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南波 靖史は、『記憶にある限り』はじめて、縋るように泣いた。 (a21) 2021/10/03(Sun) 4:41:30 |
南波 靖史は、でも、掴んで、縋って、幾ら離さないと決めた腕が (a22) 2021/10/03(Sun) 4:42:28 |
南波 靖史は、解かれる事があるのを知っている。知っていた。 (a23) 2021/10/03(Sun) 4:42:54 |
南波 靖史は、黒塚が行った動作と、漏らした声を、聞き逃さなかった。 (a38) 2021/10/04(Mon) 0:17:50 |
南波 靖史は、聞き逃せ なかった。 (a39) 2021/10/04(Mon) 0:18:10 |
【赤】 3839 南波 靖史「ライト、もう点かなくなったね」 この部屋には何もいない。誰もない。 貴方に最後に祝福を授けた者も、もう姿は見せない。 ここに居るのは『異能』である存在と、貴方の一人とひとつ。 或いは──二つ?それとも、貴方はふたりと表すだろうか? 「ここならもう誰にも聞かれないよ。 文字通りの“舞台裏”だ。お話ししてくれますか。 俺に近くて、遠い。 『靖史』を助けてくれた、不思議な“あなた”。 ──君に、俺からも感謝を伝えたかった」 (*1) 2021/10/04(Mon) 1:32:01 |
【赤】 3839 南波 靖史「彰人くんは意図していなかったんだろうけど、 “靖史”は両親以外に触れられた経験が無い。 ……俺が、その前に対話するようになって。 俺が──俺を、“僕”を、止める為に姿を消した。 靖史は小学校すら通い終えていない。学歴もない。 その上で俺が身体を持ち続けていたから、 例え誰かに『触れられた』としても、異能である俺だ。 だから、多分。あの子は宗教が、聖句が嫌いだったのに。 君の幸せを『祈る』と言うくらいには、 ──幸せに感じる行為だったんだよ」 ▼ (*3) 2021/10/04(Mon) 2:22:23 |
【赤】 3839 南波 靖史「俺はその時、見ていた訳じゃないよ」 「 “思い出した” 」 「大好きな大好きな、誰を殺しても何をしても愛されたかった“靖史”に。 去られた事が、置いて行かれた事が。その理由が。当時の俺は全く理解できなくて、悲しすぎて、耐えきれなくて、……自分の記憶から、抹消していた」 「まさか、靖史が残っていたなんて知りもしないまま」 「でも、消し切れるわけなかったんだ。当然だよね」 「 それだけ、“靖史”を愛していた」 「──思い出した切っ掛けは、他との会話でもあるし、君とのここでの接触行為でもあるし、きっと、靖史にとっても賭けだった。最も、時間の問題でもあったと思う」 そう、淡々と語れるくらいには、記憶を受け止められる程には。 賭けには勝ったのだろう。下手をすると狂乱の末自殺でもしていてもおかしくない。己を愛しすぎるとどうなるかなんて、……語らずともいい話か。 (*4) 2021/10/04(Mon) 2:30:30 |
【赤】 3839 南波 靖史「ん……」 嬉しそうに目細めて、その感触を受け取る。 本当はこれを受け取るのは俺じゃない筈だ。 でも、あの子が好きなモノを俺が好きじゃない訳がない。 「──そう。難しい。 “コッチ側”と言ったよね、この舞台で。 俺はその辺りの感性を含めて、近いんじゃないかなと思った。 勿論勘が殆どだったけど、君の異能を考えると強ち間違いじゃなかったんじゃないかな。 俺達は、 『他者の事を正しく愛せないし、 社会の倫理にも適応できなかった』……違う?」 (*6) 2021/10/04(Mon) 3:44:50 |
【赤】 3839 南波 靖史「──何で皆すぐ消えたり死んじゃうのかな」 ぽつり。もう暴れはしないけれど。 遥か彼方の自分から、つい最近の潤くんまで。 出会って好きになった相手は、みんな何処かで消えてしまう。 「でも、引き継げるんだ。コピーのコピー(35)でも。 感情じゃなくて、記憶だけを引き継ぐのかい。 ……これさ、今元気に記憶もってる俺の目の前が君が、新しい子を作ったとして。そっちが先に死んだ場合、真っ白上書きコピーとかになったりしないの?」▼ (*9) 2021/10/04(Mon) 14:18:45 |
