環 由人は、メモを貼った。 (a2) 2020/09/12(Sat) 14:15:11 |
【人】 環 由人[ 夜と朝の境目。 曖昧にしていてもきっと許される 孤独なひとたちのひととき。 美味しい、なんて言葉を言われたことはない。 いつだってその口からこぼれるのは 恨み言みたいな形をしていて─── それでも、構わなかった。 その言葉の裏に隠されたものは 空っぽになった器に現れていたから。 時折お礼の様にちょっと良いフルーツが>>3 テーブルの上に置かれている時がある。 ただの余り物の処理なんだから、と 一度は伝えたけれど、 気持ちだと言われたのなら そうか、と眉を下げて、それからは もらったフルーツはすぐ食べられるように 向いて、一口大に切ってタッパーに 詰めて冷蔵庫に入れておくようになった。] (37) 2020/09/12(Sat) 20:45:49 |
【人】 環 由人[ 部屋が見つかるまで、という約束だった。 だから、いつかこの日々がなくなるって ぼんやりわかってはいるのに、 どこかでずっとここにいるんじゃないかって そんな幻想を抱いて、そっと、蓋をしたのだ。 そんなある日。 机の上に置かれたガイドブックを見つけた。] ───北海道? [ 旅行にでもいくつもりなのだろうか。 そういえばこの前商店街の福引で 北海道旅行が景品で出ていたらしいが…] ……あ、 [ 合点する、やっと意味がわかった。] (38) 2020/09/12(Sat) 20:46:26 |
【人】 環 由人[ 奥様方になにやら色々言われたのだ。 「お友達よかったわねえ」 「うらやましいわぁ」 けらけら笑う奥様方の会話に、 相変わらず下手くそな愛想笑いを返していた。 それが、つまり、これか。 「よかった」も「うらやましい」も 北海道旅行のことか。 なるほどな、とうなずいて。 ペア旅行券だったとたしか言っていたけれど、 誰といくのだろう、───そういえば、 恋人の話はしたことがないなと思った。 だが、その次の展開は予想外である。 誘われたのは店の従業員でも、 友達でもなく──己だった。] (39) 2020/09/12(Sat) 20:46:46 |
【人】 環 由人え、俺? [ すこし驚いて、目を開いてしまうものの、 嫌かと聞かれたらそんなわけはなく。 旅行なんて久方ぶりだし… そのチケットを見つめて、彼の顔を見つめて、 交互に数度、繰り返してから、 「ほんとに?」と一応確認していた。 俺と彼の関係を表すのならば、同居人。 友達ではないし、もちろん恋人でもない。 知り合い、ではあるけれど、その位置よりも もっと親密なもので───少なくとも、 自分はそうだと思っていて。 そうでありたいと思っていて。 だけど、彼の中で己がどういう位置にあるのか よくわかっていなかったから、 純粋に驚いてしまったのだ。] (40) 2020/09/12(Sat) 20:47:09 |
【人】 環 由人[ もう一度聞かれたら「いや」と前置きを してから、ほんのすこし下手な微笑みを浮かべて。] うれしい、……ありがとう [ と小さく落とすのだった。 まとまった休みが取れるといえば─── 次は年末年始だろうか、と確認を。 北海道なんて、行ったことがなかった。 もっと遠い土地にひとりで行ったことは あるのに、変な話だ。 それから、普段は見ない テレビをわざわざつけてみたり、 彼が買っていたことは別の ガイドブックを買ってみたり、 スマホで北海道旅行について 検索をかけてみたりと、それはそれは わかりやすく楽しみにしてしまう。 あんまりあからさまなのは すこし恥ずかしかったから、 もちろん一人の時に、だけれど、 資料が増えているのは明らかだっただろう。] (41) 2020/09/12(Sat) 20:48:40 |
