人狼物語 三日月国


55 (R18)竜宮城

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【人】 しあわせうさぎ 理恵

[そうして鐘の音が鳴れば、フウタは改まって話し始めた。
 持ってきた輪の話を聞いて、己の解釈を確認すれば、フウタはそれを肯定する。>>5
 口元を緩めて、自分は理恵のものだと言い切るフウタに、ンフーと笑みを深めた。「……知っとる」

 ぽんぽんと頭を撫でる手に目を細めて、左手を空に透かし見る。]


 ……しかし良い物をもらったのじゃ。フウタはせんすが良いの。
 人間の体は便利じゃが、鼻が悪すぎていかん。
 いくら理恵の匂いをつけても、よう分からんくて困っとったんじゃ。


[膝立ちになれば、フウタの頭が下になるか。
 ぽふっと顎を乗せて、すりすりと匂いもつけた。]
(11) 2021/01/07(Thu) 22:06:57

【人】 しあわせうさぎ 理恵

[初日の出を見ようと誘われれば>>6、「はつひのでってなんじゃ」「それは食えるのか?」「朝のうちに見つかるじゃろか」「まてどこにあるのか説明してから寝んか!」ぽんぽんと問いかけたが、フウタはよほど疲れていたのか、説明も無く眠りこけた。

 そして自分はとっとと寝ておいて、まだ寝ぼけてる理恵を揺すり起こした。
「もう探しに行くのか」「そんなに大仕事なのかはつひのでは」「よし理恵が先に見つける
ゼッテー勝つ
」ふんふんと鼻息を荒くしていると、フウタがベランダを覗いている。「そぉぉぉんな簡単に見つかるわけ無いじゃろーーーー!」ふっはーと勝ち誇って背中に飛びついくと、フウタがカーテンを引く。入り込んできた光に、二人で目を細めたか。

 窓を開けずとも、冷気が肌を撫でた。良く冷えた日は、空気が澄んでいる。

 空はすでに桃色に色づいていた。雪化粧を施した山の上で、薄くたなびく雲が、どこまでも続いている。低いところにある太陽が、その濃淡をことさら繊細に表現していた。薄紫色に、桃色に、あるいは赤に絶えず変化して、一瞬でも目を離せば、二度と同じ色には出会えない。
 
 山の端がひときわ黒くなり、その後ろからオレンジ色の光があふれ出した。
 雪に覆われた山肌を、元日の陽が滑り落ちる。陰影は一層濃く映し出され、きらきらと輝いた。

 良い元旦だった。

 太陽が昇り切って、変化が乏しくなれば、「さてはつひのでを探しに行くかの」とでも誘っただろうか。そして今見たものがそうだと知れば、「……つまり今回は同着じゃの?」ちょっと悪あがきした。]
(12) 2021/01/07(Thu) 22:08:56

【人】 しあわせうさぎ 理恵

[そうして湯靄のたなびく露天風呂に向かえば、フウタが顔をとろけさせた>>7
 温泉にはそういう効能がある。
 けれどやっぱり尻を底につけると溺れそうで、どうにも寛げないでいれば、フウタからひょいと抱きかかえられた。
 膝の上でやっとちょうどいい深さになって、「あ゛―」似たような顔を前後に並べていたが、裸のうなじを舐め上げられて、「うひゃ、」思わず声を上げた。

 昨夜の記憶が蘇って体が熱くなる、暇も無く。人間の耳(飾り)の方に口を寄せられて、ぺろぺろと舐められれば、「うひゃ、ひゃひゃ、はは、ぅぅぅぅぅ、やめ、やめんか!」くすぐったさにゲタゲタ笑えば、騒々しく波紋が広がる。しまいにはフウタの顔に、ぱしゃんとお湯をかけた。
 けれど懲りずに今度は兎の耳(本物)をとられ、同じように口を寄せられれば、湯の中の肌がぞわりと泡立った。「──ひゃ、」耳の内側は、桃色に淡く色づいていた。繊細な孔に舌が当てられれば、息がやけに熱く感じる。頭の中に直接水音を注がれている気分になって、「ぅぅぅぅ」ぱしゃんと湯を鳴らして腕を上げると、自分の両耳をきゅっと抑えた。]
(13) 2021/01/07(Thu) 22:10:39

