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【人】 ヤドリギの勇者 フォルクス「ねえフォーク、まだ本は読み終わらないの? 久しぶりの街なのにつまらないわ、わたし。」 [ ────その出来事から習慣が増えた。 人里に立ち寄る度、貴族や長老の家に足を運んで 歴史、勇者、それに教会が関わる本を読ませてもらう。 世界を背負う勇者様のお願いだ、 先人から学び、自身が魔王を倒したいと語る若者だ。 誰もが快く受け入れ、自ら棚を漁り望んだ本を見つけてくれたけれど 仲間達にとっては退屈だったのだろう、いつも不満を漏らしていた。 ] (146) 2020/10/23(Fri) 9:45:15 |
【人】 ヤドリギの勇者 フォルクス[ 女神に選ばれし者は本来、勇者もしくはヤドリギの勇者と呼ばれるが 危険な旅路に生きる彼らの命は非常に儚く、 民一人の一生の中で何度も代替わりが行われる。 故に神託により身に宿った異能を元にした名を、 人々は生まれ散ってゆく勇者達の識別名のように使う。 フォルクスと語感が似ているから、 フォークを床に落とした時に初めて力が表に出たから。 仲間達に付けられた愛称のほうが自分にとっては身近だったけれど。 食器の名前で呼ばれるのはあまり良いことじゃないと思う。 実際、嫌がってみせたことはあった筈だ。 でも、楽しそうに笑っているから 勇者ではなく自分自身への呼び名だから、やめさせなかった。 ] (147) 2020/10/23(Fri) 9:45:43 |
【人】 ヤドリギの勇者 フォルクス[ 仲間達も決して、楽な立場ではない。 十三の根、十三の教会。 それぞれで仲間を得れば大所帯になる筈の一行は、 多くて七人、少なくて三人。殆どは四人か五人程度。 ……多くが旅路の途中で倒れ、或いは心が折れ故郷へ戻り 時に立ち寄った土地で出会った民をそこに留まり守ることを、 決断する者も中にはいたのだ。 勇者を騙ったり、自らが取って代わろうとする者が現れないのは 教会の管理が徹底されていることや背信行為である部分よりも、 どれ程鍛錬しても神託の異能には届かない事実が大きい。 ] (148) 2020/10/23(Fri) 9:46:00 |
【人】 ヤドリギの勇者 フォルクス[ 始まりの勇者は、そんな勇者達の殆どより強かった筈だ。 世界に光を取り戻し、根絶に至らずとも生き残った魔族を追いやり 絶滅寸前の人類を現在の繁栄に導いたのだから。] なのに、何故…… 「ねえフォークってば、フォークー!」 [ 何故、彼がどのような人物だったのか記録されていない? 生い立ちは、性格は、容姿は、勇者になる以前の職業は? そもそも女神歴に至る前の歴史は何処だ、 闇に奪われる前の世界はどんなものだったのか? 仲間達はこの疑問を理解しなかった。 殆ど魔に支配されていたのなら、過去の記録が失われても仕方ない。 自分達のするべきことは歴史の研究なんかじゃない──── 正論ではあった。 それで納得するには、教会の存在がネックだった。 ] (149) 2020/10/23(Fri) 9:46:22 |
【人】 ヤドリギの勇者 フォルクス[ 女神歴の歩みと共に在り続け、遥かなる伝説を語り継ぎ 聖木と勇者を管理し続けたというのに。 そんな連中が始まりの勇者のことすら記録出来ていなかった? 彼亡き後教会を立ち上げたのは一体誰だというのか。 勇者、勇者、勇者。どいつも同じことばかり口にする癖に。 民は誰も神託がどんなものかすら知らない、 どのような原理で全員の能力が違うのか、誰も説明出来ない。 ただ口を開けて潰えては芽生える様を眺めている。 ] (150) 2020/10/23(Fri) 9:46:37 |