【人】 環 由人[ 見てはいけない気がした。 わかってた、はずなのに、 どうしてか出してしまった。 蓋をして、そのままにしてた。 なあなあにしててもいいと思ってた。 初めに提示した条件も、なにもかも。 しばらく、じっとそれを見つめて。 ああ、うん、そうだな、 その方がいいに決まってる。 その内容は見なかったことにしようか、 なんて考えながらそっとしまった。 その日ばかりは己の無愛想さに 感謝した。</gray>───うまくできていたかは 定かではないのだけれど。</gray>] (43) 2020/09/12(Sat) 20:49:36 |
【人】 環 由人[ ただその日は、曖昧に濁した答えが 出せなくて、彼が切り出すよりも早く、 「今日は、眠れそうにない」なんて、 下手くそな誘い文句をかけてしまったから、 変に思われたかもしれない。]* (44) 2020/09/12(Sat) 20:50:03 |
【秘】 橋本 雅治 → 環 由人[もし、それでも足りなかったら───── 俺、馬鹿だから、それよりもっと 誰かを近くに感じる方法なんか ひとつしか思いつかないと思う。 キスより深くて、人の体温を直に感じて とろっと溶け合うような感覚なのってさ。 いろんなものを夜の帳に隠したまんま 事に及ぶのは、卑怯かもしれないけれど……] お願い、今だけマリィじゃなくて 雅治って呼んで。俺の名前。 [そう、由人に懇願しただろうか。]* (-15) 2020/09/12(Sat) 23:09:22 |
【独】 環 由人/* 文字装飾失敗するのって結構へこむんだけど、相方さんがとてもとても素敵でやさしいのでへこんだ心が元どおりよりももっと上がってしまうね (-20) 2020/09/12(Sat) 23:44:58 |
【人】 環 由人[ だって、よく知らないのだ。 面と向かってきちんと話をするだとか、 あまりしてこなかった。 ほんの数時間、正面に座って食事をして、 あとは一緒にただ眠るだけだ。 ただ、それだけの、同居人。 きっと彼にとって人生において W間借りWしている存在だろう、と。 だけど、もしも自惚れるのならば、 自分が彼と逆の立場だったならば、 同じように、彼を誘っただろう。 友達と呼べる人もいない。 恋人も、いない。] (55) 2020/09/13(Sun) 0:44:56 |
【人】 環 由人[ WマリィWなんて名前にそぐわないほど 骨張った男の手が前髪を梳く。 そっと頬に降りて、ぴく、と 触れられていないとわからないほど 微かに体が揺れた。 顎を軽く二度浮かすみたいに頷いて、 眉尻をすこしだけ下げた。 『当たり前だろ』と言わんばかりに。] (56) 2020/09/13(Sun) 0:46:09 |
【人】 環 由人WのぼりべつWだな、 あー、いい、うん、温泉、行きたい [ 最近知った読み方の地名。 北海道にある温泉地らしく、 調べたときにはそれはそれは様々な 宿が出てきたものだ。 提示されたホテルに頷いて、覗き込む。 近頃二人で話すことが前より増えた。 大抵は旅行に関すること。 机の上に広げられたガイドブックは、 たぶんお互いすでに数度目を通してる。 ときどき調べた知識やら、 ネットで見つけた行きたい場所を 横から挟み込んではプランを練っていた。] (57) 2020/09/13(Sun) 0:46:33 |
【人】 環 由人[ そんな日々の中で見つけたのだ。 例の、茶封筒を。 無愛想と仏頂面を体現したような 顔をしていると自分でも よくわかっているから、そのおかげで きっと気付かれてないと思ってた。 彼がいつになく、己の料理に 前向きなコメントをくれたのに、 「そう」と頷くことしかできなくて。 どうしても考えてしまう。] (58) 2020/09/13(Sun) 0:47:03 |
