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【人】 “観測者” 処暑[ 空が夕焼け空になる頃、彼女を訪ねる私が、居るかもしれない。 ] …………………大寒さん [ 長い沈黙の後で、差し出すのは手紙。 手帳を千切った、飾り気のない便箋。 ] (16) 2022/01/27(Thu) 2:41:14 |
【赤】 “観測者” 処暑『 私は、友人というものが何であるのか分かりません だから、どうしたら良いのか、分からないのです 私は、人と話すのも苦手です ですので、貴方の望むようにはお話し出来ないと思います ただ、貴方が貴方の事を話してくれるなら、私はそれを聞きたいと思います 貴方が私の事を聞きたいと思うならば、何れ話せる日が来るのかもしれません それは友達と言えるのでしょうか また、貴方と顔を合わせて話したいと、私は思っています 』 (*17) 2022/01/27(Thu) 2:41:45 |
【赤】 “観測者” 処暑『 わたしも、世界が嫌いだわ 』 [ それが、彼女の答えだった。>>165 私に、世界が好きかと問うということは、質問者は世界に対して何かを抱いているのではないか、と。 返ってきた答えは予想通り、と言えばそうなのだけど、驚いた気持ちを覚えたのも現実だった。 魂の管理者、人を守るために存在する“灯守り”。 私は、“灯守り”というものは、基本的には人間を慈しんでいるものであると思っていた。 しかし大寒の灯守りは、世界を嫌いだと言う。 私と同じ想い。世界を嫌いなまま、この地位に居る。 だからこそ、興味を持った。そして……共感も。 ] (*137) 2022/01/30(Sun) 17:40:37 |
【人】 “観測者” 処暑[ 夕焼けを見ていたらしい彼女が振り返る。>>166 二人、向き合って、それでも私は、名前の他何も言うことはなく、唯、手紙に全てを託した。 ] ……………… [ 手紙の返事は声で返ってくる。 目の前の彼女が微笑むのを、私は唯見ていた。>>167 彼女の友人から聞いたという言葉。どこか懐かしむような彼女。 自分の目で見る彼女は、“観測”するよりも、温かみがあると思った。] ………………………………ええ …………また、貴方の灯宮の番が終わった後にでも、どうぞ [ 彼女の内面を私は知らないから、恐らくどんな内容でも興味深い。 上手く話せないというならば、話してもらえるまで、ずっと待つつもりはあった。>>168 私の所へ来る、と聞いたときは、少し驚いたかもしれない。 彼女が、他の領域へと出向く所を、私は見たことがなかったからだ。 彼女の変化を……興味深く思いながら。それを“観測”出来た事は、私の幸せだと思った。 しかし田園風景を見るならば、今の時期でない方が良いのかもしれない。 少なくとも田は、乾いた土が剥き出しになっているだけであるから。 ……領域内では、関係ない事ではある。 ] (234) 2022/01/30(Sun) 17:41:39 |
【人】 “観測者” 処暑………………………… [ 改めて名乗られた名前に、私は暫く黙っていた。>>169 灯守りを号の名で呼ぶ、というのは、私にとって、自分に踏み入れられたくないという線引き。 自分からも踏み入らないという、距離を置くためのもの。 けれど、 ] …………………………はい …………エアリス、さん [ それが“友人”の形であるのならば、そちらに沿おうと思う。 踏み入る事を望んで、踏み入られる事を許そうとするのだから。 初めて音にした、雪のしずくが、ぽつりと落ちる。 ] ……私は…………呼ばせるような名前が、ありませんが ……………処暑で、構いません。……今は [ まだ、“私”の名を口にする事は出来なかったけれど。 何れ、呼ばれても良いと思える日が来るのかもしれない。 不透明な未来は分からないから、今論じるつもりはない。 けれど、彼女が「処暑」でも「ななし」でも他の名前でも呼ぶことを決めるなら、それを受け入れるつもりはある。 ] (235) 2022/01/30(Sun) 17:42:53 |
【人】 “観測者” 処暑………………………それでは、また、お会いしましょう ……エアリスさん [ 何時も通りの会合の、少し珍しい事象が起こした、小さな変化。 私にとっては、この日は、忘れられないものになるのだろう。** ] (236) 2022/01/30(Sun) 17:43:20 |