【赤】 ヤドリギの勇者 フォルクス「もうやめておけ、余計なことを考えるから そうやって身体までおかしくなるんだろうが。」 [ 何も仲間達は不理解だけで否定しているわけではなかった。 痣の発熱と体調不良が始まったのも、実らぬ調べ物を始めた頃から ただでさえ発動に激痛を伴う力、無駄に体力を奪われるのは辛かった。 心配してくれていた。俺達はきっと、本当に仲間だったと思う。 それくらいは信じないと、あの日々に救いが見えない。 ] (*2) 2020/10/23(Fri) 9:48:04 |
【人】 ヤドリギの勇者 フォルクス[ 俺達は世界中を巡った、 いつしか身体は随分逞しくなり幾つも年を重ねていた。 望んだ情報は、その何処にもありはしなかった。 全てを知ることになったのは、魔王領に踏み入りついに城に辿り着き ────魔王と刃を交えた後のことだった。 ] (151) 2020/10/23(Fri) 9:48:36 |
【人】 ヤドリギの勇者 フォルクスヤドリギ [ 寄生木の勇者とは、 月を引きずり落とさんと高く伸びてゆく塔であり、 夥しき屍で構成された無銘の墓標であり、 結果に至る為に存在する無意味な途中経過であり、 魔樹を育む生贄たる宿主である────** ] (152) 2020/10/23(Fri) 9:49:02 |
【人】 魔王軍幹部 フォルクス──現在・地下研究施設── [ 俺は減ってゆく赤色を眺めて、オルフェウスは背を向け作業をし 落ち着いた後には沈黙の時間が幾分か流れていた。 何もあれは他人を罵る為に陸にいるわけではなく、 こちらも騒ぎにこんな場所に来たりはしない。 ただ、ここ最近は輸血処置の最中眠ってしまうことが増えていて、 時折魘されては迷惑を掛けてしまう。 ] ……なあ、俺は後どれくらい生きられるんだ? [ そうすると、意識させられるのだ。 見えない死、誰も知らないその寿命を。 ] (178) 2020/10/24(Sat) 1:27:11 |
【人】 魔王軍幹部 フォルクス「お前それ何回聞くつもりだ? 50年前にも75年前にも120年前にも202年前にも聞いてきたぞ ジジイかよ、本当うんざりするぜ。」 [ そっちこそ何で全部覚えてるんだよ、十分に間空けてるだろ。 言葉は呑み込み、悪態の投げつけ合いは避けることにする。 陛下もそうだが長命種族は時間の感覚が一般とは違いすぎるし、 記憶してくれているのにはそれなりの理由がある。 この身体を誰より知っていて、王に仕える者の一人なのだから。 ] ……本当にジジイかも知れないから聞いてるんだ。 [ ただ老いているだけなら、まだ良い方だけれど。 互いに相手を見ないまま続く会話。 厚く長い前髪で目元を隠し、更に水の中に魚まで飼っている男は とても愛想が悪く、後ろ姿ばかり印象に残る。 だから本音を零しやすい相手だった。 ] (179) 2020/10/24(Sat) 1:27:28 |
【人】 魔王軍幹部 フォルクス「言っておくが……」 [ “お前のような異端の正確な寿命が、分かる筈がない。” いつかも聞いた気がする前置きに何も返さずにいれば、 舌打ちとため息の重ね打ちの後、やや間を置いて口は開かれた。 面倒臭そうな声音で、丁寧に語られる現在の自分。 とっくに止まっているだろう語り部の作業の手を思いながら、 目を閉じてじっと聞いていた。 ] (180) 2020/10/24(Sat) 1:27:45 |
【赤】 魔王軍幹部 フォルクス[ オルフェウスの語った内容はこうだった。 定期的な輸血という手段での安定した 魔素 の取り入れは、かつて異形になりかけていた俺の身を救った。 それは陛下の成長を見守り、新しい時代を作り上げる補佐と働く為 十分に作用し続けていた筈だ。 しかし、 以前問われた50年前からは勿論、ここ百年程度 緩やかながら、あの頃に近い状態になりつつある。 より高位の魔族、もしくは人間に出来る限り近い者。 或いは俺の力に似通ったものを持つ存在。 魔素の提供者の変更、鎮静効果のある術や血に施す魔除けなど 様々な方法を試し続けているが、効果がない。 ] (*3) 2020/10/24(Sat) 1:29:35 |