【人】 環 由人[ またあのラジオの声をひとりで聴きながら、 寂寞に飲まれて潰されそうになる夜を 過ごすことになるのかもしれない、と。 わかってたのに、自分で、蓋をして 見ないフリばかりしていた。 もっとはやくから向き合っていれば 大丈夫だったかもしれないのに、 あまりに訪れがいきなりで。 やっぱりきっと、自惚れてた。 本当は、温もりのなくなる日々を 想定して、あの曖昧な返事を きっぱりとしたものにかえて、 一人で眠ろうかとも思った。 だけど───だけど。 口から出たのは、真反対の言葉だった。] (59) 2020/09/13(Sun) 0:47:40 |
【人】 環 由人[ 問いかけられたことにそっと目を伏せて、 それから小さく、頷いた。 嘘はついてない。 たぶん、今日は眠れない。 明日も、明後日も、もしかしたら─── 伏せた瞳を覗き込まれるから、 ゆっくりと瞬きをしながら視線をあげた。] (60) 2020/09/13(Sun) 0:48:04 |
【赤】 環 由人[ 続けられた問いかけに揺れる。 いつだって触れられるのは、 体と髪だけだったのに。 親指が唇をなぞる。 ぞく、として、どくん、と打って。 そんな雰囲気になったことは 今までなかったし、彼がどっちなのか、 そんなことすら知らないのだとわかる。 その熱を識りたいと思う自分と 識るのが怖いと思う自分がいて ただ、おずおずと重なった唇の 柔らかさは、とても好きだった。 絡んだ舌先の甘さも、同じ。 微かに歯磨き粉のミントが抜ける。] (*2) 2020/09/13(Sun) 0:48:42 |
【赤】 環 由人…ま、さ はる───、 [ 知ってはいたけれど、一度も 口にしたことのなかった本名を その震える声に乗せる。 見上げた瞳に、灯るのは何色なのだろう。] (*3) 2020/09/13(Sun) 0:49:43 |
【秘】 環 由人 → 橋本 雅治[ ───眠れないといったから? ここで体を重ねてくれようとするのは、 己がそう求めたから、なのだろうか。 そこに彼の意思はあるのか、 同居人、だから居候、だから、 なにかを返そうとしてくれて いるわけではないのだろうか。 ───もしも、愛してしまったら それは彼にとって、あのカウンター越しに その髪を掬って笑っていた 社長と同じにはならないのだろうか。] (-23) 2020/09/13(Sun) 0:56:42 |
【秘】 環 由人 → 橋本 雅治[ だって、期待してる自分がいる。 知りたいと、その奥底の深いところまで 触れ合って、溶け合ってしまいたいと。 だけど、熱を知って、後悔しないだろうか。] (-24) 2020/09/13(Sun) 0:57:35 |
【秘】 環 由人 → 橋本 雅治[ 知ってる、一人だけ、勘違いして 蓋を開けたらなんでもなくて、 そのときの虚しさも、痛みも、 諦めも、なにもかも知ってるから。] (-26) 2020/09/13(Sun) 0:59:28 |
【人】 環 由人───ごめん、 変なこと言った、忘れて。 コンビニ行ってくる、 [ そう落として部屋から出る。 居た堪れなかった。 俺と彼はただの同居人。 友達でもなければ、もちろん恋人でもない。 知り合いの延長線上の、否、ほんとは─── その先を望むのが、怖かった。]* (62) 2020/09/13(Sun) 1:02:16 |
【秘】 橋本 雅治 → 環 由人 [だって、俺本当に馬鹿だから。 “登別”だって読めなかったし 読めないからそもそも本だって読まない。 本当に、他の生き方が選べたら、って 後悔しない日はない。 俺が俺じゃなくなったまま このままぽっくり死ぬまで……? じゃあいつ死ぬのかって、明日?今日? 終わりも見えない夜の道。] (-39) 2020/09/13(Sun) 13:05:03 |
【秘】 橋本 雅治 → 環 由人 [だけど、一緒に生きてくれるかもしれない人が 今、ようやくここに居る。 ここで手を離したら多分もう次はない。 きっかけが「眠れない」って一言だったとしても 「もっとずっと一緒にいたい」ってこと ちゃんと伝えられるかなって、思って……] (-40) 2020/09/13(Sun) 13:05:55 |
