［　キャンパスを歩けば、大抵の人がアタシに振り返る。
　　交友関係も広かったから、挨拶をしてくれる子も多数。

　　典型的なきらきら女子大生、
　　それがと言う女だ。
　　「マユ〜、ランチ行こうよ！」と声がかかる。　］


　　　OK、行こ行こ！気になってたカフェあるんだ〜。


［　弧を描く唇には、
　　お気に入りのコスメブランドの新色グロスが輝き、
　　にこやかに振られた指先は、
　　涼やかな色で描かれた花柄のネイルアートが彩る。　］
　

　
［　はどうだったか？
　　……本当に遺伝子は同じなのだろうか？


　　　　　　　　　　　　　


　　しかし努力の甲斐あって、
　　今の所は妹への擬態が見破られてはいない。

　　きらきらした片割れの人生を乗っ取るは、
　　そんなに簡単な事ではないということ。　］
　

　
［　私と真結実は、
　　大学近くのマンションに二人で暮らしていた。
　　実家は少し遠くて、通えない距離ではないけれど、
　　移動時間があまりにも勿体ない。



　　そのマンションが燃えたのが、今からおよそ半年前。
　　燃える家具の下敷きになった真結実は、
　　どう考えても助かるとは思えない状況で、
　　
　　煙を吸ってしまったせいで、
　　マンションの入り口付近で意識を失ったけれど、
　　それほど大きな怪我をすることもなく、
　　救急隊に助けられた。　］
　

　
［　病院で目を覚ました時、
　　母が「貴女だけでも無事で良かった！」
　　と抱き着いて、　
　　　　　　　　



　　　はい。アタシはです。


［　この瞬間に、船は偽物にすり替わった。　］
　

　
［　ずっと一緒に暮らしてきて、
　　
　　
　　
　　
　　
　　
　　
　　
　　
　　
　　
　　


　　　　　　　　　　　　　　　　

　　今この幸福は、私の手の内にある。
　　真結実のしてきたような努力を
　　一切してこなかった私だけれど、
　　これからは私が、
　　失われてしまったこの得難い人生を守るのだ。
　　
　

　
　
　
　　　　
　

　
［　友人たちとのランチで、弾む恋バナ。
　　「あの時、マユが機転効かせてくれて助かったよ〜」
　　なんて言われて、友人に肘を小突かれた。
　　どうやら真結実が咄嗟についた嘘が、
　　彼女の恋路を守ったらしい。　］


　　　あ〜、そんなことあったね！
　　　まぁほら、困った時はお互い様ってことで。
　　　アタシが困った時は助けてよね。


［　その言葉に別の子がハッとして、
　　「それってミナコじゃなかった？」と言って、
　　周囲の気温が下がる。

　

　
　
　　　あ、そうだったっけ？
　　　ごめんね。火事の後は細かい記憶がちょっとね……。


［　流石にこれを言われて、深追いできる人間はいない。
　　
　　ランチが終われば、私は病院に行く予定だったし、
　　それぞれにも用事があったのでそのまま解散。　］
　

　
［　実家の近所に、かかりつけの病院がある。

　　やっぱり新しいお医者様と接するのは、
　　緊張するじゃない。
　　


　　担当医は東雲早希先生。>>13
　　人当たりの良い、柔らかな印象の人で、
　　陰キャの私にも比較的接しやすい人物だと思う。

　　主に片頭痛用の薬と、
　　火傷痕に塗る軟膏を貰いに行っている。　］
　

　
［　受付で手続きを済ませ、待つこと暫し。
　　名前を呼ばれれば、診察室に入った。　］


　　　やっほー、先生。
　　　今日も頭痛薬と軟膏、貰いに来たんだけど？


［　軟膏は兎も角、頭痛薬を貰う頻度は、
　　"真結実"のそれよりも格段に増えている。

　　流石に片頭痛を薬に頼らず乗り切るのは無理だった。
　　飲んでいた薬が同じで本当に良かった。　］**
　

　
［　母の胎から先に出てきたのが、アユミわたし。

　　　　　　　　
　　　　　　　　


　　双子の子供がいれば、
　　親としてはお揃いの服など着せたくなるもの。
　　私たちも相当幼い頃は、
　　同じ服を着せられることが多々あった。


　