【赤】 魔王軍幹部 フォルクス「最期まで最善を尽くすが、……」 [ 果たせなければ、辿る先は他の勇者と同じだろう。 戦いで倒れなかった代わり、力に呑み込まれ異形となった彼らと。 ……そう、あの額に御印を持った魔物のように。 そんな方法があるのかも分からないが、 魔素そのものを取り除いたとしても、意味するのは死である、と。 ] (*4) 2020/10/24(Sat) 1:30:38 |
【赤】 魔王軍幹部 フォルクス[ ────「魔素」 切り崩すことなど出来ないこの世界の構築物 旧き時代の負の遺産そのもの。 今尚明確な解析、対処は我々には出来ていない常識の先にあるモノ。 魔族と魔物が生まれた原因であり、彼らの血液の中に存在する。 それぞれの正式名称は、魔素種族、魔素生物。 また魔王は魔素種族統一王と呼ぶのが正しい。 人類から一部ながら魔法の素質を持つ者が誕生するのは、 異形にはなり得なかったが魔素を取り入れてしまった者達を 祖先とする人々が時折隔世遺伝を起こすから。 其れは目に見えぬまま、いつでも傍に在る。 聖木と呼ばれたかの木により、隅々にまで行き渡っているのだ。 ] (*5) 2020/10/24(Sat) 1:30:55 |
【赤】 魔王軍幹部 フォルクス[ 寄生木の実とは、魔素の濃縮物に等しい。 故に人間に魔王を倒す可能性すらある強大な異能を授ける。 聖木の根の周辺に強い魔物が多いのは、 濃い魔素がそこから放出されているせいだ。 実を授かり、根を巡る勇者は 濃縮物された魔素に侵される身体を力の増幅と引き換えに、 不安定なものへと変えてしまう。 教会は全てを理解し、操っていた。 遠き過去に自分達が生み出し迫害した、魔の者達を滅ぼす為。 死体が見つかれば分かりやすい、消息不明でも大して変わらない。 根は世界のあらゆる場所に張り巡らされている、 どれかは与えた力を亡骸から取り戻すだろう。 また都合の良い民を見つけて、“神託”を執行すればいいだけ。 若く逞しい年頃の、身寄りの無い孤児や貧民 誇れるものを持たない代わり、素直で従順な──── そう。御印とは、新たな贄の目印に過ぎない。 ] (*6) 2020/10/24(Sat) 1:31:11 |
【赤】 魔王軍幹部 フォルクス[ その話を魔王から聞かされ、幾つかの証拠を見せられた時。 既に両者で命の取り合いは終わり、 落ち着いた話し合いが進められていたが。 あまりの内容に声を荒げ、結局は認めざるを得なく嘔吐した記憶。 自身が助かる方法を除けば全てを知っている今は、 表情一つ動くことはなく、ただ受け入れていた。 ] (*7) 2020/10/24(Sat) 1:31:27 |
【人】 魔王軍幹部 フォルクス事件がここ最近多くなっている。 そうだ、式典の時期にな。 [ 状況は暫くの間変わらず、芳しくないまま。 だがそれはこの身体だけなのだろうか? 真の意味での人魔の和解は果たされぬまま、 統一性を失った人類同士の争いも始まった、 この時代も同じではないだろうか。] そう、それに。 あの方を傍で支える妃も我らは用意出来ていない。 何しろ竜族はもうずっと前に……、 俺はまだ必要で、休む暇などありはしないんだよ。 [ 陛下は三代目の魔王に当たる。 初代王と先代王は、両者共に竜族から妃を迎えた。 真祖竜と竜族は亜種といってもいい近い存在であり、 その牙に盾になるに相応しい能力を持っていたが 王妃が勇者に討たれたのが最後、滅びてしまった。 ] (185) 2020/10/24(Sat) 1:31:42 |
【人】 魔王軍幹部 フォルクス感謝している、すまない。 陛下の為、魔族の為、より一層の尽力を願う。 [ 何を言おうとしているのか読んで遮り、一方的に言い切った。 四六時中自身に魔法を掛けたまま、合わない陸の生活。 その重要さから王に願われ、安全を考慮した城の地下暮らし。 この身の問題とオルフェウスの研究内容は一致している。 きっと、様々な思いを踏み躙っていた。 袋が空になり、管を外している間も 退室するまでも、オルフェウスは何も言わなかった。 ] (186) 2020/10/24(Sat) 1:31:59 |