【人】 環 由人[ 秋の夜は、思っていたよりも寒い。 さっきまで火照っていた体が、 風にさらわれて熱ごと奪われていく。 徐々に頭がはっきりしていく。] バっ…カだなぁ…… [ どうせさらわれて消えるから、 小さな声で呟いて、自嘲するみたいな 笑みを浮かべた。 なにも持たずに飛び出したから、 コンビニには行けなくて、ぼんやりと 歩いていたら辿り着いたのは、 あの日彼を見つけた公園だった。] (114) 2020/09/13(Sun) 19:16:41 |
【人】 環 由人[ 外灯が照らす砂利がぼんやり、 浮かび上がるみたい。 なんとなくそちらに足を向けて─── あの日と同じブランコに腰かけたら、 鎖がまた、ぎぃ、と小さく音を立てた。 あの距離感が必要だったんじゃないのか。 ただ、一緒に飯を食って、 隣で眠るだけの関係でよかったんだろ。 それ以上を求めるつもりなんてなくて、 ───ちがう、結局自分本位なんだ。 一度知ってしまった熱をまた 求めてしまいそうになるのが怖い。 期限が、すぐそこまで迫ってるのに、 今更関係を変えてしまうのが怖い。] (115) 2020/09/13(Sun) 19:17:08 |
【人】 環 由人[ ───離れたくないだとか、 ここにいてくれだとか、 そんなことを言える立場じゃない。 救われたのは───俺だったから。 結局コンビニには寄らずに、 しばらくぼんやりしたあと、 夜風の冷たさに震えが走ったから 自宅に帰った。 リビングにある背中に、唇を結ぶ。 声をかけてはいけない、きっと。 ごめんって声をかけそうになったから、 飲み込んだ。その意味を悟られることは きっとないのだろうから。] (116) 2020/09/13(Sun) 19:17:35 |
【人】 環 由人[ ひとりぼっちでベッドに入った夜は、 やっぱり思った通り、寝られなかった。 朝起きたら寝不足で気分は悪いし、 なんだか頭は痛いし───散々で。 それでも店は開けなきゃいけないし、 接客もしなければいけない。 おばさま方には「顔色悪いわよ」と 言われてしまったけれど笑って誤魔化した。 それからも、ずっとWいつも通りWだ。 相変わらず美味いとはいわない男に 余り物の処理を手伝わせて。 あの日のことには触れないまま。 ただ一つ変わったのは、あの日からずっと、 狭いベッドの右側をあけたままひとり、 丸まって眠るようになったことだけ。] (117) 2020/09/13(Sun) 19:18:14 |
【人】 環 由人[ 季節が変わっていく。 白菜と鳥もも肉とジャガイモのクリーム煮 ベビーほたてのしょうゆ炊き込みご飯 鮭のちゃんちゃん焼き 大根とえのきの肉巻き照り焼き とうふのあんかけそぼろ かぶと鶏団子のとろとろ中華スープ ごぼうとにんじんのサラダ ピリ辛ネギチャーチュー レンコン入りしゃきしゃきつくね ほかほかあったかい料理に変わる 惣菜のラインナップとは裏腹に、 どこかぎこちなくなってしまったけれど、 それでも旅行は楽しみだった。 ───いつあの茶封筒の話を 切り出されるのだろうかと、 半ば生殺しのような気持ちは 拭えないままだが。] (118) 2020/09/13(Sun) 19:18:41 |
【人】 環 由人[ 海外用のでかいスーツケースは さすがに邪魔だなと思ったから、 小さなボストンバッグに詰めた、 いつもの服や下着。 チケット類は忘れないように 手持ちの鞄に詰めた。 出発前夜。 またいつもと同じほうじ茶をいれる。 なんとなく、本を読むのはやめて、 彼が食べている様子を見ていた。 別に意味はない。ただ、見たかっただけ。 だから、なにを聞かれたって「別に」と しか答えることはしないだろう。 空になった器を片して、 今日もまた、あのベッドの左側で眠る。] (119) 2020/09/13(Sun) 19:19:24 |
