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【人】 傷入りのネイル ダニエラ仕事帰り。 いつものジェラート屋。 近くバタついてあまり訪れられなかったここを、数日ぶりに訪れる。 「イチゴをお、コーンでえ」 間の抜けた明るい声。 会計を済ませ暫しして、薄紅色のジェラートが差し出された。 通り雨もあるかもしれないと聞く女の手には傘がひとつ。 食べ歩かずに今日は食べて帰ろうと、パラソルの下のテラス席にちょこんと座った。 #specchio (7) 2023/09/24(Sun) 2:27:51 |
【人】 傷入りのネイル ダニエラ>>8 リヴィオ 「…あー。リヴィオさあん。」 到底上司に見せるとは思えない仏頂面。 尖らせた唇でその名を呼んで、前髪を見て、ジェラートを見て。 そのヘアピンは、何の変哲もなければ飾り気のひとつもないシンプルなヘアピンで。 だけど不思議と他の似たヘアピンでなく、 それ なんだろうと思えた。「あたしは明日お会い出来た方が嬉しかったですけどお。」 拗ねた顔のまま拗ねた声でいう。 こういうとき、女が告げるのは本心だ。 けれど、まあ。察しが悪いわけでも決してなかったわけだから、自分を納得させるための溜息だけついてまたその顔を見上げた。 「…まあ、いいですう。」 「なんですかあ、話ってえ」 微かに形作った笑顔は歓迎の証。 どうぞどうぞ、寧ろお座りくださいな。 それに関しては本当に、嫌な顔ひとつせず。 #specchio (9) 2023/09/24(Sun) 3:12:29 |
【人】 傷入りのネイル ダニエラ>>11 >>12 リヴィオ 「……。」 匙ですくったジェラートを口に運ぶ。 そのまま流すような視線であなたの取り出したものを見た。 …最後の最後に、賭けに負けたのだ。女は。 但し賭けに負けたという事実はこの一晩のうちに確定しており、こうなることを女も薄々勘づいていたわけであるが。 「…そおですねえ。」 日頃の暢気な空気をまとわりつかせたまま女は頷く。 今日この日も会話の内容さえ加味しなければ、平和で平穏な日常の1ページであるようだった。 「本当に無能な人って、存在するんですねえ。」 よく顔も覚えていない代理様とか。 こちらはそれは態度には示さなかった。 多少の棘だとかいうレベルで済ませられる気がしなかったのだ。 #specchio (13) 2023/09/24(Sun) 8:48:37 |
【人】 傷入りのネイル ダニエラ>>11 >>12 >>13 リヴィオ 「…あたしも、行きたかったんですけどねえ。犬カフェ。」 『銀のヘアピン』について、女は言い訳のひとつもしなかった。 それには女なりの理由があるが、少なくとも今口にする気はない。 「でも、やっぱり似てるなんですかあ。」 「……残念ですう。」 「やっとリヴィオさんのこと、少しは分かってきたような気がしてましたのにい。」 女が惜しむらくはそこだ。 いつもと違う笑みを浮かべるあなたに、少しだけ困ったように笑いかける。 …そっちの方がいいですよなんて、果たしてどの口でいえばいいのやら。 「――それで」 場違いにジェラートを食べ進めながら。 もう少しだけ、踏み込んでみる。 「 リヴィオさんは 」「 あたしにどうして欲しいんですかあ? 」#specchio (14) 2023/09/24(Sun) 8:50:02 |
【人】 傷入りのネイル ダニエラ>>15 >>16 リヴィオ きっと女が昔のままの女だったなら。 あなたに贈られたものは『銀のヘアピン』であり、愛らしいヘアクリップは今も女の手元に残されていた。 そもそも、いつも通りに何の脈絡もなく突然ヘアピンを贈りつけるだけで全ては事足り、今こうして共にパラソルの落とす影の下語り合うことだってなかったはずだ。 そうしなかったことが、女の敗因であり。 そして、あなたの救いであるらしかった。 女の手が止まる。 しゃくり、と匙をジェラートとコーンの隙間に刺した。 ミントブルーの瞳がそんなあなたを映す。 だけど女にはどうしても口にしなければならないことがあった。 「…リヴィオさん。」 #specchio (17) 2023/09/24(Sun) 11:07:50 |
【人】 傷入りのネイル ダニエラ>>15 >>16 >>17 リヴィオ 「あたし、捕まる訳にはいかないんですよねえ。」 女は、中途半端な蝙蝠だった。 獣の仲間にも鳥の仲間にもなれないままの、そんな本物の半端者だった。 それでも、女の心だけはいつだってひとつであったつもりだ。 だから女の言葉はその通りで。 ただやっぱり少し困ったような顔で、あなたのことを見つめている。 「…見逃してくれませんかあ?」 そんな甘言。 法を悪用した罪人の、それは最後の足掻きであるはずだった。 そして女は足掻かなければならないはずだった。 空浮かぶ雲の色濃く深い曇り空。パラソルの影と同じだけ、周囲の景色も暗くなる。 #specchio (18) 2023/09/24(Sun) 11:10:00 |
