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【人】 落星 クロウリー[かつての少年も、魔術師も 気づけば冷たく黒い石畳の上で光亡しの空を見上げていた。 立ち上がり、辺りを見渡してみる。 暗色の世界を彩るのは、不気味な葡萄の樹の紅と灯る翠のみ 風一つ無い箱庭は、何一つあの頃と変わっていない。 神に呪われ墜とされた楽園の成れの果てのようだ。 館に背を向けて、門構えの方へと向かうことはしない 見通せない闇が広がり、奈落の大口が開いているだけと知っているから。 ──誘われるがままに中へと踏み込んでも、同じことかもしれないが 自ら捕食者の口に飛び込む餌たる弱者である点においては。 しかし、他の選択は赦されていなかった。 他ならぬ過去の私自身が、望んだことなのだから。] (18) 2022/05/22(Sun) 23:12:51 |
【人】 落星 クロウリー[故郷の跡地で語った身分不相応で背伸びをした口説き文句は、 失敗したと言うのが正しいのだろうが、私は確かに彼の地へ招かれた。 夜を骨組みに建てたかのような館の異様さに緊張した。 そして、幼子の見せた歪みを一笑し、 視覚と聴覚から立場の差を伝えた悪魔の変化に惑いながら。 一方、農村育ちが見たことがあるわけもない数々の芸術品に目を丸くし その美しさと不可思議さに惹き付けられ、 ありもしない時間を忘れて夢中になっていた。 その心を我に返らせたのは、忘れかけた現実を再び認識させたのは 黒い館を飾る眩い数々の品に纏る、思いも寄らない真実と。] (19) 2022/05/22(Sun) 23:13:08 |
【人】 落星 クロウリー「なれなくていいです。だって、僕は生きますから」 「その為に貴方は、僕をゾラですらなくしたのでしょう?」 [驚きに見開いていた目をふっと細め、嗤った。 そんな様子には僅かに顔色を窺うような様子が見て取れるが、 本質的にはあの時見せた笑みと変わりない。 貴方が厭い、奪った名前。名無しであれと定義されたことを受け入れた。 黄金の夜明けは、地獄には訪れないのだから。] 「でも、貴方のことはなんと呼べばいいの?」 [ろくな教育も受けていない子供、拙い敬語は崩れて これからの生活を思い、必要であろう問いをする。 首を傾げる仕草にばかり、健全な幼さの名残が乗った。 御主人様、悪魔様? 執事になるわけではないし、後者は少し滑稽な気もする。] (20) 2022/05/22(Sun) 23:14:48 |
【人】 落星 クロウリー[かつて信仰した神の子供達の真実の姿に失望し、 そんな者達の為に、彼らの同胞として死ぬことを止め 道理の外の存在に傅いて、地獄に落ちても生きることを選んだ子供。 強欲で傲慢で、暴食的に生存本能を満たそうとしていた。 全てを失った後残った欲求こそが、全てだった。 だからこそ悪魔は、美しさを宿さない魂を拾い上げた。 しかし、永きに渡り歴史を渡り続けた今かつての自分を思うと その選択はあまりにも── 永久の踊りを強いられる貴婦人を見上げ、少しの間思考が巡った。*] (21) 2022/05/22(Sun) 23:15:34 |
落星 クロウリーは、メモを貼った。 (a2) 2022/05/22(Sun) 23:19:30 |
【人】 落星 クロウリー[望みは叶えられた。彼に、許されたからだ。 奥底の意図を考えずいられないような優しさの中に 本物の機嫌の良さがあった、のだろうか。 今やその手に縋る以外の選択肢を失った幼い私が、 欲するままに命を続ける為には 悪魔の感情の在り方こそが第一となる予感がこの時既にしていた。 それは父と二人で生活した日々よりも、ずっと重大な意味を持って。] 「……インタリオ様」 [命じられたままに口にし、数度瞬きを早めた。 人の名前としては慣れない響きを持っている。 何もかもから見捨てられた夜闇で、彼と出会ってからの 一生分の人生の動きを激流として受け止めたような時間の中。 己の身体を蝕んでいたもののことも、既に頭にない子供では 悪魔なのだから当然なのかもしれない、と。この時は思うばかりで。] (91) 2022/05/24(Tue) 2:32:07 |