【人】 しあわせうさぎ 理恵

 [耳で遊ばれていたせいか、性能の良い耳を持ちながら、他人の気配>>8に気づいたのはフウタが先か。手を引かれて岩陰に隠れれば、今にも乱交を始めそうな男女グループが入ってきた。
 様式美というやつじゃの。

 まあ別に見られようが見られまいがどうでも良いんじゃが、フウタが隠れたそうだったので、一緒になって岩陰に潜む。
 岩はそう大きくは無く、二人で隠れるにはしっかりくっついている必要があった。ぴたりと身を寄せ合いながら、
「なかなか出ていかんのー……のぼせそうじゃ」
湯の音に隠れてひそひそと喋る。

 だというのに、フウタが再び耳をいじり始めて、「きゃ、──ぅぅ、」思わずぱちゃ、と湯を鳴らす。幸い気づかれた様子はなかったが、]


 
お主は隠れたいのか見せびらかしたいのか、どっちじゃ!



[小声でちょっと怒った。]**
(14) 2021/01/07(Thu) 22:11:49

【人】 因幡 理恵

[無事に髪も乾かしたころ、きゅるきゅると腹が鳴り始めた。腹の中でたくさんの小魚が泳いでいるようだ。
 朝の真っ直ぐな光を浴びながら、白い湯をぱちゃんと跳ね上げて、岩肌を黒く塗らすのも楽しかったが、サカりを迎えていた例のグループ>>20もあるし、いちゃいちゃもそこそこに退散した。
 その辺は後程詳しく語ります。
 ほかほかつやつやの肌のまま、二人で並んでこーひーぎゅうにゅうをごっごっと飲む。どうやら腰に手を当てて飲むのがまなーらしい。甘味にプハーと息を吐いたが、腹はまだ鳴っている。

 相変わらず量が少なく品数の多い朝食が運ばれてくれば、フウタの方にだけついていたおんせんたまごに興味を持ち、「ちょっとくれ」もごもごやっては「……わりといけるの」新たな味覚に目覚めてみたり。
 おんせんまんじゅうを素揚げしてた「かりっとまんじゅう」もめちゃくちゃ美味かった。つやつやとしたこーひー色のまんじゅうをはむっと噛むと、なんか禁断の汁がじゅわわーと口の中一杯に広がる。きめ細やかなあんが、油によってさらに滑らかに口の中に広がって、そりゃもう美味い。思い出しただけでまた食べたくなってきた。]
(22) 2021/01/09(Sat) 13:10:53

【人】 因幡 理恵

[ぱんぱんになった腹を撫でながら御簾でくつろいでいると、窓から見える景色にも湯靄がたなびいてきた。今日は風が無い。
 先ほどの露天風呂のことを思い出して、ごろごろとフウタの上に乗っかった。]


 あの場でしようとかは思わんかったようじゃが……
 今は、どうじゃ?


[そう問いかけたか。]
(23) 2021/01/09(Sat) 13:11:28

【人】 因幡 理恵

[……それも終わって休憩を挟めば、昼過ぎになるか。旅館をうろうろしていると、全然読めないチラシが貼ってあった。読めないので従業員に尋ねると、近くに有名な神社があり、そこで「はつもーで」をやっているのだそうだ。「よし行くぞ」