【秘】 環 由人 → マリィ[ ただひとつ違うのは───] おやすみ、 ───明日、楽しみ、だな [ ほんのすこし眉を下げて 笑ったことくらいだろう。] (-47) 2020/09/13(Sun) 19:19:52 |
【人】 環 由人* [ 新千歳空港までは1時間30分。 最大で350トンにもなるという 人と貨物を乗せた金属の塊は、 白い雲を抜け、青い空を横切って 北の大地に降り立った。 光の差し込む近未来的な建物に、 「おお」と小さく声を漏らして。 予約していたレンタカーを借りに 受付のカウンターまで向かう。 借りるのはブルーのエコカー。 陽の光をうけてきらりと光った車体に、 荷物を詰め込んで、運転席のドアを開いた。 体を滑り込ませて、扉を閉め、 シートベルトをして、エンジンをかけた。 ナビを操作する。] (120) 2020/09/13(Sun) 19:20:11 |
【人】 環 由人───チーズ食いにいかない? [ そう提案するのは、ガイドブックの 付箋の一つ、富良野のチーズ工房。 ピザが美味いというその場所に いくのはどうかと。]* (121) 2020/09/13(Sun) 19:20:25 |
【秘】 マリィ → 環 由人[そうして寝る前に 久しぶりに声をかけてもらったなら] ─────楽しみで眠れない、なんて こどもみたいなこと言わないでよね。 [そう微笑み返して、ソファーの上で丸まるの。] (-56) 2020/09/14(Mon) 11:41:02 |
【人】 環 由人[ その地に降り立った瞬間響き渡った となりの男の野太い声に、 眉根を寄せて、それから ふは、と噴き出して笑った。 「声がでけえ」と呟いて、さっさと 受付の方へと向かってしまおうか。 伸ばされた手が繋がれる。 ───こんなふうに誰かと外で手を繋いで 歩いたことなんて、一度たりとも なかったのに、気恥ずかしくも嬉しくて、 振り解いたりはせずそのまま繋いでいた。 外に出ると刺すような寒さが 体を覆うから、思わず小さく 「さむ」と呟いた。 借りた車に体を滑り込ませれば、 温められた車内に、ため息が溢れた。] (160) 2020/09/14(Mon) 13:06:59 |
【人】 環 由人[ このまま二人、乗っていたらきっと 外気との温度差にそのうち車窓は 結露して、曇るんだろう。 提案が受け入れられればほんのり微笑んで ナビに場所を入力する。 ブレーキを踏んで、サイドブレーキを外し、 ギアをドライブに入れれば、 スタッドレスのタイヤを履いた青い車体は 広い大地に敷かれたアスファルトへと 滑り出していくのだった。] (161) 2020/09/14(Mon) 13:07:15 |
【人】 環 由人 ───チーズ工房 [ 銀世界の中にたたずむ建物は、 実際に見ると、男二人でくるには かわいらしすぎるなと思った。 大きな牛のオブジェを横目に、 説明を一通り聞き終われば、 悪戯っぽくされたおねだりに、 眉尻を下げて、困ったように笑った。] ピザは作ったことないな [ くるくる生地を回すイメージはある。 ただそれが自分にできるとは思えない。 絶対プロが作った方がうまいだろ、と 思ってしまうから断ろうとしたのに。 そんなことを言われたら、 うまくいえないじゃないか。] (162) 2020/09/14(Mon) 13:07:45 |
【人】 環 由人[ 「いつも食ってるだろ」と言いそうに なった唇をそっとつぐんで、代わりに] わぁかったよ [ と了承して、申し込んだ。 メニューは3種類あるらしいが、 スタンダードにマルゲリータを選ぶ。 通された工房で教えてもらいながら 作るピッツァは案外たのしくて。 残念ながら回すのは全く出来なかったが、 麺棒で伸ばした生地がうまく 均等になったときは誇らしくもさえあった。 窯から銀が色の大きなヘラで 網ごと取り出されたときは、 思わず「おお」と声を上げたものだ。 香ばしい小麦の匂いと、トマト、バジル、 チーズのいい香りが混ざって、食欲をそそる。 もう一つ、特製のチーズが5種類 乗っているというピッツァも注文して、 席に着いた。] (163) 2020/09/14(Mon) 13:08:17 |
