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【人】 マリィ[ 本当は、太ったっていいの。 明日のことなんか何も考えないで この夜と朝の狭間に 二人でずっと囚われていたい。 例えあなたにそう言ったって、太陽は登る。 「普通」の人達の、日常のための時間になる。 星なんか見えない、美しい濃紺の空が じわじわ悪趣味なペールブルーに変わっていって やがて、眩しい太陽が端から顔を出す。 ] (2) 2020/09/12(Sat) 14:26:14 |
【人】 マリィ[アタシはあなたに一度だって 「美味しい」なんて言ったことは無い。 でも、知ってる? 冷蔵庫に取ってある唐揚げとかコロッケは お店の子達にすごく人気なの。 コンビニでロールパンを買ってきて あなたが余り物と呼ぶこれを、挟んで食べてる。 台風の日にコロッケが売り切れた時なんか そりゃあもうテンションだだ下がり。 逆に揚げ物が多めに余った日のこと お店の子は「パーリナイの日」 って勝手に呼んでる。 ……時々アタシが持ち帰ってくる ちょっと良いフルーツの秘密は、そういうこと。] (3) 2020/09/12(Sat) 14:26:40 |
【人】 マリィ[けど、この生活の終わりは ある日突然にやってくるの─────] ……シェアハウス? [お客さん切り出された話に アタシはつけまつげを盛った瞳をぱちくりさせる。 LGBT向け不動産の営業マンだという彼は こくりと頷くと、カウンターの上に ばさりと資料を広げてみせる。] 「ゲイセクシュアルだというだけで 入居を断られるケースって多くって うちで扱ってるのはそういう方に特化した ジェンダーフレンドリー物件なんです」 [カタカナ語の多い彼の言うことには シェアハウス用の物件にゲイを集めて 雑な言い方すれば、「ゲイ同士よろしくやれ」 って感じな家らしい。 近くに幼稚園や学校もないし 新しい住宅街だから干渉してくるご近所もいない。] (6) 2020/09/12(Sat) 14:31:47 |
【人】 マリィ「……どう?いい情報でしょ」 [営業マンを連れてきてくれた、 膝に落書きしたみたいなのっぺりしたブスは そう得意げに笑ってみせた。 アタシの鉄板ネタを真剣に捉えて 真面目に解決策を出してくれた子を 邪険にするわけにもいかなくて アタシは曖昧に微笑んでみせるの。 アタシの今の居候について知っている お店の子達は、何か言いたそうな顔で じっと此方を見ていたけれど、 結局、何も言えやしない。] ……そうね、橋の下で暮らすより 安全そうな物件ね。 ありがとう、考えとくわ。 [営業マンの名刺と、間取り図内覧写真その他諸々 茶封筒に仕舞って─────それっきり。] (7) 2020/09/12(Sat) 14:32:20 |
【人】 マリィ[次の物件が見つかるまで。 だけど、帰ればご飯があって 朝でも夜でも無い昏い時間を分かつ人がいる ……それよりいい物件なんか、ない。 結局、シェアハウスの情報の詰まった茶封筒は 本棚の片隅に隠したまんま、二週間。 アタシは今日も由人の「余り物」を食べる。] (8) 2020/09/12(Sat) 14:32:43 |
【人】 マリィ[そんな罰当たりなオカマにも 今日はひとついい事があったの。 お店が休みだったから、ふらふらと 近所の商店街を歩いていたんだけど たまたま福引で一等当てちゃったのよ! (福引ってポケットティッシュ交換所じゃないのね) 「北海道ペア旅行券2泊3日」 喜び勇んで本屋に駆け込んで ガイドブックまで買っちゃった。 お互い休みなのって、年末年始くらいだし 冬の北海道は死ぬほど寒いかもしれないけど。] (9) 2020/09/12(Sat) 14:33:11 |
【人】 マリィ[でも、もし一緒に旅行に行けたなら──── 二人で「普通」に観光名所巡ったり こっちじゃ食べられないようなものに 舌鼓を打ったり…… 冬の北海道なのに「寒いね」なんて言って 手とか、繋いじゃったりして…… アタシ達を誰も知らない場所で 二人「普通」にデート出来るなら それってとっても最高だと思わない?]* (10) 2020/09/12(Sat) 14:33:41 |
マリィ は、メモを貼った。 (a3) 2020/09/12(Sat) 14:37:11 |
【人】 マリィ[何度も確認するみたいに ちらちらアタシを見るものだから 思わず、ぷっと噴き出して] あんた以外に誰がいるのよ。 [そう、真ん丸お目目が見えやすいように 前髪を優しく梳いたでしょう。 お店の子たったひとりだけを 連れてくなんて無理だし 友達と呼べる人もいないし 恋人だって、いない。 今、たった二人で孤独を分け合える あなたくらいしか、一緒に行きたい人はいないの。] (49) 2020/09/12(Sat) 23:04:24 |