【人】 “観測者” 処暑[ さて、パーティーの場が閉じられる時が近付いてきた。 皆が此処から去るというのならば、私も此処に留まる意味はない。 そんな頃だったか、白露の彼女に声を掛けられたのは。>>200 ] …………………………白露さん …………はい、お疲れ様でした ……? [ 言葉を出すのを迷う様子をじっと眺める。 詰まる様子は気にしないけれど、そうまでして私に何の用だろうか、という思いはあった。 差し出されたのは――手紙。 益々、私に話し掛けた訳が分からず、不思議に思う。 一応受け取れば、彼女はお辞儀をして去っていってしまった。 ] (237) 2022/01/30(Sun) 17:44:54 |
【人】 “観測者” 処暑…………………… [ 残された私は手紙を開けた。 大寒の彼女……エアリスのように誰かに渡しておいてとも言われなかったので、私に宛てたものだろうと。 手紙の内容は、私の“趣味”が気になった、というもの。>>201 ……そういえば、白露の彼女が会合へ初参加だったならば、この私の姿は初めて見るものだろう、という事に思い当たる。 私自身が“観測”されていたという事を知ってそうだったのか、と思いはしたけれど、 もし彼女が私にそれを聞いたとしても、私と彼女では、会話の成立に時間がかかるだろうとも思う。 故に……彼女の言うように、こうして手紙でやりとりをする方が私達には合っているのだろう。 ……今まで気付かなかったのは、隣の灯守りであっても、距離を置いてきた故、か。 ] (238) 2022/01/30(Sun) 17:45:30 |
【人】 “観測者” 処暑[ 後日、白露の彼女の元へと、その手紙は届くだろう。] 『 白露さん お手紙ありがとうございました。 私は皆さんを観察して、その記録を手帳につけています。 灯守りと蛍という存在が、気になるのです。 白露さんと同じように、私も話すのは得意ではありません。 ですので、こうした手紙のやりとりは、私達に合うのかもしれませんね。 』 『 展示会へのお誘い、ありがとうございます。 ですが、私は領域の外へ出るのが好きではありません。 申し訳ありませんが、そちらへは行けません。 但、貴方さえ良ければ、展示会の様子を教えてください。 文字でも、絵でも、言葉でも、貴方が私に話したいと望むなら。 ……貴方の領域に足を運ぶ努力はしようかと思います。 』 [ 最後に『処暑』と署名の付いた、隣人への手紙。 淡々とした、簡潔な文は、常のものでありながら、声よりは幾らか雄弁。 これから長い付き合いになるのだろうと思いながら、私は彼女からの返事を、きっと待っている。** ] (240) 2022/01/30(Sun) 17:47:48 |
【人】 “観測者” 処暑[ 領域の私の部屋。 洋室でありながら床の間のように作られたスペースに、それは置かれている。 夕焼けの海を模したテラリウム風の、半球状の器。 その中で灯るのは、 黄金色 の私の灯り。外見は変わっても、灯りの色はそのままに。 ] (244) 2022/01/30(Sun) 18:29:29 |
【人】 “観測者” 処暑[ 私が『処暑の灯守り』になって、長い時が過ぎた。 “彼”は私に民を託し、処暑域の魂の管理を任せた。 けれど、私はそんな彼の思いを延々と踏みにじり続けている。 統治の殆どは職員任せであるし、魂の送り迎えさえ……私には、他の灯守りのような慈愛はないだろう。 唯、義務的に生まれ行く魂を迎え、死に行く魂を送っている。 私が初めて送った魂の中には、ユラの魂もあったのだと思う。 しかしそれも分からない程、気にもしない程、無関心だった。 ずっと変わらず、責務に従って淡々と熟している。 処暑域の人間に対して、不義理を働いているという自覚はある。 唯、それに対する申し訳なさなんて、最初から持ち合わせていなかった。 ] (245) 2022/01/30(Sun) 18:30:00 |
【赤】 “観測者” 処暑[ ――灯守りになった当初、無気力な私に対し、職員は「灯守りを務めるつもりがないのならば、さっさと灯りを他に譲ればいい」という事を口にしていた。 私はそれに応じるどころか、返答をする事もしなかったのだけど、 そうすると、「先代はどうしてあれを後継に選んだのか」という話が聞こえてくるようになった。 彼は、立派な統治者であり、灯守りであった。それは未来永劫語られる事だろう。 ……が、私の存在によって、彼の尊厳が危ぶまれている。それは、あってはならない事だと思った。 彼の願い、彼の尊厳、それを守るために、きちんと継がなくてはという思いはあった。 ――けれど、私には出来なかった。 向いていないというのもあるけれど、どうしても、この世界を愛そうとすると吐き気を覚えてしまう心地がした。 それならば、他の人間に灯守りの位を譲るべきだった。 けれど、私はそれも出来なかった。 彼が私に託したものを、他の人に渡したくなかった。 彼が残してくれた想いを、中途半端に、自分に都合の良いように解釈しながら、私は今も、この地位にいる。 最初から、私はずっと彼のことばかりで、民の事など何も考えていなかった。 ] (*138) 2022/01/30(Sun) 18:30:41 |
