【人】 軍医 ルーク『ああ、探した探した! そこの兎君、えーと、ゼット!』 [ 皆がせわしなく動きまわる前線基地を、 ぱたぱたと走る人影がある。 一斉攻撃の情報が齎されて後、基地内の空気は一変した。 当初は絶望に近いものでもあっただろう。 一度の降下で一体の機獣を倒すにあたり、 犠牲を出さずに済むこともあったけれど、 これまでどれ程の死傷者、損害を重ねてきたことか。 けれど、此処は最前線にして最後の砦であるという認識は、 否応なしに、基地にいる者皆が感じていることでもある。 廊下で第一攻撃部隊隊長に声をかけてきたのは、 技術班長、ジルベール。 賑やかに両手をぶんぶん振って、駆け寄って来る。] (181) 2020/05/25(Mon) 21:48:46 |
【人】 軍医 ルーク 『君に渡したいものがある、 暇かい? あはは、愚問だったね、 いまこの基地は、年中行事を袋詰めして振り回して ごちゃまぜにしたような有様だ、 窓を開けたら年始の祭りの飾りが仮装して 菓子を強請り始めたっておかしくない。 けれど、いくら暇じゃなくたって、 これは来てもらわなきゃいけない』 [ そう言った彼女は、彼をぐいぐいと 武器倉庫に引っ張ってゆくだろう。 天井が高い堅牢な倉庫には、 整備された通常の装備に加え、 新たに運び込まれているものがある。] 『実戦への投入はまだ先の予定だったのだけれどね、 “いま使わずにいつ使う!”っていうやつさ。 技術班総出で、徹夜突貫で整備した。 機獣から回収された装備を元に開発したものだ。 各部隊長に支給して回っているところだったんだが、 実際、今この基地の最大戦力は君と言っていい。 最大の戦力に出来るだけ火力を集中するのは、 理にかなったことだよ、うん』 [ 一画にある金属製の筒を、ずるずると引きずって来る。 彼女の腕力でぎりぎり動かせるくらいの重みのようだ。] (189) 2020/05/25(Mon) 21:58:54 |
【人】 軍医 ルーク 『それに、こういうのを軽々持ち運べるのは、 馬鹿力の連中のなかでも そう多くはないだろうからね。 携帯式対機銃弾発射器といったところか、 反動はかなりのものだが、君のそれと違って、 物理的な反動だけだ。 つまり一言で言うと、筋肉でなんとかなる!』 [ 義手の解析に携わったこともある彼女は、 彼の義手の性質もある程度は心得ているようだった。>>2:65] 『それからこっちは、対機獣の手榴弾。 爆発の威力は前方にだけ収束するわけじゃなくて、 周囲にも爆風が来るから、 離れたところから投げるんだ。 機体に吸着して爆発する。 立ち回りによっては中々の効力を発揮するだろう。 それから――』 [ 部隊長のみならず、 部隊全体への一通りの追加装備について説明をした後、 彼女は顔を上げる。] (190) 2020/05/25(Mon) 21:59:38 |
【人】 軍医 ルーク『ルースに頼まれた。 通信機を運んできてくれたときにね。 君のその義手の代わりになる、 身を守れる武器が何かないかと。 わたしもその考え方には賛同する。 最大戦力が行動不能になるような武器は、 実に非効率的だから』 [ 自分たちの発明品を嬉々として解説する彼女の様子は、 状況分かってるのかこのひと、と、 装備の確認に訪れた他の部隊の兵士たちの 胡乱な視線を受けていたけれど。 気にせず、にやりと笑う。] (192) 2020/05/25(Mon) 22:00:11 |
【人】 軍医 ルーク『我々は技術者で、非戦闘員で、後衛だ。 でも、我々なりの戦闘というものがある。 この世界の技術は、どこかで唐突に始まっている。 遺失技術だって、どこからともなくもたらされたものだ。 そのことについて話し出すと 三日三晩かかるから割愛するとして―― けれど、そこから積み上げた我々の技術と 生きるための知識は、我々のもの。 成果の多寡じゃない、 わたしたちは、 先人の成果の上に自分たちの石を詰むのさ。 その石の一つに、この基地が調査拠点であった頃、 命を落とした学者たちの成果もある。 君は、何があったか覚えてないそうだけれど―― 機獣を退けたのは君なのだろう? そう聞いている。>>1:213 だとしたら、そのおかげで、 彼らの研究はごく一部なりとも此処に残っていたんだ。 彼らに代わり、一度礼を言いたかった』 [ そうまくし立て、部隊長の兎の肩をばしんと叩き、 また次の部隊へと、装備品の支給に走り出した。]* (194) 2020/05/25(Mon) 22:01:13 |