 もこもこのマフラーとあったかタイツを身にまといて行ってみれば、長い階段にずらずらと人が並んでいる。「おお、フウタ見ろ、人がごみのようじゃ」そーしゃるでぃすたんすという概念が存在しない世界です。
 あちこちからただよってくる出店の匂いにふらふらして、あまざけをと紅白まんじゅうをもくもく食べながら、混んでいないところから先に回る。牙の生えた亀に石柱がぶっ刺さった像(「ひいき」という生き物らしい)をぺたぺた撫でて「冬眠中かの? つべたいのう」、頭の上に積もっていた雪を払ってやる。
 それも終われば絵馬だ。真っ赤になった手にはーはーと息をかけたが、全然あったまらなかったのでフウタのポケットに手を突っ込むこと数分、ようやっとぐちゃぐちゃと願い事を書いた。
 何書いたのかは見せません。
 でもフウタが何書いたのかは気になる。高いところに飾られて読めない絵馬にぶぅぶぅ文句を言う。
 仕方なしに人様の絵馬をきょろきょろ覗いても「せ、っ、く、す、れ、す、が、……? さ、れ、ま、す、よ、う、に? ……せっくす……? ってなんじゃっけ……」漢字が読めないし、読めても分からない言葉もある。

 列に並べばなかなか進まず、くだらない話をして時間をつぶす。亀のマフラーをぐるぐる鼻まで巻き付けて「おお、確かに首が引っ込んだの!」けたけた笑ったり、「ちょっとそっちも使ってみる」マフラーをとりかえっこしては「確かにあったかいの」すんすんと匂いを嗅いで上機嫌になったり、「兎になって進んだ方が速いの」豪快な割り込みを思いついてひょいと足元をのぞき込み、「無理じゃな、潰されて死ぬ」「そもそもあの格好じゃフウタが運べんか」あっさり諦めたり。
 
 そんなこんなでやっと賽銭箱の前まで来た。銭よりもぺらぺらの紙の方が高いはずだが、周りを見ると投げて入れているのはほとんどが銭のようだ。なんじゃけちくさいのう。ありがたく追従した。(けち)
 まんじゅう代も残しておきたい。
 見よう見まねで金を投げ込んで、ぺこぺこ、ぱんぱん、ぺこ、と何かにへつらって、目を閉じて願うこと数秒。

 ぺこ、と腹が鳴った。]
(24) 2021/01/09(Sat) 13:14:02

【人】 因幡 理恵

[最初は気のせいかと思った。今日はよく腹が鳴る。
 けれど、ぺこん、ともう一度。自分の中で、自分が持つ拍とは全く異なるタイミングで、腹の中で何かが動く。その動きは全く予測がつかなくて、ぱちっと目を見開いて腹を腹を見下ろす。
 手を合わせたままじっとしていると、再びぺこ、と腹が内側から押された。

 腹が張っている感じは、すこし前からあった。
 しかし、内側でもぞりと動く感触を、初めてはっきりと認識した。
 自分の意志とは無関係にうごく物体が体の中にある。
 異物ではない。むしろ異物とは対極にあるもの。
 この地球の中で、どんな存在よりも自分自身に──フウタに、近いもの。
 地球上にありふれた、どこにでもある奇跡に違いない。はるか昔から、人間も、兎も、亀も、その他の動物も、これを繰り返しながら数を増やしていったのだ。

 あァ、と声が漏れた。合わせていた手を腹に当てて、自分ともう一人だけに聞こえる声で、呟いた。]
(25) 2021/01/09(Sat) 13:15:11

【人】 ははうさぎ 理恵

[両隣のグループは既に入れ替わっていた。後ろの人間が焦れたように身じろぎしているのを感じる。退こうとしていたフウタの左手をとって、「フウタ!」動かないままに呼び止めれば、指輪同士が触れ合ったか。
 とっさに言葉が出てこずに、右手を腹に当てたまま、しばらく見上げた。]


 腹の中が、動いとる……


[別にすけべな意味ではなく。]
(26) 2021/01/09(Sat) 13:17:24

【人】 ははうさぎ 理恵

[「ほら!」と言いながらその手を腹に押し当てる。二つの指輪が、おなかの上できらきらと光った。]


 わかるか?


