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【人】 会社員 ツグアキ[ 日本の平均水準をずっと下回る家庭で生まれた。 当たり前に与えられるはずの悉くを 手に出来ず育った自覚はあるけれど 趣味や習い事に割く余裕も得られなかった 子供時代、出来ることといえば勉強だけだったから それがひいては下層から這い上がるための 努力と術に繋がったらしい。 幸いにも悪くなかった地頭のためか、 砂山から砂金を掴み取るように掠め取った。 日の当たるところへのチケットは、医学部合格。 ] (62) 2022/06/08(Wed) 4:55:54 |
【人】 会社員 ツグアキ[ その時点で 俺は、人生において 『本物』の『幸福』を、手にしたはずだった。 ─── だのに嗚呼、剥がれた爪の痕を隠した手で 握った『幸福』は、かくも脆く。 (63) 2022/06/08(Wed) 4:57:19 |
【人】 会社員 ツグアキ[ だから今日も俺は『エデン』を立ち上げる。 支給されたイヤホンで外音を遮断すれば 不幸など知らない誰かが書き込んだ、 きらきら輝く幸福があっという間に脳を染める。 義務的に与えられる『幸福』は 確かに己を一時の安寧で包み、 人肌に温い夢に揺蕩い、救われる。 生きている。 ああこれは、誰かの恋が実った日のことかな いいな、きらきら、きらきら、脳が眩しい。 ] (64) 2022/06/08(Wed) 5:01:00 |
【人】 会社員 ツグアキ……ええと、 失礼しました。 どうぞ、隣はご自由に。 俺は佐々岡です、あなたは、その─── [ 動揺を削いで、口角をゆるりと上げた。 手の中で転がるイヤホンを握り隠す。 渇望してやまない幸せは 持っているフリをして。 ] (66) 2022/06/08(Wed) 5:06:30 |
【人】 会社員 ツグアキ[ 何不自由なく育ってきた同期の面々が さくさくと実績を積み、見出され、 苦労無く敷かれたレールの上を スキップで駆け抜けていくのを 目の当たりにする日々だったよ。 いくら努力を重ねても基盤のない己が 光を浴びることはほぼ無いのだと言う 現実を知った頃。 ] (67) 2022/06/08(Wed) 5:11:12 |
【人】 会社員 ツグアキ神に問う。信頼は罪なりや。 果たして、無垢の信頼心は、罪の源泉なりや。 神に問う。無抵抗は罪なりや? いまは自分には、幸福も不幸もありません。 ただ、一さいは過ぎて行きます。 (68) 2022/06/08(Wed) 5:12:20 |
【人】 会社員 ツグアキ[ 血を吐き泥水を啜るようにして 仕上げた論文が、 理事長の一人息子のものとして学会に発表され 華々しい評価を得た場面を目にする。 自分の口座に記された見たこともない桁の 入金記録と引き換えに 己の医師としての未来が 永久に閉ざされたことを自覚するのは、 あの頃のこと、だったね。 ]** (69) 2022/06/08(Wed) 5:15:20 |
【人】 会社員 ツグアキあ、あぁ、古森、さん。 すみません、あまり余裕が無くて なかなか他の人と絡めないから。 [ きちんと知っているふりをするべきか、 知らないと正直に言うべきか。 まぁでも同期、なのかな、と思い至る。 声をかけてくるということは、と ぱっと考えたところで瞬きをひとつ。 その風貌はなんとなく 記憶の片隅に覚えがある気がした。 ] (102) 2022/06/09(Thu) 10:15:50 |
【人】 会社員 ツグアキ邪魔なんかじゃないですよ。 ……どうぞ? [ 彼女が何のために声をかけてきたのかは わからないまま、隣へ一応促してみる。 刹那、ふわ、と空気が和らぐような感覚。 ああ、『持っている』人、の匂いがする。 (103) 2022/06/09(Thu) 10:16:39 |
【秘】 会社員 ツグアキ → 内科医 カナ[ 俺が得られぬ幸福を渇望していることなど 知りもしないくせに いいね、頭が良くて、なんて ─── よくあることだ。 ] (-23) 2022/06/09(Thu) 10:19:44 |
【人】 会社員 ツグアキ[ そう言う場合には、変に恐縮すると ますます面倒くさくなる。 純粋な笑みでこう答えるのが一番だ、と 学んでいた。 ] 古森さん、は? 得意ではないのですか? とは言えこの学部に来ていて 勉強が苦手ということもないのでしょうけど。 [ くす、と笑んで少しだけ首を傾けて 頭をぽりぽりとかいた。 ] (106) 2022/06/09(Thu) 10:20:42 |
【人】 会社員 ツグアキ……なにか、俺に あなたのちからになれることが ?[ 使い古して角が擦れて汚れた参考書に手を置いて。 あくまで人好きのする表情で、 学習のことだけを指し示す口ぶりで。 ] (107) 2022/06/09(Thu) 10:22:00 |
【人】 会社員 ツグアキ[ 本来当たり前に得られるはずの『幸福』を 擬似的に容易に受け入れることに対して 微かな違和感を感じたのはいつだったのか。 それともそもそも人生など不平等だと 残された脳細胞の微細な理性一片は 記憶していたのだろうか。 もしくは俺だって人並みに 美人には弱かった、ってことなのだろうか。 そうだな、だからあの時。 付け足したのかな。余計な一言。 ] (108) 2022/06/09(Thu) 10:25:17 |
【人】 会社員 ツグアキそうだよねぇ、こんな人数がいると 思ってなかった。 皆、─── [ 恵まれてるんだなぁ、その言葉は飲み込んだ。 自分より、きっと能力で劣る学友たちが たくさん、こんなにたくさんここには居て。 安いとは言いづらい学費、生活するための費用 それらが足枷にさえならない人たちが。 渇望。 生まれもっての幸福に対する酷い飢渇は 闇を、嫉妬を産む。 (126) 2022/06/10(Fri) 22:26:40 |
【人】 会社員 ツグアキグラスに半分、水が入っている。 それを、もう半分しかないと感じるか まだ半分もあると感じるか。 それと似ている気がする。 ─── いいね、 古森さんは幸せそうだ 。 (132) 2022/06/10(Fri) 22:33:51 |
【人】 会社員 ツグアキ[ とん、とん、と論文の束を机の天板で整える。] ようやく書き上げたんです。 在学中に完成するとは思っていませんでしたが。 これから提出に行きます。 ああ失礼しました、お声がけくださった ご用件をお伺いしていませんでしたね。 ナンパしてくださったのなら大変嬉しいですが、 ……お急ぎでなければコーヒーでも?** (133) 2022/06/10(Fri) 22:35:29 |
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