人狼物語 三日月国


149 【R18身内村】LOVE OR ALIVE

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【人】 雨宮 瀬里

 

 気づけば、私の家へとたどり着く。
 記憶がはっきりしている実家ではなく、
 記憶が朧げだった一人暮らしの小さなアパート。

 だけど確かにここが私の家なのだ、と
 住所がそらで言えたように、知識として理解してる



 「 遠くまで、ありがとう 」


 すっかり辺りは昏くなってしまった
 途中お昼や休憩に立ち寄ったとはいえ
 随分と長いドライブデートをさせてしまって
 素直に…ほんの少し申し訳ない気分になったけど。

 
(111) 2022/05/29(Sun) 20:04:19

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 蓮司さん、……あの、 」


 言葉を投げかけて、詰まらせて。
 何か言うべき言葉があった気がして、
 それでもそれは何処にも見つからなくて。

 
(112) 2022/05/29(Sun) 20:04:31

【人】 雨宮 瀬里

 


 部屋のあちらこちらに貴方のものがあること
 気づいたのはもう少しだけ後の話。


 
(113) 2022/05/30(Mon) 13:09:32

【人】 雨宮 瀬里

 

 その日の夜か、翌朝か。
 貴方と別れてからというものの
 貴方のことがどうしたって頭を離れず
 どこか熱に浮かされたような心地は続く。
 
 溜まっていた写真や、メールのやり取りから
 どうやら週末だけ私たちは会っていたようだし
 彼のことを、蓮司、と呼び捨てにしていたようだ

 貴方が居ない部屋で「蓮司」と呼んでみて
 なんだか恥ずかしくなって顔を赤らめたのは
 貴方が知らない私だけの秘密。

 
 『 また週末、会ってくれますか 』


 貴方に一文メールを送るだけでも、心が跳ねた。

 
(114) 2022/05/30(Mon) 13:10:04

【人】 雨宮 瀬里

 


    貴方に再び恋をした今、
    記憶なんてなくてもいいと思う自分がいた

    だけど

    貴方に再び恋をしたからこそ、
    貴方との過去を取り戻したいと思う自分がいた
 
    お見合いで出会ったのだろう人々との
    縁を思い出したい、そんな気持ちもあった


    それに ──────

 
(115) 2022/05/30(Mon) 13:10:38

【人】 雨宮 瀬里

 


 貴方は、何を言おうとしてたんだろう。
 手紙の最後に書かれている文章を目で追う。

 それから何か ── 私たちは約束を交わしたような、


    ………そんな気がずっとしていたんだ。 *


 
(116) 2022/05/30(Mon) 13:10:56

【人】 雨宮 瀬里

 

 諦めなかった。
 記憶を喪ってしまったこと。
 恋心を喪ってしまったこと。

 わからなかったことが悔しかったんじゃない。
 忘れてしまったことが悔しかったんじゃない。

 1年経っているはずの私は随分と変わっていた。
 以前のはっきりした記憶の中の雨宮瀬里は、
 もう、私の要素のどこにもなかった。

 これだけ人を変えてしまうほどの恋を。
 これだけ私を変えてしまうほどの貴方を。

 忘れたまま、生きていくということが
 私にとって、望ましくない。

 私の理性はそう思った。


 
(123) 2022/05/30(Mon) 15:08:11

【人】 雨宮 瀬里

 

 それと同時に、理性じゃない部分が
 貴方を喪うことを、恐れていた。
 貴方と離れることを、強く拒んだ。

 涙を流した理由は、
 悲しみも悔しさでもなくて

 きっと貴方と離れることに対する恐怖だった


 
(124) 2022/05/30(Mon) 15:09:00

【人】 雨宮 瀬里

 

 貴方に恋をすることが、
 必然だったような、気がしていた。

 貴方との記憶を喪っても、なお。

 靄が晴れるきっかけは、
 まだ私には、訪れなくとも。
  
 週末のデートまでの日数を私は指折り数えている *

 
(125) 2022/05/30(Mon) 15:10:26

【人】 雨宮 瀬里

 