[と期待に目を輝かせて振り仰いだものの、厚い服越しでは難しいか。
 胎児も驚いたのか、先ほどまであれだけ動いていたのに、沈黙してしまった。
 間の悪さにぶぅと唇を鳴らす。]


 なんじゃ、恥ずかしがりおって。
 ……まぁ、いいか。早く父ちゃんにも聞かせてやるんじゃぞ……


[そう腹に語り掛ければ、自然と口元がほころんだ。]**
(27) 2021/01/09(Sat) 13:18:03

【人】 しあわせうさぎ 理恵

[ちょっと場面は戻って。(ろる返し)

 部屋の中に人の気配が増えても、起きることは無かった。野生のままだったら死亡待ったなしだ、かつては寝る時も目を開けていたのだが。

 フウタはティッシュまうんてんを背景に目をぱちくりさせたが>>15、やがてコップを片手に顎をくいっとしてきた。
ん、と目を細めて、少しずつ水を飲み下す。こく、と喉を鳴らすこと数回、コップから口を離すと、ンフーと唇を舐めた。「悪くないの」
偉そうに言った後に、毛布からニュウっと腕を出してフウタの手からコップを奪い取った。]


 だけど理恵ならこうする


[そうして、残っていた分をあおると、フウタに口づけて水分を与えたか。]
(28) 2021/01/09(Sat) 20:56:36

【人】 しあわせうさぎ 理恵

[マウンティングだと思った後にマーキングと気づいたことを知ったならば、出会った時から頭を乗せ続けていた兎はこう言ったかもしれない。「なんじゃ今更。亀の鼻も大したこと無いのう」──まぁ亀が乳揺れに気を取られているなら、特に何も言わなかっただろうが。

 頭に乗せていた顎がだんだんずり落ちて、肩にぽすんと乗っかるまで、初日の出を眺めていたか。刻一刻と表情を変える空の色に見入る。
 鳥のさえずりが高らかに響いていた。明日も、明後日も、この太陽は昇る。昔話の時代から、生きとし生けるものの頭上に存在し続ける光だ。ならば来年も、顔を並べてみることができるだろう。]
(29) 2021/01/09(Sat) 20:57:11

【人】 しあわせうさぎ 理恵

[朝日を浴び終えて露天風呂に向かい、部屋の風呂とは違う気持ちよさ(意味深)に寛いでいると、フウタがいたずらをしかけてきた。
 自分でも触ったことの無い場所(注:耳です)を舐められて、熱っぽくなる頭に困惑していると、不意にフウタに引っ張られた。水の中では意外と俊敏なのは、亀の特性なのか。
 静かにしようとしていたのに耳を弄られて、矛盾に怒れば熱に浮いた瞳に射抜かれた>>19


 ………………


[返事もできぬままに見つめ返していると、タオル越しの腹に硬い感触が当たる。
 まだ言葉が出てこぬうちに、弁解の言葉>>20を聞けば、長い沈黙の後に一度だけうなずいた。]


 そうじゃの……



[ここはまた湯が入るし。]
(30) 2021/01/09(Sat) 20:57:45

【人】 しあわせうさぎ 理恵

[けれど状況は変わらない。乱交グループが出ていく気配は無く、硬直が続く。股間の話じゃないです。

 どうにも動けずにいると、はしゃいでいたメスの声が発情し始め、フウタがびくりと反応した。
 先ほどまでいじられていた耳は、すっかり性能を取り戻し、岩陰に居てもなお彼らが何をしているのかさえ分かりそうだ。

 理恵もああいう声を出してたんじゃろうか。

 どんどん熱っぽくなる目から、視線が逸らせない。
 抱きしめる手が、無遠慮に肌を這い回る様を想像してしまう。今まで何度もそうされたように。しかし今触れられたら静かにできる気はしなくて。
 近づいた唇同士が触れ合うだけで、肌が、息が、震えだす。はぁ、と白く色づいた吐息は、離れたばかりの唇にかかったか。
 その唇が動き、解決法>>21を言われれば──]


 え……嫌じゃ。



[兎、お湯怖い。]
(31) 2021/01/09(Sat) 20:58:47

【人】 しあわせうさぎ 理恵

[とはいえ他に方法も思いつかない。]


 離すなよ? 絶対に離すなよ?
 もう離さんって言ったの理恵覚えてるからな?



