懐かしむようにぱらぱらとめくる。 「集まったのは偶然ってやつだったけどな でも昔の俺は10年後も会えるって信じてたらしい」 楽譜にさりげなく添えられた手紙を見て、思い出す。 過去と決別するというよりも、未来の自分に 振り返ってほしいものが入っていることを。→ (G17) 2021/08/21(Sat) 14:04:48 |
【秘】 宵闇 → 公安警察 清和「なあ、そういやルカ。お前この間最後のぎゃふんの『ん』は ──俺が作る、お前への歌と交換だって言ったな」 不発弾の処理が終わった後くらいそろりとやってきて話す。 ここから帰りたくないような 誰かが自身を呼んでいるような、そんな声が聞こえていた頃 けれど、薄々とここが夢だということに気づきはじめていた頃。 「それは"ここから"帰って再会した時ってのはどうだい」 ここで全て済ませてしまうことはできる。 その材料が揃っているからだ。 「全部田舎で済ませちまうのも、なんか勿体ないだろ ──まあ、先に聴いておきたいってんならいいけど」 せっかく再会したのだから、その先があってもいいはずだ。 だからこれは口実のようなものだった。 清和を追いかけるための。 「それに、実はさ、その曲ってのはお前だけでなく アキラにも聴いてもらいたい曲なんだよな、どうだ?」 そして、男は不敵に笑った。 (-54) 2021/08/21(Sat) 14:41:04 |
【秘】 貴方の隣に 宵闇 → ただいま 御山洗>>-50 「お、やっと素直になったな」 そう、それでいいんだよ、なんて上から目線。 細身の男は背丈も体格も違うその腕の中にすっぽりと収まって くすくすと機嫌がよさそうに笑う声が耳をくすぐる。 男は、嬉しかったのだ。本当に、嬉しかった。 あの時苦痛を堪えるようだった姿は 怯えるように男を無理やり遠ざける姿は もう見なくてもいいのだと思うと肩の力も抜ける。 そうだ、彼に笑ってほしかったんだ。 この心が少しだけ満たされるような気分になる。 「ああ、待ってるよアキラ」 目を閉じて、広い胸に額を押し付ける。 「そしたらさ、また俺に好きだって言ってくれよ 何度でも聞いてやるし、言ってやるし」 ゆっくりと話しもしたい。この先に想いを馳せる。 ──だから夢が終わるまで、もう少しこのままで。 (-57) 2021/08/21(Sat) 17:03:54 |
【置】 あの頃の 宵闇すこし古ぼけてかすんでいる楽譜、かろうじて読めるくらいの。 まだ音楽への知識が浅い時にはじめて創作したもの。 その曲のタイトルは『再会』 あの頃の少年が細い指でギターをかき鳴らす。 ──ふわりと、頬を風が撫ぜた 前奏、それはそよ風のように優雅に 爽やかな空気の流れるはずんだ音 雲ひとつない青空広がるすっきりとした空。 ──僕らは繋がっている ──きっと同じ空を見上げている 間奏、転調、雨が降ったように、ぽつりぽつりと。 しっとりとした、音が紡がれる。 それは恵みの雨、悲しみを流す清らかな水だ ──晴れた夕焼け空にカラスが鳴く ──帰ろう、僕らの道へ 後奏、夜が訪れるように 宵闇は光へと続くしずかな夜だ。 ──朝は必ずやってくる ──それまでは安らかな夢を (L13) 2021/08/21(Sat) 18:19:17 公開: 2021/08/21(Sat) 18:20:00 |
【置】 あの頃の 宵闇 "未来"の宵闇 翔へ 元気ですか? ちゃんとメシ食ってますか? 彼女はできましたか? 夢は叶えましたか? 俺は小さい頃、なんとなく母さんが喜んでくれるからって 理由でピアノをやってたけど、今ではすごく楽しんでる。 都会の音楽に触れられるようになったのはルカのおかげだし。 俺もなにか夢を持ってみたいと思ったのはアキラのおかげだ。 未来の俺はどうですか? もし、挫折してたりつまんねえなって思ってたら いっそ音楽なんてやめちまえばいいと思います。 それもいやなら、一緒に入れた楽譜を見て思い出してくれ。 これはアイツらには今はナイショだけど、曲をつくったんだ。 練習もしたから今の俺は歌えるし、思い出すはずだ。 まだうまくできないけど、未来の俺がアイツらと再会したら 歌ってくれよな。絶対はずかしいと思うけど。 過去の宵闇 翔 (L14) 2021/08/21(Sat) 18:21:01 公開: 2021/08/21(Sat) 18:25:00 |
【秘】 あしたの 御山洗 → あの頃の 宵闇>>-57 宵闇 じわりと滲んだ涙をうまく堪えることが出来なかった。体温の移ったしずくがぱたと落ちる。 喜ばしいからか、安堵したからか。許されたからか、まだ薄く残る罪悪感なのか。 ぐるぐると胸の内をわだかまっていたものは、溜息と共に落ちて、消えた。 好きだ、ともう一度だけささやく。今度は耐えきれなかったためではなく。 今こうして伸ばされた手を、掴み取ることが出来た手を、ちゃんと握って。 逃げるためではなく、心から伝えたかったこととして。 夜空から夢の世界を見下ろすような花火が消える頃には、夢は醒めてしまうのだろう。 ひと夏の気紛れと思い出が作り上げた願いの世界は、消えてしまっても。 ちゃんと自分の意思で願って、その手を掴みに行くために。 置き去りにしてしまった不発弾を、皆でもう一度見るために。 背中を向けたままだった思い出の中の人達に会いに行くために。 今なら、それが出来る。 ベゴニアの花言葉は――。 (-58) 2021/08/21(Sat) 18:51:17 |
【人】 音楽家 宵闇ここにずっといたら取り戻せそうだった心があった。 今の自分にはなくて、過去に置いてきてしまったものがあった。 思い出せそうだった、すこしだけ思い出した。 それは『好き』という、身近にあって大事もの。 この村で培ってきたものが、音楽が好きだった。 男はきっと、この夢の事を一曲にするだろう。 ひとりの老人が、皆が愛した村。 ──時数えの田舎村。 (39) 2021/08/21(Sat) 20:55:31 |
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