 私にとって初めての週末デートの日。
 その日私は家にいて、
 貴方が来ることを今か今かと待っていた

 
靄はまだ晴れていなかった

 貴方がすでに記憶を取り戻したことを私は知らない
 私が、いつ取り戻せるのかも、分からない


 だから、貴方を迎えたときに


 「 蓮司
さん


 
 と。私は呼んだ。

 
(128) 2022/05/30(Mon) 21:17:31

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 待ってた。遠いところまでありがとう。
   ……ご飯……かな?このあとどうする? 」


 週末デート。この後いつもどうしていたんだろう。
 私はこの町のこと、知っているようで何も知らない。
 きっと住み慣れた町、だったはずなのに。

 
(129) 2022/05/30(Mon) 21:17:47

【人】 雨宮 瀬里

 

 私の瞳に映る貴方は、
 もう一度私に恋をしてくれたひとのはずだった
 
 貴方の瞳には、
 上手くいったあとのお願い事も、
 貴方との日々も、忘れてしまった私が映る

 だけどきっと貴方が誰であっても。
 忘れてしまったころの貴方も、
 これから先の貴方のことも、全部知りたいと私は願う。 *

 
(130) 2022/05/30(Mon) 21:17:59

【人】 雨宮 瀬里

 

 貴方と過ごす時間なら、きっとどこだって楽しい。
 …こんな気持ちで、今までの雨宮瀬里は、
 貴方と一年も過ごしてきたのだろうか。

 それとも恋矢を受けた恋と、
 今の恋は、何かが違うのだろうか。

 恋をしたことがない≠ゥら
 これが恋なのかどうかも確かめられずに
 私は初めての週末デートを迎える。


 そういえば。と、私がきっと提案したのは
 この町にきて貴方と最初に行った店=B

 
 「 この間見かけて、気になっていたの 」


 と、きっと私は一年前と同じことを言う。
 それを私が気づいていないだけで。


 ふいに囁かれた言葉には、
 真っ赤になって、頷いた。
 
これを一年続けてきたというのか、私は。


 
(133) 2022/05/30(Mon) 23:19:05

【人】 雨宮 瀬里

 

 同じメニューを頼み、同じ感想をいう。

 お店の人が「ああ、」という顔をしていたから
 もしかしたら何度も訪れたことがあるのかも、と
 そう気づいてからは、貴方に向かって苦笑した。
 私たち、どうやら来たことがあるみたいね、って。

 貴方が思い出したなんて知らないもの


 それからまた少しだけ車を走らせて
 といっても都会ほど、夜景が美しいわけじゃないから
 きっと、それはそこそこに。

 
(134) 2022/05/30(Mon) 23:19:22

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 蓮司さん、 」


 それはそれからだいぶ時間が経った後。

 身体が幾度貴方を求めようと、
 まだ記憶を取り戻す前の私は、
 薄いタオルケットにくるまりながら
 薄暗い部屋の中、肌を貴方に寄せている
 

 「 あれから暫く、
   記憶を思いだそうと、頑張ったんだ 」


 どうだった?って聞かれたら
 首を横に振るだけだけど。ご存じの通り。
 
(135) 2022/05/30(Mon) 23:19:47

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 家にある服とか、
   随分、昔の私と、違うの。
   昔の私がどうだったか、っていうのは
   ……蓮司さんには、内緒。
   今と全然違って、びっくりしちゃうから 」


 知ってる、ってネタ晴らしされない限りは
 私はその話はしないつもりで。
 見てみたいとか言い出されても
 ほらまた、私は首を横に振るだけ。二回目。

 
(136) 2022/05/30(Mon) 23:20:02

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 でもきっと蓮司さんが変えてくれたんだなあって
   だって変わった記憶が、ないんだもの。

   つまらないことは案外覚えてるのよ。
   蓮司さんと関係ないこと。
   ここの町の人間関係だとか、
   私の師匠にあたる人のおでこ掻く癖とか。

   でも私の中から、蓮司さんとの記憶だけが
   すっぽりと抜け落ちちゃってるの。 」


 多分きっと、貴方もそうじゃない?って同意を求める
 ……その返事がね、どうであれ。
 私はそれ以上に、貴方に言いたいことがあったの。

 
(137) 2022/05/30(Mon) 23:20:16

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 でもひとつだけ完全にわからないものがあった

   私が、着けるはずのないものが、
   家に置いてあるの。 」

 
(138) 2022/05/30(Mon) 23:20:50

【人】 雨宮 瀬里

 