[何度も念押ししてから、きゅっと目を瞑ってフウタの首にかじりつく。
 大きく深呼吸をしてから、しゅるしゅると縮み始めた。

 兎の体では、もともと大きな温泉が更に広く、深く感じる。
 しがみつくこともできぬ腕では、落とされたら溺れるしかないが、果たしてしっかりと支えられた。
 ぶるぶる震えながら脱出し、野に、じゃなかった旅館に放たれた兎は、最速の人類よりもなお速い足で飛び出すと、大浴場の脱衣所へと向かう。
 足元を駆け抜ける毛玉に人間は驚いたようだが、そう簡単には捕まらない。知らせを受けた従業員が捕獲道具を片手に脱衣所にやってきて、「うさぎを見かけませんでしたか?」と聞いてきたが、めちゃくちゃ息切れしながら「知らんの」と答えると、別の場所を探しに行った。]**
(32) 2021/01/09(Sat) 20:59:30

【人】 ははうさぎ 理恵

── ??? ──

[病院に着くと、突然、呼吸ができなくなるほどの痛みが突き上げた。尻尾の付け根を鉄の棒で締め上げられるような痛みだった。出産を前にして、子宮が収縮を繰り返している。全身に汗が噴き出して、じっとしていられなかった。かといって、歩き回ることもできない。しばらくすると痛みが引いた。先ほどのは気のせいではないかと思えるほど、普通の状態に戻った。

 一時間後、再び体の砕け散るような痛みに襲われた。強がる気持ちはどこかにいって、何度もフウタに助けを求めた。
 あらゆることをフウタに押し付けてきたが、こればかりは変わってもらえない。メスが痛みにのたうち回り、命を懸けて子供を産んでいても、オスにできることは何もない。手を握って、腰を揉むのが精々で、その加減が悪いと言ってはぎゃんぎゃん怒った。
 怒る相手がいないと、不安で気が狂いそうだった。

 陣痛には波があった。はじめは一時間ほどの間隔で、痛みが押し寄せてくる。間隔はじだいに短くなり、痛みの度合いも強まっていく。子供が腹の内側で暴れているのが分かった。内側でぐるぐると動いていた。
 痛みの波は頂点に達したのち、また引いていく。その繰り返しは永遠に続くように思えた。
 涙をふくことも忘れるような疲労が全身を支配した。痛みと痛みの合間に意識がもうろうとして、眠りなのか気絶なのか分からない状態になった。短い夢を見たかと思えば、痛みの波がまた押し寄せてきて目が覚めた。

 夢と現実の区別があいまいになり、自分が誰で、どこになるのかも分からなくなっていった。
 とぎれとぎれになる意識の中で、腹の子に名前を与えた時の夢を繰り返し見た。]
(33) 2021/01/09(Sat) 23:05:22

【人】 ははうさぎ 理恵

[──腹が大きくなっても、子供の性別が分かっても、名前はなかなか決まらなかった。
名づけのヒントは無いかと、フウタと並んで文字の勉強をした。いままでうさぎ、かめ、とひらがなで書いていたが、漢字もあるらしい。

 突然の胎動に、腹を抑えた。痛くは無いが、反射的にウッと声が出る。
 まだ赤ん坊が跳ねているうちに、フウタの手を腹に当てた。最初の頃は自分以外が腹に触れると沈黙していたが、動くたびにフウタの手を腹に置いて、「お主の父ちゃんじゃぞ」と話しかけていれば、やがて父親の感触を覚えたらしい。フウタの手が当てられても、元気に主張するようになった。
 目を閉じると、いつも想像する景色があった。フウタの大きな手に、赤ん坊が小さな手を合わせている。早く抱きしめさせてやりたかった。腹の中でもぞもぞと身じろぎする命が、どれだけ愛おしいか。あの大きな手に包まれると、どれだけ安心するか。二人に、お互いのことを教えたい。
 そうして、この子の成長を見届けたい。自分の足で立ち、言葉を発するところを見たい。小さな目で見た世界を、拙い言葉でどのように表現するのだろうか。瑞々しい感性を通した世界は、どのように変化するのだろうか。
 彼女のささやかな成長を、フウタと共に喜びたかった。]
(34) 2021/01/09(Sat) 23:07:02