【赤】 ヤドリギの勇者 フォルクス──かつて── [ 海を越え、洞窟を通り抜け、砦を突破し、城を守る者達を討ち ついに魔王の目前へ迫ることとなった勇者一行 しかし、今代では────自分達ではそこまでだった。 魔族との争いの最前線で、代々人々を癒やす聖魔法の使い手の家系 増えていく死者に涙一つ流すことを許されない苦しみを知りながら、 自分達も同じように励まし続けてくれた賢者の女性が よく似た生まれ、戦うこと以外用意されなかった選択肢 気が短くすぐに手を上げてしまう、長身と強面で人に避けられる容姿 その奥底で不器用に仲間を思っていた逞しい戦士の青年が 強すぎた魔力により家族から離れることになった生い立ち、 小さな身体に抱えきれない程狂い咲いてしまった才能に 振り回される人生の中、決して弱音は吐かなかった魔法使いの少女が 焼かれ、砕かれ、切り裂かれて順番に物言わぬ骸と化していった。 ] (*14) 2020/10/24(Sat) 9:01:48 |
【赤】 ヤドリギの勇者 フォルクス[ 青く、蒼く。玉座の間に満ちた輝きは今は赤で穢れている。 その全てが人間、自分と仲間達が流した色。 本性は黒い竜であるとされる魔王は、 黒衣の男性の姿を保ったままに目前に立っている。 剣に付いた血液を払う仕草にも、体力の消耗は見られない。 戦いが始まる前と変わらない足取りで、こちらへ歩み寄る。 ] (*15) 2020/10/24(Sat) 9:02:09 |
【赤】 ヤドリギの勇者 フォルクス「……なんと悍ましい、これが勇者の成れの果てか」 [ まるで化け物を見るように、その白い顔で眉を顰めて。 ] (*16) 2020/10/24(Sat) 9:02:26 |
【赤】 ヤドリギの勇者 フォルクス[ 握りしめたままだった槍の刃を魔王の足が踏み付ける。 幾度となる打ち合いで罅が入っていたそれは、呆気なく砕け散った。 今や立ち上がる気力も無く、横たわり相手を見上げた姿勢では 頬を伝った液体が、散らばる破片と変わらない銀の色をしており 鉱物の光沢を放ち落ちてゆくのが見て取れた。 ] (*17) 2020/10/24(Sat) 9:02:54 |
【赤】 ヤドリギの勇者 フォルクス[ きっと同じ色が、沢山の刃が この身体を裂くようにして突き出ていることだろう。 鋭い金属結晶を自分自身から創り出し、 自在に形を変えて実在化する。 それが刃の勇者の異能だった。 ] (*18) 2020/10/24(Sat) 9:03:18 |
【赤】 ヤドリギの勇者 フォルクス[ 始めはただの体調不良と思っていた。 魔王領に踏み入り、厳しい戦いが連続していた頃 漸くそれが代償とも言うべく宿命であると知る。 何の情報も得られなかった己が、 楽観視していた仲間達が、 気付いた時にはもう引き返せない場所にいた。 未だ人類は魔族には届かない、女神は奇跡を起こさない 果たすべき使命は根の元で土に還ることである。 理解したその時には既に立っているのは一人だった。 数多の疑念を抱えながら、 俺は結局皆と同じように、最後まで教会を信じていた。 ] (*19) 2020/10/24(Sat) 9:03:48 |
【赤】 ヤドリギの勇者 フォルクス[ 魔王はそれ以上何も言うことはせず ほんの少しの間俺の右手辺りに視線を下ろしてから、 この首を刎ねようと、ゆっくりと剣を持ち上げる。 だが──── ] (*20) 2020/10/24(Sat) 9:21:58 |
【赤】 ヤドリギの勇者 フォルクス教えてくれ…… 俺は……勇者とは一体、なんなんだ 俺達はあとどれくらい、こんな戦いを……続けなければならない [ 激しく咳き込み、異色混じりの血を吐きながら 敗者が全てを諦めた故に口にした問い掛けにより、その手は止まった。** ] (*21) 2020/10/24(Sat) 9:23:37 |
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