情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新
【人】 希壱[雨の降る道を急いで走る。 雨に濡れた髪が視界を遮って。 水たまりに突っ込んだ靴に水が浸水してきて。 泥が跳ねてズボンの裾がグチャグチャになっても、尚。 突如、都会の空を覆った雨雲は、 容赦なく地面に向かって雨を落とした。] ───洗、濯っ、物おおおっっ!! [今朝見た天気予報では晴れだと言っていた。 快晴で、雲ひとつない青空が広がるでしょうなんて、 どこのお天気キャスターの言葉だったか。 それを信じてしまったが故に、 いつもよりも多めに洗濯物を干してきてしまったのだ。 講義が午後からで、朝に余裕があるからと シーツまで干してきてしまったのだから尚更である。 …まぁ、急いだところで もう一度洗い直すことになるのだけれど。 それでも急いで帰らなくてはいけない事に変わりはない。] (222) 2020/09/14(Mon) 22:32:31 |
【人】 希壱あっ!やべっ、 なずな、傘持ってってねぇ! [そこで思い出す今朝の言葉。 『きょうは晴れるんだって! だからね、お気に入りのクツ、はいてくの!』 無邪気に笑って、靴箱の奥に大切に仕舞われていた 水色の靴を引っ張り出していた。 今日は体育もないから履いても大丈夫なんだと、そう言って。 チラ、と腕の時計を確認すればもう17時を過ぎていた。 急いで走って小学校へ行ったとしても きっと、すれ違いになってしまうだろう。 そもそも、俺も傘もってなくてずぶ濡れだし。 新しい傘を買う思考は、 洗濯物で頭がいっぱいだったが為に思いつかなかったし。 …てか、今買ったって遅すぎるし。] (223) 2020/09/14(Mon) 22:33:16 |
【人】 希壱[いい加減走ることにも疲れてきて、 バシャバシャと地面を蹴っていた足をゆっくり止め始める。 今まで色々上手くいっていた気がするけれど、 やっぱり俺はどう足掻いたって変わることはできないのかと 雨でどんよりとした空を見て、気持ちまで沈んできてしまう。 …思えば、昔からそうだった。 誰かに認めて欲しいなんて気持ちで頑張っても いつも空回りばかりしていた。 結局どれだけ頑張ったって、 その頑張りを誰にも認めて貰えないのに。 優しさに見返りを求めてはいけない。 なんて、誰が言った言葉かしれないけれど。 ありがとうの言葉くらい、くれたって言いじゃないか。 …たった五文字を求めるくらい。 したって、いいじゃないか…] (225) 2020/09/14(Mon) 22:34:12 |
【人】 希壱[…なんて、ただの自己嫌悪だ。 土砂降りの中。赤信号で足を止める。 周りには、しっかり天気予報を見ていた人で溢れていて 頭からつま先までずぶ濡れになった俺を なんだか笑っているようにも見えて。 そんな事ないってわかってるのに。 そんな気持ちで支配された心では、 どうやったって前向きにはなれない。 だから、早く青になれなんて心の中で叫んだ。] (227) 2020/09/14(Mon) 22:39:29 |
【人】 希壱[家に帰って、早く、おかえりを言う準備をしないと。 シーツだって取り込まないと。 今日は、あの子の好きな晩御飯にするんだから 仕込みだって、午前のうちに終わらせたんだ。 お気に入りの靴が濡れて落ち込んでるだろうから 慰める為に、言葉だって考えて。 あぁ、でもその前に。 風邪を引かないようにお風呂にも入れてあげないと… その後に洗濯機を回して。それから…] (228) 2020/09/14(Mon) 22:41:24 |
【人】 希壱『あ、おにいちゃんだ!』 [そんな声が、走る車の騒音の中、聞こえてくる。 そちらに目を向ければ、黄色い傘を差した妹がいて。 幻想かと一瞬思うものの、 黄色い傘のその子は、真っ直ぐこちらに向かってくる。 前髪からぼたぼた垂れる雫を掻き分けて、 しっかりとその姿を見留めた。] (229) 2020/09/14(Mon) 22:41:44 |
【人】 希壱──なずな! よかった、傘、持ってたんだな [近づいてくる黄色い影に、 こちらも数歩走り出して迎え入れる。 先程止まっていた赤信号の横断歩道は、 通りゃんせのメロディを流しながら、 いつの間にか青に切り替わっていた。 パシャ、と水が跳ねる。 あの子のすぐ側まで行くと、 視線を合わせるようにしゃがみこむ。 水色の靴は濡れてしまっていたけれど、 それでも全身がずぶ濡れになっているよりはマシだ。 よくよく見れば、合羽も着ていて ランドセルカバーまでついていた。] 『おねーちゃんがね、前にわたしてくれてたの。 もしものときにつかいなさいって!』 [そう言うと、ニコ、と妹は笑う。] (230) 2020/09/14(Mon) 22:43:12 |
【人】 希壱[そうか、姉貴の入れ知恵か。 こうなる日を見越して、置き傘をさせていたのだろう。 用意周到に。きっと、俺がやらかした時の為に。 そう考えて、気分が沈み出す。 いつも以上に気分が落ち込むのは、 きっと、雨のせいだ。 ほら。この子だって。 何も言わない俺を不安そうな顔で見てる。 直ぐに笑顔で対応しなくちゃ。 俺が不安にさせてどうするんだ。 大丈夫だよ、帰ろうって。 余計なことも言わずに。 苦しい気持ちを吐き出せずに。 ]……そう、か。 姉貴が持たせてくれてたんだな。 なずなが濡れてなくてよかったよ。 さ、帰ろう。 兄ちゃんずぶ濡れだから、手は繋げないけど ……ごめんな。 (231) 2020/09/14(Mon) 22:43:54 |
【人】 希壱[そっと立ち上がって、横断歩道を見る。 さっきまで流れていたメロディは止んでいて、 信号機は再び赤になっていた。] ………ついてないなあ。 [そんな言葉を漏らした直後。 耳を劈くような音が辺りに響いた。] (232) 2020/09/14(Mon) 22:44:17 |
【人】 希壱[瞬間、世界がスローモーションに見えた。 雨の中、スリップしたトラックが横倒しになっていく。 そのトラックに巻き込まれた赤い車が、 いやに鮮明な色を保ったまま、こちらへと突っ込んでくる。 クラクションが街中に響いて。 叫び超えが鼓膜に響いて。 すぐ隣にいたあの子を突き飛ばす。 俺と同じ、タレ目で猫目な瞳が大きく見開かれる。 紫の瞳が揺れて、俺を呼ぶ。 あぁ、そんな顔すんなよ。 大丈夫だから。 なずなが無事ならそれでいいんだ。 そう思って、ニコ、と小さく微笑んだ。] (233) 2020/09/14(Mon) 22:44:51 |
【人】 希壱[ グシャ 、と嫌な音が響く。ギシ 、と嫌に骨が鳴る。視界が歪んで、赤に染って。 何が起きたかを理解する頃には。 もう、俺はこの世にいないんだろう。] (234) 2020/09/14(Mon) 22:45:21 |
情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新