【人】 ははうさぎ 理恵



 最近、思うんじゃ……
 腹の中で育っているのは、時間そのものなんじゃないかと……
 
 
[開きっぱなしのノートを見ると、練習中の漢字が書かれていた。うさぎは兎、かめは亀。一つの漢字には様々な読み方があって、例えば兎は「ト」、亀は「キ」とも読むらしい。
 兎。亀。二つの字をなぞる。その順番で読み上げる。同じ音でありながら違う意味を持つ言葉を、知っていた。]
(35) 2021/01/09(Sat) 23:08:11

【人】 ははうさぎ 理恵

[秋口から見ていた奇妙な夢は、ある時から変化するようになった。
 フウタと手を繋いで歩いていると、小さな女の子が間に割り込んでくる。自分たちは笑って、その子を挟んで歩き出す。フウタは右手を、自分は左手をその子に差し出して。
 他愛ないおしゃべりに夢中になっていると、やがて繋いでいた手が離れる。自分ばかりの歩みが速くなる。一か所にとどまることはできない。地面に向かって落ちていくのを止められないように。
 行かないでくれ、という声に振り返ると、二つの影が並んでいる。子供はいつの間にか大きくなって、理恵とそう変わらない背丈になっていた。
 霞むほど遠くなった二つの影を振り返って、ふっと口元をほころばせた。]


 どうせ二人とものろのろなんじゃろ。
 ゆっくり来い。昼寝でもして待っててやる。


[腹の子は、いつも教えてくれた。
 フウタと自分の時の流れが違っていても、いつか触れ合えぬほどにその差が開いてしまったとしても。自分たちは、確かに同じ時を分かち合ったのだと。]**
(36) 2021/01/09(Sat) 23:09:14

【人】 ははうさぎ 理恵

[痛みの間隔が十分おきになり、やがて五分を切った。ずっと握り続けている手も、腰をさする感覚も、痛みのあまり認識できなくなった。フウタを呼ぶこともできなかった。
 名前も、過去も、理恵としての自我さえ剥がれ落ちた。最後に残ったのは、産むという意志だけだった。そのためだけに自分の肉体が存在していた。

 なまあたたかい水があふれ出した。液体は太ももを濡らし、敷かれたタオルに吸い込まれた。
 痛みのありかたが変化した。子供が膜越しに頭で押し広げていたものが、直接になり、鋭い痛みとなった。子供がいつもいた場所を離れて、降りてこようとしていた。外におくりだすため、腹筋に力を入れて、いきんだ。
 痛みに間隔がなくなり、肉体に存在し続けた。自分の意志ではコントロールできない力が体内にあった。自分の肉体から子供の出ようとする意志を感じた。母親はその摂理に従うしかなかった。降りてくる波に合わせ力を込めた。涙がずっと止まらなかった。

 西日が窓から差し込んだ。初日の出が、初めてときを認識した日の景色が、幻の中にふっと浮かんだ。
 来年は三人で見れるだろうか。

 泣き声が、部屋の中に響いた。]*
(53) 2021/01/10(Sun) 8:30:01

【人】 ははうさぎ 理恵

[お腹の上に赤ん坊が乗せられた。
 生まれたばかりの子供は、兎にしても亀にしても大きすぎた。そのくせ人間にしては小さかった。
 自分の力で動いていて、柔らかく、ぐにゃっとしていた。
 最初は青かったが、少しずつ赤みがさしていった。
 自分とフウタから血と肉を受け継ぎ、離れていった、一つの命だ。]