【人】 軍医 ルーク ―― 前線基地・外壁 ――[ 基地の周りをぐるりと取り囲み、 高く高く張り巡らされた壁面の上に、 一つの人影がある。 針金のようなその人影は、 爆風の一つも食らおうものなら吹き飛ばされそうに ひょろりと頼りなく、細い。 ――けれど、何が起きたとしても目はそらさない、 退くことはしないと、二つの脚でそこに立っている。 爆風に吹き飛ばされないようにと、 ぺんぎんをしっかり両腕で抱えて。 サイレンが叫んでいる。 この基地が始まって以来発せられることがなかった、 最大の警戒レベルを告げて。 高く遠く、『太陽』に照らされた天の岩肌に、 穿たれた大穴がある。 世界の蓋に闇が口を開け、 数多の死が吐き出されようとしている。 けれど、届かない場所へと手を伸べることは、 もうしなかった。 ――彼は、あの大穴の向こうの世界から来た。 この地に降りてきたとき、 彼は何を思い、何を見たのか。 これまでに読んだ、日記の記述は、 一語一句たりとも忘れられるものではない。] (204) 2020/05/25(Mon) 22:24:53 |
【人】 軍医 ルーク[ 赤茶けて荒れ果てた荒野に、 前線基地の兵士たちが隊列を組んで散開してゆく。 西側の外壁の砲台が、一斉に『天』を、 そして荒野を差して動き始める。 降下が予測された刻限まで、もう間がない。 此方からは向こうがよく見えるけれど、 向こうからは、此方のことは見えないだろうか。>>0:14 前回の襲撃と同じように。 そうだったとしても、そうでなかったとしても――… 自分がここにいることは、 きっと、知っていてくれるだろうと思う。 他の医師や技術者たちとともに、 建物の最深部に籠ることを選ばなかった。 戦場は彼らの領分と心得ていたとしても、 近くにいては足手纏いになってしまうことが分かっていても。 それでも近くにいて、 もし何かが起きたなら―― ここにずっとこうしている、心算だってない。] (205) 2020/05/25(Mon) 22:26:00 |
【人】 軍医 ルーク[ それから、いくらかの時が過ぎる。 耳鳴りがするような静寂に、大気が張りつめる。 そして、 ――風が、吹いた。]* (206) 2020/05/25(Mon) 22:26:38 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a13) 2020/05/25(Mon) 22:28:32 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a14) 2020/05/25(Mon) 22:29:41 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a15) 2020/05/25(Mon) 22:33:20 |
【人】 軍医 ルーク[ 少しばかり前のことだ。 人の波に逆行して外壁へと向かおうとしていた自分に、 ぺたぺたと駆け寄って来る足音がある。 先に足を止めたのは、一緒に歩いていたぺんぎん。 視線を向ければ、一羽のぺんぎんが此方に向かってくる。 抱えているのは、あの赤い袋。 それを見た瞬間、心臓が一歩、早足のように打つ。 ぺんぎんはぺんぎんに袋を渡し、 きゅいきゅいと鳴き交わしていた。] 預かってきてくれたのか。 [ 軽く屈みこみ、ぱたぱた手を振る二羽の頭を軽く撫でた。 袋を受け取り、落とさないよう大事に抱えて外壁を上る。 それまでよりも、少しばかり早足で。 何が記されているのか、直ぐにでも開きたくてたまらない。 一歩の歩みごとに名前のつかない感情が噴き出して、 次の一歩でその正体に名前を付ける。 一体の襲撃ですら食い止められる保証もなかった戦線に、 数も知れない敵が押し寄せようとしている。 それを、先頭に立って迎え撃つのは。] (274) 2020/05/26(Tue) 20:59:15 |
