81 【身内】三途病院連続殺人事件【R18G】
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| 間借りしている病室にて。 ベッドに腰掛け、音が弱まった外の方へ視線を向ける。 閉め切られた儘の雨戸。 外の様子は、何一つ窺い知ることが出来ない。
手持無沙汰、右手は耳介を弄っている。 幾らも開けた穴を埋める色取り取りの耳飾り。 白く光る小さな石はそこに無く、穴が一つ、空いた儘。 (1) 2021/07/07(Wed) 22:31:33 |
| (a1) 2021/07/07(Wed) 22:32:10 |
| いつかの様に、空のタライを持って二階をふらつく。 弱まった雨風の合間を縫って、滴る雫の音が聞こえる。
意味も無く、雨漏る箇所を一つ一つ順に巡る。 その内の幾らかは新たに修繕されていた。 ――誰が、いつの間に。 その答えをとうに持っている様に思われて、 けれどもしかし、未だ認め切れずにいる。
伸びる廊下、フラリフラリと歩を進め乍ら、 躊躇いじみた間を置いて、それから開く扉があった。 開けようとしない扉があった。
何かを、誰かを。 避けながら、けれどもどこか探している様な足取りで。 男はタライ一つ抱えて彷徨っているのだった。 (3) 2021/07/08(Thu) 2:34:13 |
| >>4「オハヨウ、お嬢サン」 ポツンと佇む少女の背後から声を掛ける。 これまでと変わらぬ笑い顔、軽快な調子で。 一つ深く息を吐いた事、それが震えていた事。 笑い顔をシッカリ作ってから声を発した事。 それらは全て、少女の視界の外での出来事だ。 (6) 2021/07/09(Fri) 21:01:27 |
| >>7 フジノ 見てねェなァ、と答え乍ら、釣られた様に辺りを見回す。 少なくとも、生きている人間の姿は周囲に無いだろう。 「……散歩がてら探しに行くとするかねェ」 距離を掴み損ねている様子で、 提案とも独り言ともつかぬ言葉を吐いた。 少女と面と向かうのは、商人の遺体を前にして以来だ。 あの時は会話どころでは無かったから、 もう一つ遡れば無暗に怖がらせてしまって 以来。 どことなく、気後れしていた。 (8) 2021/07/09(Fri) 22:57:21 |
| >>9 フジノ 言われた儘、少女のことを待って。 返ってきた上着を受け取り、袖に腕を通す。 「おれこそこんくらいしか役に立てねェで。 ……なにかしようなンざ、思わねェでいいンだよ」 それに、と付け加え乍ら、 自然な仕草で少女の頭にポンと手を置く。 「お前サン、なんにもしてねェこたねェよ。 ホラ、はじめにあのひと見つけてやっただろ」 (10) 2021/07/10(Sat) 10:41:08 |
| >>11 フジノ つい置いてしまった手と、跳ねる少女の薄い肩。 その反応が反射的なものだと察すれば、 浮かしかけた手でそっと一度、緩く撫でた。 それから手を離し、上着のポケットに突っ込み。 漂う匂いの方向へ顔を向ける。 「……お医者サンかねェ。 ゴショウバンにあずかろォか、お嬢サン」 そう言ってフラリと歩き出す。 ――そんなことを言い乍ら、 この男はここに来てから殆どものを食べていない。 (12) 2021/07/10(Sat) 11:55:30 |
| >>15 【調理室】 少年の口振りに疑問を覚え、 何とはなしに出入り口の辺りを見る。 「……お医者サンはいねェのか」 それから、皿に置かれた肉、少年の仕草を見て。 ニカリと笑みを浮かべてこたえた。 「そうだなァ、腹ァへっちまった。 おれもひと切れ、もらっていいか?」 ……それが“何”の肉であるか、少年がした事。知っている。 全てでは無く、憶測も多分に含むけれども。 (16) 2021/07/10(Sat) 15:55:16 |
| >>17 >>18 >>19 【調理室】 少年の言葉に、僅かに笑みを濁らせる。 この状況だ。言っている意味は直ぐに分かった。 「そうかい。せっかく焼いてくれたんだ、 “会いに”いくのはこれ食ってからにしようかねェ」 イタダキマス、と皿の上に手を合わせてから。 薄い肉を一切れ、口に放り込んで咀嚼する。 ――嚥下しづらいのは、込み上げる嘔吐感は。 久しぶりの食事に体が驚いたからかもしれないし、 肉の正体を思って心が拒絶していたからかもしれない。 ……どちらでも良いと思った。 この場で男が口にしたのはきっと、その一切れだけだ。 空腹を満たすための食事では無いから。 (20) 2021/07/10(Sat) 19:38:48 |
| >>21 >>22 【調理室】 「――ゴチソウサマ」 机に頬杖をつき、二人が食べ終わるのを待ってから。 もし、全て食べ切ろうとする少年が苦しげであれば、 食べる量を減らすため多少手伝っただろう。 使える水も限られている。 軽く濡らした布で皿を拭い、重ねて。 クルリと振り返り、明るい調子で声を掛ける。 「そンじゃ、お医者サンのとこいくかァ」 そうして少年に案内を任せ、その少し後ろを、 ポケットに手を突っ込んでフラフラと着いていくだろう。 (23) 2021/07/11(Sun) 0:22:05 |
| >>24 >>25 【手術室】 静寂の中、手術台に横たえられた骸へと歩み寄る。 その首に残る痕を眺め、争いの跡が無い事を見てとって。 「“手伝った”のは、お前サンかい」 寂しげに佇む少年の方へ半身で向き直り。 暗い色した瞳に少しの怒りと哀しみを混ぜ込んで、 その癖いつもの笑い顔、軽い口調でそう問うた。 (26) 2021/07/11(Sun) 10:31:45 |
| >>27 >>28 【手術室】 揺れる瞳を見下ろす。 少年の傷口に触れあぐね、深くを問えなかった。 只、己と幾らか近しいのだろうと、そう思うだけで。 知ったのは、事が起こり終わってから。 「――お前サンのトモダチから」 何とも言えない顔で、それだけを口にした。 “骸に聞いた”、そんな荒唐無稽を。 (29) 2021/07/11(Sun) 12:50:43 |
| ロクは、とある日の事。ヒラヒラ手を振り見送った。サヨウナラ、お兄サン。 (a5) 2021/07/11(Sun) 16:03:18 |
| >>30 >>31 【手術室】 「まァ、そうそう信じられるモンでもないわなァ。 おれも正直、自分のアタマは信用ならねェ」 だから気の違えた男の戯言と思ってくれても構わない、 そんな風に前置いて。 「“友達”だってよ。責めないでやってくれ、だと」 少年に向かって語る合間、少女の方をチラリと見る。 知らせぬ儘、聞かせぬ儘でいた方がいいのかもしれない。 けれどもきっと、遅かれ早かれだ。 その時に、只の罪として背負うくらいならば―― 「……病気で先が長くねェこた分かってて、 どうせ死ぬならお前サンらが助かる方がいいってさ。 食ってやらねェ方が恨まれちまう勢いだったなァ」▼ (32) 2021/07/11(Sun) 16:29:13 |
| >>32 【手術室】 そうしてもう一つ。己への言葉を彼らへ転嫁する。 それが、祝福にも呪いにも。如何様にもなると知り乍ら。 「“頑張って生きてね”とも言ってたかなァ。 ――あの子、恨んじゃいねェよ。 トモダチのことも、センセイのことも」 (33) 2021/07/11(Sun) 16:29:56 |
| (a9) 2021/07/11(Sun) 18:01:59 |
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