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【人】 従業員 ルミ……えっ。 お、おんぶ? い……いいの? 重い……かも、だけど……。 [ てっきり肩を貸すか、腕を掴ませるだとか。 そんな支えを考えていたけれど、 リュックを前で抱えた彼はおんぶをしてくれる気らしい。 しゃがんだ大きな背中に少し動揺して、 それからえい、と身を預ける。 ──今までの彼女にもこんなことをしたのかな。 "女"として見ていれば、おんぶは選ばないかも。 そんな想像と考えがぐるぐる巡って、 回る度に心がちくちくとささくれ立つ。 優しさに喜ぶ自分と、可能性に憤る自分の二律背反。 かさぶたに貴方の温もりという薬を塗る。 ] (50) 2024/05/06(Mon) 1:10:25 |
【人】 従業員 ルミ実家、出たの。 あの公園がね、ベランダから見えるとこ住んでるんだ。 えっと、まずはこの道真っ直ぐ── [ 公園の近くというわけではない。 上層階からならベランダから遮蔽物なく見下ろせるのだ。 彼の実家からも近すぎない距離に家を借りている。 ここからならおんぶでも五分もかからないだろう。 人気の少ない道を、二人で進む。 ] (51) 2024/05/06(Mon) 1:10:28 |
【人】 従業員 ルミ[ やがてマンションのエントランス前まで到着すれば、 彼の服をすこし引っ張って意識を向けさせる。 道中ではどんな話をしただろう。 近況報告か、あるいは昔話でも交わしたか。 いずれにせよ、わたしは「あのね」と話を切り出し ] せっかく久しぶりに会えたんだもん。 少し上がっていってほしいなって。 ……だめ、かなぁ? [ すこし弱々しい声音で、わたしは首を傾いだ。 再会をここで終わらせたくないと言うように、 ────或いは蟻地獄の入り口で手招くように。** ] (52) 2024/05/06(Mon) 1:12:28 |
【人】 従業員 ルミえ、 [ 幼い頃の自分は、随分と話下手だったと思う。 家にいてもどこにいても誰かと会話することもなく、 常に下を向いて生きていたから。 だから最初に話しかけられた時も、目を瞬かせて 視線を落ち着きなくうろつかせた記憶がある。 差し出されたアイスの片割れ。 もう二度と元の形には戻れない、分かたれた半分。 ] ……あ、あり、がとう。 ぇと…… る、ルミはね、名前、ルミっていうの……! …………これで、しらないひとじゃなくなるかな……? [ 知らない人に、と彼が呟いたのを聞けば 殆ど反射で自分の名前を口にした。 ] (64) 2024/05/06(Mon) 21:18:21 |
【人】 従業員 ルミ[ 初めて口にしたアイスは冷たくて、甘くって。 頭がすこし痛む感覚に目を瞠り、 自分より大きなお兄さんが教えてくれた 新しい世界に胸を弾ませた。 それがどんな切欠で生まれたものでも。 そこにどんな理由があったとしても。 わたしが優しいと思えば、それが正しい。 わたしが愛だと思いこめば、それが、 。 ] ( ともだち、 ) [ 家に帰れと言わない彼が好きだった。 びしょ濡れの子どもなんて厄介物件を連れ帰られても、 温かいお風呂と飲み物を用意してくれる彼の母が どうしようもなく羨ましくて、あたたかくて。 ] (65) 2024/05/06(Mon) 21:18:25 |
【人】 従業員 ルミ……ありがとう、雷恩お兄さん! ともだちって言ってもらえたの、初めて。 あと、お兄さんのお母さんも…ありがとうございます。 めいわくかけて、ごめんなさい……。 [ けれど自分だって、幼いながらに理解していた。 いかにも訳アリと言った風情の子どもとはいえ、 よその家に甘え続けられはしないこと。 笑顔の下が、本当に笑顔とは限らないことも。 もっと、早く大きくなりたいな。 お兄さんの隣に立ってもおかしくないくらいに。 ひとりで自分の面倒をみられるように。 そうすれば、迷惑かけずに一緒にいられるよね? そうなれば、胸を張って好きって言えるかな。 ] (66) 2024/05/06(Mon) 21:18:30 |
【人】 従業員 ルミねえ、お兄さん。 大きくなったら、もっといっしょにいてくれる? [ きっとそれは、ありふれた子どもの夢見事。 彼の優しさという薬を飲み 彼の温もりという蜜を呑み これが愛だと信じ込んだ幼い子どものよくある話。 ──現実はおとぎ話のように優しくないのに。 ] (67) 2024/05/06(Mon) 21:18:33 |