 本当に、腹の中に子供がいたんじゃな……


[少しずつ大きく育っていく腹を持ちながら、元気に暴れまわる胎動を感じながら、一方でどこか冗談じゃないかと思う自分もいた。

 赤ん坊は、芋虫のような腕と足を動かしていた。
 虫眼鏡がないと見えないくらいの小さな爪が、指の一本一本の先に、確実についていた。
 こんな細かいところまで気を抜かずに作られている。
 何か、自分たちの認識できない大いなる存在を、我が子の小さな爪の中に見た。

 腕の中の赤ん坊が、理恵の胸に頭をくっつけた。
 倒れ込んだと言った方がいいかもしれない。
 この頼りない命は、まだ自分の力で頭を支えることもできなかった。
 心臓の音を聞いているのか、やがて泣き止んだ。

 母乳をあげるために乳首を吸わせた。
 赤ん坊の小さな口が、必死に吸い付いてきた。
 何一つこの世界のことが分からなくても、生きようとしているのだ。
 愛おしさがこみあげてきた。]
(54) 2021/01/10(Sun) 9:20:22

【人】 ははうさぎ 理恵

[満身の力を込めていた拳が、すっかり白く強張っていた。同じようにフウタの手も。
 フウタは今までになく酷い顔をしていた。フウタを呼ぶ声はがらがらとかすれた。
 彼の手も真っ白に血が通っておらず、出血の痕さえあった。
 握力の無い自分が、万力でフウタの手を握り潰し、爪を食い込ませて傷つけていたことに、初めて気づいた。
 フウタは、傷める腹を持たずして、共に出産していたのだと知った。]


 撫でてやれ……お主の子じゃ。


[まだ感覚も無いだろう手を、小さな命へと導いた。
 胸にあたたかいものがこみ上げるのを感じながら、大きな手が我が子に触れるのを、見つめていた。]
(55) 2021/01/10(Sun) 9:25:20

【人】 ははうさぎ 理恵

[いつか、フウタに話す日が来るだろうか。
 まだ、ときを知るずっと前に、子供に忘れ形見としての役割を期待していたことを。
 自分が、おばあちゃんが、フウタよりもずっと先に死んでしまっても、フウタの孤独を癒してくれる希望として、子供を望んでいたことを。

 だけど、胸の中の小さな命が教えてくれた。
 この子はそんなことのために産まれたんじゃない。
 孤独を癒す力も持っているかもしれないが、そんなものはただのおまけだ。

 理恵が、フウタが、そのほかの全ての命がそうであるように、ただ愛されるためだけに産まれてきたのだと。]*
(56) 2021/01/10(Sun) 9:25:53

【人】 因幡 理恵

[除夜の鐘を聞いたって煩悩まみれなのは変わらない。
 御簾でごろごろしながらの問いかけに、フウタの喉がこくり、と鳴る。>>41
触れ回る熱い手が、いやだったことなど無い。
ワンピースの裾から手を差し入れられて、畳の上に組み敷かれれば、今度、こく、と喉を鳴らしたのはこちら。

 ──という時を過ごしたのちに初詣に向かう。
 千円以上あるたのもしい亭主とともにあちこちぶらぶらし、昆虫標本みたいに背中に棒がぶっ刺さった亀の像を撫でては「冬眠中の亀は触っちゃいかんのか、なおさらお主冬眠するなよ」と一本線で隠された感情>>43に気づかずに大真面目に釘を刺したり。
 フウタの絵馬が見れなくてぶぅと唇を鳴らしたが、せっくすの意味を教わって「つまり、理恵たちが昨日とさっきしたやつもせっくすじゃの?」とそれなりにデカい声で納得した。集める視線が一気に増えた。「あぁ一昨日も」その辺にしておいた。

 マフラーを交換してお互いの匂いを嗅ぎ合って、賽銭箱に小銭を投げ込んで、腹の中の存在に気づくか。]
(66) 2021/01/11(Mon) 7:21:07

【人】 母ちゃん兎 理恵

[フウタが何か言ってきたが>>45、腹に気を取られて全く頭に入ってこない。
 やがて自分の体に起きた変化に気づいて、フウタに伝える。
 やっぱり腹に気を取られて、意味が分からぬ様子のフウタを、しばし置いてきぼりにするような形になってしまったが。それすら少し可笑しくて。