【人】 環 由人[ 大きめに切られた熱々のピッツァを 一切れ皿に移して、そのまま持ち上げて 口に入れると、まずは生地のざらつきと ほんのりとした甘さが広がる。 かぶり付くと、トマトの酸味とバジルの香り、 そしてチーズの旨味がまざって、 香ばしさが鼻から抜けた。] はふ、 あっふぃ、けど、んま、 [ 噛んだまま離すとびよーん、とチーズが伸びる。 はふはふ空気を取り込みながら、咀嚼して 飲み込むと、ふ、と息が漏れた。] (164) 2020/09/14(Mon) 13:08:42 |
【人】 環 由人焼きたて、うンまい [ そうしてもうひとくち、運ぶ。 プロが作ったものとは違うし、 きっとプロが作った方が美味いのだろうけど 自分で作ったものは愛着もわくし、 どこか特別な気がした。 ジンジャーエールがしゅわしゅわと 喉を潤してくれる。 一通り楽しんで、お土産にチーズを 自宅に送ってしまえば、 夜にでも食おう、とワインチェダーチーズを 一箱買って、車に乗り込んだ。] (165) 2020/09/14(Mon) 13:09:00 |
【人】 環 由人[ 次に向かうのは小樽。] わりと離れてるし寝てていいよ [ と断りを入れて、ナビに入れた、 芸術村までの道のりを走り始めた。]* (166) 2020/09/14(Mon) 13:09:18 |
【独】 環 由人/* 富良野いく予定にしてなかったのにわたしがチーズ工房行きたくてつい入れてしまったので全日程をずらすはめになる 北海道は広いね (-57) 2020/09/14(Mon) 13:10:08 |
【人】 環 由人なにそれ、バター? [ ピッツァを食べ終わった後、 店員さんに渡されたココットを受け取る 彼の手元をそっと覗き込む。 いつも見るものよりも空気を含んで すこし白い気のするそれと、 彼の顔を交互にみて。] 作ったの? [ と尋ねた。 是が返って来れば、「すげえ」と 小さく落として、口元を緩めた。 どこかでパンでも買うか、そういえば ここにも確か売っていたはず…と 思ったのだけれど、クール便の中に 入れるから、目を眇めてから頷いた。 「帰ってからの楽しみ、増えたな」と わらって、その蓋が閉じられるのを見ていた。] (181) 2020/09/14(Mon) 19:15:23 |
【赤】 環 由人[ ひとに何か作ってもらうって いつぶりだったんだろう。 まだ口に入れてないし、 ココットの中身はきちんと成形されてもいない、 不格好なただの白い塊だったけど、 それでもそれが、たまらなく嬉しかった。] (*8) 2020/09/14(Mon) 19:15:40 |
【人】 環 由人[ 次の場所へと向かうまで、 寝てていいよ、と気遣ったつもりなのに、 あっさりと断られて、「それより」と 切り出された話に耳を傾けた。 失礼なあだ名をつけられたといいながらも その表情と声色に滲むのは喜びで。 相槌を打ちながら、なんとなく、 自分まで嬉しくなってしまう。 伝染したのかもしれない。 マリィは子供に好かれると思ってた。 どう接していいかわからない、という 気持ちは己にもわかるけれど、 わからないなりにどうするか、という点で きっと彼と自分ではかなり差が出るだろう。] (182) 2020/09/14(Mon) 19:15:54 |
【人】 環 由人あんたは、面倒見いいから [ まっすぐ前を向いたまま、思い返す。 カウンターの向こう側に立って、 いつも誰かの癒しになっている人。] 楽しかったならよかった、 俺も結構楽しかったよ [ 本音を曝け出すこともできずに、 笑い飛ばそうとしてしまう不器用さ。 夜の公園でぼんやり、ひとりで 悩んでしまうような繊細さも、知ってる。] (183) 2020/09/14(Mon) 19:16:17 |