【人】 傷入りのネイル ダニエラ>>15 >>16 >>17 >>18 リヴィオ 匙をとり、ジェラートをそっと口に運ぶ。 「そおいうわけには行きませんよねえ。」 「そおしたら、また別の人が逮捕されちゃうかもしれませんしい」 それはあたしも困ります、と。 女はここにきてようやく、いつものようにけらけらと控えめに笑った。 「ただひとつだけえ、聞かせてくださあい。」 「あたしはずうっと、 あなたたち を探していたんですけどお。」「…リヴィオさんは、最後のひとり…ですかあ?」 それだけは、聞けないと安心だってできないもので。 でも、もし違っていたら、どうしようか。 もう少し足掻かないといけないな、そのときは。 #specchio (19) 2023/09/24(Sun) 11:12:42 |
【人】 傷入りのネイル ダニエラ>>20 >>21 >>22 リヴィオ 「頼み…彼?……あー。」 わかるような、わからないような。 でもわかる寄り。理由なんかがそれらしい。 女が抱いた 協力者 への印象は、ひとつめのアジトを放棄したときからあまり変わりはないらしい。だからそのことに腹を立てることはなかった。 彼に伝えた言葉に嘘なんてなかったから。 女は裏切られてもいいと思える相手だけを、信じていた。 それにしても、その 彼 はさておきだ。ではどうしてあの人は、あなたのことを知っていたのだろう。 …こっちには少し腹が立つ。 顔を合わせぬ間に、伝えたい文句ばかりが増えていく。 それはそれで、女の信頼の証ではあったけど。 #specchio (23) 2023/09/24(Sun) 14:36:42 |
【人】 傷入りのネイル ダニエラ>>20 >>21 >>22 >>23 リヴィオ コーンを崩して、口の中。 歯触りに微かな香ばしさとイチゴの味が少しして。 ふう、と一息。口元にはいつもと同じ笑み。 「…でも、そおですかあ。」 「リヴィオさんで、ほんとおに、最後…。」 そんな中、沁みるような声に滲んだのは、安堵だっただろうか。 少しだけ、違うような気もしている。 でも肩の荷がひとつ降りたのだけは、紛れもない事実であったらしい。 あなたの胸中こそ知らないが、女はずっと、早く地獄に堕ちればいいと思っていた。 静かに座る権利なんてどこにも残っていないと思っていた。 だからこれから往く先が、冷たく狭い地獄だとしても構わない。 そういう場所に、女はあの優しい人たちを送り込んできたのだから。 手錠をかけたとき、誰一人として、女を責めた人はいなかった。 女は本当にそのことが、ずっとずっと、哀しかった。 左手小指のエナメルを撫でる。 いつもはつるりと陶器みたいな感触なのに、その表面は傷だらけで少しざらついて感じる。 「…わかりましたあ。」 「デートのお誘い、お受けしますう」 そうして女は、歌うような声で、朗らかに告げた。 #specchio (24) 2023/09/24(Sun) 14:37:33 |
【人】 傷入りのネイル ダニエラ>>20 >>21 >>22 >>23 >>24 リヴィオ 女の虚実は意図しない限り曖昧だ。 今こうして晴れた心地でいることが、本当なのか嘘なのか、女にだってもうよくわかりはしなかった。 でも、ひとつだけ。 「――ところでリヴィオさん。」 「そんなお身体で、まさかエスコートなんて言いませんよねえ。」 半日休むって、言ったくせに。 それについて抱いた感情は本物だろう。 まだあと少しコーンが残っていたけれど席を立つ。 座るあなたを、見下ろして。 「病院でも、風邪薬でも、何でもいいですけどお。」 「雨が降る前に、少し寄り道しませんとお。」 「…デート相手が素直だった分」 「時間に余裕は、まだありますよねえ。」 …聞くところによると、今日は通り雨が降るらしい。 そんなものに、今のあなたを晒すわけにもいかないだろう。 …これが、女が『銀のヘアピン』について、言い訳ひとつしなかった理由だ。 きっと、してやったりと、女はにこりと笑っていた。 (25) 2023/09/24(Sun) 14:38:28 |
ダニエラは、笑っている。 (a29) 2023/09/26(Tue) 15:37:02 |
ダニエラは、真実を、自白した。 (a33) 2023/09/26(Tue) 20:46:12 |
ダニエラは、嘘を、自白した。 (a34) 2023/09/26(Tue) 20:47:11 |
ダニエラは、笑っている。 (a35) 2023/09/26(Tue) 20:47:35 |