【人】 従業員 ルミ[ 年を重ねるごとに二人は大人に近付いて、 日を追うごとにわたしたちの距離は離れていった。 制服を着るお兄さんに「かっこいいね!」と言っても、 公園で話そうとしても、逃げるように去ってしまう。 分かってた。 子どもを家に上げ続けることは出来ないって。 勝手に傷を癒して、勝手に消えていくひどいひと。 どうしてわたしから距離を置くのかすら教えてくれず、 厄介者みたいに話すら切り上げて。 ずっとずっと待ってたよ。 あの公園で、お兄さんが来てくれるのを。 わたし、そんなに簡単に消えてしまえる存在だった? ] (68) 2024/05/06(Mon) 21:18:37 |
【人】 従業員 ルミそうかなぁ。恥ずかしい? じゃあ、雷恩さんって呼ぼうか? ……わたしが呼び慣れないかもだけど。 [ ああほら、また。 お兄さんだけがわたしとの日々を過去にしてる。 わたしが口にするまで、呼び方すら忘れてたの? 何もかもに心がささくれ立って血を流す。 恥ずかしそうに緩んだ頬すらわたしを刺激して、 声が震えないよう抑え込むのに必死だった。 顔が強張った理由は察せないけれど、 今この場で聞き出そうという気にはならない。 ] (69) 2024/05/06(Mon) 21:18:42 |
【人】 従業員 ルミあはは。うん、そうだね。 悪いことを考える人もいるんだろうなぁ。 ……ほんと、会えて良かった。 [ だって、悪い人はわたしだから。 ] (70) 2024/05/06(Mon) 21:18:47 |
【人】 従業員 ルミ[ 社会人が受けるような研修を受けていない女には、 セクハラ案件がどうこうといったことには無知だ。 彼の口から出る言葉たちが、 そういった配慮の元成り立っているのを知らない。 しっかり掴まってろ、という言葉に従って 彼の背中へ身体を預けた。 ] ……ふふ、あったかいね。 [ あの頃と変わらない温もりに頬を緩める。 それから、「町を出なかったのか」と呟く彼に 短く「うん」とだけ答えて。 吐かれた溜息に、ぴく、と肩が揺れた。 ──それがどんな色を孕んでいるか分からなくて。 ] (71) 2024/05/06(Mon) 21:18:54 |
【人】 従業員 ルミ[ 道中の会話は全て、もう既に知っていることだったけれど 真新しいものを見聞きするように話を聞いた。 自分の話はあまり口にしない。 ひとつの話題を深堀するように聞き役に回り、 SNS越しに握った情報を固めていく。 彼の好きなビールは、既に今、家にある。 ] 住んでないよ。一人暮らし。 ……でも、お兄さんならそんなことしないでしょ? [ ああ、いっそ「その気」になってくれれば早いのに。 彼の歴代の恋人たちと自分、一体何が違うのか。 頭を撫でる手付きの上手さすら気に入らない。 他の女に同じことをしてきたと分かるから。 ] (72) 2024/05/06(Mon) 21:18:57 |
【人】 従業員 ルミ…………うーん、でも……。 休日以外は夜営業しかやってなくって。 普通のカフェとはまた違うというか…… [ 店に客として、なんて起こってしまえば 彼が他のキャストに目移りする可能性だってある。 それに、ただ可愛い服のカフェというわけではない。 売れるために、稼ぐために色々な営業がある。 ────見られて幻滅されてしまうのがオチだ。 ] (73) 2024/05/06(Mon) 21:19:01 |
【人】 従業員 ルミどうしても、だめ? このままひとりで家にいるのも心細いし…… ……他に頼れる人もいなくて……。 [ 何より、なりたいのはそんな関係ではない。 客と店員。顔なじみ。──そんなものじゃない。 もっと特別で、唯一の、なにか。 そんな狙いを孕んで、わたしは彼の手を掴んだ。* ] (74) 2024/05/06(Mon) 21:21:52 |
【秘】 会社員 雷恩 → 従業員 ルミ[男には選択肢があった。 公園に行かないという。 少女があの公園で自分をいつまで待っていたのか―― 実家を出ても公園が見える部屋に住むというのは、 もしかして。 ――穿ち過ぎだろうか。] (-12) 2024/05/06(Mon) 22:44:02 |
【人】 従業員 ルミ[ みんなが" ライ "と呼ぶと聞いてから、 なんとなく、同じ、は嫌だなと思っていた。 遠足で揶揄われたから、という彼に ] あのどうぶつ……? うぅん……ルミわかんないけど、やなら、やめる。 でも、ルミはおにいさんの名前、からかわないよ。 [ 幼い少女だった頃は、そんな動物一匹も知らなかった。 だから連想される生き物なんていなくて、 " 雷恩 "の響きは彼だけのものだった。 春が過ぎ、夏が消え、秋を失い、冬が枯れて わたしたちは時間と共に大きくなる。 同じ学校には通えなかった。 けれど、この辺に住んでるなら、と言った あの日の言葉だけは愚直に信じたままだった。 ] (82) 2024/05/06(Mon) 23:29:19 |