【人】 マリィあのね、調べたんだけど…… 空港からこの、……読めない、何コレ? のぼるべつ?なんか、温泉があるんだって。 ここ。このホテル! 色んな種類のお湯があって面白そう。 [お誘いしたからには、って 調べてはガイドブックを広げて 食事の合間にもお話したかしら。 ホテルはどこにしよう、とか 観光するなら何処がいいか……とか。 アタシばっかりはしゃいでるのかなって 最初こそ不安だったんだけど、 本棚に新しいガイドブック見つけたりすれば いつものあの仏頂面の裏の感情を知って 思わずにっこりしちゃうのね。 ああ、良かった。 この人も楽しみにしてくれてたんだ、って。] (51) 2020/09/12(Sat) 23:05:51 |
【人】 マリィ[オクラや胡瓜の時期が終わって 栗ご飯の美味しい季節。 ある日の食卓は相変わらず美味しかったのに 何だか、由人の様子がおかしかった>>43 いつも以上に表情がない、というか 由人の仮面を、何かが被ってる感じ。] ……この里芋とイカの煮物、 なんかおばあちゃんちで食べた感じ。 アタシ、中学で両親に勘当されてから ちょっとだけおばあちゃんちで暮らしてたの。 ……懐かしいわ。 [珍しく、料理にポジティブめなこと(当社比) 言ったりしたけど、どうだったかしら。 ああ、これは何かおかしい、って 気が付いたのはラジオが終わった辺り>>44] (52) 2020/09/12(Sat) 23:06:19 |
【人】 マリィ……眠れないの? [問いかけるより先に出た答えに アタシは少し眉を顰めるでしょう。 そんなに、寂しいことがあったの? 話を聞いてあげるのは出来るけど この口下手君に果たしてそれが有効かどうか。 居候を初めた当初に思ったよりも 由人は自分の殻に籠りやすい性質みたいで ……結局、語るより、共に居てあげた方が 彼の心は癒されるんじゃないか、って。] (53) 2020/09/12(Sat) 23:07:11 |
【人】 マリィ一緒に寝るだけじゃ、ダメなのかしら。 [じっと由人の目を覗き込んで アタシは確かめるように尋ねたの。 この意味が分からない程、子供じゃないでしょう。]* (54) 2020/09/12(Sat) 23:07:43 |
【赤】 マリィもっと、近くに感じたら……安心出来る? [親指の腹でそっと由人の唇をなぞりながら アタシはまた質問を重ねる。 恋人でもない人とキスするのは嫌って人 結構多いから、そのつもりで。 唇を重ねてもいいなら 孤独を分かつ者同士、おっかなびっくり 触れるだけのキスをするの。 唇の形が分かったなら、もう少し深く。 温もりを確かめるように 舌先同士を擦り合わせて。 ダメ、と言われたならそれはそれ。 いつも通りハグをしながら 狭いベッドで眠りにつくでしょう。] (*1) 2020/09/12(Sat) 23:08:22 |
【赤】 橋本 雅治[重ねた唇は、多分同じ歯磨き粉の味。 だけど、思ったよりも高い粘膜の温度とか、 少しだけかさついた唇の感触とか、 また知らない由人が見えてくるみたいで。 腕の中に抱きすくめて、 舌先で歯列を割ると、中はもっと柔らかくて熱い。 ミントの清涼感なんかよりよっぽど強い、 生々しい味蕾の粒の感触。 ああ、この舌が「美味しい」と思ったもの アタシは毎日一緒に食べてるのかな、なんて。 そう思ったら、もっと深く知りたくなった。] (*4) 2020/09/13(Sun) 13:03:28 |
【赤】 橋本 雅治[乾いた由人の声が、“俺”を呼んでくれた。 初めて、呼んでくれた!] ゆうと。 [少しだけ甘えるみたいな口調で 口の中で由人の名前を転がすと なんだかとっても安心する。 ふと目があったから俺は「大丈夫だよ」って 慈しむような目を向けただろう。 由人の目の前にいるのは いつもの化粧もなく、 ありのままの男の顔した俺。] (*5) 2020/09/13(Sun) 13:03:50 |
【人】 マリィ[一番拒まれたくない人に去られた衝撃は ゆっくりじわじわ、ざわつく心に染みていって] ─────は、 [自嘲の笑みが、零れた。 由人が帰ってきた頃には、ソファーの上に でかい図体を丸めて寝ているアタシがいるでしょう。 寝るには狭い座面に、 人と分け合える空間なんかない。 だけど朝が来れば由人は何事もなく お店に立つでしょうし、アタシも同じ。 家に帰れば何も無かったみたいに 「まあ相変わらず茶色い食卓ね!」なんて 褒めもせずにご相伴預かるのよ。] (85) 2020/09/13(Sun) 13:07:15 |
【人】 マリィ[結局、シェアハウスの話をしに 営業マンは時折店に顔を出すから 毎回曖昧に答えて終わる。 いっそ「じゃあ機会があれば……」って 引いてくれてもいいのに。 それを見たお店の子にも 「ママ、これ今誰も幸せにならないパターンよ」って 目も合わせずそっと囁き落とされたりして。 アタシは聞こえないふりして OLちゃんの愚痴に相槌を打つの。] (86) 2020/09/13(Sun) 13:07:44 |