【人】 落星 クロウリー[人類が与えた名の数々に纏る逸話は 何処までが創作で何処までが真実か、はたまた全てが虚空なのか? 考えるだけで壮大な話であった。 彼が我々の歴史にどれ程昔から関わっていたのかも、また。 悪魔が「インタリオ」となる迄の話を聞くことを許されてからも 更に永き時間が経った今すらも、知ってはいないだろう。 人間は同胞の正体すら容易に見失う 私は、大いなる存在を自己の狭小な視野を持って決めつけはしない。 かつては見捨てられぬよう教えられるもの全て理解する為に、 館を出てからは人間達を誘い役目を全うする為に、 そして、多くの魔術を探究する為に。 思考の使い道は他に幾らでもあったのだ。 そうあらなければいけない、でなければ生きられない。] (92) 2022/05/24(Tue) 2:32:30 |
【人】 落星 クロウリー[教会の教えでは神の血と肉とされた日々の糧も、 生きていることを忘れてしまいそうな悪魔の箱庭で与えられては ただただ得体の知れなさを感じるばかり。 その感覚すら大した時間は掛からず忘れていき、 夢中で貪るだけとなった子供の頭に祈りの言葉はもう無かった。 今までの日々を否定する言葉を、唯一の庇護者に教え込まれ いかに人間が操りやすく騙されやすい生き物なのかを知り、 世界の法の外にある術を身に着けていけば、当然だろう。 透明な水が黒く穢されるように 無学な農奴の子供は、容易に悪魔の与える思想に染まっていった。 変わっていく見目を主の寵愛の証であるとし 己の白い肌に恍惚と触れ、感謝して見せたこともある。 名を授かる光栄に悦び忠誠を誓った時には、 跪く動きも手を取り口づける様も かつての少年の面影無く、仕える者のそれとして優雅に。] (93) 2022/05/24(Tue) 2:33:08 |
【人】 落星 クロウリー[私は確かに教え仔として優秀であった筈だ。 彼を真似るように歴史の陰に潜み人々を動かしていた時も、 ある男を誑かして、翠の星の元となった団体を立ち上げさせた時も 主宰となってからだって──沢山の魂を貴方に贈った筈だ。 今だって分かっている。 下僕の目には全知の存在として映る悪魔が、 己の箱庭でこちらを放っておく時には意味があると、覚えている。 食堂へ向かい、貯蔵庫に足を運んで一番奥のワインを、 主が気に入っている美しいワイングラスを。 一刻の無駄も無いよう、両階段は必ず近い左側から。 見えてくるのは、風があれば繊細に揺れそうな大理石の婚礼衣装 首無しの哀れな花嫁を前に曲がり、その書斎へと。 道中──少しの違和に眉を顰めたが 主と改めて対面した時には微笑みを形作り、感情を悟らせない。*] (94) 2022/05/24(Tue) 2:33:50 |
【人】 落星 クロウリー失礼致します [形無き招きを受け、闇の中へと踏み込んだ。 長年新書の佇まいを保ち続ける年代も疎らな書籍の並び、 常に埃一つ無く軋みや傷みを得ることも無い空間。 廃屋とはまた違う生活感の無さがそこにはある。 記されたものの多くが、悪魔やその同胞から人に与えた智慧ならば 彼自身がそれらをこうして収納し管理する意味とは何なのか 疑問に思い、その特殊な嗜好の一環かと結論付けた過去の記憶が蘇る。 書架の群れの合間から漏れ出る灯りを視線が辿り、 強張った身体を落ち着かせ、ゆっくりと歩みを進めた。] (119) 2022/05/25(Wed) 2:42:15 |
【人】 落星 クロウリー……はい、インタリオ様 [偽った身分で使用したものではなく、本物の響きで紡がれる名前 過去と現在が重なるようだった。 唯受け入れ、それが喜ばしいというように微笑みを崩さないだけ。 語られなかった意味は、彼を通して得た教養から答えを知れた そこに込められたものは、館に置かれた日々が悟らせた。 ──私は。 美しさの代わりに利用価値を獲得し、手を離れることを許されただけ。 この館の数々の作品と何も変わらない。夜闇を飾る配列達の一つ。 今尚、地を這う定めの生き物の一人として定義される。 契約の名の元に上位存在に生かされている、それだけのもの。] (120) 2022/05/25(Wed) 2:42:32 |