【赤】 “観測者” 処暑[ 『処暑の灯守り』が代々継ぐ能力『風星』。 先々代の処暑様は、人前での演説等以外では、一般市民の前に姿を見せる人ではなかった。 けれどその代わり、この能力で、人々を近いところで見守っていた、らしい。 先代の彼は、自らが人々の近い所へ行く人だったため、この能力は、先々代程は使ってはいなかったらしい。 とはいえ、彼の足が及ばないところや、目の届かないところまでも気遣うために、風を“目”としていたようだ。 ……私はというと、灯守りになった当初は、領域の外へ出る事が出来なかった。 彼へと悪意を向けた世界。そんな悪意に私も殺されるのではないか、と怖かったからだ。 故に、人の手の入ったものも、長く口に出来なかった。 そのため『風星』で“外”を見て回るのが常だった訳だけれど。 彼の愛した処暑域。けれど、そんな彼を裏切った世界。 見れば見る程に、分からなくなってしまう。 この地は、この人間達は、守る価値があるのだろうか、と。 彼が命を賭してまで守るものであったのかと。 ] (*139) 2022/01/30(Sun) 18:31:28 |
【赤】 “観測者” 処暑[ 降り募っていく不信感。 全他者に対しての嫌悪感。 故に私は、部下になった行政職員に対しても心を開くことが出来なかった。 それでも右も左も分からない状態であった頃は、職員の助けがなくてはならず、領域へ入る事は許可していた。 しかしあの事件――私の個人的な日記を勝手に持ち出されて以来、私は領域へも人を入れなくなった。 ――やはり人間はどうしようもないのだと、私はその時点で心を閉ざしてしまったから。 蛍は当然置こうと思わなかった。 『処暑号の蛍』そのものを私は憎んでいて、到底受け入れられなかった。 だから私の領域へは、灯守り以外誰も入れないままに、 今日も私は世界との関わりを絶って、領域へと引きこもっている。 ] (*140) 2022/01/30(Sun) 18:32:01 |
【人】 “観測者” 処暑[ 長い時が過ぎた。 本来ならば、彼と二人、穏やかに過ごしているはずの時まで。 だけど、私は未だに彼の事を忘れられない。 自分の灯りのように、心は未だ、何時かの 夕焼け の海にある。普通の人間であれば、そろそろ寿命、と言える歳。 もし苦しみと言えるものから解放される事を願うなら、『証』を受け渡せば死ぬ事は出来る。そんな、二重の意味で絶好の機会。 ……だけど私は、そうする事も選べない。 私が死んだところで彼に会えないことは分かっているのだから、意味を感じない。 それならば、私は彼との思い出を抱いて共に“生きて”いたいと思ってしまう。 彼を思い返し、その度に彼を殺して、それでも彼の影を追いかけ続ける。 もうひとつの理由は、『処暑の灯守り』を託せる人間が居ないこと。 彼が死の際に触れた悪意。 そうでない人間に託す事が彼の想いだとして、私には、人間の全てが悪意に見える。 ――人間にきちんと向き合うことを放棄しているのだから、当然のことだ。 だから、それならば、私が持ち続けていたいと思う独善。 私は、私の選択で世界が悪意に曝されるのを、酷く恐れている。 ] (246) 2022/01/30(Sun) 18:33:07 |
【人】 “観測者” 処暑[ しかし灯守りも万能ではない。 いずれ私も、魂への負荷で苦しむ時が来るのだと思う。 そうなれば私は『証』を投げ出すだろうか? ……否、きっと、灯りが負荷に食いつぶされるまで、“生きる”ことを選ぶのだろう。 ――そうして苦しみながら死んでいく、というのは、報いとして相応しい最期であるのだろうと思う。 ] (247) 2022/01/30(Sun) 18:33:53 |
【人】 “観測者” 処暑[ 世界にある24の統治域、そこに座す、24人の灯守り。そしてその下に付く蛍達。 魂の管理者たる彼彼女らは、世界を守るために、人々を守るために、存在しているように見えた。 しかし、私は“灯守り”にも様々な事情があることを知った。 世界を愛する人も居れば、世界を疎む人も居る。 普通の人間とは一線を画しながらも、普通の人間とは変わらない心の動きをすることもある。 だから、“灯守り”を知ろうと思った。 彼彼女らが“世界”へと向ける想いを知れば、何か分かるのではないかと思ったから。 「人々を守る」と称される灯守りは、何を考え、何を思いながら、その位に就いているのか。 それを知ることが出来れば、私は、―――― ] (249) 2022/01/30(Sun) 18:35:19 |