【人】 マリィ [例えば───── 「美味しい」って言っちゃったら 由人はきっと嬉しいでしょう? あの無愛想な顔に笑みっぽいのを浮かべて 耳の端とかちょっと染めちゃったり、ね。 それを毎日言って、 ある日突然アタシが消えてしまったら その後どうやって生きていくのよ。 「愛してる」って言っちゃったら 由人はなんて言うかしら? キスは受け入れてくれたけど 結局、ダメだったじゃない。 アタシは何言われても平気。 そう、言い聞かせているうちは。 ……だけど、人間だから傷付くし血も出るわ。 もし「無理」って言われたら アタシこの先どうやって生きていけばいいのよ。] (87) 2020/09/13(Sun) 13:08:45 |
【人】 マリィ[そんなことを言ってるうちに 栗の季節は過ぎて、 白菜とかネギの美味しい時期になった。 コロッケのラインナップに カニクリームコロッケが入ったり ハンバーグのソースもきのこから デミグラスに変わっていく。 飛行機もホテルも予約して、 ガイドブックも付箋だらけになった。 北海道旅行の日程は、指折り数えられる程 ぐっと近くなっていたでしょう。 アタシは結局、来年までシェアハウスの話を ずるずる持ち越す気でいたし、 あれからアタシから由人を求めることも無かった。 「何も無かった」みたいなフリするのだけは アタシ、とっても慣れっこなんだもの。]* (88) 2020/09/13(Sun) 13:13:04 |
【人】 マリィ[ベッドで一緒に寝なくなって 「眠れそう?」って聞かなくなって…… でもそれ以外はいつも通り。 旅行の話もするし、料理も食べる。 相変わらず家にも置いてもらえてる。 だけど、見えないどこかに 亀裂でも入ってやしないか アタシは内心気が気じゃなくて。 …………本当に、惨めで。] (151) 2020/09/14(Mon) 11:40:05 |
【人】 マリィ……なぁによ。 [旅行の前日、本も読まずに アタシのことじっと見つめる由人に さすがに気まずくなって口を尖らせるの。 つくねのしゃりしゃりふわふわした食感に そっと目を細めていた矢先のことだったもの。 うっかり目が合っちゃって 耳までかぁっと熱くなる。] 見蕩れてたなら、そう言っていいのよ。 [誤魔化すみたいに、ウィンクひとつ。 「別に」なんて気のない答えが返ってきても 「照れ屋なのね」って笑うだけ。] (152) 2020/09/14(Mon) 11:40:37 |
【人】 マリィ[そうして、生まれて初めて 北の大地に降り立ったアタシの第一声───] さっむ!! てか思ってたより都会!! [空港と商業施設とホテルとが合体した 広い空港を前に、うっかり声が出てしまう。 外は晴れてはいるものの、 日の温もりなんてものは感じない。 さくさくひとりで受付まで 歩いていこうとする由人を追って はぐれないように手を繋ごうとするの。 普段の化粧も衣装もない、 ありのままの男の姿で 今アタシはあなたの隣に並んで立ってる。] (153) 2020/09/14(Mon) 11:41:31 |
【人】 マリィ[寒さから逃げるように 真っ青なレンタカーの助手席に逃げ込むと ほわ……と暖かな風が車内を温めてくれる。] チーズ作ったり、ピザ作ったりできる 工房だったっけ……? いいじゃない。暖かいもの食べたいもの。 [その提案に小さく頷くと そっと白銀の景色からの景色に 視線を向けるでしょう。 もしかしたら「旅行もやめよう」って 言われたらどうしよう、って思ってた。 だけど今この凍るように寒い場所に 由人と二人きりでいられている。] 安全運転よろしくね。 [そう言ってアタシは笑ったけど もしこのまま事故で二人とも死んでも それはそれでいい終わり方な気もして。] (154) 2020/09/14(Mon) 11:42:00 |
【人】 マリィ ー 富良野のチーズ工房 ー [ラベンダーの季節はとっくにすぎて 夏には一面紫で染まった丘陵も 今は一面の銀世界。 目的の工房はそんな真っ白な世界の中の 白樺で囲まれた林の中にあったでしよう。 絵本の中の1ページみたいな 何だか可愛いお店の中に入ってみると 正面にどどん、と等身大の牛のオブジェが お出迎えしてくれる。 ここでは手作りのチーズやアイス 釜で焼くピッツァが作れるらしく、 受付のお姉さんは男ふたりの客に 嫌な顔もしないで色々説明してくれた。] ねえ、由人ピザ作るのやってみてよ。 [そう悪戯っぽくおねだりしたら どういう反応が返ってきたかしら。 カッコイイじゃない、ピザ生地回すの。] (155) 2020/09/14(Mon) 11:42:25 |
【人】 マリィ[一緒にやろう、って言われたら なんて答えようかしら……。] 由人が作ったのが、食べたいの。 [って普段絶対言わないこと 口を滑らせちゃうかしら。 だってアタシ、普段より静かだけど 心の中はそれはもう大はしゃぎなんだもの!]* (156) 2020/09/14(Mon) 11:43:03 |
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