【人】 落星 クロウリー[漸く現れた彩りと共に、主はそこにいる。 暗色ながら闇には覆われない机、羽撃きを閉じこめるランプ 胸像に飾られるネックレスには特に、思い出がある。 教会の教えを否定し、忘れていく最中のことだったのだ 命令に従い両の手を組む際、少しの嫌悪感を抱いていた。 まるでそれを表すように、純白は見る見る内に黒に染まった。 この作品そのものが穢れであるのか、 穢れた祈りを見分けることが出来るとでも言うのか。 館の数々の芸術品の材料と性質を思うのならば、 こちらの意思が反映されるなど、馬鹿馬鹿しい思考だが。 悪魔と、悪魔に魂を売った人間が祈祷の真似事をした結果ならば 否定しきることは出来ない──と、私には思えてならなくて。] (121) 2022/05/25(Wed) 2:42:49 |
【人】 落星 クロウリーお許しをいただけるまでは 貴方の御慈悲に甘えることは出来ませんから [厚意に感謝を述べながらも、小さな笑みに眉を下げそう述べ 銀のトレーを置きワインボトルを手に取った。 注がれる視線を強く意識しながらも、手先には乱れは無く 真紅に染まるグラスは、より華美さを増すと共に毒々しさを手に入れる。 二つがそうして清らかな透明を失った後、空いた椅子へと腰を下ろす。 教え仔としての生活の中で数えることを忘れる程この場所に通って、 何度も窓から外を見下ろしては 此処から見える景色に恐れを抱いていた気がする。 主と共に在ることで病を退け、寿命を無意味なものとした私でも 昼行性生物として暗闇に危機感を抱く本能は変わらないらしかった。 或いは、幼き日々の記憶の影響もあっただろうか。 事実私は、主に認められ名前を与えられ人の世に帰されてからは 様々な手を使い、人間らしい生活を保ってきた。] (122) 2022/05/25(Wed) 2:43:10 |
【人】 落星 クロウリー血相を変えるだなどと、とんでもない 私の主は至って冷静でいらっしゃりました 外出好きの貴方が、世俗の様子を知らずにいたわけもないでしょう? [注ぐグラスも、口をつけるのも主が先。 当然の規律を守った後に、緩やかな速度の語らいが始まる。 何とも惚けた悪魔の言葉に、首を横に振り穏やかに否定を返す。 そうしながら、魔術師として独立した当時のことを思い起こした。 大凡人間二人分の人生以上の時が過ぎ去っていたというのに、 異端狩りが収まるどころか加速していたことには呆れたものだ。 幾多の人間が己の欲望の為に動き、その耳元に囁けばより陰謀は加速した 人間の尺度ではそれは短い期間に多くの争いが起きたのではなく、 長く争いが続きあらゆる被害が生まれた時代であった。 国を出て長く帰らなかった要因の多くを占めているといえよう。] (123) 2022/05/25(Wed) 2:43:45 |
【人】 落星 クロウリー[その頃の人の世の動き、争いにより確保した魂の剪定の難しさ ある悪魔の気が短すぎ、召喚させた人間を焼き殺した時の思い出。 性急さも無く味を楽しむ彼に合わせながら舌を躍らせたのなら、 話題は幾つか渡っていき。 水面が枯れ果てる前に確りと注ぎ直した主のグラスも、 再び半ばまで減り、私の手元のそれも水位が下がってきた頃。 ふと思いついたような切り出しと共に、温度無き手が触れる やはり、あの消失は彼の体現の為だったらしい。] ああ、…… [グラスを置き、礼を言おうとした声が──途切れた。 ブローチの置いてあった場所にある本に、 今更意識を向け、そして気づき目を見開き固まったからだ。 それは私がアレイズ=クロウリーとして書き上げた 魔術と思想を人々に伝道する著作物の内の一冊である。 他の信仰者の書籍も保管されていることを知っている。 決して、おかしな話ではないのだが。] (124) 2022/05/25(Wed) 2:44:02 |
【人】 落星 クロウリー……ありがとうございます 奪われていなくて、本当に良かった [再び浮かべた笑みはぎこちなくなっていた。 先程までと変わらぬ振る舞いを続けているようで、 黒混じりの黄を見る翠には、確かな怯えが滲んでいる。**] (125) 2022/05/25(Wed) 2:44:22 |
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