　

　

　
［　家族経営の『東雲医院』。>>52
　　メンバーに抜けがあるのは知っていても、
　　そんなセンシティブなものに切り込むほど
　　不作法ではない。
　　



　　同じ妹を持つ身として気になって、
　　先生の妹さんのことは私も聞いたけれど、
　　こちらはタブーではなかったかしら？

　

　
［　早希先生が担当になったのは6年前。>>55
　　船越家は一家総出で、
　　東雲医院のお世話になっていたから、
　　病院のお手伝いをしていた学生の頃から知ってはいた。



　　　こちらこそ、宜しくお願いします。
　　　私は特に頭痛薬を取りに来るので、
　　　お世話になることが多いと思います。


［　控えめに返した。
　　確かに、お医者様の世話にならないに
　　越したことはない。


　

　
［　病は気から……なんて言うけれど、頭痛だけではなく、
　　気弱な私は真結実以上に
　　先生のお世話になることになった。

　　　　　　　　　　　


　　　ええ。真結実いもうとは元気ですよ。
　　　私ばかり面倒をかけて、すみません。


　　　　　　［　"ユミちゃん">>57
　　　　　　　　私をそんな風に気安く呼んでくれる人は、
　　　　　　　　他にいなかった。
　　　　　　　　姉妹どちらにも使える愛称。

　

　
［　大きな病院から退院し、東雲医院に来た日。
　　真結実と早希先生の数年ぶりの再会の時。>>59　］


　　　先生、久しぶりだね。
　　　まだアタシの事、んだ？


［　アユは疑似餌間違いに食いつき、
　　先生は見事真相に繋がるヒントを釣り上げた。


　

　
［　今、目の前にいる嘘吐き患者は、
　　先生の目にはどう映っているのかしら。



　　　最近、気圧が不安定だからしんどくて……。
　　　いつものお薬、同じ量貰えます？

　　　火傷痕もね。これでいい？


［　ブラウスの袖をまくり上げて、
　　マキシ丈のスカートの裾を掴んで引き上げた。

　　搬送された大きな病院では、時間が経過することで、
　　いずれ殆ど分からなくなると言われたが、
　　　　　　　　　　　　　　　　
　

　

　

　
［　年の近い妹さんは優秀で、それこそ性別が違えば、
　　跡取り枠の争奪戦になったりしたのかしら？
　　医療ドラマを見ていて思っただけだけれど、
　　家族経営の小さな病院であったとしても、
　　"病院の跡取り"というステータスはかなり強い筈。



　　……なんて好奇心はあったけれど、
　　それこそ、こんな低俗な話はしないのが鉄則な内容ね。
　　私以上に真結実が気にしていたけれど、
　　これはあくまで姉妹間の内緒話。
　　
　

　



　　　　　　　　　　　　名ばかりの下位互換は、
　　　　　　　　　　　　の体裁を保てた。　］
　

　

　

　
［　私という"真結実"が初めて対面した早希先生。>>96

　　　　　　　　　　　　　　


　　　二人暮らしをしていたマンションが
　　　火事で大変なことになって……。

　　　幸いこの程度で済んだから、
　　　搬送された病院から退院してきたとこ。


［　火傷と火災の話はしたけれど、
　　
　　この頃は私も動揺していたし、
　　言わなくてもどこかで知る機会が
　　あるかもしれないと思っていた。
　　
　

　
［　そんな風に変わりなく過ごしている内に、
　　私の成りすましも少しは精度を上げたかしら？
　　"ユミちゃん"と"先生"のやり取りは恙なく。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　>>97>>98　］


　　　あ、助かる！
　　　
　　　オバサンになっちゃう前に、治さなきゃ。

　　　薬に耐性が付いちゃって、
　　　効かなくなっちゃうんだっけ？
　　　その上さらに頭痛が激しくなるとか？
　　　こわー。肝に銘じときます。


［　ミニスカートなど殆ど穿いたことのない私だから、
　　治ったら本当に穿くのかどうかは微妙な所。

　

　



　　　　　惹きつけた目の中には特別な目が一対。
　　　　　同大学の法学部所属、広末慶人。

　　　　　彼がそういうファッション好むという事は、
　　　　　真結実の幸福体験を覗き見て知っていた。　］**