【人】 “観測者” 処暑[ 元々の私は、世界や人間を研究する学者だった。 だから、本当は、私はこの世界が好きだった。 けれど、“灯守り”となってからは、世界への興味も、すっぱりと失くしてしまっていた。 ……そこに、答えがあるのかは分からない。 もう数十年も続けている事。未だに、はっきりとしたものは見つからないのだから。 けれど、もう一度世界を好きになれれば、私はまた笑える日が来るのかもしれない。 それに私は、灯守りと蛍を見守る事が好きだった。 好奇心が強いという、自己さえ喪失していた私に、灯火をくれた人たち。 答えを探すだけではなくて、その日々は、単純に楽しいものだった。 だから私は、何時しか心穏やかに過ごせるようになった。 ] (251) 2022/01/30(Sun) 18:36:21 |
【人】 “観測者” 処暑[ 私は“観測者”だ。 故に傍観者でもある。 積極的に灯守りに近付くつもりはなかったけれど、 ……『処暑の灯守り』としての繋がりも、増えているように思う。 それは、嫌ではない。これを、嬉しいと表現するかは、分からないけれど。 そして何時か、唯の『カナミ』として、誰かと向き合う日が、来るのかもしれない。 ] (252) 2022/01/30(Sun) 18:37:25 |
【人】 “観測者” 処暑[ “灯守り”というものは、これからも代替わりを続けながら、世界と共にあるのだろう。 私の灯り尽きるその時までは、その時々の灯守りたちを、見守り続けたいと願う。 ――それが出来るのなら、それは“私”の幸福と言える。 ] (253) 2022/01/30(Sun) 18:37:48 |
【人】 “観測者” 処暑[ 白かった手帳は、随分とインクで黒く染まった。 そんな分厚い記録 と、それから2通の手紙 を手に、私は中央域を後にした。 ] (254) 2022/01/30(Sun) 18:38:15 |
【人】 “観測者” 処暑[ “外”は夜であっても、今はまだ、 夕景 に染まる、黄金色 の領域。そこを、一際強い風が吹いて行く。 さて、“会合後”の灯守り達はどうしているだろうかと、 今日も私は“観測”する。** ] (255) 2022/01/30(Sun) 18:38:55 |
【人】 “観測者” 処暑『 立春 』 “ 雪の寒さを身に浴びながらも、小さな春のはじまりを確かに見つけられるひと ” 『 雨水 』 “ これまで積もった雪を溶かし、春を迎える強さのあるひと ” 『 菜虫化蝶 』 “ 春の暖かさの中で、美しい蝶となるために一歩を踏み出せるひと ” 『 春分 』 “ 春の陽光のように、皆を穏やかに見守ってくれるひと ” 『 雀始巣 』 “ 陽光に照らされて、空へと飛び立つ、始まりの美しさのあるひと ” (309) 2022/01/30(Sun) 23:27:49 |
【人】 “観測者” 処暑『 立夏 』 “ 新緑の爽やかさを身に纏う、優しい眩しさを持つひと ” 『 小満 』 “ 成長の恵みを与える陽の煌きのような、皆に愛を振りまくひと ” 『 麦秋至 』 “ 麦畑を吹く風のように、遠くから知らない景色を運んでくれるひと ” 『 芒種 』 “ 梅雨の陰のある空気と、息苦しさと、そして愛を訴え掛けるひと ” 『 夏至 』 “ 雨空の向こうに、眩しいぐらいに君臨する陽を秘めるひと ” 『 小暑 』 “ 熱い想いと遊び心で、皆を開けた世界へ誘えるひと ” 『 蓮始華 』 “ 蓮の花のように、可憐で美しくそこにある華やかなひと ” (310) 2022/01/30(Sun) 23:28:12 |
【人】 “観測者” 処暑『 立秋 』 “ 夏の陽の明るさと、秋の夜の寂しさを併せ持つひと ” 『 白露 』 “ 涼しくなる朝にも前を向き、朝露の美しさを見つけられるひと ” 『 霜降 』 “ 眠りに向かう人々を見送り、自身は夜の中で哀しみを背負うひと ” (311) 2022/01/30(Sun) 23:28:33 |
【人】 “観測者” 処暑『 小雪 』 “ 凛とする冬の始まりに、しっかり立ちながら、皆を導くひと ” 『 大雪 』 “ 降り続く雪に大切なものを失くして、それでも生きていこうとするひと ” 『 冬至 』 “ 夜闇に全てを覆い隠して、人を救おうと笑う人 ” 『 大寒 』 “ 終わりの哀しさを感じさせつつも、そこに確かに春への小さな光があるひと ” (312) 2022/01/30(Sun) 23:28:54 |
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