【人】 軍医 ルーク[ 石造りの階段を上がる脚は、思うようには動かない。 漸く外壁の上へと昇り切れば、 袋を開き、タブレットを取り出す。 ノートには、また新しいページが付け加えられていた。 今までのように、日付から始まる日記ではない。 それは確かに、この自分に向けて綴られた言葉だ。 食い入るように最後まで読んで、読み切って、 じいっと此方を見上げていたぺんぎんに、振り返る。] ……莫迦なこと、たくさん書いてた、 あの莫迦。 [ それは、いつかの防衛線で、義手が放った光を見た後に、 自分が言った言葉と、似ている。 けれど、その声も、その表情も、 何一つ比べ物にならないほどに違った色合いを帯びて。 底にある感情は、やはりどこかしら繋がるものだった。] (275) 2020/05/26(Tue) 21:00:31 |
【人】 軍医 ルーク総司令に直接? それは確かに、このタイミングで君に何かをする程、 戦局が見えてない人じゃないけれど。 [ 声に滲み出るのは、どうしようもないもどかしさだ。 彼が自身を身を危険に晒しているとき、 自分は何も出来ずにいる。 今も、だ。 後方にいて、黙って待っていることしか出来ていない。 眠れていることは安心したけれど、 あの頭痛は今も彼を蝕んでいる。 けれど、声に滲むのはそれだけではなくて。 表面の硝子に、そっと掌で触れる。 そこに綴られたいくつもの言葉たちに、 いま、ここにはいないその人に、 せめて、想いだけでも触れようとするかのように。] (276) 2020/05/26(Tue) 21:01:37 |
【人】 軍医 ルークしかも、そのやり方…… ええ、反動とか…? いや、確かに理屈なら出来るとは思うけれど、 ああ、いや待て、少し考える。 他にも方法はあるはずだ。 [ そんな風にぶつぶつと独り言を言いながら、 指は自然と、タブレットを滑り出した。]* (277) 2020/05/26(Tue) 21:01:56 |
【人】 軍医 ルーク[ 帰って来る彼を待って、言葉で伝えても良い内容だった。 けれど、降下の時を待ちながら、今ここで書き記したのは、 どうしても、直ぐにでも伝えたいと、指が動いたから。 綴ったところで、届けられるのは この戦闘が終わった後のことだというのに。 それでも、ただ黙って言葉を抱えていることが出来なくて。]* (278) 2020/05/26(Tue) 21:13:57 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a22) 2020/05/26(Tue) 21:19:57 |
【人】 軍医 ルーク ―― 外壁 ――[ 天の孔から落ちてきた機獣の先鋒は、数体。 四足型、蜘蛛型、それから―― 自分の視力では、落ちてくるその姿を すべて捕えることは出来ない。 手足を折り畳み、地上へと真っ逆さまに落ちてくる。 隕石――という言葉は知らないけれど、 もし知っていたなら、それに例えたことだろう。 それらは轟音と共に地に落ちて、 一斉に、金属が軋むような咆哮を上げた。 防衛部隊の陣取る外壁の長距離砲台が、 着地点に火を吹いた。 轟音が地を揺らし、砲声が空を貫き、 もうもうと舞い上がる土煙の中で、戦いが始まる。 地上に居て近接戦を行っているであろう攻撃部隊の姿は、 土煙と爆炎の向こうに紛れて、 此処からでは既に視認できない。] (292) 2020/05/26(Tue) 22:55:30 |
【人】 軍医 ルーク[ 此処から見えていた一体――蜘蛛型の身体が沈み込み、 脚が力を溜める。 地を蹴りひと飛びに、まるで獲物を狙うように跳躍し、 着地するや、回転を始めた頭部から、 四方八方に弾が放たれる。 胴体を狙った防衛部隊の砲撃は、 その装甲に弾かれたようだった。 振り上げた鉤爪が、 その巨体からは想像もつかない速度で振り下ろされ、 その切っ先が足元を穿とうとしたその瞬間、 跳ね飛ばされるように、蜘蛛脚が千切れて宙を舞う。 外壁からの長距離射撃か、 あるいは近接で誰かが撃ったか、切り飛ばしたか、 それすら分からない。 千切れた脚は宙を舞い、荒れ地に今も残る建物の残骸を、 まるで紙で出来た箱のように押しつぶした。] (293) 2020/05/26(Tue) 22:56:55 |