【人】 環 由人[ だけど家族の話も彼としたことはない。 さすがに、己の実家に住んでいるのだから 己の両親については話しているが、 そう思えば彼についてはなにも 知らないんだな、と思った。 ───あの、茶封筒の話も、結局。 だがそんなことを考えているとは 一切顔に出さないまま、車は走る。] (184) 2020/09/14(Mon) 19:16:33 |
【人】 環 由人[ ちなみに、家族にいいところを見せたい パパたちに混ざって真剣にピッツァを 作っている間そう広くない建物の中に 響き渡った声は、はっきりと、 とはいかずとも届いた。 間違いなく、ドスの効いたそれは 彼の声だったから、思わず ふは、と笑って、そのままくつくつ 肩を震わせて、ツボに入ってしまって 隣にいた参加者のひとに、 「どうしたんですか?」と困惑した 視線を向けられてしまった、 なんて話も続けてしてしまおうか。] (185) 2020/09/14(Mon) 19:17:06 |
【人】 環 由人[ 白銀をひた走る車体。 広くまっすぐな道のりは車通りも少ない。 この寒さだ、人もほとんどいない。 ときどき、前方にも後方にも車が見えず、 対向車も一台も通らない時間がある。 そんなとき、ふと考えるのだ。 もしも、今時が止まったら。 もしも、世界が二人だけなら。 こんな曖昧に乱れた思考は放棄して 今考えてることや感じてること、 曖昧にして気づかないようにしようと していることもすべて、吐き出して しまえたらいいのに、と。] (186) 2020/09/14(Mon) 19:17:38 |
【人】 環 由人[ だけど、時間が止まることはないし、 世界は二人だけではない。 だから結局口をつぐんで、 いえないまま、遠いどこかを見つめて。] (187) 2020/09/14(Mon) 19:18:08 |
【人】 環 由人そうだな、人少ないといいけど [ そう呟いて、走らせた車は、 しばらくあと、青い看板に沿って 小樽芸術村と書かれた施設へと入っていく。 思ったよりも移動に時間がかかってしまって、 そう長居はできそうになかった。 石造りの建物がそびえている。 青々とした芝生があるはずの場所は、 今は白く雪に塗り潰されていた。 昔は小豆を収める倉庫だったという それは、今は美しいステンドグラスを 展示する美術館になっている。 芸術村には三つの建物がある。 全てに入れるチケットも売っていたが、 すこし迷って、それから、 ひとまずステンドグラス美術館を見て、 それから時間がありそうなら他のを、 という話になった。 チケットを購入して、建物に向かう。] (188) 2020/09/14(Mon) 19:18:28 |
【人】 環 由人[ 一歩中に入ると、どこか荘厳な雰囲気で。 暗い室内に、美しいステンドグラスが 浮かび上がるように展示されていた。 実際に教会で展示されていたという それらが、この遠い東の異国にある 北の大地の小さな建物の中で、 美しく光り輝くだなんて、 誰が予想したのだろうか。 見事な芸術に、息を吐く。 そっと、彼の手を取った。] (189) 2020/09/14(Mon) 19:19:21 |
【人】 環 由人───……きれいだな [ 呟いてから、力を込める。 結婚式も行われるらしいこの場所に、 今、ふたりで立っている。 不思議な縁で、名前のない関係。 それに名付けるのが怖い。 踏み込むのが怖い。 失うくらいならば、進まないほうが 触れないほうが、閉じ込めたほうが、 きっと、そのほうがいいと思ってた。 開きかけた唇を、閉じて。 瞬きを数度かさねる。 息を吸った。] (190) 2020/09/14(Mon) 19:19:44 |
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