【赤】 3839 南波 靖史「死を望んだのは“ただしい人”達でしょ。 同じじゃない事を酷く怖がる人達。或いは異端に害される前に排除したい人達。……単に“多数派”って言うだけの存在なのにね? 「俺、ずっと思ってたんだけどさ。 “ただしい人”とや、一緒に生きる必要あるのかな。 彰人くん、ただしい人を目指してたのって、ここから出る為じゃないの?ここを出た後もそれを目指して生き続けるの?」 「俺、君がここを出た後何をしたいか聞いたことが無いや」 「俺はね。結局のところ、“ただしい人”と相容れないから。 別にわざわざ害する気はないけど、不干渉でいられる──彼らを邪魔しない場所を探して、ただしくなくても、自由に過ごせたらって思う。……彰人君は、ここを出てどんな生き方をしたい?」 (*10) 2021/10/04(Mon) 14:22:00 |
【赤】 3839 南波 靖史「そう。羨ましいな。仲間だね、彰人くん。 ──俺も、一番大切な自分には“二度と会えない”し、 “誰も、その存在を証明も観測もできていない”から。 彰人くんは最期に話せたみたいだけど。 俺は未だに自分の中に“靖史”がいるのを認識できない」 「……生きてるのか死んでるのかすら、不明で、」 「俺と言う“自我を持った異能”が存在する事すら、証明ができない。 創くんの記事見た?異能が自我ってマズいらしいね色々と。 でも俺こうして普通に生活してるのって、普通に見逃されてるのか、ただの多重人格者の狂人 の“戯言”と思われてるのか」「──実は、最も存在があやふやなの、俺なんだよね。 記憶だけが、『私』と『僕』の存在を証明してくれる。俺にだけ、ね」 君はコピーがあるから。肉体があるから。 同時に二つの個体が存在する限り、『外部の観測』によって証明がなされるだろうけど。俺の答えは誰一人観測ができない。『ただの多重人格者の妄言』を否定できない。 「……俺は死んだ事がないから、羨ましいとは言わないけど。 ただ、『最も大事な自分を、他者から認められなかった』」 「その一点は、君と共感できると思っている」 ▼ (*13) 2021/10/04(Mon) 19:42:23 |
【赤】 3839 南波 靖史「彰人くんの異能は、寿命と記憶の問題で、死体と苦痛が出るんだよね?」 「──俺の異能、使えないかな。」 「結局の所、俺の“1番”は俺から変わらない。 普通に誰かの傍にいるならこれはハンデだけど、彰人君も同じでしょ。そして、俺は“君の為に君を無痛で殺すことができる”」 「昔の俺の『自分が1番』で『他の全てが2番』が、此処で変わった。今の俺には、2番も3番も付けられる。」 「だから、君に声をかけている。俺、“ただしい人”に紛れて生きていける気がしないよ。だから、……ここから出たら、」 「“ただしくない人”のままで生きられる世界を、 一緒に、探しませんか」 「例え1番が自分でも、“独り”は寂しいから」 (*14) 2021/10/04(Mon) 19:46:06 |
【赤】 3839 南波 靖史「知ってるよ。その上で、そこも似てるから誘ったんだ。 俺もまだ、2番も3番も生まれただけで── 『自分以外を愛せてはいない』のは同じ。保証なんて俺もない」 指を絡められた手を見て、少し考えた後に。 もう片方に常に嵌めていた自分の右手の薬指の指輪を取る。 「凄くない?記憶ない状態で“それでも誰にも渡したくなくて”自分の両手の薬指に婚約指輪代わりに嵌めてたの相当だと思う」 「なのに一回、彰人くんこれ外して来たでしょ。君だけだぞ」 だから、責任取ってよ。冗談めかしてそう言って、 取った指輪を貴方の右手薬指に着けようとしてくる。▼ (*16) 2021/10/04(Mon) 20:39:32 |
【赤】 3839 南波 靖史「……保証も証明もないない尽くしだね、俺達。 だから考えてくれるって言ったから、それ、あげる。」 「気が向いたら別の指に着けてくれたらいい。 或いは、誘いもそれも不要と思えたなら捨ててくれていい」 「俺も、今着けている“この指輪の意味”が、 変わる事があるのか──1年、2年?もっとその先?わからないけど、」 「互いに、賭けてみよう。 それでも苦しかったら、終わらせよう。全部」 俺は幾らでも、『居てくれるなら』答えを待てるから。 本当に『ただしく人を愛せなかった』俺達なのか、 それを確かめる未来への誘いへの返事を、俺はずっと待ってる。 (*17) 2021/10/04(Mon) 20:40:03 |
南波 靖史は、『南波靖史(やすし)』は、今度こそ終幕を見届けた。 (a62) 2021/10/04(Mon) 20:59:50 |
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