【人】 軍医 ルーク[ 戦場は此処から遠く、けれどもその距離は近い。 機獣が全速力で駆け出したなら、 瞬く間に射程圏内に入るだろう。 その場所は此処から近く、けれどもひどく遠い。 帰ってきてくれるとどれ程に信じていても、 爆音が轟くたびに、閃光が閃くたびに、 どうかその場所に彼がいないよう、無事であるようにと、 ぺんぎんを抱く腕に力が籠る。 潰してしまわないようにと腕を戒めながら、 かたかたと震える指に、 きゅう、と小さな声を上げて、ぺんぎんの羽が触れた。] 大丈夫だ…… [ 自分自身にそう言い聞かせるように呟いた声もまた、 ひどく震えていて。 それでも目を逸らすことは、しない。 最後まで、ちゃんと見守っている。見ている。] (294) 2020/05/26(Tue) 22:57:46 |
【人】 軍医 ルーク[ どれほどそうしていただろう、 天の大穴から、再び落ちてくるものがある。 ぞくりと、背筋が凍り付く。 “総攻撃” それは、どれほどの規模の攻撃なのだろう? 天の大穴の上には、どれほどの兵器が残されている? 押し寄せる濁流のように、次々と投下される機獣は、 その一体がどれ程のひとを殺すだけの力を持っているのか。 ―― ぎらり、と、 視界の片隅で、何かが光った。 落ちてくる一体の軌道が変わる、 此方へと、落ちてくる。 ]――…っ! [ これまでにはいなかった機体、 これまでにはなかった状況だった。 それが何かを頭が理解するよりも先に、 総毛立つ尻尾が、耳が、その危険を全力で告げる。] (295) 2020/05/26(Tue) 22:59:37 |
【人】 軍医 ルーク[ 咄嗟にぺんぎんを庇い、物陰に飛び込み、伏せる。 耳を劈く轟音が、先ほどまでよりも遥かに近くで炸裂し、 爆風が巻き起こり、外壁を打つ。 吹き飛ばされそうな衝撃を、うつぶせに伏せたまま、 地面にしがみ付くようにして必死でやり過ごす。 フードが風に飛ばされ、白い耳が露になる。 その耳が捕らえたのは、二重三重に轟く砲撃音だ。 外壁の方向が攻撃された、 けれども、直撃はしていない。 狙いを外したのか、防衛部隊が防いだのか、 あるいはそれとは別の何かが起こったのか、 何が起こったのかは分からない、けれど――… 言うことを聞かない脚を励まし、よろりとたちあがれば、 外壁の向こう見えたのは、 今までに見たことがない形の機体が、三体。 捻じれた首が回転し、昆虫のような複眼が、 ぎろりと外壁を――その向こうの前線基地を睨み据える。 遠くにあるはずのその目が、酷く間近に見えた気がした。 射抜かれたように、脚が竦んで動かない。 直感する。 あいつらは、基地を狙っている。] (296) 2020/05/26(Tue) 23:00:46 |
【人】 軍医 ルーク――…、 いいか、逃げるよ、 この場所は駄目だ。 [ 先程の爆音のせいか、 ぺんぎんに語り掛ける自分の声が遠くに聞こえる。 以前の自分であったら、自身の命にすら頓着せずに、 外壁に留まり続けていたかもしれないけれど―― 今は、違う。 自分のいる場所に敵は近づけさせないと、 彼はそう言ってくれた。 何かあったら、名前を呼んでと。 けれど、自分だって、足手纏いになるだけじゃいけない。 外壁どころか基地のどこにいたとしても、 安全な場所なんてきっとない。 それでも少しでも逃げやすい場所で、自分の身を守らないと。 戦いが終わったら、怪我人だって出ていることだろう。 彼が守りたいと思った者たちだ、 自分の責務でもある、皆を“死なせない”ようにするために。 それに、なによりも。 ちゃんと、最後まで見守って、 帰って来るのを “ 待っている ”。 足を励まし、ぺんぎんと共に外壁の階段へと。] (297) 2020/05/26(Tue) 23:02:36 |
【人】 軍医 ルーク[ 蟲型の機獣三体の“前方からの”突撃に紛れるように、 静かに戦場を迂回して移動する“もう一体”の存在に、 いまはまだ、気付かない。]* (298) 2020/05/26(Tue) 23:03:13 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a23) 2020/05/26(Tue) 23:47:59 |
(a25) 2020/05/27(Wed) 0:43:12 |
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