 けれど、フウタの瞳から流れる雫>>46に、言葉を失った。

 大粒の涙は頬を伝い、日の光を集めて落ちる。
 何か言葉を言う前に、中年女性に注意されたか。ちわげんかの意味は分からなかったが、フウタに手を引かれて離れた。
 
 少し離れたところは、夏祭りの日に初めて結ばれた場所とよく似ていた。
 じっと見下ろすフウタの手を、ずっと握っていた。
 片手はフウタと握ったまま、もう片方の手は腹に当てたまま、フウタの言葉を待つ。
 いつもよりもずっと長いこと言葉を探した後に、出てきた言葉>>47に。

 ぽろ、と呼応するように涙があふれた。]


 なら……何で泣いたんじゃ、
 おかしな亀じゃのぅ……


[頬を流れる雫が、フウタの冷たい手を伝う。

 ぽろぽろと涙をこぼしながら、同時に満面の笑みを浮かべて、ずいぶん長いこと見つめ合っていた。]*
(67) 2021/01/11(Mon) 7:22:04

【人】 母ちゃん兎 理恵

[理恵、と呼ばれて>>60、ぼうっとフウタを見上げる。
 痛みで半狂乱になって、ずいぶんとやつあたりして、途中からは返事も認識もできなくなった。それでも一緒に居てずっと手を握ってくれていたのだと、やっと気づく。
 腕の中の子は女の子だ。この子もいつか自分と同じような痛みを味わうのだろうか。
 そうであれば、フウタのような存在が、隣にいてくれればいいと願った。

 大きな手が、理恵の、ときの頭を撫でる。
 
 あぁ、と、そのぬくもりに、すっぽりと収まる小さな頭に、思いを寄せる。
 やっと二人のことを伝えられた、と。

 彼は気づいていただろうか。
ふたりを撫でるその表情が、どうしようも無いほどに、父親の顔になっていたことに。]
(68) 2021/01/11(Mon) 7:38:25

【人】 母ちゃん兎 理恵

[そして、時は流れ。]


 おー、みおんか>>61? 今日はみおんのおっとはおらんのか?
 久しぶりじゃの。かりっとまんじゅうあるぞ、食ってけ


[ふんと胸を張ったとき>>62を適当に撫でながら、おばあちゃんの客人をそう歓迎した。
 数年を経て、彼女とその夫とは、ある程度の関わり合いは持っていたか。

 だけどそっと、自分とときの尻を隠した。

 おばあちゃんの孫に会うと、なんか尻尾がそわそわする。]
(69) 2021/01/11(Mon) 7:40:54

【人】 母ちゃん兎 理恵

[さらにさらに、時は流れ。]

 時間を刻んだ黒い人力車の横に、真新しい人力車が並ぶ。>>63

 娘に座席へと案内されながら、にやにやとフウタを振り返った。]


 ……だ、そうだ。
 まぁ、のろのろしか来られんのなら、待っててやるから頑張って来い。

 
(70) 2021/01/11(Mon) 7:57:30

【人】 母ちゃん兎 理恵

[そうして、花咲く座席に乗りながら、話にも花を咲かせただろう。

 こんなに小さな体で、父親譲りの運転をする娘に運ばれていても、
 あっという間に自分よりも力持ちになって、すばしこく駆け回るたくましさを見てもなお、目をつむると、今でも小さな赤ん坊の姿が蘇ることを。

 寝返りを打っただけで喜んで、立ち上がれば驚いて。
 そんな健やかな成長を思い起こせば、いつもフウタも映り込む。
 ずっと、一緒に居たから。]
(71) 2021/01/11(Mon) 7:58:07

【人】 母ちゃん兎 理恵

[そう、いたずらっぽく笑い合っていたが。
 座席が大きく揺れて>>65、「うひゃっ」ときと同時に叫んだ。]
(72) 2021/01/11(Mon) 7:59:04