【人】 従業員 ルミ[ 小学校は、三年生からようやく通えるようになったけれど その頃には彼は卒業してしまっていた。 クラスメイトにも遠巻きにされ、 気まずくて居づらくて、結局通わなくなって。 それでもずっと公園に通い続けた。 遊ぶことも誰かと話すことも出来なくなり、 彼が姿を見せなくなっても、ずっと、ずっと。 時折遠くのベンチの近くに座る姿を見たことがある。 開いた距離が、彼の答えの証明だった。 ] (83) 2024/05/06(Mon) 23:29:32 |
【人】 従業員 ルミ[ ────中学生にもなれば、自分で稼げるようになった。 眠らない街。 ネオンで真夜中も輝き続ける夜の世界に飛び込んで、 初めて自分の市場価値を知った。 彼を忘れたくて。 もう一度誰かに愛されようと、大事にされようとして、 気付けば未成年でも働ける非合法の店で働いていた。 愛想よく、好きだと振る舞えば堕ちる客。 他に好みの女がいれば身勝手に離れていく。 客から稼いだお金を他の男に流すだけの生活。 金を渡した時だけ、都合よく構えるペットなだけ。 どいつもこいつも対価を渡して初めて成立する関係 ──フェードアウトするたびに彼を思い出した。 ] (84) 2024/05/06(Mon) 23:29:37 |
【人】 従業員 ルミ[ 対価も見返りもなくわたしを救ってくれたお兄さん。 ──────なにもないから嫌になったの? お金があればいいのかな。 わたしがかわいくなれば、いいのかな? なにもないわたしに優しくしてくれたなら、 何かを持ったわたしになれば、愛してくれるよね。 ] (85) 2024/05/06(Mon) 23:29:45 |
【秘】 従業員 ルミ → 会社員 雷恩[ 公園に来ない選択肢すらも 奪って、わたしを刻んで、────忘れられないように。 だって、お兄さんが言ったこと、守ってるんだよ。 このあたりに住んでいればって あの時確かに、そう言ったよね。 ] (-14) 2024/05/06(Mon) 23:29:52 |
【人】 従業員 ルミ[ 危機感持ってくれよ、と呟く彼に微笑んだ。 ストーカーなんて真っ赤な嘘。 そんな人が出てくるリスクも高い仕事だけれど、 そうならないようにお客さんを管理してる。 好きな食べ物は──…… お店のプロフィールに書いてあるんだ。 「半分こできる食べ物」が好き。 それと、真っ赤で美味しい、甘いりんごも。 ] え〜? やぁだ。 お兄さんを信用したいから、するの。 [ 昔お兄さんが甘くて食べられなかったりんご飴。 間接キスの知識はさすがに当時はなかったけど、 お兄さんと同じものが食べられて嬉しかったな。 あのりんごには、魔女の毒なんて塗られていない。 ] (86) 2024/05/06(Mon) 23:30:20 |
【秘】 従業員 ルミ → 会社員 雷恩[ わたしが白雪姫をどうして選んだか、 仕事も分からない貴方は知らないでしょう? ────毒林檎を齧って死んだ哀れなお姫様。 あの時お兄さんがくれたりんご飴。 解けない恋の呪いごと呑み込んだ蜜の味。 ] (-15) 2024/05/06(Mon) 23:30:53 |
【人】 従業員 ルミあの、その、……色々。 部屋はエレベーターで……10階の角なんだけど。 ちょっと、ここだと他の人に会うかもしれないし…… 中で話しても良いかな。 [ そう言って、わたしは彼の手を引いた。 エレベーターのボタンを押して、10階──最上階まで。 単身者向けではない間取りの角部屋。 丁度、二人暮らしに向いているような。 ついてきてくれるなら、わたしは部屋の鍵を開けて、 彼を中へ誘い込む。 蟻地獄のように、抜け出せない迷路へと。 ] (88) 2024/05/06(Mon) 23:32:07 |
【人】 従業員 ルミ[ 警戒されては元も子もない。 急いては事を仕損じる────わたしは馬鹿じゃない。 逸る鼓動を抑え込み、指先を握り締め、 彼をソファへ座るように案内した。 部屋の内装もインテリアも、白とピンクで飾られていて 住んでいるのがわたし一人だとすぐにわかるはず。 ] お兄さん、コーヒー飲む? [ 本当は冷蔵庫にね、ピーコックブルー、あるんだよ。 でも今いきなり出すのは違和感を生むでしょう? それに、緊張を解くには温かい飲み物っていうじゃない ──……真正面から貴方を抑えつけるなんて無謀、 出来やしないと分かっているから。** ] (89) 2024/05/06(Mon) 23:36:46 |
【独】 従業員 ルミ/* 獲物じゃなくて肉食獣って書くの好きだなー あと蟻地獄は日常の〜ってやつ天才だったあ!活かしたかったけど上手く出来ない〜新規久しぶりだからぶらんく… (-16) 2024/05/06(Mon) 23:49:10 |
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