 体を起こしてちいさな棚へと手を伸ばす。
 一番上の引き出しを開けて、中から取り出したのは

    ── 見覚えのない、
いマニキュア。

 
(139) 2022/05/30(Mon) 23:21:10

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 陶芸をするときね。
   ネイルって基本だめなの。
   作品に爪が刺さったら台無しだし
   納得いく作品は絶対にネイルをしてたら作れない
   だから、私は、これ、使わないはずなの

   でも憶えてないってことは、
   貴方との記憶の何かに、関係するんだと思う

   ……って言われても困っちゃうか。

   見覚え、ないよね。
   あるはず、ないよね。 」


 私は記憶を喪っているはずの貴方≠ノ問いかけた *

 
(140) 2022/05/30(Mon) 23:21:24

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 これを? 」


 ベッドサイドにはちいさなランプが灯り
 赤いマニキュアを僅かな光の中で翳してみせる
 殆ど使っていないゆえなのかほとんど減っていない赤を
 そっと目の前で揺らして


 「 似合うかな… 」


 …などと。

 どちらにしろ週末が終わったら剝がさねばなるまい。
 一日、二日くらい指先が赤でも、
 なんとなく悪くはない気がした。

 
(144) 2022/05/31(Tue) 8:42:13

【人】 雨宮 瀬里

 

 一糸纏わずベッドに寝転がりながら。
 灯りは相変わらずあまりないまま
 私は爪に色をのせる

 
 「 不思議ね。
   前もなんだかこんなことがあった気がしたの
   暗い場所だとマニキュアが塗りにくい、って
   私、なんだか知ってる気がする 」


 大人になってからネイルなんてしたことないのに
 どうしてか、この感覚を私は知っている

 「 でも、普段指に色がついていないから
   なんだか不思議な感じ。
   まるで、別の私になるみたい。 」


 色づき艶めく左手の小指と薬指。
 二本塗って光に翳して、そうして私は首を傾げる

 
(145) 2022/05/31(Tue) 8:42:38

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 あれ?この赤、最近どこかで、 」


 薄れてしまった記憶の中とかじゃない。
 最近、どこかでこれと同じ色を私は見た気がする

 
(146) 2022/05/31(Tue) 8:42:58

【人】 雨宮 瀬里

 


 「 蓮司さん、私…… 」


 戸惑いながら私は貴方を見る

 
         
ぱちん


         どこかで小さく音が弾ける


 
(147) 2022/05/31(Tue) 8:43:37

【人】 雨宮 瀬里

 


         ぱちん、ぱちん、ぱちん
         時計の秒針のように
         規則正しくリズムを刻む、

 
(148) 2022/05/31(Tue) 8:43:54

【人】 雨宮 瀬里

 


   ああ、そうだ、あの時だ >>79


 
(149) 2022/05/31(Tue) 8:44:09

【人】 雨宮 瀬里

 



     『 私ね、変わろうと思って 』


     それは確かに私の声。
     透明な歌声、跳ねるような指の音。
     ちいさな灯りが照らす暗がり。
     明るい光が私の手元を照らしていて
     私の指先が、ひとつひとつ色づいていく

 
(150) 2022/05/31(Tue) 8:44:37

【人】 雨宮 瀬里

 


  明るい光に目線を向ければ ──── 、

         思考は
途切れない
>>80
         考えるための猶予は幾らでもあって、


 
(151) 2022/05/31(Tue) 8:45:10

【人】 雨宮 瀬里

 


   ぱちん。
   催眠術師が眠りから観客を揺り起こすように
   ひときわ大きな音が、耳の中で鳴り響く

   世界に、色が



 
(152) 2022/05/31(Tue) 8:45:54

【人】 雨宮 瀬里

 


   赤く塗られた左手の小指と薬指

   見慣れた部屋と匂い いつもの週末
   肌で感じる貴方の体温

   隣には恋をしている相手がいて、
   私は、貴方に向かって


         「 蓮司? 」


        ……と。一言だけ呟いた。 *

 
(153) 2022/05/31(Tue) 8:46:26